第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
今年で艦これ7周年を迎えるというめでたい日ですね。
今の時期大変でもありますが、明るいニュースがあると気分が高揚しますね。

では話はさておき、予告通り同じく海戦です。
ですが、事情により、何時もながらですが、前編・後編に分けました。海戦になりますと、こだわってしまうのが私の悪い癖なものですから何卒ご理解頂ければ幸いです。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第59話:新たなる宣戦布告 前編

「なっ、何故だ!? 私のティアラがある限りは外部との連絡はもちろん、通信すら出来ないはず!?」

 

提督たちとは裏腹に、深海皇女はこの状況が把握できずに狼狽した。

我がティアラの性能は自他とも認めるジャミング装置機能を備え、自身の周囲にいる最新鋭兵器や電子機器など異常をきたす万能品が故障などあり得ない。そんな事は決してあってはならないのに何故なの、と自問自答を求めるあまり、自身の額に手を当てた瞬間、ハッと気がついた。

 

そう、肝心なティアラがなかったのだ。

――紛失?いや、あり得ない。況してや戦いのさなかに迂闊に落としたことなど一度もないとすれば……まさか、あの生意気な小娘の近距離射撃で破壊されたのか!という事に漸く気づいたのだった。

自身が見下していた者たちの手のひらで踊らされ、ティアラが破壊された挙げ句、これまでにない屈辱を遭わせたことに対し、深海皇女は脳味噌が大火事にあったかのように、メラメラと燃やして怒りを露わにした。

 

「おのれ……図に乗るな、この非力な原始生物どもが!幾ら貴様らの増援部隊が来ようが、直ぐさま先ほどのように蹴散らしてくれる!」

 

形成逆転されてもなお、高飛車な性格と傲慢な口調を全く崩さない彼女は自身の艤装を動かした。ラブカと交代、無傷のミツクリザメが上顎は湾曲し、この禍々しい怪鳥の嘴のような形に変わり始めた直後、口の奥から白い球体を吐き出した。その嘔吐した物体は全部で4つ。紅く燃え滾る火焔を纏い、やがて邪悪な怨念を放ち、そして鬼のような角と牙を生やした白い球状の深海艦載機に姿を変えて飛び回る。

 

「これが私が持つもう一つの秘密兵器!貴様らが持つ高性能水上特殊攻撃機《試製晴嵐》並みの性能を持ち、1トン爆弾ないし800キロ魚雷搭載も可能であり、いざという時は戦闘爆撃機にも、雷撃機にもなれる便利なものよ。ただし高性能な所以にコストも高く、此処ぞというにしか使えない使い捨ての切り札である事がたまに傷だけど、貴様らを消し炭にするのには充分な代物!全機に告ぐ。非力な原始生物どもを一匹残らず殺せ!私を愚弄したゴミどもを処刑にするのだ!」

 

自慢気な笑みを浮かべた深海皇女の命に応じて、金色に輝いた満月の夜を背景に高く舞い上がった異形のたこ焼き型深海艦載機は、勢いよく急降下態勢に移った。機体からは魔女の悲鳴にサイレン音が轟いた。幻聴は全ての者たちを恐怖に導くには充分な威力を見せつけ、同時に前者を上回る威力を持つ1トン爆弾を吊り下げている機体は、成層圏から隕石が落ちてくるような圧倒的な迫力を放っていた。

唸りを上げで高度を下げて獲物に襲い掛かる高速の猛禽類に対し、僅かな対空砲火を開始する古鷹たちを蟷螂の斧に等しい非力な抵抗と見て嘲笑う深海皇女。だが、彼女の思いを打ち破る砲声が轟いた。

灼熱した複数の砲弾に吸い込まれたふたつの機体は破片が飛び散り、巨大が揺らいだ。機体がぶれたように見えて、血とジュラルミンの混ざった爆焔が空中に咲いた。

 

残る2機は慌てて爆弾を破棄、捨てられた1トン爆弾は虚しく外れた直後、爆発、巨大な水柱を立たせるだけだった。

が、その代わりに機動力を生かした機銃掃射が可能となった。球体とは言え、頑丈に出来た逞しい胴体に内蔵された水冷エンジンの馬力が振り立て、大きく弦を描いて機体を回す。内蔵されたエンジンの回転数を上げて速度をさらに上げ、口内に備えた機銃を、照準機に膨れ上がり、全ての敵対者を攻撃しようとするも、行く手を阻むかのように暗闇に吼えた灼熱した奔流を浴びた機体は火を吐いて、やがて錐揉みを始め、海面に落ちて炸裂した。

 

「今度は何奴!?」

 

深海皇女は叫んだ。

 

《涼月、神鷹。負傷者の退避は済んだのか?》

 

提督は、落ち着きを払った言葉を発した。

 

「はい、皆さんを無事に後方まで退避させました。ですから、私たちも戦列に加わります!」

 

「は、はい。夜は苦手ですが……皆さんの空を護るために、私、頑張ります!」

 

先ほどの攻撃の正体は、涼月の対空砲火及び、神鷹の零戦部隊による攻撃で深海皇女が自慢した水上特殊攻撃機は全て撃墜されたのだ。

 

《それじゃあ、古鷹たちの援護を頼む。俺たちだけでは足りなくてな》

 

「了解しました。提督!」

 

「はい、私……神鷹も頑張ります!」

 

この光景を見た深海皇女は、目障りなものとして毒づいた。

 

「先ほどの大破艦娘どもに何が出来る。貴様のようなひ弱なガガンボらと、たかが二匹の雑魚艦娘が加わっただけで何が出来る!貴様らひとり残らず……わらわの怒りを思い知らせてくれようぞ!」

 

憎しみの瞳を孕ませ、もやは口調は『私』から『わらわ』に変わるなど丁寧語を用いおらず、恨みが篭った台詞を吐き散らした。直後、自身を吹き飛ばすような衝撃波が走った。曰く、大地震が足元に起きたような衝動。表現は違えど、叩き出す瞬間のエネルギーが及ぼす力は絶大であり、爆風が剛性を帯びて、容赦なく席巻する激しい爆発と火炎の全てが襲い掛かり、一瞬にして自慢の艤装に損傷を被った。

装甲区画に命中した砲弾は悉く弾き返されたものの、不運にも非装甲区画に破口を開けられ、機関部にも命中、濛々と黒煙を吐きながら、ガクッと著しく速力が減じていった。

 

「何処を見ていますか?あなたの相手は私たちです!」

 

視線の先、瞳に映ったのは先ほど戦っていた古鷹たち。だが、不思議なことに戦闘不能まで負傷及び、艤装も完膚なきまで叩きのめしたはずなのに完全に回復していることに驚きを隠せなかった。

 

「貴様ら、わらわが完膚なきまでに叩きのめしたはず……!」

 

深海皇女は眉を顰め、怪訝な顔を浮かべて叫ぶ。

再び疑問を持つ彼女の問いに応えるかのように、古鷹たちの背後から姿を現して答えた人物、支援艦隊の要員として駆けつけに来た明石と夕張だ。

 

「試作品ですが、リバーサーシューターを使いました。戦場でも扱えるように高速修復材をガス状にし、更にナノマシンを至近距離で噴霧出来る持ち運び便利な回復武器。まさか役立つ日が来るとは思いませんでしたね!」

 

「よく思いつきましたね、明石さん、夕張さん」

 

「夕張と一緒に、地球防○軍5をしている際に思いついちゃって、だから私たちも似たものを作りました!」

 

「それにこの眼で効果も見たいし、提督やみんなの感想も聞きたかったからね♪」

 

感心する古鷹に、どうよ?とばかりにウインクを交わす明石と夕張。

それに対して、なるほどね、とばかりに古鷹一同。

 

『それにもうひとつ、面白い兵器もありますから!!』

 

ふたりが顔を見上げると、爆音が轟いた。

反射的に視線を上げた一同。満天にちりばめた星が、ゆっくりと隠れ、また姿を現していく。

低速で高速に移動し、低空で飛行する物体が放つ耳を聾する独特のエンジン音も、普段から聞き慣れたレシプロ・エンジン音のそれではない。見上げる彼女たちの頭上に、まもなくその機体が姿を見せた。

 

『あれって……垂直離着陸機!!!!』

 

古鷹たちが、感嘆を露に言った。

黒く塗装された機体。甲骨魚類に近い胴体と、長く伸びた尾。V字型尾翼。その胴体の左右にある固定主翼の両端に備え付けられた翼端エンジンとともに、桁ましく回る巨大なプロップローター。

機首下には30mm単砲身機関砲(M230 チェーンガン)、両翼下には噴進弾に似た兵装を満載したその機体は、両翼先端にあるローターを上げてヘリのように空中で留まり、古鷹たちの頭上で一旦空中で停止。黒い機体を少し傾けると、その操縦席に座る装備妖精に見覚えがあったのだ。

 

『もしかして、震電改二のパイロットちゃんっ!?』

 

《おいおい。相棒も来たのか!?》

 

古鷹たちとともに、提督も驚愕した。

今回の観艦式で披露される受閲航空部隊参加予定だったが、肝心の愛機が不運にも故障したため見送り、留守番をするように頼んでいたはずだが、どうして?と思った際、一同の疑問を見抜いたのか明石と夕張が口を開いた。

 

「はい。元帥からの通告を受けて、この子も行きたい!とせがみまして……ちょうどいい時に開発したこの機体……試作用に魔改造したV-280《バロー》の性能試験も兼ねて連れて来ました!」

 

「それに彼も提督並みにすぐにこの機体の操縦、慣熟飛行なども覚えましたから、私と明石がバッチリ保証しますよ!」

 

OK、お前たちの判断は正しい。後で御礼に美味い料理でも振る舞ってやろう。ふたりの詳細に、自分に似た装備妖精、本当の兄弟とも言える彼を見て、この機体名と同じように『武勇、剛勇、勇気』を兼ね備えているな、と提督は頷いた。相棒こと装備妖精が、ああ、共に闘おう、兄弟とこんな状況で笑顔すら見せてくれた。

 

「よし。みんな、この高飛車な皇女を倒そう。俺たちの底力を見せてやろう!」

 

同時に、俺たち提督夫婦の絆も兼ねて。

 

「うぬううう……! 一度や二度だけでなく、幾度もわらわを愚弄したこと後悔させてやるぞ!貴様らの切り札もわらわが海に潜れば使えまい!」

 

再び扇子を開き、疾風を起こした。

深海皇女自慢の扇子により、煽られた疾風に作られた数滴の水飛沫は、先ほどの自爆トビウオ《エグゾセ》ではなく、各々違う大きさの異なる人の形。小さな水飛沫は赤子らの姿になり、きゃははと聞き慣れた無邪気な子どもたちの声とは違い、鼓膜の奥まで震えるあの生理的な嫌悪感に伴い、こちらを嘲笑うPT小鬼群へ、大きな水飛沫は、自身の、姿形すら見分けがつかないほど鏡写しという古来からある言葉通り、五体の深海皇女にみるみると姿を変えていく。

 

『怒りに満ちたわらわの恐ろしさ、思い知らせてやる!!!!』

 

一斉に敵合同部隊が、古鷹たち目掛けて襲い掛かってきた。

水を媒介に実体を作り出す私兵部隊もだが、自身の分身を複数作ること自体が反則技だな。全員ご退場いただきますか、と古鷹たちは躊躇する事なく攻撃を再開した。

 

「みんな。作戦通りにするぞ!攻撃開始!」

 

『了解!!!!』

 

提督の号令一下。古鷹たちの攻撃は、熾烈を極めていた。

耐え続けた果てに来た報復の刻。弾薬・燃料を無事に最大限までに補給した古鷹たちは、躊躇なく砲撃を続行する。

怒りと焦燥が入り混じった視線を持つ偽者、水分身の深海皇女部隊、PT小鬼群部隊に対し、提督一同は動揺せず、各員引き金を引いて砲撃、機銃掃射の発する連続した砲声及び、銃声が鳴り響く。

味方と敵の叫びと怒号、時折響く爆発音。古鷹たちの機銃掃射がPT小鬼群部隊を次々と射抜いて倒す。堪えているのは水分身の深海皇女部隊。彼女が生み出した水分身――媒介が海水のためか、敵部隊の攻撃が少しずつであるが、勢いを衰えさせていき、崩れ去っていく。

 

それもそのはず。本体である深海皇女は既に海中に逃れていた。

周囲を包むものは、何処までも続く海水、冷たい海のただ中で彼女は、深海艤装の艦尾で回転するスクリューの振動と、海上から海中に響く音のみを感じつつ、静かに潜行をしていた。

多少なり負傷はしたが、応急修理完了。潜航には問題はなく、水中速度も上々。万一に敵の対潜魚雷に備えて、デコイもばら撒いた。これで海底の忍者戦法を再びお見舞い申し上げる事が出来ると思うと、彼女の顔に、獲物を狩る肉食獣を思わせる笑みが浮いた。

 

「最大戦速、深度下げ!わらわを愚弄した愚か者を、今度こそ冷たい海底に引きずり込んでやる!ガガンボどもは叩きのめし、引き摺り下ろして刺身にしてくれようぞ!」

 

艤装の機関部は応え、モーターの響きが高まる。

静粛性を施した深海艤装だが、それでも電動機を最大出力を回せば、それなりの騒音は避けられないが、海上は煮え滾るほど騒がしく、仮に気づいたとしても遅く、古鷹たちの背後に回り込み、雷撃するには充分であると考えた。

 

しかし、逆に罠に掛かったのは……彼女自身だった。

 

《今だ! 奴がいる背後に五月雨・初月率いる全ての水雷戦隊、涼月と神鷹も対潜攻撃開始!》

 

提督は裂帛の叫びを上げる。

五月雨たちは了解、と声を上げ、彼の号令一下、各自の爆雷投下軌条からドラム缶に似た爆雷及び、対潜ロケット弾、神鷹の艦載機部隊による航空爆弾の雨が、次々と着水していく。

そのタイミングを、襲撃を掛けてきた深海皇女の眼の前にした光景は真上から降り注ぐ豪雨の如く、この災厄を浴び、すぐに来る凄まじい衝撃が、海中から押し上げてきた。

 

「ぐわぁ!」

 

深海皇女は、両腕をクロスして衝撃と爆風を躱した。

爆雷による爆発と爆音が海中を荒れ狂わせ、双方により生み出された衝撃波が全身に強く響いた。

どうして?何故自分の位置がバレたのか分からず、ひっきりなしに艤装の外殻を打ち据える。そのただ中に次々と投射した爆雷が、煮え返るような騒ぎになっている光景に耐え切れず、大事な顔や耳が爆発でやられないよう、水を掻き分け、水を跳ね散らしながら勢いよく飛び上がるホオジロザメのように浮上した。

 

「おのれ……図に乗るな! 雑魚どもが!貴様らガラクタらと、その忌々しい提督だ。戦争するなら、正々堂々と打倒するなどぬかしおって!」

 

再び顔色を変えて、唇を破れるほどに歯噛みしながら、古鷹たちと提督の双方を、口を極めて罵り、全ての艦娘を標的に狙いを定めた音響誘導式魚雷が装填しているミツクリザメを前に押し出す。口内から圧搾空気が吹き出す轟音が轟いたとき――

 

《今だ、全員集中砲火!撃てぇ!》

 

提督が叫び、古鷹たちが、引き金を引いた。

 

『私たちの強さ、甘く見ないで!!!!』

 

『全艦、撃てぇーーー!!!』

 

表情を一段と険しくして、古鷹たち及び、各支援艦隊は各自の砲口を、深海皇女に合わせたとき、凄まじい轟音が、海面を容赦なく圧倒的な衝撃に叩き据えられ、波濤のさざ波が吹きちぎれる。

彼女たちの周囲に衝撃波を撒きつつ、膨大な爆煙が吹き荒れ、力感溢れる砲身から叩き出された砲弾は、灼熱の尾を引きずりながら標的に襲い掛かった。

 

次の瞬間、耳を聾する轟音が、音響が轟いた。

空気摩擦により白熱した砲弾が、異形の深海鮫の口内に食らいつき、弾頭炸薬のエネルギーをぶち撒けた。四弾の直撃を飲み込んだ直後、一堪りもなく、巨体のミツクリザメを断末魔の苦悶に震わせて、内部から外部に押し寄せた爆発により、怪魚の首は肉片や破片を撒き散らしながらは粉微塵に吹き飛んだ。最高の攻撃力を誇る装備が、皮肉にも最大の弱点と化したのだ。

 

《よし、俺たちも攻撃するぞ! ガンズ、ガンズ、ガンズ!》

 

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息を与える隙もなく、提督・浅羽・久島・郡司率いるF-64B部隊と、コクリッと頷いた装備妖精のV-280による機銃掃射。軽快な音楽を奏でるような衝撃が走り、真っ赤に燃え上がる。

迸る機関砲弾の奔流が、傷ついた深海艤装に破口を穿ち、大破、さらに対空機関砲銃座を叩き割り、噛み裂いた。

 

「うぬぬう……力まかせに攻撃しよって……!」

 

古鷹たちを翻弄した圧倒的な強さを持つ深海皇女が持つ、自慢の深海艤装はついに炎を発した。たなびき始めた火焔に包まれ、艦橋構造部から前部主砲塔を担うラブカ、魚雷発射管基部の首なしミツクリザメまでも波に洗われ、大きく傾斜したものの、辛うじて堪えていた深海艤装。

 

《そう怒るな。お前には、充分な性能を教えてくれた。俺からの御褒美だ。お前を見つけたのは、古鷹たちがお前の偽物部隊と戦う際に、俺の相棒が対潜ヘリ用に開発された装備、ソノブイを使って、お前を見つけた。幾らデコイを使っても無駄なものだ。お前が噴進弾だと思っていたのはソノブイだったという事だ》

 

深海皇女に、提督は楽しげ且つ、丁寧に語りかけた。

その解説に怒ったのか、彼女の怒りの波動が、今にでも魂に食い入った悪魔のように憤るが、彼は気にしなかった。

 

《深海の長ならば、自分の力を相手に自慢するのは大きな間違いだ。同時にお前は慢心し過ぎたから追い詰められた。だから、悪いことは言わない。ただちに降伏しろ。投降の意志なき場合は『お前を撃沈することもやむなし』、と元帥から命じられた。投降の意志があるなら、両手を挙げろ》

 

提督が言ったとき、駆け付けた古鷹たちが狙いを定めている。

 

「き、貴様ら……」

 

激昂する深海皇女だが、突如として笑い始めた。

 

「ふふふ。あはははははは! 貴様らに降伏なぞはない。寧ろ追い込んでいるのはわらわらの方だ。貴様らの降伏勧告なぞ、眼の前を飛ぶ目障りな羽虫の羽音に等しいわ!」

 

彼女が吠えるが、提督は顔色を変えずに言った。

 

《威勢が良いのは褒めてやる。だが……これで終わらせてやる》

 

デジタル照準器に浮かぶ標的、眼の前にいる深海皇女を、照準環に合わせて、提督は艦対艦ミサイルの発射ボタンを押した。

主翼の下で、何か重たいものが外れた感覚が、全身から伝わる。

一瞬ほど浮き上がろうとする機体を懸命に押さえつける提督、彼の耳を聾する噴進音と炎の噴流が駆け抜け、みるみる速度を上げるミサイルを、敵の長に突進する眩い炎を発する鋼鉄の矢を目に焼き付けた。

 

「失礼致します」

 

聞き慣れない女性の声。丁寧な口調が提督の鼓膜を震わせた瞬間。

彼が撃ち放ったミサイルが、深海皇女に辿り着く前に、謎の空中爆発の花を散らした。視界を遮り、轟々と響きを上げながら、ゆっくりと液体のインクを思わせるように濛々と立ちこめる黒煙。ミサイルの不具合か、それとも深海皇女に迎撃されたのか、それにしてもいったい何が――と自問自答を求めていた最中。その疑問を、答えを出してくれる新たな存在が、自身の視界の向こうに見えた。

 

深海皇女の前に聳え立つ見知らぬ深海棲艦。

外観は潜水ソ級に似ていたが、深海皇女と同じく初めて見る個体。

特徴として腰まで伸びた絹のように柔らかく精細な白い長髪。端正な顔立ち、その凛々しさに伴い、右眼は青色、左眼は紫色という左右の瞳が異なるオッドアイ、そして世の中の男性を虜にさせるほど女優やモデルにも負けないスタイルの良さを兼ね備えた美女。

全体的に藍色をメインにし、皇女という絶対的な存在かつ高貴な従者を表すように損ねないよう、戦場でもいかなる時でも優雅に振る舞うことを務めるという象徴を表すタキシードを着用していた。

またその美女が纏う深海艤装は、『深海の掃除屋』と呼ばれ、深海生物の代表として有名な『ダイオウグソクムシ』に似た背甲、これを模倣した強靭な装甲を施し、さらに軽巡級が持つ15センチ連装砲塔、対空機関砲を兼ね備えていた珍しい深海艤装だった。

 

「……何者だ、お前は?」

 

提督がそう訊ねた。

 

「……通りすがりの執事長でございます」

 

ウフッ、と唇を矢形に変えて、微笑した女性はそう答えたのだった。




提督・古鷹たちとともに、深海皇女を追い詰めましたが、彼女を助けた謎の乱入者こと、謎の通りすがりの執事長に邪魔された場面で、今回の話は幕を閉じました。
何処ぞの元ネタ及び、アニメ版のロイヤルなメイドみたいな登場と気にしたら負けです。だから、気にするな!(ジュラルの魔王様風に)

また通りすがりの執事長の艤装は、前回紹介したように『海底戦艦イ800』のドイツ版海底戦艦イ800こと、特型UボートUXV3001と3002の武装を元にしています。元々が建造中の軽巡洋艦を艦体にして造られたものでもあります。
別作品ですが、紺碧及び、旭日の艦隊でも似たような砲撃可能な潜水艦はいますし、全翼戦闘攻撃機搭載の潜水空母など何でも有りですから面白かったですし コーヒーのお代わりは必須なのも分かりました。

今回も派手に戦いました故、やはり海戦はこのくらい派手にしないといけませんし、書き応えがありますから面白く感じますね。
架空戦記最高!と言いますね。最近は『超空の大和』を読みながら呟いてしまいますね。

では、長話はさておき……
次回は後編、少しですが通りすがりの執事長の力を目撃しつつ、後に登場する予定だった敵の増援部隊、オリンピア海軍部隊などとともに、久々にオリンピア軍の例の人物が新たな宣言をします。
果たしてどんな宣言かは、次回のお楽しみに。

今は大変な時期ですが、希望を忘れずに執筆活動を頑張ります。終息を願い、我々に神の御加護を!(プライベートライアンふうに)

それでは、第60話まで…… До свидания(響ふうに)

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