PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

予め失礼します。
水着武蔵ちゃんが出たぜ!やったあああああああ!!まだ日曜限定のマーリンピックアップやメルトや沖田さんの水着などもあるけど、もう思い残すことはない!そして、OnePieceスタンピードも面白かった!!
失礼いたしました。

本編の話になりますが、今話のタイトルである「Remember, We Got Your Back.」はPQ2のP4ver戦闘曲です。誰がこの曲で踊るのかはお楽しみです。
また、勢い余まって久しぶりに夏にちなんだ番外編を書いてしまったので、それは明後日の同じ時間に投稿します。そちらも楽しんでもらえたら幸いです。

改めてお気に入り登録して下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#80「Remember, We Got Your Back.」

「……はっ!?」

 

「ど、どうした? 悠……?」

 

「もうすぐ……ことりのダンスが始まる気がする……見たい……ことりの夏の成果をこの目で見たい…………今すぐ引き返して」

 

「ダメっ! この先にたまみさんがいるんだから! 引き返しちゃダメだって!!」

 

「ダメだ……このシスコン……早く何とかしないと……」

 

「もう手遅れじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! あそこ!! 誰かいる!」

 

 さきほどのステージを抜けてから探索を続けていると、前方に人影を確認した。

 

「あ、あれって……A-RISEの綺羅さんだ! おーい!!」

 

「あ、貴方たちは……」

 

 突然人がやってきたことにびっくりしたのか、ツバサはおどおどとした様子で穂乃果たちを見つめていた。何かあったのだろうと思いながら、穂乃果たちはツバサの元に一気に駆け寄る。

 

「綺羅さん、大丈夫!? けがはない!?」

 

「え、ええ……それは大丈夫……」

 

「あっ、初めまして綺羅さん。私はμ‘sの高坂穂乃果です!」

 

「は、初めまして……こう」

 

「綺羅さんたちA-RISEのパフォーマンスはよく見てました! もう本当にすごくて」

 

「あ、ありがとう……え、ええっと……」

 

「穂乃果! 貴女は落ち着きなさい!」

 

 穂乃果のアイドル熱に圧され気味であるが、それを引いてもどうやらツバサは何が何だか状況が掴めず混乱しているらしい。海未はとりあえずまくし立てる穂乃果を宥めて、今起きている状況を一から説明した。

 

 

 

 

 

「そ、そうなんだ……私の他にもあんじゅと英玲奈……かなみんキッチンのみんなも」

 

「ええ。でも綺羅さん、今は貴女の安全が優先です。私たちがいれば安心ですから」

 

 海未の丁寧な説明で状況を把握できたらしいツバサ。しかし、次のツバサの言葉が場を凍り付かせることになる。

 

「えっと……その、鳴上さんもこの世界にいるの?」

 

「えっ? 悠さんなら別のルートにいるけど、どうしたの?」

 

「い、いや……ちょっと、残念だなって思って」

 

「「「はっ?」」」

 

「えっ……! ええっと……きゃっ!」

 

 モジモジとしながらぼそぼそとそう言うツバサだったが、何かに躓いたのかステンと転んで尻もちをついてしまった。それを見た穂乃果たちは徐々に違和感を覚えた。A-RISEの綺羅ツバサと言えば今のスクールアイドル全てのカリスマ的存在でしっかり者な上にハキハキしているというイメージがあったが、実際見たところ全く真逆。端的に言うと、どこか花陽みたいな感じだった。

 

「ねえねえ、あれって本当に綺羅さんなのかな? PVでみたのと全然違うよ」

 

「うん、何か覇気がないっていうかぼうっとしてるっていうか……穂乃果ちゃんとか花陽ちゃんに似てるよね」

 

「えええっ!? 穂乃果はあんなんじゃないよ!」

 

「そんなことはどうでもいいでしょ! とにかく、今は綺羅さんの安全を」

 

「ねえ綺羅さん……お兄ちゃんのことに関しては後で詳しく教えてもらってもいいかな♡」

 

「ひいっ!?」

 

「ことりちゃん!? ちょっと落ち着こうよっ! 確かに気になるけど今は関係ないよね!?」

 

 ツバサにあらぬ疑惑を持ったことりはいつものハイライトが消えた表情で問い詰めようとする。あまりの怖さにツバサが怯えているので慌てて止めようとしたその時、

 

 

ー!!ー

 

 

 その時、辺りの空気が重くなった。何かが近づく気配も反応もなかったのに、それはいきなりやってきて、何もない空間からあの声が響いてきた。まるで、穂乃果とツバサたちのことを見ているみたいに。

 

 

「フフフ……見つけた。ダメじゃないツバサ、もっとリーダーらしくしないと」

 

「また出たっ!? 一体どこから……」

 

「もうっ! 邪魔しないでよ! 今からツバサちゃんにお兄ちゃんと何があったのか聞こうと思ってたのに!?」

 

 何としてもツバサから尋問しようという姿勢を崩さないことりに思わずツッコミを入れてしまったが、謎の声はそれに答えることはなかった。

 

「フフフ……威勢のいい子。残念だけどツバサはこれからステージが控えてるの。さあ行きましょう、ツバサ。いつものカリスマ的なキレのあるダンスを見せてよ」

 

 どうやら謎の声はことり達のことなど眼中になくあくまでツバサのことしか見ていないようだ。謎の声にツバサは足をガクガク震わせながらも声を上げた。

 

「い、嫌よ!! 私にそんなものなんてない! あんなのは……どうにかこうにかして誤魔化してるだけで……」

 

「分かってる。でも、隙の無いリーダーじゃないツバサは誰も見てくれないよ。誰だって完璧な人を頼りにするに決まってるじゃない。今の貴女を見たら、皆凄く裏切られたと思っちゃうよ……」

 

「裏切るって、私はそんなことはしてない! 誤魔化してはいたけど、私はこれまで一生懸命……」

 

「フフフ……けど、もう頑張る必要なんてないよ。私たちと繋がれば安心だから」

 

 

 

ー!! ー

 

 

 

 すると、その声が合図となって再び道が閉ざされた。また前触れもなく黒い靄が発生して共にリボンに繋がれたシャドウの大軍が出現した。 

 シャドウの出現を確認すると、穂乃果たちは慌ててツバサを庇うように陣形を取った。さっきファンの期待と言われて穂乃果は自分に言われてるのではないと分かってても、心に刺さってしまった。だが、これに対して穂乃果は謎の声に嫌悪感を募らせた。自分でもこうなるのに、ツバサを動揺させるためにその手を使うのは卑怯だと思ったから。そんな輩に翼を渡してなるものか。

 

「好き勝手言ってくれますね。こんな真似をする貴方なんかに綺羅さんは渡しません!」

 

「もう貴女の思う通りにはさせないよ! ツバサちゃんはことり達が守るから!」

 

「フフフ……本当に鬱陶しいくらい元気な子たちね。貴方たちは知らないのよ、ツバサがどんなに苦しんでるのかを……何も知らないのに口を出さないで」

 

「そ、それってどういう意味!?」

 

「知らなくも良いよ。私たちと繋がれば全部上手く行く。誰も傷つかないし苦しむこともない。さあ……いい加減受け入れてよ。私たちの絆を……」

 

 問答無用と言わんばかりにあの不気味な歌が大音量で流れてシャドウたちがダンスを始める。もう何度目かは知らないが、あの気持ち悪い脱力感が再び穂乃果たちを襲う。それもさっきよりもシャドウの数も増えている故か、かなり進行が早くなっている。

 

「うっ……力が……」

 

「何度聞いても、心地いいものではないですね……!」

 

 海未の言う通りこんなのを何度聞いても不気味なだけだ。見ると、ツバサはもう音楽に取り込まれそうになっている。早くさっきみたいにダンスでシャドウたちをリボンから解放しなくては。

 

 

 

「……ここは、ことりがいくよ!」

 

 

 

 不気味な音に負けじと、ことりは先ほどの海未と同じように歯を食い縛って一歩前に出た。

 

「ことりちゃん!?」

 

「ことり、行けるのですか?」

 

「うん。さっき海未ちゃんが躍ったし、負けられないって思ったから。それに、穂乃果ちゃんの言う通りだよ。こんなリボンで繋がれてあの声の言いなりになるなんて、縛られてるみたいで見てられないよ。だから、ことりがそれは違うっていうことを伝えてあげなきゃ!」

 

 先ほどの海未のダンスに触発されたのか、喜々とそう語りながらも確固たる決心を垣間見せたことり。その真っすぐな瞳はやはり血縁故なのか、別ルートにいる誰かさんを想像させた。

 

『ことりちゃんの覚悟聞かせてもらったよ。ことりちゃんの課題曲【Shadow world】は準備済みだから、センパイ譲りの表現力でシャドウたちをメロメロにしちゃってよね!』

 

「ありがとう、りせちゃん。よーし! それじゃあ、行くよ! μジック スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────そ、想像以上に……すごいわ…………

 

 

 

 ハーモニカの軽やかなメロディーから始まったことりのダンスパフォーマンスは初っ端からツバサに衝撃を与えた。華麗なステップに思わず惹きつけられるしなやかな動作に目が離せない。何より凄いのが躍っている最中も笑顔を崩さず、その笑顔を周りのシャドウたちに終始振りまいているので、シャドウたちはメロメロになって大興奮している。

 

 

 ツバサは知る由はないが、夏休みでことりは堂島家で悠と一緒に菜々子にダンスを教えていたため、自然と悠の表現力を少なからず吸収していた。それが相まって、悠程ではないにしろ元々表現力が高かったことりは更に磨きがかかり、穂乃果と海未の目からしてもステージのことりは今までより一層輝いているように見えた。もしこの場にあのシスコンがいたのなら、発狂するくらい大興奮するに違いない。

 

 

 

──────…………うらやましい

 

 

 

 一番ツバサが引っかかったのが、何より踊っている最中のことりは心の底から楽しんでいるように見えたことだ。あんな表情で心からダンスを楽しめる人間なんて中々いない。きっとそこにいる穂乃果や海未もそうなのだろう。

 

 

 だが、そうなると自分は心からダンス……否()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 

 そう思った途端、ツバサの心に影が生じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

「来て! エウテルペーっ!!」

 

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

 

 フィニッシュしたことりはタロットを砕いてペルソナ【エウテルペー】を召喚。その楽器は金色に輝くユーフォニアム。最高潮にテンションが上がったシャドウたちにエウテルペーの華麗なユーフォニアムが追い打ちを掛けた。エウテルペーの透き通るような音色に聞き惚れたシャドウたちは先ほどと同じように歓声を上げたと思うと、一気に空へ溶けて行くように消えていった。

 

「すっごーい! ことりちゃん!」

 

「これはもう天晴れとしか言いようがありませんね」

 

「えへへへ。やっぱりお兄ちゃんと一緒に練習したから……」

 

 やり切った顔をしていることりを皆で労うと本人は嬉しそうに微笑んでいた。やはり流石は人気メイド喫茶“コペンハーゲン”のミナリンスキー。女子の穂乃果や海未でも思わずドキッとしてしまう笑顔に思わずやられそうになった。これは男共がメロメロになるだろうが、もし手を出そうものならあのシスコン番長が黙っていないだろう。

 

「あっ、悠さんと言えばツバサさん…………えっ?」

 

 しかし、振り返ってみると、そこにツバサはいなかった。さっきまでそこでことりのダンスを見ていたはずのに、ツバサの姿はそこにはなかった。

 

「しまった!? まさか、あの人……」

 

「フフフ……今さら気づいたようね」

 

 姿の消えたツバサにオロオロしていると、謎の声の瀬々笑う声が聞こえた。やはり、ツバサが姿を消したのはこの声の仕業らしい。それに気づいた海未は抗議の声を上げる。

 

「ひ、卑怯ですよ!! 私たちに敵わないからって、勝手に綺羅さんを攫うなんて!」

 

「何が卑怯なの? 私は貴女たちの相手をした覚えはないし、貴女たちが勝手に思い込んでることでしょ?」

 

「何ですって……!!」

 

「それに、久慈川りせといい鳴上悠といい、本当に滑稽よね。貴方たちがどう足掻こうとツバサたちは救えないのに」

 

「お兄ちゃんが滑稽!? それに、ツバサさんを救えないってどういうこと?」

 

「と、とにかく急ごう!? このままじゃツバサさんが何されるか分からないよ」

 

 いつの間に連れて行かれたツバサを穂乃果たちは急いで追いかける。あの声が言っていた“自分たちにツバサは救えない”という言葉には引っかかりを覚えたが、そんなことを気にしている余裕などなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いでツバサを追いかけたところ、周囲の景色が更に特色を強めて行き、やがて一段と豪華なスタジオのような部屋へと到着した。まるでトップアイドルが豪華なMVを撮る現場のような内装に穂乃果たちは驚きの声を上げる。

 

「なにこれ!?」

 

「何と言うか、アイドルのステージみたいに見えるのですが気のせいでしょうか?」

 

「あっ! あそこにツバサさんが!」

 

 見ると、レッドカーペットが敷かれている大理石の階段の前に作られた円形状のステージにツバサはポツンと立ち尽くしていた。その姿はまるでずば抜けた才能を持つアイドルのようだったが、状況が状況なだけに嫌な予感しかしない。

 

「何で……何でよ! 私は私らしくやろうとしているだけ! 今までもそう」

 

「そう、最初は軽い気持ちだった。周りがやったことがないようなことをしてみようって気持ちであんじゅと英玲奈と一緒にスクールアイドルを始めたのよね」

 

「えっ?」

 

「それがとっても世間にとっても受けて、全国に広まってラブライブという大会で優勝したツバサたちは今や注目の的。全国の何人ものスクールアイドルが完璧なツバサに憧れているのに、そんなしっかりしてないツバサを見たら、どう思うのかしら?」

 

「うっ!?」

 

 その言葉に穂乃果たちは思うところがあった。廃校を阻止するためと思って始めたスクールアイドル。正直に言えば最初は注目されることに必死になっていたが、オープンキャンパスで“廃校を阻止できるかもしれない”と注目が集まった時から、どこか失敗してはいいけないというプレッシャーを感じたことはある。

 それが今や全国で知らぬものはいないA-RISEの綺羅ツバサとなれば、それは自分たちの比ではないだろう。

 

「ツバサさん!」

 

 苦悩するツバサを見かねて穂乃果たちはステージに近寄るが、ツバサは何か言われると思ったのか怯えるように身を引いてしまった。ダメだ、もうツバサは心が壊れかけている。先ほどの謎の声が効いているみたいだ。

 

 

「フフフ……やっと来たんだね。せっかくだから貴女たちも聞いてみてよ。皆がツバサに望む真実の声を」

 

 

 瞬間、空間が歪んだような感覚に襲われた。すると、

 

 

 

 

 

『ツバサちゃんはさ、やっぱし完璧だよね』

 

 

『そうそうっ! 何も隙がない人って感じで憧れるよね』

 

 

 

 

 突然ここまで一度も聞こえこなかった声が空から周囲に響いた。いや、直接自分たちの鼓膜に響かせているような声。これは……

 

「な、なにこれ!? 誰がしゃべってるの!?」

 

「わ、分かりませんが、この人たち……綺羅さんのことを言ってるのですか?」

 

 いきなり違う声が聞こえたことに戸惑う一同だが、そんなのを関係なしに次々と別の誰かの声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

『ダンスもカッコいいし、もう女子でも惚れるって感じ』

 

 

『もしもツバサちゃんがダメな感じだったら嫌だなあ』

 

 

『それはないだろ。だって、あんなカリスマ性がある子がそんなワケないでしょ。もしそうだったらショックだよ』

 

 

『ラブライブ優勝したけど、またあったら優勝して欲しいよな』

 

 

『ツバサちゃんのもっと凄いダンスや歌を見てみたいし、正直余計なことされたら萎えちゃうよなあ』

 

 

 

 

 

「あ……ああ…………」

 

「分かるでしょ、ツバサ。“本当のあなた”なんて邪魔なだけ。そんなの望んだって、痛くて苦しいだけだよ」

 

 瞬間、プツリと糸が切れたような音がしたと思うと、地面にだらりと座り込んだツバサが諦めた表情で何か悟ったように呟いた。

 

「そうか、私は……みんなが求める私になればいいんだ……」

 

 ツバサがそう呟いたのとほとんど同時だった。四方から伸びたリボンがたまみに巻き付き、磔の如くその体を軽々と宙へと吊るし上げる。だが、蜘蛛の巣にかかった獲物のようにぶら下げられたツバサはそれでも悲鳴を上げることはなく、諦めた表情を保っていた。 

 

「ツバサさん!?」

 

「どどどうしよう!? ツバサさんが捕まっちゃったよ!!」

 

「ど、どうしようって、これでは私たちの手では……て、何ですかこれは!?」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

 

 目の前に広がった光景に海未たちは絶句した。宙吊りになったツバサの全身をうごめくようにリボンが這って、その体を覆い尽くす。同時に、まるでシャドウが暴走する時のようなどす黒いもや……ちょうど自分たちがこの世界に引き込まれた時に見たのと同じものが彼女の身体から立ち昇り始めた。

 

「フフフフフ……つながったわ! これで、ツバサは皆の望むツバサになる!! あはははははははっ!!」

 

 謎の声が嬉しそうに歓喜の声を上げたと同時に黒い靄は晴れて、変わり果てたツバサの姿が現れた。

 

 

 

 

『ハハハハハッ! ああ、幸せだわ……また私はもう一つ先のステージに行けた! 簡単だわ……本当の自分なんて捨ててしまえば、こんなに皆と繋がれる……! 完璧なカリスマじゃなきゃ意味がない……期待に応えられなきゃ、価値なんてないのよ!』

 

 

 

 

 そんな高笑いと共に現れたのは煌びやかなドレスにマイクを手に持ったアイドルのような怪物。だが、そこ彼処に杭が打たれており、まるで身動きが取れないように縛られている様子が痛々しかった。

 

 

ウオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

 うごめくような歓声に後ろを振り向くと、さっきまで空席だったはずの客席に無数のシャドウが満員御礼でウェーブしていた。これがあの声の望むツバサのステージということなのだろう。証拠にシャドウたちのウェーブと歓声が今まで以上に盛り上がっていた。しかし、

 

 

「ダメだよ! ツバサさん!!」

 

 

 シャドウ化したツバサの言葉に耐え切れなくなったのか、穂乃果はこれでもかというほどの大声を上げてツバサと対峙した。

 

「誰かの期待を背負って、それがいつの間にか辛くなるのも苦しいのも分かるよ。でも、それで自分を捨てちゃったら、自分が誰で何をしたかったのか分からなくなっちゃうよ! そんなの……悲しすぎるよ……」

 

「穂乃果……」

 

 かつて学園祭での自分がそうだった。自分は役立たずだと思い込んで自分を見失って暴走してしまったあの時、悠たちには本当に心配を掛けたし、自分があんなことをしなければ悠は酷い目に遭わなくてすんだかもしれないと今でも思う。

 

 

「だから……どんなに辛くったって苦しくたって、自分をしっかり持って頑張らなきゃダメだよ! それが……私が悠さんや海未ちゃんたちμ‘sが教えてくれたアイドル道だよ!!」

 

 

 穂乃果の言葉に海未とことりは驚いて顔を見合わせてしまった。それと同時に思わず笑みを浮かべてしまう。相変わらず穂乃果らしい一面を久しぶりに見た気がする。これが自分たちのもう一人のリーダー“高坂穂乃果”だ。

 

『……ふふ、穂乃果ちゃんって本当に無意識に確信ついてくるよね。そういうところが悠センパイみたいで羨ましいかも』

 

「りせちゃん……?」

 

 またも突然に別ルートで奮闘中のりせから通信が入った。それに今の穂乃果の言葉を聞いたのか、少しシリアスな口調になっている。

 

『私も“ファンの期待”とか“世間の評判”って聞いて重くプレッシャーを感じたりこうしていかなきゃって何回も思ったことはあるよ。私はそれに耐えきれなくなって休業しちゃったんだけどね……』

 

「…………」

 

『でも、穂乃果ちゃんの言う通りだよ。誰かの思う通りの自分でいれば楽ちんかもしれないけど、自分を捨てちゃダメ! 私たちはアイドル。自分を捨てるんじゃなくて、自分の事を分かってもらってそれを受け入れてもらわなきゃなんだよ! 今のツバサちゃんはそれを忘れてる。それを思い出させてあげて!!』

 

 りせの激励に鼓舞されて穂乃果は気合十分になった。これで行ける、自分だってあの悠のようにやってみせる! 今こそ、本当の夏の成果を見せる時だ。

 

 

「……うん! ありがとう、りせちゃん! それとね、ちょっと頼みが………」

 

『何々………えっ!? わ、分かった。じゃあ、穂乃果ちゃん! 行っちゃって!』

 

「よーし! 行くよ! μジック スタート!!」

 

 

 そして、穂乃果の宣言と共に、りせと絵里から貰った課題曲【Remember, We Got Your Back】が音量MAXに流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これ……」

 

「す、すごい……」

 

 ダンスが始まった共に、海未とことりは呆然としてしまった。元からあった身体能力と悠にも引けを取らないダンスのキレで自分の魅力を見せつけている。確かに穂乃果にはスクールアイドルとしての才能はあった。それは夏の練習の際にりせと絵里がそう公言している。だが、それ以上に驚いたのは……

 

 

「「穂乃果(ちゃん)が()()()()()()()!?」」

 

 

 そう、この曲は全て歌詞が英語なのである。成績が低空飛行の穂乃果が少し癖がありながらも英語で歌いながらダンスしているのだ。先ほどりせに通信越しで頼んだのはこのことだろうが、普段の穂乃果を知っている者からすれば、まさに驚天動地だ。しかし、一体何故?

 

 

「これって、穂乃果ちゃんが夏休みにお兄ちゃんと踊ったやつ……だよね?」

 

「ええ」

 

 まさかと思ったら、そう考えられば必然だった。確かにこれは夏の稲羽での練習で悠と穂乃果がお試しに踊った練習曲だった。その時、悠が穂乃果と踊ると楽しいだの穂乃果が後ろで歌ってくれたらもっと良いだのと褒めたので、穂乃果が舞い上がって急に英語を勉強し出したのを思い出す。

 結局独学では身に付かなかったので海未に泣きついてきたのだが、あれから徐々に上達した様子が今あのダンスに現れている。しかし、ダンスも後半に差し掛かったとき、何か焦りを感じたのかダンスが少し乱れてきたのが見受けられた。

 

 

 それに気づいた海未とことりは一瞬顔を見合わせると、一緒に頷いてその場から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ダメっ……まだ届かない!)

 

 

 全身全霊を込めて歌と踊りに熱中する穂乃果だったが、ツバサの心にまだ届いてないと実感した。このままではツバサに伝わらない、何か足りない。でも、時間も残り少ないし、ここからどうしたらいいのか迷っていたその時、

 

 

「穂乃果、一緒に踊りましょう!」

 

「足りないところはことりたちに任せて!」

 

 

 最後のサビに入った瞬間、この世界で初めて悠とダンスした時のように海未とことりが一緒に踊ろうと割って入ってきた。突然の出来事に穂乃果は面を喰らったが、自然とこの2人と一緒にダンスしていることに懐かしさを覚えた。

 曲は違うものの、まるで春のファーストライブの再現みたいだ。あの時は観客が3人しかおらずかなりショックを受けたものだが、マイク越しに伝えてくれた悠の言葉が自分たちを立ち直らせてくれた。

 

 

 そうだ、自分は一人じゃない。こんな自分を認めてくれる友達や仲間がいるから自分は踊っていられる。友達と支え合っていけば、どんな困難や災難だって乗り越えられる。ツバサだって、例外ではない。

 

 

(だから、思い出して! スクールアイドルとして、ツバサさんが大事にしていたことを!!)

 

 

 

ーカッ!ー

「「「お願い! ペルソナ!!」」」

 

 

 

 

 穂乃果たちは全力でタロットカードを砕いて各々のペルソナを召喚。そして、悠とのセッションでも奏でた深紅をギターを手にカリオペイアはあの時よりもキレのある音響を奏で始め、それを支えるようにポリュムニアのフルートとエウテルペーのユーフォニアムが旋律を奏でた。

 

 

 

 

キャアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

 ツバサシャドウはμ‘s2年生組の異色ながらも迫力のある素晴らしいセッションに苦悩の声を上げてのたうち回った。その様子を見て、穂乃果たちはツバサに伝わるように真剣に見守る。自分たちが出来ることはやった。後はそれがツバサに伝わったことを祈るだけだ。

 

 

 

(お願い……この想い……ツバサさんに届いて!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりすごいわね…………あなたたち……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い靄が晴れて怪物の姿がなくなり、そこには先ほどの諦めた表情ではなく何か悟った顔持ちのツバサが膝をついていた。それを確認した穂乃果たちは慌ててツバサに駆け寄ってツバサの身体をチェックするが、何事もなかった。

 

「…………私ね、本当は小さい頃は凄く内気だったんだ。でも、高校で変わりたいって思って……思い切ってあんじゅと英玲奈と一緒にスクールアイドルを始めたの。正直、A-RISEの名前がこんなにも有名になるなんて思わなかったわ……」

 

「えっ?」

 

「最初は全国に私たちのことが広まったことを知った時は、すごく嬉しかった。自分が変われたように思えて、もっと頑張らなきゃって思った。でも……それで段々完璧なカリスマって言われることになって、いつの間にかそれに固執しちゃって…………私が本当に何をしたかったのかを忘れてたのかも……」

 

 苦々しくそう語るツバサだったが、その言葉の裏には別の感情が込められているのを穂乃果は感じた。清々しいほど自重するツバサに、海未はここまでだと割って入った。

 

「……私たちが言えることじゃないかもしれませんが、期待に応えるのは悪いことじゃないと思います。ですが、そこに綺羅さん自身が本当に伝えたいと思ったことがないと、先ほどのように自分を見失ってしまいます」

 

「……………………」

 

「でも、今は違うでしょ?先ほどの穂乃果のダンスを見て、思い出したのではないですか?」

 

海未たちの言葉を聞いたツバサは少しの間目を閉じると、決心したようにゆっくりと目を見開いた。

 

 

「………私、これからのA-RISEのことちゃんと考えてみる。あんじゅと英玲奈と本音で語り合って、納得いくまで私たちらしさを突き詰める。一度頂点を取ったからって言って、今までの自分たとじゃ油断ならないもの。ちょうど負けられない相手も出来たことだしね」

 

 

 ツバサはそう言って意味深に穂乃果をチラリと見た。ツバサの言葉の意味が分かった穂乃果は一瞬驚いたような照れくさそうな顔をしたが、互いに手を出して固い握手を交わした。

 

 

 

――――――ツバサの感謝の気持ちが伝わってくる………

 

 

 

「良かったね、穂乃果ちゃん! 分かってもらえて」

 

「うんっ! こっちこそありがとうね、海未ちゃん・ことりちゃん。悠さんみたいに出来て良かったよ」

 

「まさか英語で歌うとは思いませんでした。ですが穂乃果、聞いてて思ってのですが、発音が全然違うところが多かったですよ。現実に帰ったら早速勉強してもらいますから、覚悟して下さいね」

 

「えええっ!? せっかく頑ったのにまた勉強!? ちょっとことりちゃ~ん!」

 

「う~ん、こればっかりは庇いきれないかな?」

 

「うううううっ……悠さ~ん、助けて~~~!!」

 

 ツバサに自分の気持ちが伝わって嬉しそうにしたのも束の間、再び現実に戻された穂乃果。その言葉の”悠”という単語を聞いたツバサは意味深に手に顎を当てた。

 

「やはり、彼女たちの強さの源は彼にあるのかしら? やっぱり彼には私たちを」

 

「「「はっ?」」」

 

「へっ?」

 

 固い握手も束の間、ツバサの聞き捨てならない呟きを聞いた穂乃果たちはジト目でツバサを睨んだ。

 

「そういえばツバサさんってさ、さっきから悠さんのことばかり話すよね?」

 

「もしかして、私たちから悠さんを引き抜こうとしているのですか?」

 

「もしそうだったら、覚悟はできてるよね?」

 

「えっ……? えええええっ!?」

 

 

 

ー!!ー

 

 

 

 ことりと海未がツバサを問い詰めようとしたとき、いきなりステージの中心が光った。驚いてそっちを見てみると、そこにはいつの間にか今までなかったはずの鋼鉄のドアが存在していた。

 

「何……これ?」

 

「扉の様ですが……どこに繋がっているのでしょう?」

 

「これって……どこかで見たことあるような?」

 

「とりあえず入ってみようよ。でも、シャドウがいるかもしれないから慎重に」

 

 そう言って穂乃果たちは恐る恐るとツバサを誘導しながら扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<マヨナカステージ 楽屋セーフルーム>

 

「……誰もいませんね」

 

「でも、ここどこだろう? なんか見覚えはあるんだけど」

 

「ああっ! ここって、タクラプロの楽屋じゃない? 内装が似てるし」

 

「「えっ!?」」

 

 ことりの言葉に一同はハッとなった。確かに見た目は楽屋と言うに相応しい空間で言われてみればその通りなのだが、通い始めて日の浅い穂乃果と海未はまさかこれがタクラプロの楽屋とは確信しきれないでいた。

 

「確かに、ここはタクラプロの楽屋みたいね。私は何回かリハーサルの休憩に使わせてもらったから分かるけど、南さんは何で分かったの?」

 

「あ、あのね……さっきお兄ちゃんと日菜って子から逃げてた時に楽屋に逃げ込んで……その時ダンボールを探したから覚えてたんだ」

 

「「「……………………」」」

 

 やはり理由はそんなことだろうとは思っていたが、改めて聞くとドン引くどころか呆れてしまった。ツバサも唖然としているのでこの空気をどうしたものかと思っていると、

 

「あ、あれ? あれって何だろう?」

 

 すると、メイクコーナーの鏡に何かメモみたいなものが貼られているのをツバサは発見した。同じように確認した穂乃果は鏡からそれを剥がして内容を見る。

 

「なにこれ? 何かのメモみたいだけど……?」

 

「とりあえず、読んでみてくれますか?」

 

「う、うん……ええっと……」

 

 

 

 

 

 

“私が伝えたいのは本当の言葉”

 

“でもそれは決して伝わることのない言葉”

 

“全部私のせい……あの人が悪いわけじゃない”

 

“なのにあの人は私を庇う……もう耐えられない”

 

 

 

 

 

 

「何でしょう……誰かが書いた日記のように見えますが……」

 

「とても苦しそう。どんな辛いことがあったんだろう…………」

 

 海未がその文章を読み終えたと同時に皆はそんなことを言った。内容から同じ心を表現するものとして共感してしまうものだったので、思わず自分のことのように思えてしまった、

 

「ね、ねえ……これってさ、何か遺書みたいにも見えるよね?」

 

「い、遺書!? な、なななななな何を言ってるんですか? そんなバカなこと……」

 

「もしかして、このメモってあの謎の声が書いたものなんじゃ……それってつまり、あの声は幽霊……」

 

「ちょちょちょっ! そんな怖いこと言わないでよ!」

 

 

 

 

 

「騒がしいわね、こんな所まで来て幼稚園レベルの争い? 全く神経を疑うわ」

 

「別に普段通りだよ。コーハイたちはいつもこうだから」

 

 

 

 

 

 不穏な内容のメモにお化けだ幽霊だと騒いでいると楽屋のドアから誰かの厳しめの声と呆れの声が聞こえてきた。

 

「お、落水さん!?」

 

 誰だろうと思って見てみると、そこには何とかなみを庇ってこの世界に引きずり込まれたはずの落水がいた。だが、驚きはそれだけでない。驚いたのはその隣にいた人物だった。

 

 

「そ、それに……マリーちゃん!?」

 

 

 ショートカットの髪型に青いハンチング帽、白いチェック柄のパンクな衣装に手提げ鞄を肩から下げたその姿は忘れようもない。稲羽のお天気お姉さん【久須見真理子】改め、マリーだった。いきなりの登場に驚く穂乃果たちを他所にマリーはまるで道端で出会ったかのように淡々とこう言った。

 

 

 

 

「やあコーハイ、頑張ってる?」

 

 

 

 

To be continuded Next Scene


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