無事に船まで辿り着いた俺達は二手に分かれた。
ガソリンが足らないよ、的な感じで風石代わりに使われてるワルド、俺とルイズの二人で分かれた形だ。
お互いに部屋を借りて過ごしている。
使い魔だけど、別々の部屋なのはもしかしたらワルドに見られて恥ずかしい的な事をルイズが思ってかもしれない。
言ってなかったが、ワルドはお前のことが好きなんじゃ無くてお前の力が目的だぞ。まぁ、言わないけどな。
「て、敵襲!」
「な、何だって―!?」
船員の声に俺が反応した。
どうやら、船の方に空賊が襲いかかってるらしい。
ルイズと一緒に、取りあえずどうするか話し合う。
えっ、こうなったら戦うしか無い。
お前、無茶苦茶だな。
停戦命令です、仕方ない受け入れよう、なんて会話をしている船員達によって戦おうとする俺達は関係なく止まった船。
慌てた様子でワルドがやってきた。
「大変だ、空賊が襲いかかったらしい」
「知ってる。よし、戦うぞ」
「えっ!?」
「ルイズだってやる気満々だ」
「い、いや危険だ!私は精神力が足りないし、船員が人質に取られる可能性だってある」
「うるせぇ!役立たずが!」
理由の無い暴力がワルドを襲う。
今のお前なんか怖くないんじゃボケェ!
ついでにガンドを数発弱めに打ち込んで置いて放置した。
「な、何してんのアンタ!」
「敗北主義者はいらない。それよりルイズ、敵は空賊じゃ無いぞ。足音が訓練された兵隊のそれだ。敵はゲリラだ、特殊訓練を受けたゲリラだ!」
「本当に何を言ってるの、あぁワルド様しっかり」
やめてやれ、死ぬほど疲れてる。
そんなやりとりをしていると、俺達の元にドアを蹴破ってオッサンが入ってきた。
「空賊だ!邪魔するぞ」
「知ってるよ、邪魔するなら帰って」
「なんでだよ!」
取りあえず、腕からのガンド連打、相手は吹っ飛んで気絶して風邪を引く。
「どういうことなの、人が吹っ飛んで」
「細かいことは気にしてはいけない、いいね」
「あっ、ハイ」
騒音に釣られて他の奴らが集まってくる。
その誰もが杖を携帯しており、空賊ではないと分かった。
もはや、メイジであることは明白である。
「随分と派手になってくれたなぁ。だが、ここは空の上でだぜ。いつまでも優位に立てるとは思わないことだ」
「ふ、ふん!私はトリステインの大使よ!アンタ達こそ、いつまでも優位に立っていられるとは思わないでちょうだい!」
「大使だと?お嬢ちゃん……アンタ王党派か、それとも貴族派か?返答次第じゃ――」
「王党派よ!文句あんの!」
ルイズの物言いに、周囲が固まる。
流石のワルドも結末を知らないから顔面蒼白である。
俺は結末を知ってるから安心しているが、震えながら啖呵切るルイズの度胸には驚かされる物がある。
「ふっ、あははははは」
「な、なにがおかしいのよ!」
「いやなに、随分と誇り高いと思ってなぁ。自己紹介がまだだったなぁ」
ビリビリと髭が外れていく。
それから、バンダナや変装していた物らしきものを外すと青年が立っていた。
「アルビオン王国皇子、ウェールズ・テューダーだ。さあ、これで名前を教えて頂けるかな、誇り高き大使のお嬢さん?」
「お、皇子……」
「しかし、証明する手立ては……おや、その指輪。そうか、アンリエッタ……」
王子が指を近付けると、ちっちゃい虹が出来る。
「水と風は虹を作り出すんだ。これで、私が皇子だって分かったかな」
「こ、これはその……今までの非礼を」
「問題ないさ、アレは私の方にも落ち度があったさ」
アルビオンの立地上、兵量攻めには滅法弱い。
故に、補給線を絶つために空賊のフリをしていた、なんて説明を受けた。
「手紙は城にあるんだ。だから、城まで行かないと手に入らない」
そういう皇子に従って、城まで行った俺達は無事に手紙を回収。
その後、宣戦布告に伴い最後の晩餐をやるからパーティーに出てくれなんて言われたが、俺は従わなかった。
『マスター』
「あぁ、すごいパワーを感じる」
アルビオンは風石によって浮いているからか、地下にエネルギーが大量に蓄えられていた。
それこそ、エレメントを使うパラケルススなどより顕著に感じるほどだ。
「これ、使っちゃダメかな?なんかすんごい武器とか作れそう」
『この島が落ちますよ』
「どうせ滅びるしいいんじゃないだろうか。バルスしろよ、バルス」
城のベランダでそんなことを呟いていると、パーティーを抜け出してきたルイズがやってきた。
「何してんだ?」
「アンタこそ……」
そこからは会話のない無言が続く。
余りの静けさに、後ろの方から談笑するオッサン達の声が聞こえるくらいだ。
「どうして……どうして彼らはあんなにも笑っていられるの」
『革命する側にも大義があり、干渉してはいけないとは分かっています。でも、国が滅ぶのを認めることはしたくないですね』
それは、俺に話しかけた訳ではなさそうだった。
どちらかというと、口から零れてしまったような物だった。
「助けて、あげたいのか?」
「当たり前よ!それがどういう理由や流れであろうと、目の前で起きる理不尽な死を受け入れられる訳がないじゃない!」
「そうか、分かった」
俺はちゃんと事情を知っている。
これが圧制に苦しむ民の起こしたものではなく、貴族が共和制を強いるために王族を廃し聖地を奪回しようとするものだ。
だから、マシュが思っているような物ではない。
それでも、どちらにも傷付いてほしくないマシュは見過ごすことも味方することも悩んでいる。
「えっ?」
「勘違いするな、別にお前の為じゃないからな」
ルイズと別れるように離れた俺は、途中でワルドとすれ違う。
結局、ワルドを始末することは出来なかったので原作のようになってしまったのかもしれない。
だが、悲劇を見逃すほど俺は甘くない。
少なくとも、それがマシュを傷付けるなら取り除かないとダメだ。
「
「がっ……な、何を……」
「裏切者には死んでもらう」
ジワリと、ワルドのシャツが血に染まっていく。
俺の背後から刺したアゾット剣が、心臓を貫いたからだ。
「何をしているんだ!?」
「動くな!コイツはレコンキスタと通じている、裏切り者だ!」
何を馬鹿なと信じられない様子の者達が、杖を取り出して構えだす。
まぁ、事情も知らなければそうだろうな。
「ルイズ……助けてくれ……」
「死にぞこないが」
「やめなさい!」
周囲では人の壁が形成されていた。
血塗れのワルドに俺、その二人を囲むように皆が杖を構えていたからだ。
「どうしてこんなことを……」
「お前や皇子が傷付くと悲しむ奴がいるからだ」
「彼を捕らえよ、そしてワルド子爵の治療を!」
王の命令に、全員が動き始めた瞬間に俺はワルドを抱えてベランダから外に飛び降りた。
悪いが、ここで終わるつもりはない。
「クソが……」
「うるせぇ」
唸るワルドを放り投げ、俺はペガサスを限定展開する。
この高さだ、ワルドも死んだことだろう。
城から出た俺は城下町の一角に逃げ果せた。
「いるんですよね」
「やぁ」
俺の呼びかけに、背後から金の粒子が集まり子ギルが現れる。
俺が助けを必要とする、それすらお見通しだと思ったとおりだ。
「力を貸してください」
「君がそうお願いすることは分かっていたよ。まぁ、大人の僕ほど狭量じゃないので貸してあげてもいいですよ。なんだかんだで、ここでの生活は楽しかったですし」
そう言って、子ギルの姿は消え一枚のカードだけが宿の一室に残っていた。
明日、俺はやってくるレコンキスタを迎え撃つ。
そして、その功績を持って今日のワルドの件は帳消ししてもらおう。
新生活が始まる、忙しいですね。
更新できる気がしない、読んでくれてた人はご愛読ありがとう、今後は不定期になります。
今までもだって?すまない……