第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
今回は予告通り、再び提督視点、そしてサプライズとしてとある艦娘視点になりますのでお楽しみくださいませ。
どんな娘かは読んでからのお楽しみです。
今回もまた長くなり兼ねないので、良いところで区切ります。

それでは本編開始です。どうぞ。


第52話:突破 前編

「……急いで元帥と古鷹たちの後を追いかけないとな」

 

携帯端末機を確認し終えた提督は、市街地を歩き回っていた。

歩き回っていたと聞こえはいいが、これがありふれた日常生活、古鷹たちと一緒に楽しく買い物や食事などのデートが出来たら、このうえ幸せなことはない。――だが、現実はオリンピア軍に破壊の限り尽くされ、無人に等しい静寂な空気に包まれた市街地。戦いの傷痕を物語る両軍及び、民間人の死体、信じるように持ち主たちの帰りを永遠に待ち続けている拡散された状態のまま、放置された自動車やゴミ収集車、敵味方の装甲車を含めた軍用車輌の数々が迎えていた。

 

「………」

 

彼は、ふとすぐ近くにある移動屋台に目が止まった。

トルコなどの中東地域及び、東トルメキスタン共和国にある名物料理・ケバブ屋台を置いて、その上にピクニック用のパラソル、屋台前に置かれたピクニック用テーブルをかざしただけの店近くまで来た。

初めて見るものの、腹ペコの歩行者たちを誘惑し、口のなかに唾が湧き上がるほど堪らないスパイス及び、店独自の特製ソースの独特な香りと、ポピュラーで人気があるなチキンとビーフ、マトンなどと様々な種類のケバブの香ばしく焼けた芳醇な香りを漂わせていた。

その横には《購入者にはどれでもおまけに1本無料サービス!》と書かれた大きな看板と、客寄せ用に置いたのかマスコットキャラ――首をフリフリさせる小さなコック姿の人形。

 

「………」

 

良いセンスだな、とふと何気なくコック人形に手を触れた瞬間、彼はどこからともなく聞くはずも無いものを耳にした。

ありふれた日常の光景。無邪気に遊ぶ子どもたちの声、彼らを見守る親子の声、そして活気に満ちた人々が集う販売店の声や姿などと様々な幻想が見えた。

 

「………これは」

 

残留思念――この場に強く残留する思考、感情を読み取る思念。

偶然にも彼らの思念を触れて読み取った今の自分は、まるで目が覚めてからはぐれた仲間と合流するまで、たった一人で敵地に降り立ち、壊滅状態に陥り、敵に占領された市街地を歩きながら、その過程で敵の様々な目的を探る新兵、某ODST隊員のような気がした。

彼らの残留意念が遠ざかり、幻想の世界から我に帰った提督は、ほんの一瞬。不思議な出来事、超常現象に対し、スピリチュアルだな――そう他愛もない言葉を胸のうちで呟いた。

同時にまた気づかぬうちに、パラパラと小粒の雨が降り始めていた。よく詩人たちが唄う涙雨なのか、果ては偶然と置き換えて良いのか、ますますあの街に似てきたな、これもまたスピリチュアルなのか、単なる偶然が重なっただけなのか、と思いながら、その場から離れると――

 

「そいつを早く捕らえろ!」

 

第三者――言わずとも敵兵の叫び声に伴い、小刻みに聞こえる様々な銃声が静寂な街に木霊し、彼の耳の奥まで響き渡った。

今日はやけに不運もだが、救出作戦が多発するな、俺もTF141みたいな最強の特殊部隊になったのかと呟いた提督は、怒号、銃声が唸った方向へと進むのだった。

 

 

 

 

 

 

「お前たちもさっさと捕まえろ!例えそれが生きていても死んでいても構わない!グランド・マザー様たちに献上したら、我々も昇進し億万長者になれるぞ!」

 

複数の男女合同の兵士を従え、眼鏡を掛けた老人が叫んだ。

普通の指揮官ならば自動拳銃、小回りの効き、威力の高い短機関銃及びPDW、アサルトカービンを携行するが、その指揮官と思われる老人は珍しいことに、狩猟用やクレー射撃などのスポーツ射撃用として使われるイタリア・ベレッタ製の水平二連式散弾銃を携えていた。

彼の指示どおりに何かを追い掛け、威嚇射撃を繰り返す敵兵たち。

彼らに追われながらも、ロシアをはじめとする、零下数十度にもなる寒冷地で頭部の防寒のため着用される毛皮の帽子――ウシャンカを被っている少女は、ときおり振り返っては特徴である銃前部に取り付けられたヘリカル(螺旋状)マガジン且つ、ロシアの特殊部隊向け短機関銃として開発されたPP-19《ビゾン》を撃ち、追尾者たちから逃れるために撃つ、逃げる、撃つの三段階を繰り返していた。

 

「逃げろ、逃げろ!艦娘であろうと誰であろうと捕らえた後に嬲り殺すのは最高だからな!」

 

「例え流れ弾にあって死んだらごめんね。もし死んでも5秒間だけ忘れずに悲しんであげるから」

 

「ずっと逃げてな。その分あとで捕まえたら、たっぷりと可愛がってあげるから!」

 

罪の意識など毛頭なく遊び感覚で敵兵たちは、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ、逃げる少女を追い詰めていく。

息を切らすも堪えていくひとりの少女は、近くの教会に入り、ここで立て籠もり、抵抗する意志を決めて、PP-19の引き金を引く。

1発、2発、3発。ダットサイトの向こうで敵兵らがひっくり返るが、オリンピア軍は数に物を言わせ、後から後から湧き出て、一向に減る様子を見せない。

 

瞬く間に装弾数の誇るヘリカルマガジンが空になった。

弾倉ポーチから新たなマガジンを取り出そうとした時に、最悪な出来事に気付いた。いくら手探りを続けても予備マガジンがない。

弾切れ。いま撃ち尽くしたのが最後、正真正銘最後のヘリカルマガジンだったことに彼女は顔を蒼ざめた。

腰に装着しているホルスターから取り出したMP-443自動拳銃も同じく弾切れ。双方の予備マガジンはなく、唯一残された物、白兵戦用に先端部を鋭利に研いだ軍用スコップのみだった。

 

絶体絶命。そんな彼女に追い打ちを掛けるように、いよいよ追い詰めたわねと圧倒的な数の兵士らは両手に携える銃器を、そして魂胆のある表情を見せていた老婆も遮蔽物に向かって、一斉に撃ち放った。

 

「お嬢ちゃん。おつむを吹っ飛ばされたくなきゃ、さっさとそこから大人しく出な!そうすれば命だけは助けてやるから!」

 

水平二連式散弾銃を構えた老人は降伏を促すが、少女は元から捕虜を取る気は毛頭ないと見抜いた。

金目のもの、または身包みを取られて、死ぬまで犯し尽くされ、最後は家畜のように屠殺、または見せしめ用に複数の死体とともに、広場の立ち木に吊るされるか、または自爆ベストを無理やり着せられ、奴らの自爆兵としてされるのが落ちだと。

そうなりたくない。唇を軽く噛むものの、逃げ場はない。入り口は完全に敵部隊に包囲され、袋のねずみ状態。逃げることは出来ない。

 

「……プラスティーチェ(すまない)、同志。もうお別れだね。短かい間だったけど楽しかったよ」

 

孤立無援の中、絶体絶命の窮地を迎えた彼女は弱音を吐いた。

同時に、最期に死ぬ際は、同志に会ってから、彼に強く抱き締められながらその胸元で死にたかったな、と後悔を口にした。

だが、せめて最期は、潔い死を、敵との相討ち覚悟を決めてから、華々しく散ろう。そう悪くない、と決意に満ちた琥珀色の瞳の奥に、あの祖国戦争で命を顧みずに戦った同志たちの如く、彼女は堅く決心し、強く握られた軍用スコップを片手に――

 

「Урааа!」

 

遮蔽物から身を飛び出すと、勇ましく喚声を上げた。

 

その時、室内に大きな音が鳴り響いた。

この場に相応しくない音。耳元で唸る空気の流れていく音に混じり、スピード感を増していく桁ましい車輌のエンジン音が轟いた。

自然に戦闘を止めた少女。何事だ!?と慌てふためいた振り返った老人ら。両者の眼先に見えたもの――1台の黒一色に染まったカワサキ・オートバイが文字通り飛び出してきた。しかも特撮ヒーローの如く、彼らの頭上を飛び超えてきたのだ。

 

頭上にいる乱入者に驚き、思考停止状態に陥る彼らに対し、特殊部隊のような戦闘服を纏った運転手は躊躇なく、右手に握っていた自動拳銃でひとり、ひとり、またひとりと正確無比な射撃で仕留めていく。

反撃せよ!と狼狽する敵兵らはただちに銃を構えて狙いをつけたが、猛然とスピードで駆けるオートバイはすでに頭上におらず、代わりにいたのは小さな筒。直視した直後、起爆――突発的な閃光と爆音が放たれ、その場にいた老人たちは顔を押さえながら、眼の痛み、あまりの痛さに床に倒れてのたうち回るなど身体の支障を来した。ただし、運転手と少女は除いて。

 

「早く乗れ!時間がないぞ!」

 

ダンッと音を立てて着地。見事に鋭くターンし、閃光対策に身構えていた少女の面前で急停止した運転手は叫んだ。

天からの助け。言われなくとも、と彼女は飛び出し、乗り込んだ。

後ろの席に跨り、振り落とされないように、しっかりと運転手の腰に両手をまわして掴まる。

 

「良し!行くぞ!しっかり捕まってな!」

 

言われるがままに、少女は頷いた。

よし、良い娘だ。と軽く頷いた運転手は、アクセルを回す。すると、機械は生き物ではないが、その主人の命令に応える鋼鉄の軍馬に魂が乗り移り、元気よくエンジンを吹かした。

進路上の敵も轢き殺すような勢いで加速し、アクセルをさらに回す。エンジンを吹かせば吹かすほど馬力と速度を増し、頬から伝わる風をナビにして、この地獄から風の世界を駆け抜けていく。

映画と同じような奇跡の展開。出来事は、実にシンプルな脱出劇。

短いような長い逃走の果てに、この景色のように、すぐに視界の片隅に流れて消えていってしまう、そのくらい一瞬の出来事だったな、と、運転に集中する鋼鉄の竜騎兵に、囁くように見つめていた。

 

 

 

 

 

 

市街地道路

時刻 1715

 

ふたりの乗るオートバイは、教会から出て、奇跡の脱出劇を終えてもなお猛スピードを出し続けていた。

ロシアの少女を上手く救出もでき、逃げ切れることも出来た。

奴らは追ってこない。自分らを追う価値もなければ、追う手段もないか、諦めていることを祈るばかりだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「大丈夫か?」

 

後部座席にいるロシアの少女が、疲れたあまり息を荒々しく喘がせていたことに気づいた彼は問い掛けた。

 

「うん。少しだけ喉が渇いているだから大丈夫」

 

「そうか。ならばバックパックに水があるから飲めば落ち着くし気分も良くなる」

 

「スパシーバ。いただくよ」

 

ありがとう、とロシア語で礼を述べた少女はバックパックから、水のボトルを取り出し、蓋を開けて、ひと口ぐいと飲んだ。

ひとりで彷徨い、ひとりで戦いながら、追っ手に追われて以来、初めて口に含んだもの――程よくキンキンに冷えていた水が甘く美味しく感じたのだろうか、ほっとした安堵の笑みを浮かべていた。

ひと安心する彼女を見て、ちらっと振り返り見た彼も自然と笑みを浮かべた瞬間、あの言葉を思い出した。

 

我々が鎮守府を作ったのは彼女たちを救うため。あらゆる艦娘たちをだ。

 

元帥の言葉どおり、救うために俺たち提督がいるのだと実感した彼は、水を飲んで落ち着きを取り戻した少女に話し掛けた。

 

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな。こんな状況だが、軽く自己紹介しよう」

 

出会ってからまだ数分、名前を聞くことすら忘れていた。

所属は違えど、この戦場で出会い、助け合った瞬間から、お互い戦友と呼べる間柄であることは確かだ。

 

「俺の名は柘植崇幸。よく特殊部隊隊員と勘違いされるが、こう見えても柱島泊地に所属する提督だ」

 

そっちは、と問いかける提督に対し、なるほど、と頷く琥珀色の瞳を持つロシアの少女はにっこりと笑い答えた。

 

「私は北の国で生まれた空色の巡洋艦、タシュケントだよ」

 

「良い名前だな」

 

名前を述べ、褒められたタシュケントは嬉々した。が、まだ何か言いたいような表情を見せた。

 

「何だよ、どうしたんだ?」

 

と、提督は一応問いかけた。

 

「そう言われているが、本当の艦種は駆逐艦なんだ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。嚮導駆逐艦。まあ、駆逐艦としては大きい方かな」

 

てへっ、と笑う彼女に、提督は頷いた。

 

「なるほど。だが、戦友であることは変わらない。駆逐艦でありながら、空色の巡洋艦という二つ目の名を持つなんて良いじゃない」

 

彼の言葉に、なるほど。それもそうか、とタシュケントは微笑んだ。

 

「スパシーバ。それではよろしくお願いするね!同志柘植!」

 

「ああ。よろしくな。タシュケント」

 

運転中のため握手は出来ないが、ありきたりな自己紹介を交わし終えたふたりは微笑み合った。

 

「ところでこれからどうするんだい、同志柘植?」

 

タシュケントが訊ねた。

 

「ガソリンある限り、元帥と妻たちがいる軍港に行く」

 

「奇遇だね、私も同志柘植と同じく目指していた場所さ」

 

なるほど。旅は道連れ、世は情けって奴だな。相打ちを打つ彼女も目的地は同じようだ。そう頷くとアクセルを大きく回した。

その最中、サイドミラーに目をやれば、こちらと同じく風の世界を駆け抜けて迫ってくる車輌の群れが映った。

米軍などが好む護衛輸送隊形を維持し、敵指揮官が搭乗する指揮車輌――イタリア及び、NATO同盟国などが運用する有名なイタリアの商用車製造会社であるイヴェコが開発した軽装輪装甲車・イヴェコ LMV。言わずもがなテロリストの癖に、イタリア製車輌に加え、気前よく遠隔操作可能なプロテクター RWSが搭載されている。

周囲にいるバイク部隊、自衛隊の偵察部隊、今では警備隊にも幅広く運用されている偵察用オートバイが1台、2台、3台とチラつく。

 

「……嫌な予感はしていたが、案の定来たか。全くこっちは安全運転と、元帥や妻たちが目指している軍港に着きたいというのに」

 

これだからテロリストたちは嫌いだ。人の都合も考えない。と愚痴を零すも提督は、怒る気持ちを抑え、後ろにしがみつくタシュケントにちらっと視線を移した。

 

「タシュケント。彼奴らのお相手をお願い出来るか?」

 

落ち着き払った彼の声に、タシュケントは頷いた。

 

「ダー。喜んで!」

 

準備万端、鹿狩りでも致しますかという調子で、新しく入手した銃器――インドのARDE社が開発したMSMC短機関銃を持ち出し、片手で、敵に向かって発砲した。

 

しばらくは退屈のない銃撃戦付きの、地獄のカーチェイスだな、と運転に集中、早く古鷹たちに会いたいという気持ちを兼ねた提督は、両ハンドルを強く握り、スピードを加速させるのであった――




今回は執筆中にこのアイデア、タシュケントさんとの出会いというサプライズとして伏せておきました。
戦場ならではのああ言う大胆な出会いは、CoD Boやメトロシリーズなどではありふれ、日常茶飯事でもありますが。
そのおかげで長くなり兼ねないので、事情により、前編・後編になりますが、次回に、後編へ続く(キートン○田ふうに)という形で暫しお待ちください。

もうすぐイベントが始まりますが、同時に良い夫婦の日ですから嫁艦と仲間たちとともに頑張りましょう。私もやります。
今回は秋イベント最大、南方作戦と言いますから、ジャワ・スマトラ島攻略作戦などですね。潜水空母イ2000やイ800などがあれば、通商破壊作戦可能であり、奇襲作戦も可能ですが。

では、長話はさておき……
次回はこの続き、長い逃走の果てに、そして元帥・古鷹たちと合流、最後の決戦へと移りますね。

空戦は、後編が終えてからになりますかね。御予定では。

どんな展開になるかは、次回のお楽しみに。

では、第53話まで…… До свидания(響ふうに)

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