いよいよ『タイム・リンク作戦』の終盤であります。
あと少しだけですが、とある架空戦記の人物たちが登場します。
いつも通り、最後まで楽しめて頂ければ幸いです!
では、本編であります。どうぞ!
提督たちは、マヤたちの電撃を喰らって、気絶した敵乗組員たちを拘束した。
彼らの両手は、タイラップで拘束している。
タイラップとは、不審者や被疑者拘束用のタイラップを改良した軍用ハンドカフ(手錠)だ。
特殊部隊をはじめとする軍・法執行機関のオペレーターにおいても広く利用されている。
しかも素早く容疑者を拘束でき、持ち運びがし易いと言う利点も兼ね備えている。
素人ならば、簡単にこの拘束道具を解くのは難しいものである。
相手も大人しく静かなもので、このままの状態で本土まで運べることに対して、提督たちは、ホッと胸を撫で下ろした。
なお、砲撃の際に、海へと放り投げられた老人と、その少数の生存者たちの生存しているか、捜索活動も行ったものの―――誰ひとり浮上することもなければ、彼らの死体すらも見つかることもなかったため、生存率も絶望的なために行方不明として、捜索を打ち切った。
少ないが、証言者である敵乗組員たちはいる。
彼らの背後を、装甲艦などを提供した謎の組織を聞くために本土まで輸送だな、と提督は双眸を落として、再び深呼吸をし、気持ちを整えた。
「……間近で見ると、迫力あるな」
提督は、素直な感想を述べた。
映像で観た通り、黒い空間は巨大な積乱雲に似ていたが、ややひずんだ長楕円形の形をしており、奇妙な幾何学的《きかがくてき》である。
しかも周辺部分は雲のように絶えず変化しており、さらに内部には稲妻のような光が絶えず点滅しているのが分かる。
あの黒い空間を通り抜ければ、ハルナたちも無事、元の世界に帰れることが出来ると言う嬉しさもあれば、同時に分かれでもあることが辛くなるなと寂しさもあったが、人生に1度にあるかないかと言う不思議な体験が出来たことに、大いに感謝した。
双方は、お互いに顔を向かいあった。
最初に口を開いたのは、ハルナたちだった。
「提督、古鷹、加古、青葉、衣笠、みんな……短い期間だったがありがとう」とハルナ。
「提督、みんな…… 短い期間だったがありがとう」とキリシマ。
「ありがとう。提督、みんな!」とマヤ。
「ありがとう。みんなと仲良くなれて嬉しかったよ!」と蒔絵。
彼女たちは、提督たちに感謝の言葉を告げた。
しかし、その声からは涙ぐんでいたのが分かる。
彼女たちも同じ人間、ずっと人間らしい心を持っている友達でもあるのだから。
「別れる時は、笑顔で『ありがとう、また逢おう』と言うものだ」
提督は告げた。
別れることは慣れない、いつの時代でも、例え多次元世界の住民たちでも、同じでもある気持ちである。
だからこそ笑顔で『また逢おう』と言い、旅立つ者たちを見送ることを大切にしている。
『ありがとう、また逢おう!!!』
別れの言葉、再び再会する日を願い、ハルナたちを乗せた重巡洋艦《摩耶》は反転し、艦は黒い空間に突入した。
彼女たちの帰りを待ち望んでいたかのように、艦尾まで行き渡ると、黒い空間は、すうっ、と閉じられて消えていった………
「行ったな、我が友たちが……」
「はい、行きましたね」
「不思議な非日常だったし……」
「青葉たちと友だちになれて……」
「とても嬉しかったし、楽しかったね!」
「ああ、そうだな」
提督・古鷹たちは、ハルナたちが無事に元の世界に辿り着くことを心から祈った。
彼らは『事実は小説より奇なり』と言う言葉通り、この摩可不思議な非日常に感謝した。
帰投するまで、タイム・リンク作戦は終わらない。
「それじゃあ、俺たちも帰投するぞ!古鷹、扶桑、鳥海たちは周囲警戒を、川内と阿武隈、睦月、如月は大鷹と龍鳳とともに対潜警戒、初月と、長月、菊月は赤城たちとともに上空警戒に移れ!」
『はい、提督(司令官)!!!!』
古鷹及び、扶桑姉妹、鳥海は周囲警戒にあたる。
『まかせて、提督!!』
口を揃えて答える川内・阿武隈。
『まかせるにゃし!!』
明るく答える睦月と、姉の口癖を仲良く真似る如月。
「対潜警戒ならば―――」
「私たち軽空母の得意分野です!」
大鷹・龍鳳は、対潜及び、周囲警戒も兼ねて、対潜用航空爆弾を装備した九七式艦攻・九九艦爆の合同部隊を発艦させた。
「分かった。提督!」
「もちろん、まかせろ!」
「いつでも大丈夫だ……」
お互いの顔を見合わせて、初月・長月・菊月は頷いた。
「私たちも《烈風》部隊を出しましょう」
「ええ、赤城さん」
赤城・加賀は、上空に向けて、矢を射った。
たちまち矢は、《烈風》に早変わりして上空警戒にあたった。
「我々は、我が友の護衛艦を曳航するためにロープを装着作業をするぞ!」
提督率いる全乗組員たちは、損傷した《むらさめ》を曳航するために、曳航用ロープの装着作業に移ったとき―――
《おーい。提督、エンちゃん!助けに来たぞ!》
見覚えのある声、親友提督がモニターに映った。
彼が乗艦している艦隊指揮艦は、たちかぜ型護衛艦(DDG)の後継艦として建造された、あたご型護衛艦《あたご》である。
本型は、第二世代イージス艦に伴い、こんごう型イージス艦以上の性能を兼ね備えており、改こんごう型とも言われるミサイル護衛艦である。
こんごう型及び、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦をベースにし、ステルス性を向上させている。
「ああ、しんちゃんか。すまないが、エンちゃんの護衛艦を曳航する作業を手伝ってくれないか?」
提督は、親友提督のことを『しんちゃん』と呼んでおり、エンジニア提督は『エンちゃん』と呼んでいる。
提督たちの真名はあるが、海軍学校時代から、そして今日までこの呼び名を言うほど仲良し三人でもある。
《おう、まかせろ!阿賀野も手伝ってくれ》
《は〜い。まっかせて〜、提督さん》
親友提督の護衛艦《あたご》乗組員たち及び、阿賀野率いる精鋭水雷戦隊メンバーも加わり、曳航用ロープの装着作業は順調に進んだ。
提督・親友提督は、エンジニア提督の艦隊指揮艦こと、護衛艦《むらさめ》を本土まで曳航する。
古鷹・阿賀野たちは、負傷した叢雲・霞率いる礼号組艦隊の護衛任務を行い、一同は本土を目指して帰投した。
提督たちが八丈島海域から離脱した頃、ハルナたちは―――
「やっぱり、揺れるよ〜!」
マヤの言葉通り、黒い空間に突入した途端に艦体ごと激しく揺すぶられた。
艦内にいたマヤだけでなく、ハルナたちも、本物の台風か、または積乱雲に突入したようだな、と呟いた。
振動には耐えられるが、しかし精神的には別だ。
『今度は耳が〜〜〜!!!!』
ハルナたちは両手で、耳を塞いだ。
しかし、両耳を塞いでも、キーンと言う凄まじい高周波音が耳を満たし、身体中が引き裂かれるような苦痛が襲って来たので、ハルナたちは思わず口を揃えて答えたのだ。
次になんとも言いようのない灼熱―――強いて言えば、全身が引き伸ばされて別な形に置き換えられるような感覚も伝わって来た。
ハルナたちは各々と声を出したが、その声も奇妙に引き伸ばされ、歪んでいた。
艦全体、その周囲は今や光が氾濫していた。
その光はトンネルを形成しており、このトンネルのなかをハルナたちの艦は突進して行く。
艦橋内部の見慣れた光景が大きく歪み、航行時に遭遇する悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象『セントエルモの火』に酷似した不思議な閃光を帯びている。
それが何秒ほど続いたか、ハルナたちには分からなかった。
ほんの数秒のようにでもあり、若しくは数分も続いたかのような感覚でもあった。
突然、スポッと突き抜けた感覚とともに、ハルナたちの艦は別な空間に飛び出していった。
穏やかなに包まれた蒼空に、所々にちぎれ雲、そして遠くには見慣れた陸地などが見えた。
艦も今は何事もなかったかのように航行している。
時刻 1330
場所 ???海域
異変に気づいたハルナは、素早く自分の状態をチェックした。
肉体的に損傷はない、少しだけ頭痛はするが、それ以外の苦痛や怪我はない。
あの激しい頭痛は、一時的なもの、意識内の現象だったのかもしれない。
「蒔絵、キリシマ、マヤ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ハルハル」
「ああ。大丈夫だ」
「うん。大丈夫大丈夫」
ハルナが問いかけると、全員とも起き上がり、『大丈夫だよ』と答えた。
不測の事態に対しての心理的備えがあったおかげで、全員失神だけで免れたのかもしれない。
「マヤ、艦の状態は?」
ハルナは、マヤに訊ねた。
「ほいほい♪う〜んと計器もエンジンも順調だよ!」
マヤは、艦の状態を確認した。
全て異常なし。正常を保ったままである。
「よし、無事に突き抜けたぞ!……だが、ここは本当に我々の世界なのかな?」
「う〜ん、あの永田教授曰く『タイムゲートを通っても同じ場所に出るとは限らない』とは警告したけど……」
キリシマの疑問に、蒔絵は顎にて手を当てて呟いた。
蒔絵の言う通り、八丈島海域ではないが……
「蒔絵の言う通りだが……我々にとって、大切な居場所であることは確かだ」
ハルナは、ニッコリと微笑した。
ホログラムで表示すると、自分たちが今いる場所は北海道海域であった。
自分たちが失神した際に、あの黒い空間は、親切にここまで飛ばしてくれたのだな、とハルナたちは自分たちなりに推測した。
真実は分からないが、確かなことは多次元世界での交流で友だちが出来たこと、そして彼らとの絆と、温かくて優しい思い出が出来たことだ。
『それじゃあ、帰ろうか。私たちの家に!!!!』
ハルナたちは顔を見合わせ、口を揃えた。
「マヤ、気づかれないように潜航を」
「はいはい♪まっかせて〜、ハルハル」
「眞や今日泊くんから、何か言われなければ良いが……」
「大丈夫大丈夫。気づいていないよ」
彼女たちは、不思議な体験を味あわせてくれた黒い空間とともに、優しく温かく迎えて、友だちになってくれた提督・古鷹たちに感謝を抱いて、北海道・函館まで潜航しながら目指すのであった。
時刻 不明
場所 不明
「上手くいきましたね」
ひとりの人物が、流暢な日本語で話した。
彼の外見は灰色服装を纏った紳士、紳士帽子やネクタイ、紳士靴まで灰色一色だ。
「ああ、我々の目には間違いはなかったよ」
もうひとりの人物、落ち着きをはらって答えた。
彼はオリーブ色の海軍第一種軍装に身を固め、立派な体格の軍人だった。
軍装の襟には菊花が二つ、これは中将を示す。
軍帽を被ったその顔は精悍且つ、ぎょろりとした双眸、通った鼻筋、そしてやや肉厚の唇の持ち主だった。
「彼ならば、この戦争を終焉へと導くことなども出来ますからね」
「もちろん。彼はリーダーに相応しい所以に私としても興味深いものだからな」
「分かっております。我々も彼や彼女たちを助けるためにも今後の準備をしなければなりませんからね」
「ああ。これからは我々も忙しくなる。かつて多次元世界の日本と同じように、この経過を、彼や彼女たちの成長を温かく見守らないとな……」
そう言うなり、彼らはモニターに映された提督・古鷹たちを見守るように観た。
「では、私はとある人物にお会いしに行きますね」
「ああ、お互い健闘を祈るぞ」
海軍第一種軍装姿の男の言葉とともに、灰色服の男も煙のように、すうっと消えたのだった……
今回で無事に『タイム・リンク作戦』は、無事に完了しました所以に、新たな動きも少しずつ動き始めました。
ひとりは御存知、架空戦記好きな読者の方ならば分かるあの人であります。
もうひとりは、彼と同じような不思議な人物であり、今回のこの黒い空間に深く関わりを持つ人物です。
まだ先ですが、この人物の正体が明らかになりますので暫しお待ちくださいませ。
次回は、少しだけ提督たちの視点とともに、第三及び、第四者の視点に移りますのでお楽しみください。
事情により、変更もございますので、その際は御了承くださいませ。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、第32話まで…… До свидания((響ふうに)
???「私の活躍も暫しお待ちください」