PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
夏アニメは個人的に泣いてしまった最終回が多かったです。特にダンまち2期やロードエルメロイⅡ世など(特にウェイバーとライダーの再会が泣けた……)………色々と溜まっていたので、久しぶりにアニメで泣いてスッキリしました。今後とも頑張っていきそうです。
改めて、お気に入り登録して下さった方・評価をくださった方・誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
早く執筆したいと思いながらも都合で最近2週間近くごとの更新となって、申し訳ないですが、これからも応援よろしくお願いします。
追記(2019/10/7)
先ほど今話のことで指摘されたのですが、μ‘s3年組と1年組及び特捜隊2年組のルートは勝手ながら今回はカットさせて頂きます。理由としましては、このままでは似たような話になってしまいマンネリ化すると思ったからです。作者の勝手な都合でこの3ルートを楽しみにしていた皆様、申し訳ございません。
ですが、この3ルートはいずれ番外編で改めて書きたいと思っていますので、その時はよろしくお願いいたします。
それでは、本編をどうぞ。
<マヨナカステージ>
「はっ!?」
「うおっ、今度はなんだよ……」
楽屋セーフルームから出てからしばらく、淡々と歩みを進めていた悠の足が止まった。一体何だと思った陽介がそう聞くと、悠は重々し気な表情を見せる。
「いいニュースと悪いニュースがあるが、どっちがいい?」
「はあっ? お前、何言って」
「いいニュースからお願いできるかな? 鉄板だし」
「雪子、乗らなくていいから……」
ウキウキとした表情の雪子にそう促されて悠は重々しく“いいニュース”から言った。
「……菜々子が、テレビにデビューするかもしれない」
「「マジでっ!?」」
「それと……叔母さんが怒ってる。まるで刀を折られたりなくされたりした刀鍛冶のように……やばい……俺、死ぬかもしれない……」
「ああ……」
「怒る雛乃さんか……やっべ……学園祭んときの思い出が……」
「というか、その刀鍛冶って鳴上くんの中の人じゃ……あ、その作品だと私と花村くんは鬼でどっちも斬られちゃったよね」
「だから、そういうの止めろっての。うお……また、妙な感じのトコに来たな」
悠から告げられた重大案件に皆の表情が青ざめていると、またも景色が変わった場所に出てきた。どうやらまた新たなステージに到着したようである。菜々子と雛乃のことは一旦忘れて、スイッチを切り替えることした。
「さっきまではたまみに用意されたステージだったが、ここはまた誰かのステージになるってことか?」
「そうだね。さっきまではサーカスって感じだったけど、ここは何て言うか……“夜の街”って感じがしない?」
先ほどのサーカスと違って、天井が暗くネオン街を彷彿とさせる街灯、更には所々に存在するグラス棚。確かに千枝の言う通り夜の街という言葉がしっくりくる景色だった。
夜の街と聞くと、去年の修学旅行で辰巳ポートランドを訪れたホテルやバーを思い出すが、あまりいい思い出ではない。
「確かに、俺たちがこんなとこいたら絶対補導されるんだろうな……あっ、でも矢澤とかだったら迷子と間違われたり?」
「誰が迷子よっ!!」
「ぐはっ! あ、足があぁっ!」
突如陽介の脛に殴られたような激痛が走った。あまりに不意打ちだったので、陽介は痛みに耐えきれず床に倒れてしまう。どうやら弁慶の泣き所にクリーンヒットしたらしいが、一体何が起こったのかと背後を振り返ると、そこには別ルートにいるはずのにこが仁王立ちで陽介を睨みつけた。
「にこっ!? 何でここに?(フニュっ)あれ、この感触は……」
そして、悠の背中から何とも言えぬ柔らかい感触が伝わってきた。この感触は……まさか。
「うふふ、悠くん背中がガラ空きやで♡」
「希ちゃんっ!? ってことは」
「ええ、私もいるわよ」
悠の背中に不意に抱き着いてきた希に続いて、その後ろからやれやれと呆れた顔をする絵里の姿も現れた。どうやらこのステージは悠たちのルートで絵里たちのルートが繋がっていたらしい。思わぬところで絵里たちμ‘s3年生組と合流できて、千枝と雪子は歓喜した。
「絵里ちゃん! 無事だったんだね!」
「良かった、心配したよ」
「千枝ちゃんと雪子ちゃんたちの方こそ無事で良かったわ。それより希、そろそろ悠から離れなさい」
「ええ~? もうちょっと悠くん成分が満タンになるから、ちょい待って♡」
「いいから、とっとと離れなさいよ! 悠も鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!」
倒れた陽介を放っておいて、希を悠から引き離そうとするにこ。何だかいつもの光景になってきたが、何より仲間の無事を確認できてよかった。
とりあえずお互いに何かあったのかを聞くために、希を引き離そうとしながらポカポカと叩いて来るにこを落ち着けさせることにした。
閑話休題
「えっ!? マリーがこの世界に来てたのか?」
「そっちこそ、落水さんと会ったなんて」
希とにこのいざこざも終わり、陽介も痛みから回復したところで互いに各々のルートで起こったことを報告し合っていた。
絵里たちμ‘s3年生組はA-RISEの統堂英玲奈と遭遇、そして例の如くあの“謎の声”の妨害を受けて英玲奈がシャドウ化したが、何とか夏の成果を発揮して救出に成功したらしい。また、その後悠たちと同じく目の前に楽屋セーフルームが現れ、化粧台の鏡の前で奇妙なメモを発見したと大体は悠たちと同じだった。
ただ、悠たちと違いがあったとすれば、その楽屋セーフルームを訪れたのが、落水ではなくマリーということだ。悠たちからすればこの世界に稲羽にいるはずのマリーが来ていることが驚きだったが、絵里たちからすれば先に攫われた落水が現れたということが衝撃的だった。
「落水さんが無事ってことは良かったけど、正直会わなくて良かったわ。もし会ってしまったら、自分を抑えられるかどうか分からないもの」
「絵里……」
「それにしてもマリーちゃんがここまで出張ってるなんて、それほどの事態ってことかな……?」
「そんな事態になるほどのことって……ここを作った人って、何がしたくてこんな事してるんだろう?」
互いの出来事を聞いて、やはりあの謎の声のことが疑問に思う。毎度自分たちと繋がろうと迫って邪魔ばかりしてくる上、この世界に攫ったアイドルたちの心をえぐってはシャドウ化させている。とても許される所業ではない。
だが、他作品の言葉を使うとフーダニット……"あの声の正体は誰なのか?"、ホワイダニット……"何故このようなことをしているのか?"という動機がハッキリとしないのが現状だ。
「ここを作ったやつ……か。確かにここまで来てみたけど、テレビの中んみたいに入ったヤツの心が影響してるってことでもねーし。ただ普通に考えりゃ、あの“声”の奴が作ったって考えるのが一番自然だろうな」
陽介の考察に悠たちは納得した表情を見せる。
そう、これまで悠たちが経験したテレビの世界では、"中に入れられた人間の心"が、周囲の風景を形作っていた。だが、さっきのたまみのステージや絵里たちから聞いた話を総合すると、今回は違う。だとすれば、陽介の言う通りにあの謎の声がこの世界の風景を決めているのだろうか。
「てか、そもそもあの声は何なのよ! いっつも声ばっかで姿を見せないで、グチグチと……ああっ! もう腹立つ! 正々堂々出て来いっての!!」
にこはあの声に相当苛立っているのか、地団駄を踏んでいた。どうやら別ルートだった絵里たちもあの声には相当煮え湯を飲まされたらしい。
「えっ? お化けじゃないの?」
「「「(ガクブルっ!)」」」
「天城……その無自覚な悪意をなんとかしねーとそのうち友達なくすぞ……」
「えっ? そう?」
「そうやねえ。悠くんも無自覚なとこなくさんと嫌われるで」
「えっ? そうなのか?」
「「「……………………」」」
雪子と共にポカンと首を傾げる悠にぐうの音も出なかった。この2人の無自覚っぷりは重症だ、早くなんとかしないと本当に友達をなくすかもしれない。まあそう簡単に直れば今のような性格になってないと思うが……
「お、お化けとかどうかは置いといてさ、どっちにしろどこの誰だか分かんないじゃんね? 何かその、ヒント的なものってないかな? 出来ればお化け関係じゃないやつで」
何とか話を戻そうとさっきまで身体を震わせていた千枝が必死に軌道を修正してくれた。おふざけもここまでにして、悠は真面目に考察を始める。あの声の正体を突き止めるヒントを得るために、これまでのことを振り返ってみることにした。
まず思い出すのは、度々自分たちに立ちはだかってくるあの声の言葉だ。
"私たちと繋がりましょう?"
"たまみのことなんて何も知らないクセに……痛いのも苦しいのも好きな人なんていないわ……"
"お父様や……女優のお母様に言われて、幼いころからこの業界で一番になるように教えられたから……"
「……あの声はたまみのことを良く知っていたな」
「あっ! そういえば、そうだよね! たまみちゃんのお母さんの事とかまで知ってて、本人も驚いてたし」
今思い返してみれば、あの声はたまみのことに詳しく知りすぎているように見えた。千枝の言う通り、お母さんのことやお父さんのこと、そして何よりたまみが芸能界に入った経緯など、本人やそれに近しい人しかしらない情報を知っていた。
「確かに、英玲奈さんのことも良く知ってたわね。ツバサさんやあんじゅさんにも隠していた秘密を暴露されて、本人も青ざめてたわ」
「秘密?」
「ま、マジか!? 英玲奈ちゃんの秘密!? 一体どんな?」
A-RISEの英玲奈の秘密と聞いて、悠だけでなく陽介もウキウキした表情で耳を傾けたが、絵里たちは半眼で男どもを睨みつけつつダンマリを決め込んでいた。どうやらあまり異性には知られたくはないものだったらしい。
「ま、まあ……英玲奈ちゃんの秘密は置いといて……よく考えりゃ、色んなアイドルが入る中で……かなみんキッチンの4人とA-RISEの3人が狙われたってのもおかしな話だな。とすりゃ犯人は、かなみんキッチンとA-RISEの事をよく知ってるヤツって事になんのか?」
「もし陽介くんが言ったみたいに、この世界の景色を作ってるのがあの声の人なんだとしたら……」
「犯人は
「そういうことになるね。でも、タクラプロでかなみちゃんたちについて詳しい人って多いんちゃうん? そこに絆フェスに関わってるって要素も加えたら、少しは絞れるかもしれへんけど」
希の指摘通り、今の状態ではそう結論付けるのが精一杯だ。だが、この先へ進めば新たな手掛かりがつかめるかもしれないし、別ルートにいるりせや穂乃果たちも何か掴んでるかもしれない。どっちにしろこの事件を解決するには先へ進むしか道はないだろう。その時、
「フフフ……皆そろって探偵ゴッコ? ダメじゃない、関係者でもなにのに舞台の裏側にまで入り込もうとするなんて……」
ー!!ー
突然重くなった空気に天から降り注ぐようなあの不気味な声。噂とすればというべきか、お目当てがあちらの方から接触してきた。
「出てきたわね!! たまみんたちを勝手に巻き込んでおいて、都合のこと言ってんじゃないわよ!! こっちがどれだけ迷惑掛かってると思ってんの!!」
「お前がタクラプロ、それも絆フェスの関係者ってんのは分かってんだ。ぜってー捕まえてやっからな!」
「……私を捕まえる? 本当に面白い子たち、でも聞き分けがないのね。可哀想なたまみと英玲奈……あなたたちに毒されたから、あの子たちは私たちとの絆を捨ててしまったわ……」
にこと陽介の指摘に戸惑うことなく、余裕があるようにいつも通りの口調で語りかけてくる声。あの口ぶりから察するに、自分の正体を突き止められることはないと自信を持っているように聞こえる。それよりも
「ちょっ! そんな言い方ないでしょ! あたしたちが悪者みたいじゃん!」
「あなたたちは悪者じゃない……あなたたちは私たちの絆を邪魔する毒。あなたたちみたいな人達がいなければ、痛みや苦しみなんか捨てて行けるのに……」
「……っ!」
「ど、毒って何よ! もっとひどいじゃない! てか、毒はアンタの方でしょうがっ!!」
にこと千枝は酷い言われように猛抗議するが、声の言葉を聞いた雪子たちは痛いところを突かれたように表情を歪めた。
「そうだ……あなたたちを元の世界へ返してあげましょうか。私たちの絆に繋がってくれないなら、この世界にあなたたちは必要ないんだから……」
何を思ったのか、脈録もなくそんな誘いを持ちかける謎の声。まさか、自分たちを現実に返してくれるという予想外の誘いに千枝が拍子抜けしたようにポカンとした。
「えっ? かえしてくれんの? それって良いことだよね?」
「千枝、ダメだよ。あの人はたまみさんや英玲奈さん、落水さんたちを帰してくれるとは言ってない。"返してくれる"っていうのは多分、私たちを追いだしたいだけだよ」
「あっ、そうか! あっぶねー……騙されるところだったじゃん」
「にこも危うく騙されそうになったわ」
「2人とも元々騙されやすいやん」
希の痛烈な一言にグサッと来た千枝とにこだったが、打ちしがれてる2人を他所に悠は謎の声に物申すように一歩踏み出した。
「悪いが、俺たちは自分たちだけで帰るつもりはない。俺たちはかなみんキッチンとA-RISEのみんなを連れて帰る。絶対にだ」
「悠の言う通りだぜ! 俺らだけで逃げ出すなんてあり得ねえからな!!」
「そうよ、7人を助けるだけじゃない。あなたの悪事を暴くまで諦めないわ!」
そうだ、元から自分たちはそのつもりで来たのだ。この世界に囚われてしまったかなみんキッチンとA-RISEを助ける。そして、この事件の首謀者であるあの声の正体も突き止める。それらを成し遂げるまで絶対にここを去るつもりはない。
「そう、じゃあ好きにすればいい……でも、次のともえはあなたたちについていくかしら?」
すると、この世界に入ってから毎度おなじみという風になったのか、いきなり後ろの扉が閉まったと思うと黒い靄が発生し、そこから新たなシャドウが出現した。この一連の出来事は相手の意思を象徴している。次に起こるアクションを容易に想像した悠たちは身構えて、あの不気味な歌に備えた。
「簡単に行かせるつもりはないという事か」
「そうみたいね。分かってはいたけど」
そう、ここまで進んできて分かっていた。この声は自分たちの話を聞かない、否聞こうとしない。まるで自分が正しいと信じこんでいる狂信者のように。
「もういいじゃない……そんなに頑張っても、貴方たちが痛くて苦しいだけ……私たちと繋がるだけで楽になれるから」
その声を合図に不気味な歌が音量を上げて、シャドウたちの奇妙なダンスが悠たちに襲い掛かる。精神的に揺さぶられはするものの、悠たちに油断はなかった。いつまでもこんなものに惑わされるほど、悠たちはヤワじゃない。
「よしっ! ここは俺が行くぜ」
ここで早い者勝ちと言わんばかりに陽介が一歩前に出てそう宣言する。流石は特捜隊&μ‘sの参謀兼切り込み隊長である。だが、
「いや、私が行くわ!」
「はあっ!? 俺が行くっつってんだからお前は引っ込めよ」
「良いからここは譲りなさい! あいつにダンスで物申さなきゃ腹の虫が収まらないのよ!」
「いやいや、それは俺だって!」
なんとここでにこまでもそう宣言した。やると言ったからには自分が退くことが許されないのか、互いに自分が躍ると譲らない。そんな2人の争いに呆れた希は2人が納得するように折衷案を出した。
「じゃあ2人で踊ったらええんちゃう? ちょうど夏休みで2人一緒に練習しとった曲があるやん」
希からの折衷案に2人はぬぬぬと渋りながらもそうすることにした。確かに夏休みに絵里が2人にこれが合うと出した課題曲があった。ここで言い争っても仕方ないし、いつシャドウの波に飲まれるか分からない。
「しょうがないわね。今回だけ一緒に踊ってあげるわ。たまには良い恰好見せなさいよ」
「たまにはは余計だっての。まっ、俺は確かにいつも失敗してカッコ悪いし、悠みてえに器用じゃねえけどさ」
「……ごめん。言い過ぎたわ」
「いいって、事実だからな。でも、こんな俺を認めてくれるやつが居る限り、俺は俺を捨てねえ。それをあの分からず屋に教えてやろうぜ、矢澤!」
「あ、あったりまえよ! あたしだって、自分勝手で絵里や希に比べたら可愛くないのかもしれないけど、これがわたし! いつか宇宙一のスーパーアイドルになるってきめてるんから、こんなところでやられる訳にはいなかいわ! だからアンタの力を貸して、陽介!」
先ほどと打って変わって互いにそう鼓舞し合う2人。あの様子ならもう何も言わなくても大丈夫だろう。この場をあの2人に託して、希はそんな2人に宣言する。
「それじゃあ、2人の曲【Your Affectation】は準備OKよ。さあ、2人とも行ったって!」
「「行くぜ(わよ)っ! μジックスタートっ!!」」
聞いてて思わずリズムを取りたくなるような電子音のメロディーから始まった陽介とにこのダンス。陽介の身軽さから為せる軽やかなステップとにこの愛らしい仕草が特徴的な振りや勝気な笑顔でシャドウたちは徐々に魅了されていった。
(うおっ……すっげえ。矢澤のやつ、相当上手くなってる)
そんな中で陽介はにこの可愛らしいダンスに驚嘆していた。こだわりがあるのか、一緒にステップを合わせるところでにこにこポーズを入れ込んでいたが、それが何とも違和感なく良いタイミングで入ってくるので思わず陽介もつられてしてしまいそうになってしまった。
何より、本人に言うと怒られるかもしれないが、小さいながらも可愛らしいその笑顔と仕草に思わず見惚れてしまった自分がいる。
(里中と同じで頑張ってんだな、こいつも。迷子とか言ってた俺をぶん殴ってやりたいぜ……)
(陽介、すっご……)
一方、にこも陽介のダンスを間近で見て驚嘆していた。普段、と言っても最初に出会った時は今年のGWの時だが、正直言って顔はまあまあ良いものの悠程ではないし冴えない男だなと思っていた。
しかし、今隣で踊っているのはそんな男ではない。決めるところはしっかりと決め、更にはこっちを引き立ててくれるカッコイイ少年だった。そういうことをさらっと出来るのは今までジュネスのバイトなどで培った空気を読む上手さや気配り故だろう。
(何よ……普段のガッカリを直したら、カッコイイじゃない………普段のガッカリを直したら……)
大事なことなので2回言いましたと言わんばかりに、心の中でそう呟いた。
2人が互いのことを認め合っている最中、とうとうダンスもフィニッシュを迎えた。そして、
ーカッ!ー
「来い! タケハヤスサノオっ!!」
「エラトー! 出番よ!」
ダンスがフィニッシュした陽介とにこは己のペルソナを召喚。タケハヤスサノオは緑色のギターを、エラトーはティンパニーを手に持ってセッションを渾身の始める。
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!
陽介とにこのダンス、そしてそのペルソナたちのセッションは確実にシャドウたちを魅了し、彼らを例の不気味な歌に操られた威圧的なダンスから1人、また一人と解放していった。その様は1人の観客として十分に心躍る体験でもあり、仲間として誇らしい気分になるものだった。
「へへっ、やったな! 矢澤」
「アンタもね、陽介」
陽介とにこは互いを褒めたたえるようにパチンとハイタッチした。シャドウが夜空の星々の如く輝いて消えていく光景を背景にして映る2人のそんな姿はとても幻想的で普段の様子では考えられない程カッコよく、そして美しく見えた。
「フフフ……まだ諦める気はないんだね。いいよ、あなたたちが何をしても、私たちの絆は永遠だから……」
だが、シャドウが全て消えてしまった後、謎の声は水を差すようにそう言い捨てると気配を消して去っていった。
「行ったな……」
「そうやね。最後まで姿を現さんかったけど」
気配が遠ざかった謎の声に希はそう言ってやれやれと肩をすくめた。
「ホントあったま来る! 言いたいことだけ言って、サッサと逃げちゃってさ! もう腹立ちすぎてお化けでも怖くないような気がしてきた!」
「さっきのだって、どうせ負け惜しみでしょ!」
「お前ら、落ち着けって。まあ言いたいことは分かるけどよ」
希とは正反対に千枝とにこは謎の声がいなくなったことを良いことに言いたい放題だった。よほど鬱憤が溜まっているのか、それとも良い雰囲気を台無しにされたことに腹が立っているのか、千枝とにこの声色にイライラが現れていた。
「ねえ鳴上くん・絵里ちゃん、でもさっきあの声が言ったのって……」
「ああ、そうだな」
「そうね、私も気になってたわ」
「気になる? 雪子、何が気になるの?」
恐らく雪子が気にしているだろう、あの声が先ほど言った言葉。それはある種の違和感を持って悠たちの中に残っていた。3人の反応がピンと来ないのか、首を傾げた千枝が雪子にそう問いかけた。
「あの声は"私たちみたいな人間がいなければ、痛みや苦しみを捨てて生きられる"って言ったよね? それって、逆に言うと私たちがいると痛い事とか、苦しいことが捨てられないってことじゃないかな?」
「確かに! それだと、見たくないだけで本当はあたしらが言ってる事、分かってるってことじゃん」
「もしかするとあの声の人は、本当は自分の言っとることが間違っとるってことを自覚してるのかもしれへんな」
「本当は分かってるのに、"痛い"から見ないようにしてるっつーことか? そういや、妙に"絆"ってんのに拘ってる感じもするよな」
改めてこれまでのことを思い出してみると、確かにあの声は”絆”という言葉に執着があるように思えたし、自分たちが来たから痛みや苦しみが捨てられないと言っているが、それは本当は自分たちが伝えようとしていることが分かっているということではないのか。
「だとしたら、あの声に伝えられるかもしれないな。俺たちの思いを」
「だな。それこそ痛い思いをしててでも、ハッキリ認めさせてやるしかねーだろ」
「とにかく、今は残りのアイドルたちを助けるのが先決よ。あの声の言う通りだったら、この先にともえさんがいるってことらしいし」
シャドウも謎の声もいなくなって、先へ続く道は開かれている。この先にともえがいるのであれば、早く助けに行かなければ。もうたまみの時のようなへまはしないようにと心から思う。
「ともちんって、あのともちんだよなっ!! やっべ、テンション上がってきた~!!」
「私も私もっ!! やっぱ話が分かるわね、陽介!」
このステージに囚われているのがかなみんキッチンの左山ともえだと思い出したのか、ファンである陽介とにこのテンションが上がり始めた。また始まったのかとそんな2人に悠たちはやれやれと息は吐いた。
「切なげな瞳、漂う大人の色かとたなびく美しい髪! かなみんキッチンのリーダー、雌羊の左山ともえ。通称、ともちん!」
「そう! その大人っぽい雰囲気とクールさから絶大な人気を誇って、【○をすませば】や【サ○ラ大戦】といった名作にも出演した、まさにアイドルのリーダーの鏡よ!」
「あーはいはい、こういう話になるとめんどくさいな、この2人」
「最後のは絶対関係あらへんやろ……」
相変わらずアイドル関係の話になると熱くなるこの2人。やはりさっきのダンスからしても仲の良いコンビかもしれない。これに花陽も加わったらもっと厄介になるだろうが、その時はそっとしておこう。
「とにかく急ごう。あの声よりも早く、ともえさんを見つけるんだ」
「そうね、じゃあ準備ができたら行きましょう。早くともえさんを救出して、りせちゃんと穂乃果たちと合流するのよ」
リーダー格の2人にそう鼓舞されて、士気を高める特捜隊&μ‘s3年組。別に競争している訳ではないが、後輩たちよりも先にアイドルを助け出して合流しよう。そう意気込んで皆は先への道を駆け出した。
しばらく夜の街中のような、だが人影が全くない道をひたすら奥へと進むと、悠の隣を陣取っていた希が前方を指さして、突然声を上げた。
「悠くん、あれっ!」
希が差した方向に目を向けると、そこには見覚えのある衣装に身を纏った少女がオロオロと立ち往生している姿が確認できた。
「うおっ! ぜってー間違いねえ! 切なげな瞳に漂う大人の」
「はいはい、ともえさんね。本当めんどくさいなぁ」
間違いない、悠の目から見てはアレはまさに探していた左山ともえだ。にしても、直接面識のある悠と絵里たちより先にともえを見分けるとは。流石は陽介といったところだが、そんな陽介に絵里たちはドン引きしていた。
そうこうする内、ともえの方もこちらに気づき、悠たちが声を掛けるよりも早く、自分の方から駆け寄ってきた。
「アナタたち、りせさんと一緒にいた……! 確か、鳴上くんとμ‘sの?」
「ともえさん、無事で何よりです。けがはありませんか?」
「私はだっ、大丈夫。でも、みんなが見当たらなくて……どうしましょう……心配だわ、すももたちは無事かしら……せっかくツバサちゃんたちとも一緒だったのに……」
ともえは会って早々随分と動揺していた。初対面の時の落ち着きは何処かへ行ったのか、こちらの話を聞かずに一方的に捲し立ててくる。先ほどのたまみの例のように、素の彼女はこんな感じなのだろう。悠は何とか彼女を安心させるため、ゆっくり一つずつ状況を説明することにした。
「こと……たまみならさっき助けましたよ。今は落水さんと一緒です」
「はい、A-RISEの英玲奈さんも私たちが助けました。まだ確認してませんが、すももさんものぞみさん、ツバサさんやあんじゅさんも私たちの仲間がきっと助け出してくれているはずです」
「ほ、本当……? 良かった……! あの子たちに何かあったら、どうしようかと……。た、たみはどこ!? すぐに行ってあげなくちゃ……! それと、さっきあなた、声が似てるからってたまみと妹を間違えなかった!?」
「えっ?」
落ち着いたかと思えば更に何か心配事があったのか、ともえが更に悠に詰め寄って聞いてきた。あまりの迫力に悠は仰け反ってしまうと同時に、ともえが最接近してきたので手をぎゅっと握られたり、胸が悠の身体の所々に当たったりしているので悩ましい。すると、悠の背中に数名の冷たい視線が突き刺さった。
「と、ともちん、とりあえず落ち着いて。完全にキャラが変わっちまってるし、何か希ちゃんの目が怖えから」
陽介が言っていた通り、ともえに迫られてデレデレしているように見えたのか、希が目のハイライトを消して2人を睨んでいた。そんな彼女の迫力に負けて、ともえは悠から慌てて距離を取った。
「あっ……ご、ごめんなさい! あたしったら、つい……」
「いや、大丈夫だ。でも、さっきのたまみは全く変わってなかったけど、ともえさんは最初と印象が違うな」
「花村とにこちゃんは大人っぽいって言ってたけど、何か落ち着かない感じだしイメージと真逆のような?」
ともえに聞こえないように悠と千枝はひそひそとそんな話をする。
この世界に入ってから、いや絆フェスに関わるようになってからアイドルの表裏のギャップを見てきた気がする。最も皆を驚かせたのは現実にいるかなみだが、去年から人には色んな一面があると散々実感した悠たちにとっては慣れっこになってきた。そのとき、
「フフフ……ダメじゃない、ともえ。それは皆の望むあなたじゃないよ……」
不意に辺りの空気が冴え、同時に礼の声が何処からともなく悠たちに降り注ぐ。やはり現れたかと悠たちはいつでも動けるように重心を低く構えた。
「また出たっ! んにゃろー、今度は油断しないんだかんね!」
「いつでも掛かってきなさいよ! 今度はアンタをぶっ飛ばしてやるわ!!」
またも姿を現さず声だけで存在感を出してきたことにそう突っかかる2人。だが、そんな2人の叫びすら聞こえていないのか、謎の声は2人に応じず目的のともえに語り掛けてきた。
「行きましょう、ともえ。もうすぐあなたのステージが始まるから……」
「だから、そういうのやめろっつの! 本人が嫌がってんだろ!」
「ともえは嫌がってなんかいないよ。だってこれは、ともえのためだもの。そうよね、ともえ?」
「いっ、嫌よ……! 行かない……私、こんなところでステージなんて……!」
謎の声に惑わされることなくハッキリと拒絶するともえ。だが、その声にはどこか迷いがあるようにも感じるが、案の定謎の声はそこをついてきた。
「いいえ、嫌がってなんかいない。あなたは行くわ……だってほら、みんながそれを望んでいるだもの……」
ー!!ー
またも目の前の扉が重く閉まり、黒い靄と共に数多くのシャドウが出現した。
言うまでもない。謎の声の言う“皆”とは、悠たちを取り囲むシャドウたちのことだろう。ともえさんの意思など関係なく、あくまで向こうの意思を押し付けようという魂胆だろう。
「ねえ、ともえ……皆の期待に応えるのがリーダーでしょう? なのに、あなたは逃げ出しちゃうのかしら?」
「リーダー……みんなの……期待……」
心を揺さぶるように、また心の奥に入り込むように"リーダー"という言葉を織り交ぜながらともえに囁く謎の声。だが、その囁きを否定するように悠が割って入ってきた。
「ともえさん、落ち着いてくれ」
「えっ?」
「何でも受け入れるのだけが、完璧なだけがリーダーじゃない。皆と一緒に笑って成長していくのもリーダーだ。だから、そこは間違えないでくれ」
「ええ……」
何とかともえを少し正気に戻せたはいいが、辺りは既にリボンに繋がれたシャドウに囲まれていた。まずはこの場を乗り越えなければ。
まずはともえを安全な場所……例えば、たまみのいる楽屋セーフルームなどに匿うにはこの場を切り抜ける必要がある。どっちにしろ、やるしかない。しかし、誰が次に踊るのかということだが、それを考える必要はなかった。
「大丈夫、私が行くね」
「私も行くわ」
「雪子! それに、絵里ちゃんも!?」
そう、次にシャドウたちに立ち向かおうとしたのは雪子と絵里だった。驚く千枝に対して説明しようと雪子と絵里は重々し気な表情で語った。
「私ね、ともえさんの気持ちがちょっとだけ分かるの。皆に期待されて、それに応えなきゃって思って。でも、それが自分の気持ちとバラバラで。周りの人たちをガッカリさせるのが悲しくて……そういう時、迷ったり悩んだり凄く苦しくなるよね」
「私も……お婆様の期待に応えたいからってバレエを頑張って、生徒会長だからって亜里沙や学校の皆の期待に応えようとして……もし失敗したら皆が失望してしまうって思って怖かったのよ。だから、悠や穂乃果たちが羨ましく思ってた………」
なるほど、天城屋旅館の次期女将として期待されていた雪子と完璧な生徒会長と称されていた絵里にとって、今のともえが悩む姿がいつかの自分たちと重なって見えたのだろう。だが、そんな2人の想いなど無駄だと言わんばかりに謎の声がまたも茶々を入れた。
「フフフ……分かる? ううん、あなたたちには何も分かってない。痛くて苦しい絆なんて誰も欲しがってないよ。あなたたちも私と繋がれば分かるから……」
「お断りよ。さっきから色々言ってるけど、あなたこそ本当は分かってないんじゃない? 本当の絆がどんなものかってことを」
ーブチッー
不気味な歌とシャドウのダンスが始まり、すぐそばのともえが呻きを上げる。絵里の言葉が相当気に障ったのか、今までよりも更に音量と威力が上がっているように感じる。だが、こんな状況でも必ず雪子と絵里はやってくれる。不気味な歌に負けず毅然とした表情で立つ雪子と絵里のその瞳がそれを物語っていた。
「よっしゃ、雪子ちゃんとエリチのためにもウチも頑張るで。2人の曲【SNOWFLAKES】は準備ばっちしやからいつでもええよ!」
「よし、じゃ行くよ! 絵里ちゃん」
「ええ」
「「μジックスタート!!」」
────何故だ……何故だ……
ある者……声の者は考えていた。何故この者たちは諦めないのだろうか、何故こうも進められるのだろうかと。
眼前で雪の妖精の如く舞う少女たちの踊りから、決して諦めない……例え伝わらなくても何度でも伝えるという心意気を感じる。それは、この者たちがこの世界に入り込んできてから何度も感じていた。
このままではダメだ。このままではせっかく手に入れた自分の理想郷が壊されてしまう。あの毒たちを放置してはいけない。何とかしなければ。
――――ニヤリ……
そうだ、そうすうればいい。そうすれば、きっと分かって貰えるはず。
声の者はある策を思いついた。これが絆だとほざくあの者たちの心を折るのに、最も効果的な方法を。それを思いついた声は邪悪な笑みを浮かべた。
ーカッ!ー
「来て! スメオオミカミ!!」」
「テレプシコーラ!!」
ダンスがフィニッシュした雪子と絵里は己のペルソナを召喚。スメオオミカミは緑色のサックスを、テレプシコーラはクラリネットを手に持ってセッションを始める。
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!
そして、歓喜の声を上げたシャドウはまたも星になるように解放されていく。
まるで雪国に舞う妖精を表したような繊細で優雅で、そして自由奔放でありながら気品のある、雪子と絵里そのものを表現した美しいダンスとセッションだった。
「良かった、分かって貰えたみたいで」
「ダンスって難しいけど、心を込めると伝わるんだね」
やり切ったと言わんばかりに深い息を吐いて、そう言った。まさに圧巻ともいえるパフォーマンスをやり遂げた2人を称賛するために、悠たちは彼女たちの元へと駆け寄った。
「素晴らしかったよ、天城・絵里」
「すっごいキレイやったよ、2人とも」
「や、マジで! 俺ちっと最初に天城をデート誘った時、思い出しちったわ」
「……えっ? 誘われたことないよ?」
「あーいい、忘れてくれ。俺はこの1年で期待しない方がいいっつー事を学んだよ……」
哀愁漂う背中に思わず目を伏せてしまった。どこかの独神ではないが、誰か陽介と付き合ってくる女子はいないだろうか。いや、居てほしい。
「そう……あの子たちも、あなたたちに毒されてしまったのね。可哀想……」
またも謎の声が忌々し気に茶々を入れてきた。また来たのかと千枝が声に向かって猛抗議しようとした途端、雪子がそれを遮って言い聞かせるように天に向かってこう言った。
「違うよ、あなたは本当は気付いてるんでしょ? こんな場所にシャドウを繋ぎ止めたって何にもならないって……!」
「そうよ! そんなに絆が欲しいなら現実でやればいいじゃない! 痛くても苦しくても、自分のことを話せる人を見つけて、ちゃんと分かって貰うしかないのよ!」
雪子と絵里の強い言葉に辺りに沈黙が訪れる。流石にあの声も返す言葉が見つからないのか、押し黙っている様だ。だが、
「……フフ、本当に面白い子たち。でも、何も分かってない……そうでしょう? ともえ……」
謎の声はそう言うと話し相手を悠たちの後ろで呆然としていたともえにすり替えた。
「なっ、……なに?」
「自分を通せば、みんなの心は離れて行く。あなたはそれをよく知ってるじゃない。本当のあなたを見せて、あなたは誰かに愛してもらえた……? 裏切られて、傷つけられるだけ……そうよね、ともえ?」
「わっ、わた……しは……」
含みのある声にともえが後ずさり、嫌々をするように首を振る。ともえの怯え方が尋常じゃない、まさか前のたまみの時のようにあの声がともえの心をえぐっているのか。まずい予感を感じた悠は気付けば、ともえの元へと走り出していた。
ー!!ー
「ぐああっ!」
「悠っ!?」
その時、ステージの四方からあの黄色いリボンがともえに駆け寄ろうとした悠を床に叩きつけた。リボンはそのままともえの体に巻き付いて彼女を道の奥へと引き去っていった。あまりに突然の出来事に陽介たちはあっけに取られ、床に叩きつけられた悠は何とか身体を動かそうとするが、リボンの叩きつける威力が強すぎたのかすぐには動けなかった。
「フフフ……あなたもこちらにいらっしゃい、鳴上悠。分かってもらないなら、嫌でも分かってもらうしかないから……」
そう言った途端、またも四方からリボンが伸びてきて悠に向かって飛んでいくる。まさか、今度は悠も捕まえようとしているのか。それに気づいたはいいが、身体がまだいう事を聞かないのでもう遅い。
「鳴上くん! ダメっ!!」
「悠っ! 危ないっ!」
リボンに捕まる寸前、千枝とにこが庇うように悠を突き飛ばしてリボンに巻かれて、ともえと同じく道の奥にへと引きずり込まれそうになる。
「「きゃああああああああああっ!!」」
「千枝っ!!」
「にこっち!」
親友たちが攫われそうになって手を伸ばそうとするが、リボンの引き込む速さの方が早く、成す術なく千枝とにこの姿が見えなくなってしまった。
「フフフフ……まさか庇って自分から連れ去られるなんて、本当に仲が良いのね。まあ、いいわ。私たちと繋がったあの子たちを見て、貴方たちの考えが変わってくれるわよね……フフ……フフフフフフフフフフフフフフフっ……」
ともえのみならず、千枝とにこまでも連れて行った謎の声は愉快そうに笑いながら気配を消していった。
「て、てめえ!! ともちんだけじゃ飽きたらず里中と矢澤を連れて行きやがって!!」
「なんて卑怯なのっ! そこまでして……一体何がしたいの!?」
その場に残された陽介たちは謎の声に対して怒りを露わにする。それに対して悠の心情は後悔でいっぱいだった。勝手に飛び出した挙句、仲間まで攫われた。まるで、去年のことを思い出すようで悔やんでも悔やみきれない心情に駆られてしまった。
「すまない……俺のせいで」
「悠くんは悪くないで。とにかく、はよう追わんと」
「そうね、今は悔やんでる暇はないわ。行くわよ」
そうだ、今は悔やんでいる場合じゃない。自分を庇ってくれた仲間を目の前で攫われて焦る衝動に駆られるが、何とか抑えながら悠は立ち上がって、3人が連れて行かれた道を走って追いかける。
まさか、ともえのみならず仲間まで攫ってくるとは思わなかった。それほど悠たちの躍進が相手を追い込んでいるということだろうが、こんなことは看過できない。悠は何があっても助けると覚悟を決めて、仲間と共に一番奥のステージへ急いだ。
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