PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
新生活が始まって早々ピンチなことが続出しました。多すぎるレポートに今年も集まらない新入生………しかし!そんな辛い出来事を吹き飛ばすかのように【P5R】の最新情報が来た!!イエ―――イ!!
相変わらずワクワクするBGMに"芳澤"というP5初めて?の後輩キャラ、P4Gのような追加要素がありありで興奮が止まりません!もしかしたら、そのうち調子に乗ってP5R発売記念番外編なんか書いてしまうかもしれない………その時はよろしくお願いします。
そして、今話で去年の冬から始まったこの夏休み編も最終回です。前回も言った通り、令和が始まる5月中旬辺りに次章をスタートさせたいと思っています。あとがきの方で次章の予告編を載せていますので、よろしくお願いします。
改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・高評価と評価を付けて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
新生活も始まって執筆にあまり時間が取れなくなりつつありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、平成が終わって令和が始まっても応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
花火大会当日
<稲葉商店街>
ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ
「おおっ!すげぇ人だかりだな!」
「去年より人が多いな」
「商店街全体を祭りに使うなんて、思いつきましたね」
スイカ割りから数日後、夏最後の思い出にと夏祭りを兼ねた花火大会にやってきた。浴衣に着替えるため遅れて来る女子たちに先駆けて陽介たちと共に祭り会場に着いたわけだが、去年よりも多い人だかりとその規模に仰天してしまった。
聞くところによると、今年の夏祭りは神社だけでなく商店街全体を屋台エリアとしたらしい。それ故か、人の多さに比例して色んな屋台が道沿いに陳列していた。屋台にはたこ焼き・綿あめ・リンゴ飴など定番のものやトルコアイスなどあまり見ないものやビフテキ串・肉丼などと稲羽ならではのものも勢ぞろいだった。
「クマ~今年は美味しそうなものがいっぱいでワクワクするクマ~☆」
「食べ過ぎんなよ…。まあ屋台も楽しみだけどさ、やっぱ楽しみなのは女子たちの浴衣だろ!なぁ?」
「確かに」
そう、祭りの醍醐味と言えば"浴衣"である。夏祭りや花火大会に女子が着るのが定番となっている日本伝統の着物。去年見た限り特捜隊女子陣はかなりレベルが高かったし、それに今年は穂乃果たちμ‘s組もいる。きっと雪子や雛乃が着付けを手伝ってくれているだろうから、陽介がワクワクするのも分からなくはない。ちなみに悠はことりと菜々子の浴衣をここぞとばかりに楽しみにしてる。
「いや~花陽ちゃんや希ちゃんもだけどよ、俺的にはやっぱり海未ちゃんとか凛ちゃんとかが楽しみだなぁ」
「はっ?なんでっすか?」
陽介の言ったことの意味が分からなかったのか、完二は首を傾げてそう聞き返した。確か陽介のタイプは花陽のような大人し目でかつ胸の大きい子だったはずなのだが。
「ほら、浴衣みたいな着物はさ、胸の大小関係なく綺麗に見えるっていうだろ?そしたら、里中とか海未ちゃん、凛ちゃんとか矢澤みたいなぺったんこでも相当レベル高いって思うんだよなあ。まあぺったんこは言い過ぎか。りせちーのレモンくらいはあるんじゃ」
喜々と着物について語る陽介。だが、悠と完二はそれと同時に冷や汗を掻いていた。何故なら
「「「「……………………………」」」」
(陽介!後ろ後ろっ!)
(花村先輩っ!後ろ向けっ!花村先輩いいいいっ!!)
ハイライトの消えた目で無表情に陽介を見つめる女子陣ぺったんこ組がいたからだ。そんなことは露知らず陽介はアクセル全開で着物談を続ける。
「そういやこの間知り合いから聞いたんだけどさ、サラシ巻いてどうにかできるのはDカップまでらしいぜ。絵里ちゃんとか希ちゃんとかマリーちゃんとか直斗とかはそれ以上あるだろうから、あいつらがサラシ巻いて着物着たらもうビシバシだろビシバシ。お前もそう思うだろ、完二?」
「い、いや……それは……」
「「「「「「……………………………」」」」」」
そんなこと言えるはずがない。何故なら、ぺったんこ組に加えてそのビシバシ組も殺気が籠った目で陽介を睨みつけているのだから。何とか今の状況を伝えようともあの女性陣の殺気が怖すぎて言葉が発せない。
「いやいやヨースケ~、そう考えたらホノちゃんやマキちゃん、ユキちゃんたちがちょうどいいサイズだから更にグッとくるクマよ~。こんなんクマよ、こんな」
「だよなあ~あはははっ!!」
「「「「…………………………」」」」
((ブレーキ踏め!2人ともおおおおおっ!!))
穂乃果たちも加わって膨れ上がる殺気。あまりの強大さに周りの人達も慄き始めている。中には怖すぎて腰を抜かしている人もいた。そして、裁きの時は来る。
「うふふふ……よーすけくんもクマくんも……お可愛いなあ♪」
「「!!っ」」
希の低い声でようやく気付いたのか、青ざめながら後ろを振り返った2人。事態に気づいてその場から撤退を試みたが、行動が遅く既に海未たちに両腕を拘束されていた。
「さあ、ワシワシタイムの始まりや♪」
少しして、希たちのお仕置きを受けてきた陽介とクマが戻ってきた。というか、運ばれてきた。彼女たちのお仕置きが相当なものだったのか、意気消沈している。何か"死にたいので帰りたい"などとブツブツ言っているような気がするが、そっとしておこう。
「全く困ったものですね。クマさんはともかく陽介さんは」
「こんなんだからガッカリ王子って言われるのよ。顔はちょっと良いのに残念ね」
「是非もないよね。まあ、そこの変態2人はほっといて……ねえセンパイ、どう?この浴衣姿。グッときた?」
倒れこむ陽介とクマを無視して、りせは見せつけるように悠にそう尋ねた。先ほどのイザコザで気づかなかったが、特捜隊&μ‘sの女性陣は皆色とりどりの浴衣に身を包んでいた。色だけでなく、柄の花も牡丹や椿など各々のイメージに似合っていた。これはもう胸の大小関係なく、
「みんな、綺麗だ」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。それを聞いた女性陣は皆驚いて赤面してしまったが、悠に浴衣姿を褒められて嬉しいのか、すぐに笑顔になった。
「ところで悠くん、この中で一番可愛いと思ったんは誰?」
「菜々子とことりだ」
問答無用。希の質問に悩むことなくそう答えた悠に女性陣はやっぱりかと落胆しながらもそう思った。流石は鋼のシスコン番長の名は伊達ではない。それはともかく、悠に褒められた菜々子とことりもとても満更でもない感じだったようだ。
「まあ、悠はそう言うと思ったわ。それで、完二くんはどう?」
「お、俺っすか!?」
「そうよ。完二くんも将来誰かとデートとかするんだったら、褒め方くらい学んでおかないと損するわよ。悠の真似でも良いから、何か言ってみなさい」
「え…え~と……その……」
不意に絵里からそんな質問を振られてしどろもどろになる完二。だが、視線は直斗の方にチラチラと向いている。やはりこの男は嘘を付けないようだ。それを見透かしたりせとにこはニヤニヤしながら完二を茶化しにかかった。
「あははっ!完二照れてる~」
「何よ~、そんなにこのにこちゃんの浴衣姿に見惚れちゃったの~?」
「いやいや、完二くんが見惚れてたのは直斗く」
「だああああっ!ち、ちがっ!!俺は…その……」
「巽くん、僕の浴衣に何か問題が…?」
「も、問題なんてねえよ!すごく……そ、その……き、綺麗っつーか……」
「えっ?」
「な、何でもねえ!」
「????」
あと少しだったのに、照れが勝って美味しいところを逃してしまった完二。直斗は訳が分からずキョトンとしていたので、どこかもどかしい。女子たちはそう思っていたが、悠は相変わらずの後輩たちのそんな様子を微笑ましそうに見ていた。
さて、そんなイザコザもあったが、まだ花火大会まで時間はある。それまではこの夏祭りで色々な屋台を回って時間を潰そうという形になった。大人数で固まって動くのもあれなので、時間まで各自で自由に屋台を回ろうということになり、悠は菜々子とことりと一緒に屋台を見物していた。
「わあ~見てみてお兄ちゃん、かめすくいだって!」
「菜々子もやってみるか?」
「うんっ!やるー!」
「お兄ちゃん!ことりも一緒にやりたい!」
「いいぞ」
可愛い従妹たちと色んな屋台を回って幸せな時間を満喫する。最近練習に勉強で自分で追い込んで疲れていたので、菜々子とことりの楽しそうな笑顔を見るだけで癒される。しばらくカメすくいや射的、型抜きなどで従妹たちとの幸せな時間を過ごして、少し一人でぶらついていると、
「悠」
「マリー?」
突如、どこからかマリーが何か手に持ってこちらにやってきた。よくよく見ていると、マリーの浴衣姿なんて初めて見たのに気づいた悠は思わずマジマジと見てしまう。やはりスタイルが良いせいか、牡丹の花が刺繍されている群青色の浴衣がよく似合っている。それに、浴衣みたいな着物は背筋をまっすぐにする効果があると言われる通り、背筋が真っすぐなマリーはモデルと勘違いされてもおかしくないほどの気品を匂わせていた。
「さっき、そこの屋台でビフテキ串があったから買ってきた。食べ切れないから一緒に食べて」
マリーはそう言うと、手に持っていたビフテキ串をグイッと悠の口元に差し出した。これはもしや"あーんして"という意思表示だろうか。そんなことを考えてジッとしていると、中々反応しない悠にマリーがムスッとして更にビフテキ串を突きだしてくる。これは早く貰った方が良いと判断して、悠は一口ビフテキを食した。
「うん、美味しいな」
一口貰って咀嚼すると、悠はそうコメントした。相変わらず筋張っていて噛み切るのが大変だが、それがクセになって病みつきになってしまう。そこから溢れ出す肉汁が口いっぱいに広がって味覚を刺激する。
「そう……」
悠にあーん出来て嬉しかったのか、マリーは照れ臭そうに身体をモジモジさせて頬を赤らめていた。祭りならではの雰囲気と言うべきか、マリーのその姿がとても可愛らしく見えて、悠は思わず見惚れてしまった。すると、
「悠く~ん!」
まるでこの時を待っていたかのようなタイミングで希もやってきた。振り返って希の姿を見た悠は思わず息を呑んでしまった。先ほどのイザコザのせいであまり見れてなかったが、希も希でスタイルが良いので紫色の浴衣がよく似合っている。それもあるが、何よりいつもお下げにしている髪を一つに上げてまとめているので、いつもより色っぽく見えてどこかぼおっとしてしまった。
「悠くん、あっちにたこ焼きが売ってあったんやけど、ウチ一人じゃ食べ切れないから一緒に食べよう♪」
希は微笑んでそう言うと、爪楊枝で一つたこ焼きを差して悠の口元に運んだ。希もかと思いながら悠は口を上げて希にたこ焼きを咀嚼した。
「うまっ!」
このたこ焼きも中々だった。柔らかい生地に噛み応えのあるタコ、そしてソースの絶妙な味わいが口に広がって美味である。何と言うか、これも祭りの雰囲気なのかはたまた希にあーんしてもらったからなのか、たこ焼きが更に美味しく感じて思わず頬が緩んでしまった。
「悠、とっても幸せそう」
「うふふふ、美味しいものは人を幸せにするからなあ。マリーちゃんも一緒に食べる?あそこのたこ焼き絶品やで」
「……うん。フシギキョニュウもビフテキ串食べる?こっちも美味しいよ」
悠の幸せそうな表情を見て満足したのか、希とマリーは互いのモノを取り換えっこしていた。何か以前から仲が良いような感じだが、一体この2人に何があったのだろうか?
「ゆ、悠さん……」
また後ろから肩をちょんちょんと叩かれたので振り返ってみると、そこにはどこかモジモジとしている海未がいた。海未もマリーと希と同じく手に何か持っているようだが、悠はそれよりも海未の浴衣に注目していた。何と言うか、先ほど陽介が言っていた通りではないが、浴衣姿の海未は大和撫子な雰囲気が相まって一段と綺麗に見える。そんな海未の姿に悠は思わず"中の人、結婚おめでとう"と言いそうになったのをグッと堪えた。
「その……このお好み焼き……私が食べるには大き過ぎるので、一緒に食べてくれませんか?」
「えっ?」
そして、この後もこのようなイベントが悠に相次いで降りかかってきた。
「おーい!悠、焼きそば食べようぜ!」
「鳴上くん、リンゴ飴あるよ。食べる?」
「お好み焼きもあるよ」
「先輩!この焼きもろこし旨いっすよ!」
「せ~んぱーい!チョコバナナ一緒に食べよう~♡」
「悠さん!この綿あめ大きいから穂乃果と一緒に食べよう!」
「悠さーん!一緒に食べましょう!焼きおにぎり特盛!」
「こっちの焼き鳥も美味しいにゃ~!」
「悠さん…その……この冷やしトマトを一緒に……」
「悠!かき氷持ってきたわよ」
「悠、ここにトルコアイスってものがあったんだけど、一緒に食べましょう」
このように仲間たちがどんどん屋台の食べ物を持ってきて一緒にと誘ってくる。人の誘いを断れない悠はそれらを全部受けてしまった結果……
「げふ……」
食べ過ぎによる腹痛を起こしてしまった。愛屋特製の雨の日のスペシャル肉丼をも完食できる悠の胃袋でもあの量は堪えたようだ。今は腹痛で済んでいるが、これ以上腹に何か入れれば危険だ。最悪その場でキラキラを出してしまうという主人公にあるまじき行為をしでかすかもしれない。一刻も早くここを離れなければと商店街から出ようとしたその時、
「「お兄ちゃん!」」
遠くから愛しの菜々子とことりの声が聞こえてきた。まさかと思いつつ、悠は恐る恐る振り返って2人を見た。
「「お兄ちゃん、これ一緒に食べよう!」」
そして、悠の目に可愛らしい表情でを大きなケバブを手に持った菜々子とことりの姿が映った。その後、一体彼がどう行動を起こしてどうなったのかはご想像にお任せしよう。
「おう、ここに居たのか………って、何やってんだ?」
署での仕事を一早く終えて、指定された集合場所にやってきた堂島が目にしたのは、ベンチで雛乃に膝枕してもらっている悠の姿。表情はどこか辛そうで手をお腹に当てているのが見える。
「食べ過ぎですよ。悠くん、みんなが持ってきたものを全部食べちゃったから」
「全く、相変わらずだな。こいつも」
事の顛末を聞いた堂島はやれやれと溜息をついた。去年と少し変わったものと思ったが、全く変わっていない。こういう頼みを断れないのも、誰かのために無理をしてしまうのも母親や父親譲りだ。
それにしても、その悠を膝枕している雛乃の浴衣姿も様になっていた。堂島の目から見てもやはり綺麗だった。だが、その姿が堂島にはどうしても事故で亡くなった妻に重なってしまう。まだ自分はあの事件を引きずっているのかと堂島は思わず溜息をついてしまった。
「あ、あの……」
すると、背後から誰かに声を掛けられた。誰だろうと思い振り返ってみると、そこに見覚えのある男性がいた。その男性を見て堂島は少し驚いていた。何故なら……
「ああ、アンタだったか。生田目」
「はい、お久しぶりです」
彼の名は【生田目太郎】。元稲羽市議会議員秘書であり去年稲羽で起こった連続怪奇殺人事件の容疑者だった男だ。それに堂島だけでなく悠たち特捜隊メンバーとも因縁のある。あの事件に関してこの男は嫌疑不十分で釈放され、堂島のところに謝罪しに来て以来会っていなかったが、今更何の用だろうか。
「あら?あなたは………もしかして、悠くんに何か御用ですか?」
「えっ?」
「先日、ジュネスで悠くんたちのライブ会場でもお見受けしましたよね?その前も時々悠くんたちが練習しているところを見に来られていたので、何か御用があるのではないかと思って」
突然スラスラとそんなことを言われた生田目は目を見開いていた。どうやらこの男はこの夏の間ずっと悠たちのことを見ていたらしい。また、そのことも雛乃は気付いたようだった。
「……はい、その通りです。私は彼らにお礼を言いに来たのです」
「お礼、ですか?」
「私は……昨年、大きな過ちを犯してしまいました。私の自分勝手な思い込みで…大切な人を死なせてしまい、彼らや堂島さん……他にもたくさんの人達に辛い思いをさせてしまいました。私は…彼らに裁かれても文句は言えない罪人なんです」
懺悔するように言葉を紡ぐ生田目に雛乃は頭が追い付かなかった。おそらくこの男が言っているのは去年堂島が担当して、菜々子や悠たちを巻き込んだという連続怪奇殺人事件のことだろう。その時、菜々子が誘拐されて命の危険に晒されたと堂島から聞いたことはあるが、まさかこの生田目という男がその犯人だったのだろうか。にわかに信じられないことだが、あの悔いるような表情と堂島の苦々しい顔を見る限りそれは事実であると物語っている。
「……自分が正義だと信じてた行動が、実は過ちだった。1人の判断力なんてたかが知れてるんです。しかし、私にそのことを気づかせてくれたのが、彼……彼らだったんです」
「えっ?……」
「彼らは警察さえ信じてくれなかった私の話を真剣に聞いてくれました。そして、あの事件の犯人を探し当てて真実を見つけてくれた。私はそんな彼らの姿に感銘を受けて思ったんです。私も彼らのように皆で手を取り合って、この町の将来を考えたい。目先のものに惑わされずに大事なものを守っていける、そんな稲羽市を目指したいと」
暗い雰囲気から一変して演説するかのように熱くそう語る生田目の瞳から何一つ曇りもない真意が伝わってくる。おそらくこの男は根っからの善人なのだろう。そうでなければ、こんな真摯な気持ちがストレートに伝わってくる訳がない。だが、善人だからこそ去年の事件が起きてしまったかもしれない。
「この夏、彼がこの町に帰ってきた時、私は是非ともお礼を言いたいと思いました。私がこう考えて行動しようと思ったのは彼らのお陰ですから。しかし……」
だが、その話題を口にした途端、生田目の表情に曇りが再び生じた。
「私は、まだ過去のことを引きずっているのか、彼に声を掛けることが出来なかった。どんな事情があったとしても、私が彼に酷いことをしてしまったのは……変えられない事実なんです。私は……まだ彼らに許されていないと思っている。だから……」
「私はそうは思いませんよ」
思い悩む生田目の言葉を遮って、全てを察したかのように雛乃はそう言葉を掛けた。その表情はいつもの親としてのものではなく、本職の教育者としてのものになっている。思わぬ言葉に呆ける生田目を他所に、雛乃は言葉を続けた。
「貴方が何をして、堂島さんと悠くんたちに何をしてしまったのは聞きません。でも、私からすれば、貴方は十分悠くんたちにお礼を言える資格があると思いますよ。だって…………
「……………………」
「だから、そんなに自分を卑下しないで下さい。将来の議員さんがそんな顔してたら、この街は不安になってしまいますよ」
真っすぐな目で生田目を見据えてそう言った雛乃の姿を見た堂島は一瞬そこで寝ている悠と被った気がした。生田目も同じことを思ったのか雛乃の言葉に呆然とした後、目に涙を浮かべていた。
「……………ありがとうございます。私はこれからこの町が活気に溢れる素晴らしい街になるよう努める所存です。例え議員に選ばれなかったとしても、何らかの形でこの街に貢献するつもりです。そのためにも、私は…彼らに顔向け出来るように前を向いて歩きたい。あなた方と話せてよかった。本当にありがとうございました」
生田目はそう言って雛乃と堂島に何度も頭を下げると再度ありがとうと礼を言って、その場を去っていった。先ほどの気重たい雰囲気を纏っていた生田目の後ろ姿はどこか希望に満ちているように見える。その要因を作った雛乃を見て堂島は思わず苦笑してしまった。
「…やっぱりアンタも悠の家族だな」
「何か言いました?」
「いや、何も………………………」
「あっ!堂島さん!!ここでタバコ吸うのは止めて下さい!悠くんが居るんですよ!!」
「くっ………」
そして、こういうお節介なところも似てる。一体誰に似たのやらと思いながらもタバコを没収された堂島であった。
「おおっ!今年もここ空いてんなぁ」
「本当っすね。流石天城先輩っす」
やってきたのはとある高台。雪子だけが知っていた花火が良く見える秘密のスポットだった。河原の方は人が多くごった返していたが、ここはそれに対して人気がなく静かだった。これは花火を見るのには絶好の場所と言っていいだろう。
「こんな場所があったんですね。去年は事件のことで頭いっぱいだったので、気が付きませんでした」
「まあまあ、でも今年は直斗くんだけじゃなくて穂乃果ちゃんや絵里センパイたちもいるし、去年より大所帯だよね。楽しくなりそう!」
去年は直斗を除く特捜隊メンバーと菜々子と堂島と見たものだが、今年は直斗に加えて穂乃果たちμ‘sや雛乃もいる。りせの言う通り、今年は随分と賑やかなものとなりそうだ。
「あれ?そう言えばクマくんは?さっきから姿が見えないんだけど」
「ああ、アイツならさっき女の子にナンパしまくってたぜ。挙句、柏木に誤爆してお持ち帰りされた」
「はあっ!?またなの!?本当懲りないなぁ……それに柏木って」
「クマ……生きて帰ってこい」
どうやらまたクマは災難に遭っているらしい。去年はあの大谷花子に誤爆してえらい目に遭ったが、今年はよりによってあの柏木女史に引っかかるとは。呆れを越して憐れと思った陽介たちはクマの無事を祈って合掌した。
「ええっと…柏木って、あの陽介くんたちの担任の先生だったわよね。それって……」
「ああ、あの人かぁ」
GWに八十神高校で一度柏木に出会っている絵里と希は柏木女史がどのような人物なのかを思い出したのか、表情が気まずそうになる。穂乃果たちは面識はないものの今の絵里と希の表情を見てどういう人物かを察したのか、思わず一緒に合掌してしまった。まあクマの女癖の悪さは今に始まったことではないので、ここでまた痛い目に遭ってもらった方が良いだろう。
その後、柏木から何とか逃げ切ったクマが帰還してきたと同時に花火大会開始のアナウンスが聞こえた。
ドーン!
その日、稲羽の空に大きな花が咲いた。その花はあっという間に消えてしまったが、一瞬の輝きとその美しさに見たものは心を奪われた。
ドーン!ドーン!
そして、それに呼応するように次々と空に花が咲き乱れる。夏の夜空に打ち上げられた数多くの花火はただ美しく、ただ儚く散っていく。しかし、その繰り返される営みに人は思わず興奮してしまうくらいの衝撃を与えた。
ドーン!ドーン!ドーン!
「た~まや~!」
「く~まや~!」
「「「く~まや~!」」」
「ちょっ!それ違うから!!」
そんな賑やかな仲間たちの会話をBGMにまだ花火は夜空に咲き誇る。その日の夜空の光景は悠のみならず、その場にいる全員の記憶に深く残った。
「いや~すごかったなあ、今年も花火」
「そうですねえ。東京じゃ中々見れないものもあって、最高でした」
「また見たいなぁ」
花火大会が終了して、眠たくなった菜々子を連れて堂島と雛乃が帰った後、最後の締めにと陽介がジュネスから持ってきた線香花火で盛り上がっていた。花火大会の後に線香花火をやるというのは如何なものかと思ったが、何だか夏の締めに相応しい雰囲気になってきたので気にしないでおこう。
「知ってた?線香花火に願い事して最後まで火が落ちなかったらその願いが叶うんだって」
「ああ、それこの間テレビで……あっ!?」
「「「「あっ…」」」」
「お、終わった……俺の線香花火……まだ願い事してないのに」
「最速だったな」
通常通りのアンラッキーをかまして泣き崩れる陽介。やるとは思っていたが、線香花火が始まって早々になるとは予想外だ。まあ、この男らしいと言えばこの男らしい。
項垂れる陽介を他所に深々と線香花火を眺めていると、ふと完二がこんなことを言いだした。
「いや~…こう線香花火を見ているとしんみりするっすよねえ」
「おお?いつものポエム属性発動?」
「ちげえよ。何と言うかその、夏もそろそろ終わるなぁって思って」
「ああ……」
花火が終わった余韻に浸って忘れていたが、完二の言葉で一気に現実に戻ってしまった。
「それを言わんでおくれよ……」
「受験勉強も佳境に入るし、絆フェスもあるし」
思えばあと数日かそこらで夏休みが終わってしまう。そして、学校が始まったすぐ後には絆フェスも控えている。今後襲い掛かってくるハードスケジュールに思わず気分が沈んでしまった。
「でも、また皆とこうして一緒に花火見たいよね。他にも海行ったりカラオケ行ったりスイカ割りしたりしてさ」
線香花火のように沈んでいく雰囲気の中、穂乃果はふとそう言った。
「来年悠さんたちは卒業しちゃってもう学校にはいないけど、永遠の別れって訳じゃないからさ。また来年ここに集まろうよ!まだ皆でしたいこと、いっぱいあるし」
「……………そうですね。私もまた来年この街に来たいです。今年は結局うやむやになって100km行軍できませんでしたし」
「海未ちゃん、それはやらないよ」
「なっ!?」
「海未ちゃんはよくても俺らが死ぬからな」
「なあっ!!」
穂乃果と海未のそのやり取りに皆は思わず笑みをこぼしてしまった。そして、穂乃果の言葉に同調して悠は皆の方を見てこう言った。
「そうだな。また来年ここに集まろう。ここは、俺たちの集合場所だ」
どんな困難が待ち構えていたとしても、あの皆で過ごした日々を思い出せば、きっと乗り越えられる。今までの自分がそうだったように、これからもずっとそうでありたい。ここで過ごした日々の記憶はかけがえのない大切なものなのだから。
「はは、流石相棒。相変わらず良いこと言うな」
「当然だ」
「そうだ!今年の冬もまたみんなでスキーに行くか!?今度は雛乃さんにバス運転してもらって遠めのゲレンデに行ってみるとか」
「いや、もう冬の話ってどんだけ気が早いんすか。てか花村先輩、アンタ受験生っすよね?」
「その時期はもう遊んでる時間なんてないわよ」
「あっ…そうだった」
「それに図々しいんやない?理事長にバス運転してもらうって」
「じゃあ穂乃果たちだけでどこか温泉にでも行こうかな。もちろん、完二くんとりせちゃん、直斗くんとクマくんも一緒だよ」
「ええっ!穂乃果ちゃんと完二くんたちだけズルいよ!私も行きたい!」
「だから雪子、あたしたちは受験生……」
「どんだけ遊びたいんすか…」
陽介の言葉を皮切りに話を広げる仲間たち。そんないつも通りにはしゃぐ仲間たちを見て、悠はまた微笑ましそうに見つめた。
もうすぐ夏が終わる。高校時代最後の夏が終わる。今思い返せば今年も楽しい夏休みだった。去年より一緒に過ごす仲間たちが多くて、それに比例して楽しいこともいっぱいあった。突然りせが芸能界に復帰する"絆フェス"に参加することになったり、ジュネスのライブに出たりと大変なこともあったが、思い出に残る夏休みだった。だから、未だ灯り続けている手元の線香花火にこう願おう。
(また来年も仲間たちと一緒に夏を過ごせますように……)
そんな願いと共に、悠の線香花火が最後に消えていった。
一方、東京では……
「ふふふ、いよいよね。復帰した久慈川りせ、そして前から目を付けてたμ‘s。貴方たちの実力をとくと見させてもらうわ」
「絆フェスまでもう少しだね。想像以上に話題になってるからプレッシャーだなあ」
「彩ちゃん、気負い過ぎよ。もっと気楽にね」
「そうです!この人たちみたいに楽しんでやりましょう!」
「ああ、その人たちこの間会った人たちですね。ジブンもあの映像見ましたけど、中々でしたよ。あれ?日菜さん、何でそんなに不機嫌なんですか?」
「ぶ~、だって鳴上さん!いつまで経ってもお姉ちゃんにあってくれないもん!絶対気が合うと思うのに~」
「「「「…………………………」」」」
「おおっ!今のは良い感じだったんじゃない?」
「…悪くはなかったわ。でも、まだまだよ。絆フェスまであと少しだし、他の誰にも負けるわけにはいかないわ」
「そうですね。私たちが目指すのは頂点ですから」
「はい、私も頑張ります」
「あっ!絆フェスと言えばね~りんりん、こんな噂聞いたんだけど~」
街行く人々の話題は近々開催される愛meets絆フェスティバル、もとい絆フェスのことで持ちきりだった。出演者たちも他の共演者たちを意識して練習に励み、浮き立つそんな中……
「美鶴さん、また原因不明の無気力症患者が出たらしいです」
「またか……一体何が起こってるんだ。しかもこの時期に。せめて、鳴上たちが巻き込まれなければいいが…」
「鳴上くん………」
新たなる事件の影はひっそりと近づいていた。そして、それはとある少年少女たちにも迫ってくる。
【Let`s summer vacation in Yasoinaba.】
-fin-
Next Chapter
――――ねえ、あの噂知ってる?
――――午前零時にどこかのサイトを見ると、勝手に変な動画が流れるんだって
――――最初はよく見えないんだけど、その動画を最後まで見ると向こう側に連れて行かれて
―――――
「お願い!緊急事態なの!力を貸して!」
「答えは必要か?りせ」
「特捜隊&μ‘s結成だね!」
絆フェスを目前に控えて最後の追い込みをかける特捜隊&μ‘s。そんな中、絆フェスに出演予定のアイドルたちが失踪した事件が発生した。行方不明になったアイドルたちを追って、迷い込んだのは新たな異世界【マヨナカステージ】。しかし、
「なっ!?」
「攻撃が……通じないっ!!」
そこは今までの常識や経験がが通じない未知の世界だった。突入早々に窮地に立たされた彼らは果たして……
そして、
「えっ!?菜々子、テレビに出るの?」
「わ、私も!?」
「テレビ?やったぁっ!!」
現実世界では菜々子と雪穂、亜里沙がテレビに出演!?さらに
「あいつら、一体どこに行ったんだ?」
「我々も最善を尽くします」
「一体、この街で何が起こっているの?」
堂島と雛乃はシャドウワーカーと共に別視点から事件の謎を追う。
マヨナカステージとは何なのか?
巷に流れるマヨナカテレビに似た噂との関連は?
噂の自殺したアイドルとは!?
それぞれの道が重なる時、最高のステージが幕を開ける!果たして、特捜隊&μ'sはマヨナカステージの真実を解き明かすことが出来るのか!?
「行くぞ!ショータイムだっ!!」
PERSONA4 THE LOVELIVE 最新章
【DANCING All NIGHT IN MAYONAKA STAGE】
2019年5月中旬 スタート予定