第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
予告通り、漸く新たな戦いの幕引きに伴い、オリンピアの隠し兵器が登場します。今回も架空戦記ネタもありますのでお楽しみを。

それでは、気分を改めて……

いつも通り、楽しめて頂ければ幸いです!どうぞ!


第44話:Persona non Grata 《歓迎されざる者》

「今回は久々のパレードだな。たまには息抜きも必要だ」

 

提督の側にいた元帥は、にっこりと答えた。

彼の双眸には彼女の言う通り、外の景色を眺めると、戦時中にも関わらず、夕刻に染まる蒼海に並ぶ日米英を中心とした多国籍海軍の最新鋭護衛艦群。日本はふるたか型及び、まや型護衛艦、米国はズムウォルト級巡洋艦、英国は51型駆逐艦《サンダー・チャイルド》などが並ぶ光景は、戦前に行なわれ続けた米海軍主催によるハワイの周辺海域で実施される各国海軍の軍事演習こと、通称『RIMPAC』でなければ見られない迫力ある艨艟群が頼もしい。

 

彼女たちに続き、編隊飛行を組んで市街地及び、艦隊上空を駆け巡る鋼鉄の猛禽類の群れが姿を披露した。

その正体は初めて日米英共同開発を行ない、三ヶ国の絆としてその名を挙げた最新鋭第六世代戦闘機――F-64統合打撃戦闘機だ。

日米英率いるNATO同盟国が制式採用されたF-35《ライトニングⅡ》の後継機であり、日本独自で開発されたF-3《心神》と、かつて米国が開発し不採用になったが、再び甦り制式採用されたYF-23《ブラック・ウィドウⅡ》と英国で開発した《テンペスト》など各々の長所を活かし、新たな『先進戦術戦闘機』として誕生した最新鋭ステルス戦闘機である。F-35同様、本機も多用途戦闘機に位置し、ステルス機能や状況に応じたあらゆる兵装変更が可能である所以、F-64Aは通常離着陸機、同じ機体構造の短距離離陸・垂直着陸機F-64Bと艦戦機型のF-64Cも開発されている。

あらゆる電子機器類も味方機とのデータリンクによる情報提供及びヘルメット内臓ディスプレイ、ミッションコンピューターが入手した情報管理の重要性など性能もF-35やSu-57などを凌駕している。

 

――賑やかなのは悪くないが、どうも彼らのように賑わうのは得意じゃないな。

 

提督の両耳の奥まで響き渡るほどのあらゆる施設などからは、今回の主役である各鎮守府に所属する提督たち、彼らと同じく出番が来るまで待機し観光気分を満喫する艦娘たちに続き、軍港から市街地を警戒する各警備隊、今日の観艦式を楽しみに待ち望んでいた群衆の声が聞こえた。その表情は老若男女問わず歓喜に満ち溢れていた。

全ての活気に溢れる拍手喝采に応えるように、海軍軍楽隊の演奏がより雰囲気を醸し出す。

同時に、彼らが賑わう市街地一帯は、華やかに舞い散る桜を模倣させる多彩な色彩を演じる紙吹雪や紙テープ、宴の開幕を高めようと上空には今日まで提督たちの活躍をより引き立て、祝福をするかのように花火が舞い上がり始めた。

 

「群衆が観艦式に夢中とはな」

 

「我々への宣伝活動だよ。柘植提督」

 

「そこはプロパガンダでしょう、元帥閣下。新たな敵が現れたのにパレードとは……」

 

「我々に出来ることはない。今日のところはリラックスしろ」

 

「了解しました。元帥閣下」

 

「よろしい。中将」

 

他愛のない会話をしつつ、提督と元帥は検問所を通過する。

検問所入り口で米国のDSA社が製造し、有名なベルギーが生み出した傑作自動小銃――FN FALをカスタムモデル化したDSA SA58自動小銃を携えたふたりの警備兵が『どうぞ』と丁寧語を用いて敬礼を交わしたため、提督と元帥も彼らに礼を返した。

 

「ちょうど良いタイミングで迎えが来たな」

 

彼女の言う通り、ヘリパッドにゆっくりと着陸する2機の大型輸送機が眼に移った。

提督たちなどが運用しているVTOL輸送機《ウォーバード》と同じVTOL機であるが、前者よりも大型且つ、自衛用火器として機首下面にはGAU-19/A機関銃が装備され、MV-22などを参考にし大幅に輸送や降下能力などを強化した大型輸送機《白鳳》だ。

因みに改修すれば、対戦車誘導ミサイルやロケット弾なども搭載し、降下地点の敵を排除する能力を備えたガンシップとしても運用することが可能である。

 

「急いで良かった。遅れたらキミの奥様たちに何を言われるやら」

 

「私は妻たち四筋ですよ。それに早く抱き締めたい」

 

「たったの数分だろう?」

 

「数分でもオク酸を補給は大切ですよ」

 

「ははは。なるほどな」

 

ふたりが会話しつつ、迎えの輸送機に近づくと、待機していた古鷹たちはすぐに提督に駆け寄った。

 

『おかえりなさい。私たちの旦那様♡♡♡♡』

 

「ただいま。みんな」

 

なおかつ、古鷹たちは甘える子猫のように抱きつく。

観艦式で披露する前にも関わらず、彼女たちの士気は高揚だ。

提督夫婦を見ていた五月雨と初月は苦笑いし、元帥は見慣れているため微笑していたが、恋愛に不慣れの香取は眼鏡をクイッと掛け直しつつ考古学者の如く何かを分析するように呟き、妹の鹿島に至っては両手で自身の顔を覆い隠すほど恥ずかしがっていた。

 

「……そろそろ補給を終えような」

 

『はい。提督(司令官)♡♡♡♡』

 

提督は我に帰り、古鷹たちに言った。

彼女たちも提督ニウムを補給して満面の笑みを浮かべていた。

 

「ふたりはどうしたんだ。古鷹?」

 

提督は親友の久島と、浅羽がいないことに気づいた。

 

「久島提督も、浅羽提督たちも迎えに来た輸送機に乗って出発しました。遠いからと言って先に行くと言いました」

 

ふたりの伝言を聞き、なるほど、と提督は頷いた。

 

「ですから『終わったら約束のホテルに集合な!』と提督に伝えておいてくれと頼まれました」

 

「そうか、ありがとう。今日の観艦式が終えたらみんなで食事に行く約束も伝えてあるから張り切っているな。特に浅羽は元帥と行けると喜んでいたからな」

 

「はい。だけど阿賀野さんに脇腹を捻られていましたが」

 

「まあ、そうなるな」

 

提督のひと言で古鷹や香取たちは苦笑いを浮かべ、元帥は『いったい何の事だ?』と分からずじまいだった。

 

「それじゃ、我々もそろそろ行かないと間に合わないから早く乗ろう」

 

「分かりました。元帥」

 

気を取り直して、提督は《白鳳》に搭乗した。

全員が1号機に搭乗すると、日頃から搭乗する《ウォーバード》よりも機内は広く、あと10人が搭乗出来るほどのスペースに余裕があった。

しかも快適な乗り心地であることに提督たちは驚いた。

また大型の機体なので思ったよりも揺れは少なく、ふんわりっと羽布団が浮かぶように離陸して飛び立った。

同じく来た2号機は政府専用機のように、要人が搭乗する手前、飛行機の故障により訪問などに不具合が生じては、国際問題に成り兼ねないため、常に予備機が存在し必ず随行するのが決まりである。

 

「では、空の観光と洒落込みますか」

 

と、冗談を言ったパイロットが愛想ある笑顔を振る舞うと、提督たち全員が微笑した。

 

「ははは。良い空の旅になりそうだな」

 

提督も同じように冗談まじりの会話を交わしていると、パイロットの無線機から声が聞こえた。もうすぐ自分の護衛艦に接近、後に着艦することが出来ると安堵の笑みを浮かべた。

古鷹たち全員も同じく笑みを浮かべた瞬間、ふと窓の外から見える景色を楽しんでいた古鷹たちはある物に気づいた。

 

「あれ、なんだろう?」と古鷹。

 

「分かりませんが、これは良い写真が撮れますね」と青葉。

 

「眠気が吹っ飛びそうな光景だな」と加古。

 

「あれほど大きな飛行船や飛行艇は初めて見るな」と衣笠。

 

古鷹たちの呟きを聞いた提督は訊ねた。

 

「どうした。みんな?気になったことでもあったか?」

 

「はい、窓の外から見える兵器の群れですが……」

 

「なんかヘルシングに出た空中艦隊がいるんだよね」

 

「あれも今回の観艦式で披露する最新鋭兵器ですか?」

 

「それとも、今日のサプライズなの?」

 

古鷹たちの問いに、提督は小首を傾げた。

 

「今回は日米英などの観艦式の予定だが、香取と鹿島は何か事前に通達があったか?」

 

「いいえ。大本営や各国の政府による通達などはありませんでした」

 

「それに、最新兵器など持ってくる余裕はおろか、資材などに限りがあります」

 

元帥の問いに、香取と鹿島も首を横に振って否定した。

今回の観艦式の内容では、日米英及び各国の最新鋭護衛艦や最新鋭機などを披露するが、飛行船や飛行艇が参加する予定はない。だが、論より証拠だな、と、提督は彼女たちが見たというものを確認した。

 

「議論しても仕方ない。自分たちの眼で見るしかない」

 

「私もこの眼で見なければな」

 

元帥も同じく、窓の外にいる謎の兵器を目撃した。

思わず、自分たちの双眸を疑ってしまうほど遠くからでもはっきりと見える巨大な飛行物体の群れ、巨大な飛行船とともに、前者にも勝るとも劣らないほど巨大な飛行艇の群れも見えたのだ。

まるでアメリカの小説家・ハーマン・メルヴィル氏の長編小説『白鯨』に登場する『ビィ・ディック』と渾名される白いマッコウクジラを模倣したかのような国籍不明の巨大飛行艇――推定からして全幅97メートル、全長66メートル、全高24メートル、胴体幅7メートル、そして高さは9メートルほどの大きさを誇り、その巨体を動かすターボプロップエンジン8基に伴い、自衛用として20mm重機関銃と思われる銃身も兼ね備えていた。

この恐るべき巨人機は2機もおり、その場にいた者たちの視線を奪うかのように強烈な威圧感もあった。

 

「あの空中航空母艦と巨大飛行艇は、もしかして……」

 

「あれは、かつて米国が開発しようとした幻の空中航空母艦と、『地球上の富の半分を持つ男』として有名なハワード・ヒューズが自ら開発したと言われるヒューズH-4《ハーキュリーズ》だ」

 

提督と元帥が言うハワードヒューズと言う名の男は、20世紀を代表する億万長者のひとりであり、当時のアメリカンドリームを全て築き上げたアメリカの実業家として全米の伝説となった人物でもある。

しかも巨万の富を築いた父親の工具会社『ヒューズ・ツール』を僅か18歳でヒューズ王国を受け継いだハワードは、かねてからの夢であった映画製作と飛行家業に莫大な遺産を投じ、巨額な資金と2年間以上を費やして製作した映画『地獄の天使』を始め数多くの作品を生み出し、飛行機好きな彼は航空産業にも情熱を傾け、自らの名を冠した航空機製造会社『ヒューズ・エアクラフト』社を設立した。

しかも自身も操縦し、アメリカ横断記録や世界一周飛行を行ない、どちらも記録を樹立しているほど熱狂的でもあった。

特にハワードの情熱の集大成ともいえるものが、このH-4《ハーキュリーズ》飛行艇だった。しかも完成すれば世界最大の航空機であり、完全武装した兵士なら750名、M4中戦車なら2台を搭載でき、巡航速度時速330キロメートルで飛行できるという輸送機にもなった。

しかし、巨体のあまり莫大な費用や開発遅延などが災いし、最初で最後の飛行をしただけでプロジェクトは幕を閉じた。

ギネスブックにも載っているようなこの航空機を、アメリカが現代技術を活かし甦らせたのかと思いきや――

 

「あれ?巨大な飛行船がこっちに来た」

 

「まさか、こっちを狙っているわけじゃないよな?」

 

同じく、窓の外に視線をやっていた五月雨と初月の言葉。

全員の視線の先を辿り、提督はあっと息を呑み込んだ。

こちらの機体を嘲笑うかのように、巨大空中航空母艦やH-4飛行艇に比べ、一回り小型の空中巡洋艦――小型だがそれでも充分な大きさを誇る硬式飛行船がゆっくりと、提督たちが搭乗する輸送機の傍らに刻々と近づいてきた矢先――

 

「元帥!今入った緊急情報です!捕虜から得た情報です。この所属不明の空中機動艦隊は『オリンピア』の、黄昏のワルツ作戦実行部隊です!しかも情報では、ボーイング777-300ER旅客機がこれらに撃墜されたとの情報もありました!」

 

「さらに捕虜は自白後、内通者たちが居たらしく射殺されました。その内通者たちも憲兵部隊に追われて全員自殺しました」

 

香取と鹿島の緊急情報を知った全員が唖然とした直後、敵飛行船の船体下部側面から、ぱっと閃光が走った。

 

「敵の攻撃だ。捕まれ!」

 

提督がぱっと振り返る。そうでなくとも、パイロットはすぐさま警戒システムを機内に響かせていたと同時に、ひとつの緊急通信が元帥の通信機に伝わった。

 

《全ステーション。軍港及び、各市街地で銃撃が起こった!》

 

「こちら、アージェント・ムーン。可能な限り、ユニットを展開して、オリンピアの襲撃部隊を撃滅せよ!香取と鹿島たちも全友軍部隊に伝えろ!」

 

『了解しました!!』と香取と鹿島。

 

一難去ってまた一難ということわざを再現するように、くっと機体が揺れて、パイロットは必死に回避機動を取ろうとするが、ガンッと、機体に衝撃が走った。

被弾したという報らせ。損傷した機体はふらつき始め、高度を急激に落としていく。しかも最悪なことに――

 

「パイロットが死亡しました!このままでは!」

 

古鷹が張り詰めた声を上げた。

彼女の言うとおり、操縦席にはひび割れたガラス、それに付着している鮮血、そしてがくっと前屈みのまま動かないパイロットが、提督たちの両眼に映った。

先ほど冗談交じりの会話で楽しませてくれたパイロット。顔も名前も知らない初めて会った戦友。その彼の死に、提督は『くそ!』と、胸のうちから何かがこみ上げてくるのを我慢出来なかった。

 

「俺が操縦する!」

 

だが、今は嘆いている暇はない、と、提督は死亡したパイロットを退かせ、彼の代わりに操縦席に座り、手前にある操縦桿を握り、機体のコントロールを保つ。が、機体が被弾したせいで狂ったように鳴り響く甲高い警報音が提督たち全員の耳の奥、鼓膜まで鳴り響く。

なお、不運にも傍にいた2号機は敵の直撃弾を喰らい、頑丈な機体は飛行バランスを失い部品を撒き散らしながら落ちていく姿が見えた。

しかもコックピットの通信機が何かごちゃごちゃと言っているが、ノイズが激しく聞き取りにくい。だが、助けることは出来ない。こちらも手がいっぱいであり、機体をコントロールすることに集中した。

遅かれ早かれ、この輸送機はもう持たない。早く何処かに着陸せねば、墜落してしまうと呟いた。

 

「くそっ。操縦桿が重い」

 

「私も手伝います!」

 

駆けつけに来た古鷹は隣に座り、一緒に操縦桿を握り締めて手伝う。

彼女が手伝ってくれたおかげで、被弾しながらも辛うじて飛行する《白鳳》は近くに設けられた大型ショッピングセンター屋上に到着、ようやく不時着出来る場所を見つけた提督は叫んだ。

 

「不時着するぞ。全員衝撃に備えろ!」

 

機体を滑らすように不時着し始めた瞬間、自身の身体、全身を巨人に強く蹴り上げるような衝撃が走った。

不時着は成功したものの、不時着時による衝撃を受け、提督の意識は暗い水底に沈みゆく小石のように、静かに気を失ってしまったのだった……




今回の架空戦記ネタは、『第二次宇宙戦争 マルス1938』に登場した英国の架空艦《サンダー・チャイルド》や『天空の要塞』に登場した巨大飛行艇《ヘラクレス》など好きな架空戦記から。
因みに後者は、現実にアメリカの博物館で見ることが出来ます。
これを量産したら、どんな風になっていたやら。
大型輸送機《白鵬》は、某HALOやCoDシリーズなどに登場した輸送機や降下艇を参考にし、名前は『旭日の艦隊』から拝借、実際には別の機体と思って頂ければ幸いです。

F-64は好きな戦闘機を足して割った感じです。
いま英国が開発中のステルス戦闘機が色々と注目され、日英共同開発するという噂もありますが、日本が自力で開発中の《心神》など第6世代戦闘機が世界に輝いて欲しいですね。本音では。

次回からは暫く銃撃戦が続きますが、夫婦愛でどのように突破するかを次回もお楽しみくださいませ。

では、第45話まで…… До свидания((響ふうに)

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