PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

先日、旅行でつくばのJAXAに見学に行ってきました。着くまでが長かったですが、宇宙兄弟に関するものが見れたり行けたりして貴重な体験ができましたので、行って良かったなと思いました。

今は学校が始まったと同時にギル祭で高難易度クエストを攻略するのに四苦八苦している最中です。今年こそは全員倒したいところです……

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。これからも応援よろしくお願いします。

さあ、今回はついに我らの菜々子が……それでは、本編をどうぞ!


#82「Debut Sisters.」

「死んだアイドルって、どういうことですか?」

 

「まあ……そのことに関して順を追って報告する」

 

 突然告げられた言葉に動揺を隠せなかったかなみにそう言って堂島は手帳を取り出した。こういってはあれだが、何となく堂島とラビリスが並んでいるところを見ると、まるで刑事ドラマで出てくるようなコンビのように見える。

 

「あの後、俺はこいつと雑誌社を当たって例の集団虚脱症について調べた。結論から言うと……“当たり”だ」

 

「当たり……? ということは」

 

「どっちかっていうと警察じゃなく医者連中が騒ぎ始めてることらしいが……ここ最近、実際にあちこちの病院で患者が急増して何人もの入院患者が出てやがるらしい」

 

「入院……!?」

 

「お前の言ってた動画が原因かは分からんが、少なくともただの噂ってだけじゃなく、実際に被害者が出てる“事件”だって事は確かだ」

 

 入院・事件と聞いて、かなみは目を見開いた。まさかあの絆フェスの噂が実際に起きている事件に繋がっているとは思ってもいなかったからだ。

 

「すまん、言い方が悪かったな。もちろん事故って可能性も含めての話だが、医者の見立てじゃどの患者も症状は同じ……挙句に高い確率で例の噂が患者の周囲にまとわりついてやがる。詳しい事はまだ分からんが、こいつら全員が全くの無関係とは思えん」

 

「………………」

 

「それと、もう一つ。雛乃の知り合いに医者がいるって聞いて、そいつの病院を訪ねた時に妙な証言をするやつがいた」

 

「妙な証言?」

 

 一体どんな証言があったのかとジッと堂島を見据えると、その堂島の代わりにラビリスが口を開いた。

 

「ウチが堂島さんとその病院で聞き込みをしとる時に、偶々お友達のお見舞いに来とった子たちがおってな。その子たちに話を聞いたら、こんなことを言ってたんよ。“友達と一緒に絆フェスの動画を見たら、リボンのようなものが見えて、気がついたら友達が引き込まれそうになってた”って」

 

 ラビリスの話を聞いてかなみは目を見開いた。“()()()()()()()()()”に“()()()()()()()()()()()”。まさしく昨日かなみが目にした光景と合致する。つまり、あの出来事は夢でも幻でもなく実際に起こっていることになる。

 

「や、やっぱり!」

 

「だが、お前の話では悠たちと落水とやらはリボンに巻かれてどこかに連れて行かれたんだろ? 対して、こっちはリボンに巻かれたものの虚脱症にかかって現実にいる。おかしくないか?」

 

「あっ……そうか」

 

「全く調べてて気が滅入るぜ……とんでもねえ話ばっかなのに、事実として被害者だの一致する証言だのが次々と出てきやがる。去年の事件を思い出すな」

 

 そう言って堂島は眉間に皴を寄せて深い溜息をつく。どうやら現実ではありえないと思っていたことが、本当に起こっていることだと裏付ける証拠が次々と現れているからだろう。

 

「す、すみません……私のせいで」

 

「ああ……すまんな、つい愚痴が出ちまった。だが、むしろお前には感謝してるくらいだよ。妙な事件だが、お前が話してくれたお陰で拾えたようなもんだ。とにかく、俺たちはこの噂について深く調べる必要が出てきた」

 

「噂……あっ、それで“死んだアイドル”ってことですか?」

 

「そうだ。こっちでも調べちゃいるが、同業者に聞くのが早いと思ってな。真下はその死んだアイドルってんのに心当たりはないか?」

 

「し、死んじゃった……アイドルですか? う~ん……」

 

 同じアイドルという仕事をする身としては、こういう状況でもない限りあまり考えたくないが、何か少しでも堂島とラビリスの役に立てるのならとかなみは必死に頭の中を探る。懸命に思い出そうとするが、頭の中にもやがかかったみたいに何も出てこなかった。

 

 

ーズキッー

「あう、痛っ……!」

 

 

 だが、その時鮮烈な頭痛がかなみを襲った。あまりの痛さにこめかみを抑えたかなみに堂島とラビリスは驚いて心配そうにかなみを見る。

 

「どうした? 大丈夫か、真下」

 

「大丈夫です……最近、時々あるんですコレ……あはは」

 

「具合が悪いなら病院に行った方がええよ。かなみちゃんも身体が大事なんやし、なんならウチらが今日行った西木野総合病院に行く?」

 

「あはは……そこまでしなくていいですよ。でも、そのアイドルさんっていう人の事は分かんないかなー。せめて、どこの事務所の人とか、特徴とか分かると良いんですけど……」

 

 残念ながらかなみはこの業界に入ってからそんな不幸な話は聞いたことないし、何より何のヒントもないこの状況では助けになる情報は引き出せなかった。

 

「そうか。まあいい、だったらこっちで調べてみる。それと、今の話はあまり他の奴にはしてくれるなよ」

 

「へ? 何故内緒ですか?」

 

「あのな、人間がリボンに巻かれてどこかに消えましたって言って誰が信じる? 実際お前、井上に話しても信じてもらえなかったろ」

 

「うぐ……」

 

「万が一お前の言うような事件だとしても、警察が動くにはそれなりの証拠がいるんだよ。誰かに話して動きづらくなるくらいなら、黙って足で稼ぐ方がいい。分かったな、真下。それにラビリス、お前もだ」

 

「むう……分かりましたです」

 

「………………」

 

 言葉では納得したものの、かなみの心は複雑だった。確かに堂島の言う通りなのかもしれないが、それで何も知りませんと周りに装うのは自分の方こそ嘘をついているようで釈然としない。同じように釘を刺されたラビリスの方を見ると、同じことを思っていたのか難しそうな表情を浮かべていた。すると、

 

 

 

 

 

 

「大変よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 廊下から物凄い足音と叫び声みたいな野太い声が聞こえてきた。一体何なのかと振り返った瞬間、楽屋の扉が大きく開かれた。

 

「せ、先生!? どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ! かなみ、アンタちょっと……」

 

 入ってきたのはなんと息を荒げたダンスの先生だった。見た目は強烈だがいつも明るくハイテンションな人が、突然大声を上げて切羽詰まった表情で入ってきたので、流石のかなみも驚きを隠せなかった。

 

「あら、ナイスミドルとビューティーガール……すっごい好み……♡オウ! そんなリピドーに誘われている場合じゃないわ! ちょ、凄いのよ! あの子たちすっごいの! 良いから来て、早くこっちへカマーン!! あ……ナイスミドルとビューティーガールもどうぞ」

 

「はわわわっ! なな、何ですか!? 何なんですか、先生ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 かなみが唖然としているのを露知らず、先生はそう言うとかなみの向かいに座っている堂島とラビリスに目を向けてそういうと、先生はかなみの腕を取って廊下へ全速力で走りだした。その勢いにかなみは後ろ向きに引っ張られて転びそうになりながらバタバタもがいてついていくしかなかった。

 

「……俺たちも呼ばれたよな?」

 

「そう……みたいですね……」

 

 あまりの展開に戸惑いつつも2人も後を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<タクラプロ レッスンスタジオ>

 

「ハリーアップ! こっちよ!!」

 

 先生に連れて行かれたのはなんと先ほどいたレッスンスタジオだった。当然そこにいるのは満悦な笑みを浮かべている菜々子と井上に亜里沙、何が何だが分からずに混乱している様子の雪穂だった。

 

「あっ、かなみんにお父さんだ。ラビリスお姉ちゃんも一緒にいる」

 

「本当だ、鳴上さんの叔父さんとラビリスさんだ~! さっきぶり!」

 

 さっきまでスタジオにいたであろう菜々子と亜里沙が入ってきた堂島とラビリスにそう声を掛ける。堂島はとりあえず2人に相槌を打つと、近くにいた井上に挨拶した。

 

「すまんな、井上。菜々子たちが世話になってる。挨拶を兼ねて寄ってみたんだが邪魔じゃなかったか?」

 

「邪魔だなんてとんでもない。先生がこの入れ込みようですからね」

 

「そうよ! というか、このナイスミドル、もしかして菜々子たちのお父さん?」

 

「いや、菜々子は俺の娘だが、雪穂と亜里沙は悠の後輩の妹で……」

 

「ああっ! これはもう運命だわ! 親子揃って私のハツを鷲掴みーッ!!」

 

 まるでミュージカルのようなオーバーリアクションを取る。それほど何かに魅了されたのが分かるのだが、先生のあまりの奇行についていけない堂島たちはポカンとしてしまっている。

 

「先生……それじゃ焼き鳥のメニューになってますから、普通に心臓かハートで良いと思います」

 

「どっちでもいいから見てあげて! この美しくも儚い地上に降りた天使たちを! 菜々子・雪穂・亜里沙、行ける?」

 

 井上のツッコミに異を返さず、先生は興奮を抑えられず菜々子と雪穂、亜里沙にそう声を掛けた。

 

「うん! お父さん見ててね。菜々子ね、だんすが上手になった!」

 

「亜里沙もー!」

 

「な、何っ!?」

 

「なんと! 菜々子ちゃん、ダンスが上手になったのですか!? すげーです!!」

 

「ま、まあ…踊れるようになったというか、私は…まだ全然」

 

 なんと、先生のポエムな絶賛に誰のことを話しているのか分からなかったが、菜々子たちのことだったらしい。衝撃的な事実にかなみも驚いたが、堂島の方は娘がダンスを踊れるようになったと聞いて口をあんぐりと開いて放心している。

 

「かなみ、ボウっとしてんじゃないわよ。菜々子たちが緊張してんだからアドバイスをしてやんなさい」

 

「うえっ!? アドバイスですか。ええっと……」

 

 菜々子たちのことに驚きっぱなしだったかなみに先生がそう声を掛ける。そうだ、ここはダンスの先輩として一つアドバイスとしてやらねばとかなみは慌てて気持ちを切り替える。

 

「菜々子ちゃん・雪穂ちゃん・亜里沙ちゃん、とりあえず楽しんで踊るべし、です! 3人が楽しむのが一番ですよ」

 

「「「楽しむ……?」」」

 

「そうよ! ダンスはね、自分が楽しまないと何にも始まらないよ。上手くやる必要はないから、まずは楽しみなさい」

 

 かなみと先生のアドバイスに緊張が解けた表情を見せた3人。この調子なら問題なくダンスを踊れそうだ。その時、

 

「鳴上さんの妹が躍ると聞いて来ちゃいました!」

 

「ちょっと、日菜ちゃん……す、すみません!!」

 

 また突然にスタジオのドアが開いたと思うと、そこから煌びやかな衣装に身を包んだ5人の少女たちが入ってきた。

 

「あら? パスパレのみんなじゃない。ちょうど良いから、アンタたちも見て行きなさい。この天使たちのキュートなダンスを」

 

「「「???」」」」

 

「それじゃあ、いっくわよ~! ミュージックスタート!!」

 

 突然の乱入者が出てきたものの、有無を言わさず菜々子と雪穂、亜里沙によるダンスパフォーマンスがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 菜々子たちのダンスが終わった途端、かなみの頭は真っ白になっていた。何故なら、今菜々子たちが躍った振りの中に、かなみ自身がまだ練習中のこなせないステップが入っていたからだ。それを3人は自然にこなしており、菜々子に至ってはそれ以上に表現力がそこらのアイドルには負けないほど備わっていたのだから。

 

「う、うええええええええええええっ!! 今のって……私が躍ってた振り付けですか!?」

 

「そうよ。アンタ、あの振り付け踊れるのにどれくらいかかったんだっけ?」

 

「に、二週間半です……」

 

「私は3週間……」

 

「私は一発で覚えたかな?」

 

 圧倒的な菜々子たちのダンスセンスを見たアイドルたちは自分たちの現実を振り返って落ち込んでいる。どうやらかなみが思っていたことは突然やってきた彩たちも感じているらしい。約一名あっけらかんと全然違う反応をしている者もいるが、それはそっとしておこう。

 

「まさか、これほど……あの、この子たち本当にダンス初めてなんですか?」

 

「まあ夏んとき悠とことりが菜々子にダンスを教えていたのは見ていたが、ここまで上手くなっちまうとはな……」

 

 菜々子たちのダンスに周りは三者三様の反応だったが、堂島はそう聞いてきた少女にそう答えながら、娘が褒められて嬉しいのか密かに口角が上に上がっていた。

 

「いやあ本当に凄いなぁ。練習も見てたけど、やっぱり3人には光るものがあるんじゃないかな」

 

「あるんじゃないか、じゃなくてあるわよ! ワタシだってすっごく驚いてるんだから。この子たちは間違いなくダイヤの原石よ!! 特に、菜々子! もう私も興奮が収まらないわ!!」

 

 またもミュージカルのようなリアクションでそう称賛する先生。3人が相当気にったのか、その興奮はしばらく冷めそうにない。今まで見たことがないそんな先生の反応にかなみやパスパレの少女たちは呆然としていたが、井上は何か考えるように顎を手に当てていた。

 

「先生、この3人のさっきのダンスを明日までに仕上げることって、できますか?」

 

「出来るわよ。ミノル、アンタ何企んでるの?」

 

「はは、ひどい言われようですね」

 

 先生の指摘に苦笑いしながらも井上は菜々子と雪穂、亜里沙の方を向いてこう言った。

 

 

「菜々子ちゃん・雪穂ちゃん・亜里沙ちゃん、良かったらかなみちゃんと一緒にテレビに出てみないかい?」

 

 

「ちょ、ちょっと待て!? お前今……」

 

「テレビ!? 菜々子たち、テレビに出るの!?」

 

「ええっ!? 本当!!」

 

「はは~ん、そういうこと。良いんじゃない? ウケると思うわ。もしかしたら、明日のトレンドに載っちゃうかも」

 

 井上の提案を聞いて先生はしたりといった顔をする。なるほど、井上はさっきの菜々子たちのダンスを見てテレビに使えると思ったらしい。当然井上の唐突な発言に堂島は待ったを掛ける。

 

「おい、冗談はよせ。こいつらが本気にしたら面倒だろ……」

 

「僕が堂島さんの前で冗談なんて言えませんよ。実は明日絆フェスの取材が入っているんですけど、予定してた子が入れなくなっちゃって。良かったら、この3人に協力してもらいたいんですが」

 

「いやいや、いかんだろ……そんな急に」

 

「いかがわしい番組ではないですよ。絆フェスの練習風景を録るだけです。幸い、菜々子ちゃんたちもかなみちゃんと仲良くして貰ってますし」

 

 そう、明日取材が入っている番組は別に堂島が心配しているようなものではなく、前々から企画していた絆フェスの様子を視聴者にお送りする番組だ。ただ最初から予定していたかなみんキッチンのメンバーがかなみを除いて行方不明になっているので、代役が欲しかった井上はそれを菜々子たちなら務まるのではないかと考えたらしい。

 

「私ですか? はいー! 菜々子ちゃん……いや、これからは菜々子さん! 雪穂さん! 亜里沙さんと呼ぶことにします! 菜々子さんたちなら喜んでー!」

 

「あはは、変なの。菜々子も喜んでー!」

 

「亜里沙も喜んでー!」

 

「ちょっと2人とも、居酒屋みたいになってるから。わ、私もお母さんが良ければ喜んで」

 

 かなみは仲良くなった菜々子たちと一緒に取材できると聞いて喜んでいるし、その菜々子たちもかなみとテレビに出られると聞いて、ノリノリで舞い上がっている。井上の言う通りここまで仲が進行しているのなら、明日の取材も問題ないだろう。

 

「しかしなあ……」

 

 だが、保護者の堂島は中々首を縦に振らない。やはり大事な一人娘が突然テレビに出演するというのがどうも心配らしい。最近はそのことでトラブルが起こっているというニュースも度々聞くので無理もないだろう。だが、そこで意外な人物から助け船が出た。

 

「パパさんの気持ちも分かるけど、本人に訊かないのは良くないんじゃない? 私調べだけど、子供の才能って8割は親が潰しちゃうらしいわよ」

 

「ああ、ジブンもそう聞いたことあります。この業界でもそういう人ってたくさんいますしね」

 

「うぐっ……」

 

 先生とメガネの少女に痛いところを突かれた堂島は更に顔をしかめた。以前のようなことにはなりなくないと思った堂島は菜々子と面を向かってこう言った。

 

 

「菜々子……お前、本当にやりたいのか?」

 

「いいの!?」

 

「良いとは言わんが、お前の気持ちを聞かんとな」

 

「お父さんは菜々子がテレビに出たら、悲しい?」

 

「いや、そんな事はねえぞ。お前がやりたいならって話だが……」

 

「本当?」

 

「……………………」

 

 

 悲しげな目で見られて言葉を詰まらせる堂島。束の間の沈黙後、堂島は真っすぐ菜々子の目を見て告げた。

 

 

「ああ、本当だ。お前がやりたいなら、俺は全力で応援してやる。きっと悠もそう言うだろうさ」

 

「うん! 菜々子はかなみんと雪穂お姉ちゃん、亜里沙お姉ちゃんと一緒にやりたい! それで、お兄ちゃんにも見てもらいたい!」

 

 

 堂島からそんな言葉をもらった菜々子は満悦な笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい……アタシ、ちょっと感動……麗しい父と娘の家族愛…………ご馳走様です!!」

 

「うううっ……千聖ちゃん、私もなんか泣けてきたよ……」

 

「あ、彩ちゃん……」

 

 外野では堂島親子のやり取りに感動して涙を流している者が数名いた。

 それから数十分後、雛乃を経由して菊花、更にロシアにいるという亜里沙のご両親に連絡しOKをもらって、雪穂と亜里沙もテレビに出演することが決定した。

 

「じゃあ菜々子さん・雪穂さん・亜里沙さん、今日は一緒に女子会しましょう! 雛乃さんんのお家ですけど、大丈夫ですよね?」

 

「俺に聞くな……」

 

「じょしかい? やるー!」

 

「亜里沙もありたーい!!」

 

「わ、私も!」

 

「あら~! 残念、私は参加できないわ~! 今日は先客があってね……」

 

「私も参加したーい!」

 

「私も私もっ!」

 

「あ、あのね2人とも、私たちはこれからお仕事でしょ」

 

「「がーん……」」

 

「残念です……女子会してみたかったです」

 

「てか、自分たちは完全に部外者ですから……」

 

 とりあえず、明日の収録に菜々子と雪穂、亜里沙が一緒に出ることになってやる気が上がったかなみはその後のレッスンもめげずに頑張った。菜々子たちも一緒にレッスンするというので、堂島とラビリスは調べものがあると先に出て行き、帰りは井上に送ってもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家>

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ああ……今日は色々あってな……まあ、大丈夫だ」

 

「大丈夫な人はそんな顔しませんよ」

 

 南家のリビングにて、堂島は疲れがたまったのかテーブルにうつ伏せになっていた。次々と出てくる不可解な事件に関わる証言と物証、更に愛娘が突然ダンスの才能に目覚めてテレビに出ることになったという親として複雑な出来事もあって昨夜よりげっそりとしている。本人は大丈夫だと言い張っているが、明らかに大丈夫じゃない。

 雛乃は何か堂島を元気づけられるものはないかと辺りを見渡すと、お面絵向きなものを見つけた。

 

「良かったらお酒でも飲みますか? ちょうど冷蔵庫にありますんで」

 

「あっ……ああ、それは助かるが……」

 

 堂島のためにと雛乃はあらかじめ購入しておいたビールを冷蔵庫から取り出した。堂島にとって好物のアルコールを摂取できることは有難いのだが、雛乃のその行為に嫌な予感を感じた。

 

「良ければ、私も()()()飲んでいいですか? 久しぶりに飲みたい気分なんです」

 

「えっ……」

 

 そして、その予感は確信に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家 女子部屋>

 

「おおっ! この饅頭美味しいです! これ雪穂さんが作ったものなのですか!?」

 

「まあ、作ったのはお父さんなんですけど」

 

「う~ん! やっぱりほむまんは美味しいなぁ。毎日食べても飽きないよぉ」

 

「菜々子、このおまんじゅう好きー!」

 

「菜々子ちゃん……」

 

 一方こちらは女子部屋。こちらはリビングの大人な雰囲気とは違って、雪穂が実家から持ってきたほむまんでパジャマパーティーならぬほむまんパーティーと洒落こんでいた。菜々子にほむまんが好きと言われて、自分が作ったわけではないのに雪穂は思わず心が躍ってしまった。

 

「いやー! このほむまんも美味しいし、雛乃さんのお料理相変わらず美味しかった~」

 

「ね、ねえ雪穂……ちょっと、鳴上さんの部屋行ってみない?」

 

「だ、ダメだよ。本人もいないし、何かあったらどうするの?」

 

「ええ? 雪穂も行きたいんじゃないの?」

 

「ちょっ!? 何言ってんの!! そんなワケないじゃん!」

 

 かなみと菜々子はパクパクとほむまんを食べているのに対して、亜里沙はやたら悠の部屋に行こうとしては雪穂に止められている。内心雪穂自身も凄く行きたそうにしていたが、何か悪いことをしている気がしたのか何とか自制心を保っているようだ。

 

「そう言えば、私さっき井上さんが掛けてた曲、好きー!」

 

「かなみんキッチンの新曲ですね! 私、絆フェスであれを歌うです!」

 

「そうなんですか! わあ、楽しみだなぁ!」

 

「菜々子ね、ちょっとだけ覚えたよ。“いつも一緒だよあなたと”っていうの!」

 

 菜々子たちが言っているのは井上が帰りに送ってくれた最中に、車の中で掛けていた曲のことだ。これは元々かなみんキッチンが絆フェスで初めて歌うことになっている新曲で、かなみも本番のために何度も聞いては振り付けを練習している。しかし、

 

「ほえ……そんな歌詞ありましたっけ? あれれ、私またど忘れ……? “伝えることから逃げて”……じゃなかったです?」

 

 かなみは何故か菜々子が言った歌詞のところに違和感を覚えた。そう、かなみの記憶だとそこの歌詞は“いつも一緒だよあなたと”ではなく“伝えることから逃げて”だったはず。

 

「そうなの? ごめんね、菜々子間違ってた?」

 

「う……・ちょ、ちょっと待っててくだーい。えっと……歌詞歌詞……」

 

 菜々子にそう指摘されたかなみは確認するためにバッグの中身を漁り始めた。ちょっとど忘れしていただけかもしれないが、何故かこの問題は看過できないと感じている自分がいるのだ。バッグを漁って関係ないものを放り出しながら目的のものを探す。そして、ついに全部出したか出さなかったかのところで目的のメモを見つけた。

 

「ええっと……あった! あれ? やっぱり菜々子さんが合ってました。たはー、ダメダメです。私、こんな調子で大丈夫かな?」

 

 あははと笑いながら場を和まそうとするかなみ。どうやら自分の勘違いだったようだ。最近そんなことが多いし、自分もボケてきてしまったのかと、おばあちゃんみたいなことも考えてしまった。

 

「あの、かなみさん……すっごく散らかってますけど?」

 

「あへっ? あわわわわわっ!! ご、ごめんなさい!?」

 

 見渡せすと、かなみの周りは鞄の中身が散らばっており一種のフリーマーケットみたいになっていた。大事な書類に化粧品、筆記具etc……さらには乙女の必需品までもが出ているので、慌ててかなみは回収にかかる。あまりに多い量だったので、雪穂たちにも片付けるのを手伝ってもらった。

 

「うわあ……色んなもの散らかってる。お姉ちゃんの部屋みたい」

 

「ううう……雪穂さん、申し訳ないです…」

 

「わあ、この日記カワイイ~! あれ、これ鍵掛かってるけど」

 

「ありがとうございます、亜里沙さん。それは大事なものなんですよ。あれ?」

 

 亜里沙が手渡してくれたのはハートの南京錠がかかった日記帳だった。その日記には何故鍵が掛かっているのだろうか? そもそもその日記は自分のものだっただろうかと突如として頭にそんな疑問が浮かんだ。その時、

 

「ふあ……あ」

 

「ああ! 菜々子さんが欠伸してます!! よく見ればもうこんな時間! 女子会はもうお開きですね」

 

「そうですね。私も今日色々あり過ぎて眠たくなっちゃいました…」

 

「ううん……亜里沙もまだ眠くないんだけど」

 

「亜里沙さん、もう寝ましょ。夜更かしして目の下に隈ができちゃったら、メイクさんに怒られちゃいますし」

 

「確かにっ! じゃあ、さっさとお風呂に入って寝よう! 菜々子ちゃん、一緒に行こうか」

 

うん……ありがとう……お姉ちゃん……

 

「お、おおおおおお義姉ちゃん!? やだな~菜々子ちゃん、まだ亜里沙は鳴上さんと付き合ってもないのに~」

 

「亜里沙、それ違う」

 

 そんな訳で女子会もお開きの時間になった。雪穂と亜里沙は何とも言えない雰囲気で菜々子を連れてお風呂に行ったので、とりあえず自分は何か飲み物を用意しておこうと、かなみはリビングへ向かった。だが、

 

 

「うわああんっ!! ゆうく~ん! わたしのゆうくんはどこなのよ~~~~!!」

 

「だから……落ち着け…………」

 

 

「えっ?」

 

 リビングでは何故か酔っぱらった雛乃に堂島が絡まれていた。普段の姿から考えられない雛乃の醜態にかなみは1人唖然としてしまった。

 

 

「だって、ことりとゆうくんがいなくなってもう2日ですよ!! しんぱいになるにきまってるじゃないですか!!」

 

「まあ……気持ちは分かるが……って、お前!? 服はだけてんじゃねえか! ちゃんと着ろ!!」

 

「うううう……ゆうくん……ゆうくうううううううううううううんっ!!」

 

 

 

バタンッ!

 

 

「……見なかったことにしよう」

 

 ひとまず落ち着いて扉を閉めた。さて、明日は大事な取材だ。今日も色々あったし早めに寝ようとかなみは今のことは忘れて部屋に戻って、菜々子たちと一緒に眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<シャドウワーカー>

 

 

「なるほど、堂島刑事はそこまで近づいたか」

 

「はい……流石鳴上くんの叔父さんといいますか、優秀な刑事さんです」

 

 こちらはシャドウワーカー本部。今日堂島と調査したことをラビリスは美鶴に報告していた。堂島との約束を破ることになって心苦しいが、元々調査したことを報告するのは約束していたし、堂島の言うところの化け物話に精通している美鶴なら話しても問題はないだろう。

 

「まさか、我々が追ってる集団虚脱症事件が鳴上たちが出演する絆フェスの噂に関係していたとはな。我々もその噂について調査するべきだろう」

 

「あの、それで鳴上くんたちは?」

 

「ああ、こちらで手当たり次第探してみたが、見つからなかった。風花が東京中の監視カメラをチェックしたが、どこにも映ってなかったそうだ」

 

「そうですか……」

 

 美鶴たちシャドウワーカーも堂島と同じように集団虚脱症事件を追っていたが、それと並行して昨日から行方不明になっている悠たちも探していた。結果は今言った通り芳しくない。だが、美鶴はそう捉えてはいなかった。

 真下かなみによれば、悠たちが最後に確認されたのは昨日のタクラプロ事務所の撮影スタジオ。そしてその数十分後、同じタクラプロ事務所でその真下かなみを人質にした立て籠もり事件が発生した。これは偶然にしては出来過ぎている。美鶴はこのことからこの一連の事件はタクラプロに関係しているのではないかと考えているのだ。

 

「明日、菜々子ちゃんたちがそこで取材を受けるそうなので、ウチは一緒にそこへ行って調べてみます。何か鳴上くんたちの手かがりがあるかもしれへんから……」

 

「頼んだ。引き続きこちらも可能な限り捜索は進める。それと、くれぐれも堂島刑事に我々のことを悟らせるな」

 

「分かりました」

 

 ラビリスは美鶴とのやり取りを終えると、そのまま作戦室を後にした。そして、一人になった作戦室のデスクから美鶴は一枚の書類を手に取った。

 

「……やはりあのタクラプロに辿り着くことになるか。我々ほどではないが、一時黒い噂を持っていたあそこがな」

 

 美鶴が手に取った書類。それは美鶴が独自にタクラプロについて調べたものであり、その一文にはこう書かれてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

“10数年前、タクラプロ所属プロデューサーが担当アイドルを自殺に追い込んだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、物語は次のステージへと進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continuded Next Scene


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