第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
そしてイベントなどで遅くなりました、申し訳ありません。
今回は苦戦して前段作戦までクリアしましたが、後段は事情により、中断しました。掘りに関しては微妙なゆえに負けましたが、次のイベントでお目当ての娘たちを見つけたいですね。
第二次ハワイ攻略作戦は重爆、富嶽部隊が睡眠や催眠効果のある特殊ガス爆弾を投下すれば良いんですよ。その最中に空挺部隊など降下させて、深海棲艦を捕虜にするという超日米大戦のようにですが。
未来人・灰田が齎した魔改造された富嶽と一式陸攻、後者を搭載出来る装甲空母などの超兵器に加え、鹵獲した米空母や戦艦部隊も使い、米本土を攻略するという大規模作戦を実施する迫力ある架空戦記が元ネタです。この架空戦記を知っている読者がいれば幸いです。

では、さて置き……
予告通り、いよいよこの巨大兵器との戦いが始まります。
これまで私が執筆した話で、最大記録で1万文字以上になりました。

それでは、いつも通り最後まで楽しめて頂ければ幸いです。

本編開始です。どうぞ!


第47.5話:戦士の道標

神鷹と涼月を救出した提督たちの前に、突如として現れた攻城兵器。衰える様子を見せず、最大速度で前進し続ける。

このままでは踏み潰される、と誰もがそう思いきや、車体を支える両履帯から異常な音が軋み出し、公共広場の入り口前に停車した。

巨体のためか、履帯が脆弱なのが仇となったが、提督たちは不幸中の幸いと思えば命拾いしたな、と感謝した。

 

眼の前に聳え立つ黒鉄の本城を思わせる攻城兵器は見た提督は、なるほど。あれがふたりが教えてくれた本当の敵指揮官か、と死亡した音無大尉たちを、チラッと視線を移しながら呟いた瞬間。

 

「全く。すぐに故障するんだから……」

 

攻城兵器の車窓から姿を現したひとりの操縦者。

その容姿は切れ長の瞳に通った鼻筋、艶やかな漆黒の長い髪と白人のように透き通る肌を兼ね備えていた美女だった。

また、もうひとつの特徴として彼女の服装は旧ドイツ軍の指揮官、どちらかと言えば、ヒトラーの私兵部隊とも言われたナチスの武装親衛隊に酷似していた服装を纏っていた。

おそらく本隊の敵指揮官だな、と思いつつ、提督は声を掛けた。

 

「おい。聞こえるか!?おい!」

 

彼の行動に、古鷹たち全員が『大胆ね』と苦笑いしていた。

さすがにビル並みに高さを誇るあの車体からは遠くて、何も聞こえないかと思いきや……

 

「うっさいわね!ガイコツマスクがキッーキッーと騒ぐんじゃないわよ!あんたたちを探していたのよ!」

 

敵指揮官の声が、風に乗って響き渡った。

彼女の美しさに全ての男性が一瞬見惚れるほどの美女だが、その口を開けば、提督たちを見下す口調を発したことから傍若無人かつ、高飛車な令嬢、しかも最悪な性格の持ち主だな、と全員が述べた。

 

「エセインド人もだが、特にそこにいる最重要殺害標的のガイコツマスク!あんたに用があるのよ!」

 

敵指揮官は指を差し、提督に睨みつけた。

 

「俺を探していただと?言っておくが、デートの御誘いはお断りだ。俺は妻たち四筋なんでな」

 

「俺もどんな美女の御誘いでも、むらちゃんとかすみんの誘惑では天と地の差だな」

 

提督と久島は、わざとらしい丁寧語で毒を吐いた。

ふたりの背後にいる古鷹たちは嬉々し、叢雲と霞は照れ隠し、元帥たちはやれやれという表情を浮かべていた。

彼らの挑発を聞き、驚いた敵指揮官は一瞬驚いたが、その顔は不機嫌な顔に変わり、威嚇するように提督を睨んで口を開いた。

 

「笑止!あんたの様な全ての男どもを皆殺しにし、今ここでこの下らない戦いを全て終わらせてやる!」

 

「この戦いを終わらすだと?戦争でどちらかが殲滅するまでやるのは愚将の考えであり、指揮官として愚の骨頂だぞ?」

 

提督の言葉。それに気に食わないのかより一層敵意に満ちた視線を飛ばしてきた。

 

「ヒョヒョヒョ!イカれた戦争マニアの戯言ね。あんたなんか、我がオリンピア軍が開発した最新鋭攻城兵器《フォース・ザ・マザー》でペシャンコの死体に変えてやるわ。その後は回収、腐らないようにホルマリン漬けにし、私の死体コレクションのひとつにしてやるわ!そして役立たずのあんたらのような男どもに抑圧されている艦娘たちなどを解放してやるから覚悟しなさい!」

 

独特なきみの悪い笑い声に伴い、死体収集家、現実や某FBIの行動分析課が主役のドラマに出てくるような猟奇趣味を持つサイコパスという正体を知った提督たちは顔を青ざめるほどドン引きしていた。

 

「さあ……この私、室井マヤが寛大なうちに元帥たちは退きなさい。お持ち帰りは無傷が良いからね。悲劇のヒロインと自惚れ、猫を被った馬鹿な艦娘らでも、我がマザーの妾や私らの風俗嬢などとして理想の道を与えるわ。ただし、そこのガイコツ野郎などは私の死体コレクションになる運命よ!だから、そうなる前に別れの言葉を言ったら?」

 

室井マヤと名乗る女性指揮官は、まだ勝負がついていないにも関わらず、攻城兵器《フォース・ザ・マザー》に搭乗しているためか、この圧倒的優位に伴い、すでに勝利したと自惚れていた。

そして古鷹たちを不毛した彼女に対し、提督はある仕返しをした。

 

「……お喋りは良いが、その車体に履帯がないってのに、どうやって俺を踏み潰すんだ?」

 

「なに、やだ。本当に外れたの!?」

 

「ふっ!騙されたな!」

 

「……部隊一の洞察力と指揮能力、千里眼を兼ね備えるこの私が、あんな男の単純な嘘に騙されるなんて」

 

室井は慌てて履帯を確認したが、提督の嘘に騙されたと知った直後、そっと車窓を閉めたのだったが、車外からでも苛立つ声が漏れていたことも知らずに。

 

「……って、この役立たず!私のために早くエンジン掛かりなさいよ!終わったらママに言いつけて奴隷どもを粛清してやるんだから!」

 

陸海空のあらゆる兵器にも言えるが、試作兵器という代物には、常に故障が付き物であり、幾つかの問題点を抱えている。

計画当初の発想は良かったものの、いざ完成したら使い物にならず無駄に終わった無念の試作兵器も数多い。

その問題などを解決し、改良してからこそ初めて威力を発揮することも多いが、この巨大兵器も巨大さが仇となり、すぐにはエンジンは掛からない。自由に動かない。巨大兵器は戦局を打開出来るほどロマン溢れる兵器だが、実際には、巨大化し過ぎのために使えないや実用しても運用場所が限られるなどしばしば失敗兵器になることも珍しくないのだ。

 

「早く動きなさいよ!エンジンが掛からないと自由に攻撃も出来ないじゃない!」

 

ほんの僅かな時間に伴い、千里眼はおろか、部隊一の洞察力と指揮能力を兼ね備えたと豪語した割りには、そのことも知らないとなれば、先ほど殲滅した音無大尉たちと同じく、間抜けな指揮官で良かった、とつくづく感謝した提督は口を開いた。

 

「……くっしー。頼みがある」

 

彼の言いたい事に、久島は理解した。

 

「言わなくても言いたいことは分かっている。『俺がこいつを倒すから、お前は元帥たちを連れて、ここから逃げろ』だろう?」

 

「……ああ。ほんの数分だけ頼む」

 

「分かってるさ。何があっても元帥たちと、お前の嫁さんたちを死守するから安心して行って来い」

 

「ああ。ありがとう」

 

提督は短く答えた。

古鷹たちとの以心伝心に伴い、戦友たちとして、元帥や良識派たちなどが築き上げた絆を護り続けてきた提督同士の以心伝心もテレパシーによって心の内容が、言語・表情・身振りなどによらずに、直接に他の人の心に伝達されること出来るほど信頼し合っている証なのだ。

提督が行こうとする際、解放された神鷹と涼月がある事を告げた。

 

「あの、お役に立つか分かりませんが……敵部隊の話を聞いて…知りましたが…敵の兵器は履帯が弱点と……」

 

「強靭な装甲で止められているボルトを、何らかの方法で引き抜かれたらお終いだとも言っていました。地面から届けばですが……」

 

ふたりから貴重な情報を得た提督は、エグゾスーツ・カスタムに搭載しているこの機能が、もしかしたら、また別の用途に役立つかもしれないと頭に浮かんだ。

 

「ふたりともありがとう。装備を整えないとな」

 

『提督(司令官)、これを』

 

自前の装備を整えようとした提督に、古鷹たちが手渡した。

古鷹は特零式レールガンと予備マガジン、加古と青葉、衣笠はC4爆薬や予備の遠隔操作起爆スイッチ、破片手榴弾など必要な装備品を用意してくれたのだ。

 

「ありがとう、みんな。すぐに終わるから安全な場所に避難してくれ」

 

『はい、提督(司令官)』

 

彼の言葉に、古鷹たちは微笑した。

提督の身なりを整え、無事を祈ることも彼女たちにとっては大切なことであり、夫を支えることこそが私たち妻としての嗜みだよ、という笑みを浮かべた古鷹たちは、提督の武運を祈り、久島たちとともに安全な場所に避難した。

 

「そろそろ敵もエンジンが掛かりそうだ。次の段階に移るか」

 

避難する妻たちを後に、提督はある場所を目指して走り出した瞬間。

 

「漸くエンジンが掛かったわ!待たせたわね!」

 

無邪気な子どものように、室井マヤが歓喜になる声が響いた。

同時に出撃を待ち侘びた鋼鉄の怪物は、換気口から黒煙を立ち上げ、桁ましくエンジン音を鳴り響かせた。耳を聾する咆哮は、まるで旧約聖書に現れる陸の怪物、ベヒモスにも喩えられてもおかしくない。

 

「よくも気持ちの悪い雰囲気を見せてくれたわね!雲泥の差を見せつけてやるから、さっさと死ぬが良い!……って逃げるな!待ちなさい、この臆病者!」

 

逃げ出した提督を見て激昂する室井。

彼女の憤りを孕んだ音声とともに、攻城兵器《フォース・ザ・マザー》の圧倒的な巨体が、戦場に聳えさせたのだった。

 

 

待ってと言って、待つ泥棒はいない。

提督はある場所を目指し、移動する最中、ある言葉を浮かんだ。

とにかく敵の力をよく理解し、如何なる場合でも敵を見比べるな。

どんな相手を幾ら比べても意味がない。

重要なのは情報、肯定的な考え方や自信、各国の特殊部隊のようにあらゆる武器の扱いや戦況などを知り尽くせ。そうすれば必ず勝利の道が切り開かれることを決して忘れるな。

ダビデとゴリアテの戦いを思い出すんだ、と話してくれた元帥の言葉を思い出した。

彼女の教訓、そして神鷹と涼月が教えてくれた情報。この双方を活かせば、あの攻城兵器を撃破することが出来ると確信した。

 

目的地に到着。ここからが勝負だ。鋼鉄の怪物たちよりもひと足早く市街地入り口に辿り着いた提督は、急いで準備に取り掛かる。

妻たち、古鷹たちが渡してくれた爆発物を全て惜しみなく使い、または周囲にある物を最大限に利用していく。

あくまで牽制手段、市街地にブービートラップを仕掛けることが、あらゆる特殊部隊や工兵などの基本的任務と考えるのは誤りだ。それでは兵士ではなく、テロリストと変わらない。

しかしながら、あらゆる種類のブービートラップなどについて深く知れば、大いに役立つことが出来る。敵に混乱と不安を与えれば、それが効果的な煙幕となり、各国の特殊部隊はそれに乗じて、あらゆる任務を遂行することが出来るのだ。と思いつつ、完成した手製の罠を、周りの風景に溶け込むように仕掛けていく。

 

準備完了、何時でも来てくれ。

特零式レールガンやエグゾスーツ・カスタムの各機能に不具合がないか、確認し終えた提督は、飄々として斜に構えた口調を、アメコミで有名な強化スーツを身に纏ったヒーローのような冗談を口ずさみ、移動及び、遮蔽物として恵まれた足場などを活かし、攻城兵器《フォース・ザ・マザー》を破壊する。

 

「これで追いついたわよ!これでも喰らいなさい!」

 

室井マヤの嬉々とした声を上げ、《フォース・ザ・マザー》が巨大な重砲の仰角を取った。その圧倒的な力感を漲らせた巨砲から、目を焦がす閃光が発し、どの火砲よりも強大な砲声、あらゆる現代戦車よりも強烈な砲声が市街地外から鳴り響いた。

百雷が全て大地を圧して轟くような爆音、オレンジ色の発砲焔が眩く噴き伸びた。陸上で運用される野砲は、最大級のものでも、155mm榴弾砲が精々であるが、いま轟いた砲声は、それを遥かに凌駕する超大口径の臼砲と見えた。

 

次の瞬間、市街地に聳え立つ高層ビルが膨れ上がった。

誰もが憧れる建て物は、地獄の劫火に似た火焔に呑み込まれ、爆発の火球が膨張して脆くも崩れ落ちていく。

 

「……なんて威力だ。ドイツ軍のカール自走臼砲並みだな」

 

度肝を抜かれた提督が、猛然と口走る。同時に、今はロシアのクビンカ戦車博物館にある自走臼砲、大戦当時のドイツとソ連軍兵士たちも初めて眼にした際は、同じ気持ちでたまげていただろうな。

その懲罰の一撃は凄まじく、耳を聾するだけでなく、遮蔽物に隠れても全身に伝わる衝撃は、己の身体が持ち上がったような感覚に伴い、激しい耳鳴りも微かに残る。だが、あの榴弾を喰らわずに済んだだけと思えば、実に幸運だった。

 

「一生隠れ続けることは無理よ!さっさと出て来なさい!」

 

苛立ちを孕んだ張り上げた声を耳にした提督は、遮蔽物から頭を出して迫り来る攻城兵器を見た。

室井マヤが操縦する《フォース・ザ・マザー》が、現代艦船に多く搭載されている強力なディーゼル・エンジンを唸らせ、速度を上げて、真っしぐらに市街地に突入した。

彼女は獲物を探し求め、漸く標的を追い詰めた気持ちが高まり、この抑えられない欲望を抱いたことが惨事を生むことを知らずに。

 

 

――作戦開始。

予定通りに来た敵を確認した提督は、勇気を奮い起こし、遮蔽物から飛び出し、そして出来る限り速く走り出した。

自ら危険を冒して、敵を誘き寄せるために姿を見せて誘き出す。

危険を冒した者こそ勝利する。英国陸軍特殊空挺部隊、通称『SAS』のモットーを叫んだ彼は、思いっきり右腕を伸ばし、その手首に装着しているワイヤー、グラップルを射出した。

勢いよく射ち放たれた黒い蜘蛛糸は、その射程距離内にあるビル屋上に返しが上手く引っ掛かった。そしてグラップルに巻き取られた提督は、その場所に素早く移動した。

 

――この場所、一部の廃墟ビルや足場が九龍城に似ているな。

 

この移動手段は、さながらアクション映画を連想させた。

様々な大きさや段差のあるビルなどをグラップルによる移動を幾度も繰り返し、自身の身体に馴染ませた日頃の訓練を活かし、グリップルを巧みに扱う提督は、夕陽に染まる市街地を自由に駆け巡る現代に甦った忍者そのものだった。

 

「チッ。ちょこまかと、ノミみたいに動きやがって!」

 

室井は、舌打ちをし毒づいたが、ある事も思いつく。

 

「もう少し前進して焼死させるのも良いわね。素晴らしい断末魔を聞かせてね」

 

素早い相手を轢死することが無理ならば、かつてヨーロッパで行われた宗教的異端者や魔女狩りなどで魔女とされた者に対して科せられた火刑(火あぶりの刑)などで断末魔のうめき声を発しながら、無惨に焼死する異端者たちの姿はむろん、最大の獲物である提督というゴミが苦しみ悶えながら焼死する姿を考えただけでも彼女は、恍惚の表情を浮かべたが、グシャッと何かを踏み潰した音が鳴り響いた。

 

「……何の音?何か踏み潰したかしら?」

 

室井はモニターを操作し、すぐさま確認した。

そこに映し出された映像、彼女が踏み潰したものの正体は、軽自動車や軽トラックなど日常生活に使用するごくありふれた物だった。

ここは市街地中心にある駐車場、ここに停めている数多くの一般車輌に驚かされる自分も自分で情けないと思った瞬間、車体全体に衝撃に伴い、眩い閃光が走り出した。

鐘をハンマーで殴るような打撃音に加え、大地を鳴動し、表面に被ったコンクリートもろとも、地面が根こそぎ叩きつけられた勢いを思わせる爆発が《フォース・ザ・マザー》に襲い掛かった。

ダンプカー並みの大きさを誇る頑丈な履帯もこれに堪え切れず、火焔混じりの黒煙が、まるで鮮血が噴き出すように噴出した。が、その瞬間《フォース・ザ・マザー》の両方の履帯が大きく膨れ上がり、やがて眩い爆焔が現出して巨大な履帯が大音響を上げて爆発した。

さしもの鋼鉄の怪物も前脚を、破壊を喰い止める術はなかった。

 

「何よ。履帯が破壊されるなんて!?」

 

いったい、何が起きたか理解出来なかった室井マヤ。

今の状況を整理出来ない彼女に対し、ビルの屋上からその様子を窺う提督は呟いた。

 

「……まさか、敵もここにIEDが仕掛けられたとは思いもしなかったろう」

 

IED――簡易爆弾と呼ばれる手製爆弾。米軍はVBIED(Vehicle Borne IED、車両運搬式即席爆発装置)、または『Car Bomb』と称され、イラク駐留の米軍などを痛めつけた代物である。

いつの時代にも手製爆弾はあるが、より組織的にを活用したのは、WWⅡでベラルーシの反ナチスゲリラが使用した事が発端とされると言われ、以後はゲリラや反政府組織、近年では米軍のアフガニスタン紛争やイラク戦争により増加した反米組織などに多用された。

逆にISISに対抗するために、イラク軍も同じように、自動車に即席爆弾を設置して、ISIS戦闘員を殺害したとも言われている。

 

「おのれ、焼き殺してくれるわ!」

 

履帯は破壊されたが、火砲は生きている。

水平射撃を行うため、俯角を取りつつ、照準を素早く合わせる。

この主砲の威力は絶大だが、あまりに砲弾が大きいために、装填に時間が掛かるのが玉に瑕だ。それでも敵に命中すれば惨事となることを考えれば、安い代償である。

次弾装填完了。今度こそ息の根を止めて焼き殺してやる、という執念を込めて、砲弾を投げ飛ばそうと狙いを定めた――

 

「……」

 

狙撃体勢を構え、息を整えた提督は、この瞬間を待っていたのか、捉えたスコープ先に捉えた狙撃対象、《フォース・ザ・マザー》の頭上に聳え立つ砲塔に狙いを合わせ、そしてチャージした特零式レールガンを撃ち放った。

音速を超えて放たれた速い神の矢が、砲撃態勢を取った《フォース・ザ・マザー》の主砲、その砲口から侵入し、螺旋状に刻まれた砲身に装填された榴弾砲を貫き、そして内部の砲弾が誘爆を起こし、一気に膨れ上がるように見え、眩い爆焔が現出した。

巨大な単装砲塔が空中に吹き飛ばされ、凄まじい轟音が、難攻不落の要塞砲が呆気なく崩れ落ちていく。

 

「よしっ!」

 

と拳を握り締め、歓喜の声を上げた提督。

 

「いよいよ……こいつの役目だな」

 

履帯破壊に成功した彼は、次は車体を破壊する。

涼月の情報を活かし、この地形利用、このビルを利用する。

このビルは一度ならば堪えてくれるだろう、そう考えた提督は、この場を動かずに《フォース・ザ・マザー》を待ち構えたのだった。

 

「やはり、貴様をペシャンコの死体にしてやる!」

 

彼に対し、偉大なるグランド・マザーから賜わりし新兵器《フォース・ザ・マザー》が、たった一人の男にここまで破壊されたことに、室井は今にでも心臓が破裂しそうな怒りに顔を紅潮させた。

やがて裂帛の叫びを上げる彼女は、スロットルを踏み込んだ。

後部にあるタイヤが動き、提督がいるビルに向かって突進する。

主砲は無くとも、ボルト留めした強靭な増加装甲が施された動く巨大且つ難攻不落の攻城を前に、豆鉄砲当然のレールガンに破壊されることはない、寧ろひと思いに轢き殺し、ビルが倒壊するまで体当たりして長時間苦しませながら殺してやる、という憎悪を剥き出しながら、心の叫びを解き放った。

 

「我が、マザーによる大いなる世界秩序のために死ぬがいい、蛆虫め!」

 

肉薄攻撃をお見舞いするも、倒壊までには行かず、頑強な鉄骨構造を誇る日本ビルは一度は堪えていた。が、その攻撃のために動力源システムに異常が生じ、復旧が完了するまでに再起動に移ってしまい無防備な状態に陥る。

 

「今度はこっちの番だ」

 

振り落とされそうになったが、足場として活躍したビルに感謝した提督は、《フォース・ザ・マザー》が纏った鎧、増加装甲に留めている巨大なボルトに狙いを定め、グラップルを思いっきり打ち込んだ。

空気の中を飛翔する鋼鉄の蜘蛛糸、その先に付いた返し針が、ボルトの先端部に深く突き刺さった。

手応えあり。微かに指で感じた彼は、両足を踏まえ、満身の力で踏み止まる。それでも引き摺られるかと不安に襲われたが――

 

俺には命を投げ出すしかなかったが、今は生き抜くのが俺の役目!

そう自分に言い聞かせるように叫び、エグゾスーツ・カスタムの性能を最大限に活かして踏ん張り、グラップルを握り締めた両手で思いっきり引っ張り上げた瞬間。キリキリとネジの外れる音が聞こえた。

 

「このまま、一気に!」

 

応用が成功したことに歓喜した提督は、思いっきり引き抜いた。

彼に応える強化骨格に、鋼鉄のワイヤーに力が加わり、やがて軋む音が木霊し、鋼鉄の鎧を支えた巨大なボルトが外れたと同時に、鋼鉄の怪物が纏う鎧が剥がされ、崩れ落ちていく。

自慢の装甲が剥がされた《フォース・ザ・マザー》は、倒伏寸前になるも、悪運強く車体を安定させて元の態勢を保ち、直ぐに後退した。

 

「さて、次に移動しないと不味いな」

 

喜ぶのもつかの間、敵の攻撃に堪えたビルも崩壊寸前だった。

そろそろ潮時か、次の足場を探さなければな、そう悟った提督はすぐさまここから離れ、そして飛び降りた。

飛び降りる最中、短いブースターで落下を制御しつつ、地面に足を着けた。しかし、容赦なく後ろからタイヤの軋む音を響かせて来る敵を振り切るため、素早くグラップル移動をし、次なる足場、川沿いに聳え立つビルに飛びついた。

 

一瞬、少しだけ転びそうになったが、体勢を取り直して防いだ。

すると、大きな地震に見舞われるように建物全体が激しく揺れた。

コンクリートの破片が天井から落ちてくる。提督は一瞬、攻撃前に、建物が崩壊するのではないかと心配したが、無事に持ち堪えていた。再びチャンス到来。彼は、グラップルを精密機械の如く、的確に装甲に埋め込まれているボルトに狙い打ち込み、手応えを感じた彼は、また思いっき引っ張り出した。

 

「蛆虫から今度は薄汚いドブネズミになったのかしら。だけど、いつまでも巣穴にいれるとは大間違いね!」

 

室井は、無理やり車体をビル最奥部まで突き進み、提督を真っ逆さまに突き落としてやろうと考えていたときだ。

キリキリとネジが緩める独特の音が聞こえた。彼女が、しまったと声を洩らした最中、上部全体と操縦席を覆っていた増加装甲が、それらを支えていたボルトも外れ、両者ともども地面に落ちていく。操縦者を護る装甲を、覆いが失われたいま、室井の姿が剥き出しになった。

 

「おのれ!よくも丸裸にしてくれたわね!」

 

室井は叫び、腰に装着したヒップホルスターから、グロック18機関拳銃を抜き出して弾切れになるまで撃ち続けたが、その瞳の奥には、提督の姿は見えず、ただ空しく無駄撃ちに終わるだけだった。

カチンと弾切れを知らせる音。しかし、最下層からまたしてもボルトが外れる音が聞こえた。彼女が錯乱状態に陥っている間、彼は降りて、最後のボルトを外したのだ。

室井は、恐怖のあまり急いで後退したが、すでに手遅れだった。

無理に引き離した途端、最後の鎧も剥がされ、全ての増加装甲を無くした《フォース・ザ・マザー》は無防備状態、謂わば陥落寸前の要塞と化したのだった。

グランド・マザーから賜物である神聖且つ、最新鋭兵器をここまで、破壊されたことに対し、室井は侮辱に伴い、これまで以上にない屈辱を受けたも当然だった。

 

そんな彼女の前に、半壊したビルから提督が姿を現した。

彼を見た途端、怒りに満ち溢れた室井は、最後の攻撃を仕掛けようと再びスロットルを思いっきり踏み込んだ。

機械仕掛けの怪物《フォース・ザ・マザー》が、轟然と突進する。

それに対し、提督は動くことなく、腕を組みながら待ち構えていた。

 

「無抵抗主義を見せたか、ならば御望み通り、死なせてやる!先ほどのお返しをたっぷりしてやる!死ぬがいい!」

 

彼女の叫ぶ声を聞いた、提督は呟いた。

 

「……そうだな。だが、死ぬのはお前だ」

 

彼の言葉は、現実となった。

なにっ、と顔を歪ませた室井、彼女が操る《フォース・ザ・マザー》が半壊のビルに突進したとき、車体全体が大きく震え始めた。

見届けることなく、この場から離れるように走り出した提督は、後ろをチラッと振り返る。

ほんの僅かだが、爆音と悲鳴が交錯する。『嫌ぁぁぁ!こんなのあり得ない!』を叫ぶ室井マヤの言葉に、車内にある中央コンピュータと動力源が壊れ、換気口や乗員のための監視窓など、その全ての外部に通じた部分から眩いオレンジ色の輝きが現出した。

 

建物を揺らし、バランスを失いそうになるが、彼は早く立ち上がる。コンクリートの大きな塊が落下し、躱しながら、川が見える窓に向かって走り続ける提督は、太腿側面に装着したレッグホルスターから、グロック18Cを持ち出し、片手で構えて窓ガラスに向かって弾をばら撒く。照準の余裕はない。とにかく撃ちまくって、窓ガラスを破壊して、一気に建物内を駆け出し、走り、そして跳び、ついに建物から抜け出した眼下は充分な深さがある川。提督は、着水による負傷を防ぐため、川に飛び込む体勢を身構え、水面に潜り込んだ。

その入れ替わるように、後ろから眩い炎が吹き上がる。直後、ビルが倒壊したように、不死身且つ、難攻不落とも見えた攻城兵器は崩れ、車体が膨れ上がり、ドン、と熱と衝撃が走ったのだった――

 

 

提督は、冷たい水の中で両腕を掻き分け、海豹のように両足で水を蹴って、上昇し、途中で泳ぐスピードを緩めて、静かに、ゆっくりと水面の上からに鼻まで出す。

 

「……凄いな」

 

最初に頭上に見えた光景は、全身から巨大な黒煙を吹き上げ、焼け爛れた鋼鉄の怪物。その亡骸を弔うかのように、突進攻撃の被害に遭ったビルが巨大な墓を思わせた。

 

未だに燻り続け、激戦の跡を伝えている光景を見た提督は、川岸まで辿り着き、銃を構えて鋭い視線で周囲を警戒していた。

敵兵はいないが、油断は禁物だ。彼は軽快しつつ視線を泳がしたら、呻き声が聞こえた。

 

一歩一歩、足を進めると、地面で何かが蠢いている。

最初は未確認生物か、と思いきや、ジタバタともがき苦しむようにして這いずっていた室井マヤだった。

おそらく脱出時に失敗し、ここまで吹き飛ばされた挙げ句、重傷を負ったのだろうが、その割には生きているのが不思議なくらいだ。

もはや立つことも出来ない彼女は、提督にこう言った。

 

「お、お願い……わ、わたしを、た、たすけ……て。こ、こんなところで、死にたくない。お願い……」

 

全身の痛みに耐えながら、彼女は掌を返して命乞いをする。

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

それに対し、提督は静かに言い返した。

室井は、希望を絶たれた瞬時、絶望に満ちた表情へと変わった。

 

「俺は今から愛する妻たちや仲間たちと合流し、お前たちの空中艦隊を駆逐する。本当ならばお前を楽にしてやろうと思うが、チャンスをやろうと思ってな」

 

「い、嫌……お願い。なんでもするから、助けて……」

 

彼女は尚も、お願い待って。私が悪かったから助けてなど頼むも、彼はただゴミを見るような視線に伴い、冷淡な言葉を掛けた。

 

「俺はお人好しなんだ。無闇に人を遊びや死体観賞のために殺すことはない。お前のような外道を楽には死なせない。だが、助ける気もない。それが嫌なら自力で運を切り開き、俺の後を追ってくるがいい」

 

提督は、そう宣告して背を向けた。

 

「私を助けてよ!!お願いだから!!こんな所で死にたくなぃぃいい!!この人殺しぃぃぃいいい!!」

 

最後まで助けを請う彼女に、新たな災厄が襲う。

先ほどから崩壊し燻り続けるビルから、コンクリートの大きな塊が落下し、動けずにいる室井の両脚を下敷きにした。しかも皮膚に直接、皮膚すらも容易く焼き溶かすほどの高熱も襲い掛かる。

ここから逃げようともがく度に、落石が絶えず、彼女の下半身を蝕み続け、逃れることのない死を実感していく。

 

「痛い!痛い!痛い!誰か助けてぇぇぇえええ!」

 

悲鳴を上げながら嘆願し続ける彼女。

それを背中に聴きながら、提督は心の中で呟いた。

 

「室井マヤ……お前の歪んだ欲望は……」

 

落石が室井の上半身を吞み込み、それさえも圧し潰されて、やがて隕石を模した燃え滾る鉄塊の豪雨が、彼女の上半身を潰し、最後まで舌の根も乾かぬうちに助けを求めた室井の頭部に直撃した。

それさえも圧し潰され、限界まで膨れ上がった風船のように――

 

「……砕け散ったな」

 

提督の言葉通り、歪んだ欲望を抱いたまま呆気なく死亡した。

無惨な最期を遂げた彼女、その死体は瓦礫の下敷きとなった。

だが、彼は冷たい感情を露わにした死神の如く、呟いた。

可愛そうという同情はない。因果応報、当然の報いだと。

一方面の戦闘は終わったが、それより大きな戦いへの、ほんの序曲に過ぎない。が、今は何よりも急がねばならない。

 

「早く古鷹たち、元帥に追いつかないとな」

 

そう呟き、提督はその場を離れ、古鷹たちに合流するために走り出した。




今回はアクション映画並みの戦いかつ、小よく大を制すという戦いを繰り広げました。
なお、狙撃シーンは超A級スナイパーを元にしています。
当時は未来的、今では現実に近づきつつある『装甲兵SDR2』でゴルゴ13が装甲兵SDR2を倒す際、肩部の弾薬ストックを撃ち抜いて倒すシーンは迫力ありました。もっともウクライナでソ連指揮官が搭乗したT-72戦車を撃破する際も、対戦車ライフルを使ったやり方もありましたが。

それに伴い、バイオニック・コマンドーやCoD AWなどでもワイヤーを使って、巨大な敵や兵器を倒していますから多少はね。

次回は寄り道と言いますか、提督の親友、浅羽提督たちの視点になります。架空戦記やCoDシリーズなどでも別の場所で、主人公たちと同じように戦いが繰り広げますから、また違った激戦をお楽しみに。

では、第48話まで…… До свидания((響ふうに

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