PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

最近息抜きでプレイしているゲームは【サクラ大戦1~4】と【MetalGEARSOLID PW】。自分はどうやら少し昔のゲームにハマる傾向にあるようです。秋に発売予定のP5Rも楽しみですが、冬に発売予定の新サクラ大戦も楽しみです。

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

暑くなってきた上に、考えることが多くなって大変な日々が続いていますが、これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!






#74「Mayonaka Stage.」

<レッスンスタジオ>

 

 

そ……そんな……まさか……あの人が…………真下かなみなんて……

 

に……にこは……ゆ、夢を……見ているのかしら……夢なら……さ……め……て……

 

 

 レッスンスタジオはもうカオス化している。先ほどのりせから放たれた衝撃告白に、にこと花陽が失神寸前で危うく病院に運び込まれそうになったのだ。それもそのはず、先ほど目の前でぼおっと事の様子を眺めている地味な少女の正体がずっと敬愛してきたアイドル【真下かなみ】であると判明したのだから、無理もないだろう。

 

「あ~あ、やっぱりこうなっちゃった……言わなきゃよかったかな……」

 

「まあ、いずれ知ることになったと思うから良かったんじゃないか?」

 

「まあ、そうだね。かなみって普段はいっつもこうなの。オドオドしてるし、な~んか冴えないし、お仕事している時とは全然イメージ違うんだよね」

 

「いやいや、変わりすぎでしょ! 完全に別人ですよ!?」

 

「そうだよ! 変装しなくても絶対気づかないよ!」

 

「よく言われます、あは~☆」

 

 どうやら本人はまるっきり自覚がないらしい。穂乃果たちはともかく、去年の稲羽での事件から数々の人の秘密を目の当たりにしてきた悠もこれには流石に驚きを隠せなかった。とりあえず、あっちは絵里と希たちに任せてこっちはりせの話を聞いてみることにした。

 

「りせ、何か大変なことがあったんじゃないか?」

 

「あ……そうなの! 井上さんは捕まらなかったけど、周りのスタッフさんや他の子から変な話聞いちゃって……」

 

「変な話?」

 

「うん……かなみは何か知ってる? ともえたちがいなくなっちゃったって話」

 

「!!……それは」

 

 りせの言葉に騒がしかった周りが水を打ったかのように静かになり、代わりにシリアスな雰囲気が辺りを包んだ。それほどまでに、りせから告げられた内容が衝撃的だったからだ。聞かれたかなみは心当たりがあるのか、りせの言葉に顔を曇らせている。

 すると、かなみんキッチンのメンバーがいなくなったと聞いたせいか、先ほど倒れていた花陽とにこが目をクワッと見開いて起き上がった。

 

「いなくなった!?」

 

「たまみさんやともえさんたちですか!?」

 

「そうなの! 何か携帯に電話しても連絡取れないとかで。事務所やこの近所を探しても見当たらないから、井上さんたちがその事で走り回ってるみたい。落水さんがあんなこと言いだしたのも、きっとそれのせいだよ!」

 

 詳しい話を聞いた穂乃果たちに緊張が走る。状況を瞬時に把握した直斗が顎に手を当てて推察を開始した。

 

「なるほど……フェス当日まで彼女たちと連絡が取れなければ、イベントに穴が空いてしまう。だからこそ落水さんは先ほど、久慈川さんとかなみさんのデュオを持ち掛けたんですね」

 

「でも、こ……たまみさんたちとは昼間会ったばかりじゃないか。少し連絡が取れないくらいでそんなことするか?」

 

「お兄ちゃん? 今ことりとたまみさんを間違えなかった?」

 

「い、いや……それは……」

 

「……すると思います。落水さんなので」

 

 あまりの事態に混乱していると、かなみがふとそう呟いた。やはり、かなみには心当たりがあるらしい。

 

「かなみさん、それは一体?」

 

「私、知ってるんです。さっき落水さんからその話を聞きましたから。それで、“お前がいればどうとでもなる”って、言ってました……」

 

 暗くそう語ったかなみの言葉に皆は唖然としてしまった。落水がかなみに放ったであろうその言葉はあの人物なら言いかねないほど冷酷で無慈悲、仲間を大切にする悠たちにとって容認できないものだったからだ。

 

「どうとでもなるって……あなたのグループのメンバーじゃない! 何か事件に巻き込まれたらどうするの!?」

 

 この言葉を聞いた絵里は流石に堪忍袋の緒が切れたのか、鬼のような形相で激昂した。

 

「う……分からないけど、"()()()()()()()()()()()()()()()"って」

 

「そんな……私たちを何だと思ってるのよ! アイドルは、替えのきくの道具じゃない!!」

 

「そうですよ! もし誰かに誘拐されてたらどうするんですか!? 騒ぎになってからじゃ遅いかもしれないんですよ!!」

 

「い、いや……その………うううううううう…怖いです~」

 

 絵里に厳しめに諭され、りせと海未の凄まじい剣幕に圧されてしまったかなみは震えて黙り込んでしまった。

 

「ふ、2人とも、落ち着いて下さい。もし本当に行方不明なら、いくらでも打つ手はあります。まずはイベントの主催者側に掛け合って、警察に捜索願を出してもらいましょう。僕の方から掛け合っておきます」

 

「うん。いざとなったら、お母さんの知り合いの弁護士さんにも掛け合ってみる!」

 

「よし! じゃあ、早速行動を」

 

 もしかしたら、かなみんキッチンのメンバーが誘拐されたかもしれない。そう考えて居ても立っても居られなくなった彼女たちは一斉に行動を開始しようとする。夏休み前に自分たちのリーダーを失いかけた事件もあってか、その行動は迅速で無駄がない。しかし、

 

 

「待った」

 

 

 そんな彼女たちを悠は一声で制止した。突然止めに入った悠に皆は意外そうな視線を向けた。確かに、りせの怒りや直斗の言うことは最もだ。それに、4人の行方が分からないという事件めいた話なので、穂乃果たちがそういうことになるのも分かる。だが、その前に確認しないといけないことがある。

 

「みんな、落ち着け。とりあえず状況を整理するぞ」

 

「せ、整理?」

 

 悠は皆にそう言うと、縮こまったかなみに駆け寄って優しく声を掛けた。

 

「かなみさん、絵里たちが怖がらせてすみません。最近似たようなことがあったから、ちょっと熱くなってしまったんだ」

 

「あっ……は、はい! だ、大丈夫です………あ、絢瀬さんたちもそういつまりじゃなかったのは……分かってますから………」

 

「早速だけど、ともえさんたちと連絡が取れなくなったのはいつですか?」

 

「あへ? えっと……そんなに前じゃなかったと思います。私も、落水さんからその話を聞いたのがついさっきなので」

 

 なるほど、それさえ聞ければ十分だ。かなみの話を聞いてそう頷いた悠は再びりせたちの方を向いてこう言った。

 

「さっきも言ったけど、俺たちもかなみんキッチンのメンバーとは昼間に会ったばかりだ。今警察に行ったとしても、まともに話を聞いてくれるとは思えない。それに、もし本当に何もなかった場合、彼女たちに迷惑がかかるんじゃないか?」

 

「「「あっ……」」」

 

 悠の話を聞いて、思わぬ見落としをしていたことに気づいた穂乃果たちは納得した表情を浮かべた。

 

「そっか、そうだよね……私、去年の事件の時、井上さんにずっと迷惑かけてたし。今思えば、あの時警察に届けを出されてたら、もっと問題になってたかも……」

 

「わ、私も久しぶりのお休みの時に次の日まで寝ちゃった時、事務所さんが先方に謝って風邪ってことにしてくれたです。いや~もう寝すぎちゃって頭痛かった~☆」

 

「いや、それはレベルが違い過ぎるでしょ……でも、悠の言う通りかもね」

 

 酷なことを言うようだが、まだ一日も経っていない状況で届けを出しても警察は動いてくれない。逆に届けが受理されて捜索が始まったとしても、マスコミに嗅ぎ付けられたりしたら、話が誇張されて更なる騒ぎになるだろう。最悪、主催者側が責任を追及されて絆フェスが中止になるかもしれない事態に発展するかもしれない。

 

「では、こうしましょう。明日、かなみんキッチンの皆さんとまだ連絡が取れない場合、僕たちで主催者側に彼女たちの安否確認をお願いする。それでも動いてくれない場合は、僕たちが責任を持って、直に警察に届け出を」

 

「いいと思う。それに、明日になれば陽介たちも来るし、叔父さんも一緒だ。いざとなったら、桐条さんもいる」

 

「そっか! もし警察がダメでも、堂島さんや桐条さんなら話を聞いて動いてくれるかもしれないって事か。さっすがセンパイ! あったまいい!」

 

 そう、悠が直斗の提案を肯定したのはりせが言った通りである。

 悠の叔父である堂島遼太郎は凄腕のベテラン刑事だ。わざわざ悠たちが出る絆フェスに合わせて休暇を取ってくれたらしいが、この手の話に最も効果的なアドバイスをくれるだろう。更に、堂島が力になれなかった場合の保険として、シャドウワーカーの美鶴もいる。正直美鶴の力を借りるのは気が引けるが、状況が状況だった場合はしょうがない。

 

「さすが悠さん!」

 

「やっぱりお兄ちゃんは最強だね!」

 

「流石はウチの旦那さんやなあ」

 

「違うでしょ!?」

 

「いつから悠はアンタの旦那になったのよ!」

 

「それを言うなら一世(プリーモ)だにゃ」

 

「それも違うよ、凛ちゃん」

 

 この状況を対処するのに最適な提案をした悠にりせと穂乃果たちは嬉しそうにそう称賛した。成り行きを見守っていた海未たちもうんうんと頷きながら悠の提案を肯定する。誰か不穏なことを宣っていたが、こういうやり取りをしていると、仲間との絆を感じる。これまで色んな災難を乗り越えてきたからこそ、そういう風に感じるのではないかと悠は思った。

 

 

「ほわあ……皆さん、仲良しだぁ。いいなぁ」

 

 

 そんな悠たちの様子を眺めていたかなみは羨ましそうに目を細めていた。どうやら、かなみんキッチンのメンバーもそうであったように、かなみ自身も悠たちが仲良さそうに接しているのが新鮮であるらしい。

 

「ほら! ぼーっとしない! かなみも協力してもらうんだからね!」

 

「ほえ? ええ!! 私も入れてくれるんですか!?」

 

「入れるの何も……あなたは、ともえさんたちが心配で落水さんを探していたんですよね? だったら、最初から僕らと目的は同じなのでは?」

 

「ああ、だけど無理強いはしない。かなみさんがどうしたいかできめるといいよ」

 

「…………」

 

 悠たちの言葉を受けて、かなみは目を閉じて思考に入った。すると、決心したように目をゆっくりと開いて宣言する。

 

「私も……皆さんと一緒です! たまみんやともちんたちが心配ですので!」

 

「だったらもう、きみも俺たちの仲間だ」

 

「よろしくね、かなみさん!」

 

「ぐむむむ……むあーい! 私、皆さんの仲間でーす!」

 

 悠たちに仲間だと認定されて嬉しいのか、かなみは飛び上がって悠と穂乃果の手を取って満悦な笑みを出していた。その笑顔はステージでの"真下かなみ"のもの。容姿が180度変わろうと、アイドルとしての才能は本物だった。

 

「な、なんというか……悠と穂乃果はいつも流れるように人と仲良くなるわよね」

 

「それがあの2人の良いところなんやない?」

 

 毎度のことながらあの2人は初対面の人物であろうともすぐに仲良くなる。こういうコミュニケーション能力が我らがリーダーたちの特技であり、一種のカリスマ性なのかもしれない。

 

「じゃあ、明日、花村先輩たちが来たら、もう一回集合だね。あ、かなみはお仕事でしょ? 何かあったら、私からメール入れておくから」

 

「了解です!」

 

「っていうか、かなみ。何でも人が言ってくれるのを待ってたらダメだよ。アイドルなんだから、どんどん前にでなきゃ。花陽ちゃんや海未ちゃんにも言えるけど、内気で可愛いとか言われるのは、最初だけだなんだからね」

 

「「「はい……すみません……」」」

 

「き、厳しい世界ですね……」

 

 これにかなみだけでなく、そんな節がある海未と花陽も何故か一緒に謝ってしまった。流石は現役アイドルからのお言葉は身に染みるらしい。

 

「よし、時間も遅いし、今日はこれで解散しよう」

 

 とりあえず今後の方針は決まった。もう日が暮れて辺りが真っ暗になっているので早く帰った方が良い。かなみは明日も仕事があるというので仮眠室へ、りせたちは汗を拭いて着替えるというので、悠は別の部屋で帰り支度をするためスタジオを出る。すると、

 

 

「あっ! 鳴上さん、見~つけた♪」

 

「失礼します(ダッ!)」

 

「あっ、待ってよ~! 鳴上さーん!」

 

 

 ドアを開けた先でバッタリ日菜に出会ってしまった。何かされる前に悠は全力疾走でその場から逃げ出した。そして、今度こそ逃がすものかとあちらの負けじと追いかける。スタジオでりせと穂乃果たちが楽しく談笑しながら着替えている中、事務所内では悠と日菜による追いかけっこが繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……な、何とか……撒いたな……」

 

 途中何度も捕まりそうになったが、何とか日菜を振り切った。出会いがしらに逃走してしまって申し訳ないが、本能が危ないと言っているので仕方がない。さて、自分も帰り支度をしなければと思って近くの更衣室に入ろうとすると、

 

 

「んっ……?」

 

 

 更衣室からガサゴソと着崩れする音がした気がする。嫌な予感がした悠はそっと更衣室のドアに耳を澄ませた。

 

 

「ふう……リハーサルとはいえ、疲れるわね」

「友希菜、すっごく汗かいてるね。紗夜も」

「これくらい当然です」

「わあ! りんりんの下着すっごく可愛いねぇ!」

「あ、あこちゃんっ!?」

 

 

「……………………」

 

 

 嫌な予感は的中。この更衣室には着替え中の女子たちがいる。こんなところに間違ってでも入ってしまったら、もう自分たちのステージがなくなるどころの話ではない。即刻この場は立ち去らなければならないだろう。しかし、

 

「………………(何だ!? か、身体が勝手に……更衣室に)」

 

 誰の差し金なのか、悠の身体が更衣室へ突入しようとする。何故こうなったのかは分からないが、このままではまずい。身体がいう事を聞かず、いざ更衣室のドアに手を掛けたその時、

 

「あっ! 鳴上さん、ここにいた~♪」

 

「やばい!」

 

 幸か不幸かドアを開けようとしたタイミングで追跡していた日菜に見つかった。日菜の姿を確認した悠はドアから手を放して一目散に逃走する。何だか嬉しいような悲しいような気分になりながらも悠は振り切ろうとペースを速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? また会ったわね」

 

「……君は?」

 

 またも日菜の追跡から逃れて空いている更衣室を探している悠に見覚えのある少女が話しかけてきた。この少女は確か昼間にベンチで寝ていた時に話しかけてくれた子だったと思うが、改めてこの子は一体何者だろうか。それに、その少女の後ろに控えている子たちもどこかで見たことがあるのだが。

 すると、悠がそう思っているのを察したのか、少女は笑みを浮かべてお辞儀した。

 

「ふふ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。改めて初めまして、スクールアイドル"A-RISE"のリーダーをやっている【綺羅(きら)ツバサ】よ」

 

「えっ?……君が?」

 

 綺羅ツバサと名乗ったので悠は少し驚いた。まさかと思ったが、この子が世にスクールアイドルブームを生み出しかつ夏のラブライブで優勝を果たしたあの"A-RISE"のリーダー、綺羅ツバサ。ということは、後ろに控えている他の2人はもしかして。

 

「こんにちは、ツバサと同じA-RISEの【優木(ゆうき)あんじゅ】だよ」

 

「【統堂(とうどう)英玲奈(えれな)】よ。よろしく」

 

「は、はあ……鳴上悠です。一応スクールアイドル"μ‘s"のマネージャーをやってます」

 

 まさか、ここであのスクールアイドルA-RISEのメンバーとも遭遇するとは思いにもよらなかった。彼女たちのことはネットや動画で見たことがないし、前からファンであったにこからも多少のことは聞いていたが、やはり直で会ってみるとオーラが違う。

 英玲奈はロングヘアでスラッとした長身で左目下の泣きぼくろがチャームポイントの美少女。あんじゅは髪はウェーブがかった茶髪のロングヘアで、3人の中では最もスタイルが良いほんわかとした雰囲気を持っている。その2人をまとめているリーダーのツバサはまさに童顔ながら王者というに相応しいカリスマ性を感じる。まさに優勝すべきして優勝したと言っても過言ではないと悠は思った。

 

「へえ~、貴方が鳴上さんなんだ。ツバサが言ってた通り、カッコイイ人ね。音ノ木坂学院のオープンキャンパスとかで見た通りだよ~」

 

「そうね。やっぱりオーラが違うわ」

 

「は、はあ……ありがとうございます」

 

 自己紹介を終えるや否や、あんじゅと英玲奈は悠と同じような感想を言いながらジロジロと悠を観察し始めた。何と言うか、仮にも人気スクールアイドルの美少女たちにそうまじまじと見られると気恥ずかしくなる。こんなところをことりや希たちに知られたら、怒られそうだが。

 すると、ツバサがあんじゅと英玲奈の間から割って入り、悠に顔を近づけてこう言った。

 

「昼間は氷川さんが乱入して話し損ねたけど、実はあなたにお願いしたいことが……」

 

 

「あっ! 鳴上さん、発見~! お姉ちゃん、ここに居たよ~!」

 

 

「さらばだ! (ダッ!)」

 

「ちょっ! またぁ!?」

 

 またも日菜に見つかった。日菜の接近を素早く察知した悠はその場から脱兎の如く退避した。またもツバサの話を聞き損ねてしまったが、今は逃げるのが重要だ。

 しかし、このままでは埒が明かないと判断した悠は何かないかと辺りを隈なく見渡す。すると、近くの倉庫からこの状況を脱するのに最適な道具を発見した。

 

 

(これなら……行ける!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<レッスンスタジオ>

 

 

「せ、センパイ……どうしたの? さっきより汗かいてる気がするんだけど…………」

 

「それに、そのダンボールは何よ? ラブダンボールって書いてるけど」

 

「……そっとしておいてくれ……」

 

 何とか空いている更衣室に逃げ込んで帰宅準備を終らせてから、今度こそ日菜に見つからないようにと段ボールに隠れて移動しながらスタジオに帰ってきた自分をほめてあげたい。

 しかし、一度やってみたかったからと言ってダンボールに隠れながら移動するのは如何なものかと思ったが、やってみれば意外といけるもので何とか日菜の追跡から免れた。やはりボスの言う通り、ダンボールは万能だ。今度怪盗をやっている後輩にオススメしてみよう。

 

「ところで……何の話をしてたんだ?」

 

「ああ、実は悠がいない間に落水さんの話で盛り上がっちゃって……」

 

「落水さん?」

 

「そうなの! あの人ね……!」

 

 りせの話によると、どうやら落水は毎度何も知らせずに本番でいきなり無理難題をさせるなどの演出で出演者を売りに出すプロデュースを得意としているらしい。そんなプロデュースのお陰でファンから"悪徳プロデューサー"と呼ばれているものの、数々のアイドルやタレントをヒットさせているので、実力は本物だとも言われている。

 りせも以前に落水のプロデュースで酷い目に遭ったことがあるらしく、今回のかなみんキッチンのメンバーの失踪も、もしかしたら落水の仕掛けではないかと考察したらしい。

 

「ま、まあ……いくら落水さんでもそこまでしないよ……多分……」

 

「そ、そうよね……」

 

 先ほど出会った時の態度を見たら一瞬そうなのではと思ってしまうが、どうなのだろうか。すると、何か考え込んでいた直斗は意を決したように口を開いた。

 

「鳴上先輩、今回のともえさんたちの件、もしかしたらあの噂に関係あるんじゃないですか?」

 

「………そうかもな」

 

「妙な噂?それって、どういうこと?」

 

 何か今回の件について心当たりがあるのか、直斗の言葉に悠は頷いていた。何も知らない穂乃果たちがポカンとしているのを見て、直斗と悠は顔を見合わせて

 

「ええ、最近巷でこんな噂が流れているんです。"午前0時に絆フェスのサイトを見ると、見たこともない動画が流れる。その動画では死んだはずのアイドルが躍っていて、動画を最後まで見たものは向こう側へ連れ去られて、二度と目が覚めない"というもので」

 

「ちょ、ちょっと直斗くん! いきなり何言いだしてんの!?」

 

「ななな、何よ! 死んだアイドルって!」

 

 いきなり怪談じみたことを話す直斗にこの手の話を苦手をしているりせたちがそう慌てだす。

 

「すみません……怖がらせようとしたわけではないんです。も、もちろん“死んだはずのアイドル”なんて話、僕は信じませんよ! 絶対!!」

 

「「「………………」」」」

 

「ヴヴんッ! 僕がこの話をしたのはそういう事を言いたかったわけではないですから」

 

「じゃあ、どういうこと?」

 

「…………似ていると思いませんか? 僕たちや穂乃果さんたちが経験した……“あの事件”に」

 

 "あの事件"という言葉を受けて、穂乃果たちはハッとなった。

 "雨の日の午前0時、消えているテレビを見ると、そこに運命の相手が映し出される"【マヨナカテレビ】。そして、"午前0時頃に何も写ってないテレビの画面を見つめると、次の日に行方が分からなくなる"【音ノ木坂学院の神隠し】。確かに直斗の指摘通り、その噂は自分たちがこれまで関わってきた事件の鍵となった噂と似ている……否、似すぎている。

 

「もしかして……」

 

「ええ、実際に被害者が出てるんです。事実として、東京都を中心に何人もの人が()()()()()()()()()()らしいです」

 

「えっ? 昏睡状態!? そんな……」

 

「そう言えば、クラスの人が1人入院したって聞いたけど、まさか……」

 

 直斗から告げられた事実に皆は驚愕した。まさか絆フェスに向けて練習に励んでいる間、そんなことが起こっているだなんて思いもしなかったからだ。似たような噂が流れているだけでなく、実際に被害者が出ているとなると落ち着いてはいられない。

 

「それって……偶然なの? てか、悠は知ってたの?」

 

「…………ああ。それで俺はこの間の練習の時、直斗とシャドウワーカーに行ってきたんだ。黙っていてすまない」

 

「そ、そうか。それで……」

 

 数日前に悠が突然シャドウワーカーにお邪魔すると言いだした時は何の用事かと思ったが、合点がいった。また自分たちに何も言わずに直斗と勝手に調査していたことに関しては少々腹が立ったが、まだ確証がない段階で変に自分たちを不安にさせたくなかったからだろう。

 

「この件は美鶴さんたちも知っていましたが、まだ調査中で被害者と噂との間に因果関係は証明されていないそうです。噂の方が後から発生した可能性もありますしね」

 

「そうなんだ……美鶴さんたちでも、まだ分かってないんだ」

 

 直斗の話を聞いた穂乃果はチラッと壁の時計の方を見た。時刻は午後9時30分。まだ噂の時間には早い。

 

「じゃあさ、今日試してみる?」

 

「えっ!?」

 

「言われると思ったよ。一応俺も何回か試してみたけど、何も起こらなかった。でも、今日はもしかしたら」

 

「ええ。これがともえさんたちの失踪に関係しているかは不明ですが、一応確認しておいた方がいいでしょう」

 

「じゃあ、各自で確認してみましょうか」

 

 穂乃果の提案でマヨナカテレビに似た噂を試してみることになった。直斗や悠の言う通り、もしこの噂があの事件の延長で、失踪したかなみんキッチンのメンバーがこれに関わっているとなったら、放ってはおけない。

 しかし、これに怪談みたいなことが苦手なりせが抗議の声を上げた。

 

「ええっ!? マジでやんなきゃいけないの………センパ~イ♡怖いから~今日センパイの家に泊まってい~い?」

 

「えっ?…」

 

「ダメだよ!! お兄ちゃんの家はことりの家!! りせちゃんなんか上がらせないもん!」

 

 ことりは断固拒否するようにりせの前に立ちはだかって威嚇する。りせも負けじと必死に睨み返す。またそんなりせに思わぬ仲介が入ってきた。

 

「でも、もう夜も遅いし、りせちゃんの家ってここからじゃ遠いんでしょ? 井上さんも忙しくて送れないみたいだし、一泊くらいちょうどいいんじゃないかしら?」

 

「ちょっ! 絵里ちゃん!?」

 

「さっすが絵里センパイ! 分かってる~♪」

 

 絵里という思わぬ味方がついたりせは虎の威を借りる狐のように調子に乗り出す。しかし、すかさずもう一人の天敵がりせに立ちはだかった。

 

「でも、それやったらウチも悠くんの家に泊まってええ?ここからじゃウチの家も遠いし、何よりウチが悠くんに手を出そうとするりせちゃんの抑止力になれるんちゃう?」

 

「アンタも何言ってんのよ!! アンタが一番手を出しそうじゃない!!」

 

「そうですよ! こうなったら悠さんを守るために私も泊まります!」

 

「花陽!? アンタも!?」

 

「じゃあ……私も」

 

「ええっ!? じゃあ、にこも!」

 

 またしてもカオス。りせを皮切りに自分が悠の家に泊まると一歩も譲らない乙女たち。堂々巡りでこの光景を見ていると抑止力なんて幻想なのではと思ってしまう。また喧嘩が始まったと呆れ気味に絵里はため息をついた。

 

「ねえ……悠、どうするの?」

 

「えっ? 俺?」

 

「こうなったら貴方に決めてもらうのが一番でしょ。で、改めてどうするの?」

 

 絵里の言葉に一同の視線が悠に集中する。何故自分が決めなければならないのか。これじゃあどこの雑用係みたいじゃないかと思いながら、悠は頭をフル回転させて、最適だと思う判断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家 リビング>

 

「悠くん、これはどういうこと? 何でりせちゃんと直斗くん、東條さんが家に来ているのかしら?」

 

「い、いや……その……」

 

「よ、夜遅くなっちゃったし……センパイとことりちゃんの家が近かったからで……」

 

「す、すみません……理事長……」

 

「押しかける形になってしまって」

 

 結局、南家にはりせと希、直斗がやってきた。この3人以外のメンバーも最初は文句を言っていたが、全員は流石に入りきれないし、ご両親も心配している方もいらっしゃるだろうからと【言霊遣い】級の伝達力で説得して丁重にお帰り願った。

 

「………………まあ、絆フェス前だし色々事情があるんでしょう。さあ、冷めないうちに食べなさい。明日も練習なんでしょう」

 

「「「あ、ありがとうございます!」」」

 

 雛乃は少し訝しんだものの、快くりせと直斗、希の来訪を受け入れてくれて作っていたであろう温かい手料理でもてなしてくれた。気を遣わせてしまった風で申し訳なかったが、何も聞かずに3人の泊りを許可してくれたこと雛乃に悠は心から感謝した。

 だがその後、りせとことり、希の3人がどこで寝るかで言い争いを始めてしまった時に、怖い笑顔で言いくるめた時は恐怖を覚えたが、そっとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜も更けて時刻は午後11時55分。午前零時を指す頃合いとなった時間に、皆は南家の居間に集まった。雛乃はこの時間は部屋で仕事をしているはずなので、何が起こっても気づかないだろう。

 

「いよいよですね」

 

「ああ……」

 

「ほ、本当に見るの!? 見なきゃ……だめ?」

 

「まあ」

 

 これがかなみんキッチンの失踪と関係あるかが定かではないが、音ノ木坂の神隠し事件のこともあるし、別の事件が起きているのであれば確認しておかなければならないだろう。仮に噂が本当で向こう側に連れて行かれたとしても、こっちはナビペルソナ所持者が2人いるし、戦闘力が高い直斗やことりもいる。自分以外はもう覚悟を決めたような表情をしていたので、りせは諦めたように項垂れながらもヤケクソ気味に意を決した。

 

「ああもうっ! 分かったわよ! はい、センパイはこっち! 直斗くんはこっち! 希センパイはこっちでことりちゃんはこっち! 何が起こってもぜ──ーったい逃げないこと!! いい!?」

 

「完全に俺たちがりせを包囲してるみたいになってるな」

 

「自分から逃げ道塞いでる辺り、清々しいなぁ」

 

「も、もう!……えっと……愛、ミーツ、絆……と。あ、出た、絆フェスのサイト」

 

 りせの指が携帯をなぞり、画面に絆フェスのサイトが映し出される。楽曲の情報、チケットの案内、出演者のコーナー……以前情報をチェックした時より項目や内容が増えているが、サイト自体に変化はない様に見える。

 

「特に……妙な点は見当たりませんね」

 

「ほら、何にも映りないでしょ? そんな噂、絶対に嘘だよ」

 

 何もなかったのを良いことにそう捲し立てるりせだが、残念ながらまだ時計は午後11時59分。出来たらこのまま何も起こらないことを祈るしかない。

 

 

 そして、時刻は午前零時を指した。その時、

 

 

「ちょっ! 何これ!!」

 

「「!!っ」」

 

 

 りせの声で携帯に目を戻すと、そこには先ほど微塵も感じられなかった異変が映し出されていた。

 

 

 

 

 画面いっぱいのノイズの嵐、時折走る不気味な光。その中で複数の影が揺れ動いている。

 

 

 

 

「確かに……人影が映ってますね。これ、踊っているように見えませんか?」

 

 

 

 確かに直斗の言う通り、人影は何かダンスを踊っているように見える。その背景にちらほら見えるバックダンサーらしき少女たちが見えるのもその証拠だ。そして、そんな奇妙な映像が数分続き、最後に中心の人影がこちらを覗き込むような姿勢を取った場面で映像が消えた。

 

 

 

「終わりましたね……」

 

 

 不気味な映像が流れたものの、携帯の画面に引き込まれたり何かが出てきたりすることはなかった。

 

 

「こ、こんなのただのイタズラよ! 運営側に確認してやるだから! あ、それか落水さんのプロモーションよ。また変な噂流して、かなみたちのことを売ろうとして」

 

 

 

 

「フフ…………」

 

 

 

 

「…………!! っ」

 

 その時、悠の耳が小さな違和感を捉えた。集中して音を聞き分けてその原因を探る。そして、その違和感は直斗やことりも感じていたようだ。

 

「今……何か聞こえませんでした?」

 

「…お兄ちゃん、もしかして」

 

「ああ、俺にも聞こえた」

 

「嘘……まさか、本当に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフフフフフ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!ッ」」」」

 

 

 

 視線を向けた先に、南家のリビングにある大画面のテレビから不気味な光が映る。それはイナズマを伴う雲のように、また舞台上に焚かれるスモックのように、ゆらりとした光に照らされて、まるで異界への門が開かれたような禍々しさを放っていた。

 

 

 

「来て、久慈川りせ……あなたのための場所を用意したから……」

 

 

 

「だ、誰よ!? 何で私の…………っ、きゃああああああ!!」

 

 

 その時、テレビから黄色いリボンのようなものがりせの身体に巻き付き、りせをテレビの中へ引きずり込もうとした。

 

「りせ!!」

 

 りせを引き留めようと、悠はりせの手を取って必死に抵抗する。しかし、リボンの引く力が悠の腕力を凌駕しており、悠も危うく引きずり込まれそうになる。その時、

 

 

 

「フフフ、貴方もいらっしゃい。その他のお友達も一緒にね」

 

 

 

「何!?」

 

「「きゃあああああっ!!」」

 

「うわあああああああっ!!」

 

 

 不気味な声はそう言うと、また空間から同じ黄色いリボンが現れて悠を拘束する。更に、その魔の手は直斗たちにも及んでしまった。抵抗する間もなくテレビに展開された禍々しい異空間に引きずり込まれてしまった。

 悠はあの噂は本当だったのかと思い知らされた直後、引きずり込まれて謎の光が自分たちを包みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、そろそろ寝室に……あら?居間の電気がついてる。悠くんたち、まだ起きているのかしら?」

 

 

 仕事が一段落して自室を出た雛乃はまだ居間の電気がついていることに気づいた。おそらくまだ悠たちが起きているのだろうと察した雛乃はそろそろ寝る時間だと注意しに行くことにした。

 

 

「悠くん、まだ起きてるの?そろそろ……………って、誰もいない。どこに行ったのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




<???>




















「センパイ……悠センパイ……………」
「お兄ちゃん…起きて…………お兄ちゃん……」
「悠くん……悠くん……………」




















 暗闇の中から自分を呼ぶ声がする。ゆっくりと目を開けると、こちらを覗き込んで必死に呼びかけているりせとことり、希の姿があった。すぐそばには直斗の姿もある。

「ああ、みんな無事か?」

「無事か、じゃないよ!私たちは大丈夫だったけど、センパイだけ中々起きないんだもん!」

「そうだよ!お兄ちゃんはいっつもそうだよ!いい加減心配することりたちの気持ちも考えてよね!!」

「す…すまない………それで、やっぱりここは?」

「ええ…………どうやらここは噂でいう"向こう側"の世界のようですね」

「さっき試してみたけど、この世界でもペルソナは召喚できるようやね」

 辺りは真っ暗で近くにいるりせたち以外何も見えないが、どうやらここが噂で言う向こう側の世界らしい。身体の調子を確かめてみると、いつものテレビの世界のように霧は立ち込めてないようだが、希の言う通りペルソナは召喚できる環境ではあるようだ。



「フフフフフ………」



 刹那、不気味な笑い声が悠たちの耳に入ってきた。この声は先ほど自分たちをこの世界に引きずり込んだ時に聞こえたもの。瞬時に臨戦態勢を取る悠たちを嘲笑うかのように声の主は話し続けた。







「ようこそ、久慈川りせ。私たちの"マヨナカステージ"へ」







To be continuded next Scene.

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