やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。   作:神納 一哉

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B.T.2 雪ノ下雪乃は愛を知る②

「母さん…。私、比企谷家に嫁いでもいいの?」

 

「雪乃を嫁がせる代わりに、八幡さんは雪ノ下建設のために学び、働いてもらいます。わかりやすく言えば、八幡さんには雪乃の代わりにゆくゆくは雪ノ下建設を継いでもらいます」

 

「俺が、雪ノ下建設を…」

 

「出来ないとは言わせませんよ。おそらく雪乃も八幡さんも然るべきところから婿を取って雪ノ下建設を継がせるのが雪ノ下家のやり方だと思っていたのでしょう?」

 

「ええ、まあ」

 

「でもそれだと、八幡さんも雪乃も今ここには居ないはずですよ。それにもしそうなら、一人暮らしなんて許しません」

 

「だから母さんは私の一人暮らしに最後まで反対していたのではないのかしら?」

 

俯いたまま雪乃がそう呟くと、雪ノ下母―いや、お義母さんと呼ばせてもらおう。俺も八幡さんって呼ばれているし―は、眉を顰めて雪乃に視線を向ける。

 

「貴女の一人暮らしに反対したのは心配だったからよ。体力は無いし、朝も弱かったでしょう」

 

「小学校の時のことを言われても困るのだけれど」

 

「留学から戻ってきてすぐにマンションに行ってしまったから、中学生の時の雪乃のことはよくわからないのよ。朝が弱いのは克服できたようだけれど」

 

「ええ。ステイ先が早起きだったから、自然と起きられるようになったわ」

 

「ふふ。キャスには改めてお礼を言っておかないといけないわね」

 

「え?母さん。キャサリンさんと知り合いだったの?」

 

「キャスは大学の同級生よ。そもそも見ず知らずの人に娘を任せるわけないでしょう」

 

「私はアビーさんが父さんの知り合いだと思っていたのだけれど」

 

「男親が娘を知り合いの男に預けるなんてことはしないわよ。少し考えればわかることだと思うけれど、まああの時の雪乃は余裕なかったし、私や陽乃のこと避けていたものね」

 

少し寂しそうに言うと、お義母さんは静かに雪乃に視線を合わせた。

 

「雪乃。この際だからはっきり言いますけど、私も夫も、陽乃も家族として貴女のことを愛しています」

 

いや、ぶっちゃけすぎだろそれ。雪乃なんて鳩が豆鉄砲食らったような顔して固まってるし。

 

「私は貴女の負担にならないよう、甘やかすところは夫に任せて、貴女のことは都築や陽乃に見守らせていました。陽乃が貴女を構い過ぎて距離を置かれるようになったとき、陽乃は私のところで『雪乃ちゃんに嫌われた』なんて落ち込んでいましたし」

 

「それでも何事もなかったかのように絡んでくる姉さんは疎ましいのだけれど」

 

「そのたびに私に泣きついてくる陽乃を想像してごらんなさい。少しは見方が変わるのじゃないかしら?」

 

「母さんに泣きつくならもう少し穏やかなアプローチをしてくれればいいと思うのだけれど」

 

「気丈に振舞う雪乃を見るとつい構いたくなってしまうそうよ。そこが陽乃の悪いところなのでしょうね」

 

「…そう」

 

小さくそう呟く雪乃の頬はほんのりと赤く染まっていた。うん。まあなんだかんだで憧れていた姉が自分を溺愛していたと母親から聞かされれば赤面したくもなるよね。

 

「私は反対に必要最低限のことしか伝えなかったし、事務的な対応しかしなかったわね。それを雪乃は上からの押さえつけと判断し、私もそれを訂正しなかった。甘やかすところは夫に任せていたから、まさか貴女の中で雪ノ下家では私が実権を握っていて夫は傀儡で婿養子などというイメージになっていたのには驚きを通り越して悲しくなりましたよ」

 

「そのイメージは姉さんと話し合った結果、辿り着いたものなのだけれど」

 

「陽乃までそんなことを…。雪ノ下家は間違いなくお父さんの家ですし、私の実家は二階堂家です。まあ家族皆、他界しているので二階堂家はもうありませんけど。残っているのは私の振袖の家紋くらいかしらね」

 

「ごめんなさい」

 

「貴女が気にすることはないわ。雪ノ下家は間違いなくお父さんの家だということを覚えておいて頂戴。それと、雪乃を八幡さんに任せるという判断もお父さんと相談して決めたことですから」

 

「……あの、なんでそんなに俺のことを買ってくれているのでしょうか?」

 

お義母さんの言葉に俺は思わず尋ねてしまう。義姉さんや彼女の報告から判断したお義母さんならともかく、お義父さんまでが俺のことを買ってくれている理由を知りたかった。

 

「陽乃から『雪乃ちゃんに恋人ができたよ』という報告を貰ったその日のうちに夫とはある程度の話はできていましたけれど、最終的には雪乃が貴方のことを伴侶とまで言い切るほどに信頼しているのを見せられたからかしらね」

 

『いやー、まさか雪乃ちゃんがあんなにはっきりと言い切るとは思わなかったよ』

 

いきなりこの部屋には居ない人の声が聞こえてきて、俺も雪乃もビクッと体を震わせる。

 

いきなりの乱入は心臓に悪い。勘弁してください。義姉さん。

 

「ね、姉さん?」

 

『実は隣の部屋に居て初めから聞いていました。あと、お父さんも一緒だよ雪乃ちゃん、義弟くん。じゃ、今から行くからね~』

 

義姉さんだけでなくお義父さんも居るとは。

 

俺が小さく溜息をついてからお義母さんに視線を向けると小さな微笑みを返してきた。

 

あ、これ、初めから仕組んでたのね。

 

雪乃の手を握り、雪乃と視線を交わしながら、俺たちはお義父さんと義姉さんの襲来を待つのであった。




独自設定

雪ノ下母の名前は雪ノ下陽菜(はるな)

雪乃の留学先のホストファミリーは雪ノ下陽菜の友人であるキャサリン女史の家

雪ノ下陽菜の実家は二階堂家で、家族はもう他界している。

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