上空にいた白龍皇はアザゼルの所に飛んで行った。
黄金のような鎧を纏ったアザゼル、それと戦うためだ。
それを見て、近くに飛んでいた赤龍帝は俺の方へと雄叫びを上げながら飛んでくる。
肉体のスペックは人間の数倍、だがそれほど大きいわけではない。
どちらかと言えば悪魔のスペックは魔力の方が能力値は高い。
鍛えて何らかの術による強化をしたエクソシストが戦えるのがその証明だ。
つまり、素のスペックであれば魔術で強化した俺と奴は渡り合うことが出来る。
禁手化によって一気に現界まで倍加し、それが音声によって認識出来る。
ブーストが倍加回数なら、限界はバーストと聞こえる。
奴のキャパの限界は7回、つまりは2の7乗で128倍になるって訳か。
チートだわ、そんなの……転生特典で新しい能力でなく主人公になりたいって思うわけである。
「喰らえぇぇぇ!」
「おっと」
その強化しまくった状態で、転生者君は落ちた。
俺の居る場所に突っ込み、拳を振るったのだ。
その攻撃を難なく避ける、当然である。
何故ならその攻撃は、単調で常軌を逸した物では無いからだ。
白龍皇が空間を半減させるという描写が原作ではあった。
つまり、能力を概念に作用させたと言うことだ。
赤龍帝も同じ事を出来るとしたら、概念的に倍にすることは可能で、実際に倍にしている訳ではないとなる……はずだ。
例えば筋肉についてパワーの計算をしてみる。
人体の6%ほどがおよそ腕の重さと言われている。
奴の体重が男子高校生二年生の平均体重60.4kgから60kgと仮定する。
60掛ける0.06、つまりは3.6kgだ。
そこに標準重力加速度を加えて計算すれば、3.6(kg)・9.8(m/s^2))=3.6・9.8(kg・m/s^2)=35.28Nである。そこにパンチ速度を加えて、35.28N・s(パンチ速度)がパワーである。
計算して分からんと思うが、取りあえずはそんぐらいのパワーが普通の人って事である。
このレベルで顔が腫れるくらいのダメージがあるとしよう。
そこに空から落ちてきて、でもって128倍だとするとだ。
少なくとも大体4515.84・落下速度・パンチ速度だ。
落下速度とパンチ速度を合わせて分かり易く10と考え四捨五入でと5000パワーである。
意味が分からんし、そんなパワーを出せるのってどういうことだ。
質量であれば腕が重すぎてコントロール出来ない、というか肉体に何らかの影響が出る。
体重がスゲー重かったら落ちる速度も変るし、というか動かす前に骨格に負荷が掛かるわ。
ならば速度だろうか?速度なら空気抵抗とか摩擦はどうなっている?
つまり、問題なく戦えるのはそういう物が倍になっているからではない。
というかそういう物が倍になってたら、腕が殴った瞬間耐久性の問題で死ぬわ。
「くっ!」
「普通のパンチで、威力って概念が倍になってるんだろうなぁ」
校庭に、巨大なクレーターを作った赤龍帝を見ながらそう思う。
動きは普通、ただしダメージが5000Nって所だ。
普通の動きなら、当らない。当らなければどうということはない。
「じゃあ、反撃だ」
俺は礼装である銃を取り出し、適当に発砲する。
ライザー戦の残り、俺の指の骨を使って作った銀の弾丸。
悪魔になった転生者君に当れば大ダメージ請け合いであるそれを、俺は乱雑に発砲した。
「こんな物」
「そんな鎧で防げると思うか?」
俺の肉体の一部を使うと言うことは、肉体を組み替える呪術の対象である。
此方にはメフィストとタマモキャットがいる。
呪術スキルを持つアイツらなら、人の嫌がる事と頭可笑しい方向に銃弾を改造できる。
そこに、兄貴によるルーンも付与し、俺の強化も加わっている。
さらにはパラケルススによって作られた銃は、並の銃より銃弾を早く飛ばせる。
つまり、とんでもなく破壊力はあるのだ。
「ガッ!?ぐあぁぁぁぁ!?」
「痛いだろう?俺も指を切断する時は痛かった」
今だって魔術を使っている間、魔術回路のせいでナイフで体中を刺されるように痛い。
だが、これも必要なことだから我慢している。
あの時の指だって、一番合理的で結果のためには必要だったから出来た。
俺は魔術師になって、リアルでFGOをするために覚悟を決めた。
だから目的のためなら手段を選ばない、そういう風に考えている。
「俺から言わせれば、お前は覚悟が足らない。死ぬと分かっている相手を知っていながら原作通りにしたのは原作が変わるのを恐れたからか?原作主人公が腕を捧げないと勝てない相手に同じことをしなかったのは原作通りにしたくなかったからか?それとも、俺がいるから原作通りにしようとしても出来なかったとでもいうか?」
俺達は同じ、運良く特殊な状況に置かれて未来を知っている。
だが、その通りになるかどうかなんて分からない。
それなのに、自分から動こうとせず現実ではなくラノベの世界だと思って行動した。
まぁ、俺も人のことは言えないのだが……自分のことを棚上げしちゃうと原作知識に甘えて周りをよく見なかった結果がこれなんだと思う。
俺がマシュを物語のヒロインとして見て接していたら、まぁ似たようなことになったんじゃないだろうか。
他の奴らも雑に扱ってたら、たぶん同じ結果になってただろう。
俺は、ちゃんと現実の人物として接してはいるけどな。
少なくとも、マシュが無条件に慕ってくれなきゃおかしいみたいな思考回路はしていない。
「おまえはヒロインとしてみんなを見てたけど生きている人間としては見てなかったんだろう。おまえは兵藤一誠だけど、中身は違う。そんなお前が同じ行動をしたところで細かいところは違うのに同じ結果になるわけがないだろ」
「黙れぇぇぇぇ!クソが、雑魚の癖して小細工を……ぐっ!」
転生者君は、ダメージによって地面でのたうちながら、身体を穿り銃弾を取り除こうと動いていた。
悶えながら悪態を吐く姿は怒りに染まっているんだろう。
怖いわ、こんなチート野郎から敵意を向けられるって。
「だから、油断しねぇ」
「何を、がぁぁぁぁぁぁ!」
「見て分かんだろ。ライザーの時と同じ、祝福された攻撃だよ。聖水アタックだよ!」
クレーターを作った奴が、その中心で悶えている。
近づいたらやばい攻撃力の奴である。
ならば追撃するなら遠くから、安全圏からの遠距離攻撃だ。
俺は聖水の入った瓶を赤龍帝である転生者君に投げつける。
傷口に聖水が当たって、ますます肉体が溶けていることだろう。
弱点属性が仇となったな。
赤龍帝が強いのは、それは籠手が強力だからだ。
だが所詮は神器、使いこなせなければ意味がない。
ドラゴンがそんな能力を、つまりはドライグだったら話は違うだろうが使用者が弱ければ意味はない。
ドラゴンよりも小さく、力もなく、その上で弱点があり、そして戦いに慣れていない。
たとえ弱点でも、大きければ聖水のダメージは微々たる物だろう。
力があれば、もっと倍加出来て補足できない速度で動けたことだろう。
そもそも、弱点がなければたいしたダメージじゃなかっただろう。
戦いを知っていれば、弱点を攻めてくる相手を想定できただろう。
「甘い、甘いぞ。ひょっとして、自分は主人公になれたから死なないと思ってないか?」
「あぁぁぁぁぁ!助けてくれ、焼けるぅぅぅぅ!」
「俺は痛くないから分からないけど、くッとかこの程度ッとか言って我慢できないの?立ち上がらないのか、主人公なのに?」
がっかりだよ。俺は指を詰めるとき、それくらいはマスターらしくやったぞ。
お前も主人公だって言うなら、主人公らしい行動すればいいのにな。
もう終わったなと、俺が他の奴らに視線を向けた瞬間だった。
俺の顔の上に陰が掛かった。
「はっ!演技に決まってるだろ、馬鹿が!」
「油断しないって言っただろ?スパルタクス、来てくれ!」
奴が空を飛び、殴りかかる瞬間に肉壁となるスパルタクスが空間転移で飛んでくる。
その拳は、スパルタクスの分厚い胸板を叩き、胸に穴を開ける。
「なッ!?仲間でガードしやがった!」
「重ねて、令呪を以て命じる。スパルタクス、目の前の赤龍帝を絶対に
「フフフ、圧制者よ汝の一撃しかと受け取った!さぁ汝を凌駕してみせようぞ!我が誇りを受けるがいい!」
「は、離せ!や、やめろぉぉぉ!ぐぎゃぁぁぁぁ!?」
がっしりとスパルタクスの両腕が背中に回り、ギチギチと音を奏でながら、最終的に上半身が吹き飛んだ。
すげー、腕力だけで引きちぎりおった。