PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

87 / 131
閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

やっと試験が終わったと思いきやすぐに合宿があって、てんてこ舞いになりながらも更新出来ました。更新を待っていた方々、遅くなって本当にすみません。これからも予定があったりFGOのイベントにどっぷりハマってしまったりすることがあるかもしれませんが、出来るだけ早く更新していこうと思っているので、どうぞよろしくお願いします。(絶対水着の武蔵ちゃんは引きたい)

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#79「sky’s the limit」

 一方その頃、悠たちがマヨナカステージに突入した後の現実では

 

 

「来るなっ! 俺は本気だぞ!!」

 

「お、落ち着け!? その子を離すんだ!」

 

 

 タクラプロのとある楽屋にて、不審者による立てこもり事件が発生していた。不審者は刃物を携帯し自身に近づけさせまいと周囲を威嚇。更に厄介なことに人質をも取られているので現場に駆け付けたスタッフADは手を出せない。その人質というのが……

 

「……あはー☆」

 

 人気アイドルグループ“かなみんキッチン”のセンターであり、久慈川りせの後輩ポジションと世間からも期待されているタクラプロの看板アイドル【真下かなみ】である。どうしてこうなったのか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<タクラプロ 楽屋>

 

 撮影が終わって楽屋で休憩を取っていたかなみは深い溜息をついていた。

 

「ハァ……さっきのって、何だろう。落水さんたち……大丈夫かな……」

 

 それはフォトスタジオで写真集の撮影をしていた時だった。撮影中、突如プラズマのようなものが天井に発生して、リボンのようなものが自分を狙ってきた。それを落水が庇って代わりに拘束されてそのまま中へ。それをちょうど現場を見学していた先輩のりせとその友達らしき人達が一斉に追うように突入していった。今考えてみれば、実際に目にしたこととはいえ非現実的で馬鹿らしいことなのだが、あれが幻であるとはかなみには信じがたかった。

 

「はあ~、結局井上さん、信じてくれなかった……」

 

 当たり前のことなのだがこの話をマネージャーの井上に話しても信じてもらえなかった。しかし、最も奇妙だったのは自分の他にも周りにたくさんのスタッフやカメラマンが一緒にあの現象を見たにも関わらず、誰もそんなプラズマやらリボンなどを見ていないと証言しているのだ。必死にかなみが訴えても誰も真剣に取り合えってくれず、かなみの中でモヤモヤが渦巻いていた。

 

「井上さん……気を利かせてくれたはいいけど…………そう言えば、たまみんたちいないんだなぁ……ツバサちゃんも」

 

 かなみのそんな様子から度重なる仕事で疲れたのだろうと、井上が気を利かせて次にあるはずだった取材をキャンセルしてくれた。最もその取材はかなみんキッチンのメンバー全員で受ける予定だったものなので、改めて昨日までいたたまみやA-RISEのツバサがいないことに憂鬱になってしまった。だが、いつまでもへこたれてはいられないとかなみは無理やりにでも頭を回転させた。

 

「どうしようどうしよう! どうする私!? どうしたらいいんだー! 警察? ダメだ~信じてもらえなーい! 事務所? って、井上さんで既にアウト―! 多分武内さんもダメだー! あ、プロモーターの人……無理! むしろ嫌われてしまうです!」

 

 解決策を練ろうともどれもしっくりこない。井上は丸っきり信じてくれなかったし、警察もついさっき行方不明になったからと言って取り合ってくれないだろう。他に頼れそうな人物も心当たりがないし、まさに万事休す・四面楚歌・敗走というマイナスな言葉がかなみの頭の中を書き廻っていった。

 

「はあ……とりあえず、着替えよ。帰りにゆっくり考えるべし!」

 

 考えても埒が明かないので、頭を切り替えようとかなみは衣装から私服に着替えようと着替えエリアのカーテンを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~、やっぱり私服は最高です~~! この衣装、胸がキツかった~。また太った? いや、ない! 背中、一人じゃ止められなくなっちゃったし、ボタンも飛んじゃいそうだったなあ」

 

 着替えが完了してカーテンを開けるかなみ。先ほどのアイドルらしい華やかな雰囲気が嘘のように一件して普通の地味目の一般人になっている。先日もりせの友達たちに相当驚かれ、中には失神した者もいたが毎度のことなのでかなみ自身は全然気にしてなかった。それよりも気になるのは更に太った……否実った体型のことで……

 

 

「クソっ! どこに行った!?」

「警察電話しろ、警察! てかヤバいぞ! 早く探せ!」

「真田さん! そっちは!?」

「いや、いない。クソ! 俺としたことが……」

 

 

 私服に着替えた感触を味わっていると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。

 

「ほわ? 警察? 何かのロケかな?」

 

 廊下がそんな声で騒がしいと感じていたら、誰かがノックもせずに楽屋のドアから入ってきた。見れば、入ってきた人物はかなり挙動不審な様子で息が荒く、周りをキョロキョロしていた。少なくともかなみには見覚えのない人物だった。

 

「え、と? どなたですか? お部屋……間違えて」

 

「……かなみんはどこだ?」

 

「へっ? いや、かなみんは」

 

「真下かなみだよ! ここの所属の! お前誰だ? 何でここにいんだよ!?」

 

「何でって言われても……その……きゃっ!?」

 

 この人物はおかしいと思った途端、楽屋に侵入した不審者はかなみの腕をグッと掴んで鬼気迫った顔でこちらを見た。見ると、その不審者の手には鋭い刃物が握られていた。それを見たかなみは今自分が置かれた状況を理解して表情が青ざめる。

 

「呪いを解くには、かなみんの血が必要なんだ……! 見ちまったんだよ、あの動画! じゃないと、俺が連れて行かれちまう!!」

 

「呪い!? い、いや……血はまずいです! かなりマズいですって!?」

 

「かなみちゃん!? 無事って……て、かなみちゃん!?」

 

 かなみの元に侵入者が来ていないかと心配で見に来たのか、慌てた様子のスタッフが数名楽屋に入ってきた。それに気づいた不審者はかなみを盾にするようにスタッフたちと対峙する。これは完全にドラマで言う人質を取られた立てこもりの出来上がりだった。

 

「あ、あまり大丈夫じゃないです……あはー☆」

 

 

 

 

 以上が冒頭までの経緯である。

 やっぱりこれは自分がぬぼーっとしてたせいだよなとかなみは呑気に回想に浸っていたが、状況は以前変わりない。

 

「来るなっ! 俺は本気だぞ! 死んだアイドルなんかに殺されてたまるか!!」

 

 未だに不審者はブンブンと刃物を振り回しているし、楽屋にゾロゾロとスタッフやADが集まるものの、誰も手が出せない状況が続いている。このままではいつ最悪のことが起こってもおかしくない。何とかしなければと思っていたその時、事態は急変した。

 

 

 

「困ったな……悠の奴、電話に出んじゃないか」

「私の携帯にも……全く、どういうことかしら?」

「お父さんがちゃんとお兄ちゃんに場所聞かないからだよ」

「あれ? 何か、あそこ騒がしくないですか?」

「本当だ。何かのロケかな?」

「ん?」

 

 

 

 危機的な状況の中、ドアの外を通りかかったらしい親子らしき団体が楽屋に寄ってきた。その中の父親らしい渋めの効いた男性が楽屋の様子を見た途端、事態を把握したのか顔をしかめてゆっくりと楽屋に入ってきた。

 

「と……とにかく、かなみんを連れてこい! じゃないとこの女を」

 

「おい、やめておけ」

 

 渋めの男性は慌てるスタッフたちを押しのけて、臆することなく不審者と対峙した。まるで、それが日常茶飯事のようであるかのように。不審者もそれに気づいたのか、刃物を男性に向ける。

 

「何だお前! ドラマの撮影とかじゃないぞ! ほんとにやるからな! あんな動画に殺されるくらいなら、こっちが先に……!!っ」

 

 そう叫んだ瞬間、不審者の手に衝撃が走り刃物が床に落ちた。その束の間、不審者も気づかぬうちに身体も床に叩きつけられていた。

 

 

「ぐはっ!!」

 

「やめとけっつったろう。こっちは甥と姪のためにわざわざ休み取って来てんだ。こんな事をやらせるんじゃねえよ」

 

「いててててててっ!! ギブギブギブ!!」

 

 

 渋めの男性は武道の達人の如く関節を決めて不審者を拘束するように組み伏せる。電光石火のような逮捕劇に周りにいたスタッフたちは驚きと感嘆の声を上げた。助けられたかなみはというと、呆然としていた。

 

「かなみちゃん!? 大丈夫、って堂島さん!?」

 

 かなみがピンチと聞きつけたのか焦った顔をの井上が遅れて入ってきた。だが、渋めの男性……もとい堂島が不審者を抑えつけているのを見て、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。

 

「ああ、井上か。こっちはもう片付いた。こいつはもう暴れたりしないだろ。なあ?」

 

「………………」

 

 不審者は涙目になりながら勘弁してくださいと言わんばかりに首を何度も縦に振った。あの調子ならもう暴れることもないだろうし、後はここのスタッフADに任せてもいいだろう。

 

「かなみちゃん、大丈夫かい? すまない……僕の不手際で」

 

「い、いえ……それより、あの人は?」

 

「ああ、あの人は堂島さんって言って、鳴上くんの叔父さんだよ」

 

「鳴上さん……? ああっ!! あの鳴上さんのっ!?」

 

 井上から衝撃的な事実に驚いてかなみは思わず周りのスタッフに適切な指示をしている堂島に目を向けてしまった。あの人が、先輩のりせが敬愛する鳴上の叔父。先ほど助けてくれた時の手際とその姿から、かなみはまるでダンディーヒーローを見るかのように目をキラキラさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<マヨナカステージ>

 

~μ‘s 2年生サイド~

 

 これは悠たちがたまみを救出する数十分前の話。悠たちとは別のルートを駆け抜けて数分後、穂乃果たちは目に見えた光景に唖然としていた。

 

「なにこれ? すっごく豪華な感じだよ!?」

 

「まるで貴族の宮殿みたい。何だか……気味が悪いよね」

 

「やはり、この世界も迷い込んだ人の心情風景が反映されるようになっているのでしょうか?」

 

 目の前に広がる中世の宮殿のような豪華絢爛な景色。天井にはシャンデリアが吊るされており、大理石の壁に彩られる数々の装飾が、如何にも貴族が住みそうな雰囲気を醸し出している。この世界を見て、ことりが気味が悪いとコメントするのも無理はない。昨晩この世界に引き込まれた時、あの声が自分たちのステージをとセッティングされたことを思い出すと寒気を感じてしまうのだから当然だろう。

 

「んん~、何だろうなぁ?」

 

「穂乃果、どうしたんですか?」

 

 だが、それよりも気になるのが、悠たちと別れてから何かしかめっ面をしている穂乃果だ。悠たちと別れる直前までは元気に意気込んでいたものとは真逆の表情だったので、海未は気になって声をかけた。

 

「いやね、海未ちゃんとことりちゃんと一緒に行動するのは久しぶりでそれは嬉しいんだけど、なんか悠さんがいないと物足りないなぁと思って」

 

「ああ……」

 

「言われてみれば」

 

 穂乃果の言わんとしていることが何となく分かった。確かに幼馴染の3人で行動するのは久しぶりでそれは嬉しいのだが、やはりこの異世界の事件でいつも引っ張ってくれた悠の存在がないのはどこか寂しく感じてしまったらしい。自分もそう感じていたのか、海未とことりも思わず共感してしまった。

 

「でしょ! 何か、あの悠さんの“穂乃果”っていうのがないとしっくり来ないと言うか……」

 

「そうだね。お兄ちゃんの“ことり、愛してる”がないと元気が」

 

「ことり、捏造はダメです。とはいえ、あんなに悠さんたち無しで行動できるようにならなければとか言っておきながらこの調子ですから……」

 

 ことりの妄言に海未はジト目でツッコミを入れるが、要するに悠がいないと寂しいというのは3人共通の本音なのだ。さっきあれだけ悠たち上級生無しでも行動できるようになると宣言しておいてこれなので少々不甲斐なく思ってしまい、気分が沈んでしまう。

 

「そ、そんな弱気になっちゃダメだよ! 今はこんな調子だけど、これから頑張っていこう! ファイトだよ! 2人とも!」

 

 まずいことを言ってしまったと思った穂乃果は慌てて励まそうと言葉を掛ける。しかし、海未とことりは先ほどの表情とは打って変わって笑みを浮かべていた。

 

「……ふふ、言われなくても分かってます。少し弱気になってしまいましたが、ここからが本番です。悠さんたちに私たちだけでも行動できることを証明しましょう」

 

「そうだよ。夏休みあんなに一生懸命りせちゃんと絵里ちゃんの練習頑張ったんだよ。ことりたちなら絶対大丈夫だよ」

 

「海未ちゃん……ことりちゃん……もう! そう思ってるんだったら早く言ってよ~! 穂乃果のせいで元気なくなっちゃったって思って心配したじゃん!」

 

「いえ、ちょっと穂乃果をからかいたくなったものですから」

 

「そうだよね~。穂乃果ちゃんって昔っからからかい甲斐があるから」

 

「もう! 2人とも!!」

 

 からかわれたと分かって心配して損した気分になったが、何だかいつもの調子が戻ったようで安心した。この調子なら大丈夫と思ったその時、

 

 

 

「フフフ…………元気な子たちね。鬱陶しいくらい」

 

 

 

 空気が重苦しくなり、粘着質な雰囲気が辺りを支配した瞬間あの声が聞こえた。いつの間にと思いつつ、穂乃果たちは警戒を強める。

 

「ようこそ、綺羅ツバサのマヨナカステージへ」

 

「出た!? この声……どこから聞こえてるの!?」

 

「穂乃果、落ち着きなさい。それよりも、先ほど“綺羅ツバサのマヨナカステージ”と言いましたよね? ということは、この先にA-RISEの綺羅さんがいるのですか?」

 

「フフ、そうだよ? 開演までもうすぐ……あの子は皆の望むツバサになって、このマヨナカステージで永遠に輝き続けるの」

 

 愉快そうに笑って語る謎の声に寒気を感じる。だが、それに負けじと海未は声を上げて抗議した。

 

「ふざけないで下さい!! 勝手に誘拐しておいて何ですか!! 昨日も言いましたが、あなたがしていることなんて、言わば洗脳と変わらないんですよ!」

 

「そうだよ! こんなの……人を縛り付けているみたいで可哀想だよ!!」

 

「洗脳? 本当に何を言ってるの? これは皆が繋がるためにやってることだよ。洗脳なんて言ってるのはあなたたちだけ。誰だって傷つくのは嫌なのに、何で分かってくれないの?」

 

 海未に続いてことりも抗議の声を上げたが、謎の声は取り合わずただただ自身の論理を展開する。ダメだ、この声に話しが通じないと穂乃果は直感した。しかし、自分たちがこれだけ言っても何故そう言い切れるのだろう? こんなのは、間違っているはずなのに。

 

 

「フフフ、これを見ても可哀そうだなんて言えるかしら?」

 

 

ー!!ー

 

 

 それは突然だった。さっきまで開いていた道は塞がれ、代わりに黒い靄が辺りに流れ出し、それがまるでゼリーのようにシャドウになった。昨日も目にしたあの薄く見悪いリボンに繋がれたシャドウたちだ。

 

「しまった!? いつの間に……」

 

「フフフ……こんなにも繋がりたいって子たちがいるのよ。だから、私たちと繋がりましょう?」

 

「うっ……この歌は……」

 

 昨日と同じ聞いているだけで寒気がする不気味な歌。それが音量を上げてシャドウたちが踊り出すと、穂乃果たちの意思に反して身体から力が抜けて抵抗する気力を奪い去っていく。一瞬でも気を抜いたらすぐさま取り込まれてしまいそうだ。

 

「う、海未ちゃん! ことりちゃん! 気をしっかり持って!! あの声はこれが正しいとか言ってるけど、絶対違うよ!! こんなのは絆じゃないってこと……私たちがしっかり伝えなくちゃ!!」

 

 せめて意識だけは失う訳にはいかないと穂乃果は大きな声で2人に呼びかける。そうだ、どれだけ言われようとこんなことは間違っている。絆とはこんな分かってもらえないからと1人が多数に強制させるものではなく、例え傷つけあっても分かりあうものであるとこれまで悠と関わってきた数々の出来事で自分たちは学んだ。それをあの声に伝えなくては。

 

「……当たり前です。こんなことは間違ってます……それを、私が教えてあげましょう!」

 

「海未ちゃん! もう踊るの!?」

 

 歯を食い縛って立ち上がる海未を見て、穂乃果とことりは正直驚いていた。シャドウとはいえ、こんな人前で踊ることに積極的ではなかった海未が自ら率先してやろうとは思わなかったからだ。

 

「正直人前に出るのは今でも恥ずかしいですよ。でも、勇気を出して自分を見せることがこんなにも素晴らしいことなんだということを穂乃果たちに教えてもらいました。今度は私が、それを伝える番です!」

 

 海未の言葉とその真摯な瞳から確固たる意志を感じる。この変化も今別ルートにいる誰かさんに影響されたのだろう。

 

『穂乃果ちゃん! 海未ちゃん! ことりちゃん! 大丈夫? 今、そっちからシャドウ反応が』

 

 海未の決意表明が終わったと同時にりせから通信が入った。どうやらシャドウ反応を探知して心配で通信してきたらしい。だが、これは今の海未にとってはいいタイミングだ。

 

「りせ! さっそくですが、私の課題曲をかけて下さい! このシャドウたちに一発私のダンスをお見舞いしてやります!」

 

『えっ!? 海未ちゃんの……って、この【sky’s the limit】だったよね? よーし、準備OK! 海未ちゃんの大和撫子な魅力を存分に披露して!』

 

「はい! 行きます!! μジック スタートです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────う、海未ちゃん…すごいっ!!

 

 

 冒頭のしっとりとしたピアノの和音が鳴り響いた途端、海未の世界が広がった。日本舞踊のしなやかな仕草と古風な気品が直に伝わってきて、いつの間にか海未特有の和の世界に引き込まれていた。あんなに自分を出すことに消極的だった海未が夏休みの練習を乗り越えたとはいえ、ここまで成長していたことに驚いてしまった。

 

 

 

────これも……悠さんの影響かな? 

 

 

 

 

 察するにあの夏の練習だけでなく、悠との出会いが海未に大きな影響を与えたのだろう。そう思った穂乃果はどこか羨ましそうな視線をステージの海未に送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

「行きます! 【ポリュムニア】!!」

 

 ダンスがフィニッシュを迎えた海未は顕現したタロットカードを砕いてペルソナ【ポリュムニア】を召喚。その手に持っているのはいつもの弓矢ではなく、銀色に輝くフルートだ。そして、ポリュムニアがフルートに口を当てた瞬間、更なる美しい世界が辺りを支配した。

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

 海未のダンスとポリュムニアの美しいフルートの音色に歓喜を上げたシャドウたちは身体が光に包まれて宙に浮き、溶けていくように霧散していった。昨日も見た光景とはいえ、この世のものとは思えない素敵な景色に思わず感嘆してしまった。

 

「わあっ! キレイっ!! これ写真コンテストに出したら絶対金賞取れるよ!」

 

「確かに! それにしても海未ちゃん凄かったよ~! 更に腕を上げたね!」

 

「い、いえ……自分ではまだまだと思ってますが、シャドウに伝わって良かったです。やはり、気持ちが伝わるって嬉しいですね」

 

 穂乃果たちにそう言いながら消えゆくシャドウたちが織り成す幻想的な光景を見て満悦な笑顔を浮かべる海未。どうやら本人的にも満足のいくダンスが出来たようだ。その証拠に宙に消えゆくシャドウたちも心なしか楽しかったと言うように良い表情で笑っているように見えた。すると、

 

「そう言えば気になってたんだけどさ、ここのシャドウって何でダンスで消えるんだろう?」

 

「はっ?」

 

 何か引っかかったのか、宙に溶けて消えていくシャドウをジッと見て穂乃果はふとそう呟いた。

 

「だって、今までシャドウってペルソナで倒すって感じだったじゃん。ここが戦闘できないルールでそれが通じないのは分かるんだけど、何でダンスなんだろうって」

 

「それはりせも言ってましたが、この世界は感情が伝わりやすい環境でダンスで気持ちが伝わったからではないですか?」

 

「うーん……そうだけど、何でそんなことが出来るのかっていうのが引っかかってて」

 

 なるほど、穂乃果にしては珍しい的を得た疑問だ。この疑問に海未とことりも頭を捻らせていると、ことりが何か思いついたように口を開いた。

 

「それって、ここのシャドウは人の感情を持ってるってことじゃないかな?」

 

「えっ?」

 

「お兄ちゃんから聞いた話だけど、シャドウって人間の抑圧された願望と欲望から生み出される存在なんだって。だから、もしかしたらこの世界のシャドウは人の感情を持てる性質があるんじゃないかな? じゃなきゃ、ダンスで思いを伝わるってことは出来ないし」

 

「人の感情を持つシャドウ……? その仮説なら確かに説明はつきますが……そんなことってあるんですか?」

 

「う~ん………分かんない」

 

 シャドウが生物的にどのようなものかは詳しくは分からないが、今まで戦いからペルソナをもつ人間を襲う生物という認識だった。それが人の感情を持っているということであれば、ダンスで気持ちが伝わるのは納得だ。しかし、何故ここのシャドウが人の感情を持っているのかと言われれば、そこまでだ。

 

「とりあえず進もうよ。分からないことは多分進めば分かると思うし」

 

 考えてもしょうがないので、一旦シャドウのことは置いて先へ進むことにした。とにかく今はこの先にいるであろう綺羅ツバサを救出しにいかなくては。開かれた扉の先へと3人は走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<現実世界 タクラプロ 楽屋>

 

「あ、あなたが鳴上さんの叔父さんなのですか!? てっきり、どこかのジョースターさんか海軍大将かと思っちゃいました!?」

 

「どこかのジョースターって……俺はどう見ても日本人だろ。そもそも海軍じゃなくて刑事なんだが……まあ、悠のことを知っているなら話は早い。俺は堂島遼太郎。こっちは娘の菜々子だ。アンタは?」

 

「は、初めてまして!! 真下かなみと言います!! 先ほどは助けていただき、ありがとうございました!!」

 

 立てこもりをした不審者はスタッフADたちに拘束され、数分後に駆け付けた警察に連行されました。事態が収束した後、井上が事情報告のため呼び出されたので、かなみはしばらく堂島という男性たちと一緒にいることになった。

 

「真下? どこかで聞いたことなる名前だな。まあそれはともかく菜々子、挨拶しろ」

 

「え、ええっと……堂島菜々子です。もしかして、お姉ちゃん……かなみん?」

 

「わあ、菜々子ちゃん可愛いです~。はい。そのかなみんです……って、えええ!! かなみんを知っててくれたのですか!」

 

「やっぱり、かなみんだ! お父さん! 本物のかなみんだよ!」

 

 堂島の娘である菜々子が自分を知っててくれたことに感激するかなみ。菜々子も憧れていたアイドルが目の前にいると分かってとても嬉しそうだ。

 

「かなみん……? ああそういや去年稲羽署の一日署長が中止になった事があったな。って、ことはアレか、アンタはタレントとかそういうやつなのか」

 

「あい! 一応アイドルです! 稲羽署は……どうでしたっけ? ごめんなさい、あんまり覚えてないですけど……」

 

 思わず羽の生える青猫みたいなことを言ってしまったが、確かに去年稲羽という町で一日署長をやってほしいというオファーはあったのを覚えている。だが、それは確かあちらが急な事件で受け入れ態勢ができなくなったということで中止になったとか。

 

「まあ、アンタも災難だったな」

 

「本当ですね。でも、何事もなくてよかったです。堂島さん、お疲れ様でした」

 

「お父さん、カッコよかったよ!」

 

「はい! 流石刑事さんですね!」

 

「逮捕劇って初めて生で見たー! 鳴上さんの叔父さんカッコいい~♡」

 

「あ、ああ…………本当はこんな目に遭いたくはなかったんだがなぁ。都会ってんのはこうも物騒なのか?」

 

 堂島は娘たちから先ほどの称賛を浴びて少し照れ臭そうにしながらもやれやれと言わんばかりにため息をついた。自分たちからして凄いことをしたのに、本人は別に気にしてない素振りに感銘を受けて増々かなみの中で堂島のダンディーヒーロー感が増していった。中には誰かに姿が似たのか、かなりメロメロにぴょんぴょん跳ねている女子中学生もいるが。

 

「そう言えば堂島さん、この人たちは? もしかして、堂島さんの奥さんと娘さんですか?」

 

「ああ? 違うぞ。こっちは南雛乃、あいつの叔母だ。それと、この子たちは雪穂と亜里沙と言って、確か悠の後輩の妹さんだったか? 雛乃が俺たちを迎えに行くついでに、一緒に悠たちの練習を見学するつもりだったらしい」

 

「は……はあ……」

 

 なるほどとかなみは思わず呟くが、正直情報量が多すぎて頭にあまり入ってこない。だが、これだけはハッキリ覚えている。この堂島は“刑事”であると。それに、鳴上の叔父ということならば、自分の話を聞いてくれるかもしれない。

 井上や周りのスタッフたちが去って静けさを取り戻したこの楽屋には自分と堂島、そして雛乃や菜々子たちしかいない。これはかなみにとっては悠や落水のことを話す絶好のチャンスだ。そう確信したかなみはここしかないと言わんばかりに意を決して堂島の目を見て話を切り出した。

 

「あああ、あの!? 堂島さんは刑事さんなのですよね? 変なお話をさせてもらっていいですか!?」

 

「お、おいおい……急に大声を出すな」

 

「ああ! そ、その……すみません……」

 

「まあ落ち着け。井上か帰ってくるまでは話は聞いてやる。それで、どんな内容だ?」

 

 話を聞くようになってくれた堂島にかなみは内心安堵した。すると、何故か雛乃は席を外して楽屋の外に出た。何か気遣ってくれたのかは分からないが、話を聞いてくれることで舞い上がったかなみはそれを気にせず、自分の目の前で起こったあのとんでもない事態を詳しく、一生懸命説明を始めた。

 

 信じてもらえるかどうかは分からない。誰が聞いてもおかしな話だとかなみは分かっていた。でも、これが今自分が出来る精一杯のことだと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 しかし、この時かなみは知らなかった。この堂島と菜々子、雛乃たちとの出会いがこれから起こる事件の引き金を引くことになることを。

 

 

 

 

 

 

To be continuded Next Scene


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。