木造の天井が見えた、知らない天井である。
「知らない天井だ。人生で言ってみたい台詞5位くらいかな」
「何を馬鹿なことを言ってるのかしら、この下男は」
「あぁ?」
誰だ、と起き上がって見れば金髪に巻き髪の女がいた。
あれ、いや、うーんもしかしてモンモランシー?もっとキャバ嬢のような盛った髪型だと思ってたんだけどな。
「アンタ、モンモランシーか?」
「どこでその名を……私達、初対面よね?」
「えー、あー、ギーシュの彼女だろ?」
おそらく、ここは医務室的な場所で彼女は治療でもしてくれたんだろ。
確か香水のモンモランシーだっけか、薬とかも得意だった気がする。
「はぁ、元気になったなら早く顔でも見せてあげなさい。あの子、結構な額を払ってくれたんだから」
「金取ったのか?なるほど、治療費ってことか」
「私、金払いの良い子は好きよ。アンタ、ドンドン怪我しなさい」
そしたら有料で治してあげると嬉しそうにモンモランシーが言う。
コイツ、家が貧乏なんだっけ金に汚いなぁ。
治療を終えた俺の身体は無事に回復していた。
その身体で、そのままルイズの部屋に行くも、中には誰もいない。
教室か、と思えばどの教室かは分からない。
「あっ、アンタ俺のご主人知らないか?ルイズ様だよ、ルイズ様」
「あぁ、あの方なら教室で掃除しておりますよ」
「掃除?」
どこの教室か、そこらを歩いていたメイドに聞いた俺は辿り着いて察した。
教室の、教卓を中心に焦げた床が見えた。
吹き飛んだ机とか割れた窓ガラス、爆発させたんだろうなぁと把握した。
つまり、錬金の授業とかあったんだろう。
でもって描写されてなかったけど、他の生徒は別の教室の違う授業を受けてるってことかな?
「よぉ」
「ッ!随分と遅かったじゃない……」
「おう、っていうかこっち向けよ」
何でか話しかけたら背中を向けたまま返事してきやがった。
あれれ、もしかして泣いてます?
ぼっちで作業してたから寂しかったとかそんなんすか?
「手伝うべきか?」
「あ、当たり前でしょ!ご主人様にやらせてるんじゃないわよ!」
振り返ってキッと睨みつけるように此方を見たルイズの目元は、少しだけ赤く腫れていた。
やっぱり泣いてたのかなぁと思わずにはいられない。
コイツって今、いくつだっけ?中学生ぐらいかな?多感な時期だしなぁ。
可哀そうにと頭を撫でてやる。
一応、魔術師の端くれだ……修復も出来なくはない、はず。
復元の魔術、苦手なんだけどなぁ。
「分かった分かった」
「触んなぁ!」
「子供はもっと頼って良いんだから意地張んな」
「子供扱いするなぁ!」
あぁ、なんか猫ってこんな感じなのかなぁ。
ツンツンして流石ツンデレの元祖やでぇ。
『ますたぁ、浮気ですかぁ?』
「ゴフッ……」
「きゃぁぁぁぁ!?吐血、吐血してるじゃない!?秘薬使ったのに、なんで!?」
アンサー、内側から焼かれたみたいです。
だ、大丈夫……治療魔術あるから。
教室の後片付けは魔法を使ってはいけないらしかった。
俺から言わせれば、魔法じゃねーよって感じだが世界が違う。
普通に窓ガラスとか治したけど、これ魔術だから問題ない、いいね。
片付けが終わったのは昼休みに入る頃だった。
「なぁ、そういえばこの学校で有名な奴とかいないか?国でもいいけどさ」
「急に何よ……そうね、タバサとツェルプストーかしら?」
「どう有名なんだ?」
「タバサは優秀なの、ツェルプストーは男をとっかえひっかえで最悪の女よ」
あー、そこは原作通りなのなと納得する。
やっぱり俺TUEEEEとかしてる奴じゃないのだろうか、他国にいるとかそんなか?
「外国だとどうだ、なんかスゲー奴がいたりしないか?」
「それなりに勉強してるけど、いないはずよ。まぁ、知らないだけってこともあるでしょうけど」
ルイズに限ってそれはないと思っている。
こんなんでも寝る前にずっと勉強して、魔法以外は優秀だ。
悲しいのは生まれる世界を間違えたか。
魔法じゃなくて頭の良さで見られる世界なら、容姿と合いまってそれなりの高学歴になれたはずだ。
「アンタ、ツェルプストーだけはダメよ!いい、我が家とツェルプストーはそれはそれは――」
「確執があるんだろ、知ってる知ってる」
「嘘おっしゃい!まだ喋ってないわよ!」
「大丈夫だよ、恋人を寝取ったとかだろ?俺は従者だけど、恋人じゃねぇんだから平気だよ」
「ななな、何言ってんのよ!誰と誰が、こここ恋人よ!」
「ゴフッ!?」
突然の吐血に俺自身もビックリする。
アレか、こうラブコメの波動を感じると清姫は殺意の波動に目覚めるのか。
二回目の吐血にはルイズも流石に慣れた。ドン引きはしてるけどな。
そして、色々あったが部屋に帰ってまず初めに見たのは巨大な椅子だった。
「やぁ、遅かったじゃないかマスター」
「ぜ、全裸だぁぁぁぁぁぁ!?」
「勝手に模様替えされてるぅぅぅぅ!?」
そこにあったのは巨大な椅子だった。
何故か赤い布が張られていたり、天蓋付きのベッドがあったり、フルーツの盛り合わせとぶどうジュースの入った瓶がテーブルにあった。
ただ、なんでか小ギルが全裸で椅子に座っていた。
なんでさ、いやプリヤでもベッドに裸で寝てたけどさ。
「っていうか、なんでギル様だけ受肉してんの?」
「それはボクの英雄としての格が違うから、って訳じゃないですけどね。自力でどうにかできる物を持ってますから」
「スゲー、ギル様スゲー」
クラスカードと別でイリヤと色々してたことはあったけど、あれみたいなことなんだろうか。
じゃあ、マシュとかも呼び出せたりできるのだろうか。
「あっ、無理ですよ。膨大な魔力を自分で供給出来るなら可能ですけど、ボクの宝物は使わせる気はないですから」
「ジルドレ的な宝具使ってるのかぁ、そーなのかー」
「ちょっと無視してんじゃないわよ!コイツなんなの、誰なのか説明しなさいよ!」
おい、うちのエンゲル係数の救世主だぞ、なんて態度なんだよまったく。
「やぁお嬢さん、マスターのマスターだから、一応ボクのご主人様ってことになるのかな?よろしくね」
「よろしくじゃないわよ!いいから服を着なさい!風邪引いたらどうするのよ!」
「ツッコミ所はそこじゃないと思うんだけどなぁ」
予想の斜め上を行く、さすがギル様である。
っていうか、本当にどうして出てきたのやら……
「まぁどうして出て来たかっていうと、この世界を楽しむのとヒントかな?」
「ナチュラルに心を読まないでください。あと、ヒント?」
「僕に恐怖を覚えなくても平気ですよ、さすがに大人のボクとは違いますからね。ヒントっていうのは、この世界にいる獲物……のことですかね」
ルイズの方を見て、そして俺を見てニヤリと笑う。
うわぁ、愉悦ってるなぁ。なんでもお見通しなのかこの人。
「獲物って?」
「探し物、だからルイズの召喚に応じたんだ」
「ふーん」
ギル様は全裸で椅子の上に座ったまま、金の杯を手の上で回すように揺らす。
ぶどうジュースですよね、ラベルにぶどうジュースって書いてあるしワインじゃないですよね。
あと、足を組みなおすのやめてください。見えそうで見えないのはすごいと思いますが、教育に悪いですルイズの……。
「マスターがどういう選択をするのかは任せますけど、恐らく自力では見つからないですね。ヒントはトリステインの貴族です」
「貴族の誰かが持ってる物が欲しいってこと?なんだか、この子の話ぶりとか聞いてる限りだと人を探してるように聞こえるんだけど」
「知らなくていいこともある」
そうか、それにしても貴族なのか。
自分が殺されることを考慮して尻尾を出さないように気を付けてるタイプ、とかだろうかな。
「じゃあ、ボクはそろそろ寝るかな」
「って、何ベッド入ってるのよ!っていうか、私のベッドはどこ」
「うるさいなぁ、子供は寝る時間なんだよお姉さん」
「あー、フルーツうめぇ……」
この後三人で、川の字になって寝た。