PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

まず、投稿が随分と遅れてしまって本当にすみませんでした。もうすぐ学校が始まるというのと、今年は何としても新入生を確保しなければいけない状況だったので新歓に没頭していて、執筆の時間があまり取れなかったんです。本当にすみません。

そして、去年の冬から始まったこの夏休み編も次回で最終回となります。そして、令和が始まる5月上旬辺りに次章をスタートさせたいと思っていますので、よろしくお願いします。

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・高評価と評価を付けて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

新生活も始まって執筆にあまり時間が取れなくなりつつありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#71「Last Summer Memory in High School 1/2.」

<稲羽商店街>

 

 

 時は過ぎて夕暮れとなり、辺りに街灯が灯り始めた頃。昼間の賑わいと打って変わって静けさが支配しつつある稲羽商店街を歩く男性がいた。今日の仕事が終わってくたびれた足取りで自宅へ向かう。家にいる娘たちはどうしているだろうか。最近この町は平和だが、何かトラブルに巻き込まれていないだろうか。そう思うと、家へ向かう足取りが速くなる。

 

「???」

 

 神社を通り過ぎようとしたその時、そこに何故か立っている怪しげなテントがあるのを見つけた。一体いつの間に誰がこんなところにこんなものを立てたのだろうか。仕事上、やはり許可を取っているのかと注意しに行こうと中に入ってみることにした。すると

 

 

「お待ちしておりました」

 

 

 不意に誰かに声を掛けられた。振り返ってみると、いつの間にか仕切られていたカーテンの向こうに灯りが灯り、女性らしき影が浮かび上がった。

 

「私はカーテンの向こう側にいます。大変ナイーブな性格故、距離を置いた関係でご了承下さい。それに、一応期間限定で許可は貰っておりますので、そちらが心配しているようなことはございません」

 

 優しく包容力を感じる声に少し驚いてしまったが、何かこちらの考えを読ませているようで不気味だった。どうやらちゃんと許可を貰ってやっているようだが、また別の疑問が生まれた。この女性、一体何者だろうか。しかし、仮にこの女性が占い師だったとしてもこんなカーテンで隔たれた空間で占いができるのだろうか?

 

「運命を司るカードは私の手中にある………ハァ、まだいくつか凍結してるけど

 

「??」

 

「いえ何も、こちらの話です。ともかく、秋のイベントに向けて修行中の身ですのでお代は頂きません。占いをご所望ですか?」

 

 女性は何事もなかったようにそう言うが、自分は別に占いをしてもらいにきたのではないし、許可を貰っていると分かっただけで十分なので、問題ないと言ってその場を立ち去ることにした。すると、

 

「ご心配なのでしょう?息子のように思っているご親戚の方が」

 

「!?っ」

 

 突然指摘されたことに思わず息を呑んでしまった。今この女性が指摘したことはまさに的を得ていたからだ。

 

「この先、彼らにとって貴方の助けが必要になるのやもしれません。貴方の助けがいずれ彼らの運命を変えることになる。そのことを努々お忘れなく。それではまた、ご機嫌よう……」

 

 女性はそう言うと、テントの中の灯りは消えて誰もいなくなった。試しにカーテンの奥を覗いてみたが、そこには女性らしき姿はおろか何もなかった。

 

 

 

「一体何だったんだ?」

 

 

 

 神社を出た男性……堂島遼太郎は奇妙な体験をしたと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<堂島家>

 

「ただいま、帰ったぞ」

 

 今日の仕事を終えて、神社で奇妙な体験をした堂島はやっとの思いで帰宅した。

 

「お帰り、お父さん!」

 

「お帰りなさい、叔父さん」

 

 そして、帰宅してきた堂島を一人娘の菜々子と、義兄の妹の娘であることりが出迎えてくれた。この夏に入ってからこの2人が出迎えてくれるのが、堂島にいつもの光景となりつつある。甥の悠に加えて、更に家族が増えた気がして堂島は最初は戸惑ったものだが、日に日にそれを受け入れられるようにはなってきた。そして今に入ると、台所にはその義兄の妹…雛乃が料理を作っていた。

 

「お帰りなさい、堂島さん。夕飯出来てますよ。ことり・菜々子ちゃん、悠くんを呼んできてくれるかしら?」

 

「「はーい!」」

 

 そう言われて2人はトタトタと二階に駆け上がって自室にいる甥の悠を呼びに行く。そしてその数分後、2人に引っ張られるように件の悠が居間にやってきた。だが、その顔は疲れているようにげっそりとしていた。

 

「おいおい……悠、お前大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です……少し根詰め過ぎただけですから」

 

 悠はそう言うと椅子に座って皆と一緒に夕食に箸をつけた。そして、掻き込むようにして雛乃のご飯をいち早く平らげ悠は食器を流しに出してそのまま自室に戻ってしまった。

 

「あいつ、昨日もあんな感じだったのか?」

 

「ええ、もう帰ってから部屋にこもりっきりで……ちゃんとご飯は食べてくれてるんですけど」

 

「……………………………」

 

 堂島は雛乃からそう聞くと、複雑そうな表情で悠の部屋がある二階を仰いだ。先日のジュネスのイベントが終わってからこんな状態であることは耳にはしていたが、まさかここまでとは思ってもいなかった。

 どうやらそのライブの映像がネットでアップされてかなりの反響を呼んだらしい。確かにダンスに疎い堂島から見ても悠たちのライブは素晴らしいものだったと感じた。だが、それと同時に本番はあれ以上やらなくてはいけないというプレッシャーに掛けられて、更に練習や勉強に打ち込んだのがあの結果のようだ。あの様子であると思うと流石の堂島も心配になってくる。

 

「ことり、お前も大丈夫なのか?」

 

「へっ!?」

 

「悠ほどじゃないにしろ、結構疲れているように見えるぞ」

 

「だ、大丈夫ですよ叔父さん!ことりは全然平気ですよ!」

 

「………」

 

 そう言ってことりは朗らかに笑って見せたが、やはり表情が疲れているように見える。平静を装っているのが丸わかりだった。こういう心配をかけまいと強がるところは血筋なのかやっぱり似ている。

 

「ったく………雛乃、ちょっといいか?」

 

「えっ?」

 

 そして、堂島はある決断をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……

 

 

<河川敷>

 

 

「「「「(ず~ん)」」」」

 

「み、みんな……大丈夫?」

 

 

 夏休みも終盤に差し掛かり、絆フェスに向けての練習も佳境に入っていた頃……

 ジュネスのライブイベントを経て、更に絆フェスへ向けて駆け抜けようとした手前、メンバーのほとんどのモチベーションが急下降していた。今はちょうど休憩時間なのだが、皆木陰で休んでいる表情に生気がなくなっており、まるで死人のようになっていた。

 

「ここに来て皆の士気が下がるなんて……困ったわ」

 

「仕方ないんちゃうん?ずっと練習や勉強漬けやったし、悠くんですらあんな調子やん。かく言うウチもそろそろ倒れそうなんやし」

 

「技術は大分上がって来てるから、ここでペースを上げて行きたいところだったんだけどなぁ」

 

「これが、いわゆる燃え尽き症候群ってやつなんですか?」

 

 "燃え尽き症候群"

 それは、一定の生き方や関心に対して献身的に努力した人が期待した結果が得られなかった時に感じる徒労感や欲求不満。あるいは、努力の結果、目標を達成したあとに生じる虚脱感を指す場合に起こる症状のことである。慢性的で絶え間ないストレスが持続すると、意欲を無くし、社会的に機能しなくなってしまう一種の心因性うつ病とも言われている。

 

 これまでの経緯からいうと特捜隊&μ‘sの場合は後者に当てはまる。先日のライブイベントは観に来てくれた観客のみならずネットでも高評価を得て、悠たちの絆フェスでの期待度はうなぎ登りになっていった。それに応えようと張り切る一同だったが、絆フェス出演が決まって早一ヶ月、初めからフルスロットルで絵里とりせのレッスンに励んでいたため、こうなるのはもはや必然であった。なお、悠をはじめとする3年生組は加えて受験勉強もやらなくてはいけないため、他年組より更に疲労が溜まって、勉強嫌いの千枝やにこに至っては瀕死状態になりかけているほどである。

 

「そういや、夏ももうすぐ終わるってんのに、俺まだスイカ食ってねえや」

 

「そういえば……私もスイカを食べてない気が……」

 

「スイカかぁ……海行った時忘れてたよね。スイカ割りのこと」

 

 "スイカ割り"

 それは夏が来たら一度はやりたいと思うイベント上位に入るほどのイベント。目隠しをして周りの誘導の声に耳を澄ませて場所を特定し、スイカを割る!。時には間違って別のものを叩いて笑いを取ったり、誤って男女が密着してしまうラッキースケベがあったりなどのハプニングも盛り沢山。まさに夏休みと言ったら欠かせないイベントである。

 去年あれほどやろうやろうと言っていたにも関わらず、肝心のスイカを海水浴の時に持って行くのを忘れていたことを思い出したが、もはや後の祭りだ。

 

「ラビリスちゃんも風花さんも突然桐条さんから呼び出されたからって帰っちゃったし」

 

「もっと早く気づけばよかったですよね」

 

「ああ……スイカ割りしたい………」

 

「「「……………スイカ割り……」」」

 

 疲れと暑さのせいなのか脈録もなくそんなことを言いだした。スイカの呪いというべきか、もはや皆の口からスイカという単語しか出てこなかった。ここまで来るともはや異常事態である。これは一体どうしたのだろうかと思っていると、

 

 

Brrrrrrrrrrrrr!!

 

 

 どこからか原付のエンジン音が聞こえてきた。そして、

 

「おま~ちどう」

 

「うわっ!あいかちゃん!!なんで?」

 

「出前、おとどけにきた~」

 

 大きな岡持ちを手に持ったあいかが目の前に現れた。一体あいかがここに来たのだろうか?誰か出前でも頼んだのだろうかと思っていると、あいかは淡々と岡持ちから大きな何かを慎重に取り出した。

 

「は~い、スイカ一玉、おまたせ」

 

「「「「スイカ!?」」」」

 

 何とあいかが取り出したのは顔がすっぽり隠れてしまうほどの大きさを持ったスイカだった。さっきまでスイカの食べたいと思っていた矢先に出前で届くとは一体どんな偶然か。だが、

 

「誰が頼んだんだよ、これ」

 

 そう、問題は誰かにがこれを頼んだとかということだ。皆の顔を見るが、誰も身に覚えがないという反応だ。あまりに奇妙なことに少し身体が震えた。一体誰が出前を頼んだのか。すると、

 

「おお、少し遅れたが間に合ったようだ」

 

「本当、愛屋の出前はすごいですね。スイカまで出前してくれるなんて」

 

 まるで狙ったかのようにタイミングよく手に大きな風呂敷を持った堂島と一緒に付いてきたらしい雛乃がやってきた。その雛乃も手にジュネスのロゴの入ったレジ袋を持っている。

 

「堂島さん!雛乃さん!?どうしてここに?」

 

「何って、差し入れだ。俺が愛屋に頼んだんだよ。スイカ割りに使えるスイカを一つってな。ついでに、知り合いから切ったスイカももらったから、これも食べるといい」

 

 そう言って堂島は雛乃と一緒に悠たちに手に持った風呂敷を手渡した。つまり、2人は自分たちのためにわざわざスイカを出前してくれたということだ。

 

「い、良いんですか!?こんなことしてもらって」

 

「最近お前らが疲れ切ってる様子だったからな。少しはガス抜きもしなきゃならんだろう。それに、去年はスイカ割れなかっただろ。ここは海じゃないが……たまには大人らしいことしないとな」

 

「「「「堂島さん……」」」」

 

 堂島は本当に出前でスイカを持ってきてくれたと思わなかったのか若干驚きながらもあいかにお代を払った。そんな堂島に皆は神を見るような目で見た。すると、それを見た雛乃は面白そうにクスクスと笑みを浮かべた。

 

「ふふ、さっきまで割るための棒やブルーシートがないとか言って、慌ててジュネスまで買いに行きましたけどね」

 

「それは言わんでいいだろ。おっと、これはお代だ。わざわざすまなかったな」

 

「べつに、だいじょうぶ。スイカの皮、おいといて」

 

「回収するのか!?普通に捨てれば良いんじゃないか?」

 

「ま~いど~」

 

 あいかは次の出前も控えているのか、堂島からお代を受け取るとさっさと原付を走らせて去ってしまった。何と言うか相変わらずマイペースなあいかである。

 

「……捨てちゃだめなのかな?」

 

「いいんじゃないか」

 

 とりあえず、このことに関してはそっとしておこう。未だに愛家の出前には謎な部分は多いので一々考えるのも面倒になってきた。それはともかく、

 

 

 

「「「やったあああっ!!スイカだあああああああああっ!!」」」

 

 

 

 皆の意識は既にスイカに向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~河原で食べるスイカっていうのも悪くないっすねえ!」

 

「う~ん!やっぱり夏と言えばスイカだよねえ!」

 

「飛び散る果汁、はじける笑顔、一夜の恋……あの日の甘酸っぱさ!それが青春!!」

 

「「「青春!!」」」

 

「もう……調子良いんですから」

 

 堂島と雛乃が差し入れしてくれたスイカのお陰か、皆に生気が戻ってきた。さっきまで木陰でうっつらしていたのが嘘のようである。食いしん坊の穂乃果や凛、そしてスイカに目のない完二が他より多くムシャムシャと食べている辺り完全復活を果たしたらしい。

 

「美味しい。私、スイカって初めて食べたけど、こんなに美味しいものだったのね」

 

「絢瀬先輩、こうやって塩を掛けると更に上手いっすよ」

 

「えっ?………本当だ…本当に美味しい」

 

 初めてスイカを食べたらしい絵里もこの様子だ。完二に塩を掛けてもらって食べてみると、更に美味しさに磨きが掛かったのか、頬を緩ませている。日本のスイカをお気に召したようで何よりだ。そして、

 

「よーし!それじゃあ、スイカ割りやるわよ!!」

 

 ある程度差し入れのスイカを食した頃合いに、にこの号令と共に特捜隊&μ‘sによるスイカ割りが始まった。

 

 

 

 

 

一番手:天城雪子

 

「一撃で仕留める」

 

 最初はヒッターは一番やる気を出していた雪子だ。目隠しをして棒を剣道の試合をするように構えている。こういうイベントに雪子がやる気満々ということが伺えた。

 

「天城!スイカは右だぞ!」

「雪子さん!左です!!」

「雪子!後ろよ!」

 

 一歩一歩踏み出す雪子に皆は大きな声でアドバイスを送る。雪子は皆の声を吟味しながらゆっくりとスイカへ向かって歩を進める。中にも面白半分で嘘を言っている者もいるので、多少混乱しているようだが、雪子は着実にスイカへと近づいていく。そして、

 

 

ーカッ!ー

「そこ!」

 

 

バアアアンっ!!

 

 確信を持ったかのように大きく振りかぶって雪子は棒をフルスイングする。手応えありと雪子は不敵な笑みを浮かべた。だが、

 

 

「ぐほっ………おおお…………」

 

 

「「「完二いいいいいいいいっ!!」」」

 

 

 雪子が打ち抜いたのは完二の急所だった。いきなり股間の急所に鋭い痛みが走った。完二は痛みに耐えきれず白目を剥いたままその場に倒れてしまった。

 

「おおおお……おお………」

 

「あっ、ごめん完二くん。痛くなかった?」

 

 蹲る完二を見て雪子は慌てることなくケロッとした表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

二番手:矢澤にこ

 

「よーし!やってやるわ!!」

 

 雪子に続いて、次はにこ。雪子のようなヘマはしないと言わんばかりに気合を入れて目隠しをした。そして、

 

 

バスンっ!

 

 

「ああ……」

 

「何でよおおおおおおおおおっ!!」

 

 結果は間違った指示に乗っかって、別方向にある草むらを打ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番手:南ことり

 

「よーし!頑張るぞ!」

 

 続いてはことり。可愛らしく拳を作って目隠しをして棒を構える。そして、

 

 

「えいっ!」

 

 

コツンっ

 

 

「「「おおおおおっ!!」」」

 

 見事にクリーンヒット。多少皆の誘導に迷ったものの、ことりの振りは見事スイカの芯を捉えて、ヒビを入れることに成功した。見事にスイカに当てることが出来たことに、周りは歓声を上げる。

 

「すごーい!ことりちゃん!」

 

「ナイスだ、ことり」

 

「ことりお姉ちゃん、すごーい!」

 

 メンバーだけでなく、最愛の悠と菜々子に称賛の言葉を貰ったことりは歓喜余って2人に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四番手:鳴上悠

 

「よし、次は俺だな」

 

 ことりがスイカにヒビを入れた後、満を持してこの男が登場。自信満々な表情で目隠しをして棒を構える姿は侍を彷彿とさせた。これは、鳴上兄妹のワンツーフィニッシュで終わるのではないだろうか。誰もがそう期待に思う中、

 

 

ーカッ!ー

「ペルソナっ!!」

 

 

 確信を持ったように掛け声を上げて一気に振り下ろす悠。だが、

 

 

ポヨン!

 

「きゃっ!」

 

「んん?」

 

 

 手に感じたのはスイカの堅い感触ではなく、何か柔らかいものを叩いたような感触だった。何を叩いてしまったのだろうと思って目隠しを外すと、そこにあった光景に悠は絶句した。

 

「の、希…………」

 

「…………………」

 

 何とスイカはスイカでも、希のスイカを叩いてしまった。やってしまったと悠は更に顔を青ざめる。まさかこんな時にまでラッキーを、しかも希にしてしまうなんて思っても見なかった。周りを見てみると、さっきまでの盛り上がりが一気に冷めて、代わりに何人かからの殺気を感じる。当の希も黙ったままなので、悠は冷や汗が止まらない。

 何とかこの気まずい状況を打開しようと思考を巡らせていると、ずっと黙っていた希が不意に悠にヒラリと顔元まで近づくと、うっとりするような表情でこう言った。

 

「もう、悠くんの……エッチ♡」

 

 

ー!!ー

「「「おりゃあああああああああああっ!!」」」

 

 

 

 希からの甘い囁きの後、すぐさま悠に特捜隊&μ‘s陣から凄まじい集中攻撃が繰り出された。嫉妬と殺気が重なった総攻撃で悠は河川敷の彼方へと吹き飛ばされて撃沈する。何故か集中攻撃のメンバーに血の涙を流さんとしている陽介も加わっていたのだが、そっとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 その後も次々と順番が回ってスイカを割りにかかるが、成果はてんでダメだった。ある者はミスリードに乗っかって全く違う方向に打ってしまったり、当たったは良いものの少しヒビが入ったくらいだったり、誤ってクマや陽介の急所をクリーンヒットしたりとしていた。

 

 

 そして、この泥沼のスイカ割りに終止符が打たれた。

 

 

「えいっ!」

 

 

パカっ!

 

 

「「「おおおっ!!」」」

 

 終止符を打った救世主は菜々子だった。去年からずっとスイカを割ってみたいと願っていた菜々子の一振りがスイカを割ったのだ。上手くことりの入れたヒビのところに入ったらしく、スイカは綺麗に二つに分かれていた。

 

「菜々子ちゃん、やったね!」

 

「よくやったな、菜々子」

 

「うん!お兄ちゃん・ことりお姉ちゃん、ありがとう!」

 

 皆に褒められて嬉しそうに笑顔を見せる菜々子。何と言うか、この笑顔を見るだけで癒される。この笑顔を守るためならなんだって出来る気がする。そう思った悠たちは自然と気力と体力が沸き上がってくるのを感じた。

 そして、菜々子が綺麗に割ったスイカは雛乃がキチンと切り分けてくれたので、皆で美味しくいただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、息抜きは出来たか?」

 

「はい。ありがとうございます、叔父さん」

 

 スイカ割りも終わって落ち着いたころ、少し離れていた成り行きを見守っていた堂島に悠はスイカを持ってそうお礼を言った。

 

「そうかしこまらなくていい。さっきも言ったが…偶には父親らしいことをしなきゃならんと思ったからな。せっかくお前がこっちに帰ってきたのに、何もしないってんのはカッコつかねえからな」

 

 ぶっきらぼうにそう言うが、堂島の表情はどことなく照れ臭そうだった。おそらく自身の何気ない差し入れが皆に喜ばれたので嬉しいのだろう。

 

「お前も色々大変だな……」

 

「えっ?」

 

「なんというか…去年からお前を見ていると思うんだよ。何でよく茨の道を進むんだってな」

 

 堂島に突然そう言われて、悠は思い当たる節があるのか苦笑いしてしまった。

 茨の道。今までのことを振り返ってみると、確かにそうかもしれない。運命だったとはいえ、転校したばかりだというのに連続殺人事件の謎に首を突っ込んだり、受験生なのに再び事件に巻き込まれ、更にスクールアイドルのマネージャーを務めている。他人から見れば、何故好き好んでそんな道を歩むのかと思うだろう。しかし、

 

 

「わあ!雛乃さん!上手!」

 

 

 突然りせの歓喜の声が聞こえてきたので見てみると、雛乃がりせたちと一緒にダンスのステップを踏んでいた。

 

「ふふふ、意外とやってみるものね」

 

「流石悠の叔母さんだな」

 

 若干の戸惑いはあるものの現役のりせや穂乃果たちとなんら変わりなく踊れている様子に驚きを隠せない。本人はあっけらかんとしているが、あの歳であんなステップを踏めるなどそうそう出来ることではない。昔ダンスか何かをやっていたのだろうか。

 

「ねえ!堂島さんもやってみませんか?」

 

「な、なに!?俺か?」

 

「おおっ!それいいねえ!」

 

「堂島さんのダンスも見てみたーい!」

 

 突然穂乃果に指名されて動揺する堂島。皆も堂島のダンスを見てみたいのか、期待の眼差しで堂島を見ていた。

 

「いやいやちょっと待て、俺はダンスって歳じゃ……」

 

「ダンスに歳なんて関係ないですよ。さあさあ!」

 

「お父さん、頑張って!」

 

 りせたちにそう勧められながらも渋々と立ち上がる堂島。流石に愛娘の声援に応えなくてはならないと思ったのか、嫌々ながらもダンスという未知の世界に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叔父さん…大丈夫ですか?」

 

「ああ……少し無理しすぎたか………」

 

 

 結果、ダンスに挑戦したものの腰を痛めてしまった。堂島宅のソファで横になる羽目になり、今日はずっとソファで過ごすことになった。りせたちもやりすぎと思ったのか、調子に乗ってすみませんと深々と頭を下げたが堂島はあまり気にしていなかった。幸い軽い程度で済んだらしいが、堂島宅のソファで横になっている様子を見る限り、今日一日は動けないだろう。

 

「全く、もう歳なんですから無理しないで下さいね」

 

「それを言ったら雛乃、お前も」

 

「堂島さん?」

 

「あ、ああ………な、何にもないぞ」

 

 そして、雛乃の地雷を踏んでしまった。何というか、この家に来てから雛乃と堂島の立場が確立している気がする。雛乃は話は終わりというように立ちあがって台所へと向かっていった。

 

 

「そう言えば、今度花火大会でしょ。皆予定は空いているのかしら?」

 

 

 雛乃の不意に放たれた言葉に悠はハッとなった。

 花火大会…今年の夏の締めに相応しいイベントだ。今年の花火大会は確か明後日だった気がする。ラビリスと風花は残念だが、去年一緒に見れなかった直斗や穂乃果たちと是非とも一緒に花火をみたいものだ。一応陽介たちもそのことは把握しているはずだが、念には念を入れておこう。

 

「電話で確認してみるか。ことり、穂乃果たちに確認取ってもらえるか?」

 

「うん!」

 

「菜々子も今年もお兄ちゃんや」

 

「……あっ、ことりの携帯の充電きれちゃった…お兄ちゃん、穂乃果ちゃんたちにも電話してくれる?」

 

「分かった」

 

 夏休み最後のイベントになるであろう花火大会。これは特捜隊&μ‘sの皆と是非とも一緒に過ごしたい。そう思った悠はことりにそう言われるとささっと携帯を取り出して、一人一人にこう連絡した。

 

 

 

 

「花火大会、空いてるか?」

 

 

 

 

ーto be continuded




Next #72「Last Summer Memory in High School 2/2.」

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