第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
後日談、もう一つの戦いになります。
今回も長いため、前編・後編と分けています。
救うことも護ることであり、勇気ある行為を果たした先には、常に希望が存在します。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第61話:希望の灯し火 前編

横須賀市内

時刻 1125

 

観艦式襲撃事件から後日。

前日のように微かに残る血と死体で埋まっていく地面、瓦礫、傷痕が痛々しく残る街並み。車も、信号機も、公園の遊具も、ビル、港も、視界に映る全ての物が、跡形もなく打ち砕かれた。

自分たちの鼻の奥まで突く硝煙と血の匂い。この場にいた全ての人々が殺戮の対象に晒していく死という災厄は大人も、老人も、子どもも、男も、女も、老若男女は一切関係ない。新たな世界を築くため、自分たちが認めない者たち以外は容赦なく命を奪っていった痕跡を見渡した提督一同。

このツケは、あのふざけたグランド・マザーや深海皇女たちの命で払ってもらう。と呟き、提督は絶望的な光景を見せ付けられてもなお、崩壊したその街並みを歩いていた。

あの激戦の夜が過ぎ、夜明けになっても自ら現地に残り、被災者の救助活動、治安維持活動を行なっていた。

 

「古鷹と加古たちから報告。もう少しで警備任務から帰投するようです!」

 

「夕方には救援物資も届くみたいだよ!」

 

「ああ、分かった」

 

因みに提督の側にいる秘書艦は、青葉と衣笠。

古鷹・加古・五月雨・初月たち、そしてV-280《ヴァロー》に搭乗している相棒こと装備要請は海上警備及び、病院船部隊の護衛任務を務め、浅羽たちも各避難所の警備などを勤めている。

 

「古鷹たちが帰るまで、俺たちももう少し警備をしよう」

 

『はい!!』

 

グランド・マザー及び、深海女王率いるオリンピアによる『新たなる宣告』という名の宣戦布告を聞いた提督たちは、本来ならば各鎮守府まで戻り、待機及び、防衛することが賢明だが、提督一同を含め、各提督たちも自ら進んで治安維持及び、ボランティアを行う者たちとして志願したのだ。ただでさえ少ない貴重な人材を割いたら、本土防衛機能の低下を招き兼ねないが、事態は一刻も早く急するため、黒田首相、元帥や良識派たちから、『交代出来る部隊が来るまで、1日だけ救助活動を許可する』という条件付きの命令が下りた。

史実で起きた関東大震災時でも、誰よりも早く戦艦《長門》を率いる連合艦隊が救助物資を届けるなどを務め、兵士たちもまた多くの被災者を助けた。民間人たちからは、天使が来てくれたなど述べたぐらい感銘を受けたぐらい感謝されていた。

 

俺たちも同じく命を救うのが任務であるのだから、当然のことだ。

昨日の戦闘から一睡もせず、手元にある僅かな軍用携帯食糧を口にし、疲労を堪えつつ、身体に鞭打つような状態ではあるが、被災者や負傷者たちのことを考えればそんな事などは関係ない。

昨日の事に比べたら、これぐらいは大丈夫だと、そう自身に言い聞かせた途中、提督は不意に、何かを耳にした。距離は、ここから遠くない。すぐ近くと言ってもいいくらいだ。何かを叩く音が聞こえた。石と石がぶつかる音だ。自然的ではなく、人為的なもの、幾度も繰り返しながらモールス信号のようにガンガンと叩いていた。

まさか、と思い、ダッと提督たちは駆け出す。自分たちの聞き間違いがなければ、恐らくは生存者がいると。

大量にあるコンクリートの破片とパイプなどが入り乱れて複雑な構造をし、崩壊した一軒家。その答えは歩みを進めれば確かに聞こえる。

 

「……やっぱり。誰かいるぞ!」

 

瓦礫の下に埋もれている生存者が懸命に報せる音。

何度も石を使い、叩いている。ここにいる、お願い、誰か助けて!と、叫び続けるように。

 

「良いですよ、音を出し続けてください!」

 

「頑張って!いま私たちが助けるから!」

 

今すぐに!と、音を出し続ける生存者を励ましたながら、急いで瓦礫を払いのけていく。

青葉と衣笠、そして自身が装着する明石・夕張特製のエグゾスーツ・カスタムのおかげで、常人の力より数倍のパワーを誇るため、瓦礫の撤去にはさほど苦労はしない。慎重かつ迅速に払いのけると、僅かな隙間から生存者の姿が見えてきた。生存者の正体はふたりの子ども。ひとりは小さな男の子。もうひとりは小さな女の子。恐らくは兄妹と見抜いた。

 

「下にいます。ふたりの子どもです!司令官」

 

「待ってて。いまお姉ちゃんたちが出してあげるから!」

 

ふたりの報告を聞いた提督。

だが、最悪なことに救助の行く手を阻むかのように、大きなコンクリートの破片が積まれ、その破片の僅かな隙間にある鉄筋を切断しようにも手が届かないため、エグゾスーツ・カスタムは使えない。そんな時はこいつの出番だ、と呟きながら、レーザーカッターを取り出した。強力なボルトカッターもあるが、大きすぎて隙間には入らない。だから、万が一に備え、鉄筋コンクリートを切断するために特化した救助用レーザーカッターを持ってきたのが幸いだった。

バーナーのように金属を熱で溶かし、エンジンカッター並みに威力があり、なおかつ携行しやすいのが魅力的な救助道具である。

 

「ふたりとも、顔を両手で覆って」

 

よし、もう少しの辛抱だから大丈夫だ、と怯えている子どもたちを励ましつつ、割れ目にある鉄筋を少しずつ切っていく。

慎重に重ね、少しずつ順調に切り進んでいるという証しに、バチバチと迸る火花が物語ってくれる。

 

「よし、切れたぞ。持ち上げてくれ!」

 

手ごたえあり。提督はそう感じると再び瓦礫を撤去し、おまかせを!と頷いた青葉と衣笠も、協力しながら急いで瓦礫を退けていく。

 

「よし、大丈夫だ。さぁ」

 

要救助者たち確保。提督たちはゆっくりと持ち上げて落ち着かせる。見たところでは軽傷で済んでいるが、頭や身体が弱い子どもたちにとっては致命的にもなり兼ねないため、念には念を入れて緊急手当てをする。

 

「応急処置後は、この子を野戦病院まで連れて行く」

 

 

 

 

 

 

――野戦病院

 

「……取り敢えず、ふたりとも落ち着いたみたいだな」

 

「はい、そうですね」

 

「取り敢えず、これでひと安心だね」

 

救出後、ヘリによる空輸を経て、CTスキャン検査も行ない、幸いにも身体に異常なし、助かったことに安心したのか、子守りをする青葉・衣笠の側でスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

準備が出来次第、再び捜索へと向かう構えだ。この子たちの両親を探すために。この子たちの両親も無事である事を祈るばかりだ。だが、幸いなことに時代が進み、現代技術の進歩で生まれたスマートフォンなどによる安否確認と、行方不明者捜索すら可能として、より容易く便利になって良いものだ。捜索時に別の場所に展開している野戦病院や臨時病院、病院船内にも立ち寄る。運が良ければ、この子どもたちの両親がいるかもしれないからだ。

また、万が一に暴徒、戦災に乗じて現れる略奪者たちの襲撃に備え、MP7なども個人火器持っていく。緊急時に設営された野戦病院、無傷を保った公共施設などを臨時の病院し、そして海上に待機する病院船にいる軍医や衛生兵、緊急時に集った医者たちも猫の手も借りたいぐらい多忙を極めており、負傷者及び、民間人たちを護らなければならない。

 

どこも戦場と化していたが、不幸中の幸いは――

 

「……ああ。だが、彼らも居るから大丈夫だし、心強いからな」

 

提督一同、国内にいた自衛隊や米軍、沿岸警備隊に加え、元帥や郡司たちによる独自の外交ルートで救援部隊として、台湾・東トルメキスタン共和国・チベット共和国・モンゴル・満州共和国・フィリピン・インド・オーストラリアなどアジア諸国率いる、現代版『大東亜共栄圏』とも言われるアジア太平洋三角区域、通称ASPAT(ASIAN PACIFIC TRIANGLEの略称)が各地区から派遣された。

この名前及び、考案者は元帥であり、本人曰く『昔読んだ架空戦記から名前を貰った』との事であり、実現したのは黒木首相たちである。

また艦娘技術提供を受けた同盟国であるアメリカはもちろんだが、ロシア軍、イギリスを含めた欧州諸国部隊派遣も決定された。

特に誰よりも早く先に駆けつけたのは、アジアでは台湾、欧州諸国では欧州一の親日国として有名なポーランドが軍医チームを乗せた輸送機部隊を派遣してくれた。

 

前者は明治、大正、そして昭和の日本統治時代から日本との友好関係は深く関わり、鉄道、道路、港を建設し、台湾の交通手段などのインフラ整備を整え、特に八田與一が計画、自ら工事を指揮して完成し、今もなお稼働する烏山頭ダム、建設を監督した水利技術者を務めた彼の名に因んで『八田ダム』の名でも知られ、烏山頭水庫風景区でも記念区域や銅像などが残されている。

これにより、農業用水の不足が解消、さらに台湾現地の米を含めた農作物改良にも支援し、今日まで続く台湾の農業発展に大きく貢献することにも成功を収め、経済発展にも繋がったのだ。

近年、武漢ウイルス(武漢肺炎)の最中では、公衆衛生学の基礎を広めた日本医師を務め、あの児玉源太郎から信頼され、日清戦争終了後の防疫事務で才能を見いだした後藤新平が残した遺産を活かし、あのパンデミックでも感染者を最低限に抑え、さらに日本語で『日本頑張れ』を意味する言葉、『日本加油』が刻まれたマスクなども医療機器を贈り、今日まで日台両国の絆は続き、今回の支援物資でもこのメッセージが刻まれていた。

 

ポーランドは20世紀初頭にシベリアで起きたロシア革命により、困窮していた最中に生まれたポーランド人孤児765名を、帝国陸軍と日本赤十字社が救出し、看護師たちは子どもたちを我が子のように手厚い保護をし、さらに『ありがとう』や『君が代』など日本語や日本文化を教え、彼らのために慰安会を開き、さらに貞明皇后から御下賜金が届けられ、さらに日本全国から多数の寄付が寄せられた。

本国帰国時には、両国の旗と赤十字旗を力いっぱい千切れんばかりに打ち振り、『アリガトウ』『サヨウナラ』と叫び、その時に見送る人や送られる子どもたちの顔には別れを惜しむ涙が両頬まで流し、その中にはお世話になった保母さんたちに抱きつき、帰りたくないと言った子たちも続出したぐらいだった。

その出港当日には子どもたちは船のデッキが並び、『君が代』と『ポーランド国歌』を涙を流しながら歌い、別れを告げた。

彼らは今でも日本の善意を忘れることはなく、旧陸軍には暗号通達技量を教え、原爆投下時には連合国の身でもありながらも、日本に警告をも促してくれた。戦後にも日本を助け、阪神大震災、近年に起きた東日本大震災には被災児たちを歓待するために本国に招き、温かいおもてなしで迎えてくれた。

 

両国は今でも受けたこの恩を忘れず、日本に恩返しがしたい、助けたいという一心で、早く駆けつけたのだ。国家に真の友人はいない。何処かの名言者が言った言葉だが、この時勢でも確かなもの、両国との信頼、絆は存在していたのだ。

話は戻る。

 

「それじゃ、俺たちもそろそろ……」

 

重傷患者が優先されて、比較的軽傷の患者は後に回されても被災者の多くが長い列を作っても節度ある行動をしており、手当ての際もさほど問題はなかったかのように見えたが――

 

「もううんざりだ!憲法改正なんぞしたから、怪物に追われ、昨日みたいな攻撃が遭ってからこのざまだ。こんなことなら、改正せずに軍隊も解体して、ストーム・ナインが掲げた非武装中立論を唱え続けた方が良かった!」

 

額に血の滲んだ包帯を巻いた男、恐らく自分と同じ若い男が呟いた。その逞しい腕に、蒼い顔をした若い女性――その男性の妻か、若しくは恋人と思しき娘を支えている。青年よりも怪我が重く、片目を包帯に覆われ、はぁ……はぁ……と辛そうに荒い息を吐いていた。

 

かつて存在した役立たずかつ、滑稽な机上の空論、日本を破滅へと導いた憲法9条と、日本革命計画及び、上皇陛下や皇室抹殺、無差別テロを行った極左反日テロリスト『ストーム・ナイン』を懐かしむような言葉を口にするのは、第一級の反逆罪だ。

周りにいた患者たちが危ぶむ眼、または冷ややかな視線を向けるが、少なからぬ者たちが同様の感想、気持ちを抱いているのか、あえて咎めようとはしない。警備に当たる兵士や警官らも、多忙なためか、敢えて問題を起こしたくないため、見て見ぬふりをしているが――

 

「少し、良いか?」

 

収まらない怒り、双眸に憤りを滲ませた青年の前に立つ提督。

逮捕するのか、と、その青年が言おうとしたとき、側にいた女性の額に手を当てた。脈を取り、包帯を上げて見て、傷の具合を確かめる。うむっ……と眉を顰めて、口を開いた。

 

「……少し化膿しているな。サルファ剤を塗っておく。本来ならばペニシリンを使えばいいが、軍医に診てもらってからショックを起こし兼ねないからな……少し痛むが、我慢してくれ」

 

提督は言いながら、サルファ剤を振りかける。脱脂綿に含めた水で傷を拭うと、女性は痛そうに呻きを上げた。そして青年にも向かいかけ、同じように処置を行い、終えると、躊躇いがちに話し掛けた。

 

「すみません、俺たちのせいで迷惑を掛けて……俺たちは共産主義者や社会主義者のように、イデオロギーのために人々を押さえつけ、命を軽視し選別する国は作りたくない。人々の幸せあっての国……この戦いも、この国を護るためと思っています。身勝手に聞こえるかもしれないが、俺にはこうしか言えません。だから、皆様のために我慢して下さい」

 

提督は深々と頭を下げて言った。

予想外な出来事という事態、この礼儀に、青年と女性の心を動かすだけでなく、多くの人々の負の感情を好転させた。

 

「すまない……俺はあんたたちの事を誤解していた。俺の彼女をここまで治癒してくれて……」

 

「見ず知らずの私たちにここまでしてくれて……お礼を言いたいので顔をあげてください」

 

自分たちのためにここまで、という気持ちを動かされ、改めて、ありがとうと述べたふたりに対して、顔を上げた提督は――

 

「国民を助けるのは、軍人として当然であります」

 

提督はそう言い、微笑を浮かべたまま、頭をもう一度下げてから、次の責務を、希望を護るために向かって行った。

先人、英霊たちのように、先の日本、国民を一人一人想い、自ら危険に身を晒し、未来に導くことこそが、俺と同じ仲間たちが日本を作り、護ることが責務だと言うことを忘れてはならないと。

 

それに……

 

俺はあの時、大切なことを教えて貰ったからこそ出来たのだ……

 

変わることを恐れないで、突き進む勇気を忘れないで、と……。

 

「それじゃあ、もうひと頑張りしようか。みんな」

 

『はい。提督(司令官)』

 

そう教えてくれた古鷹たちの手に、俺は救われたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。はい、そうです」

 

遠くから提督の様子を見た避難者。実際には避難者を装い、野戦病院の付近からスマートフォンを片手に、連絡を入れる20代前半の若者が通信相手の声を傾ける。

 

「ええ……大丈夫ですよ。今ならば彼らを逮捕出来ると思いますよ、先生!……分かりました。引き続き、奴を監視を続けます!」

 

先生と呼ばれるその人物は、若者の報告を聞くなり、ニヤリとほくそ笑んでいた。それは心から楽しめる報告だった。

 

必ず逮捕、特に最重要抹殺標的である人物を、自らの手で連行して、社会的抹殺など生温い、大衆の前で逮捕した後、弁護の余地も与えないまま死刑判決を下し、そのまま死刑にしてやると……

 

「……正義は常に我々、平和主義者にありだ」




今回は救助作戦に伴い、提督の意外な一面が活躍するという回になりました。戦うだけではなく、助けることも大事なことですからね。
今思えば、いつ静の名言、救うことも護ることは何時の時代でも変わりませんから。千代田の台詞もですが、足柄さんのあの台詞『私は盾よ、沈まないわ!』が好きですね。

また、イベントが今日から始まりましたね。
参加は後日になりますが、松型駆逐艦など実装して楽しみですし、今回はどんな架空戦記小説がモチーフやら……フライングパンケーキが実装されたら、あの氷山空母群が来ないことを祈ります。来たらドリル戦艦扶桑と信濃を呼ばないといけませんね(荒鷲の大戦より)
抵抗して、合体空母と富嶽も呼ばなければ。異論は認める!(キリッ)
未読ですが、別世界では日本もありますけどね、氷山空母が……

次回は後編、今回出なかった悪人らが出てきます。
最後に出た人物、ネタバレになりましたが、先生という人物が登場します。提督一同はこの危機を乗り越えるためにある作戦を行いますのでお楽しみを。

それでは、第62話まで…… До свидания(響ふうに)

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