Fate/Grand Order 卓上円卓領域ロストロイヤル   作:YASUT

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 折角書いたのに眠らせておくのもなんだかなーと思い投稿。
 ぐだ男、クロ、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィによるTRPG……の準備。
 「ロリっ子に囲まれたい」という欲望から生まれた歪んだシナリオ。
 (ロリコンの疑いがあるぐだ男、マスターの知らないところで赤い人に色々教えてもらってるクロ、人見知りの気があるジャンヌ・(略)・リリィ、等等)
 導入なのでリプレイ風ではありません。
 


序章セカンド

 人理継続保障機関カルデア。

 ヒマラヤの中腹に建てられたこの巨大な施設には、人類の歩み――即ち“人理”を守護するために、古今東西のサーヴァントが記録されている。

 例えばそれは、騎士王アーサー・ペンドラゴン。

 例えばそれは、救国の聖女ジャンヌ・ダルク。

 例えばそれは、守護者と呼ばれる名も無き英霊。

 常在しているサーヴァントは僅かだが、記録されているサーヴァントの数は百を超える。彼らは人理崩壊の危機が陥った時に召喚され、これを修復する。

 ――そう。カルデアは、人類そのものを守護している組織と言えるのだ。

 

 これ自体は何も珍しいことではない。

 人類を救った人間など、この世界にはごまんといる。人類を滅ぼせる武器が世界中にあるのだから、逆にそれらから救った人間・組織が溢れるほど存在しているのは当然の結論だ。オレのようにサーヴァントの力で人類を救った人間だって、一人や二人ではないだろう。

 

 しかし……いくらなんでも、彼女達のような存在(ロリ)に囲まれている救世主サマは、オレしかいないと思うのだ。たぶん。

 

 

 ◆

 

 

 魔人王ゲーティアによる人理焼却案件はとりあえず収束したため、英霊達の多くは“座”と呼ばれる場所に帰還した。それ自体は普通のことで、オレ自身も納得していた。演劇が終わった後も舞台の上に残り続けるのは、無粋以外の何物でもないからだ。

 なんでもかんでも英雄達に頼るのは良くない。人理が関係ない案件――例えば、二十一世紀の魔術世界との関わり方――を始めとした問題は、現在を生きる自分達が向き合うべきだと思う。

 

 ――にも関わらず、未だカルデアにはそれなりに英霊達が残っていた。

 何故、とは訊かない。彼らには彼らなりの理由があるはずだからだ。だからオレは、彼らが自分の口で言ってくれるその時を待つだけ。

 

 ……問題は別のところにある。

 英霊・英雄とは、人類史に名前を遺した人物だ。つまり、オレのような常人にはない決定的な“何か”を持っている人物だ。そんな人物達がひとつ屋根の下で共同生活を送っていれば、衝突することだって沢山ある。

 その仲裁は、ほかでもないマスターの勤めだ。

 

「ふぅ……疲れた」

 

 マイルームのフカフカベッドにどっかり腰を下ろすと、つい溜息が溢れた。

 ……サーヴァント間で気が合わない人物がいるのは分かっている。仲良くするのは不可能ということも分かっている。

 それでも、疲れるものは疲れるのだ。溜息だって溢れるとも。

 

「癒しが欲しい……具体的には、大勢のロリっ娘に囲まれてチヤホヤされたい……みたいな?」

「なるほどー。騎士王オルタの中身は凄い大人だし、ジャンヌ・オルタは肉体的に凄い大人だし。たまには純真無垢なロリっ娘と――ん?」

 

 ――と、そこまで呟いてやっと気づいた。予期せぬ闖入者の存在に。

 少々桃色を帯びた白髪と、琥珀の瞳。赤い弓兵を連想させる外套。ただし、身長は自分より頭二つ分ほど低い。俗に言うロリっ娘というやつだ。

 

 ――クロエ・フォン・アインツベルン。

 

 純真無垢には程遠い……かと言って悪魔というほどではなく、その中間――小悪魔と称するに相応しいロリっ娘だった。

 彼女の手元には食器運搬用のトレイがあり、その上にはお茶菓子が一式用意されていた。

 しかし、今はそんなことどうでもいい。

 

「マスターさんも弱音を吐いちゃうことあるのねー。ちょっと安心。

 でもロリっ娘をご所望かー。意外と業が深いのね」

「…………」

 

 クロエはケラケラと、からかうように笑う。

 ……言質を取られてしまった以上、ここは黙りこくるしかない。

 ロリっ娘にチヤホヤされたい――なんてこと、カルデア中に言いふらされたら堪らない。特に、先程呟いたオルタ達には。

 

「……クロエ・フォン・アインツベルン。君の望みは何だ。何でも言ってみたまえ」

「え? 何でもいいの?」

「オレにできることならば。今すぐ大金を用意しろ、とかは流石に無理だが」

「そんなの要らないって。

 でもぉ……何でも、かぁ……じゃあ、魔力とか? 濃厚なヴェーゼとか、どう?」

「っ……!?」

 

 ……これときた。

 クロエ・フォン・アインツベルンは、訳あって常に魔力を欲している。

 いや、正確には欲して“いた”。既に過去の話なのだ。

 今の彼女には、カルデアから十分すぎるほど魔力が供給されている。彼女の存在が消えかかっている状況でもない限り、マスターのオレ自身が彼女に魔力を与える必要はない。

 つまり彼女が今求めているのは、魔力ではなくヴェーゼという行為。

 これがキス魔という彼女の特性なのか、好意・愛情に飢えているのかは分からないが……どちらにせよ、応えるわけにはいかない。

 こちらから応えてしまえば、一部の女性から制裁を受けるのは火を見るより明らかなのだ。

 

「クロ。とても魅力的だと思うけど、今は別の案にしてくれないか?」

「あはは、分かってるわよ。こっちも本気じゃないって。

 私には他のサーヴァントと違って帰る場所がない。だからここに居るしかない。

 でも逆に言えば、貴方が望む限りはずーっと一緒に居られるわけだから、そのうちチャンスはあるでしょう。

 それより、今から時間ある? 本気で疲れてるんだったら出直すけど?」

 

 クロはそう言って、トレイを持ったまま恥ずかしそうに肩を竦めた。

 自然と、トレイに乗せられたお茶菓子に目を引かれる。

 

「クロ、それは?」

「まあ、ちょっとね。最近、これといった戦いがなくて退屈だったから、練習してみたの。

 それで……その、良かったら、なんだけど。味見とか、どうかなって」

「クロ?」

「あ、あれ……なんで緊張してるんだろ……とにかく、入ってもいい?」

「ああ、どうぞ」

 

 キスを求めてきた時とは打って変わったように緊張しながら、彼女は入室した。

 

「……こほん。ちょっと待っててね。えっと、確か――」

 

 クロはトレイを小机の上に置いた後、ぎこちない手つきでお茶の用意を始めた。

 これは――色合いと香りからして、紅茶のようだ。

 二人分のカップの隣には、色取り取りのマカロン。お菓子作りには明るくないが、マカロンは難易度が高いと聞いたことがある。きっと、誰かに教わりながら作ったんだろう。

 誰に教わったんだ?――なんて訊くのは流石に野暮か。どうやらこの娘と“あれ”は、オレの知らないところで上手くやっているらしい。

 ――とぽとぽとお湯を注ぐ音。同時に、紅茶の香りが部屋を満たす。

 しばらくしてクロとオレ、二人分のお茶が用意された。

 

「……よし。はい、どーぞ。どこかのバトラーのせいで舌が肥えてるマスターには物足りないかもしれないけど」

「そんなことないよ。美味しいものは美味しい」

 

 目で色合いを、鼻で香りを愉しみ、舌で味わう。

 お菓子同様、紅茶については詳しくない。どんな味がすればいいお茶と呼べるのか、オレは知らない。

 それでも、美味しいものは美味しい。これだけははっきりと言える。

 

「うん。美味しい」

「そ、そう? よかったぁ。

 あ、そうだ。こっちも食べてみて。結構上手くできたと思うから」

 

 クロに勧められるがまま、綺麗に盛られたマカロンに手をつける。

 外はサクサク、中はしっとり。間に挟まれた苺ジャムが味覚を心地よく刺激する。

 

「……ん、美味い。これなら何個でもいけそうだ」

「でしょでしょ? それじゃ、私も――」

 

 そう言って、クロエもまたマカロンに手を付けた。安心して緊張の糸が解けたのか、足を床に放り出してリラックスし始めた。

 ……ついさっきまでの想像とは違ったけれど、これはこれで癒しの時間だ。数時間前の戦闘が嘘のよう。全身から力が抜けて、瞼が重くなる。

 甘く、穏やかな時間が流れていく――。

 

「――トナカイさーん!」

「うん?」

 

 この、自分(オレ)のことをトナカイと呼ぶ幼い声は――

 ファーのついた白いケープ。真っ白い肌、白い髪。ジャンヌ・ダルク・オルタをそのまま幼くしたかのような容姿。

 即ち――ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。

 ……まるで早口言葉のようだが、これが正式ネームである。

 彼女はマイルームでくつろぐオレの姿を確認すると、得意げに指を差して言った。

 

「あっ、やっぱりここにいましたか。思った通りです! トナカイさんの行動パターンはバッチリ把握していますからね!

 ご存知ですか? トナカイさんはシミュレーションルームでのトレーニングを終えた後、いつもマイルームで休息を取っているんです!」

「へー」

「……む」

 

 ……思わず感嘆してしまった。自分のことなのに。

 間の抜けた声が気に障ったらしく、ジャンヌ・ダルク・サンタ・オルタ・リリィは眉を潜め、腰に手を当ててオレを叱りつけた。

 

「トナカイさん、そういうのはよくないですよ。一流のマスターたるもの、自分の一日のスケジュールくらいは管理できないとダメです。日頃から計画通りに行動していれば、いざという時にもきちんと対処できるんですから」

「はい、気をつけます」

「宜しい、いい返事です。流石は私のトナカイさん。

 ……それで、ええと……」

「?」

 

 ジャンヌ・オルタ・ダルク・リリィ・サンタは、オレの隣に座っているクロをちらりと見た後、視線を迷わせた。

 その挙動に何か気づいたのか、クロはジャンヌ・サンタ・ダルク・オルタ・リリィに声をかけた。

 

「もしかして、マスターに内緒の話?」

「あ、いえ! そういうわけではないのですが……」

 

 ジャンヌ・リリィ(略)はしどろもどろになりながら両手を振って否定した。

 ……よく見ると、彼女は通路の前に立っているだけで、マイルームに入ってきていない。入室することに遠慮している気がする。

 いつもなら普通に入ってきて……机の上のマカロンなり紅茶なりに興味が向くと思うのだが……?

 

「じゃあ、そんなところに立ってないで早く入りなさいな。私特性のマカロンもあるわよ?」

「あ……では、その、お邪魔します」

「??」

 

 クロに勧められてジャンヌ・(略)はようやく、普段の活発さからは考えられないくらいにおずおずと、マイルームに入室した。

 その後、すり足じみた足運びでクロから一定の距離を保ちつつこちらに近づき、そのままオレを盾にして隠れた。

 

「……ええと、その、お構いなく」

「あ、うん」

 

 困ったように微笑むクロ。

 気持ちは分かる。こうもあからさまだと、こちらもどう対応すればいいか分からない。

 ……驚きだ。何事にも物怖じしないあのジャンヌ・ダルクに、まさか人見知りの一面があったなんて。

 

「えっと……あ、そうだ。紅茶のカップ、もう一人分用意してくるね!」

「あ――」

 

 対応に困って耐えられなくなったのか、クロは適当な理由をつけて退出した。

 カップを取ってくる、と言っていたが、戻ってくるのは実際にかかる時間よりもう少し後になるだろう。

 

「ああ……やってしまいました。これでは大人になった私と何も変わりません」

「えっと……ちなみに、何が変わらないんだ?」

「……トナカイさんもご存知の通り、大人になった私にはおよそコミュニケーション能力というものがありません」

「Oh……」

 

 あはは、自分の未来に対して酷い言い草だなー……などとは言えない。

 確かにジャンヌ・サンタの言う通りだ。アルトリア・オルタと鉢合わせる度に喧嘩を売る姿を見てると、コミュニケーション能力が高いとはお世辞でも言えない。

 

「話題があればそうでもないんです。例えば、サンタの仕事に関係することとか、欲しいおもちゃについての相談とか。

 でも、こういうプライベートな場所で一緒になった時、どうしたらいいか途端に分からなくなるんです。

 大人になった私はとりあえず不機嫌そうに笑うかもしれませんが、それは絶対に良くないです。社交性ゼロの対応ですから。

 こういう時、本来の私なら上手く世間話ができるんでしょうね……」

「そうかもねー」

 

 正直、ジャンヌ・サンタの気持ちはすごく分かる。オレ自身も初対面の英霊と話す時、全く同じことを考えるからだ。

 何を話すべきか、何を話したら駄目なのか。その基準は相手によって違うし、絶対と言える正解もない。信頼関係を築くための第一歩は、いつも手探りなのだ。

 

「クロさんのことは嫌いではないんです。ただ、なんと言いますか……見た目は私と同じくらいなのに、変なところで本当に大人っぽくなる、と言いますか。なんとなくですが、取っ付きづらい印象なのです」

「あー……そうかもしれないな」

 

 クロエ・フォン・アインツベルンは、見た目こそ十代前半だが、実際に生きた年数はオレと同じくらいらしい。正直オレも半信半疑なのだが、他でもない“彼”が言うのだから間違いない。

 

「でも、クロはすごくいい子だよ?」

「それは分かってます。分かってますが……はぁ」

 

 そう言って、ジャンヌ・サンタはがっくりと肩を落とした。

 

「……このままでは駄目です。駄目だと、分かってはいるのですが……」

「ジャックとナーサリーとは仲が良いじゃないか。あの二人とはどうやって仲良くなったんだ?」

「あの時は、サンタという仕事がありましたから。今の私も変わらずサンタですが、季節が違うので仕事がありません。

 このままでは成長した私みたいに、何か理由をつけないと会話が出来ないコミュ障サンタになってしまいます」

「そっかぁ……それは困ったねー」

「トナカイさん……私はどうすればいいのでしょうか」

「む――」

 

 期待を込めた眼差しが向けられる。

 ……正直、それはそれでいいのでは、と思う気持ちがなくもない。そもそも会話とは、話題となるテーマがあってこそ成り立つもの。テーマ無しで会話などできるはずがない……というのが個人的見解だ。

 しかし、彼女が求めているのはそういう答えではないだろう。

 テーマがなくても会話ができるようになりたい。これは言い換えれば、話題のテーマを即座に見つけられるようになりたい、ということだ。

 そして、それを可能にする最も簡単な方法は――相手を知ること。

 相手を知れば疑問が生まれる。疑問があれば質問できる。質問して受け答えすれば会話が成り立つ。

 つまり、クロに対する苦手意識を克服するには、クロエ・フォン・アインツベルンの人となりを知ればよい。……と思う。

 まあ、知ったら知ったで的確に罵倒してくるのがジャンヌ・オルタというひねくれ者なのだが、こっちはまだ成長前だし大丈夫だろう。

 心の中の自問自答を終えたところで、ちょうどクロがカップを片手に戻ってきた。途端、背後のジャンヌ・サンタ(略)が全身を強ばらせた気配を感じた。

 

「はい、今戻ったわよ。これ、貴方の分のカップね」

「あ、ありがとう……ございます」

「……うーん、やっぱり硬いか。じゃあ、やるしかないわね」

「はい?」

「マスター? 悪いけど、ちょっと物色させてもらうわね。ああ大丈夫よ、変な本を漁るわけじゃないから」

 

 クロはカップを小机に置いた後、少し離れたところに設置してある大机の方へ物色しに行った。

 ……爆弾発言を落としながら。

 

「へ、変な本!? トナカイさん、一体なんですかそれは!?」

 

 案の定、頬を染めながら掴みかかってくるジャンヌ・サンタ。

 子供とはいえサーヴァント、その身体能力は人間に過ぎない自分を軽く凌駕している。

 ――ぐわんぐわん。胸倉を掴まれたまま頭を揺らされる。未成長な分手加減も知らないようで、ジャンヌ・オルタに揺らされるより遥かに激しい。

 だけど改めて確信する。やっぱり君、あの子の成長前だわ。

 

「んー、どこかなー……あ、あったあった。はい、二人共ちゅうもーく」

「はい?」

 

 物色を終えたクロは一冊の本を見つけ、オレたちに見えるよう掲げた。

 胃からこみ上げてきたナニかを飲み込み、死屍累々になりながら顔を上げる。

 本のタイトルは――『ロストロイヤル』。

 おっと、この流れはもしかして……?

 

「さて、ジャンヌ・ダルク・オルタ・しゃん――こほん、ジャンヌ・ダルク・オルッ――じゃなくて、ジャンヌ・ダルク・サンタ・オルタ……あれ、何か違う?

 あーもう、何でもいいじゃない! いいわよね?」

「良くないです! 私はジャンヌ・ダルク・オルタ・リリィ・ランサーです!」

「そう、じゃあサンタさん!

 唐突だけど、私と一緒にこのゲームをやってもらうわ」

 

 クロが掲げたのは『ロストロイヤル』というタイトルの本――つまり、TRPGのルールブックだった。

 ロストロイヤルは、円卓の騎士を題材にしたTRPGだ。

 魔族に支配された王国から逃げ延びた王子と騎士一行が、賢者からの予言に従って各地を渡り、季節ごとの龍に血を捧げて契約を結ぶ。そして多くの者の協力を得て、最後には魔王を討つ。

 ――大まかなシナリオはこんな感じだろう。

 とはいえ、これはあくまで大まかなシナリオ。時と場合、メンバーによっては変えても構わないだろう。

 例えば賢者の予言は真っ赤の嘘で、全ては魔王の掌の上だった、とか。

 もしくは魔王は本当の敵ではなく、何か目的があって王国を支配した、とか。

 そういったディティールの変更が許されるのもTRPGの醍醐味だと思う。

 

「ロストロイヤル? ロストロイヤル……あー! そうです、それですよ!

 トナカイさん、成長した私が言っていましたよ! 何でも先日、あの私と一緒にTRPGをやったとか!」

「ジャンヌ……また言っていたのか」

「また、というのは分かりませんが、私には話してくれましたよ。トナカイさん、成長した私と遊んでくれて、ありがとうございました!」

 

 そう言って、ジャンヌ・リリィはぺこりと行儀良く頭を下げた。この素直さが黒い方に少しでもあったらなあ、と思わなくもない。

 

「どういたしまして。楽しんでくれていたなら何よりだよ」

「きっと楽しんでいたと思います。この話をしてくれた時、とても上機嫌でしたから。本人に言ったら否定するかもしれませんけど」

「だろうね」

 

 ジャンヌ・オルタがTRPGについて得意げに話している姿が容易に想像できる。

 ……まあ、TRPGを終えた後はいつものように死闘があったのだけれど、そこは目を瞑ろう。

 

「ん? なら、ジャンヌはわざわざお礼を言うためにここに来たのか?」

「はい。それと、謝罪も一緒に。成長した私が物理的にも迷惑をかけたみたいなので」

「あはは……」

 

 これには適当に笑って誤魔化すしかない。

 アルトリア・オルタとジャンヌ・オルタ。この二人が絡むとなんの脈絡もなく高確率で戦闘が起きてしまい、ついでにオレも巻き込まれてしまう。同じオルタでありながら本質は正反対なのだから、当然と言えば当然なのだが……たまに意見が合致することもあるから面白い。

 

「それで、その……確かに謝罪もなんですけど、できれば私もやってみたいなあと思いまして。成長した私が楽しめたのですから、その、私にとっても楽しいのは論理的に明らかですし……」

 

 遊んでもらいたいという要求が恥ずかしいのか、ジャンヌ・リリィの声は尻すぼみとなり、頬はみるみる高揚していった。

 ……なんだ、そんなことか。それくらいなら全然構わない。

 

「じゃあ、一緒にやってみようか。オレは一回経験してるから、流れも大体知ってるし」

「は、はい。ありがとう、ございます」

 

 こちらが了承すると、ジャンヌ・リリィはぱあっと顔を輝かせた。

 クロは近くにあったプリンターにルールブックの該当ページを当てて、必要なシートを印刷し始める。

 

「とりあえず人数分印刷するわね。ジャンヌもいい?」

「あっ……はいっ。よろしくお願いします」

「む、なーんか硬いわね。まあ、それをどうにかするための提案だったわけだけど」

「すみません。正直に申しますと、まだクロさんには慣れてなくて」

「あら、ホントに正直ね。まあ、私も貴方のことはマスター越しでしか知らなかったわけだけど。距離としては友達の友達ってところかしら。

 人理を巡る戦いはこれからも続くでしょうし、暇な時間を使って互いを知っておいた方がいいわよね」

「…………」

 

 ……人理を巡る戦いは続く、か。

 続いてほしいとは思わないが、続くだろうなという確信がある。でないと、未だ多くのサーヴァント達がカルデアに残っているはずがない。無粋だ、お節介だと知りながらも、彼らは虫の知らせとも言うべき前触れを感じて残っているのだ。

 そして。

 ここにいる二人も、それを漠然と感じているようだ。

 

「はい、私もそう思います。次のクリスマスまでには、カルデアのサーヴァントも沢山増えていそうですし。後から入ってくる新入りの方達ともきちんと話せるように、今から訓練しておかないと!

 サンタになった私は、成長したコミュ障の私とは違うのですから!」

「あ、うん。そうね」

 

 ――訂正。片方はちょっと怪しい。

 

「……しかしTRPGとは、幼い王妃を魔女に育てるゲームだと聞きました。お互いを知る手段としてはあまり適切ではない気が……」

 

 間違った知識を吹き込まれている……いや、オルタ達とプレイした内容としては間違ってないけども。

 印刷を待っているクロも同じことを思ったらしく、首を傾げるジャンヌ・リリィに突っ込みを入れた。

 

「いやいや、違うから。確かにそういうこともできるけど違うから」

「え? 違うのですか? ですが成長した私は、TRPGとは国の王妃を立派な[竜の魔女]に教育するゲームだと言っていました」

「[竜の魔女]に教育って……あの黒聖女さん、地味にとんでもないこと考えてるわね。光源氏じゃあるまいし」

「ヒカルゲンジ?」

「マスターが住んでたところに代々伝わっている創作の登場人物。幼い女の子を自分好みに教育した最低男。そのくせ見ているのはその子じゃなくてよく似た別人なんだから、余計タチが悪いのよね」

 

 流石クロ、源氏物語に詳しい。

 しかし何故? 赤い人にでも教わったのだろうか……?

 

「なるほどー。つまり成長した私は、王妃を通じてトナカイさんを見ていたのでしょうか。

 ……本人が目の前にいるのに、どうして素直に言わないのかなぁ」

「できない理由があるってことよ……ん、印刷終了」

 

 クロは『ロストロイヤル』のルールブックと印刷した数枚のシートを持って、小机に帰還した。三人分のキャラクターシート、魔人シート、血路シート、細かいものをまとめたシートの、計六枚だ。

 ジャンヌ・リリィは初めて見たシートを興味津々に覗き込んだ。

 

「おお……これが噂のキャラクターシートですか。これとサイコロで自分の分身を作るんですね?」

「そうよ。よく知ってるわね」

「はい、事前にしっかり予習してきましたからね。

 ふふん、どうですかトナカイさん。何の準備もできていないトナカイさんにいきなり本題を突きつける私とは違うのです」

「あ、そうだ。マスターは今回こっちね」

 

 クロから『ロストロイヤル』の本が手渡される。

 

「はいこれ。マスターには悪いけど、今回はゲームマスターをやってもらうわ。この中で経験者は貴方だけだし」

「あー、そういえばそうか」

 

 ジャンヌ・リリィはジャンヌ・オルタ同様TRPGの経験がないだろうし、クロだって『ロストロイヤル』は初めてだろう。初体験でいきなりゲームマスターを任せるのは厳しいところがある。

 

「……そういえば、『ロストロイヤル』の推奨プレイヤー人数は三人から四人だったと思うけど」

「そうなの?」

「そうなんですか?」

 

 二人してハテナ顔。そりゃそうだ。

 『ロストロイヤル』の戦闘では、自分達のPC(キャラクター)を[先陣]、[本陣]、[後陣]の三つに分かれて設置する。それぞれ場所によって異なるプラス補正が得られるが、不在だと逆にマイナス補正がかかってしまう。だからこそ、推奨プレイヤー人数は三人以上なのだが……今ここにいるのは、自分(オレ)、クロ、ジャンヌ・リリィの三人のみ。今から誰かを捕まえてくるのも気が引ける。

 ――かくなる上は。

 

「仕方ない。今回、オレはゲームマスターとプレイヤーを兼任しよう」

 

 本来、ゲームマスターとプレイヤーはそれぞれ別の人が行うものだ。でなければ一人のプレイヤーが敵の情報を把握してしまうことになり、公正・公平ではなくなってしまう。

 しかし、『ロストロイヤル』は人数が足りないとそれだけでプレイヤー側が不利になってしまう。初プレイなのに自分のキャラクターが死亡するという思いは、彼女達には味わわせたくない。それに『ロストロイヤル』は、シナリオの全貌や敵のデータを知っていたところでそこまで大きな影響はないはずだ。

 なに、大した問題じゃない。要は彼女達にヒントを与えないよう努めればいいだけのこと。

 ただ、問題はロールプレイだ。ゲームマスターとプレイヤーを兼任すれば、自分が演じるキャラクターはそれだけ増えてしまう。そして、自分のキャラクターとNPCが会話する時、一から十まで一人芝居をする羽目になってしまうのだ。

 それはとても辛い。精神的に。

 辛いので、彼女に協力を願うことにした。

 

「クロ。頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

 期待と懇願を込めてクロを見つめる。

 本人はというと、やはり驚いている様子だった。

 

「私? 言っておくけど、私もTRPG初めてよ? 協力できることなんてないと思うけど」

「分かってる、無理にとは言わない。ただ、ゲームマスターはNPCも担当するから、適度に相の手を入れてほしいんだよ。ほら、一人芝居は寂しいから」

「ああ、そういうこと。だったらやってもいいけど……あんまり期待しないでね?」

「ありがとう、すごく助かる。

 じゃあ二人共、早速自分のキャラクター――騎士を作ってみようか」

 

 




 続きはまだ書けていません。書く気力も殆どありません。一度エンジンがかけると止まらなくなって、私の生活リズムが崩れるためです。

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