PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
最近友人の勧めでバンドリやかぐや様のラジオを聞き始めました。高校の時の文化祭でラジオ番組企画をやったことがありますが、ああいう風に聞いているだけで人を笑わせられる人たちって凄いと思いました。自分もこれくらい人を笑わせられたり、興奮させたりできたら………と高校時代の黒歴史を思い出したながら聞く毎日です。
改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・高評価を付けて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
最近2週間に一回という更新ペースでありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。
本編をどうぞ!
…………………………
―――――ヒルガオは咲かない。こんなに願っているのに
ふと誰かの声が耳に入ってきた。見ると、そこは自室でもなくベルベットルームでもない、真っ白に包まれた知らない空間に立っていた。
いや、少し語弊がある。
今まで見たことがないまるでどこかのスタジオの楽屋のような場所だった。
感覚からしてここが現実ではないのは認識していた。
そもそもあのベルベットルームにしろ、あんな光景が現実に存在するわけないのだから。
しかし、それはそれとして一体ここは……?
『子供ころから思ってた。自分の歌声で世界中の人までとはいかないけど、聞いてくれた人に"ガンバレ"って歌で伝えられるようになりたいと思ってた。そのために、今まで必死に頑張った。どんなに辛いことがあってもあの人となら乗り越えて行けた』
誰かいる。
声から女性なのは分かるが、いくら周りを見渡してもそれらしき姿は見当たらない。
それに、この声……どこか切羽詰まっているように聞こえる。
『だが、もう遅い。私は間違えた。私が伝えたいのは本当の言葉。でもそれは、決して伝わることのない言葉。全部私のせい、あの人が悪いわけじゃない』
その声は段々絶望に浸るように暗くなっていく。
そのせいかこの空間の色が真っ白だったのが、どんどん灰色に染まっていった。
一体何が起こったのか、そんな疑問を他所に女の声は負の言葉を紡ぎ続けていく。
『絆が欲しい、みんなの心を繋ぎ止めたい。だけどもう遅い、今更どうすることも出来ない。私はもう既に理想とは遥か遠い場所へと至ってしまったのだから……』
声がそう言い放った途端、視界が鈍色となり、身体が濁流に飲まれたかのような感覚に襲われた。
荒々しい奔流に巻き込まれたかのように意識がシェイクされて段々薄れていく。
『さようなら。お気に入りの作品の言葉を借りるなら……理想を抱いて溺死しよう』
最後にそんな言葉が聞こえたと思うと、同時に何かが壊れる音がしてその空間は真っ暗になった。
まるで世界が終わったかのように静寂に包まれて、意識も溺れるように薄くなっていく。
だが、突如視界に一筋の光が映り、そこに縋りつくかのように必死に手を伸ばして何かを掴み取った。
…………………………
目が覚めるといつものリムジンの車内を模した群青色の空間にいた。どうしたのかと思ったが、いつの間にかベルベットルームに辿り着いたらしい。周りを見渡してみると、自分の以外の人の気配のなく厳かな静寂がこの場を包んでいたので、あの住人たちはまだ休暇中なのだろう。しかし、今手に掴んだのは何だったのだろうかと見てみると、一枚の便せんだった。もしやと思って開いてみると、こんなことが記されていた。
「……………………………………」
もしかして、これはマリーが書いたポエムなのだろうか。相変わらずの内容に唖然としつつもマジマジと便せんを見ていると、
「のわあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
どこからか奇声が聞こえ、突然視界に顔を真っ赤にしたマリーが現れて自分の手から便せんをひったくった。もはやお決まりと言っても良い登場である。
「ななな何で読んじゃうの!?てゆーか、何でまた落ちてんの!?」
いつも通り顔を赤くして慌ててそう捲し立てるマリー。段々この様子を可愛らしいと思えてきた自分がいる。
「……ばかきらいさいていとわにのろわれろ!!全部勘違いだから!!」
「ううう………何でまた落ちてるんだろう……ちゃんとしまったはずなのに…………」
「……ここは」
気が付くと、悠はどこかの喫茶店のとあるテーブルにうつ伏せになっていた。見ると手には一つのコーヒーカップが握られていた。すると、
「ほう…ウチのコーヒーを飲んで僅かな時間で帰ってくるとは……成長したな、坊主」
この店の店主らしいなんかシティーハンターに出てきそうなスキンヘッドにサングラスをかけたこわもての男性が感心したようにそう語る。そんな光景に見て悠は今どんな状況に置かれていたのかを思い出した。
あの悪夢の王様ゲームから一週間。久々の休日となった今日、悠はまた沖奈市にやってきた。以前りせの悩みのことで相談に乗ってもらったお礼という名目でことりと映画を見に来たのだ。ことり本人は少し完二に教えてもらいたいことがあるから少し遅れるとのことだったので、悠は時間潰しに沖奈市をブラブラしていた。ちなみに他の皆はジュネスのバイトや旅館の手伝い、受験勉強などそれぞれ過ごすことにしているらしい。そんな中で自分だけがここでブラブラしているのは些か痛まれないが、偶にはこんな日があってもいいだろう。
閑話休題
それで、沖奈駅周辺を散策していると、偶々目に入ったシャガールという行きつけの喫茶店が目に入ったので、寄ってみることにした。店に入るとここの店主【無門】は自分のことを覚えていたらしく、またμ‘sのマネージャーとして活躍していることも何故か知っていたので、特別に特製ブレンドコーヒーを一杯奢ると言われたのでご相伴に預かった。
無門の淹れてくれたコーヒーはいつもと変わらず、澄み切っていた。そう関心してコーヒーを口にした途端、意識が朦朧とする壮絶な味わいが口に広がり、そのまま気絶してしまったのだ。それでさっきの夢を見てしまったのだろう。
「フッ…そんな落ち込むことはねえさ。前にも言ったが、人間ってのはな、急がなくてもいつか大人になっちまうんだぜ」
気絶してしまったことに落ち込んでいると思ったのか、店主の無門が励ましのつもりなのかそんな言葉を掛けてくれた。励ましになっているのか分からなかったが、とりあえず曖昧に首を縦に振った。
「約束の時間だろ。まあ、またウチのコーヒーでも飲みに来な。坊主には特別に半額にしてやるからよ」
無門とそんなやり取りを交わした悠は店を後にした。
シャガールを出て時計を見てみると、約束の時間まで少し時間があった。携帯をチェックしていると電車が車両不良で遅れるとことりからメールがあったのを確認した。さて、次はどう時間を潰そうかと歩いていると、
「うにゃあああ!中々取れないにゃああああ!」
「り、凛ちゃん落ち着いて!次はきっと取れるから」
見ると、今日行く予定の映画館近くにあるクレーンゲームに凛と花陽が熱中しているのを見た。どうやら2人も息抜きでこの街に来ていたらしい。ヒートアップしている凛を宥めるのにも限界が来ているのか、焦っている花陽が少し大変そうだったので2人に声を掛けることにした。
「凛たちも映画を見に来たのか?」
「「あっ!悠さん!」」
この男の声はすんなりと聞こえるのか、花陽と凛はすぐに悠に気づいて一目散に駆け寄ってきた。
「悠さん!聞いてよ!!あのジャックフロスト人形が全然取れないにゃ!!凛、こんなに頑張ってるのに!!」
地団駄を踏んでいることからどうやらよほど苦戦しているらしい。まあ確かにジャックフロスト人形は頭の帽子の部分が引っかかってバランスが悪く、中々取るのが難しい品物だ。
「はあ…何でジャックフロスト人形は取れないのに、これしか取れなかったんだろう」
「えっ?」
なんとジャックフロスト人形以外のものはゲットしていたらしい。そこで凛が袋から取り出して見せてきたのは……
「ど、土偶……」
土偶と言っても何故か全体が青銅色で女の子が持つには少し大きい。何故クレーンゲームにこういう景品が置かれていたこと自体がおかしい。それはそれとしてもこんなのを取れた凛もすごいと思う。
「足の裏にアキハバラって書いてあったんですけど、秋葉原にこんなものあったかな?」
何故かこの土偶の形と雰囲気から以前使役していたペルソナ【アラハバキ】を連想したのだが……まさかアナグラム?偶然だろうか。しかし、クレーンゲームをやって成果が重たい土偶だけというのは可哀想だ。
「……ちょっと待ってろ」
悠は2人にそう言うと、すぐさま財布を取り出してクレーンゲームに向き合った。
~数分後~
「すごーい!一発でジャックフロスト人形2体ゲットしたにゃ!」
「わあっ!」
悠はすぐに目当てのジャックフロスト人形をゲットした。まあこの手のゲームは得意だったし、この土偶に比べたら簡単なものだ。
「これと土偶を交換だな」
「ええ!?いいんですか?しかも私の分まで……」
「いいんだよ。ほら」
花陽と凛は少し申し訳なさそうな表情でジャックフロスト人形を受け取ったが、ジャックフロスト人形が手元にあるのを見て次第に嬉しそうな表情になる。2人の笑顔を見てどこか心が洗われた気持ちになってフロスト人形を取って良かったと実感した。やはり、女の子は笑顔が一番だ。
「ところで、悠さんはどうしてここに?」
「ああ…実はことりと」
「おおい!ナルやーん!!」
どこか自分を呼ぶ声がしたので振り返ってみると、近くの駐車場に停まっているハイエースの窓からこちらに手を振っている女性がいた。そこにいたのは……
「ネコさん!?どうしてここに?」
秋葉原でことりと悠がバイトしている人気メイド喫茶【コペンハーゲン】の店長である蛍塚音子さん…通称ネコさんがそこにいた。ここではまず出会わないであろうと人物との遭遇に悠たちは驚いてしまったが、ネコさんはそんな素振りはなくいつも通りの朗らかな調子だった。
「いや~、店が落ち着いたからちょっと前住んでたところに遊びに行っててさ。ちょうど帰ろうとしてた途中で偶々ナルやんたちを見つけたってわけ。そういやナルやんの実家ってここらへんだっけ?」
「いえ、実家じゃなくて親戚がいるところなんですけど」
「ああ、ナルやんのお袋さんの実家だったか。なら、あのブラコンも付いてきてる訳だよね?」
「え、ええ……」
このようにいつも通りのやり取りをしているが、重ねて秋葉原でしか会わないネコさんにこんなところで会うとは思わなかった。曖昧に返事をしてしまったが、ネコさんの言うブラコンとはことりのことだろうか、それとも叔母の雛乃の方だろうか。
「ところで、そのナルやんが持ってるのってなに?何か土偶みたいに見えるけど」
「ええっと。何か凛がクレーンゲームで取ったものなんですけど。アキハバラ土偶」
「アキハバラ土偶?こんなもの、秋葉原にあったっけ?」
「正確には…アラハバキって言うと思うんですけど…」
「はあ~、世の中色々あるもんだねえ」
悠はしどろもどろにそう言うが、ネコさんはアキハバラ土偶をまじまじと見始めた。
「ふ~ん……これをあの虎の土産にやったら、面白そうだね。なんとなくそれっぽいし、あいつなら現代の文字があるなんてオーパーツとか言って騒ぎそうだし………」
何故かネコさんが黒い笑みを浮かべてブツブツ言いだした。何かいたずらを企む子供のような表情になっているが、何を考えているのだろうか。
「ナルやん、それアタシにくれない?」
「えっ?…」
「えええっ!?この土偶ですか!!」
なんとあろうことか、ネコさんがこの使い道がなさそうなアキハバラ人形を要求してきた。これには花陽と凛だけでなく流石の悠も驚きを隠せなかった。
「いや~、何かそれにビビッて来るもんがあるって思ってね。まあ、タダでなんて言わないよ。商売やってる身でそういうのは良くないからさ、ちゃーんとそれ相応のものを出すからさ」
「「「???」」」
そう言ったネコさんは助手席にポンと置いていた鞄から数枚のチケットを取り出して悠たちに渡した。
「これ……何かのチケットか?」
「ええっと……かな……き…う~ん、英語で書いててよく分かんないにゃ」
「凛、もっと勉強しような。これは……【KANAMIN KITCHEN SPECIAL LIVE】……えっ?」
「えええええええええっ!?"かなみんキッチン"スペシャルライブのチケット!?わ、私が応募しても取れなかったライブのチケットが何で……」
なんとネコさんがアキハバラ人形と引き換えにくれたのは、なんと絆フェスで共演するとかなみんキッチンの特別ライブのチケットだった。あまりのことに状況が読み込めないのか、身体を震わせて口をパクパクさせていた。
「ああ、昨日知り合いからもらったやつでね。アタシそういうの興味ないからどうしたもんかと思ってたけど、アンタたちにあげるよ」
「いいいいいいいんですか!?ありがとうございますううううっ!!」
腰を手を当ててドンとそんなことを言うネコさん。そんな花陽には神様に見えたのか、号泣しながら何度も頭を下げた。そんなに嬉しいのかと思ってしまったが、落選してしまったライブに突然行けることになったらどんな感情になるのかと言われれば、分からないことはない。
「でもかよちん、このライブの日付は今日になってるよ。会場も少し遠いし、今からじゃ無理じゃないかにゃ?」
「えっ?」
確かに凛の言う通り、チケットに記載されている日付は今日になっている。更に会場はここからでは少し遠い競技場だ。沖奈駅からも行けないことはないが、今から電車で行くとなるとライブ開始には間に合わない。それを悟った花陽は先ほどの幸せそうな表情から一変して天国から落ちたかのように落ち込んでしまった。しかし、そんな彼女に救いの手が差し伸べられた。
「ん?確か開始は午後からで会場はここから少し近いんでしょ?そんなの今から行けば車で行けば間に合うさ。電車じゃ乗り換えが発生するし混んでるから、あたしが送っていくよ」
「「えっ?」」
「ええええええええっ!!良いんですか!?」
「良いから良いから。これも日頃のお礼だと思って、乗った乗った」
突然の提案に困惑する悠たちを強引に自車に乗せて勢いよく車を発進させたネコさん。まさかこの土偶一つでここまでしてくれるとは。実はこの人、最初からこうするつもりだったのではないかと思うくらいの手際の良さに悠は思わず舌を巻いてしまった。
ことりには済まないが、今日は一緒に映画に行けそうにないと後で謝っておこう。
「ほほう!やっと来たクマねぇ~。やっぱりここは大きな建物が多くてワクワクするクマ。およ~、あれはセンセイ?それにハナちゃんとリンちゃんまで。んん?あれは………はっ!?」
「おいこらクマ吉!1人だけでウロウロするなっての!迷子になっちまったらどうするんだよ!」
「あら?陽介くんたちも一緒やったんやね」
「希ちゃんとことりちゃん?どうしてここに?」
「いや、せっかくお兄ちゃんとの映画だったのに希ちゃんが勝手についてきて」
「た、大変クマよ~~~!!センセイたちが誘拐されたクマ~~~~!!」
「「「えっ?」」」
<【KANAMIN KITCHEN SPECIAL LIVE】会場>
「すっごい人……」
「流石…人気アイドルのライブ会場だな……」
ネコさんの運転に揺られて数時間後、チケットに記されていたかなみんキッチンのライブ会場へとやってきた。やはり人気のアイドルグループ故か会場はたくさんの人でごった返していた。あまりの人ごみにはぐれそうになりつつあったが、何とか会場に入れた。
ちなみにここまで送ってくれたネコさんはそのまま帰りの電車賃や何故か持っていたペンライトなどを悠たちに持たせて帰ってしまった。
今更だが、謎の広い人脈といい、ここまでの手際と言いあのネコさんは色々と謎過ぎる。父の交友関係にある人たちは全部謎な人物ばかりなのではないかと思ってしまった。
「うううう…ファンとしてはこう…グッズとか買っていきたかったんですけど……手持ちが……」
「まあ、いいじゃないか。ネコさんがくれたペンライトで十分だ」
正直こんな花陽のためにもいくつかグッズは買ってあげたかったが、各メンバーの団扇や法被など結構な額が値札に書かれており、今の悠の手持ちではどれも買えなかった。無理して買おうとしたならば、帰りの電車賃がなくなってしまう……
すると、
ワアアァァァァァァ!
明るかった会場が暗くなり、無人だったステージに数々の照明が集中する。その瞬間、一気に会場のボルテージが上昇し周囲が熱気に包まれた。
「きゃあああああああっ!来ました!!かなみんキッチンの皆さんです!」
傍に居た花陽が今までにないくらい発狂したところを見ると、ステージには揃いの衣装に身を包んだ少女たちが登場していた。あれが花陽の憧れのアイドルであり、りせの後輩ポジションと噂されているかなみんキッチンのメンバーらしい。
『は~い♡クセはあるけど、食べたらヤミツキ、あなたの雌羊【左山ともえ】です。いっぱいサービスしちゃうわね、ウフフ♡』
まず自己紹介を始めたのは少し大人っぽい雰囲気を持った女性だった。何と言うか、希と少し違った感じだと思った悠は思わず良いなあと思ってしまった。
『やほー!いつでも一番、出汁なら二番、骨の髄までふわふわ雌鳥【上杉たまみ】です!今日は私の歌に一番に聞き惚れなさい!!』
次は見るからに活発そうな女の子だ。しかし、声も姿もどこかことりに似ている。そう思った悠は"ことり、お客さんに失礼だろ"と注意しに行きそうになって、慌てた花陽と凛に止められる形で叩かれた。
『わーい!どこもプニプニ、毎日ころころ、みんなの子豚ちゃん【右島すもも】だよー!みんな~!今日はすももと一緒に遊ぼうねぇ!』
その次はロリっぽい少女だ。何と言うか一体幾つなのか、気にはなったが身内に同じような人物がいるのを思い出したのでそっとしておいた。その時、妙に悪寒を感じたのは気のせいだと思いたい。
『逞しくそして美しく、君をさらって駆け抜ける、優しき駿馬【中原のぞみ】です。今日は僕たちと一緒に素敵な時間を過ごしましょう!』
ロリっ子の次は如何にも宝○に所属していそうな美少年と見間違えてしまう爽やかな女性だ。率直に言うと、ここまでのメンバー全員のキャラが濃すぎだ。ただ得さえことりに似ている人物がいるだけでお腹いっぱいなのに、これでもかというくらいの勢いに頭がクラッとなりそうになった。すると、
ワアアァァァァァァ!
最後のメンバーにスポットライトが当てられた瞬間、会場の熱が更に上がった。
『どうも!お肉は霜降り、動きはゆっくり、食べたら寝べし!のおっきな牛さん、【真下かなみ】です!今日はよろしくお願いですです!』
そんな自己紹介で彼女たちのセンターに立ち、とびっきりの笑顔を見せたレストランのウエイトレス風の衣装に身を包んだ少女。彼女がりせが以前言っていた真下かなみのようだ。華々しいオーラで周囲にで魅力的な笑顔をふりまく姿にどことなく応援したくなってしまう。それに、思わず注目してしまうのは、あの胸……特捜隊&μ‘s最強と言われる希や直斗より大きいのではなかろうか。
(あれ……?)
だが、それよりも悠が直感的に彼女から感じたの既視感だった。あの少女、どこかで会った気がする。会ったというよりも彼女の声を最近どこかで聞いた覚えがある。しかし、それはテレビで彼女の声を聞いたからではないかと言われればそうなのかもしれない。だが、そんなことで片付けられない何かがある気がするのだが、それが何なのかが思い出せない。
そんな悠の疑問は解消される間もなく、メンバーの自己紹介が終わって少しのトークが終わった後、ライブが始まった。
長いようで短い一時が経ち、興奮も冷めぬままライブは終了した。
「すっごかったです~~!!」
「かよちんの言う通り、楽しかったにゃ!」
花陽はライブに滅入って感動の涙を流していた。突然のこととはいえ、大好きなアイドルのライブに参加できたことはとても嬉しかったらしい。
「ああ、やっぱり生の音楽は良いものだな」
それは悠も同じだった。悠にとって聞く側のライブは4月のA-RISEのライブ以来だったが、やはりそれなりに違う。機械越しではない直接耳に届く生の音というのはこんなにも違うものなのかというくらい高揚感に包まれ、まるで別世界にいるのではないかと思うくらい興奮した。
「いや~本当に楽しかった~~!」
「かなみん最高!」
「絶対絆フェスいかなきゃ!」
「あっ!この動画だよね」
「ああ!噂のやつね」
「千聖ちゃん!私たちも負けられないね!」
「そうね。絆フェスまで時間がないけど、出来るだけのことをやりましょう」
「修行ですね!レッツブシドー!頑張りましょう!」
「あれ?日菜さん、どうしたんですか?」
「いや~、さっきルルン♪ってくる人を見かけてさ。髪がアッシュグレイのルンッとした人なんだけど、お姉ちゃんに紹介したいなぁ」
周りの人の反応に耳を澄ましてみると、そんな声が聞こえてきた。中に不穏なことをいう人も混じっていたがそっとしておこう。アッシュグレイの髪なんてどこにでもいるし、自分を指している訳ではないだろう。隣にいる花陽が微妙な表情でこちらをみているが、気にしない。それに、噂の動画とは……
「悠さん、どうしたのかにゃ?何か微妙そうな顔をしているにゃ」
あまりに考え事をしていると、凛から心配そうにそう声を掛けられた。どうやら考えすぎて眉間に皴が寄ってしまったらしい。
「いや……改めて思い知ったと思って……俺たちが、一ヶ月後にあんな人たちと絆フェスに出ることになるって」
その悠の何気ない言葉に花陽は思い出したかのようにハッとなった。
「そ、そういえば……私たち、一ヶ月後にあのかなみんキッチンと絆フェスで共演するんですよね…………」
「…………………………」
楽しいライブではあったが、悠の言う通り改めて思い知らされた。彼女たちのパフォーマンスは自分たちのモノとは格が違った。洗練されたステップにダンス、そして思わず聞き入ってしまう歌声。こっちはスクールアイドルであっちはプロということもあるが、それを差し引いても実力の差は歴然だった。
まるで自分たちは井の中の蛙だと思い知らされたように落ち込んでしまった花陽。思わず呟いてしまったこととはいえ、モチベーションが下がることを言ってしまった。何とかフォローしなくてはと思ったその時、
「そんなの関係ないにゃ!!」
しかし凛は違ったのか、その不安を打ち砕くように叫んだ。
「凛?」
「凛ちゃん?」
「凛たちだって負けてないにゃ!絵里ちゃんやりせちゃんの練習だって頑張ってるし、課題曲だってしっかり踊れてるにゃ!それに、まだ絆フェスまで一ヶ月あるんだよ!まだまだ間に合うよ!凛たちなら絶対大丈夫にゃ!!だから、そんなに弱気にならないで!2人とも!!」
凛の言葉がストレートに悠と花陽の心に響いて来る。そうだ、
「……そうだな。凛の言う通り、俺たちなら出来る。今までどんなことがあっても、そうだったからな。ありがとう、凛」
「ありがとう、凛ちゃん。私も明日から頑張れそうだよ」
「えへへ~♪やっぱり悠さんとかよちんに褒められるのは嬉しいにゃ!」
2人にお礼を言われて嬉しそうにはにかむ凛。穂乃果とにこと3人で活発ガールズと称されるだけあって、普段天然で抜けているところがあるとはいえ、ここぞという時は大事なところに気づかせてくれる。
「さあ、帰ろう。すっかり遅くなったからな」
「はい!何だかんだで良い休日になりましたね」
「ただクレーンゲームしてただけなのに、濃い一日だったにゃ」
突然のこととはいえ、絆フェスで共演するかなみんキッチンを見れて良かったと思う。帰ったら穂乃果たちにも報告して練習の糧にしよう。そんなことを思いながら、悠たちは帰ろうと近くの駅に向かおうと歩みを進める。その時、
「おおおおおい!見つけたぞ!悠!!」
「鳴上く―――ん!!」
「悠さ――――ん!!」
「ん?」
遠くから仲間たちの声が聞こえてきた。一体何事かと思って振り向いてみると、陽介と穂乃果たち特捜隊&μ‘s全員が焦った顔で走ってくるのが見えたので悠たちは仰天した。ライブが終わって人が皆駅に向かうのに対して、反対方向に全力疾走で駆ける少年少女たちに周りはこちらに注目している。
「えっ?えええええっ!?」
「陽介っ!穂乃果にことりたちも、一体…?ぐおっ!……の、希?」
「良かった……悠くん……」
突然衆人環視の中で女子に抱きつかれる男に周りはどよめいた。更に、その女子……希をを引き剥がそうとすることりやにこたちの姿も出てきて、もしや修羅場かと思い始めたのかワラワラと野次馬が集まってきた。
「お兄ちゃん!?大丈夫だった?酷いことにされなかった?」
「えっ?」
「流石悠さん!花陽ちゃんと凛ちゃんと一緒に逃げてきたんだね!」
「おいおい、ここってライブ会場だぞ。やけに人が多いと思ったらそういうことか」
「なるほど、ライブ会場という人がたくさん行きかう場所を選びましたか。犯人も考えましたね」
「えっ?犯人?」
「ええ、早くそいつを見つけ出しましょう」
「もしかして、この人ごみを利用して逃げたんじゃない?だったら、今もどこかで私たちを狙って」
「かなみたちも狙われてるかもしれないし、早く井上さんに伝えないと」
いきなり現れたと思いきや、何か物騒な言葉をオンパレードに並べる穂乃果たち。何かここに自分たちがいるのが分かったのは風花が関係しているらしいが、一体全体何が起こっているの全く分からなかった。
「みんな、待て。ひとまず落ち着け」
もうすでに手遅れだと思うが、とりあえず暴走する陽介たちを落ち着けさせる。先ほどの力強い抱擁や"誘拐"やら"犯人"やらと単語が行きかって周りの人が勘違いしてこちらに注目しているが、深く考えないでおこう。
「ね、ねえ!あの人ってもしかして、りせ先輩じゃない!?」
「た、確かに…何で久慈川さんがこんなところに?」
「あっ!あの人さっきルルン♪ってきた人だ。混ざってこよう」
「ダメっすよ!日菜さん!少しは空気読んでください!!何かあの人たちヤバそうですよ!!」
深く考えないでおこう……。それよりも
「一体どうしたんだ?こんなとこまで」
「そうだにゃ。凛たち今日ここにいることなんて言ってないのに」
「何かあったんですか?」
思考を切り替えて悠と花陽は改めて陽介たちにそう問うと、逆にそっちこそ何を言ってるんだ的な目で質問を返してきた。
「何って、お前らを助けにきたんだよ!あの佐々木竜次ってやつの仲間に誘拐されたんじゃねえのかよ」
「「「えっ……?助け?えっ?」」」
「な、何その反応……何か嫌な予感がするんだけど………」
「とりあえず、向こうで話をしようか」
~事情説明中~
「「「「「(ズ~ン)」」」」」」
悠たちは連絡をしなかったことを謝りながらも事情を話した。そして、話を聞いた一同は愕然とした。
「えっ?何ですか。つまり、全部はクマさんの勘違いで、私たちはそれに振り回されたってことですか?」
「その上、悠くんと花陽ちゃんと凛ちゃんはネコさんに連れられてかなみんキッチンの特別ライブに行っていたと」
「そうなるな……」
「ごめんなさい。あまりに突然のことで連絡できなくて」
「面目ないにゃ……」
皆の反応を見て悠たちも申し訳なさにいたたまれなくなった。突然のことで呆然と成すがままにしてしまったが、思えば自分がことりに連絡していればこんなことは起きなかったかもしれない。
話を聞くと、クマが自分たちがネコさんに連れられてライブ会場に向かったところを目撃して、それを誘拐されたと勘違いしたらしい。最初は皆も冗談だろうと思っていたが、何度携帯に掛けても繋がらないことで、もしやクマの言うことが本当ではないかと信じ始めて、ありとあらゆる手を駆使してここに悠たちがいることを突き止めたらしい。
何と言うか、勘違いとはいえ自分たちを助けるためにここまでしてくれたことには正直驚きしかないが、それは自分たちのことを思ってのことだったと思うと嬉しく感じる。しかし、
「な~んだ、そうだったクマね。クマはそうだと信じてたクマよ~」
「「「「「……………………はあ?」」」」」
その瞬間、今回の原因であるクマが何事もなかったかのようにそう言ったことに、巻き込まれたメンバーの表情は言葉では表せられないほど冷たくなっていた。
「ええ!?何クマ!?クマが何かしたクマか!?」
「いやさ…去年も同じことがありながら、また引っかかった俺らが言うのは何だけどよ」
「……流石にクマくんの反応はないよね」
「ここまで私たちを振り回しておいて………反省の色が見えないわ」
「……桐条さんにどう説明したらいいんだろう……もうあの人、シャドウワーカーで捜査本部立てたとか言ってたし」
クマの失言に次々と恨み言を吐くメンバー。風花は最悪の場合を想定してたのか美鶴にも連絡を取っていたらしい。というか美鶴、いつの間に捜査本部を立てていたのか。
「く、クマは悪くないクマよ~~!ってちょっ!ヨースケたち!目が光を失ってるクマ~~~!な、何でそんなに本気対応クマ~~!?」
「とりあえずクマ……あっち行こうか」
「クマくん……お仕置きの時間やで☆」
「ごめんよクマくん。人権は人間にしかないんだ」
そう言って陽介たちは逃げられないようにクマを包囲して近くの草むらに連行する。何というか、みんなの目が本気だ。
「悠、悪いけどちょっと待ってもらえるか」
「「はあ……どうぞ」」
「ご自由に」
「せ、センセイ―――――――!オタスケェェェェェェェェェェ!!!」
その後、悠たちの知らないところでクマは陽介や希たちからキツイお仕置きを受けた。最終的にクマはボロボロになったのだが、その過程で何をされたのかはここでは記せない。その惨状を目のあたりにして悠と花陽、凛はこう思った。
「「「そっとしておこう……」」」
何はともあれ、絆フェスまで残り一ヶ月弱。様々なライバルとの出会いを経て、悠たちの挑戦も目前に迫っていた。
ーto be continuded
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