PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
<東京 とある喫茶店>
ワイワイガヤガヤ
年が明けて2020年を迎えた東京。令和始まっての年明けともあって、街には人々が溢れ返ってまたとない賑わいを見せていた。そんな中、東京に存在するどこかの喫茶店にて。
「…………」
「…………」
そんなお正月を迎えて街中が人で溢れ返ってる最中、店内のとあるテーブルでは2人の青年がかなり落ち込んだ様子で座っていた。
一人のアッシュグレイの青年は今作の主人公であり【特捜隊&μ‘s】のリーダー"鳴上悠"。もう一人のくせ毛が特徴的な青年は性根の腐った大人を改心させ世間を騒がす心の怪盗団【ザ・ファントム】のリーダー"雨宮蓮"である。
今回2人が集まったのは秋葉原のコペンハーゲンではなく、渋谷にあったとある喫茶店だった。店内では店長とその友人らしき人らがコンポのことで言い争っている。他にもお客が多少いて、少々騒がしいがこれくらい雑音があるくらいがちょうどいい。
「……やっぱり駄目だったな」
「はい……先輩……一気に9人まとめてデートするなんて無理でした」
「お前は10人だったけどな」
事の発端は先日、この2人はあろうことか9人の女子とデートをブッキングした挙句、全員まとめて相手しようという馬鹿げたことを実行したのだ。
結果、そんなものは上手く行くはずもなく、怒り狂った彼女たちに追いかけ回され、最終的にディスティニーランドで捕まってお仕置きを喰らった。まさに悪夢というべき黒歴史に、2人は深いため息をついてしまう。
「やっぱり、あの時は何が何でも1人1人別々でデートしないといけなかったんだ!」
「え、ええ……確かに、ハム子先輩の言う通りにしとけばよかったですね」
「俺は……俺は……皆を幸せにしたかっただけなのに……」
悔しさのあまりに人目を憚らず泣き出す悠。そんな情けない先輩の姿に蓮はどこか哀愁を感じてしまった。
「でも、何かいけなかったんでしょうか? 冴さんの介入とか」
「ああ……でも、今思うと何であんな馬鹿げたことをしてしまったのか、分からないんだ。もっと大きな力が働いていた気がするし」
「じ、自分も思いました! 何か、アンケート的な……観測者の意思的な……」
「「………………」」
確かに、あの決断する時に何か外部から大きな力が働いた気がする。そうでなければあんなバカなことはしなかっただろうに。
「でも、もっと決定的なミスがあったよな?」
「そうですよね。それは」
「「逃走経路だっ!」」
何を血迷ったのかとんでもないことを言い始めた2人。その発言に話を盗み聞きしていた店内の客は唖然とした。そんなことは露知らず、2人は意気揚々と話を進めた。
「いやあ、やっぱりあのディスティニーランドに追い込まれたのが悪かったんだ!」
「彼女たちにバレるのを想定して考えとくべきでしたね。パレスを攻略する時みたくもっと綿密に練っておかなかったから……」
一体この男たちは何を宣っているのだろうか。脳に花が湧いているのではないかと店内の客たちは思った。
「こんな時のためにパルクールでも習っておけばよかったかな」
「ああ、アイシールド21のパンサーくんとかダンガンロンパの終里さんみたいにですね。カッコイイですよね!」
※パルクールには、心身ともに日々トレーニングを積み、距離や危険性を測る感覚を養い、いかなる状況にも適応できる能力が必要です。漫画やCMであるような街中で実践するには特別な許可が必要で初心者がやっていいものではないので絶対に真似をしないで下さい。
「いや、でもやっぱりワイヤーでしょ! パルクールよりもそっちの方が効率的ですって」
「いやいや、お前はかすみちゃんに教わってるからともかく、俺はな……」
※ワイヤーアクションに関しても初心者や素人には大変難しいので同様です。
「ああ、そう言えばお前の新しいヒロインのかすみちゃんだけど、俺的にはあの子がお前のメインヒロインに見えるな」
「そうですか?」
「俺のマリーの時もそうだったけど、やっぱり新作で主人公と並んでいるとな」
「ああ、確かにそうですね。俺たち主人公と一緒に並んでると、やっぱりメインヒロインっぽくなっちゃいますよね」
「だよなあ」
※作者個人の意見です。それは絶対に違うぞという方々、申し訳ございません。
「でも、ぶっちゃけ先輩ってμ‘sの中で誰が好みなんですか?」
「……今それを言うか……」
「だって、気になりますから」
「まあ、でもこう色々反省することもあるけど……ぶっちゃけ過去のことなんてどうでもいいじゃないか!」
「はい! そうですね! 俺たち、やり直せますよね!」
本人たちは意気揚々とそう宣っているが、全く反省している様子はない。この調子だとまたも同じような過ちを繰り返すだろう。その時、
「「へえ……そういうこと」」
刹那、店内に絶対零度の冷気が満ちた。そして、少年たちの背後から結構な殺気が突き刺さっている。恐る恐る振り返ってみると、
「悠……私のこと、そんな風に思ってたんだ……」
「先輩……正直幻滅しました。先輩がそんな人だったなんて……」
背後には自分たちをごみを見るような目で見つめるマリーとかすみの姿があった。自分たちがおかしいのか分からないが、2人からおぞましいオーラがビシバシ伝わってくる。否、マリーは掌からビリビリと放電している。
今すぐにでも逃げ出したいが、2人のオーラに恐怖を感じて足が動かない。
「お、落ち着けっ!2人とも」
「そ、そうだ!これは」
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」」
弁明する暇も与えられず、2人のお仕置きは執行された。
「………あれ?」
目が覚めると、知らない場所にいた。そこは東京の喫茶店ではなく、どこかの外国のアパートらしきところの床で横になっている。それに、恰好も学ランとは別のものになっている。
「お目覚めですか? ……さん!」
「うわっ!」
気が付くと、至近距離に少女の顔があった。覚醒早々にびっくりなことが起こったので悠は思わず仰け反ってしまう。
「どうしたんですか? 随分うなされてましたけど?」
だが、少女はそんなことは気にせず、更に距離を詰めて尋ねてくる。
ベージュ色の髪に修道服じみた赤い衣装が印象的に映るが、この少女……声からして自分が知っている誰かに似ている気がする。
「あ、ああ……何だか……悪い夢を見ていたような?」
「そうですか。じゃあ、その嫌な夢を追い払うためにも、踊ります!」
「へっ?」
少女はそう言うと、スカートの下からマラカスを取り出したかと思うと、ベッドから降りて歌い始めた。
「どうでしたか? 爽やかな朝を演出してみました」
「…………」
一体どこが爽やかな朝だったのかろうか。まあ歌声は爽やかだったが、マラカスを存分に鳴らして爽やかである訳がない。正直頭がガンガンしてどうにかなりそうな感じだった。
「さ、爽やかな朝……だったよ……」
「そうですか! やっぱり朝はマラカスですよね!」
何故か意図した訳ではないのに、まるで決められていた台詞を言わされたように自然と口からそんな言葉が出る。悠の返答に気を良くしたのか、少女は喜びを表現するようにぴょんぴょんと跳ねた。
随分と感情表現が激しく、そして明るい子だ。改めて、一体この子は誰なのだろう。
「それはそうと、今日はせっかくのデートなので朝ごはん作っておきました」
「あ、ありがとう」
よく分からないが、少女は朝ごはんを作ってくれた後だったらしい。わざわざ家に来てくれて朝ごはんを作ってくれた上に、こうやって起こしてくれたらしい。何とも甲斐甲斐しい彼女さんなんだなと思いつつ、悠はベッドから起き上がった。
しかし何故だろう、自分の中の何かが警報を鳴らしてる。これは……物体Xの予感!
「どうぞ! 今日のメニューはオムレツに魚のから揚げ、ミネストローネスープです」
ご飯を用意してくれたテーブルを見てみると、その予感が当たっていたことに気づかされた。
「な、なんだこれ……」
そこに並べられていたのは料理とは言い難い別の何か……今まで何度も見た物体Xだった。あの特別捜査隊の女子陣が作ってきたものと同等、それ以上かもしれないものがいくつもそこにある、まさに魔境というべき空間がテーブルに展開されていた。
これに今まで酷い目に遭ってきた記憶がフラッシュバックして冷や汗が止まらない。
「あっ、デザートにフライドポテトです。冷めないうちに食べて下さい」
「あ……あははは…………」
言いたい、こんな物体X食べたくないと心の底から叫びたい。
だが、対面にこちらの感想を待っている、妹みたいな天使のような視線を送ってくる少女の期待は裏切れない。
これは覚悟を決めるしかないと察した悠は意を決して、テーブルに置いてあるフォークを手に取った。
(あれっ? でも、妹のような……って、どういうことだ?)
「ご、ごちそうさま……」
「わあっ!」
何とか食べ切った。あの物体Xたちを……
ミネストローネスープは何故か酢っぱい味がして背中がかゆくなったし、オムレツは口にした途端に頭がクラッとして気が遠くなりそうになった。更に魚のから揚げは追い打ちをかけるような味で意識を失いそうになった上に、フライポテトに関しては言うまでもない。
何度か死にかけそうになったが、何とか食い縛って意識を保ちながら完食することに成功した。
「すごいですね、……さん!! 私の料理を完食した人は初めてです!」
「そ、そうだろうね……」
我ながらがんばったと思う。いつもだったら意識を手放して終わりだったのに、何故か妹に見られてるような気がして張り切ってしまったのだ。
(ん……? 妹……? それに、この人……)
頭がクラクラするのを耐えてまじまじと少女の顔を見てみると、
「あっ……」
その少女に何か気づいた途端、頭に電流が走ったように意識が一気に刈り取られた。
「だ、大丈夫ですか!? ……さん! ……さーん!!」
遠くなる意識の中、あの少女の声が聞こえる。だが、それは次第に薄れていき、ついに悠は意識を手放した。
「ハァ……ハァ……ゆ、夢か……」
目が覚めると、そこは見慣れた天井だった。いつもの堂島家の自室の布団、外は連日の降雪で雪景色が広がっている。カレンダーを見ると、日付は1月5日を指していた。
どうやらさっきまでの出来事は全部夢だったようだ。それを確認してホッとする。さっきまでのが全部本当のことだったら自分はここにいないだろう。
「悠くん、どうしたの?」
ドアが開いて、叔母の雛乃が顔を覗かせる。あちらは悠より先に起きていたのか、既にいつもの仕事服に身を包んでいた。
「い、いえ……ちょっと」
「もう、夜更かしはダメよ。朝ごはん出来てるし、ことりも菜々子ちゃんも起きてるから早く下りてきて」
雛乃はそう言うと、パタンとドアを閉めて行ってしまった。
でも何故だろう。さっきの修道服の少女のやり取りはどこか夢であって夢でない気がする。例えるなら、誰かの記憶を追体験したような感じだった。
「まあ…そんなこともあるか」
きっとよくある不思議な夢だろうとそう割り切って悠は布団から出た。思えば今日は特捜隊&μ‘sのメンバーと雪合戦をする予定なのだ。そうとなれば、早く着替えて支度をせねば。
着替えを終えて、リビングへ降りるとテーブルには既に料理が並べられおり、菜々子とことり、雛乃が自分の到着をまっていた。だが、そのテーブルの料理を見て悠はぎくりとした。
「お、叔母さん…今日のご飯って」
「フフ、今日はオムレツに魚のから揚げ、ミネストローネスープよ。久しぶりに作りたくなったから、いっぱい食べてね」
世の中、不思議なことってあるものだな……
―fin―
明けましておめでとうございます。ぺるクマ!です。
毎年恒例となりつつある正月番外編。
今回は良い正月ネタが浮かばず、以前アンケートを取ったP5R発売記念の王様ゲームにしようかと思いましたが、結局いい話が思いつかなかったので、急遽このような雑な話になってしまい、申し訳ございません。
それはともかく改めて、読者の皆様あけましておめでとうございます。昨年は色々ありましたが、今年も「PERSONA4 THE LOVELIVE~番長と歌の女神たち~」をよろしくお願いします!