PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
前回一週間近く更新できないと言いましたが、予想以上に筆が進んだので少し早く更新しちゃいました。というか色々書きすぎて一万字超えちゃいましたけど。
執筆中まだファーストライブまでしか書いてないのについ先の話の構想まで考えてしまいます。真妃とか絵里とかのシャドウどうしようかなとか、ゴールデンウィークはどうしようとか、夏休みはりせの特別レッスンでその最中再び完二のヴィーナスの誕生とか……戯言ですしまだ未定のものなので流して下さい。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!ちょこっとした感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
皆さんのおかげでこの作品のお気に入りが100件近くに達しました。今後も皆さんが楽しめる作品を目指して精進していきたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。また、皆さんの感想や評価を心からお待ちしています。
それでは本編をどうぞ!
〈ベルベットルーム〉
ピアノのメロディが聞こえる。目を開けてみるとそこはベルベットルームだった。
「ようこそ、ベルベットルームへ。申し訳ございません。本日我が主は留守にしております」
見ると奥にはマーガレットしか居なかった。イゴールは今回は不在らしい。
「貴方と2人っきりで話すのは久しぶりね。もしかして、今日は私に会いたくて来たのかしら?」
ーその反応に困る問いかけはやめてほしいものだな。
「フフフ…ごめんなさい、つい久しぶりにからかいたくなってしまったの」
ー勘弁してくれ。最近は東條とかのせいでからかわれ過ぎて精神が削れていってんだから。
「それはそれとして………お客様はまた新たな絆を結ばれたご様子。先日貴方のペルソナ全書を確認したところ、また呪いの鎖から解放されそうなアルカナがございました。しかもそれが日に日に増えていくの。フフ…素晴らしいわ。これも貴方の才能が成せる技かしら?」
ー買い被り過ぎだ。それは自分の中にある'女神の加護'とやらのお陰だろう
「……確かにこれはあの宝玉の影響でしょう。しかし、お客様のチカラの根底はいつも他者との絆にある。そのことを忘れないで下さい」
ー…心に留めておこう。
「話は変わるけど、貴方がプロデュースするアイドルのライブというものが明後日行われるのよね?私も是非とも見に行きたいわ。そのためには主の許可が必要だけれど」
………え?マーガレットも見に行くのか?
「あら?いけない?」
ーそういうわけじゃない。正直意外と思っただけだ。マーガレットはあまりそういうのに興味がないのかと思ってただけだ。
「失礼ね。私も妹ほどではないけど外の世界には多少興味はございます。去年貴方の通ってた学校で占いの館を出店したのがその証拠よ」
ー文化祭のことは思い出したくない。色々と悪い思い出があるから……それにマーガレットのせいで菜々子に天然ジゴロとか言われたんだぞ。
「……自覚はあるのではなくて?」
ー……………………
「まぁ、そんな過去のことはともかく。そのライブとやらを……楽しみにしてますわ」
ー分かった。高坂たちにも言っておく。イゴールの許可が下りればいいな。
「それと今更ですが、お体には気をつけて。無理をなさると身体に毒よ」
ー??どういう意味だ
「それは貴方の目が覚めたら分かると思います。では、また会うときまで……ご機嫌よう。次はライブとやらで会えれば良いわね」
マーガレットがそう言うと視界が暗転した。
《ライブまであと2日》
〈翌朝 悠の部屋〉
目覚めるとそこは自室だった。時刻は午前6:00。朝練の時間だ。悠はベットから起きようとしたが、体に違和感を感じた。何か体が重い。それに喉も腫れてる感覚がする。どうやら風邪を引いたようだ。マーガレットが言ってたことはこのことだったのか。
とりあえず、ことりに風邪を引いたので今日は朝練に出れないと連絡した。
「ゴホッ……ゴホッ……う……これは相当ヤバイな」
動くだけで体がダルく感じる。しかも咳や鼻水が止まらない。本当なら学校に連絡して休むべき状態なのだが悠はそうしなかった。何故なら穂乃果たちのライブまであと2日しかないのである。そんな大変な時期に風邪という理由で休んでられない。そう思い、悠は寝間着から制服に着替え、マスクを着用し戸棚にあった風邪薬をポケットに入れて家から出ようとする。靴を履いてドアを開けると……
「え?」
そこには家のインターホンを鳴らそうとしている穂乃果と海末とことりが居た。
「あ、あれ?鳴上先輩?」
「……高坂………どうしてここに?」
とりあえず風邪だと悟られないように平静を装い、ここにいることを尋ねた。
「ことりちゃんから鳴上先輩が風邪って聞いたから今日は朝練休んでお見舞いに行こうかな〜と思って。それより鳴上先輩、風邪じゃなかったの?」
「そ、そうだ……ゴホッ……ゴホッ!」
「思いっきり風邪引いてるよね!顔辛そうだし」
穂乃果は悠の嘘を指摘する。どうやら誤魔化しきれなかったようだ。
「だ、大丈夫…ゴホッ!」
「鳴上先輩……その状態は大丈夫じゃないですよね。今日は休んだ方が良いですよ」
無理しようとする悠を海未がジト目で諭す。もうここまでされたら黙って従うべきなのだが、予想以上に悠は頑固だった。
「い、いや…ゴホッ……ライブが…もうすぐなのに……俺だけ…ゴホッ……休む訳には……ゴホッ!」
「ダメだよ!今の鳴上先輩は休まなきゃ!今日は穂乃果たちだけで練習するから!鳴上先輩は休んでて!」
「しかし……ゴホッ!ゴホッ!……」
穂乃果は懸命に休むよう訴えるが中々悠は折れない。
「……お兄ちゃん……今日は休もう……最近お兄ちゃん働き過ぎだし……ことり…無理するお兄ちゃん…見たくないよ…」
ことりは悠に近づき優しく諭す。これには流石の悠も従いそうになったが、何とか歯を食いしばって思い留まる。『食いしばり』を使用する場面が間違っている気がするが。
「ことり……でも……」
頑なに休もうとしない悠にことりは更に近づき最終手段を取った。
「……お兄ちゃん……お願い…」
まさにクリティカルヒット。涙を浮かべての上目遣いをすることりの『お願い』は今の悠にとって効果抜群であった。悠はことりの言う通り今日は休むことを決意した。
閑話休題
ことりの『お願い』を受け、風邪を治すべく再び寝間着に着替えてベットで寝込んでいると、悠の部屋のドアが開いた。
「鳴上せんぱーい、ご飯出来たよー!」
「こら!穂乃果、大声を出してはダメです!鳴上先輩に響くでしょ!」
「海未ちゃんも大声出してるけど……」
ドアからお盆を持った穂乃果と海未とことりが入ってきた。悠がまだ朝食を食べてないと知った穂乃果たちは台所を借りて悠の朝食を作っていたのだ。
「わ…悪いな……俺のために…………」
悠は身体をゆっくり起こして3人に礼を言った。
「とんでもない。鳴上先輩にはお世話になりっぱなしなので、これくらいはさせて下さい」
「はい!鳴上先輩、私と海未ちゃんとことりちゃんで作ったおかゆだよ!これ食べて元気出してね!」
穂乃果はお盆を机の上に置き、茶碗を悠に差し出す。悠はそれを受け取ろうとしたが、八十稲羽で特別捜査隊の女子陣の料理が一瞬頭をよぎった。林間学校で錬成された【物体X】に、打ち上げでのオムライスたち。それらを味わった時の恐怖を思い出し、悠は手を止める。
「ど、どうしたの?鳴上先輩…」
「お兄ちゃん?……食欲ないの?」
「いや……ごめん…去年女子の手作り料理にはあまりいい思い出がなくて………」
風邪のせいか正直に告白する悠。あの【物体X】の味を思い出すだけで身体が震えた。
「…な、鳴上先輩は去年…どんなものを食べさせられたのでしょうか………」
あの悠が震えるくらい恐ろしいものなのかと海未はまだ出会ってない八十稲羽の必殺料理人たちに戦慄を覚えた。
「大丈夫だよ!穂乃果たちが作ったおかゆは美味しいよ!ほら、あーん!」
それを見かねた穂乃果はおかゆをスプーンで掬って悠の口元へ運ぶ。これには流石の悠も驚いた。
「ほ、穂乃果ちゃん!…ちょっ」
「穂乃果!何を」
「良いから。あーん!」
ことりと海未が穂乃果に注意するが、そんなのお構いなしに穂乃果は悠におかゆを食べさせようとする。ここまでされて食べないのは申し訳ないので、悠は口を開けておかゆを口に含んだ。よく噛んで味わっておかゆを食べる。その味は……
「………美味い。これは…普通に美味しい」
悠は頬を緩ませてそう口にした。微妙に塩加減が効いていて風邪の悠でも食べやすいこの食感。悠の言う通り普通に美味しかった。普通のおかゆだが、【物体X】に比べたら絶品料理に変わりなかった。
「本当!!良かった〜!そう言ってもらえると嬉しいよ!」
「そうですね。簡単なおかゆとはいえそう言って頂けると本当に嬉しいです」
「むぅ………」
自分たちが作ったものを美味しいと言ってもらえて、穂乃果と海未は喜んでいた。しかし、何故かことりは頬を膨らまして不機嫌そうにしている。
「ん?ことり、どうしたんだ?」
ことりの不機嫌な表情に気づいたのか悠はことりにそう尋ねる。すると
「穂乃果ちゃん、私にも茶碗とスプーン貸して♪」
「え?ことりちゃん?……良いけど」
ことりは穂乃果にそう言って、茶碗とスプーンを貸してもらった。そしておかゆをスプーンで掬って、
「はいお兄ちゃん、アーン♪」
穂乃果と同じくおかゆを悠の口元へ運んだ。
「ちょっ、ことりまで!」
まさかことりまでアーンしてくるとは思わなかった。ひょっとしてさっきむくれていたのは自分も悠にアーンしたかったからなのだろう。流石にこれ以上は気恥ずかしいので、悠はことりに止めさせるように説得する。
「あ、あのな…ことり……もう自分で食べられるから……」
「……お願い♪」
この後、おかゆはことりのアーンで美味しくいただいた。
悠がおかゆを食べ終わった後、そろそろ学校が始まる時間だったので穂乃果たちは学校に向かった。悠は今日のうちに風邪を治してしまおうと思い、海未からもらった風邪薬とポカリを口に入れてベットに入り眠りについた。
〈放課後〉
目を開けて窓を見てみると、目に夕日の光が差し込んできた。どうやらあのまま夕方まで寝込んだらしい。身体を起こしてみると、朝方より体調は良くなっていた。この調子だと明日には完全に回復しているだろう。時計を見ると時刻は午後5時半。昼ごはんを食べてないせいかちょうど身体が空腹を感じたので何を作ろうかと考えていると
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうと思いつつ、悠は身体を起こしておぼつかない足取りで玄関に向かう。そしてドアを開けるとそこには
「鳴上くん、こんにちわ♪」
手頃な風呂敷を手に持って微笑む希が居た。これには悠も驚き、危うく転びそうになった。
「と、東條……どうしてここに…」
「鳴上くんが風邪で休みって聞いたからお見舞いに来たんやけど、その様子やともう峠は越えたようやね」
「…そうじゃなくて、どうしておれの家を知ってるんだ?」
「理事長先生に聞いたんよ。理事長先生もかなり心配されとったよ、鳴上くんのこと」
「そ、そうか……それで、その手に持ってる風呂敷は?」
と、悠は希が持っている風呂敷を指差す。
「あ〜これね。鳴上くんのお見舞い品。つまらないもんやけど受け取って♪」
そう言って希は悠に風呂敷を差し出す。悠は恐る恐るそれを受け取った。
「これは?」
「さっき家で作ってきたフルーツポンチよ。鳴上くんが早く風邪治りますようにっと思って張り切って作ったんや♪」
風呂敷をよく見てみるとその中にタッパーがあり、少しフルーツの香りがする。香りからしてとても美味しそうであった。
「…さっきって、生徒会はどうしたんだ?」
「ん?速攻で仕事終わせてきたよ。エリチから不思議な目で見られたけど」
「そうか…」
「ほな、ウチはこれで失礼するわ。鳴上くんお大事にな」
希は事情を説明してその場を去ろうとした。すると
「あ〜それと鳴上くん」
希は踵を返して再び悠を見つめた。
「ライブ頑張ってね♪応援しとるよ♪高坂さんたちにもよろしくな♪」
普通の男子なら卒倒してしまうようなとびっきりの笑顔でそんなことを言って、希は去っていった。悠はめずらしくその笑顔に見惚れ、その場に立ってるしかなかった。少し顔が赤くなったのは気のせいだろう。そう思い、悠は家の中に入り希の作ったフルーツポンチをいただくことにした。風呂敷の中のタッパーを開け、器によそい、スプーンで口へ運ぶ。
「美味い……」
フルーツポンチは文句なしに美味しかった。転校初日にもらった弁当の味から希の腕は相当なものだと気づいていたが、このフルーツポンチは別格で思わず笑みがこぼれるくらい美味い。病み上がりなのにスプーンが止まらなかった。こんなに美味しいものをいただいたのだから何か希にお返しがしたいと悠は思った。
閑話休題
希のフルーツポンチを堪能していると、練習を終えたであろう穂乃果たちがお見舞いにと再び悠の家を訪ねてきた。
「鳴上先輩、体調はどう?」
「ああ、よく寝たおかげで大分良くなった。明日のリハーサルには参加出来そうだな」
「本当!!良かった〜」
「鳴上先輩…明日のリハーサルですが、病み上がりなのであまり無理しないでくださいね」
「分かった」
「お兄ちゃーん!大丈夫だった?寂しくなかった?辛くなかった?」
「大丈夫。大丈夫だから」
結構穂乃果たちから心配された。これからは風邪など引かないように気をつけようと悠は心に誓った。
その後、ことりがライブ用の衣装を披露して穂乃果が興奮し過ぎて海未に怒られたり、夕飯を作ろうとして海未に病み上がりだからジッとして下さいと怒られたりして、楽しい時間を過ごした。こんな些細な時間でも悠にとってはいい薬だったようで、翌日の朝にはすっかり元気になっていた。
《ライブまであと1日》
〈放課後 講堂〉
この日、悠たちは講堂にてライブのリハーサルを行った。主に本番での流れとその時の音量と照明をチェックするのが目的だ。穂乃果と海未とことりはステージでパフォーマンスの確認、悠は穂乃果の友人たちと音響と照明の確認をしている。
悠は裏方のやり取りを確認しながらリハーサルの様子を見ているとこれは上手くいきそうだと確信した。最も宣伝が上手くいってればの話だが……
その後、リハーサルは終了し各々明日に向けて英気を養おうということで解散した。
《ライブ当日》
〈講堂〉
いよいよ本番の日を迎えた。
穂乃果たちは開始時間までステージの弾幕の後ろでスタンバイしている。悠はまだ時間があったので、持ち場を離れて穂乃果たちの様子を見に行っていた。弾幕の裏では……
「な、鳴上先輩!ついに!ついにこの日が来たんだね!」
「高坂、ひとまず落ち着け」
穂乃果は緊張で興奮しているのか声がいつも以上にでかくなって挙動不審になっていたり
「うう……き、緊張で…目眩が……それに……心臓が…」
「…園田、深呼吸して落ち着こう。結構楽になるぞ」
海未がこういうことに慣れてないのか体が震えて縮こまっていたり
「お、お兄ちゃん……楽しみだね♪」
「ことり、そう言うなら俺から離れてくれないか?みんな見てるから…」
「やだ〜!お兄ちゃんにくっつくと緊張がほぐれるの〜!も、もうちょっとだけ……」
ことりはいつも以上に大胆にスキンシップを取っていた。段々接し方がりせに似てきたのは気のせいだろうか?
反応は三者三様だが、みんな緊張で堪らないらしい。
ー……ジュネスでのライブイベントを思い出す。あの時は予想以上にお客が集まって、陽介とかすごく緊張してたな。完二とか足が震えてたし、テレビ慣れしているであろう直斗まで口数が少なかったんだから。マリーはあまり緊張してなかったか。
そんなことを思い出し、悠は穂乃果たちを励ますことにした。
「みんな、ちょっと集ろう」
悠の言葉に3人は我に返り、悠の元に集合した。あの時のりせの受け売りだが、悠は3人にこう言った。
「3人とも緊張で心臓バクバクだろ?でも、それで良いんだ。それがライブのパワーだからな」
「ぱ、パワー?」
「それに、完璧にやろうなんて思いすぎるな。お客は3人の…μ'sのライブを楽しみたいと思っているから来てるんだ。その前に……俺たちが楽しまないでどうする?」
「な….鳴上先輩」
「練習は十分に積んだ。宣伝もした。リハーサルもした。あとは本番を楽しむだけだ」
「お兄ちゃん……うん!!」
悠の言葉に穂乃果たちは緊張がほぐれたようだ。その証拠に3人とも表情が明るい。
「よーし!元気が出てきたぞ!」
「気持ちが楽になりました。もう大丈夫です!」
「お兄ちゃんのおかげだね♪」
ー3人が本調子になった
悠は時計を確認すると、あと少しでライブが開始する時間だった。
「よし、最後にかけ声やるか!」
「か、かけ声ですか…」
「嗚呼、かけ声をすると気持ちが引き締まるからな」
「良いねえ!やろう!!じゃあ……これで!」
悠の提案に穂乃果は大賛成し、指でピースをつくり3人の前に出した。
「これは?」
「普通はパーを出すけど、私はピースの方が良いなぁって思ったから!それで、みんなでピースを合わせたら番号を言うの!これで良いよね!」
「どっちも同じだと思うのですが……というか番号の意味あるんですかね…」
「いや、俺は賛成だ。これで行こう!ちなみに最後は『μ's ゴー』だ」
と、悠も同意してピースをつくり穂乃果の手に合わせる。
「わ、私も!」
ことりも遅れてピースを合わせて、海未も観念したのかピースを合わせる。
「高坂、号令頼む!」
「よし!……1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「「「「μ's ゴー!!」」」」
ーかけ声により気持ちが引き締まった!
another view(穂乃果)
いよいよ本番だ。さっきまで緊張してたけど鳴上先輩とみんなとのかけ声のお陰で気持ちが楽になった。海未ちゃんとことりちゃんの方を見ると、2人も同じ感じだった。そうだよ、きっと大丈夫!鳴上先輩の言う通り私たちも楽しまなきゃお客さんも楽しくならないよね。
そして、開演のブザーが鳴った。弾幕が開いた。そこで私たちが目にしたのは……
誰もいない無人の講堂だった。
私たちは息を呑んだ。お客さんは少ないことは覚悟していたけど、誰もいないなんて思ってもなかった。
「そんな……」
「どうして……」
近くで海未ちゃんとことりちゃんの絶句する声が聞こえた。顔は見てないけど悲しい顔をしているのは声で分かった。立ち尽くす私たちを見て近くにいた裏方の2人が近寄ってきた。
「ごめん!宣伝はちゃんとしたんだけど……って、穂乃果?」
「ど、どうしたの?」
多分2人は私の顔を見て驚いているのかな?
それはそうだよね。だって海未ちゃんとことりちゃんは普通の反応してるのに、私は……
「アハ……アハハハ……………」
笑いながら泣いてるんだもん。
「穂乃果?」
自分でも分からなかった。何で泣いてるのに笑ってるんだろう?
「そうだよね……誰も見てくれないよね………やっぱり…会長の言ってた通りだったよ……これが現実だよ…………全部無駄だったんだ……」
私の言葉に誰も反応しなかった。自分でも何言ってるんだろうって思う。でも、目の前にあるのは現実だ。
そうだよ。会長も言ってたじゃん、『現実を見なさい』って。全部無駄だったんだ……
やっぱり、私は何も…
『本当にそうかしら?』
「え?」
突然前から誰かの声が聞こえた。
『顔を上げて前を見なさい。そうすれば、何か見えるかもしれないわよ』
誰の声かわからなかったけど私は涙を拭いて前を見てみた。すると、
ガチャッ!
「ハァ…ハァ……ライブ…間に合ったのかな……………ってあれ?」
講堂のドアから眼鏡を掛けた茶髪の女の子が入ってきた。
え?……お客さん……来てくれたの…………
「どうやらまだ始まってなかったようですね。おじいちゃんの手伝いで遅れそうでしたが、間に合って良かったです」
次は帽子を被った男の子が入ってきた。あの男の子って確か……
「あら?お客人がいらしたわね。今日この会場は私の貸切かと思ってたけど」
前の席からも声が聞こえた。それに、この声はさっきの声だ。
そっちの方を見てみると……私たちに近い席に銀髪で青い不思議な衣装に身を包んだ綺麗な女性が居た。あんな人さっきまで居たっけ?
「どうしたかしら?早くライブとやらを始めて頂戴。彼から話を聞いて、貴女たちのステージを楽しみにして来たのよ。わざわざ我が主の許可を得てね」
その人は顔といいその立ち振る舞いといい、女子の私たちから見ても見惚れてしまうくらい綺麗だった。どこかの会社の秘書さんかな?
…この人、私たちのライブ楽しみにしてたって……
今度は嬉しさで泣きそうになった。すると
『高坂、泣くのはライブが終わってからだ』
と、鳴上先輩の声が聞こえてきた。
「え?」
多分、この声はマイクからで鳴上先輩は私たちから見えない場所にいるんだろうけど、不思議なことに私は鳴上先輩がすぐ近くにいるように感じた。
『今回は満員御礼とはならなかったが、それでも高坂たちのライブを楽しみに来た人がここに居るんだ。その人たちのために、これから俺たちの今できる最高のパフォーマンスを見せつけてやろう』
「鳴上先輩…」
「お兄ちゃん…」
鳴上先輩の力強い声が聞こえてくる。
…不思議だよね。まだ出会ったばっかりなのに、鳴上先輩の言葉はいつも私たちに元気をくれる。鳴上先輩が居なかったら、今頃私はどうしてたのかな………
私は心を決めて客席の方を向く。
「うん!やろう!今日ここに来てくれた人たちのために!」
今なら思う。私、鳴上先輩に出会えてよかった!
「さあ、始めよう!俺たちμ'sのファーストライブを!ステージの開演だ!!」
鳴上先輩の言葉と同時に照明が落ちて、曲が始まる。
ーHey! Hey! Hey! StartDash!!
私たちは一生懸命踊った。今日来てくれた3人のために。そして、自分たちもこのステージを楽しむために、思うままに踊った。
私たちのファーストライブはお客さん3人という厳しい結果だったけど、全然悲しくなかった。もちろん悔しいって気持ちもあった。でも、何よりライブやって楽しいって気持ちの方がこの時勝っていたから。
another view out
《ライブ終了後》
「つ、疲れた〜」
「もうしばらくは動きたくないです……」
「私も……」
3人は全ての力を出し切ったようで、衣装から制服に着替えた瞬間糸が切れたようにその場に倒れこんだ。
〜回想〜
お客は3人だけだったが、ライブが終わった時その3人から盛大な拍手をもらえた。その1人である花陽は、拍手を送りの後3人の方に近づき「これからも頑張って下さい!」と激励の言葉を贈った。直斗は何か感想を言いたげだったが時間がなかったらしく早々に退場した。もう1人であるマーガレットと言えば、花陽が激励の言葉を贈った後その場に立って透き通るような声で3人にこう言った。
「素晴らしい催しでした。まだ拙いところはあるようだけれど、それを差し引いても見事なものだったわ。我が主が言ってた通り、彼と同じく貴女たちには何か世界を変えるチカラを秘めているようね。」
「「「え?」」」
「貴女たちが今後彼とどのような道を歩むのか、楽しみにしております。それではまた会うときまで、ご機嫌よう」
そう言って、マーガレットはその場を去っていった。
〜回想終了〜
「あの綺麗な人…誰だったんだろう?」
「さぁ?私に聞かれても……それにしても高潔で気品のある人でしたね。あのような女性に憧れます」
「ん〜誰かの知り合いなのかな?お母さんの知り合いでもなさそうだし」
「知り合いって、彼って言ってたから……鳴上先輩とか?」
「まさか」
マーガレットのことを知らない穂乃果たちがそんな議論をしていると、件の悠が缶ジュースを腕に抱えてやってきた。
「3人ともお疲れ様」
と、労いの言葉をかけて缶ジュースを各々に渡していく。
「ありがとう…鳴上先輩……」
「ありがとうございます、鳴上先輩」
「お兄ちゃんありがとう」
「今日のライブは良かったぞ。お客さんは3人しか居なかったが、それでも良いパフォーマンスが出来たな」
悠が笑顔で3人の今日の奮闘を褒める。音響室から見れなかったし言葉は月並であるが、それでも悠は今日のライブは素晴らしかったと思った。
「ねえ、鳴上先輩……今日はありがとう」
缶ジュースを一口飲んだ穂乃果が突然そんなことを言ってきた。
「どうした?突然」
「今日、ライブができたのは鳴上先輩のお陰だよ。先輩のお陰で……こんなに楽しいことに出会えたんだから」
「……そうか」
「穂乃果に同意です。私も今日のライブはお客さんが3人しか居ませんでしたが楽しかったです。もし鳴上先輩や穂乃果に出会えてなかったら、自分との本音に向き合えずつまらない人生を送っていたと思います」
「私も……自分の趣味をこんな楽しいことに生かせるって思ってなかった。これに気付けたのはお兄ちゃんのお陰だね」
3人の気持ちを聞いた悠はそんな大袈裟なと思った。自分はキッカケを与えただけで何もしていない。そう感じられたのは穂乃果たち自身が頑張ったからだろう。悠がそう伝えると、穂乃果は首を横に振り悠に近づいて言った。
「その先輩がくれたキッカケで私たちは頑張れたんだよ。それに先輩と一緒なら、これからも頑張れる気がするの。だから……これからも…私たちのスクールアイドル活動を手伝ってくれますか?」
穂乃果は真っ直ぐに悠を見つめた。そうしなくても悠の答えは決まっている。
「答えは必要か?高坂」
悠は微笑んでそう返した。最初言葉の意味が分からなかったのか穂乃果は首を傾げたが、やがて意味を理解したのかぱぁと表情が明るくなってこう言った。
「ありがとう!鳴上先輩!!」
そして歓喜余って穂乃果は悠に抱きついた。
「ちょっ!穂乃果!離れなさい!!」
「穂乃果ちゃん!離れて!そこは私のポジションだよ!!」
慌てて海未とことりが悠から穂乃果を引き離した。穂乃果は少し不満そうだったが、すぐに表情を切り替えてこう提案する。
「ねえ、打ち上げ行こうよ!ファーストライブ終わったし、今日はパァとさ!」
「切り替えが早いですね…と言ってももうこんな時間ですし……」
「なら、今日は俺の家でホームパーティーでもするか。俺が手料理を振舞ってやる」
「本当!!鳴上先輩の手料理かぁ……楽しみ〜!」
「鳴上先輩…良いんですか?」
「気にするな。八十稲羽でも仲間とこうして打ち上げしたんだ」
「お兄ちゃん!!私オムライス食べたい!!」
こうして、悠と穂乃果たちμ'sのファーストライブは幕を閉じた。一見不成功に終わったライブだったが、これがμ'sの存在を世に知らしめることになることはまだ誰も知らなかった。
ーto be continued
Next chapter
「鳴上先輩!助けて!」
「アンタ誰?」
「鳴上くん、うちで働かない?」
「……………」
「なんで……こんなことに」
Next #09「The hectic holiday 1/2」