見事ルイズが捕まえたということでシュヴァリエの爵位を貰えることとなった。
ルイズはいらないと拒否しそうになったが、俺の代わりに貰ってくれと説得(暗示)によって諦めて貰ってくれた。
それから数日が経過した。俺はルイズと会うのは夜だけにして、基本的に工房に籠もっていた。
兄貴達は退屈そうだが、俺はパラケルススとデルフリンガーを研究していたからだ。
「内包する神秘に関しては古いだけあって申し分ないな」
『魂に関して、造形の深い者が関わったのか』
「偽装、念話、吸収、操作、憑依、よく分からない物が一つ」
『素晴らしい。事象を否定する、これは即ち無の否定に他ならない。おそらく、死者の蘇生に関わる物でしょう』
失われ、魂が無いという状態を否定し、魂があるとして蘇らせるということが出来るとのことだった。
俺には複雑すぎて分からなかったが、パラケルススは理解できたのだろう。
デルフリンガーを作った人は、相当な奴のようだ。
「さて、憑依とか試してみるか」
『そうですね、中身もあれば良いですが外側だけでも恐ろしいほどの神秘を含んでますから』
俺はデルフリンガーを鞘から出してやる、コイツ鞘の中だと喋れねぇからな。
『おでれーた、使い手が入り込んで来やがるんだからな』
「解析してる間は感覚があるのか」
『ったくよぉ……だが、確かにオイラはそんなことも出来たと思い出せた。そうだったそうだった』
「さっそくだが、こっちの鎧に憑依してみてくれ」
『無理だ。構造が複雑だと、時間が掛かっちまう。もっと分かりやすい、剣とかにしてくれ』
「その点は問題ない」
結界の中で時間を加速させ続けるなんてことは、造作もないことである。
むしろ戻す方が難しいレベルだ。
ちゃんと説明して、無理そうなら元の状態になることを条件に憑依してもらった。
ギーシュが作ったみたいな、鎧人形にデルフリンガーが入れば魔法を吸収しながらずっと動き続ける彷徨う鎧が出来るはずである。
時間の方は数十倍にもしているが、一日で終わるわけもないので放置する。
複雑だと意識を表層に出すのが大変みたいなことを言ってたので、できるまで時間かかるだろう。
「さて、そろそろ帰るか。一か月も経たないうちに色々ありすぎだろ」
「まぁ、そういう運命ということでしょう」
「心臓に悪いな」
背後から声がしたと思えば、そこにはフルーツを片手に食べる子ギルの姿があった。
地下室でソファーに座ってる姿は、大人バージョンを思い出させる。
それにしても、いつのまにいたんだよ気配遮断スキルを持ってたとしても驚かないレベルで気付かなかった。
「何かご用ですかね、正直無理難題で首とか吊りたくないんですけど」
「新しいヒントを上げようと思ってね。ヒントは女性だよ、あと今夜は面白い者と出会えるはずさ」
「面白い者?」
「愚かしい小娘だよ。王を詐称する道化、いや周囲に対して省みないのは暴君の資質か」
「……あぁ、大体誰か分かりました」
ずっと地下室に籠ってたから気付かなかったけど、ロイヤルビッチが来てるのだろうか。
いや、イベントを持ってくるキャラとしては完璧だよ。コイツならやりかねない、そう思わせる下地を作りあげてる訳だからな。キャラ設定が上手いってことだ。
でも現実で考えると、ヤバい地雷なんだよな。
「取りあえず、ヤバそうなときに飲んでください」
「なんですこれ?」
「お薬です。回復薬出しときますねぇ」
子ギルに薬瓶とお言葉を頂いた俺はルイズの元に向かった。
使い魔を見せるとかそういうイベントがあったはずだが、なかったのは俺がサボったからだろうか。
場所は教えているので呼びにくるはずだから、それはないのだろう。
部屋の前まで行くと、ギーシュがコソコソと扉の前でしていた。
「オラァ!」
「うげぇ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
コソコソするギーシュを蹴り飛ばすと、勢いのままギーシュは部屋へ雪崩れ込む。
そのせいで、ルイズから絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
「ギーシュ!?何してんのアンタ」
「ご主人、夜這いをしようとした奴を捕まえたぞ」
「ま、待ってくれ誤解だ!」
「犯人はいつだってそういうことを言うのだ」
「し、信じてくれ!ルイズ、君から彼を止めてくれ」
「……本当に誤解なの?」
「疑ってるのか!そんな、そんなに僕が信用できないのかい!」
「決まってるでしょ」
吐き捨てるようにそう言われ、見下すような視線が送られる。
君、女遊びしすぎじゃないか。
そんな様子をキョトンとした顔で見ていた女の子が、こっちを見てニコッとした。
「ゴフッ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
『ますたぁ?』
こ、こいつはクセェ!地雷臭がプンプンするぜ!
「だ、大丈夫ですか!これでも水のメイジです、治療を――」
「ガハッ!?」
『ダメですよぉ』
く、来るな!俺の傍に近寄るんじゃない!
「どうしましょう、さぁ此方に」
「グハァ!?」
「出血が止まりませんわ、きっと何か大きな病気をしているに違いありません」
や、やめろ……治療を上回る速度で焼かれるから傍に来ないでくれ。
正直、ケガより酸欠で頭痛くなってきたから来んなマジで!
「だ、大丈夫かい?」
「奴を止めてくれ」
「何を言ってるんだい?」
セ、セイバーが俺を殺しに来る、違うこいつはセイバーではない。
ヤバい錯乱してきたぞ、そうだこういう時こそあの時貰った薬を飲まなくては……ふぅ、すごい全快した。
「もう大丈夫です、だから近くに寄らないでください」
「あら、何故でしょう」
「横のギーシュがあなたを襲います」
「襲わないよ!」
何とか収まったが、それにしてもルイズといるとき以上に反応してくるとか清姫のセンサー的な何かに引っ掛かったのか。
恐るべし、誰が呼んだか知らないがロイヤルビッチ。
「そ、そそそんなことより!ギーシュ、どこから聞いてたのよ!縛り首になるわよ!」
「えっと、その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せください!」
「な、なに言ってるのよ!」
「まぁ、グラモンとはもしやグラモン元帥の、それは心強いですわ」
まるで取って付けたような理由だが、この不幸な姫の身を案じるとは立派な貴族ですわと華麗にスルーされた。
お、恐ろしい。笑顔で学生を死地に送ったぞ、この女。
「ところで何の話なんだ」
「そっか、アンタ途中からだったから聞いてないのね。姫様がそう仰るならギーシュはいいけど、事情も知らずに連れてかれるのは可哀想だから説明するわ」
そのあとの事は、彼氏に送ったメールが見られると今度結婚する相手にヤバいから消してきて、あっ戦場で危険だけど極秘だからルイズ達だけでどうにかして、私ってば不幸だから貴方しか頼れないの、という話を聞かされた。
うん、ふざけんなよ!どう話を整理しても頭おかしいだろ!アニメだったら、そーなのかーで流してたけど現実で考えるとやべぇな!
『アイツと同じタイプの女だぜコイツわ』
「兄貴が誰を思い浮かべてるかなんとなく分かった」
本当、女王って碌なのいないな。
というわけで、俺達はトリステインからアルビオンに行くことが決行した。
確か、この後にルイズの婚約者が来て、王子とあって、晩餐会で喋って、結婚式でバトったと記憶している。
取りあえず、あとで敵になるからこっそり髭は殺そう。
「……違うな」
「はい?」
首を傾げる姫様を見ながら、転生者じゃないと判断した。
トリステイン貴族で女か、ルイズの縁者とかじゃないだろうな。
大分絞られたが、モブとかだと違いとか分かんないんだがな。