PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

89 / 131
Extra⑦「Ghost story meeting.」

 それはいつもと変わらない金曜日の夜、テレビを見た後にシャワーを浴びているときだった。あるアパートの一室に住む女性はその最中何らかの気配を感じ取った。

 

 

 

────誰かいるの? 

 

 

 

 風呂場から顔を出してそう声を掛けてみたが反応はない。気のせいかと思い、女性はまたシャワーを浴び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 いる……誰か、そこにいる…………。女性は怖くなってシャワーを止めて、また風呂場から顔を出した。

 

 

 

────ちょっと! 誰かそこにいるの!? 

 

 

 

 今度はキツめにそう言ったが反応はない。だが、今度こそ確信した。絶対にこの部屋に誰かいると。もしや不審者かもしれないと思いつつも怖がる自分を抑えて、恐る恐る女性は風呂場のドアを開けた。

 

 

 

ポタリ ポタリ ポタリ

 

 

 

 雫が垂れる音が妙に辺りに木霊する。そっと気配を消しながら近づくと……そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

「クマアアアアアアアアアアっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 懐中電灯の明かりが一つだけ照らされた真っ暗な一室に絶叫した少女の鉄拳が1人の爽やかな好少年にヒットする。鉄拳を喰らった少年は勢いよく吹っ飛ばされ近くの壁に激突して伸びてしまった。

 

「お、おいおい。驚き過ぎだろ……まだオチまで行ってないってんのに、クマが吹っ飛ばされたぞ……」

 

「い、言わなくても分かるわ! どうせあれでしょ! そこに何かお化けが出て、それはお前だ!っていうやつでしょ!?」

 

「うううう……もう嫌だ……」

 

「うううう……で、電気! 電気付けてよ!!」

 

 ここは稲羽市にある天城屋旅館の一室である。そこで特捜隊&μ‘sのメンバー全員で怪談をやっていた。最近暑いし、何か涼しくなることはないかと思っていたら、雪子が怪談をやりたいと言いだした。その言葉に何人かは難色を示したが、夏と言えば怪談だと譲らない雪子と面白そうだという陽介によって、急遽“夏の百物語大会in天城屋旅館”が開催されたわけだ。

 案の定というか、ここに集まった特捜隊&μ‘sは怪談が苦手なメンバーが多いので、あまり怖くない話でも雰囲気でビビッている場面が見受けられた。

 

「クマ~……怪談で定番の女子が“こわーい”って言いながら憧れの男子に抱き着くってやつが不発に終わったクマ~」

 

「クマ吉……そんな下らんことをどこで覚えてきたんだよ。それにしても、まさか絵里ちゃんも怪談苦手だったとはな。正直意外って言うか。まさかクマを吹っ飛ばすまで怖がるとは思わなかったわ」

 

「そうっすね。絢瀬先輩は怪談大丈夫そうな人って思ってたんすけど」

 

 ホラーが苦手な千枝やりせ、直斗に穂乃果たちが怖がるのは分かるが、まさかあの絵里までも怪談にビビるとは陽介も予想外だったらしい。類まれなるリーダーシップで皆を指導する完全無欠な絵里があんな腰が抜けた状態になっているのが信じられなかったのだろう。

 

「そうでもないぞ。意外に絵里は怖がりだ。亜里沙から聞いたけど、まだ電気消さないで寝てるとか」

 

「ゆ、悠!? それ以上言ったら怒るわよ!!」

 

 妙なことを言いだした悠に絵里は目に涙を浮かべながら怒りだす。そんな涙目とへっぴり腰で怒られても怖くないし、逆にそれが可愛い。これはどこかでP(ポンコツ)K(カワイイ)E(エリーチカ)と呼ばれるのも頷ける。少し苛めたくなるがこれ以上やると鉄拳が来そうなので止めにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お次はウチが行くよ。皆も怖がるとびっきりの怖い話を聞かせてあげるわ」

 

 

 次はこの手の話が得意そうな希だ。怖がる絵里たちを見て嗜虐心が湧いてきたのか、顔がニコニコとして手をワキワキとさせている。既にドSモードに入ってた。しかし、

 

「の、希ちゃん? 何で巫女装束なんだ?」

 

「それは雰囲気や。ウチは神社の怪談でもしようと思うてたから、用意したんよ」

 

 いつ着替えてきたのか分からないが希は東京でバイトしている神田明神の巫女装束に身を包んでいた。確かに本人の言う通り、この雰囲気から巫女装束でもどこか白装束っぽく見えて恐怖は増すだろう。すると、

 

「……………………」

 

「先輩、どうしたんすか? ぼうっとして」

 

「えっ?」

 

 見ると、悠は希の巫女姿をぼうっと見つめていた。完二に指摘されて我に返ったようだが、若干顔が赤い。

 

「おお? もしかして悠、希ちゃんの巫女姿に見惚れちまったのか?」

 

「えっ? 違うぞ」

 

「あらあら悠くん。そんなにどストライクやったら何度でも見せてあげたのに~♡」

 

 希の巫女姿に見惚れていたのがバレて、相棒にも本人にもいじられる悠。しかし、それを面白く思わない人物もいる訳で

 

「いてっ! こ、ことり?」

 

「お兄ちゃん……希ちゃんに見惚れすぎ! それに希ちゃんもそんな恰好で誘惑しないで! それは没収だよ!」

 

「ちょっ!? ことりちゃん、やめ………」

 

「おおおいっ!? やめろっ!! あんまり引っ張ると希ちゃんの下着が」

 

「って、チラッとみてんじゃないわよ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 ことりが巫女服を脱がせようと希は脱がせまいと攻防し、その攻防を阻止しようと穂乃果たちは奮闘し、希の下着を覗こうとした男子たちに制裁を与える絵里とにこ。もうこの一室は怪談大会とは程遠いどんちゃん騒ぎになってしまった。

 

(良いぞ……もっと壊してくれ)

 

 そのどんちゃん騒ぎの中で千枝だけはこの状況を好ましく思っていた。普段はこういう修羅場を止めようとする千枝だが、今はあえて押し黙る。こういったいつもの光景が展開されれば、怪談の怖い雰囲気をぶち壊してくれるのだから願ったりかなったりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、次は俺が話そう。とびっきりのを聞かせてやる」

 

 どんちゃん騒ぎが落ち着いた後、そう意気揚々と名乗り出たのは我らがリーダー鳴上悠だ。次は悠が怪談するとなって、また怖いのがくると皆は身体をブルッと震わせた。

 

「ゆ、悠さんがやるの!? もう勘弁してよ!」

 

「悠がやると絶対怖いわよね?」

 

「ああ、今別の俺は魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)……アニメでは描かれていなかったが、朝食でオークションに出る眼球を見せられるような場所にいるからな」

 

「「ひいっ!!」」

 

「お前は何の話をしてんだよ! てか、お前らもこの話のどこに怖がる要素があるんだ?」

 

 怯える女子たちを怖がらせるためか意味深にそう語る悠だったが、語っている内容がおかしい。だが、これ以上身体が震える恐怖を味わいたくない女子たちは再び雰囲気をぶち壊しにかかった。

 

「どうせあれでしょ! 最後に“それはお前だ!”って大声出す奴でしょ!?」

 

「そうそう! あとは怪談と見せかけて階段話っていうオチだよね!?」

 

「それだったら、聖○士星矢の曲ならこっちにあるよ」

 

「どんな話だよ……」

 

 どうやら怖い雰囲気をぶち壊そうと皆必死だ。何故聖闘士◯矢の話が出てきたのかは知らないが、もしそんな話をしたらこっちが黄金聖闘士に殺される。ちなみに作者はあの回をリアルタイムで見て大爆笑したので、未だにあのOPを聞くと思わず笑ってしまう。

 

 

「まあ、階段話っていうのは間違ってないかな?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 

 女子たちの疑問を他所に悠は重々しく階段話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ハァ……ハァ……ハァ…………

 

 

 ここは夢の中……否、悪夢の中。男は必死に目の前の階段を登っていた。身体がどれだけ悲鳴を上げようとも息を上げながら登っていく。何故なら男は今捕まってはならないものに追いかけられているからだ。追手はすぐそこにいる。追いつかれたら終わりだ、足を止めたら殺される。

 

────何で……俺がこんな目に…………

 

 そもそも何故追われているのか心当たりがない。強いて言えば、最近町で噂されている奇妙な悪夢のことだろうか。

 

 

 “落ちる夢を見たとき、すぐに目を覚まさないとそのまま死ぬ”

 

 

 その夢を見るのは女性関係に問題を抱える若い男性だけであり、それを裏付けるかのようにベッドの上で衰弱死した男たちの死体が次々と発見されていく。同時に「悪夢の正体は、浮気癖のある男を恨んだ魔女の呪い」だという噂が流れるようになった。

 もしや、この悪夢がそうなのか。何故? 俺はそんなことしていないのに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント、み~つけた☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……うわあああああああああああっ!」

 

 

 

 まずい、あの怪物に追いつかれた。何とか捕まらないようにと必死に逃げる、階段を駆け上がる。だが、

 

 

「あっ……」

 

 

 追いつかれてしまった焦りからか、運悪く階段から足を滑らせてしまった。そして、身体は重力に逆らえずに怪物の元へと落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、怪物の手には男の鮮血が…………あれ?」

 

 これからクライマックスというところで周りを見渡して見ると、話を聞いていたメンバーの異常が目に入ったので思わず話を止めてしまった。怪談が苦手な千枝やりせ、絵里たちは失神寸前になっており、ある者は布団に包まって怯え、ある者は目に涙を浮かべていた。陽介はもちろんのこと、あの完二ですら身体を丸めてガタガタと身体を震わせていた。

 

「鳴上くん、今のは良かったよ。凄く怖かったし、本業でもやっていけると思う」

 

 だが、それらとは反対に雪子は何故かワクワクした子供のような表情でサムズアップしていた。

 

「いや天城、あの……里中と絵里たちが」

 

「ねっ、もっと他に怖いのない?」

 

「だから、さと」

 

「悠……もう諦めろ」

 

 その後、ノリノリな雪子を主体として怪談話は盛り上がり、特捜隊&μ‘sのメンバーは全員恐怖にどん底に叩き落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「はあ……散々な目に遭いましたよ。もう怪談大会なんて勘弁です」

 

「うううう……夏なのに何故か寒気を感じます…………」

 

 そろそろ夜も更けてきたところで怪談大会はお開きとなった。周りの様子と疲労感からやめようということになり、雪子はもう少し続けたそうだったが、これ以上すると何か起こりそうだったので何とか説得できた。

 

「じゃあ、そろそろ温泉にでも行くか。いい汗かいたしな」

 

「汗っつても冷や汗っすけどね」

 

「もう、これ以上怪談なんて聞かされたら」

 

 

 

 

 

ガタッ! 

 

 

 

 

 

「な、何……今の……? 物音がしたような……」

 

 

 

 

ガタガタガタガタっ!! 

 

 

 

 

「ひいっ!! 何これ!? 何かガタガタ言ってるんだけど!?」

 

 突如として部屋一帯に鳴り響く物音。怪談が終わったと安心していたところに不意を突かれて、女子たちは腰を抜かしてしまった。

 

「もしかして、ポルターガイスト?」

 

「マジで!? 怪談しちゃうとやってくるってあれか?」

 

 突如として鳴り響くポルターガイスト現象に怯えて一歩も動けない状況。普通ならあり得ないことと一蹴するところだが、先ほど怪談をずっと聞かされ続けた彼女たちはそれが現実であると思い込んでしまった。

 

 

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタっ!! 

 

 

 

 

「ちょっ!? これどうするんすかっ!?」

 

「ううううううううっ………」

 

 なおも響き続ける不気味な物音。部屋にいる皆が早く鳴り止まないかと祈りながらジッと耐えている中、

 

「この音、押し入れから?」

 

「お、おい! 悠!!」

 

 ここで冷静さを保っていた悠が物音が押し入れからすると察すると、陽介の制止を無視して押し入れの扉を開ける。そこから何か飛び出してきたので、皆は悲鳴を上げる。しかし、

 

 

「もう! どうして開かなかったクマ~?」

 

「もうじゃねえよ! またお前か!?」

 

 

 なんと、ポルターガイストと思われた現象の正体は押し入れに隠れていたクマだった。大方タイミングを見計らって押し入れから出現して皆を驚かせようとしていたのだろう。

 

「いや~ね。センセイやユキちゃんたちがもんのすごい怖い話をするから~クマは慌てて押し入れに隠れてたクマよ。そんで~逆にタイミング見て押し入れから飛び出してビックリサプラ~イズしようと思ったら、扉が開かなくって……」

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 

「ぎょええええええええっ!? 皆、顔が怖いクマよ~~~!!」

 

 

 案の定だった言い訳をするクマだったが、怪談が苦手な女子から不運にもハイライトの消えた瞳を向けられる。

 

 

「ねえ、このクマやっちゃおうか……?」

 

「うん、今度こそやっちゃおう……」

 

「やっちゃいましょう……」

 

「クマ鍋にしたらおいしそうだよね……?」

 

「そうね……まずは血抜きをしてから内蔵をえぐり出して…………」

 

「ごめんよ、クマくん。ここには僕たちしかいない。目撃者は無しで事件は迷宮入りだ……」

 

「いいのかよ、探偵」

 

 

 しまいには直斗までこう言いだす始末。これはもうクマが犠牲になること以外手の施しようがない。このままではやられると確信したクマは敬愛する悠や飼い主の陽介に助けを求めるが……

 

 

「よーし悠、風呂入り行こうぜ」

「そうだな」

「先輩、俺も付いていくっす」

「ウチも行くよ。雪子ちゃんも一緒に行こう」

「うん、そうする」

 

 

 巻き添えを避けるために悠たちはクマのSOSを無視してすぐさま温泉に逃げ込むことを決行。もう誰もクマを助けるものはいなくなった。そして、

 

 

 

「ぎゃあああああああああああっす!!」

 

 

 

 その夜、クマの断末魔が天城屋旅館中に響きわたったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<天城屋旅館 露天風呂>

 

「いや~それにしても、疲れたっすねぇ」

 

「本当だよ。まあ俺的には絵里ちゃんの意外な部分を見れて満足だったけどな」

 

「もういじってやるなよ。後が怖いから」

 

 天城屋旅館が誇る露天風呂でくつろぐ男3人。あまり温泉に良い思い出はないのだが、やはりこうやってゆっくりと温泉に浸かるのはいいものだ。今回はちゃんと男湯か女湯かも確認したし、もうあんなハプニングが起こることはないだろう。

 

「そういや、ここにサウナはないんすかね。俺、最近サウナにハマってるんすよ。もしあったら先輩らも一緒にどうっすか?」

 

「はあっ? ふざけんな! お前とサウナとかまっぴらごめんだわ! 何か嫌なこと思い出すし!」

 

「そしたら俺たち、貞操の危機」

 

「はあっ!? まだあのこと引きずってるんすか!?」

 

「だからこっちに近づくな!」

 

 サウナ・完二と聞いて思い出したくもない思い出が蘇った2人。完二も全力で否定して、2人に詰め寄ってまた引かれるという特捜隊男子陣にとって懐かしいやり取りをしていたその時、そんな和やかな雰囲気は一瞬で消し飛ぶことになる。

 

「あれ? 誰か入ってきたのか」

 

 入り口からドアの開く音が聞こえ来た。他の客が入ってきたのだろうと思ったが、その入ってきた人物を見た途端、背筋が凍った。

 

 

「あら~♡誰かと思えば、またここで会えるなんて♡」

 

「んふふふふ~♡♡」

 

 

 そこにいたのは思わず目を背けたくなる妙齢の女性とアバドンを彷彿とさせる巨漢の女性……男に飢えたモンスターたちだった。

 

「げっ!!」

 

「柏木と……大谷さん……!?」

 

 女性たちの姿を見た途端、3人は顔が青ざめた。【柏木典子】と【大谷花子】。この2人がここにいるということは、もう分かっている読者にはお分かりだろう。

 

「さっきずっと2人で泣いてたの。本当の女の魅力が分かる男がいないって…………でも、思い切ってみたら貴方たちがいるんだから、これも運命よね~。これから存分に私が教えてあ・げ・る♡」

 

「カモ~ン♡」

 

 

「「「ひいいいいいいいいいいいいいっ!!」」」

 

 

 野獣の目をした柏木と大谷がじりじりとこちらに近づいて来る。まるで去年の文化祭後の思い出したくもない記憶の再現みたいだ。まさに本当の貞操の危機に直面した陽介たちは露天風呂の端に追いやられそうになりながらも状況を把握する。

 

「ど、どういうことだ? 俺たちちゃんと確認したっすよね!?」

 

「知らねーよ! また天城がポカしたのかもしんねえけど、状況が状況だろ! 悠、どうするりゃいい?」

 

「やむを得ない……陽介! 完二! あのベルリンの壁を超えるぞ!」

 

「「な、何っ!?」」

 

 ベルリンの壁

 それは1961年から1989年までベルリン市内に存在した冷戦を象徴すると言われた壁である。壁を越えて越境しようとした者が次々と射殺されるなどの悲劇が生まれたが、この旅館にもそれは存在する。それは男子風呂と女子風呂を隔てる壁のことで、そこを超えようとしたものは(社会的に)抹殺される。

 そう、悠は(社会的に)抹殺されるリスクを負ってでも目の前の野獣たちから逃れることを選ぼうとしているのだ。だが、

 

「つーか、無理だろ!? 超える以前にこの旅館、ここの露天と大浴場しかねえだろ!?」

 

「冗談だ」

 

「随分余裕あるな、お前!」

 

「だが、安心しろ。策はある」

 

 悠はそれと今からの作戦をハンドシグナルで2人に伝える。そして、そのハンドシグナルの意味が分かった陽介と完二は了解したと顔を頷けるとすぐそばまで迫ってきた野獣たちに目を向ける。

 

 

「「いただきまーす!」」

 

 

 気を狙って野獣2人は悠たちに襲い掛かった。その時、

 

 

ーカッ!ー

「カバー!!」

 

 

 陽介と完二はシャワーのノズルを最大限に上げて目くらましする。不意打ちでシャワーを浴びせられた猛獣たちは動けなくなり、足止めに成功する。そして、

 

 

「今だ! ムーブっ!!」

 

 

 男3人は野獣たちの動きが止まったことを確認すると、すぐさま脱衣所までダッシュして着替えを片手に反対側の脱衣所まで逃げ込めた。

 

「ハァ……ハァ……何とか逃げ込めたな」

 

「ああ。まああのモンスターたちもこの男湯には入ってこないだろう」

 

「そうっすねえ。まあ流石にここまで…………えっ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」」

 

 何とか反対側に逃げ込めて安堵する悠たち。しかし、逃げ込んだ先には風呂に入ろうと浴衣を脱ごうとしている特捜隊&μ‘sの女子たちだった。

 

 

「「「「きゃあああああああああっ!!」」」」

 

 

「ゆ、悠! 貴方たち、また」

 

「ち、違うんだ!? これは……」

 

「おおおいっ! どういうことだよ!? こっちが男湯じゃなかったのか!? てか、どっちが女湯でどっちが男湯なんだよ!?」

 

「お、俺にも分かんねえっすよ!! また天城先輩が」

 

 またもハプニング。モンスターたちから逃げて男湯だと思った大浴場に何故かまたも特捜隊&μ‘sの女子たちに遭遇してしまった。一体この旅館は何なのだ。どっちが男湯でどっちが女湯なのか分からなく混乱してしまう男子たちだったが、そんな時間は与えられなかった。

 

「アンタたち~……こんなことしてただで済むとは思ってないでしょうね~?」

 

 聴きたくないとても低い声が聞こえたので恐る恐る見てみると、女子たちは仇を見るかのように悠たちを睨みつけている。先ほどの野獣たちとは違う、ガチな複数の殺気に男たちは足がすくんでしまった。特に風紀に厳しいラビリスが指をポキポキと音を鳴らしながら睨んでくるのが怖い。

 

 

「て、撤退だ!!」

 

「「サー! イエッサー!!」」

 

「「「「待てえェェェェェェっ!!」」」」

 

 

 その晩、悠たちは捕縛されるまで女子たちに追いかけ回され、暑さが吹っ飛ぶほどの更なる恐怖を存分に味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談、というか今回のオチ。

 

 

 後から聞くことになるのだが、実は悠たちは風呂を間違ってはいなく、元は柏木と大谷が男を捕まえられないからと言ってわざと男湯に入ったのが原因だった。これを受けて事態を把握した天城屋は改めて両名を厳重注意して、もう一度こんなことがあれば出禁にすると警告。そう言った天城屋の葛西に凄い剣幕で怒られた2人は何度も首を縦に振ったらしい。

 だが、その事実を知った時は不憫にも既に男子陣はラビリスたちに捕縛されてお仕置きを喰らった後だった。

 

 

「「「いいことなんて、一個もない……人生…………」」」」

 

 

 翌日、天城屋旅館にはまたも雄叫びを上げながら卓球をする男子4人の姿が見受けられたという。やり場のない怒りをぶつけながらラリーをする男子陣を見て、気まずそうに見つめる少女たちは思った。

 

 

 

──────もう二度と怪談大会なんて、しない。

 

 

 

 

―fin―




最後までお読みいただきありがとうございます、ぺるクマ!です。

今回の番外編は【怖い話】でした。如何にも夏らしいですし、またかよと思う方もいるかもしれませんが、偶々久しぶりに銀魂の怪談話の回を見て、あっ!これだと思いついたのかがキッカケです。まあ、怪談とは関係ないネタも使ってはいますが、楽しんでいただけたでしょうか?

改めて、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

本編も随時仕上げていく所存ですので、皆さん楽しみにしてください。それでは、これにて失礼します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。