第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
それでは予告通り、提督の親友、浅羽提督たちの視点になります。
前にも書きましたように、架空戦記やCoDシリーズなどで各章で活躍するサブキャラがいるからこそ、誰もが皆ヒーローになれますから。

この言葉通り、果たしてどの様になるか、最後まで楽しめて頂ければ幸いです。

それでは本編開始です。どうぞ。


第48話:CRASH SITE 《墜落地点》

提督夫婦とは別に、第四の生存者、もうひとりの提督夫婦こと、浅羽提督たちも違う場所で戦っていた。

 

 

遡ること数分前。

市街地上空から静かなローター音を鳴り響かせる輸送ヘリ、日米両軍や多国籍軍が運用し、輸送や救援、地上攻撃など幅広く活躍するUH-60Lが姿を現した。

ヘリは適度な高度を保ち、市街地から目的地まで目指していた。

巧みに輸送ヘリの操縦を熟すふたりのパイロットたちは、大事なお客様たち、今日のゲストたちのために空の旅を楽しませるのも、俺たち輸送屋としても大切な仕事だと冗談を口にした。

 

キャビンの中では、浅羽と阿賀野姉妹が空の旅を満喫していた。

特に浅羽は、今日は晴れ舞台、妻の阿賀野と彼女の義妹たちが輝く日、水雷戦隊屋として喜ばすいられないと、心からこの日を迎えたことに感謝した。

阿賀野たちは前世、まだ艦船時代だった頃、進水を迎えたも、大東亜戦争時だったため、観艦式に参加することはなかったから、彼と同じく彼女たちも楽しみで仕方なかった。

そんな両者の気持ちが抑えきれないほど嬉々した瞬間、ドッと、轟音が走る。

 

「どうした。何が起きたんだ!?」

 

と、浅羽たちはUH-60Lの機内から外の様子を窺った。

双眸に映る光景。数えきれない無数の飛行船と無人戦闘機の群れ。白い花を模したパラシュートを纏った空挺部隊。直後に襲い掛かってきたのは、かっと走った閃光、そして耳を聾する爆発音が轟いた。

常に本土は攻撃目標にされることは国防認識としては当たり前だが、まさか、この記念日に攻撃されるとは想像がつかなかった彼らは言葉を発することさえも忘れた。

 

《みんな、急いで逃げろ!殺されるぞ!》

 

《誰か助けてくれ!テロリストの襲撃だ!》

 

《なんでこんな事するの!?やめてーーー!》

 

コックピットから機内まで響く計器の警報音。通信機器からはあらゆる提督や民間人たちなどが、なすすべもなく悪夢に弄ばれているかのように悲鳴に伴い、銃声の豪雨が絶えなかった。

同時に、眼下に見える市街地からときどき撃ち上げられてくるSWAMロケットランチャーから撃ち放たれたHAEE弾の白煙、閃光。追尾機能はなくあさっての方向にふらふらと飛んでいく。

上空では双方の航空機が入り乱れ、秘術の限りを尽くした空中戦が繰り広げられていた。地上では機甲部隊と歩兵が命を賭して渡り合い、戦火の中を駆け巡る市街戦が、海上では激しい対空砲火が繰り広げられていたが、空からは火で形成された花畑のように見えた。

 

嗅ぎ慣れた硝煙の臭いが漂うなかで、花一輪ごとに数人の人が確実に死んでいる。

民間人から軍人たちも、全ての命を糧にしているからこそ、恐ろしく残酷な火の花は綺麗に咲くのかもしれない、と感嘆を抱えたように、浅羽は胸のうちに呟いたのだった。

 

「慎太郎さん、大丈夫?」

 

「ん……すまない、大丈夫だ」

 

阿賀野に不安な顔を見られたかと思ったのか、浅羽は『俺が不安になっちゃいけないな!』と、顔を擦り上げて気合いを入れ直す。

 

「緊急時につき、あの場所に降ろします。降下準備を!」

 

パイロットは答えたが、ふたりとも操縦桿を握る手が震えていた。

必死に恐怖を堪えているのが分かる。

穏やかな空間から、一気に戦場と化した空間を奇跡とも言える空域を飛んでいるからだ。しかし、地上から空、海上で戦う搭乗員や乗組員たちも今は構っていられないだろう。

隠密性と、何処にでも離着陸出来るという回転翼機特有の機動という武器を兼ね備え、機体を運んでいく。

先ほどの攻撃を受けず、高度を保って飛行しているだけでも運が良いと考えていた最中。

 

「浅羽提督、着陸しました!市街地上空、10メートルです。急いで降下してください!」

 

「分かった。みんな、降下準備を!」

 

『はい。提督(司令)!!!!』

 

パイロットたちの知らせを耳にした浅羽は、搭乗口の扉を開けた。

途端に夕刻の寒気と、硝煙の臭いが一斉に押し寄せた。

同時に、固定の槌に打たれたように全身を打ち据える砲声や爆発音が轟き、浅羽たちは、ごく、と唾を吞み込み、地獄と暗黒に包まれた市街地のなかに、身を乗り出す意を決した。

日頃の訓練を思い出し、総毛立つ思いを懸命に押し込めて、今から地獄に降下する。

降下する自分たちも必死だが、浅羽たちを下ろすべく、ホバリング飛行をするパイロットたちの方がもっと命懸けだ。

 

「まずは能代たちだ。俺は最後に降下する!」

 

浅羽と阿賀野は、自分たちよりも先に能代たちを降下させる。

彼の鎮守府に所属する艦娘たちも、提督たちと同じく陸戦訓練も多少は心得ているため、素早く降り立つことが出来たから幸いだった。

 

「俺たちも降下するぞ、阿賀野」

 

「うん!」

 

彼女たちの降下を終えたことに安心した浅羽は、拳銃を含めた必要最低限の装備品を携え、阿賀野とともに降下する準備を始めた。

一瞬、猛烈な勢いで落下して、がくんと受け止められた。

吊り下げるロープに、必死にしがみつきながら、命綱を使って降下しようとした矢先――

 

「対空砲火だ!被弾した!繰り返す、被弾した!」

 

敵降下兵に鹵獲された兵器、近場の建物屋上に配備されたMDタレットからの攻撃を受けたUH-60Lが被弾した。

グルグルと制御を失い、機体に吊るされたまま、宙に浮くような感覚がふたりを包んだ。

 

「阿賀野、気をつけろ!」

 

「うん。分かった!」

 

もう駄目だ。振り落とされる、と呟いた瞬間、ふたりは窓ガラス付きの建物に突入、アクション映画さながらの大胆な突入で降り立つことに成功した。だが、代わりに命を顧みず、最期まで任務を遂行した名もなきパイロットたちが操縦していたUH-60Lが、火焔の輝きに包まれながら落ちていく。

 

「すまない。俺たちのために……」

 

彼らの犠牲のおかげで生き延び、生き延びた自分たちに悔やんでいた最中、部屋の外から声が聞こえた。

 

「俺が仕留めるから、阿賀野は隠れてろ」

 

「うん。分かった」

 

浅羽は、壁に身体を寄せ、阿賀野は物陰に隠れた。

彼らがいることを知らず、周囲警戒をするひとりの女性兵士。

その両手にSPAS-12散弾銃を構え、部屋に入ってきたところを待ち構えていた浅羽が、相手の動きを見極め、一気に距離を詰め、相手の動きを封じる近接格闘術を喰らわし、敵兵の背後に回り込み、仕上げに首を絞めて拘束した。

直後、同じように仲間の後を追ってきた敵兵たちが携えている得物を構えるも、盾として利用された仲間を見て撃つことを一瞬躊躇うが、浅羽は躊躇などせず、SPAS-12の引き金を引いた。

銃口から眩い閃光が走り、撃ち放たれた散弾の雨を浴びた敵兵は、反撃する隙もなく、あっという間に絶命した。

同じように側にいた敵兵も撃ち倒し、最後に早く離せと抵抗して暴れる女性兵士に対し、浅羽は『任務ご苦労、除隊を許可する!』と囁き、息の根を止めたのだった。

 

「よし。急いでみんなと合流しよう!」

 

「はい。慎太郎さん!」

 

浅羽が言うと、阿賀野は頷いた。

彼は鹵獲したSPAS-12を、彼女は足元に落ちていた突撃銃、有名な老舗銃器メーカー、コルト社が開発した次世代新型突撃銃――CM901を拾い、構えて進んでいく。

 

見敵必殺。廊下を進むと、ふたりの敵兵に再び散弾を喰らわした。

出会い頭に驚き、躱すことも防ぐことも出来ない散弾の豪雨という災厄の前に、うっ、と短い悲鳴を上げ、力尽きた敵兵たちが前のめりで倒れる。

 

室内戦では大いに威力を発揮するが、軍用散弾銃の中では重さもあるため、小回りが利かないなと、ショットシェルを装填しながら呟いた浅羽は、敵兵が落とした得物をすかさず拾った。

彼が入手した得物、技術大国ドイツの有名銃器メーカーが開発したMP5の後継銃として生み出されたUMP短機関銃。

しかもUMP45の発展型、9x19mmパラベラム弾を使用するモデル、UMP9だから射撃時のコントロールに伴い、小回りが利くという優れた代物だ。

SPAS-12といい、UMP-9といい、俺はいま、フランス国家憲兵隊介入部隊GIGN並みの装備品になったな、と内心に呟きつつ、阿賀野とともに行き先を阻む敵兵たちを排除しながら前進すると――

 

《提督。こちら能代!聞こえますか!?》

 

携帯無線機から発した声、能代の声が響いた。

 

「ああ。聞こえている!俺も阿賀野も無事だ。そっちは大丈夫か!?」

 

《はい。みんな無事です!》

 

「良かった。こっちもビル内部、北東に移動中だ!」

 

《能代たちも同じく移動中です。すぐに合流出来ます!》

 

「分かった。遅れるなよ」

 

《了解しました。提督》

 

短い交信終了。全員無事を聞いた浅羽は、安堵の笑みを浮かべた。

側にいた阿賀野も自分の大切な妹たちが無事であることに、ほっ、と胸を撫で下ろし、警戒しながら進み続ける。

と、必死にオリンピア軍から命からがら逃げてきたのだろうか、民間人が両手を上げていた。

 

「邪魔だ。机の下に隠れていろ!」

 

浅羽が叫んだ。

彼の警告を聞いた男性は、脱兎の如く、どこかに逃げていく。

浅羽もだが、阿賀野も危うく民間人を射殺し兼ねなかったことにひと安心はしたものの、余計なことは考えず、逃げていく民間人に目もくれず、室内に進入した。

 

距離にして数百メートルの至近距離から、姿を現したオリンピア軍の複数の敵兵に対し、ふたりは引き金を引く。

双方から弾き出される薬莢、煌めく閃光、銃声、そして敵の短い悲鳴が轟く銃撃戦を繰り返し、その妨害を薙ぎ倒しながら、能代たちとの合流をするために進み続けるという繰り返しだった。

当たり前だが、進む度に出くわした敵兵を倒しても倒しても、キリがないぐらいに次から次に現れる敵兵は、まるで女王蜂を守らんとして押し寄せて来た働き蜂たちの如く、このビル自体がスズメバチの巣窟ではないか、という錯覚に襲われた。

 

その言葉通り、次は15人ほどの群れをなした敵兵たちが現れた。

巣を突かれたように、全員が怒り狂った表情を見せ、わらわらと銃を持って押し寄せて来た。

女性兵士たちは数にまかせ、双眸に映る浅羽と阿賀野と遭遇するや、激しい銃撃を浴びせようと各自が一斉に構えたが――

 

《提督。今から合流しますね!》

 

再び通信機から能代の声が響いた矢先、天井から楕円形を描くように刻まれ、無数のコンクリート破片が落下してきた。直後、両手に軽機や短機関銃を携えた彼女たちが飛び降りて来た。

何事だ、と頭上に銃口を向けたオリンピア軍兵士たちよりも早く、降下して来る能代たちが撃ち放つ銃弾が敵兵たちの身体を引き裂いたのだった。

 

「提督、阿賀野姉。ご無事で」

 

「ああ。能代たちも無事で何よりだ」

 

制圧完了に伴い、浅羽と阿賀野に無事合流出来たことに、能代たちは安堵の笑みを浮かべた。が、戦闘継続を知らせる声が響き渡った。

 

《異端者及び、民間人たちに告ぐ。武器を捨てれば危害を加えない。これは聖なる母であるグランド・マザーの意思に伴い、我がオリンピア軍はお前たちを解放しに来たのだ!もしも男性優先主義を貫き通すのであれば、重罪と見做し、我々の規則に法り、即時に処罰する!》

 

要は自分たち以外は全て殺せ、ということを浅羽は理解した。

やり方がかつてソ連や中国、北朝鮮、カンボジア、ルーマニアなどで独裁政権を築いた独裁者たち、彼らの親衛隊と秘密警察、そして共産主義やチュチェ思想に洗脳されたデュープスたちがよく好んで使う常套手段そのものだったからだ。

あの大東亜戦争で、かつて敵国だったアメリカもスターリンと彼の諜報員たちに踊らされてしまい、共産圏の国々を止める抑止力だった日本を壊してしまった挙げ句、冷戦時代から今日までと混沌な世界という覚めない悪夢を生み出す結果となってしまったのだった。

いつの時代でも幼稚園児にも劣る彼らの身勝手な思想や押し付け価値観などを拒んだだけで断罪とされ、強制的に連行しては洗脳や粛清をまんまとやる。

その言葉よりも早く、ビル全体から鳴り止まない銃声に混じり、逃げ遅れて銃殺されていく人々の悲鳴が響き渡った。

 

奴らめ、罪のない民間人までも、と毒づいた浅羽は、敵死体から入手した物、データ通信機能など兼ね備えたヘルメットを拝借、これらを装備し、彼らの仇を取るために視線を向けながら、手信号で『ついて来い』と合図を送る。

側にいた阿賀野たちも『了解』と頷き、再び前進を開始する。

 

ヘルメット・ディスプレイに映る光景――各フロアに繋がる通路に足を踏み入れ、銃殺を繰り返し、略奪行為を働く兵士。呑気に戦利品にありつく兵士など全てリアルタイムで送られて来る。

彼らの各銃に装着されているアクセサリー及び、デジタル通信機能などを搭載した各種装備品も、米軍がイラク市街地戦で得た教訓を元にして開発された情報ネットワークを利用したあらゆる種類の先進歩兵戦闘システムのおかげで、市街地による室内戦では味方の生存率が向上したほど高評価に伴い、兵士たちからも信頼性を得たものだ。

 

論より証拠。早速、部屋に複数の敵がいると知り、浅羽は咄嗟に壁に身を寄せ、腰のバックパックから閃光手榴弾を、通称『フラッシュ・バン』を取り出し、部屋に向けて投げ出した。

 

物陰に隠れ、両眼と耳を抑えても伝わる閃光と爆音。

もろにフラッシュ・バンを喰らった敵兵は眩暈や耳鳴りなどを生じ、まともに立つこともままならない。

好機として素早く部屋に突入した浅羽たちは、セミオート射撃で仕留めていく。

 

浅羽は、阿賀野たちに左手の親指を立てて、『制圧完了』という合図を送り、部屋を通り抜け、警戒しながら階段を降りていく。

最下層を目指し、さらに前進、突き当たりの廊下から階段まで、敵影を確認されることなかった。

 

このフロントを通過すれば、もうすぐ最下層に辿り着く。

そう安心しきっていると最中、正面に蠢く影を複数、浅羽たちの行く手を立ち塞ごうとオリンピア軍兵士たちが姿を現した。

 

「異端者どもを撃ち殺せ!」

 

女性指揮官の号令一下。

敵兵たちは携えていた各銃器を一斉に撃ちまくった。

視界を遮るほど眩いマズルフラッシュ、銃声、そして薬莢が床に落ちた証の金属音がフロントを木霊した。

浅羽たちは、近くにある物陰にサッと身を寄せたことで、どうにか敵の攻撃からは逃れられた。

命からがらだ。敵が大声を出さなければ、たちまちあの弾幕で蜂の巣になり兼ねなかったと安心していた矢先――カラン、とコンクリートの床に響く金属製の物体、その音の主を見るため視線を下げる。

 

――やばい、破片手榴弾だ!

 

隠れている俺たちを爆殺か、または炙り出すために投げてきたか、と慌てふためくが――

 

「させないわ!」

 

矢矧が素早くも大胆に掴み、破片手榴弾を元の送り主であるオリンピア軍に向かって投げ返した。

浅羽たちを見た、または戦闘により頭に血が上っているのか、矢矧が投げ返したものに気づかず、オリンピア軍兵士たちの足元に転がり落ちた直後、爆発。破片と爆風が敵兵たちを薙ぎ倒す。

 

「提督。早く行きましょう!」

 

「分かったよ、やはぎん!」

 

矢矧に促され、再び前進開始。

破片手榴弾の爆発で怯んだオリンピア軍兵士たちの生き残りは反応が遅れ、慌てて銃を構え直したが、悪いな、捕虜にする時間はない、と呟いた浅羽たちがそんな彼女たちに止めを刺していく。

急所を撃ち抜かれた敵兵たちは、反撃する隙もなく、死亡した。

敵兵たちの妨害を蹴散らした浅羽は、安らかに眠れ、と、彼なりの慈悲の言葉を投げかけた。

通り過ぎて行く際に、ちらっと僅かに敵兵たちの死体を見た。

罵声を上げた女性指揮官を除けば、どの敵兵たちの階級章は、全員が一等兵のような下から数えた方が早い者ばかりだった。

 

こいつらはソ連の囚人部隊か、懲罰部隊の類かもしれない。

ノモンハン事変、または満州侵攻時のソ連軍は、あらゆる囚人、反政府思想者たちで集った使い捨て部隊を平然と使い、彼らが逃げられないように政治将校率いる督戦部隊に監視されては人海戦術や地雷撤去用はむろん、戦車部隊ならば座席から逃げられないように、身体中には鎖で縛り付けられ動けなくされるなど悲惨なものばかりだった。

そう推測した浅羽は怒りを覚え、UMP9のマガジンをクイックリロードし、ビルの外に向かって歩き出した。

 

 

市街地内

時刻 1650時

 

どうもややこしいこと、不幸なことが起きてしまった。

今いる市街地、正しくはあらゆる場所から瞬く閃光、響き渡る銃声、そして耳をつんざく爆音、悲鳴、怒号、そして戦闘機のジェットエンジンの轟音が絶えることはなかった。

 

「同志たちも無事だと良いが……」

 

「大丈夫さ。あいつらならば無事だからな!」

 

同じくしてオリンピア軍による襲撃のせいで、あっという間に、観艦式どころか、自分の妻や同志たちの晴れ舞台が台無しにされたことに苛立っていたひとりの提督、郡司提督も、妻の木曾と移動していた。

一難去ってまた一難どころか、不運中の不運。しかも運悪く無線機も故障した挙げ句、自分の同志たちと離れ離れになってしまったため、昔ながらの古臭い方法で捜索しながら。

 

――今頃だったら、晴れ舞台。その後はご褒美として、みんなと一緒に食事をし、夜は木曾と二人っきり。そして夜景の見える海軍ホテルでロマンチックな時間を過ごせたのに……

 

ああ、神よ。僕が何か悪いことをしたって言うんだ?と郡司は切実な願いと疑問を込めて、空を見上げた。

当然と言えば当然だが、誰も答えてくれるはずもない。

寧ろ上空から落下物、曇りのち航空機が落ちないか心配もしたが。

そう考えても仕方ない、今は前進あるのみだ!という気持ちで行くが――唐突に起きた音、滝のような音を耳にした。

 

『……えっ?』

 

ふたりは見上げると、思わず間抜けな声を洩らすほど、予想外な事態が起きた。

敵味方の流れ弾か、または砲撃のせいで、側に聳え立つ高置貯水タンクが撃ち抜かれ、内部で起きた急激な圧力変化が起きた。

しかし、災難は去ることなく、二次被害を生み、真下にいた郡司と木曾に大量の水が襲い掛かり、ふたりは頭から滝のように降ってきた水を頭から浴びてしまう。

 

「……不幸だ」

 

「……俺は大丈夫だが、今はあまり見ないでくれ。いくら郡司でも外でこの状態は!」

 

「……うん。分かった」

 

郡司はまだずぶ濡れになっても戦闘服だから目立つことはないが、木曾の場合は制服であり、運悪く濡れ鼠となった今は、制服から身につけているものまでもが透き通って見えるほど恥ずかしいものだ。

濡れ鼠状態、はにかむ木曾の姿は、確かに眼福と言えば眼福だが、と煩悩に負けそうになったが、首を横に振り、頭を冷やしたとき――

 

「ばかもーん!もっと狙って撃たんかい!」

 

「すいません!近代化改装してもRPGを正確に撃つのは難しくて……」

 

犯人、自分たちをずぶ濡れにしたオリンピア軍の兵士たちがいるな、と知った郡司は、にやりと好青年の外見に似合った純粋な、しかしどこか邪悪さを含んだ笑みを浮かべた。

 

「……木曾。ちょっと僕、あいつらにお話ししに行ってくるね。なあに、大丈夫だよ。すぐに済むから」

 

「……お、おう。分かっ……あれ、いない」

 

木曾は、今の郡司を止めようとしたところで、止まるまい。

とりあえず出来る限り、穏やかな返答をするしかなかったが、そくに郡司の姿は見えず、聞こえるのは彼の怒濤の込もった声、そして敵の悲鳴が聞こえ始めていた。

 

「貴様ら!よくも僕の木曾にあられもなく可愛い姿……じゃなかった、ずぶ濡れにしたな!お礼にひとり残らずシベリア送りにしてやる!」

 

「た、退避!全員退避しろーーー!」

 

「ぎゃあああ!ロシアの熊より恐ろしい!」

 

「襲われるなら、ドイツ軍服を着た怖い幼女が良かったーーー!」

 

市街地には郡司による赤い暴風と、怒りの雄叫びが木霊するのであった……

 

「木曾の可愛い姿を見ていいのは僕だけだーーー!!!」

 

「……郡司の馬鹿」

 

そんな夫に言われ、照れながらも木曾も満更ではなかったが。

 




今回は浅羽提督たちの戦いに伴い、おまけ付きで終了しました。
郡司の暴走は別世界でも多少はありますし、現代戦でも『イギリス人は恋愛と戦争は手段を選ばない』などと言う格言が有り、あらゆる戦いでも正当化されますからね。
邪魔されたら暴走も無理ないですし、相手に報い天誅もありますからね。

それでは短いですが、次回予告です。
とある戦いで、ある艦娘が小さな勇気を見せます。
誰かを守りたい勇気があれば、誰もが皆ヒーローになれるよという意志、同時に敵のボスも少し登場しますのでお楽しみを。

では、第49話まで…… До свидания((響ふうに

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