第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
前回に引き続き、この青いクマのぬいぐるみの正体が分かります。
一部はアニメのオマージュと伴い、私の好きな架空戦記ネタもあります。

いつも通り、最後まで楽しめて頂ければ幸いです!

では、本編であります。

どうぞ!


第15話:接触《コンタクト》 前編

「しまった、また同じことをしてしまった……」

 

膠着状態から気を取り直したクマのぬいぐるみは、スクッと立ち上がり――

 

「こうなれば仕方ない…… 許せ、文月!」

 

左手の詰めをキラッと光らせながら、文月に飛びついた。

提督は急な殺意に気づき、咄嗟に腰のホルスターからAtlas 45自動拳銃を取り出しそうと手を伸ばした。

それに反応したのか、クマのぬいぐるみも同じく攻撃態勢をしようとしたが――

 

「スゴい〜!」

 

「ぐえっ!」

 

文月の予想外な攻撃、抱き付き攻撃にやられたのだ。

 

「司令官、これスゴイよ! ロボットみたい〜!」

 

「またしても… 蒔絵と同じときの… ように……」

 

じたばたと暴れるが、クマのぬいぐるみを見た一同は―――

 

『良かった、文月(文月ちゃん)に何事も起きなくて……』

 

怪我でもしたら大変だが、大胆不敵な行動をした文月のおかげで何事もなく収まったと言っても良いだろう。

 

「頼む、文月。私はもう何もしないから、離してくれ!」

 

「あ、ごめんね〜」

 

文月はそのクマのぬいぐるみを離し、自分の膝に鎮座させた。

提督たちもはや漫才と言うべきか、突っ込みどころが追い付かないなと思った。

 

「ともあれ、今の状況を落ち着くために……」

 

古鷹たちは提督を見て、頷いた。

 

「みんな今は弁当を食って落ち着こう。お前もトラブルは起こしたくないだろう?」

 

「人間の癖に、戦いよりも飯を優先するとは……」

 

クマのぬいぐるみは驚愕した。

 

「なに…… 腹が減ったら取り返しのつかないことになり兼ねないからな。お互いのためにも争いたくはないだろう?」

 

「……確かにお前の言う通りだな、私も空腹だ」

 

「分かった。食べる前にまずは自己紹介しよう」

 

「ああ、食う前に大切だな」

 

「俺の名は提督だ、よろしくな」

 

古鷹たち以外の前で、ましてや未知との遭遇との前で自己紹介するのは初めてだ。

本当に一生に一度しかないと思うなと内心に呟いた。

 

「私の名はキリシマだ、覚えておけ」

 

「よろしくな。キリシマ」

 

提督は、キリシマと名乗るクマのぬいぐるみと握手した。

キリシマも同じく握手をした。

 

「ああ、よろしくな。提督」

 

キリシマは考えた。

以前の自分だったら、人前でこういう風に接することはなかった。

元々言えば、敵対している人間たちと慣れ親しむ主義ではなかった。

以前の自分はハルナとマヤとともに霧の艦隊・姉のコンゴウ配下の艦だった。

いくらメンタルモデルと言う意思体を、この存在を手にしても自分たちは『兵器』であると言うことしか考えられなかった。

しかし横須賀港で襲撃したあの夜で、自分たちを打ち破り倒した群像とイオナ、ふたりの仲間たちに、そして自分の大切なハルナたちの前でこうして接するのは不思議だなと感じた。

元よりあの夜で味わった敗北と後悔を知り、かなり自重するようになった冷静な自分も自分だなと思った。

 

「美味しいね、キリシマちゃん〜」

 

「ああ、美味しいな」

 

文月を見ると、蒔絵と思い重なる。

キリシマは『今頃、ハルナたちは何処にいるのか』や『私を探しているのか』と心配した。

いざ一人になると、こういう風に不便なこともいろいろある。

ただし陸軍一方面軍を近接戦で圧倒する程度の力はあるが、幸いにも友好的な人間たちで良かったなとつくづく思った。

取りあえず今は飯を食って、提督と古鷹たちと名乗る男と少女たちに頼んでどうにか元の世界に戻ることが出来たらいいなと考えながら、弁当を楽しく食べた。

 

 

 

 

一同は昼食を終えると、キリシマがどうしてここに流れ着いたのを訪ねた。

提督たちの尋問に、彼女は何ひとつ嘘を付くことなく答えた……

 

「……なるほど。簡単に整理すると、キミと仲間たちと一緒に北海道・函館に観光に来て、

さらにとある目的のために横須賀を目指そうと艦で航行していた時に、なぜか突如に現われた謎の空間に引き込まれた挙げ句に不運にその時の衝撃で艦から落とされて、流されたと言うわけか……」

 

「……ああ、なぜか不思議な黒い空間が突然現れて回避しようとしたが、たちまち私たちは抵抗することも出来なく、ただ吸い込まれてしまった。

私とハルナたちはマヤの艦に搭乗していたのだが、黒い空間に入る衝撃がとてつもなく強く、そのせいで不運にも甲板にいた際に運悪く落ちてしまい、私は逸れてしまったんだ」

 

提督の言葉に頷いたキリシマに対し、川内はにわかに信じがたいなという表情をした。

 

「何だか信じがたいな、それ」

 

「……でも、キリシマさんがそう言っているよ」

 

川内の答えに、由良は物腰柔らかく答えた。

 

「まだ、その空間がまだ残っていれば帰れるかもしれないけど……」

 

「仮にその黒い空間がその場に残っていなかったら、どうのですか?」

 

衣笠に続き、青葉が問いかけた。

 

「それは……」

 

さすがのキリシマも困った。

仮に帰る方法があったとしても、無事に元の世界に戻れるという保証がない。

同じようにハルナたちもここに来ていると言うこともあるかもしれないし、ないかもしれない。

 

(こういう小説は以前に読んだな…… 確か『超空の艦隊』だったかな?)

 

提督は顎を撫でた。

その物語は嵐の夜に太平洋に突如と現われた空間を通り抜けたものは、日本の最高傑作である四発大型飛行艇《二式飛行艇》、通称《二式大艇》が姿を現した。

しかも《二式大艇》の乗組員たちは、自分たちは帝国海軍人だと名乗った。

海上自衛隊が調査のために、二式大艇の血を受け継いだ当時最新鋭飛行艇《US-1》を派遣して、この怪事件の調査をした。

証言者たちの言うとおり、この黒い空間に突入すると別次元の日本こと、昭和17年(1942年)の日本に通じていると言う架空戦記を読んだことがある。

これを理由に各自衛隊は、日本軍を助けるべきこの世界に突入したのである。

しかし自称『日本のため』と言いつつ、アメリカの国益のためと自虐史観を持ち、日本国内にいた裏切り者こと《ディープ・スロート》と名乗る人物から聞き出したCIA局員が、これを米政府に密告した。

大統領はこれを危険だと思い、同じように朝鮮半島沖で起きたドイツ軍の急降下爆撃機Ju-87《シュトゥーカ》などの接触時と重なると見抜き、自称『正義のため』に軍事行動を秘密裏に起こした。

米海軍御自慢のニミッツ級原子空母《ジョン・C・ステニス》率いる第7艦隊がいざ異世界に存在する日本に突入すると――― ロサンゼルス級原潜《ヒューストン》以外の全艦船は行方不明に伴い、旗艦《ジョン・C・ステニス》に至っては、まさかの恐竜たちがいた時代にまでタイムスリップ、唯一の生存者以外は消滅したと言う衝撃的なことが起きた。

この空間は気まぐれ、主人公たちにしか友好的な態度しか持たず、米軍が起こした作戦は不運にも終わる。

この不運はさらに続き、房総半島海域に無人のまま漂流していた第7艦隊旗艦《ジョン・C・ステニス》が海自と日本軍に鹵獲されて、その後は大東亜戦争の名誉ある停戦講和の切り札として、主人公たちが言った通り停戦への道標になったのは言うまでもない。

話が逸脱したので、現状に戻る。

 

「提督、どうしますか?」

 

古鷹は問いかけた。

 

「確かにその空間まで、俺たちが護衛しつつ黒い空間まで送る手段はあるが……

まずはキリシマたちのお友だち、ハルナさんたちを探して見つけて一緒に元の世界に戻らなければ意味がない」

 

「だったら、今から出撃準備でもするか?」

 

加古が言うが、提督は首を横に振った。

 

「何事にもまずは慌てず冷静に様子を見つつ、のんびりと今後のことを考えよう。

それじゃあ、そろそろみんなも再開しよう。各自釣り竿を持って始めるんだ」

 

提督も再び釣り糸を垂らしながら、ゆっくりと考えた。

考えれば考えるほど、状況は悪化しかねないことが多いことを熟知している。

それで追い詰めて、自分を追い詰めて責めたらいけないと古鷹たちが昔教えてくれたのだ。

 

「古鷹たちもキリシマに釣り竿を貸して上げなさい」

 

『はい、提督(司令官)!♡♡♡♡』

 

古鷹は、キリシマに青色の釣り竿を渡した。

 

「エサはあたしが付けてあげるからな、ほら♪」

 

加古は、エビのむき身を釣り針に括り付け―――

 

「釣り竿の扱いはこうしますね」

 

青葉は釣り竿の使い方を説明して―――

 

「釣れたらクーラーボックスに入れてね」

 

衣笠は釣れた魚を入れるクーラーボックスを、キリシマの傍に置いた。

バケツリレーの如く、見事な夫婦による連携技でもある。

 

「今はこんなのんびり悠長なことをしている暇はないが……」

 

「かつてキスカ島の友軍を救助しようと作戦を成功させた、木村昌福中将も同じく濃霧が出るまで、釣りをして待機していたんだ」

 

「それを真似しているのか、提督は?」

 

キリシマの言葉に、提督は頷いた。

 

「まあ、そうなるな。仮にそこに行っても深海棲艦がいたら、準備と情報不足でこちらもやられたら元も子もない。それに……」

 

「それに……?」

 

キリシマは言葉の続きが気になった。

 

「せっかくの機会だ、ハルナさんたちと会えるのも何かの縁だから楽しみさ」

 

「私も楽しみですよ、ハルナさんたちに会えることが出来て嬉しいです」

 

提督・古鷹たち全員同じ答えが返ってきた。

 

「そうか、ありがとう」

 

キリシマはそう呟きながらも提督・古鷹たちから教えてもらった釣り大会に参加した。

あの巨大イカを倒した時のイカ釣り漁を思い出すなと呟き、釣り糸を垂らして魚が釣るのを待った。

イカ釣り漁の場合は消灯や専門道具を使ったが、釣り竿を使ってやる釣りは初めてだった。

旅路には役に立つことになる、その時はハルナと蒔絵、マヤに教えることもできる。

こう教えてもらえば、より良い戦果も得ることが出来ると考えれば悪くないなと思えた。

 

「キミのお友だち……ハルナさん、蒔絵ちゃん、マヤさんがそのうち来るかもしれない。

俺たちの目当てである桜鯛を、それと他の魚も色々調理しておもてなしをしよう。

みんなで交流パーティーの準備もしなければな」

 

「間宮さんたちに伝えましたから、大丈夫です。司令官♡」

 

「そうか、ありがとう。青葉」

 

提督は青葉の頭を撫でた。

 

(本当に変わった人間だな、ハルナたちと良い話し相手になれるかもな……)

 

それにしても甘いこの光景を見たら、何故か無性に苦いお茶が飲みたくなるなと思いつつ、紙コップのなかに残っていた緑茶を口にした時だ。

キリシマの隣に座っていた文月が持っていた釣り竿がぐぅううとしなった。

 

「司令官、大物が来たよ〜!」

 

文月の声に埠頭で釣っている全員の視線とともに、自分たちの竿を置いて周囲に集まった。

隣にいた提督たちも見たが、両足を踏ん張り、力任せにリールを巻くほどの大物だと見た。

桜鯛以上の大物、キハダマグロというマグロの仲間が稀に防波堤で釣れることがあれば、

または春の魚として有名な鰆かもしれないと提督は考えた。

 

「よし、俺たちも手伝うぞ!」

 

「仕方ない、私も手伝おう!」

 

「ありがと。司令官、キリシマちゃん〜」

 

提督とキリシマも助太刀に加わるが、それでも相手は弱まる気配はない。

 

「よし! 古鷹は網を、加古は銛の用意を、青葉と衣笠たちは後ろから引っ張るように手伝ってくれ!」

 

「分かりました、提督!」

 

「よっしゃ、あたしにまかせな!」

 

「お手伝いも青葉におまかせ!」

 

「衣笠の本気、見せてあげる!」

 

「由良の良いところ、見せてあげる!」

 

「夜じゃないけど、かっ飛ばすよ!」

 

まさか自分たちが吊り上げているのは、群れから逸れた黒マグロではないかと思った。

相手もとてつもない体力があるため、ロシア民話絵本『おおきなかぶ』のお爺さんたちのように引っ張り上げ大物の体力を消耗させたところを、加古が用意した銛で一突きして、最後に古鷹が用意した網で、この大物を引き揚げると言う作戦である。

 

『うんとこしょ! どっこいしょ!』

 

提督たちは2度、3度と調子の掛け声を繰り返し、その掛け声を聞きつつ、文月とキリシマとともに力任せにリールを巻く。

 

「影が見えてきたぞ!」

 

全員の力のおかげなのか、やがて水面の下から見え始めたが……

明らかに魚影とは程遠い影、それは潜水艦のような艦影をしたものだ。

それでも構わず、長月とキリシマは思い切り釣り竿を上げた。

大きな水しぶきを上げて姿を現したのは―――

 

「やった! あたし、大物釣ったよ〜」

 

喜ぶ文月に対し―――

 

「確かに大物だが、これは……」

 

見覚えのある物を釣ってしまったなと呆然とするキリシマに―――

 

『……俺(私)たちとんでもない物を釣り上げたな(ですね)』

 

提督・古鷹たちも同じく呆気に捉え、声を漏らすのも無理はなかった。

お目当ての桜鯛でもなければ、キハダマグロ、そして大物の黒マグロでもなかったのだからだ。

 

『まさか、重巡洋艦を釣るとは……』

 

しかも高雄型4番艦《摩耶》を釣るとは、誰も思わなかった……




今回はやや長め且に伴い、青いクマのぬいぐるみはヨタロウまたはキリクマことキリシマであります。
原作を読んだら全然違うことに驚きましたが、原作版とアニメ版もどちらも好きです。

また今回提督が言っていた架空戦記は、某『ジパング』の元祖とも言える名作です。
黒い空間も登場していますゆえに、キリシマが言っていたのもこれであります。
原作では『タイムゲート』と呼ばれており、もしかしたらアルペジオコラボの際にはこういう空間が発生してイオナたちや霧の艦隊が来たと言う想像も面白いかと思います。
ともあれ、後ほどその黒い空間が登場しますのでしばしお待ちを。

そして最後はもうネタバレですが、彼女たちと次回と接触しますのでお楽しみに。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

それでは第16話まで…… До свидания((響ふうに)

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