PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

あと少しで今年も終わりですね。あと一回は更新したいところです。
それとアンケートに答えて下さった方々、ありがとうございました。番外編の内容はもう新年の方に合わせて執筆しようと思っていますので、楽しみにして下さい。

新サクラ大戦発売されましたね!ちなみに自分のヒロインはさくらとあざみです。言っておきますが、自分はロリコンではありません。フェミニストです。

改めて、お気に入り登録して下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#87「Now I KNOW(Yuu Miyake Remix).」

────何か見える。

 

 

 花陽は一度は途切れた意識が戻って何とか体調を整えようとしていると、薄っすらと回復した視界に何かが映った。よくよく目を凝らしてみてみると

 

 

 

(……わあ)

 

 

 

 視界に映ったのは2人の少女のダンスだった。1人は自分が所属するグループのリーダー穂乃果、そしてもう一人は憧れのアイドルであり先生でもあるりせ。

 

 2人とも自分自身を表現出来ていた。

 1つ1つが細やかで洗練されていて、思わず見惚れてしまうような動きに見入ってしまう。自分には真似できないそのパフォーマンスに自分はもちろんのこと、仲間や親友、あの完二ですらこころを奪われていた。

 流石は我らがリーダーの一人、流石は憧れのアイドル。自分がどう足掻いても届かないような人達のパフォーマンスを見て、心が震えるのを感じた。そして、自分もあの中に入って一緒に踊りたいとも思った。

 

(でも……私なんかじゃ)

 

 しかし、その一歩が中々踏み出せなかった。そうだ、自分はあの2人と違って才能もないし飛びぬけて上手なわけではない。こんな自分があの中に入っても足を引っ張って、最悪パフォーマンスを崩壊させるかもしれない。そう思うと、足がすくんで前へ進めなかった。すると、

 

「かよちゃん、一緒に行こうクマ」

 

「えっ?」

 

 そこに、近くに居たらしいお調子者のクマが花陽にそう言葉を投げかけた。一体どうしたのだろうと思うと、クマは優しい笑顔で手を差し伸べた。

 

「一人じゃ行き辛いんでしょ? だったら、クマと一緒に行くクマ。その方がきっと楽しいクマよ」

 

 いつもはおちゃらけて隙あらばセクハラをしようとするクマの優しさが花陽の胸にグッと来てしまった。何で普段からこうしないのだろうと思ってしまうが、それが花陽に勇気を与えてくれた。

 

 

 そして、ようやっと花陽はその一歩をクマと一緒に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでは順調だ、そうりせは思った。

 最近は仲間たちに教える立場が多く、こういった失敗が許されない一発本番のステージは久しぶりなはずなのに、ここまで順調に行けるとは思わなかった。それもこれも、隣で踊っている穂乃果のお陰だ。

 

(最初見た時からそうだったけど……この子、本当にすごい)

 

 通信越しで頼まれたとはいえ、まさか練習では見せなかった英語で歌うことをやってのけたり、一発本番とはいえりせにこの曲で合わせられるなど驚かされることばかりだ。このまま行けば、のぞみに伝えられるはず。そう思ったその時

 

 

「クマクマ~! クマも頑張るクマよ~!」

 

「私も一緒にっ!」

 

 

 ついにダンスもクライマックスに差し掛かったところで、2人の乱入者が割って入ってきた。クマの乱入はある程度予想はついていたが、花陽までも入ってきたのは意外だった。突然のことに思わずリズムが乱れそうになったものの、何とか体勢を立て直す。

 花陽はともかく、クマはこちらの意図も読まずに好き勝手動くので思わず引っ張られてしまうが、2人が入ったことでステージがより華やかになってシャドウたちの盛り上がりも徐々に上がっていく。

 

 

(やっぱり、皆と一緒に踊るのは楽しい…!)

 

 

 休業する前、1人で活動していた時では感じられなかったこの一体感と高揚感。

 あの時は自信を無くして一度はステージに立つことを諦めていたが、稲羽で悠たちに出会って本当の自分を受け入れてもらった。そして、そこから一緒に時を過ごして泣いたり笑ったり、楽しいことや悲しいことを乗り越えて、やっとアイドルとして生きて行く決心がついた。

 もしもあの時、悠たちと出会ってなかったら自分は二度とステージに立っていなかっただろう。

 

 

(私だってそうだった。のぞみだって、きっと乗り越えられる。だから、諦めないで!)

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

「「「「ペルソナっ!!」」」」

 

 

 

 

 

 ありったけの想いを込めて、顕現したタロットカードを砕いた2人。カリオペイアのギター・コウゼオンのハープ・カムイモシリのDJ・クレイオのトロンボーンの四重奏が激しくも華やかに響き渡る。

 

 

 手応えはある。しかし、自分でやった事なので自信があるって言ったら嘘になる。だから、どうかのぞみに伝わりますようにと、りせと穂乃果たちは心の中で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……僕はっ! ああっ……!!」

 

 

 

 目を瞑って力強く祈ってからどれくらいか時間が経った時、のぞみの悲痛な声が耳に入ってきた。目を開けると、シャドウから元の姿に戻ったのぞみの姿を確認した。

 

「のぞみっ……!」

 

「のぞみさん……!」

 

ああ……また逃げたん、だ……ダメだなぁ、私

 

 のぞみの言葉を聞くと、りせと穂乃果は伝わったのだとホッとして嬉しくなった。そして、自分のやった事を間違いじゃないと思って少し感動もした。

 

「そんなのどーでもいいクマよ! ノゾチャン、ちゃんと分かってくれたクマ。それだけでクマたちは嬉しいです」

 

「そうだよ、凹むのはなし! のぞみが無事ってことだけで十分なんだから」

 

ホント……? 私、他の人と話すの、とか……ダメで、素で話すと……こんなだし……

 

「いいじゃないですか、それがのぞみさんなら胸を張ってみんなにそう伝えるべきです」

 

 そうだ、そんなのは関係ない。例え今が極度の人見知りで作ったキャラでしか話せなくとも、一歩一歩自分がやりたいように進めばいい。それが心から伝わったのか、のぞみは目にうっすらと涙を溜めて微笑んだ。

 

「うん、頑張る……やって、みる……」

 

「どんだけ声が小せんだよ。そんなんでやっていけるのか?」

 

「「「「……………………」」」」

 

 せっかくいい雰囲気だったのに、厳しい口調でそういう完二にのぞみは思わず委縮してしまい、女子たちは完二に向ける双眼を吊り上げた。

 

「な、なんだよ……」

 

「……優しくない。怖い……」

 

「はあっ!?」

 

「もうっ、完二! ちょっとはのぞみに優しくしてあげなさいよ!」

 

「そうですよ、完二さん! 折角のぞみさんも変わろうとしてるんですから」

 

「俺かよっ!? つか何で俺が……?」

 

 どうやら完二本人は自分の発言が如何に不味かったのかを全く理解していないようだ。完二のその態度に女子たちは一層目を鋭くさせる。

 

「言い訳しない! ちょっとは協力してあげなさいよね!」

 

「ただでさえ完二はデリカシーがないんですから!」

 

「そうそう」

 

「カンジはやっぱりセンセイと違って女心が分かってないクマね~」

 

「こんなんじゃ陽介さんと同じですね」

 

「そうだよね。やっぱり完二くんにもお兄ちゃんみたいなことは無理なんだよ」

 

「本当、流石はおっさん」

 

 まるで問題発言をしたせいでネットで炎上したかのように非難が殺到。謂れもない誹謗中傷を受けて完二はワナワナと震えて額に青筋を浮かべた。

 

「だー! わーったよ! うっせえな!」

 

 女子たちに好き放題言われてついに我慢できなくなった完二は改めて咳払いすると、神妙な顔つきでのぞみにこう言った。

 

「まあ……何だ、その……が、頑張ってみりゃいいんじゃねえか? 応援してやっからよ」

 

 完二の激励?の言葉に感銘を受けたのか、のぞみは先ほどの怯えた表情とは一変して笑顔になる。その表情がとても魅力的でアイドルとしても中々のものだったので、りせは思わず驚愕した。それくらいのことが出来るのであれば、絶対自然にファンが出来るだろうという呆れも含めて。

 

 

「頑張る……ありがとう!」

 

「うっ……!」

 

 

 いい表情ののぞみに笑顔でそう言われて完二は思わず赤面して目を逸らしてしまった。その様子を見た穂乃果たちは驚きで思わず目を白黒とさせる。

 

「こ、これは……まさか」

 

「やっぱりさ、完二君ってあれかな。男の娘?っていう女の子が好きなのかな?」

 

「ああ……だから、直斗くんのこと……」

 

 新たな恋バナの予感を感じたのか、ヒソヒソと聞こえないように盛り上がる女子たち。しかし、その会話は完二に丸聞こえだった。

 

「て、テメーら! 何好き勝手言ってんだ!? シメんぞ! きゅっとしめ……ん?」

 

 好き勝手言う女子たちに完二がまたも怒りを爆発しようとしたその時、少し離れた場所から見覚えのある光の幕が下りた。すると、楽屋セーフルームのドアが出現した。

 

「すももと同じドア……またあの楽屋みたいな部屋かな?」

 

「ツバサさんの時もそうだったよ。とにかく入ってみようよ!」

 

「ちょっ! 穂乃果、そんな簡単に」

 

「大丈夫、この部屋は安全だよ」

 

 穂乃果とマリーに促されるまま、一同はドアの向こう側へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<楽屋セーフルーム>

 

「……やっぱり何もない。ツバサさんの時とおんなじだ!」

 

「マリーちゃんが言った通りここは安全みたい。ここで一休みできそうだね」

 

 中に入って周囲を見渡すが、前のステージの時と同じくシャドウの気配もなければあの声の存在も感じない、何もない安全地帯だった。安全を確認したところで、一気に疲労がのしかかってきた一同は近くにある椅子に腰かける。人数が増えたせいか一気に楽屋が狭く感じるが仕方ない。

 

「それにしても、ここって何なんだろうね? ここまで来たけど、今思えば不思議じゃない?」

 

「そう言えば……そうですね」

 

「それまでは意図的に“隠されていた”という事でしょうか?」

 

「ん?」

 

 穂乃果の尤もな疑問に直斗は少し考え込んでそう答えた。

 

「または何らかの理由で僕らの目には触れないようになっていたのか。あるいはすももさんやのぞみさんの解放に伴って、何らかの理由で生成されたと考えられますね」

 

 直斗の説明がよく分からなかったのか、首を傾げる穂乃果たち。すると、凛が何か思いついたように手をポンと叩いた。

 

「もしかして、ゲームでよくあるやつかにゃ? ボスを倒すと解放される扉とか、70問以上ナゾを解かないと入れないお城や役所みたいな感じかにゃ?」

 

「ま、まあそんな感じですか……」

 

「ちょっと例えが……ゲームってところが凛らしいわね」

 

「しかし、その原因が分からないままですから何とも言えませんがね。マリーさんとしてはどうですか?」

 

「……大方合ってる。でも、他に気になることがあるんじゃない?」

 

 マリーにそう言われて、一同はふとあることを思い出した。全員思ったことは同じだったらしく、視線は自然にメイクコーナーの方へ集まった。

 

「何、これ……? メモ?」

 

 案の定、メイクコーナーの鏡に一枚のメモ用紙が貼りつけられていた。すかさず直斗がそれをはぎ取り内容を読み上げた。

 

 

 

 

 

 

“絆が欲しい、みんなの心を繋ぎ止めたい”

 

 

“だけどもう遅い、今更どうすることもできない”

 

 

“歌詞は変えてしまった、私は誤魔化した”

 

 

“私は嘘つきだ、もう全部終わりにしよう”

 

 

 

 

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 直斗が内容を読み終えた後、楽屋は何とも言えない雰囲気に包まれた。

 

「胸くそ悪いぜ……さっきより一段追い詰められてるじゃねえか」

 

「もう自殺一歩手前まで言ってないかしら?」

 

「ちょっ!? 真姫ちゃん、怖い事いわないでよ!!」

 

 不吉なことを宣った真姫に花陽が必死に訴える。この状況に不気味なメモの内容を聞いた後でそれを言うと、まさにそれなんじゃないかって思えてしまう。だが、もう一人爆弾を投下した者がいた。

 

「……皆さん、何か気づきませんか?」

 

「ん?」

 

「ここに書かれている内容ですよ。“絆”や“心を繋ぎ止めたい”という言葉、誰かの主張に似通っているとは思いませんか?」

 

 直斗の言葉に気づかされた一同は背筋が寒くなるのを感じた。

 この世界に来てから何度となくその言葉を聞いているはずだった。“絆”や“繋ぎ止める”とそんなことを言っていたのは……

 

 

「それって、まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

「その通りです、高坂さん。ここに書かれていることはあの“声”が言っていることと妙に一致している」

 

 思い返してみれば、確かにあの謎の声が執拗に“絆”やら“繋がろう”やらと言っていた。そう考えると

 

「まさか……あの“声”のヤツがこれを書いたかもしれないってこと?」

 

「じゃあ、あの人が……自殺したアイドル?」

 

「だとすると、あの声は……幽霊!?」

 

 “自殺したアイドル”・“幽霊”という単語を聞いた一同はビクッと身体を震わせる。

 

「お、おおお落ち着いて下さい。その可能性がああああるという話ですよ」

 

「そそそそそそうですよ! ななななにをいってるんですか!?」

 

「直斗くん! 海未ちゃん、落ち着いて!? 身体が震えてるよ」

 

 その時、楽屋のドアが勢いよく開いてカツカツという靴の音が響き渡った。まるでそこからは思考させまいと言うように。その音にビックリしながら音の主を振り返ってみると、そこに居た人物に思わず声を上げてしまった。

 

「落水さん!?」

 

「お、オッチー!!」

 

「オッチ……? まあ、いいわ。お疲れ様、どうやらのぞみも助けられた様ね」

 

 驚くりせたちを他所に落水は淡々とした調子でそう返した。相も変わらず冷たい態度を取る落水にムッとする者がいるが、その中で穂乃果だけはそんな落水にどこかしら違和感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現実サイド~

 

「んん~、このお弁当美味しい!」

 

「ハラショー! このエビもプリプリして最高!」

 

「菜々子の稲荷もおいしいよ。食べる?」

 

 現在かなみたちはタクラプロでの取材を終え、楽屋で昼食を取っていた。

 驚いたのはいつも一種類しかない弁当が数種類あったり、差し入れらしきお菓子やジュースが箱一杯に入ってたので、普段とは違う光景にもしや賄賂ではないかと思った。だが、今はそんなことはどうでもよく、菜々子と雪穂、亜里沙と雛乃と一緒に食事をしているこの時間がとても楽しかった。

 

「かなみちゃん、少しいいかな?」

 

「はい、何ですか?」

 

 そんな中、楽屋に入ってきた井上から呼ばれたので、かなみは一旦箸を置いて井上の元へと向かった。

 

「実はね、ダンスの先生のところで問題発生してね。フェス前に追加したレッスンの請求が落水さんから経理に渡ってなかったみたいなんだ。今から僕が直接行って話して来るから、とりあえず午後のレッスンは中止するね。だから、今日は上がって良いよ」

 

「は、はあ……そうですか」

 

 それはそうだろうとかなみは内心井上に毒づいた。何故なら落水は今行方不明になっていて経理どころではないのだから。こんな状況でも動かない井上にかなみは更に不信感を募らせてしまう。

 

「あ、それと井上さん……その前にちょっといいですか? 新曲の歌詞の事で聞きたいことがあるんです」

 

「収録前にもそんなこと言ってたね。いいよ、何だい?」

 

 何とか井上に質問する機会を得られたので、かなみはほっとした。ここで聞き入れてくれなかったら本当に井上を信じられなくなるところだった。

 

「私、歌詞間違えて覚えてたみたいで。“いつも一緒だよあなたと”……ですよね? “伝える事から逃げて”じゃなくて」

 

「ああ、それ()()()()()の方だね。その歌、一度歌詞が書き換えられているから」

 

「へっ? オリジナル?」

 

 今井上の口から耳を疑う事実が飛び出した気がする。キョトンとするかなみに井上は更に説明を続けた。

 

「その曲タクラプロのアイドルだった【長田有羽子】さんが亡くなる直前に書いた曲でね、ずっとお蔵入りだったんだけど、それを今回落水さんがかなみんキッチンの新曲にって……というか、かなみちゃんよく原曲のこと知ってたね?」

 

「え……私、知らないですよ。でも、長田有羽子さんのことは……聞いたことあります……」

 

 そう、タクラプロに所属しているなら一度は耳にしたことがある。以前長田有羽子という当時タクラプロでもトップアイドルだった女性が事務所内で自殺したという事件。世間を一時騒がせたともあって、随分な後輩であるかなみたちも一度は耳にしていた。

 

「ああ……そうか。当時はウチの事務所でもトップアイドルだったんだけど、色々悩んでたみたいなんだ。歌詞が書き換えられた経緯は知らないけど、噂では落水さんが書き換えたんじゃないかって言われてるね」

 

「………………」

 

「でもおかしいな、そもそも長田さんの“幻の新譜”っていうのが落水さんが仕掛けた新曲の売り出し……かなみんキッチンには全員説明したって言ってたんだけど」

 

 井上の言葉に更に脳内が混乱した。実際かなみは落水からそんな話は聞いた覚えがない。たまみたちがこの場にいれば即座に確認できただろうが、本人たち不在の今、それは出来ない。

 

「うーん……千聖ちゃん辺りに聞いたのかもしれないけど、かなみちゃんとりあえず今日は休みなよ。それじゃあ僕は行くから」

 

 そう言うと井上は楽屋から出て行ってしまった。その後もかなみの頭の中はパニック状態で情報処理が追いつけずにいた。

 

 

(何だろう……全然分かんないよ。私たちの新曲【カリステギア】は書き換えられてた。私の知ってた歌詞は長田さんが書いた歌詞? タクラプロで亡くなったアイドル……えっ、“()()()()()()()”!?)

 

 

 だが、今のやり取りで貴重な情報を入手した気がする。もしかしたら、噂になってる“死んだアイドル”とはあの長田有羽子のことではないか。

 予想外の符号に行きついたかなみは背筋が寒くなるのを感じた。まるでパズルピースのようにどんどん事件と一致していく。そうなるとあの人は……

 

「かなみお姉ちゃん、大丈夫?」

 

「……へ?」

 

「顔が青ざめてますけど、体調が悪かったら病院に行きますか?」

 

「亜里沙のエビ、食べる?」

 

 悩むかなみが心配になったのか、3人が気遣うようにそう声を掛けてくれた。その気遣いはとても嬉しかったし、自分より年下の子たちに心配をかけてしまったと自分の情けなさに思わず後ろめたさを感じてしまった。

 

「あ、あはは……大丈夫ですよ。それと、ちょっと席を外しますね。菜々子さんのパパさんにお電話することが出来たんで」

 

「お父さんに?」

 

「はい。すぐ済みますから待ってて下さい」

 

 そう言うや否や、かなみは急いで鞄から携帯を取り出して堂島に掛けた。そして、数コールで堂島は電話に出た。

 

 

『堂島だ、どうした?』

 

「堂島さん! 分かったんです、“死んだアイドル”……! タクラプロに在籍していた人が何年も前に亡くなって……その人の曲を今度の絆フェスで私たちが歌うことになってるんです! 私、落水さんから言われてなくて、今まで知らなくて……」

 

『……落ち着け、真下。今言ったことは本当だな?』

 

「あ、う……はい……」

 

『よし、一時間後に会おう。こっちも情報がある』

 

「情報、ですか?」

 

『出来ればお前の仕事に関係ない場所がいい。どっか思い当たるところはないか?』

 

「えっ? 雛乃さんのお家じゃダメなのですか?」

 

『ああ……それも良いんだが、今は時間が惜しい。出来ればここから近い場所が良いんだが、どこかないか?』

 

 どういうことだろうと疑問に思いつつも、“仕事に関係ない場所”・“ここからなるべく近い”に当てはまる場所を思い浮かべる。パッと思い浮かべたのは自宅だった。しかし

 

(私の家……ああ、ダメダメ! 結構散らかってて、乙女の秘密が丸出しです~~!)

 

 雛乃宅に呼ばれて簡単な荷造りしか出来なかったので、今自宅は男性には見せられない下着などが散乱しているのだ。それを堅物の堂島や菜々子に見せるとどうなるのかなど考えたくもない。となると、

 

「あ、あの……私が休日によく行く珈琲店があるんですけど」

 

『珈琲店だと?』

 

「はい、お店の人と仲が良くて、もしかしたら奥の個室とか貸してくれるかもしれないですし」

 

『……まあ分かった。下手にお前ん家に行くとスキャンダルとかうるさそうだしな。で、その珈琲店はどこだ?』

 

「は、はい! そこはですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいま、ああっ! かなみさん」

 

「こんにちは、つぐみさん」

 

 事務所を出て電車を少し乗った先にある商店街にある珈琲店。ここはかなみのよく行くところでこの店の店主や看板娘とは仲が良い。かなみにとって自宅以外で内緒話をするにはもってこいの場所だった。

 普段は井上に送り迎えされているかなみだが、プライベートではよく交通機関を利用してこの店に来るのだ。同僚の中には未だに電車に乗れない人もいるのだと聞くが、本当だろうか。

 

「おいおい、珈琲店って言うから来てみれば結構人いるじゃねえか」

 

「す、すみません……ここしか思いつかなくて。でもでも、ここのコーヒーとケーキは美味しいですから!」

 

「そういうことじゃねえよ……」

 

 とりあえず合流した堂島と店内に入って席に案内してもらった。ちなみに席は堂島とかなみが一緒、他の皆は別の席にしてもらった。想像と違ったのか堂島は怪訝そうにそう言うが、美味しそうにコーヒーを啜っている。

 

「わあ、このケーキ美味しいね」

 

「う~ん! 美味しい~!」

 

「何だか食べ過ぎちゃいそう……」

 

「あはは、そう言ってもらえるとお父さんも喜ぶよ」

 

 別のテーブルにいる菜々子と雪穂、亜里沙たちは注文したケーキに舌鼓を打っていた。そしてここの看板娘のつぐみという少女と意気投合したのか、和気あいあいとお喋りしていた。

 店内にいるお客も各々の会話に集中していて自分たちの会話も聞こえてないようなので、この様子なら大丈夫だろう。そう思ったかなみは意を決して話を切り出した。

 

「あの……すみません、それであの……情報って?」

 

「ああ、まずはお前の話からだ。分かったんだな? “死んだアイドル”が」

 

「は、はい! 長田有羽子さんって人がタクラプロの先輩にいて……私たちが今度の絆フェスで歌うことになってる曲、その人が最後に残した曲なんです」

 

「ほう……」

 

「あと、これは関係あるか分からんですけど、その曲の歌詞が一度書き換えられてて……それを書き換えたのが、落水さんじゃないかって……」

 

 かなみはここまで話て一旦話を止めた。

 気づいた時は興奮して絶対間違いないと思ったが、改めて整理してみると何とも頼りないふわっとした情報であることに気づいた。この程度のことで現職の刑事である堂島に勢い込んで電話して、あまつさえこんな場所に呼び出したりして申し訳なく感じて俯いてしまう。

 

「絆フェス……死んだアイドル……それに何とかっていうお前のグループ……全部が繋がってるわけだ」

 

「はいです……」

 

 堂島はかなみにそう確認を取ると、注文したコーヒーを一口飲んで辺りを気にしながら話を進めた。

 

「俺の方でも幾つか分かったことがる。1つはお前も言った様に、噂の死んだアイドルが長田有羽子だってことだ。これについてはラビリスと前に頼んだ知り合いが噂について調べて連絡をよこした。信頼できる情報筋だ」

 

「あ……そうだったのかー。じゃあ私、あんまりお役に……」

 

「そうでもない、これで裏が取れたからな。お前の情報と合わせてもこれは間違いないだろう」

 

 それと付け加えて、先日タクラプロでかなみを人質に取られた事件について、犯人が言っていた“呪いを解くには血が必要”というのはデマだったと教えてくれた。事情聴取によると噂の動画を見た犯人がパニックになって勝手に作り上げた噂の尾ひれだったらしい。

 そして、その問題になっている例の噂が“マヨナカステージ”なんて名前で呼ばれているとも教えてくれた。その名前を口にする時に、堂島が苦々しい表情になったのをかなみは見逃さなかった。

 

「それにしても……噂ってこうも広がるものなんですね」

 

「噂ってのは広がる間に正しい情報を失い、伝える奴らの勝手に呑み込んで化け物になっていくもんさ」

 

「ば、バケモノ?」

 

「要するに、確証がない話ほどタチが悪いってことだ。場合によっちゃ、噂で人を生かせたり死なせたりすることもある」

 

 そう言ってまるで何度もその手の噂を経験したような苦々しい表情を再び浮かべる堂島を見たかなみはそれ以上聞くのを止めた。

 

「もう一つ……これは長田有羽子に関する情報だ。こいつは俺とラビリスが洗った」

 

 堂島もかなみの意図を察してくれたのか、次の話へと進めてくれた。一緒に調べたというラビリスがこの場にいないのは少し気になったが、事情があるのだろうとあえて聞かないことにした。

 

「長田有羽子は死の直前にある人物と言い争う姿が目撃されている。そいつは長田のデビュー当時からのマネージャーで、ずっと二人三脚で長田の活動に情熱を燃やしていたそうだ。だからこそ、その時の口論は周りの目に珍しいものに映って、当時の証言にも残っていた」

 

「それって……! じゃあ、有羽子さんの事件は……まさか……」

 

 “殺人”ではないのか、とかなみに一抹の不安が過る。もしかしたらこの事件はまさかその犯人の……

 

「いや……そいつは当然、事情聴取も受けていて長田の死についてはシロと出ている。つまり、長田を殺したりしてねえってことだ。元から長田は自殺だって証拠は上がってるからな」

 

「ほわあ……良かった」

 

 ひとまず事件性がないことを確認できたのか、かなみはほっとした。

 

「だが、この話には続きがある。事件の後、そいつはタクラプロを辞めた。まあ、責任を取らされたのかもしれんがな。しかし、そいつはフリーランスとしれその後もこの業界に残り、今もそこにいる。お前もよく知っている人物だ」

 

「えっ?」

 

 話の人物が自分もよく知っていると聞いてかなみは言葉を失った。否、察しがついてしまった。だって、元タクラプロで今はフリーランス、それに長田有羽子のことを知っている人物と言えば……

 

 

「そんな……()()()()……?」

 

 

「ああ、その通りだ。当時の長田有羽子のマネージャーは落水鏡花だった」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「落ち着け。まあ……俺もお前の口から落水の名前が出たときは鳥肌が立ったよ。自殺した長田、呪いの動画、お前たちのメンバー、絆フェス……一見無関係のこいつらが全て落水鏡花という糸を通じて繋がってやがったんだ」

 

「そんな……」

 

「やれやれ……あいつらの行方を追うだけのつもりが、こんなに“芸能界”ってのに近づく羽目になるとはな……家でテレビ観てる方が楽でいいぜ」

 

 

 堂島の話を聞き終わったかなみはひどく混乱していた。

 信じられない衝撃の事実を多く聞かされたせいか、かなみの頭の処理が追い付けない。ただ一つ分かっていることは、この一連の事件に落水が関係しているということだ。

 

「まあ、この件に関しては俺の方で更に詳しく調べておく。お前は自分のやるべきことをやれ」

 

 苦悩するかなみに淡々とそう告げると、堂島はコーヒーを一気に飲み干して席を立った。

 

「あら堂島さん、もう行っちゃうんですか?」

 

「ああ、調べることが出来たからな。とりあえず今日の夕飯はいらんかもしれん」

 

「分かりました、お気を付けて」

 

「お父さん、バイバイくま~!」

 

「堂島さん、バイバイくまー!」

 

「バイバイくまー……くま? くまって……何? 

 

 店を出る堂島を見送ってまたしばらくかなみは呆然としてしまった。今でも衝撃の事実を受け入れられず頭の処理が追い付けないでいた。

 一体全体どうなっているのだろう。あの落水がこの事件に深く関係しているかもしれないなんて。もしそうなのだとしたら、あの人は何故こんなことをしたのだろう。それと、もし落水がこの一連の事件の黒幕なら何故自分を庇ったのだろうか。

 

「かなみちゃん、かなみちゃん」

 

「へあっ? 雛乃さん?」

 

 またも頭を悩ませて苦し気な表情をしているかなみに雛乃がそう声をかけてきた、雛乃は慌てるかなみをジッと見ると、ふと思いついたように笑顔を向けた。

 

「この後時間があるかしら? かなみちゃんを連れて行きたい場所があるんだけど」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<シャドウワーカー作戦本部>

 

 

「“長田有羽子”……それが噂になってる死んだアイドルの正体か」

 

「はい。堂島さんと調べましたから、間違いありません」

 

 一方、こちらはシャドウワーカー作戦本部。そこでは今先ほどまで堂島と調査していたラビリスが美鶴に調査の結果を報告していた。

 

「当時タクラプロのトップアイドルだったのが、突然の自殺。マネージャーは糾弾され事務所を辞めた……か。だとすると、そのマネージャー【落水鏡花】が怪しいな」

 

「どうやら堂島さんもその線で調査するらしいです。今現在その落水って人も行方不明ですし……」

 

「ふむ……」

 

 美鶴はラビリスの報告を聞くと顎に手を当てて思考に入った。すると

 

「あの……美鶴さん。ウチは調査は堂島さんに任せて、鳴上くんたちを探すのを優先すべきやと思うんやけど」

 

「……どういうことだ?」

 

「今日タクラプロに調査に行った時に思うたんです。この事件は……シャドウが関わってるって。美鶴さんもそう思うとるでしょ」

 

「………………」

 

 ラビリスの指摘に美鶴は眉をひそめた。実際美鶴もラビリスの言っていることは思ってはいた。

 件の集団虚脱症事件の患者がいる病院を視察しに行って、一目で分かった。この事件にはシャドウが深く関わっている。何故ならあの症状が数年前、美鶴たちが大きく関わったあの事件に酷似しているのだから。

 ラビリスの提案に少し考え込んだ美鶴はふうっと息を吐いて告げた。

 

「分かった。ならば、キミの言う通り我々は鳴上たちを探すことに専念しよう。ただラビリス、君はまだ堂島刑事と行動してくれ」

 

「は、はい!」

 

 美鶴から指令を受けると、ラビリスは自分の提案を受け入れられて嬉しかったのか、勢いよく作戦室から飛び出した。その後ろ姿を見送った美鶴は誰もいなくなった作戦室で深いため息を吐いて天を仰いだ。

 

 

 

「……これも何かの因果か。せめて鳴上たちが私たちと同じような目に遭ってなければいいが………」

 

 

 

 

 

 

 

 次々と明らかになっていく数々の謎。だが、それは更に深みへと誘っていき、物語は一つに収束していく……

 

 

 

 

 

 

 

To be continuded Next Scene


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