やはり俺たちの青春ラブコメはまちがっていた。 作:神納 一哉
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なんていうか、濃い一日だった。
戸塚に背中を押されて雪乃に告白をして、恋人になった。
キスもしたし、泣き言を言っても受け入れて貰えたし、独占欲からお互いにキスマークを付け合った。
一色の前で名前呼びをされてキスしたり、お互いを名前で呼ぶことにした。
平塚先生にラーメンを奢ってもらったり、雪ノ下さんに雪乃と恋人関係になったことを報告したりした。
雪ノ下さんが雪乃のマンションから荷物を纏めて出て行った。
そして今、雪乃の部屋のリビングでソファーに座って雪乃と寄り添っている。
「八幡?どうしたの?」
「ん?ああ、今日だけで色々あったなあって思って」
キスマークはやりすぎだった気がしてきたが、気にしないでおこう。感情に流されちゃうことってあるよね。うん。雪乃も付けてくれたし。
「そうね。でも、こうして八幡と一緒に居られるのは、嬉しいわ」
「俺も、雪乃とこうして一緒に居られるのは、嬉しい。でもな、今日はこの辺で帰らないといけないと思うんだが」
「そう……」
雪乃は小さく呟くと、左肩に頭を載せてもたれかかってくる。
「……もう少しだけ一緒に居たいのだけれど。その、こうやって八幡と恋人になれたということを感じていたいの」
「俺もできることなら雪乃と一緒に居たいけど、さすがにそろそろヤバい時間だろう?風呂にも入らないといけないだろうし」
「一日くらい入らなくても私は別にかまわないのだけれど」
「まあなんだ、明日も学校あるしさ」
「八幡と二人で登校するのも悪くないわね」
「俺の寝間着とか布団とかないしさ」
「カモフラージュ用の男性用の服はあるわよ?来客用のお布団は姉さんが使ってしまったから私が使うわ。八幡は私のベッドを使ってくれればいいし」
「いやなんで泊まることが前提になっているの?」
「駄目、かしら?」
首を傾げて俺を見上げる雪乃。いや、待て。その仕草は一色よりもあざといから。
「ちょっと待て、雪乃のベッドを使えってどういうこと?」
「そのままの意味なのだけれど。姉さんの使ったお布団に八幡を寝かせるわけにはいかないもの」
「うん、いったん落ち着こう。俺は家に帰るつもりなんだけど」
「姉さんも認めてくれたし、姉さんが言うには母さんも認めてくれたってことだから、私としては八幡と一緒に居たいのだけれど」
「いつの間にか家族公認になっている!?」
「うふふ。そうよ、家族公認なのよ」
「いやそれでも親しき中にも礼儀ありって言うだろう?恋人になった日にお泊りするってのはダメだと思うんだけど」
嬉しそうに微笑む雪乃を見て流されそうになりそうな俺が居る。いやいや、流されてはいけない。
「その、俺は雪乃のことを信頼しているし、大切にしたい」
「嬉しいわ。私も、八幡のことを信頼しているし、大切にしたいわ」
「あー、その、ありがとう」
「どういたしまして」
「俺がこんなに素直になれるのは雪乃の前だけだ。少なくとも今日一日でそんなことが言えるくらい、雪乃とは信頼し合える仲になれたってことだけは胸を張って言える」
普通に雪乃って呼び捨てに出来るし、思っていることを素直に伝えることも出来る。その、少し恥ずかしいけど甘えたりも出来る。
昨日までの俺からしたら考えられないくらいの変化だと思う。
それに雪乃も普通に名前呼びしてくれるし、素直に甘えてくれることがとても嬉しい。
「私も八幡の前では素直な自分を出せるわ。ふふ。昨日までの私だったら八幡って呼ぶことも出来なかったわね」
「俺も同じだな。自然に名前呼び出来るようになったし、雪乃には素直に話したり、甘えたりできる」
「そうやって心が通じ合ったのに、八幡は私を一人にするのかしら?」
「心が通じ合ったからこそ、離れても大丈夫だと思うんだが」
「狡いわね」
「まあ、その、だな。準備不足だから今日の所は帰らないといけないってのが偽らざる俺の気持ちだ」
「何の準備かしら?寝具も着替えもあるのだけれど」
不満げに言う雪乃を見て、俺は小さく溜息をつくと雪乃を自分の方へと引き寄せて耳元に唇を寄せた。
「避妊具がねえから泊まれないってこと」
「ひにっっ!?」///
「俺だって男だ。好きな女と一晩を共にして手を出さないのは無理」
「馬鹿、変態、スケベ、八幡!」
おい、八幡は罵倒じゃねえだろ。
心の中で文句を言うと、雪乃は上目遣いで俺を見て口をもにょもにょと動かした。とっても可愛いのん。
「………その、そういうものなの?」
「え?何が?」
「添い寝だけじゃ駄目なの?」
添い寝ねえ。背中合わせとかで寝ればたぶん大丈夫だろう。まあ一睡もできないだろうけど。
「……雪乃、男は狼なんだ」
「八幡が狼なら、さしずめ私は赤ずきんといったところかしら?」
「まあある意味、間違ってはいないな」
「…そう。じゃあ、八幡が泊まってくれるのは準備が出来たときなのね」
「まあそうなる、な」
雪乃から視線を逸らすと、今度は雪乃が俺の耳元に唇を寄せてそっと囁いた。
「その時は、優しくしてね」