Fate/Grand Order 卓上円卓領域ロストロイヤル   作:YASUT

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 「TRPG未経験者」が描く「Fateキャラ」達の「TRPG」の「小説」。
 我ながら無謀な試みだなあと思う。分かりづらい点が多々あると思いますが、何卒ご容赦を。


拉致プロローグ

 ――死体色の肌とは、どんな色だろうか。

 きっとこんな感じなんだろうな、と思わせる少女が今、自分(オレ)の部屋にやって来た。

 人間らしい赤さの消えた白い肌。くすんでしまったブロンドの髪。彼女が纏う黒い現代服が、その異質さをより一層際立たせる。

 少女は部屋に入るなり、不機嫌さを一切隠さず眉を潜め、オレを睨みつける。以前なら全身が竦んで動けなくなっていたかもしれないが、今ではもう慣れたものだ。

 むしろ嬉しささえ感じている。こうしてストレートに感情をぶつけてくれるのは、現在の彼女――反転(オルタ)化してしまった彼女の美徳だと思うのだ。

 アルトリア・ペンドラゴン。人は、歴史は、彼女をそう呼んでいる。反転していてもそれは変わらない。

 

「マスター、話がある」

 

 そう言って、彼女は懐から一冊の本を取り出した。

 表紙に映っているのは、目の前にいる黒い少女とは正反対の人物。

 すなわち――金色の髪、人間らしい肌、貴族のような衣装の少女。プリンセス、と呼ぶのが相応しいかもしれない。

 本のタイトルは――『ロストロイヤル』。言わずとしれたゲームの本だった。

 

「唐突だが、私と一緒にこのゲームをやってもらう」

「……なんでさ?」

 

 思わず疑問の声が溢れてしまった。

 

「――――」

「う……」

 

 こちらの呟きが聞こえてしまったらしく、アルトリアは眉間の皺をより一層強めた。

 ……だって、仕方ないだろう。一緒にゲームをやってもらう、なんて普段の彼女からはとても考えられない。

 反転しているとはいえ彼女は騎士王(アーサー王)。あらゆる状況で頼りになる英霊であり、最優のサーヴァントだ。

 だが、悪い言い方をすればそれだけとも言える。生死が掛かる場面では頼りになるが、それ以外の場面で彼女に関わることなんて、滅多にない――

 ――いや、やっぱりあるかも?

 いやいや、仮にあったとしても『ゲームをやってもらう』はやっぱりおかしい。ジャンヌ・ダルクの反転(オルタ)ならばともかく――。

 

「――あ。そうか、それだ」

「何を考えているか分からないが、おそらくはそれだ。

 ……あの突撃女。先日、これを貴様とやったらしいな」

 

 アルトリアの言う通りだ。

 ボードゲームに飽きた、何かいい暇つぶしはないかと駄々をこね――ではなく、文句を言ってきたジャンヌ・オルタに、ゲームの本を提供したのだ。

 ゲームの本とは、俗に言うTRPGの本。サイコロと鉛筆、そして会話を武器に魔王と戦うRPGだ。

 ジャンヌ・オルタに手近なTRPGのルール本を提供したところ、よく分からないのでとりあえずやってみるという流れになり、一度だけ彼女と遊んでみたのだ。

 しかし、お互いTRPG初心者。何をするにも時間がかかってしまい、一つシナリオを終える頃には日が暮れていた。

 ただ、その時使った本は『ロストロイヤル』ではなかったはずだ。

 

「前は別のTRPGをやったんだけどね。確か……『ログ・ホライズン』、という本だった」

「知っている。あの辞書並みに分厚い本だろう?

 あの女、先日マスターとこれで遊んだのだと自慢してきてな。あそこがカルデアの廊下でなかったら、極光反転カリバーをお見舞いしていたところだ」

「け、喧嘩はほどほどに……」

「ほどほどに? 何を言っているマスター、そんなこと不可能に決まってるだろう。我々はどちらも反転した存在だが、性質はまるで異なるのだから。

 ……いや、あの女のことはどうでもいい。今はこれだ。

 貴様が誰とゲームをしようと一行に構わんが、あの女とやったのなら話は別だ。

 私とも付き合ってもらうぞ、マスター?」

 

 ふむふむ……なるほど。

 

「つまり、嫉妬?」

 

 スパッ――。

 パカッ――。

 ――ドン。

 

 突如、テーブルが真っ二つに割れた。流石最優のサーヴァント、とんでもない太刀筋だ。

 ……今度口を滑らせたら、テーブルの二の舞だろう。

 

「最近耳が遠くてな。何か言ったか、マスター」

「イエ、ナニモ」

「よろしい。では始めるか。

 紙、筆、ダイスは……既に揃っているようだな。後は何か摘めるものを……フライドポテト辺りでどうか?」

「いいんじゃないかな? 後は飲み物とか」

「そうだな、賢明な判断だ。

 よし、準備しろマスター。私はその間、これを読み込む」

 

 アルトリアは『ロストロイヤル』の本を手に、我が愛しのベッドに腰を下ろした。

 なんてことだ。我が王国が一瞬で征服されてしまった。

 

「……何をしているマスター。急げとは言わんが動け。遅刻は容認するが、怠惰は許さんぞ」

「承知しました、我が王」

「うむ、くるしゅうない」

 

 ◆

 

 反転したアルトリア・ペンドラゴンは雑な料理を好む。

 雑とはつまり、大量生産系の大味。ジャンクフード。

 個人が丹精込めて作った料理よりも、誰でも作れる大雑把な料理のことだ。中でもハンバーガーがお気に入りらしい。

 

 ということで、食堂から持ってきたのはトレイ一杯のジャンクフード達。

 山のように盛られたフライドポテトと各種ソース。

 一人分だと居心地が悪いだろう、ということで用意したハンバーガー二つ。

 さらにまた居心地が以下略、ということで用意した炭酸飲料二つ。

 これだけの物をささっと用意できる辺り、カルデアの料理人はやはり凄い。

 

「む……思ったより早かったな。まだ読み終わっていないというのに。

 いや、早さは才能だ。遅くても文句は言わんが、早ければそれなりに褒めるとも。

 流石は我がマスター。古今東西の王達にこき使われ、下っ端根性が身に付いたらしい」

「それ、褒めてます?」

「褒めてるとも。早さ同様、八方美人もまた才能だ。少なくとも私はできない」

 

 でしょうね、と言葉にしそうになったのを引っ込める。テーブルの二の舞は御免である。

 

「さて。摘みを用意してくれたことには感謝するが、一つ重要なことを忘れていた。これは私の失態だ、すまない」

「と、いいますと?」

「うむ。この本によると、TRPGにはゲームマスターという進行役が必要らしい。私と貴様はプレイヤーなのでこれはできない。つまり、最低でもあと一人は必要になる」

「あー、それは確かに」

 

 いつの間にかプレイヤーにされていたことはスルーしよう。

 ゲームマスターか。前回ジャンヌ・オルタとプレイした時も同じ問題にぶつかったっけ。あの時もこうやってパシられてたなあ……。

 ……マスターの尊厳、zeroかもしれない。

 

「ちなみにマスター。あの突撃女とやった時は誰がゲームマスターを務めた?」

「食堂で下拵えしてた赤い人」

「なるほど」

 

 アルトリアはパタンと本を閉じて脇に置いた後、ベッドから立ち上がった。

 

「少し待っていろマスター。拉致……ではなく、連行してくる」

 

 それはどう違うのだろうかと思いつつ、マイルームから退出するアルトリアを見送った。

 

 ◆

 

「一度ジャンヌ・オルタに捕まった以上、こうなることは想定の範囲内だ。抜かりはない」

 

 自信満々に拉致されてきたのはカルデアの食堂を護る赤い人、アーチャーである。

 白髪、褐色、赤い外套。弓兵でありながら剣や盾を使い、何故か料理はプロ級の腕を持つ変わり者だ。

 今回も食事の下拵えをしていたところでアルトリアに捕まったらしい。しかし想定の範囲内というのも事実だったようで、アーチャーは軽食一式と飲み物が乗せられたトレイを持って来ていた。

 

「む、テーブルが割れている……? 何かあったのか、マスター」

「何でもないよ。地雷を踏んだだけ」

「……大方把握した。火遊びは程々にな。

 しかし、食事を床に置くのは衛生上よろしくない。代わりの物を取ってこよう」

 

 ◆

 

 それから待つこと十分。

 片手で持ち運び可能な小机を持って、アーチャーは再び入室した。

 持ってきた机は足が内側に曲がるタイプの物。アーチャーはそれを組み立てた後、ジャンクフードと軽食をその上に置き、それぞれに飲み物を配ってくれた。

 

「相変わらずの奉仕体質だな、アーチャー。だから貴様はオカンだの過保護だの言われるのだ」

「何を言うか。これらは全て私が用意したのだから、これくらいは当然だろう」

「? ジャンクフードはマスターだろう?」

「渡したのはマスターかもしれんが、用意したのは私だ」

「――――」

 

 ギロリ、という効果音がつきそうな鋭い視線が向けられる。不満ありありという目つきだ。

 圧倒的な気迫につい、と目を逸らす。一体何が不満だったというのか……。

 

「……人を使うのもまた才能だ。それをとやかく言うつもりはない。ないのだが、それでも言わせてもらう。

 失望したぞマスター。貴様も私のマスターならば、ジャンクフードの一つや二つ、自らの手で用意してみせろ」

「……善処します」

「ならばよし。

 さて、アーチャー。言うまでもないだろうが、貴様にはゲームマスターをやってもらう。題材はこれだ」

 

 アルトリアは先程まで読んでいた本のタイトルをアーチャーに見せた。

 

「『ロストロイヤル』……? 確かジャンヌ・オルタは『ログ・ホライズン』というタイトルだったが」

「頭を働かせろ、アーチャー。私があの女の後塵を拝するとでも?

 一度シナリオを終えている以上、同じゲームでは勝ち目はない。ならば、全く別のゲームに手を付けるのは当然だろう。

 それに、あの本は少々分厚い。一人で読み耽るならともかく、即席でやるにはハードルが高い」

 

 流石、よく分かってらっしゃる。

『ログ・ホライズンTRPG』はルールが凝っている分、ページ数が半端なく多い。ルールを把握するだけでも時間がかかり、キャラクターを作るのにはさらに時間がかかる。前回ジャンヌ・オルタとやった時は三人とも初心者だったため、ロールプレイを除き何かもがぐだぐだだった。

 

「手頃なものはないかと調べている内に、興味深いものを見つけてな。どうせなら親和性の高いものをと思い、これを選んだのだ」

「承知した。『ロストロイヤル』ならば私も見覚えがある。実際にプレイするのは初めてだが、何とかなるだろう」

「そうか。では頼もう。私とマスターはプレイヤーを務める。

 ……ところでマスター。貴様は『ロストロイヤル』のシナリオを知っているか?」

 

 アルトリアから問いをかけられるが、勿論知らない。恥ずかしながら、オレはTRPG自体に馴染みがないのだ。

 

「ごめん、知らない。どういう話?」

「教えてやってもいいが、それではつまらんな。

 謎解きだ、マスター。『ロストロイヤル』、貴様はどんな話だと思う?」

「え……? ええと、ロイヤルは王国とか王室を指す言葉で、それがロストしたわけだから……王国が滅んだ後の話?」

「正解だ。

 では、その王国は何処だと思う?」

「ええ?」

 

 舞台がどんな王国か、ということか?

 ただでさえ架空の舞台なのに、ノーヒントで分かる訳が――

 

「――あ」

 

 ――いや、もしかしたら分かるかもしれない。

 アルトリアはさっき、自分と親和性の高いTRPGと言った。ならば舞台は予測できる。

 

「もしかして、舞台はブリテン……いや、キャメロットか?」

「半分正解だ。『ロストロイヤル』は、当時のブリテンにアレンジを加えた架空の島が舞台となる。まあ、魔境という意味ではそう大差はないがな。

 ……これ以上私が話しては、ゲームマスターの仕事を奪うことになるな。アーチャー、進行は任せる」

「承知した」

 

 アーチャーはアルトリアから『ロストロイヤル』の本を受け取り、話を進行する。

 

「先程彼女が言った通り、『ロストロイヤル』は滅びた王国が舞台だ。

 王国は魔王、魔人、妖魔といった魔族に支配され、暴虐の地へと成り果てた。

 かつて『円卓の騎士』の一人だった君達プレイヤーは、まだ幼い王子を連れて堕ちた王国を脱出する。

 王子と共に各地を旅して義勇兵を募り、いずれは魔王を討伐して国を治めるという流れだ」

 

 敗北からの勝利……なるほど、先が気になるあらすじだ。

 ただ、かつてその『円卓の騎士』を率いた王様がここにいるんですけどネ。

 

「そうか。私は王子に仕える騎士となるのか」

「言っておくが、騎士と王子を兼任する、というイレギュラーは認めないぞ?

 たとえ君が騎士王だろうと、同じ卓を囲んだ以上はルールに従ってもらう」

「言われずとも分かっている。ここで自分ルールを振りかざすようでは、あの女と何も変わらんからな」

「ならばよし。

 さて、次はキャラクター……いや、騎士を作ってみたいと思うのだが……マスター、プリンターを借りるぞ」

「あ、そっか。いいよ」

 

 キャラクターを作るのなら、それを記録する専用のシートが人数分必要になる。それ以外にも、例えばログ・ホライズンTRPGにおけるエンカウントシートのような、プレイする上で必要なシートが何枚かあるはずだ。

 アーチャーは本の各ページに折り目をつけ、次々と必要なシートを印刷する。

 そうして待つこと数分。アーチャーは本と何枚かのシートを手に、テーブルに帰還した。

 

「待たせたな。これから自分の分身たる騎士を作るのだが、その前にこれを渡しておこう」

 

 アーチャーはテーブルの上に、手の平ほどの四枚のシートを提示した。

 それぞれシートには――

 

 我は[寛容]の騎士道に殉じ、命題[A]こそが正しいと宣誓する。

 我は[戦友]の騎士道に殉じ、命題[A]こそが正しいと宣誓する。

 我は[主君]の騎士道に殉じ、命題[B]こそが正しいと宣誓する。

 我は[冒険]の騎士道に殉じ、命題[B]こそが正しいと宣誓する。

 

 ――と書いてある。

 

「これは?」

「これらは自分の騎士を作る上で必要になるハンドアウトだ。

 先程も言ったが、『ロストロイヤル』は堕ちた王国から逃げ延びた幼き王子と、それを守護する騎士達の物語だ。

 王子には常に二つの選択肢が立ちはだかる。すなわち、命題[A]と命題[B]。

 騎士達は自らが殉じる騎士道に基づき、苦悩する王子にどちらかの命題を勧めるのだ。

 君達にはどちらかはA、どちらかはBを選び、それに殉じたロールプレイを行ってもらう」

「それじゃあ、騎士道は全部で四種類しかないのか?」

「いや、全部で六種類だ。それぞれきちんとした意味があるから、騎士を作る時に吟味してくれ。

 次に、今回使用するシナリオのあらすじと、王子に突き付けられる二つの命題を紹介する。

 

 王子と騎士一行は旅の道中、魔族に支配されたとある街を訪れる。王子が生きていることは既に街中に知れ渡っており、今は反撃の機会を伺っているという風聞が広がっていた。

 それで人々が希望を持てるのなら結構なことだが、おかげで街ごとのチェックも厳しくなっている。君達は旅の劇団に扮装することでこれをやり過ごすことにした。

 しかし、君達は街中で軽薄そうな男に声をかけられる。彼の名は『ダンディ』。元々は街を護る騎士だったが、街の住人を人質に捕られて魔人となった人物だ。

 ――『ダンディ』は旅の劇団に扮した君達に、自分を主役に見立てた芝居を打ってくれないか、と持ちかける。

 命題[A]は、言われた通り『ダンディ』を主役にする。

 命題[B]は、無視して『ダンディ』を悪役にする、だ。

 

 ここでキーになるのは、魔人の言いなりになるかどうか。そして、『ダンディ』を主役にすることで王子に向けられる注目を逸らすかどうかだ。

 命題[A]の場合は『ダンディ』が主役。魔族の目を『ダンディ』に集めることで、君達は安全に街を通り過ぎることができる。ただし、魔人の言いなりになったことで、王子は屈辱を味わうことになる。

 命題[B]の場合は王子が主役、『ダンディ』が悪役。王子は一時の爽快感を得られるが、魔族達に正体が露見する恐れがある」

 

 つまり、旅の劇団に変装してしまったが故のハプニングか。どちらの命題でも芝居を打つことになるのは確定のようだ。

 命題[A]と命題[B]、どちらも一長一短で甲乙付けがたいな――――と思っていたが、アルトリアは即座に片方を選択した。

 

「考えるまでもないな。私は命題[B]を選ばせてもらう。この私が仕える主君が敵に頭を下げるなどありえん」

「そうか。ならばマスターは強制的に[A]だ。そうでなければゲームが進まない」

「はい、了解です」

 

 ――というわけで、オレは命題[A]。[寛容]、あるいは[戦友]の騎士道に殉じ、『ダンディ』を主役にする。

 捉え方によっては主君を護るとも言える。この要素はロールプレイに使えるかもしれない。

 

「さて、ここからがようやく騎士の作成だ。

 習うより慣れろ。該当のページを参考に、各々自分の騎士を作ってみてくれ。

 私はその間に、今回戦う敵のデータを作っておこう」

 

 

 ◆

 




 実はここまでで力尽きた。次回は台本形式メインとなります。
 明日、PC作成まで投稿予定。暫定最終回。

 ……エミヤ・オルタに陽気さが欠片でもあれば真っ黒オルタTRPGにできたんだけどネー。
 あれはまずい、色々と。とりあえずSAN値逝ってる。

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