PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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今回の話はタイトルの通り、ラブライブ!サイドの話がメインです。
これは私事なのですが、急に実家に帰る事になって一週間更新がストップすると思います。その為、今回のちょっと駆け足になってラブライブ!の内容が薄いものになっているかもしれませんので先に謝ります。
しかし、実家に帰ってもプロットは書くつもりです。

最後に新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!ちょこっとした感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
先日も感想欄にて大変参考になる意見をいただきました。これらをもとに、今後も皆さんが楽しめる作品を目指して精進していきたいと思います。皆さんの感想や評価をお待ちしています。

それでは本編をどうぞ!


#07「Preparing for First Live」

 

 

 

〈音乃木坂学院 屋上〉

 

another view

 

「お断りします!」

 

 私はキッパリそう言った。

 

「お願い!貴女にしか頼めないの!」

 

 本当にしつこい。何なのこの人は…音楽室でピアノ弾いてたら、いきなり入ってきて屋上まで連れていって。しかも、スクールアイドルの曲を作曲してくれって……勝手すぎる。そんな人のために作曲するなんて真っ平ごめんだわ。

 

「お断わりします!」

 

「何で!学校に生徒を集める為だよ!貴女のその歌で生徒が集まれば」

 

 本当にしつこい。

 

 

「興味ないから!!」

 

 

 これ位キツく言えばもう来ないだろう。私はそう言って、屋上から去ろうとした。すると突然屋上のドアが開いて誰かが入ってきた。

 

 

「みんな、どうしたんだ?」

 

 

 その人物は……

 

「あ、貴方……」

 

 昼休みに私の演奏を勝手に聞いて、褒めてくれたあの人だった。

 

「ん?君は……」

 

 その人は私に気づいたのかこっちに歩み寄ってきた。

 ど…どうしよう……

 あの時演奏を褒めてくれたのに私はこの人を突っぱねてしまった。そのことについて謝ろうとしたが気持ちはそうさせてくれず、どうしたら良いか分からないでいた。すると

 

 

「今日は悪かったな。勝手に演奏を聞いたりして」

 

 

 その人は私に頭を下げて謝った。

 私は呆気にとられた。相手が謝ってくるとは思わなかったから。

 

「別に……もう勝手に聞かないなら良いわよ」

 

 自分のこの性格が恨めしいわ。なんでこんな態度しか取れないんだろう。それにこの人私より年上だろうに…

 すると、その人は私のこんな態度を気にせずに微笑みながら

 

 

「じゃあ、次は許可を取れば聞いて良いのか?」

 

 

 突然こんなことを言ってきた。

 

「ヴェェ!……な、なんでそうなるのよ!」

 

「勝手に聴いたらダメなんだろ?だったら、君から許可を取れば聞いて良いことになる。それに俺もまた君の演奏を聞きたいんだ。これじゃダメか?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべるその人。

 何でだろう?……この人の頼みは断れそうにないわ………なんかこの人には菩薩みたいな凄味があるような……

 この人もこの人で訳が分からないけど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

「……聞きたい時はちゃんと声かけてよね…じゃなくて…声かけて下さい」

 

うっ。何か敬語で話すって難しいわね。

 

「そんなに固くなくていいぞ」

 

「べつに固くなってなんか……」

 

「とりあえず、ありがとうな…えーと……赤髪さん?」

 

「人の名前を見た目で推測しないで下さい!」

 

「ごめん」

 

 本当に訳の分からない人ね。まぁ、こんな人にはちゃんと名前を覚えてもらった方が良いわよね…

 

「……西木野真姫です。覚えておいて下さい」

 

「鳴上悠だ、よろしく。それと…何か高坂たちが迷惑をかけたみたいで悪かったな」

 

「いえ……それじゃ…」

 

 私はすぐにこの人…鳴上さんから離れて屋上から出て行った。その時、もうちょっとあの人と話がしたかったと感じたのは気のせいだろう。

 

another view out

 

 

 

 

 

〈真姫が去った後〉

 

「鳴上先輩、あの子と知り合いなの?」

 

「ちょっとな。それで、何があったんだ?」

 

 悠は穂乃果たちを見て、さっきの状況について聞くことにした。

 話を聞くとこうだ。穂乃果は生徒会室から出た後、忘れ物を取りに行く為、海末とことりと別れて自身の教室を目指した。その途中音楽室の前を通り、悠と同じく真妃の演奏に魅了されたらしい。少女の演奏を聞いて、前から問題になっていた『作曲担当』にその少女が相応しいと感じた穂乃果は、演奏が終わると同時に少女を屋上まで連行して、作曲を何度も頼んだが拒否されたということだ。

 

「……高坂、それは勝手すぎるぞ」

 

「ごめんなさい」

 

 事の顛末を聞いて、悠は厳しい口調で穂乃果を叱った。

 

「だから言ったんですよ穂乃果。いくら今作曲担当がいなくて困ってるからって、無理矢理連れてこられたら誰だって怒ります」

 

「うう……でも…………」

 

「まぁ、高坂の気持ちも分かる。正直作曲をお願いしたいくらい西木野の演奏は素晴らしかったからな」

 

「なら!」

 

「だが、それは本人が決めることだ。無理強いは良くない」

 

 そう、やるやらないかは本人が決めることだ。他人が勝手に決めて良いものではない。

 

「ううっ……」

 

「この件についてはもう終わりだ。さぁ練習を始めよう」

 

 穂乃果は不満そうだったが、悠は意に介さず練習をスタートさせた。ちなみに悠は穂乃果たちがダンスレッスンしている間、【タフガイ】級の根気と【生き字引】級の知識をもとに講堂の設備の説明書を読んで裏方の仕事を勉強してたり、ライブの宣伝のチラシを作ってたりしていた。

 

 

 

〈下校時間〉

 

「すみません、鳴上先輩。私たちがすべきことなのに色々準備してもらって」

 

 練習が終わってからの帰り道、海未が悠にそう言った。自分たちがダンスレッスンをしてる間に、ライブの準備で忙しそうにしてる悠を見て申し訳なく思ったのだろう。

 

「気にするな。ライブの主役は園田たちだ。三人にはパフォーマンスの方に集中して欲しいからな」

 

 悠はこれくらいのことでは気にしない。去年の夏休みにアルバイトに没頭してた時やジュネスのタイムセールのバイトに比べたら、軽いものだと悠は思っている。

 

「でもお兄ちゃん、あんまり無理すると体壊しちゃうよ。そうなったらまたお母さんに怒られるんじゃない?」

 

「た…確かに………」

 

 先日の雛乃の説教を思い出したのか悠は冷や汗が出た。もうあんな目に遭いたくはないと心の底から思う。すると、穂乃果が何を思ったのかこんなことを言った。

 

「じゃあ、明日穂乃果の友達にお手伝い頼んでみるよ。そうすれば鳴上先輩も楽になるから良いよね」

 

 この穂乃果の申し出は悠にとっては有難かった。実際講堂での仕事は照明やら音響やら役割が色々あるので、悠一人ではライブ当日にそれらの役割をこなすのは不可能であったからだ。

 

「じゃあ、お願いできるか?正直人手が欲しかったから」

 

「了解!任せて!」

 

 穂乃果は満悦な笑顔を浮かべそう言った。

 その笑顔の見ると不思議と悠まで笑顔になった。やっぱり穂乃果には人を笑顔にさせる何かがあるなと悠は思った。その後誰かに太股を抓られた気がした。

 

 この日悠は念のためマヨナカテレビをチェックしたが、何も映らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【翌日 昼休み】

 

 今日のお昼は希と食べる約束をしている。

 悠は授業が終わると希を待たせまいとすぐに屋上へ向かった。階段を登る途中で、悠は後ろから視線を感じた。

 

「ん?」

 

 振り返ってみるとそこには……

 眼鏡をかけた茶髪の少女が顔の半分だけを壁に隠してこっちをじっと見ているのが見えた。本人は隠れているつもりだろうが、顔半分以外見えているので隠れているとは言えない。その姿は某青鼻のトナカイを彷彿とさせた。

 

「あの…隠れるなら逆だと思うんだけど」

 

「ハッ!」

 

 悠の指摘に少女は今更気づいたのか目に見えない速さで立ち位置を反対にした。しかし、いまさら遅い。

 

「いや、もう気づいてるから」

 

「ハゥ!…痛!」

 

 そう指摘すると、少女は素っ頓狂を上げ尻餅をついてしまった。悠はその少女の近くに歩み寄り体を起こそうと手を貸した。

 

「大丈夫か?」

 

「は、ハイ!……大丈夫です………」

 

 少女は悠の言葉に大きく返事をしたからと思えば、急に声のトーンが下がりモジモジし始めた。

 その様子を見て、悠は八十稲羽で出会った吹奏楽部の後輩である『松永綾音』を思い出した。目の前の少女は茶髪のセミショートヘアで目がくりっとしていて、何より胸はかなりのものを持っている。正直松永とは容姿は違うが、こういうリアクションや挙動不審なところは親戚ではないかと思わせるくらい似ていた。

 話を戻して、悠は茶髪の少女に話を聞いてみることにした。

 

「それで、俺に何か用があるのか?」

 

「え?……あ、はい!そうなんです……あ、あの……え、え〜と……その………」

 

 見事な動揺っぷりである。このままでは埒があかないので、悠は少女を落ち着かせるのを最優先した。

 

「落ち着け。とりあえず、深呼吸だ」

 

「は、はい!スゥ〜ハー、スゥ〜ハー………」

 

「落ち着いたようだな。焦らなくていいから落ち着いて用を伝えてくれ」

 

「は、はい。え〜と……な、鳴上悠先輩ですよね?」

 

「そうだけど」

 

「わ、私1年生の『小泉花陽』と言います。鳴上先輩に……これについて聞きたくて……」

 

 と、茶髪の少女もとい花陽はポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「これは……ライブのチラシ?」

 

 花陽が持っていたのは、昨日悠が作成したライブのチラシであった。今朝生徒会に許可をもらい、掲示板に張ったりその近くに置かせてもらったりしたのだ。

 

「あの!このライブって、新入生歓迎会の時に講堂であるんですよね!」

 

「あ、嗚呼」

 

「私!絶対に観に行くんで!ライブ頑張って下さい!!」

 

 何故か花陽は先ほどの挙動不審な態度とは一変して、目をきらきらとさせた明るい表情で悠に顔を近づけて激励した。

 

「わ、分かった。分かったから離れてくれ」

 

「え?……ぴゃあ!、すすすすみません!」

 

 花陽は悠との距離に気づいた途端、慌てて距離をとり凄い勢いで頭を下げた。

 

「ま、まぁ落ち着け」

 

 

「すみません。……自分で言うのもアレですけど、私…アイドルのことになるとこういう感じで…暴走するんですよね……」

 

 

 なるほど。この少女は普段は恥ずかしがり屋だが、自分の興味のある方面については別人になるタイプなのだろう。

 

「誰だってそんなことはある。俺だってあるんだから気にしなくていいぞ」

 

 悠だって普段は冷静を装っているが、菜々子のことに関してはそういったところがある。

 

「鳴上先輩もですか…意外です」

 

「よく言われる。それにしてもアイドルが好きなんだな、小泉は」

 

 悠がそう言うと、突然花陽の目が輝き出した。そして悠に近づいて

 

 

「そうなんですよ!アイドルは最高です!何でかというと…………」

 

 

ー花陽はスイッチが入ったかのようにアイドルの魅力について語り出した。

 

 

 

 

 〜30分経過〜

 

 

 

 

「つまり!アイドルは日本の宝なんです!」

 

「わ、分かった。分かったから……」

 

 何故だろうか、去年の文化祭でミスコンについて熱く語った時を思い出す。あの時とは立場が逆だが、あの時の里中たちの気持ちが少し分かった気がする。そんなことを思っていると

 

 

「な〜るか〜みくん♪……みーつけた♪……」

 

 

 悠の後ろから希(修羅)の声が聞こえてきた。

 

「ひぃ!」

 

 花陽は希の姿を見たせいかさっきの明るい表情から一変して怯え始めた。何があったのかと思いつつ後ろを振り返ると、そこには笑顔なのに目のハイライトがなくドス黒いオーラを纏った希が仁王立ちで立っていた。

 

「と、東條……?」

 普段ニコニコした顔しか見たことがない悠はまだ見たことない希の顔を見て【豪傑】級の勇気を持っているにも関わらずの恐怖を感じた。

 

「中々屋上に来んから何かあったと思って探しおったんやけど……まさか…ウチとの約束を忘れて…こんなところで女の子を口説いておったんやなぁ……フフフ………」

 

 希は何か勘違いをしているようだ。悠は弁解しようにも恐怖で頭が回らない。しかしこのままでは殺される(比喩)のは明らかなのでなんとか弁解を試みる。

 

「いや…東條……これはだな…」

 

「言い訳は無用や……鳴上くん?」

 

「はい!!」

 

 

「ワシワシするよ♪」

 

 

 そう言うと希はゆらりゆらりと近づいてくる。その迫力は死神シャドウによく似ていた。

 その後、音乃木坂の校内に男の断末魔と少女の悲鳴が聞こえたという報告が生徒会に入ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈放課後 屋上〉

 

「な、鳴上先輩どうしたんですか!まるで生気が抜けてるような感じが……」

 

「お兄ちゃん……何かあったの?」

 

 穂乃果より先に屋上に来た海末とことりは悠のげっそりした様子を見てびっくりしていた。

 

「……そっとしておいてくれ」

 

 

 あの後、希の『ワシワシ』という名のお仕置きを受けて悠は終始抜け殻のようになっていた。もちろん昼飯は食べていない。その後正座させられて延々説教されたので、悠の精神に大きなダメージを与えた。花陽の話によると端からみたら浮気がバレて妻に叱られている旦那みたいな感じだったと言う。

 

 ちなみに花陽までとばっちりを受けたので、悠はお詫びの印に今度何か好きなものを奢ると花陽に申し出た。最初は頑なに遠慮していた花陽だが、最終的に休日に定食屋で白米を好きなだけご馳走するいうことになった。それでいいのか?と悠は思ったが、花陽は嬉しそうだったので何も言わなかった。

 

 

「みんなー!ビッグニュースだよー!」

 

 悠が回想にふけっていると、穂乃果が勢いよくドアを開けてやってきた。

 

「穂乃果、どうしたんですか?そんな嬉しそうな顔をして」

 

「えへへ〜!なんと!私たちのグループ名が決定したんだよ!」

 

「「「は?」」」

 

「さっきね、掲示板に置いた投票箱に1つ紙が入ってたんだ。誰か投票してくれたんだよ」

 

 

 投票箱と聞いて悠は今朝のことを思い出した。

 ぶっちゃけて言うと悠たちはまだ自分たちのグループ名を決めていなかった。一応各自で考えてはみたもののしっくりくるものがなかったのである。このままではグループ名無しで活動しなければならないので、穂乃果がある提案をしたのだ。

 

「じゃあさ、全校生徒に決めてもらおうよ!そうすればきっと良いのが見つかるよ」

 

 それを聞いて悠と海末は「丸投げか(ですか)」とツッコんだが。しかし、他に方法がないので、今朝チラシと共に悠自作の投票箱を設置したのだ。正直何も来ないだろうとは思っていたが、まさか本当に来るとは思いもしなかった。

 

 

「それで、何が書いてあったんだ?」

 

「え〜とね…………これ何て書いてあるんだろ?」

 

 穂乃果は手に持っていた紙を見るが何が書いてあるか分からないようだ。悠はと海末とことりも紙を覗いてみることにした。すると、紙にはこう書かれてあった。

 

 

 

【μ's】

 

 

 

「これは……ミューズって読むんじゃないか?」

 

「あー!あれだよね。確か……石鹸!」

 

「違うと思うよ、それは」

 

 穂乃果の的外れの答えにことりがツッコむ。

 

「おそらくミューズって神話に出てくる女神たちのことじゃないですか?」

 

 海末の言葉に悠はなるほどと思った。昔本で読んだことがある。確かギリシア神話で文芸を司る女神たちのことだったはず。その女神たちの名前は確か【カリオペイア】に【エウテルペー】、そして【ポリュムニア】と……

 

「そういえば園田のペルソナの名前って【ポリュムニア】だったよな」

 

「あ、確かに。言われてみれば【ポリュムニア】はミューズの女神の1人ですね」

 

 海末もミューズの女神たちの名前は知っているようだ。それにしても、これは偶然なのだろうか?

 

「そうなんだ〜。じゃあ、穂乃果たちのペルソナはどんな名前なのかな?」

 

「ん〜どうなんだろうね。ねぇ、お兄ちゃんはどう思う?」

 

「いや、俺に聞かれても」

 

「とりあえず、まだ分からないことの話はこれまでにしましょう」

 

 話がグループ名からペルソナ方面になりそうだったので、海末が軌道を修正する。

 

 

「そうだね……よし!これから私たちのグループ名は【μ's】だよ!!」

 

「異議なし」

 

「まぁ他にありませんから」

 

「穂乃果ちゃんが言うなら私は良いかな」

 

 

 何かぐだぐだになったがともかくここに穂乃果たちのグループ名が決定した。悠は偶然と片付けたが、このμ'sの女神たちがイゴールの言っていた旅路の鍵となることを知るのは先の話。

 

 その後、穂乃果たちの友達がやってきたのでグループ名の話は切り上げ、各自練習やライブの準備を再開した。穂乃果たちの友人たちによると、悠の指導は的確なもので凄腕の先生に教えてもらったような感じだったという。更に練習中、誰かの視線を感じた。視線の方に顔を向けると視線は消えたが、ドアが少し空いていて赤い髪が見えた気がした。

 

 この日もマヨナカテレビは何も映らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

〈翌日 神田明神〉

 

「曲が出来た?」

 

「うん。今朝家のポストにこれが入ってたんだ」

 

 いつもの朝練が始まる前に穂乃果がそんなことを言い、バッグから一枚のCDを取り出した。

 

「誰から来たのか分かったんですか?」

 

「ん〜このCD封筒に入ってたんだけど、差出人の名前書いてなくて。代わりに裏に【μ's】って書いてたんだ」

 

 差出人の名前が書いてないということはおそらくポストに直接入れたのだろう。一体誰がポストに入れたのか?

 

「とりあえず、そのCDを聞いてみるか」

 

 と、悠はそう言って鞄からパソコンを取り出した。最近ライブの準備でパソコンを使うことが増えたのでよく持ち歩いているのだ。すぐにパソコンを立ち上げ穂乃果が持っているCDを入れて再生する。すると、

 

 

「おおお!すごい!!」

 

「これは…聞いてると何か楽しくなりますね」

 

「うん!思わず踊りたくなっちゃうね!」

 

 

 穂乃果たちがそう絶賛するくらい明るく思わず元気になる音楽がパソコンから流れてきた。おそらくこれはオリジナルだろうが、どこかのアイドルが歌ってるんじゃないのかと思うくらい完成度は高い。悠も思わず曲に合わせて足踏みをしてしまった。

 曲が終わると、興奮が冷めないのか穂乃果はハイテンションのままだった。

 

「あ〜凄かったー!これを穂乃果たちが歌うんだね!」

 

「ううっ、これを歌うとなるとより一層練習しないといけませんね」

 

「うん!頑張らなきゃね!!」

 

 穂乃果たちは自分たちが歌う曲を聞いて、より一層ライブに向けての気合が入ったようだ。ともかくこれでライブに必要なものは揃った。あとは本番まで練習あるのみだ。

 

「ところで、誰がこんな良い曲を作ってくれたんだろ?」

 

 穂乃果はそう疑問を口にしたが、悠は心当たりがあった。

 

「さぁ、誰だろうな」

 

「あれ?もしかしてお兄ちゃん気づいて……」

 

「さあ練習だ!曲も決まったことだし気合入れていくそ!」

 

 ことりに感づかれる前に悠は練習を促した。その後の朝練はより一層気合が入ったものになり、更に穂乃果とことりを苦しめたのだった。

 

 

その日の放課後、悠は作曲してくれたであろう人物にお礼を言いに行き、一悶着あったのは別の話。

 

 

 

 

 

 その後も色々あったが、穂乃果たちのパフォーマンスの仕上がりは徐々に良くなり、ライブの段取りも完璧に整った。あとは本番の日を待つだけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ライブまであと3日》

〈帰り道〉

 

「あ〜、あと3日でライブだね」

 

「本番が近づいてくると、緊張してきますね」

 

「本当だね」

 

 ライブが近づいているせいか穂乃果たちは緊張してきているようだ。それは今日の練習を見ると明らかだった。

 

「誰だって初めてのものは緊張するもんだぞ。だから、あんまり気にするな」

 

「そうですね……鳴上先輩がそう言うと、心強いです」

 

「俺も去年バンドを経験したからな。気持ちは分かる」

 

「ねぇ、景気づけに今日どこか寄っていこうよ!!」

 

「よし!行こう!」

 

「良いんですかね……」

 

 そんなやり取りをしていると、悠の携帯から着信音が聞こえてきた。

 

「ん?…誰からだ?」

 

 携帯を取り出し画面を見てみると、着信は知り合いからだったので通話ボタンを押した。

 

「もしもし…………そうか…今行く……場所は……分かった」

 

 悠は通話を終え携帯をポケットにしまう。

 

「鳴上先輩?どなたからだったんですか?」

 

「知り合いから。悪いけど今からその知り合いに会うことになったから俺はここで」

 

「え〜!鳴上先輩来れないの!!一緒に行きたかったのに!」

 

 穂乃果は悠が買い食いに付き合えないことが不満そうだ。

 

「大事な話なんだ。お詫びに今度お菓子作るから」

 

「本当!約束だよ!」

 

「全く。穂乃果はお菓子につられるんですね」

 

 海末が呆れる通りである。しかし、この安請け合いが後に更なる受難につながることはこの時の悠には分からなかった。

 

「了解。それじゃあ、また明日な」

 

「うん!また明日ね!鳴上先輩」

 

「鳴上先輩、お気をつけて」

 

「お兄ちゃん、また明日ね」

 

 そう言って、悠は穂乃果たちと別れて電話の人物との待ち合わせ場所へ向かった。

 

 

 

 

 

〈ポロニアンモール〉

 

 穂乃果たちと別れた悠はここの噴水広場である人物を待っていた。ライブまでどうするべきか考えていると

 

 

「すみません先輩、遅くなりました」

 

 ダークカラーのキャスケットを被ったユニセックスの外見の人物が悠の前に現れた。

 

「いや俺も今来たとこだ、直斗」

 

 悠が待っていた人物とは、自称特別捜査隊のメンバーの1人である『白鐘直斗』であった。彼女も祖父の仕事の関係で一時八十稲羽から東京に戻ってきていたのである。

 

「改めてお久しぶりですね、鳴上先輩」

 

「久しぶりって言っても、一ヶ月も経ってないけどな」

 

「フフ、そうですね。とりあえず立ち話はこれくらいにして話は店の中で」

 

「そうだな」

 

 

 喫茶店に入って席に座ると、2人はコーヒーを注文した。

 

「ここは俺の奢りだ」

 

「いえ、ぼくが払いますよ。呼び出したのは僕ですし」

 

「先輩に奢らせるのは後輩の特権だ」

 

「…先輩がそう言うならお言葉に甘えます」

 

「よろしい」

 

 そんな会話をしている間に注文したコーヒーがやって来た。二人はコーヒーを一杯飲んで一息つく。

 

「直斗、突然悪かったな。急に調べ物を頼んで」

 

「いえ、僕は嬉しかったですよ。ここ最近おじいちゃんの手伝いばっかりで退屈してたところでしたし。それに先輩も災難ですね。転校した学校が廃校になりそうだったり、またテレビの世界に遭遇したり」

 

「そういう運命の星の下に生まれたのかもな」

 

「それに、スクールアイドルのマネージャーとは……大丈夫なんですか?受験生なのに」

 

「陽介にも言われたよ。でもまあ、やれるだけのことはやるさ」

 

「先輩らしいですね。今度学校でファーストライブがあるんでしたっけ?時間が空けば見に行きますね」

 

「是非とも来てくれ」

 

 

 そんな他愛もない話をして一息ついたところで2人は本題に入る。

 

「それで…何か分かったのか?」

 

「はい。先輩の情報をもとに警察の資料を調べたところ、こんなものが見つかりました」

 

 と、直斗はバッグの中から幾つかの資料を取り出し悠に渡した。悠はその資料の内容を確認する。そこに書いてあったのは衝撃の内容であった。

 

 

 

「……2年前に音乃木坂の生徒が失踪?」

 

 

 

「ええ。捜索願も出されていたので間違いありません」

 

 内容を整理すると以下の通りになる。

 2年前、当時高校1年生であった音乃木坂学院の女子生徒2名が自宅から失踪した。しかし、捜索願が提出されてから一週間後に失踪者はひょっこり見つかり保護されたという。

 

「これって……」

 

「ええ。確証はありませんが、もしこの失踪者たちが午前0時頃にテレビを見ていたなら、噂通りに失踪したことになります。それに、これは2年前の事件なので、鳴上先輩もこの時音乃木坂に在学していたはずです。覚えてますか?」

 

「いや、覚えてない。そもそもこんな事があったなんて今初めて聞いた」

 

「そうですか」

 

 しかし、午前0時にテレビを見ていたかなんて些細なことは当然のことながら警察は調べていない。あくまで推測なのだ。

 それはともかく悠は直斗がこの資料を引っ張り出したことに違和感を覚えた。

 

「直斗、この資料で音乃木坂で生徒が失踪してたってことは分かった。でも、何か引っかかる点でもあるのか?」

 

 悠の指摘に、直斗は表情を変えた。

 

「流石鳴上先輩です。ご察しの通り、これはただ生徒が失踪しただけの話です。僕らが経験したみたいにテレビの中に放り込まれたのではなく、ただ家出しただけかもしれません。仮にテレビの中に放り込まれたとしても、クマくんみたいな存在がいない限り脱出は不可能ですしね。」

 

「確かにそうだな」

 

「でも詳しく調べてみると、それだけでは片付けられない事実がありました」

 

「どんなことだ?」

 

「大声では言えませんが、この件にある組織が捜索に関与していたんです」

 

「組織?」

 

 

「ええ、その組織の名前は……『桐条グループ』です」

 

 

『桐条グループ』

 

 悠もその名前は知っていた。日本では知らない者は居ないと言われるほどの大物財閥。あらゆる業界に手を出していると言われている。その中に警察も含まれているのではないかと黒い噂も絶えない。

 

 

「何で桐条グループが」

 

「それは分かりません。ただ調べてみると、このような失踪関係の案件に何年も前から関与しているようです」

 

「…何かあるな」

 

「ええ。先輩が体験したテレビの世界と関係があるかわかりませんが、桐条グループのことはこれからもマークするつもりです」

 

「任せたぞ、直斗」

 

 時間も時間だったので、今回はこれで解散となった。

 

 

 

 

 

 過去の音乃木坂の事件に有名財閥の影。謎が深まるばかりである。でも今は、新入生歓迎会のライブのことだけを考えようと悠は思った。

 

 

 to be continuded

 

 




Next Chapter
「ライブ…楽しみですね」

「うう、恥ずかしいです」

「不安だ」

「現実を見なさい」

「な、鳴上先輩……」


「さぁ、ステージの開演だ!」


Next #08「First Live start!!」

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