第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
今回もまた事情があって毎度ながらですが、前編・後編に分けることをお伝えします。御理解頂ければ幸いです。
同時に嬉しいことにお気に入り数70人に伴い、本作は50話を迎えることが出来ました。皆様の応援ありがとうございます。

今回はややホラー描写などあり。
元ネタが分かる方々もいるかもしれませんが。
果たしてどの様なホラーかは、本編を読んでからのお楽しみに。

それでは本編開始です。どうぞ。


第49話:小さな勇気 前編

市街地

時刻 1700時

 

ビルから脱出した浅場たちは、道中もオリンピア軍による激しい攻撃に遭いながらも蹴散らし、ようやく友軍と合流することが出来た。

 

《タイタンは鉄壁の要塞だ。俺たちが盾になる!》

 

無線機越しに勇ましく発するコールサイン・ブラボー1の戦車長の声。

彼と搭乗員らが操るT-600多脚戦車《タイタン》筆頭の警備部隊は火力も高く、随伴する警備隊員にはMDR突撃銃など最新鋭装備に恵まれていたのが運が良かった。

また戦闘中にも関わらず、合流時に『我が隊は君の指揮下に入る』と律儀に敬礼する軍曹に、浅羽たちは大いに感謝した。

 

以前ならば、負けていたも同然だった。

他国では、戦史研究や戦略知識を含め、同盟国、敵国が運用するあらゆる種類の兵器を研究材料に取り入れ、演習に使い、または有事の際でも扱えるように正規軍から特殊部隊もその扱い方を心得ている。

彼らに反して当時の自衛隊はその知識はおろか、戦史研究や日本軍の戦略なども軽視し、自分たちがその装備を持たなければ相手は持ってくることなどない。全ての無人機をラジコンヘリレベル。

工兵部隊の基礎知識である敵の重要拠点の破壊に必要な爆薬知識もなく、防御戦に必要不可欠な要塞やトーチカは作れず、出来てもタコツボを作るだけなど呆れて物が言えない有様。

特に上層部たちは、今の戦いですら第二次大戦やベトナム戦争の戦いで通じるという知識、化石思考で止まっていたという始末だった。

いくら予算の都合上があるとは言え、憲法9条を遵守し続けた結果でもあり、改憲を何時までも躊躇った日本政府のせいでもあった。

よほど、兵器好きや戦史研究などを趣味とする者たち、有事に大量に隊員たちを無駄死にさせる出来事がなければ、現代戦や相手国の兵器詳細、戦略知識など知らずに思考停止状態でもあった。

これらを知り、呆れて物が言えず、堪り兼ねた元帥は、黒木首相と良識派たちとともに、改憲後、各軍の無能な上層部や隊員たちを更迭及び解雇、そして様々な有能な人材に入れ替えた。

彼女はまた、同時に疎かだった軍事費を今の1%から、世界基準である2%にまで上げたが、足りず追いつかず状態であり、最終的には5%にまで上げ、陸海空三軍全てのネットワーク統制と世界基準並みの装備更新、あらゆる装備の近代化改修、米軍以外の他国との合同軍事訓練、戦史研究を取り入れるなどと、涙ぐましい努力をしたのだった。

時間は掛かったものの、このおかげで、かつてアジア最強と言われ、敵国すら敬意を表する日本陸軍として取り戻したのであった。

元帥曰く『嫌いだが、我が国にいる馬鹿なデュープス連中が大好きなスターリンの赤軍大粛清をしない限り絶望的だったが、しなかっただけ有り難いものだった』とのことだ。

 

また憲法9条を異常なまでに心酔し、頭までそれに洗脳された哀れな人々、軍事費より福祉を優先する財務省、反自衛隊を掲げ、有事に協力しない各省や一流企業などは、これを機にして反旗を翻そうと企てていた。だが、各省は黒木首相たちの改革により、一度解体され、新しく生まれ変わり、以前よりも見違えるようになった。

最後まで抵抗していた反日政党と、彼らと同盟を結んだ過激平和主義組織《ストーム・ナイン》もまた次第に支持率を失い、内部抗争をし、いち早く察知した元帥の陸戦部隊などに制圧されるという自業自得な最期を遂げたのだった。

 

話は戻る。

対する敵は歩兵部隊とともに、現在でも数多くの開発途上国や紛争地帯にいる民兵組織などが運用するテクニカル車。

某有名店の牛をモチーフをし、サングラスを掛けたゆるキャラが嘲笑しながら、旭日旗を持った日本人たちを肉斬り包丁と鎌で惨殺するという猟奇的なステッカーが施された悪趣味な痛車。その意味合いを持つのか、荷台には第一次世界大戦から現在まで活躍するM2重機関銃、これを4連装に束ねたM45四連装対空機関銃架を搭載していた。

朝鮮戦争では、対空戦はむろん、特に人海戦術を得意とする中国軍を蹴散らすべきに、水平射撃で地上支援として活躍、通称『ミートチョッパー』と呼ばれ、恐れられた米軍のM16対空自走砲を模倣しているが、しかし対戦相手が悪すぎた。

対人戦ならば圧倒的な火力で押し寄せることが出来るが、鋼鉄の鎧に纏った戦車相手だと、強力な対戦車火器で無ければ勝てない。

あらゆるものをいとも容易く貫くロングランスを模した120mm滑腔砲からオレンジ色の発射焔が噴き出し、ましてや装甲を纏っていないテクニカルは紙に等しく、一撃で破壊した。

テクニカルの周囲にいた随伴兵たちも爆発による巻き添いを喰らい、僅かに生き残った敵兵も浅羽たちの攻撃を受けて殲滅した。

 

《敵車輌撃破。敵の待ち伏せ攻撃が予想されるため、こちらは微速で前進する》

 

「了解。みんな、タイタンに続け」

 

先ほど勇ましかったブラボー1が打って変わるのも無理はない。

交戦距離が短く、隠れ蓑が無数に存在する市街地は敵の歩兵部隊、特に対戦車火器を携えた敵兵は脅威そのもの。

遮蔽物のない平原地では蹴散らすには容易いが、こうも隠れ家が多い市街地では対処法すら難しく、随伴歩兵の援護がなければ突破することは困難となる。

 

しかし、彼らとともに前進するも気がかりなことに、先ほど殺到して来たオリンピア軍がいなかった。

 

今いる街中には人影すらなく、何故か有るのは数十体のマネキン。

喜怒哀楽のどれにも当て嵌らない無機質な表情の眼、全て同じ白い顔を持つマネキンは、ショッピングモールで見るものと変わらないが、その側を通り過ぎても、夢に出てきそうなほど気味が悪い。

この街中に教会がないにも関わらず、時折、カーン、カーン、カーンと不気味な鐘音が流れてきた。

ほかの市街地では双方の銃声や悲鳴、砲撃などが堪えないのに対し、この場所だけはやけに静かで、気味が悪いし早く抜け出したいな、と浅羽だけでなく、全員が不安な気持ちを抱きながら前進する。

しかし、通り過ぎた後、何処からともなく生気のない黒い瞳で、ジッとまっすぐに浅羽たちの後ろ姿を見ている、1体のマネキンに気づくこともなく――

 

 

この街に敵兵がいないことにひと安心した戦車長や搭乗員たちは、浅羽たちの盾となるべく自ら突出する。

T-600に搭載されている新型ガスタービン、そこから生み出される強力な馬力を誇るこのエンジンが唸り上げ、鋼鉄の騎兵を素早く前へと突き出す姿は、まさしく守護神に見えた。

浅羽は、やはりアニメや漫画で見る物より、本物は見違えるほど迫力があると感心していた。

 

瞬間、T-600の砲塔から何かが降りたのを確認した。

ほんの一瞬だが、浅羽の瞳に映ったものは、生気のない白い腕。

脳裏から離れない。先ほど道端で見たあの白いマネキンそのものだ。まさか、ホラー映画のように勝手に動き出し、自分たちの後を追い掛けて来たのではないか?と推測した。

なんだか嫌な予感がする。話しても信じては貰えないが、気のせいだと済まさないよりマシだ。と浅羽は、携帯無線機を使ってブラボー1に問い掛ける。

 

「こちら浅羽。ブラボー1、砲塔に誰かいるぞ。搭乗員が外に出たのか?」

 

《こちらブラボー1。全員車内にいる。急にどうしたんだ?》

 

「いや……信じて貰えないだろうが、一瞬だけ、俺たちが先ほど見た白いマネキンが砲塔にいたんだ」

 

《おいおい、冗談はよしてくれ。浅羽提督》

 

「本当だ。信じてくれ」

 

車内にいたブラボー1の戦車長が、冗談も休み休み言ってくれ、と、口にしようとした最中、T-600の無機質な肌、外で誰かが強靭な装甲を何度もドンドンドンという叩くような音が木霊した。

 

《……どうやら、浅羽提督の言うとおり、何者かが外にいるらしい。俺の眼で確認してみる》

 

浅羽の言葉を信じた戦車長は、万が一に備えて戦車兵自衛用火器としてMP7を手にした。

今は電子機器の発達で、索敵能力が向上した現代の主力戦車と言えど、やはり最後に頼りになるのは肉眼による視界だった。

史実の日本海軍の熟練見張員ならば、より遠くにいる敵を素早く発見することが出来るという驚異な視覚を持っていた。

この千里眼にも近い視力を鍛えた者、あの有名な撃墜王の坂井三郎が真昼でも星が見え通せるほどの視力が欲しいな。

そう愚痴を零す戦車隊長がハッチを開けたとき、息を飲み込み、我が眼を疑った。

 

ドン……ドン……ドン……ドン……ドン……ドン……

 

しかし何度瞬いても、眼の前の光景は変わらない。

道端で見た無機質かつ無表情な顔を持つあのマネキンが、何度も何度も何度も繰り返し、装甲を殴る。

例え自身の腕が壊れようがしまいが止まることもない。それは規則的に機械的に、ただ音と時を刻むようにひたすらに繰り返していた。

身体に汗が滲み出るほどの戦慄する光景、全く同じテンポで繰り返される行動に、戦車長は恐怖のあまり、金縛りにあったように全身の筋肉が硬直し、そこから動けなかった。

 

いや、ただそれを呆然と見ることしか出来なかった。

彼は背けたい意思を何者かに奪われ、ただただ眺めていた。

しかし新たに両耳の奥を、鼓膜まで舐め回すように聴覚を狂わせる、もうひとつの音が聞こえ始めた。

 

カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……

 

後ろから聞こえる音、じわじわとこちらに近づく足音が近づいた。

背中を何者かに刺される顫動、自身の高まる鼓動、そして眼に見えない刃物で撫でられたような戦慄の恐怖が駆け巡る。

聴覚を刺激する足音は、やがて、ぴたりと鳴り止んだ。

背後から忍び寄る冷たい視線で睨まれている恐々を堪え、戦車隊長がゆっくりと後ろを振り向こうとしたが――突如、背後から目の前にいたあのマネキン、それと同じ白い両腕が襲い掛かった。

 

「くそっ、やめろ!離せ!離せ!誰か助けてくれ!」

 

人肌とは違う無機質で冷たい両手が戦車長の顔を鷲掴まれ、抵抗しようとしたが、運悪く奇襲を受けた際にMP7を落としてしまう。

必死に抵抗し上げる彼の悲鳴に気づいた搭乗員立ちが助けようと手を伸ばしたが、間に合わず、車外に連れて行かれてしまう。

ようやく獲物を捕まえたマネキンは、相変わらず表情もなく、戦車長の後頭部をがっしりと掴み、そして思いっきりT-600の装甲に叩きつけたのだった……

 

「どうした?何かあったのか!? 応答しろ!」

 

浅羽がT-600に向かって怒鳴るが、声はなかった。

何が起きた、頼む、返事をしてくれ。と、もう一度、声を掛けようとした。

 

グチャ……グチャ……グチャ……グチャ……グチャ……グチャ……

 

戦車長の返事はなく、肉と骨が一緒にすり潰される陰湿で薄気味悪い金属音に伴い――

 

ビチャ……ビチャ……ビチャ……ビチャ……ビチャ……ビチャ……

 

水を打つ音。しかしそれは水ではなく、鉄の臭いを含んだ赤い水滴。

T-600の砲塔、その一部が赤い雨漏りが、装甲を染め上げていく。

悪魔が魅了する狂気の光景と、腕時計の小刻みな秒針の響きが重なり合い、狂気の世界に迷い込んだのではないか、と、浅羽たちは息することさえ、恐怖を感じたのだった。

やがて、恐怖が重なり合うふたつの不快な音が急に止み、束の間の静けさが訪れた。

 

直後、ドサッと得体の知れない物体が落下してきた。

眼の前に落ちてきたもの、それを眼にした浅羽たちは蒼ざめた。

歴戦錬磨である彼らもだが、特に阿賀野たち、ひいっと短い悲鳴を洩らし、恐怖を堪えるために口元を塞いだ。

 

見るに耐え難いものだった。

慣れない者ならば、すぐに胃の中のものを吐き出していただろう。

眼や鼻、口や歯もぐちゃぐちゃに潰され、健康的な肌が剥がれた顔は肉と骨が混じり合い、もはや原型すら留めていなかった。

アレに叩きのめされた挙げ句、高台から振り落とされたかのように、魂のない肉体は衝撃に堪えきれず、腹部が潰され、手足もあらぬ方向にねじ曲がっていた。

そこから身体中を染め上げる赤い水滴がみるみると広がり、まるで赤い水溜りに変貌した光景に、浅羽たちは言葉を失ったが……

 

この戦慄の恐怖は、ほんの始まりに過ぎなかった。

 

《な、なんだ!こいつらは、いつの間に!?》

 

《さっきまで、あの場所にいたのにどうして!?》

 

《しかも大量にいるぞ!くそっ、この数じゃ!》

 

死体を見ている間、またひとつ異変が起きた。

T-600に視線を移すと、車体に押し寄せる無数のマネキンたち。

何処からともなく、音もなく静かに忍び寄るマネキンたちは、次々とT-600に群がり、決して離れようとはしなかった。

その光景は巨大な獲物を集団で押さえ込み、引っかくなどと、まるで象など大型動物を群れで襲い掛かる軍隊アリを連想させる。

 

「このままじゃ保たないぞ!彼らを助け――」

 

浅羽の号令一下をさせまいと、彼の眼の前に1体のマネキン、恐らく戦車隊長を殺し、血脂が媚びりついた血塗れのマネキンが飛び掛かり、今すぐに浅場を殺そうと襲い掛かって来た。

だが、辛うじて浅羽は、マネキンの両手を掴み、攻撃を阻止した。

 

カラ……カラ……カラ……カラ……カラ……カラ……

 

マネキンは、鮮血に染まった無表情な顔を振り回した。

浅羽は、何だと思った矢先、この個体に合わせるように、T-600に群がる他のマネキンたちも、自分たちの獲物をじわじわと嬲り殺すことを愉しむかのように顔を振り回し、一斉にカラカラカラと不気味な音を鳴らしていた。

 

「悪いな。ホラー人形は小さい頃から嫌いでな!」

 

身の毛もよだつ気味の悪い光景を見た浅羽は、眼の前にいる血塗れのマネキンの両腕を動かし、肘を曲げ、最後に腰に装着していたコンバットナイフを取り出し――すかさずマネキンの背中に刺した。

偶然にも弱点だったのか、ことが切れたマネキンは、魂の抜けた人間のように力尽き、ゆっくりと前のめりで倒れて機能を停止した。

 

――まったく、オリンピア軍も悪趣味な兵器を作るな。

 

浅羽は、倒したマネキンを見て呟いた。

1体が倒されたことに、さほど気にしないのかマネキンたちは、T-600多脚戦車にずっと群がり、這いずり回る状態だった。

あとは全員で一斉に倒せば大丈夫か、そう自分に言い聞かせた彼は、背中に刺されたままのコンバットナイフを抜いた最中――

 

ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……

 

耳の奥まで届くデジタルタイマー音が鳴り響いた。

自身が倒したマネキンを凝視すると、その内部にはリズム良く赤く点滅する物体が仕込まれていた。

 

――こいつは、もしや!

 

それに、いち早く感づいた浅羽は叫んだ。

マネキンたちがT-600にずっと張り付いていた理由も理解出来た。

奴らを動かすために、人工骨格に内蔵されている物体――IEDのように遠隔操作可能な時限信管を装着した中型の破片爆弾。

古典的な兵器だが、安価かつ、構造そのものも非常に簡単、爆発物の知識を持ち、必要な材料さえ揃えば、半日から一日で製作可能。

正規軍や特殊部隊、非正規軍、テロリストなども使い、部隊撤退時、橋や鉄道など戦略上重要拠点に仕掛けることにより、敵の恐怖心を煽る心理的効果を狙い、敵の士気を下げることも出来る。

テクノロジー兵器がありふれた現在でも、時にはアナログ兵器が凌駕することもあるため、決して油断出来なかった。

 

「ブラボー1、早く脱出しろ!さもないと爆発するぞ!」

 

浅羽の緊迫感を孕んだ声で叫ぶ。

マネキンたちが起爆する前、T-600に搭乗するブラボー1搭乗員たちの脱出路を確保するため、UMP9を撃ちまくった。

むろん彼だけでなく、阿賀野たち、警備部隊隊員たちも協力し合い、各々が携える得物で撃ち、マネキンたちを破壊していく。

 

《分かった。みんな脱出するぞ!急げ!》

 

車内にいたひとりの搭乗員が指示し、M4やUMP45など車内にある小火器を携え、昇降口に上がってハッチを開けようと手を伸ばした。

戦死した車長のためにも生き残り、必ず自分たちが黒幕を捕まえて、後悔させてやるという双方の気持ちを兼ね備えながら。

 

だが、ハッチは開かなかった。

彼らは『どうしてだ!?』と思いながら、もう一度開けようと試みたが、それでも開くことはなかった。

搭乗員たちは諦めず、拳で叩いたり、車内火災時に使用するために備えている携帯小型消火器、応急修理時に使うスパナを打ち続けたが、大量のマネキンたちにより、ハッチを押さえつけられているせいで、ビクともしなかった。

 

《こちらブラボー1。ハッチが開かない!繰り返す!ハッチが開かない!奴らが上から押さえ付けている模様!》

 

畜生、こんなときに――苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、浅羽は銃に新しいマガジンを装填し、再び群がるマネキンたちを倒していく。

多勢に無勢。砲塔に群がる集団をいくら倒してもキリがなく、たちまち新しく装填したマガジンは空に近づき、そのサインを知らせる曳光弾を生じ、そしてカチンッと小さく機械音の断末魔を上げた。

彼は『弾切れになったらリロードするより、サイドアームに切り替えろ』と、提督が教えてくれた言葉、教訓を思い出し、弾切れになったUMP9から、背中に背負っていたSPAS-12に素早く切り替え、再び銃口を向けようとするが――

 

怒りを孕んだ眼に、マネキンたちが身体を震わせていた。

ぱっと明るく輝いて、マネキンに仕込まれた時限信管が作動した。

押し寄せる灼熱の炎に車体にダメージを与え、炎上させつつあった。

紅蓮の炎に包まれた鋼鉄の猛獣の惨状がはっきりと確認出来る。

やがて堪えきれなくなった車体から黒煙が噴き出し、火焔をたなびかせながら力尽きて倒れるT-600。直後、閃光が生じた。

轟音。これにより生まれた爆風と衝撃が生じ、T-600の近くにいた浅羽は巻き込まれる。

 

「うわあああ!」

 

浅羽は、見えない巨人に殴られたように簡単に吹き飛ばされた。

ボールが宙を舞うように、ふんわりと身体が浮き上がった己の姿を見て、思わず声を洩らし、挙げ句、飛べない豚はただの豚だけど、飛べる豚はただ飛べるだけの豚だ、という昔聞いたことある意識の高い格言を脳裏に浮かんだ彼を――

 

「慎太郎さん!」

 

妻の阿賀野が、見事に浅羽を受け止めた。

艦娘たちにとって艤装は装備しなくとも、元帥や提督たち普通の人間を受け止めることなど容易いものだった。

 

「……あ、ありがとう。阿賀野、俺を受け止めてくれて」

 

「ううん。これくらいお嫁さんとして当然だよ」

 

礼を言う阿賀野。爆発のせいで聴覚が完全に回復しきらない最中、耳鳴り混じりで拾うことが出来た。

高い攻撃力と防御力を誇る最新鋭戦車が、小さなマネキンたちに反撃する間もなく破壊され、鉄の棺桶と変わり果て、その亡き骸を晒し、紅蓮の炎に包まれたT-600多脚戦車《タイタン》。

生きながら火葬にふされていく搭乗員たちの姿はすら、見えるように思われた。

市街地に佇む幻影、炎の饗宴に見惚れていたか浅羽は『クソ、これだからテロリストは嫌いなんだ』と吐き捨てた悪態しかなかった。

同時に、彼らのためにも黒幕たるオリンピア軍を叩きのめしてやる、という気持ちを込めた。

 

「慎太郎さん。立てる?」

 

「無理そうだな。すまない、肩を貸してくれないか」

 

「うん。分かった」

 

浅羽は、阿賀野の肩を借りて立ち上がった。

小さな切り傷程度の怪我をしたが、辛うじて歩くことが出来たのが奇跡だった。

 

「能代たち、警備隊も無事だな。日頃の陸戦訓練が役に立ったな」

 

彼の言葉どおり、能代たちも無事だった。

先ほどの爆風と衝撃による被害を抑えるため、日頃の陸戦訓練で鍛えられたおかげで、反射的に伏せることができ、しかもギリギリのところで彼女たちに危害を及ぼさなかったのが幸いだった。

 

「うん。今は暫く休もう、慎太郎さん。腕に小さな怪我しているから」

 

「ありがとう。でも、こんな怪我も阿賀野の優しさで治っちゃったもんね」

 

「やだ〜、慎太郎さんったら〜」

 

漸く耳鳴りから回復、彼女の声を聞き取れた浅羽。

怪我の手当てもまかせてね、とウインクで返す阿賀野。

提督も調子良いんだから、と普段から夫婦の会話に慣れている能代たち、何時もああなのかと首をかしげる警備隊員たち。

しかし、彼らを嘲笑うかのように、背後から再び襲い掛かる衝撃。

不意打ちに対処出来ず、なす術なく吹き飛ばされ、その場に倒れ込む浅羽たちは、『何だ。いったい何が起こったんだ?』と、分からずじまいだったが――

 

「きゃあああ!」

 

短い悲鳴。すぐに反応し、彼らは頭上を見上げた。

そこにはロココ風の華麗なドレスに身を包み、大きさは小さな子ども並み、ややあどけない顔立ちを持つものの、すぐに人形と分かった。だが、人形独特の可愛さとは裏腹に、顔の右下が欠けており、綺麗な蒼みがかかった右眼が露出し、さらに頭の割れた異形のフランス人形が空中に浮いていた。

さらに驚くべくことに、その小さな人形は酒匂を捕らえていたという信じられない光景を眼にしたのだった。

必死に抵抗する酒匂と、倒れている浅羽たちを不毛するかのように、カタカタカタと繰り返し首を回す子どもの人形。

その悪魔の人形から、酒匂を助けようと、咄嗟に拳銃を構えようとした浅羽と阿賀野の動きも、間に合わなかった。

 

「司令ーーー、お姉ちゃんーーー!」

 

浅羽たちに助けを求めるも届かず、酒匂は眼にも止まらぬ速さでフランス人形に攫われてしまった。

 

『酒匂!!』

 

己の身体が疲弊しろうが、怪我をしていようが関係ない。

大切な義妹である酒匂を助けるため、浅羽と阿賀野は上半身を起こし、足元に落ちていたSPAS-12とCM901を拾い上げて走り出した。

 

「ふたりとも待って!矢矧、私たちも早く行くわよ!」

 

「ええ。酒匂に手を出した輩も後悔させてやるわ!」

 

顔を見合わせ、頷き、能代と矢矧も走り出した。

警備隊指揮官を務める軍曹と、彼の仲間たちも、恩を返し、仲間を殺した黒幕たちを捕まえて後悔させてやる!という気持ちを兼ね備え、そして全員が走り出したのだった――




今回は、ややホラー回になりました。
元ネタはCoD Bo3とBo4のマルチプレイ、両者に登場するマップ『ニュークタウン』に登場するあのマネキンです。
実際には2分以内に頭を撃ち抜くことをしないと動きません(前者の場合、2分以内に両腕を撃ち落とせばだるまさんが転んだになりますが)。今回はそうしなくても敵に襲い掛かるように改良され、残虐性と自爆機能も追加される凶暴さも増しています。
マネキンもですが、人形が関わる怖い話が洒落にならないほど怖いですね。本当に。

今回は元帥の涙ぐましい努力、かつての戦える日本軍に戻した点も、今に言えること、改善すべき点などを山盛りに挙げました。
他国は実戦経験豊富や改良を幾らか施したりなどして実力もあり、あらゆる兵器も改良及び、進化しないと負けたりするのは歴史でも証明しています。所以に抑止力も高めることもですが。
田中光二先生などの作品、超空シリーズでも自衛隊が真に戦え、日本を本当の国に、対等になれる国などを描いていますからね。

長話はさて置き、次回は酒匂ちゃんが主役になります。
こちらもまた少しホラー描写があるかなと思います。
前回の後書き、予告に書いた通り、小さな勇気を見せます。
誰かを守りたい勇気、誰もが皆ヒーローになれるよという意味も兼ねてです。

今日から始まるイベント、欧州派遣作戦で遅くなるかもしれませんが、楽しみに待っていてください。
私としては旭日の艦隊や大逆転!連合艦隊ドーバー大海戦などを連想しますね。秋水やMe163が実装されたいま、閃電や火龍、Me262やHo229なども実装される日が楽しみですね。
敵重爆が出るらしいですが、こちらも早々富嶽、キ94重爆、連山など実装して欲しいですね。架空戦記万歳。

それでは与太話も終えますが、第50話まで…… До свидания(響ふうに)

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