やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。   作:神納 一哉

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夜 マンションにて

「あれ?雪乃ちゃん。今日は普通のティーカップなの?」

「何を言っているのかしら?紅茶にはティーカップでしょう?」

「昨日は湯のみを使っていたよね?」

「……そうだったかしら?」

「今日は三人だったからかな?」

「そうかもしれないわね」

「あの湯のみ、比企谷くんからのプレゼントとかだったりして」

「違うわ」

「じゃあ比企谷くんとお揃いとかそういうのかなー?」

「……違うわ」

「なんか怪しいなー?」

「何でもないわよ」

「ふぅん。じゃあ私が使ってもいい?」

「それは駄目。姉さんはパンさん好きじゃないでしょう。パンさんへの冒涜よ」

「雪乃ちゃん、何をそんなにむきになってるの?」

「むきになんてなっていないわ」

「ふぅん。まあそういうことにしておいてあげる」

「………」


8 されど確実に、比企谷八幡は歩を進める。

今日は月曜日。期末試験初日でもある。

 

「どうぞ」

 

「ありがと。ゆきのん」

 

「サンキュ」

 

期末試験初日の放課後、俺と由比ヶ浜、そして雪ノ下の三人は、雪ノ下のマンションのリビングで弁当を広げていた。雪ノ下が紅茶を淹れてくれたのでありがたく頂戴する。まあ猫舌だからすぐには飲めないのだが。

 

期末試験の当日になぜ雪ノ下のマンションに集まっているのか。それは翌日の試験科目の勉強会のためである。

 

「明日からもこうやって勉強会をしましょう」

 

日曜日の勉強会で雪ノ下がそう提案してきたからだ。由比ヶ浜は二つ返事で了解したし、俺も断る理由はなかったので了承した。

 

期末試験は午前中で終わるので、雪ノ下のマンションに直行し、まずは昼食をとってから試験勉強をすることにした。

 

「ねえゆきのん。期末試験が終わったらさ、打ち上げやろうよ」

 

「由比ヶ浜さん、期末試験は始まったばかりよ。気が早いと思うのだけれど」

 

「なんて言うの?ご褒美があれば勉強を頑張れると思うんだ」

 

「学生の本分は勉強なのだけれど」

 

「ゆきのん真面目すぎだし!ねえヒッキー、ご褒美あった方がいいよね?」

 

俺に振るんかい!なんなのその期待のこもった眼差しは!?雪ノ下がジト目で見てるの気付かないの!?

 

でも、ご褒美ってのはいいかもしれないな。

 

「……あー、金曜にどっか遊びに行くってこと?」

 

「ヒッキーが乗り気だ!?」

 

「乗り気っつーか、雪ノ下にお礼みたいなことはしてもいいかなー。なんて考えてたりはするぞ」

 

「えっ!?」

 

「ヒッキーいいこと言った!そうだよね、ゆきのんにお礼しないといけないよね」

 

「雪ノ下には場所を提供してもらったのはもちろんだが、勉強も教えてもらっているし、紅茶も淹れてもらっているからな」

 

「別にお礼をしてもらうことでは…。私がやりたくてやっているのだけれど」

 

「あとは、その、あれだ。三人で遊びに行くのも悪くないだろ?」

 

「比企谷くん」

 

「ヒッキー」

 

「どこかで昼飯食って、ゲーセンかカラオケってのもたまにはいいんじゃねえか?」

 

「ふふ。どこかって言っても比企谷くんのお勧めはサイゼリアなのでしょう」

 

「ヒッキー、サイゼリア好きすぎだし!」

 

「うっせ。サイゼ舐めんな」

 

「ふふ。でも、そうね。三人で遊びに行くのもいいかもしれないわね」

 

「じゃあ決まり!金曜日は三人で遊びに行くし!」

 

由比ヶ浜が両手を上げてそう宣言するのを、雪ノ下は小さく微笑んで見ていた。

 

          × × ×

 

期末試験最終日。無事に試験も終わったところで、約束通り期末試験の打ち上げのため街に繰り出した。

 

サイゼリアで昼食を取り、駅前の商店街にあるゲーセンでプリクラを撮り、カラオケで若干だがストレスを発散した。

 

三人でプリクラを撮ったが大変だった。俺を真ん中にして雪ノ下と由比ヶ浜がくっついてくるものだから、俺硬直して動けなくなっちまったし。それが原因で雪ノ下に『マネキン(がや)くん』とか呼ばれちまったし。俺の名前、原型残ってないですね。毒ノ舌さん。

 

雪ノ下も由比ヶ浜も歌が上手かった。俺はまあ普通に歌えるぐらい。流行りの歌とかよくわからないし。

 

数年前に流行ったラブソングを歌わさせられたのは参った。小町に『覚えといた方がいいよ』って言われて覚えていたのが仇になってしまった。

 

俺が歌い終わった後、雪ノ下も由比ヶ浜も少しだけ顔を赤くしてボーっとしてたから、怒らせたかと思って俺は三人分のドリンクを取りに部屋を出た。気の利く男、八幡。

 

俺がドリンクを持って部屋に帰ると、二人でデュエットしていたのでホッと胸を撫でおろした。

 

カラオケを出て、駅前で二人と別れて家に帰った後、携帯にメールが入っていたから確認する。

 

――――――――――

FROM:雪ノ下雪乃

 

TITLE:お疲れ様

 

今日は楽しかったわ。また、三人で遊びに行きましょう。

――――――――――

 

雪ノ下も楽しんでくれたみたいで何よりだ。

 

――――――――――

FROM:八幡

 

TITLE:Re:お疲れ様

 

俺も楽しかった。また機会があれば。

――――――――――

 

無難な返事を返すと、もう一通のメールに目を通す。差出人を見るとスパムメールにしか見えないのだが、由比ヶ浜の登録名だったことを思い出して内容を確認する。

 

――――――――――

FROM:★☆ゆい☆★

 

TITLE:やっはろー

 

また遊びに行こうね。約束だよ!

――――――――――

 

由比ヶ浜のメールを確認した後、俺は電話帳から★☆ゆい☆★を選択し、通話ボタンを押す。

 

『もしもし、ヒッキー?』

 

「なあ由比ヶ浜、明日暇か?」

 

『う、うん。別に用事はないけど?』

 

「由比ヶ浜がよければなんだが、文化祭で言ってたやつ、食いに行かねえか?」

 

『文化祭って、…ハニトー?』

 

「おう、それそれ。で、どうだ?」

 

『行くっ!行くよっ!』

 

「じゃあ明日、何時に何処に行けばいい?」

 

『えーっと、じゃあ総武駅に10時で!』

 

「了解。じゃあ、また明日」

 

『う、うん。また明日!』

 

ガハマさん、電話でもテンション高いっすね。リア充じゃない俺にはついていけません。

 

「…はっきりさせないとな」

 

誤魔化していた感情にけりをつけるため、俺は明日、由比ヶ浜との約束を果たすことにした。




総武高校の最寄駅が「総武駅」ということで。

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