PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

先日発売された【キャサリン FULLBODY】を買いました。内容はともかくとしてパズルゲームとして面白いですし、バーパートでペルソナの曲も流せて雰囲気を楽しめたので自分的に役得な作品でした。

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・高評価を付けて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

それではお楽しみの王様ゲーム回。本編をどうぞ!


#68「King Game in Okina City.」

…………………………

 

 

 

 

 目が覚めるとリムジンの車内を模した群青色の空間にいた。ピアノとソプラノの音色が聞こなければ、自分の以外の人の気配のなく厳かな静寂がこの場を包んでいる。周りを見渡していると、床に一枚の便せんが落ちているのが見えた。見覚えのある柔らかい字で何かが書かれてあったので拾い上げて見てみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ティータイム・ファンタジー』

 

 

ミルクティーにシナモンで

キミのイニシャル描きました

 

温かいのに

キミの分だけスパイシーでした

 

溢れそうだよ

砂糖菓子みたいに

タカナルコドウ……

 

湯気が沁みるのは……ドウシテ?

 

アタシの魔法 通じるカナ……

 

ヒトイキにキミを飲み干したら

キットキミハ コイニオチルヨ……

 

3.2.1

 

 

ゴッツァンデス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………」

 

 

 もしかして、これはマリーが書いたポエムなのだろうか。相変わらずの内容に唖然としつつもマジマジと便せんを見ていると、

 

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 どこからか奇声が聞こえ、突然視界に顔を真っ赤にしたマリーが現れて自分の手から便せんをひったくった。何と言うか定番通りの登場である。

 

 

「よ、読んだ?…読んだでしょ!?」

 

 

 涙目で震えた声でそう尋ねるマリー。これにいつも通り素直にイエスと首を縦に振った。

 

 

「ちちちち違うの!?べべべべべつに最近かまってくれなかったからとか仲間外れにされて寂しかったとかじゃなくて……」

 

「………………………………」

 

「うううううう……ばかきらいさいていウワキヤロー!!悠なんてどっかいっちゃえ!!ううう………何でまた落ちてるんだろう……ちゃんとしまったはずなのに…………」

 

 

 いつものようにブツブツと呟いてしゃがみ込んだマリー。何故かは知らないが自分はそのことについて心当たりある気がした。だが、その心当たりある人物は今ここにはいないので、機会があれば確かめてみよう。その機会があれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<沖奈市>

 

 

 連日容赦の無い猛暑が日本を襲う中、特捜隊&μ‘sは稲羽駅から電車に乗り込んでいた。しばらく電車内で談笑や合間の勉強に勤しんでいると、"沖奈駅"と書かれた目的の駅が見えてきた。電車がゆっくり停車すると、悠たちは駅に降りて辺りの空気を堪能した。

 

「ほわあ~、これが沖奈市か~。稲羽より都会って感じがするね」

 

「まあ、あっちじゃ娯楽ってジュネスくらいしかないしねぇ」

 

 今日は息抜きではるばる沖奈市に来ていた。ここは稲羽から少し遠いが、娯楽施設やお洒落な店のためにここへ遊びに来る八高生は少なくないので、ジュネスに並んでよく来る溜まり場となっている。

 厳しい練習が続いてモチベーションが少し下がりつつあった現状を見て、りせがこの沖奈で最近出来たカラオケに行こうと提案してくれたのだ。そうでなければ今日もあの練習漬けの一日だっただろうし、更にモチベーションが下がっていたことだろう。そう思うとどこか解放された気分になって思わず伸びをしてしまった。

 

「りせ、今日はサングラスと麦わら帽子なんだな」

 

「まあ、一応ね。あの変装って結構面倒くさいし、これくらいなら多少誤魔化せるし。マリーちゃんはしなくていいの?」

 

「別に。悠が一緒なのに変装とかないから」

 

 その言葉はりせの心にグサッと大きなダメージを与えた。りせは復帰前のアイドルという立場があるので仕方ないのだが、こういうことを平然と言えるマリーにどこか負けた気がした。

 ちなみにここにいない風花は大学のレポートと別件の調べものがあるからと言って天城屋で居残りしている。マリーもいつもの同じく天気予報の中継で行けないのかと思いきや、中継が終わってからすぐにこちらに駆け付けたのだ。余程悠と遊びたかったのか、今日のマリーはどこか楽しそうにワクワクしているように見えた。

 

「ねえねえ!あそこの洋服屋さん行ってみようよ!」

 

「おおっ?良いねぇ。じゃあ、マリーちゃんも一緒に行こう!」

 

「えっ?」

 

「そうやねえ。今度はウチらがマリーちゃんに似合う服を選んであげようか。色々お礼もまだできてなかったしなぁ」

 

 そう言って意味ありげにマリーを見つめる希。それにマリーは何かを察したのかフッと笑みを浮かべた。

 

「………うん、良いよ。悠も行こう。フシギキョニューたちと一緒に良いの選んであげるから」

 

「えっ?…あ、ああ」

 

「ええかげん、フシギキョニューからは卒業したいかな…」

 

 マリーに引っ張られて穂乃果たちと一緒に駅前の洋服屋に入る。この2人に何があったのかは分からないが、今日は楽しい一日になりそうだなと密かにそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洋服店で服を選んでもらい、少し沖奈駅付近の店を散策してから今日の目的地である最近できたカラオケ店にやってきた。店側からこの人数が入る部屋をとお願いすると、すぐにこのカラオケ店で大きなカラオケボックスに案内してもらった。あまり見たことがない内装のカラオケボックスに穂乃果たちもテンションが上がる。

 

「わあ~すご~い!こんな良いところでカラオケするのって初めてかも!」

 

「うおおおっ!テンション上がるにゃ~~!」

 

「早速歌うわよ!」

 

 この3人のみならず他の皆もこの大人数でカラオケというあまりないイベントに少なからず盛り上がっていた。絵里と希を除くμ‘sにとってはGW後のリーダー戦争以来だし、その絵里やマリー、ラビリスにとってはカラオケ自体初めてのことだから当然だ。

 

「な、なあ里中…この部屋、ちょっとデジャブ感じねぇ?」

 

「ああ…確かに。修学旅行の記憶が………」

 

「正直あまり思い出したくはないのですが……」

 

 だが、このカラオケボックスを見た陽介たちはどこか微妙な表情をしていた。何故かこの部屋が修学旅行で訪れた辰巳ポートアイランドのクラブで入ったVIPルームに似ているのだ。それで蘇るのはあの修学旅行での苦い思い出。あの場酔いした数名のせいで波乱の王様ゲームに参加させられた、今でも思い出すと頭を抱えたくなるほどの出来事だった。

 

「ん?陽介くんたちどうしたん?」

 

「ガッカリ―…?」

 

「ははは、何でもねえよ。まあ、ここはあの時のクラブじゃないんだし、カラオケぐらいであんなこと起きねえだろ。さて、俺は何歌おっかな~。カラオケなんて久しぶりだし。悠は何歌うんだ?」

 

 心配そうに見るラビリスとマリーにそう気遣いながらも陽介は悪いイメージを振り払ってメニューに目を向ける。若干の不安はあるが、何せ久しぶりのカラオケだ。楽しまなければ損だろう。そう何度も思い込んで陽介はカラオケに集中することにした。

 

「陽介のは入れておいたぞ。【心絵】」

 

「そういうのやめろって!何かどっかから訴えられそうだから!って、ああ!もう始まってる!誰か、マイク貸してくれぇぇ!!」

 

 序盤から陽介のツッコミが炸裂する中、カラオケがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

 

 

 

 

「いや~歌ったね~~!」

 

「一回休憩挟んで良かったかも。みんな結構盛り上がってたし」

 

「…はしゃぐのも良いですが、明日は練習ですよ。そのことも考えてもらいたいですが、この場では無粋ですよね……」

 

 数時間全員が一周歌い終わったところで少し休憩。予想外にも盛り上がり、ここはライブ会場なのではないかと思ってしまうほど歌う者もそれを盛り上げる者も熱狂した。その反動で疲れたせいか、各々頼んだドリンクを飲んだり談笑したりして沸き上がった熱を下げていた。

 

「うううう……りせちーの…りせちーの生【True Story】が聞けたわ!」

 

「はい!ファンとして感激です!!」

 

 にこと花陽は憧れのアイドルであるりせちーの生歌を間近で聞けてファンとして感激している。まあライブやイベント、それも会場の最前席でしかできないような貴重な体験をしたので当然と言えば当然だろう。

 

「千枝さんの【chocolate insomnia】良かったですよね~」

 

「そ、そう?」

 

「真姫ちゃんの【ドリームトリガー】も最高だったにゃ!」

 

「べ、別に……普通よ普通」

 

「ラビリスちゃんの【OH MY シュガーフィーリング!!】も最高やったね」

 

「あ、ありがとうな」

 

「マリーちゃんの【恋愛サーキュレーション】も聞き惚れたよ」

 

「それを言ったら絵里ちゃんもだよ。【only my railgun】って歌、心震えたし。初めてとは思えなかった」

 

 ドリンクを飲みながら楽しそうに各々の歌唱力を講評する女子たち。彼女たちが互いに褒め合ったり照れたりする中、陽介は何故か耳を防いでガクガク震えてずくまっていた。

 

「でも、まるでご本人さんみたいな感じでしたが、何だったのでしょう?」

 

「それは多分千枝さんたちが上手だからだよ。もしくは」

 

「ツッコまねえ……俺はツッコまないぞ………」

 

 そう、陽介はツッコまない。例えその歌声がご本人と似ていようとも、それがどこかの誰かが意図的にチョイスしたと分かっていても絶対陽介はツッコミを入れようとはしなかった。

 

 

 

 だが、そんな中悪夢が現在進行形で訪れていた。

 

 

 

「お、おいクマ公。しっかりしろって」

 

「うるさいクマねぇ~。クマはシャキッとしてるクマよ~!んん?……シャキ?シャキシャキ?……………シャキッとシャーキン!なんつって~!ブフー!」

 

「ぶっ、ふははははははははははは!あ~ははははははははははははは!」

 

 脈録もなくフルスロットルで笑い始めるクマと雪子。完二が必死に宥めようとするが暴走列車の如く2人の笑いが止まらない。見ると、2人の顔が酔っぱらったように顔が赤くなっているのが確認できた。それを見た陽介たちは血の気が引いていた。

 

「おいおい、ちょっと待てよ。もしかして、これって……」

 

「なんかクラブみたいな雰囲気だったからまさかとは思ったけど……」

 

「よく見たらソフトドリンクのメニューにノンアルコールカクテルとかあるし……」

 

「ち、違うもん!ノンアルコールカクテルなんて頼んでないもん!完二が勝手に頼んだだけなんだもん!ヒック…」

 

「お前もか!?」

 

 クマと雪子、りせの様子がおかしくなったのをキッカケに周りに緊張が走る。そして特捜隊メンバーの頭に蘇る修学旅行の記憶が過った。μ‘sメンバーも修学旅行のことは聞いてはいたが、そんな場酔いなんてするはずないと高を括っていたので、まさかこんな風になるとは思わなかった。

 

「ま、まさか……ノンアルコールなんだし、こんなので場酔いするわけ……ねえ、悠さん?」

 

「ははは、まさか。そんな訳ないじゃないか。シンデレラおかわり、ストレートで」

 

 完全にアウトだった。悠の目は以前と同じくトロンとしているし、何故かTシャツのボタンを開けて上半身が全開になっている。完全に場酔いモードだ。更に、

 

「ことりもおかわり!ロックで」

 

「こ、ことりちゃん!?どうしたの?顔が赤いよ?」

 

「ええ~?なにほのかちゃ~ん?ことりはよってないよ~~!ヒック…」

 

「この子も!?」

 

 従妹のことりも場酔いモードになっていた。親戚故なのか症状はほぼ悠と同じで顔が赤く目がトロンとなっている。おまけにこの一家には脱ぎ癖があるのか、服がはだけて下着がもろ見えになっていた。これに慌てた穂乃果たちは覗こうとする陽介とクマに蹴りと掌底を喰らわせて沈めた後、ことりの服を正した。すると、

 

「わ~い!お兄ちゃんの腹筋だ~♡」

 

 ことりは今の悠を見るや否や目にもとまらぬ動きで悠の膝へとダイブした。すりすりと兄の膝で甘える妹という何とも微笑ましい光景のはずなのに、今酔っぱらってるこの2人となると何故か危なげなく感じるのは気のせいか。

 

「ごら~そこの愚民!王様は私のものだぞ~!そこをどけ~い!」

 

「ちがうも~ん!おうさまはことりのものなんだも~ん!どうろぼうねこのものじゃないんだも~ん」

 

「にゃんだと~~~~~?」

 

 

ーガシッ!ー

「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ」」

 

 

 そして、ここでことりとりせによる取っ組み合いが勃発。このまま乙女と乙女による乱闘が始まるのかと思ったが、それは違った。

 

 

 

 

「「王様ゲ――――――ム!!」」

 

 

 

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 キャットファイトが始まるかと思いきや、結託してそんなことを宣い始めた。

 

「カンジ!!さっさと割りばし持ってこーーーい!!」

 

「はあ!?何でまた俺が」

 

「王様の命令は絶対よ!いいからさっさともってこ~い!!」

 

「うふふふふふ、それならウチが持ってきたよ~。うふふ、王様の命令は絶対やからね~」

 

「何でアンタが持ってんの!?」

 

 そう鞄から人数分の割りばしを取り出した希も場酔いモードになっていた。用意周到な希にりせとことりは嬉しそうにハイタッチを交わす。いつも悠のことで対立しているこの3人が嘘のように息ピッタリな感じになっていることに周りは唖然とするしかない。

 

「何で王様ゲーム……?カラオケでやるもんじゃ……」

 

「それより…おうさまげーむって何?」

 

「う~ん?うちも知らんなぁ。確か順平くんがあれは悪魔のゲームだって言ってたんは覚えてるんやけどなぁ」

 

 王様ゲームのことを知らないラビリスとマリーは何のことか分からずに首を傾げている。ラビリスは向こうで少なからずあのお手上げ侍から聞いていたようだが、人物が人物なだけに碌なことを聞いてないだろう。

 

「えっと~、王様の割りばしを引いた人が王様で~、王様は~何番に何番をしろーー!って何でも命令できちゃうの~。そうねぇ…例えば~1番が2番にチッスしろ~~~みたいな。全然悪魔のゲームじゃないよ~~~あはははははははは!」

 

「何でも……命令できる?なんでも?」

 

「おい天城!マリーちゃんたちに余計なこと教えんな!つーか、ここで王様ゲームする必要ないだろ!」

 

 雪子の説明に語弊があったので陽介は思わずツッコミを入れてしまった。証拠に"何でも"という部分に反応してマリーの目の色が獲物を目にした獣のモノに変わっている。

 

「大人はこういう時は王様ゲームやるって法律で決まってんのよ~。ヒック……わたし知ってんのよ~。ヒック……μ‘sの打ち上げの時に穂乃果ちゃんたちが王様ゲームにかこつけて悠センパイにいやらしいことしてるの」

 

「してないよ!!そもそも王様ゲームなんてしたことないから!!」

 

「だ~から~!今度こそ合法的にセンパイとチッスしてやる~!王様の命令は違法でも全て合法になるんだから~」

 

 思わぬ濡れ衣を着せた上にとんでもない発言をしたりせ。去年辰巳ポートアイランドで悠に膝枕をしてもらったのにまだ足りないというのか。それに同調するかのように雪子とことりがけらけらと笑いだした。

 

「あはははははは!そ~よね~。王様の命令はぜったいよねえ~!」

 

「そうだそうだ~!たとえきょうだいでもあいさえあればもんだいないのだ~!」

 

「そんなことあるか!違法なもんは違法だろ!!てか、お前ら悠に何する気だ!?」

 

「そうですよ!風紀や悠さんの身の安全のためにもこんなゲームは止めにして」

 

「もう~陽介くんと海未ちゃんは頭が固いなぁ~。そんなんやからいつまでも経っても2人に春が来ないんよ~うふふふ」

 

「「余計なお世話だ(です)!!」」

 

 酔っぱらいたちの暴走を止めようとした陽介と海未だったが、希から思わぬカウンターを喰らってしまった。痛いところを突かれた2人は言葉を詰まらせてしまったが、そんなことは意に返さず王様ゲームは強行された。

 

 

 

「……バカ軍団ですか。この人たち……」

 

「本当、この人たちダメかも…」

 

「わ、私たち…どうなるんだろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王様ゲ――――――――――ム!!」

 

 

 

「「「Yeahhhhhhhhhhhhh!!」」」

 

 

 

「まず第一回戦~!王様だ~れだ!」

 

 

 りせの掛け声と共に一斉に各々引いた割りばしを見る。

 

 

「うふふ。まずはウチやね」

 

 

「やっべぇのが来た……クマ吉とはまた恐ろしい意味で………」

 

 最初に王様を引いたのは希だった。陽介の言う通り希は要注意だ。もちろん希の狙いは悠と何かすることだろうが、そうじゃなかったとしたらライバルを撃沈させるために何かキツイことを命令するに違いない。

 

「言っとくけど、名前指しはダメよ」

 

「うふふ、心配せんでも分かっとるよ~。そうやねえ~、じゃあ2番の人が8番にキス!」

 

 命令が下されて指定された2番と8番が誰なのかを見渡す一同。すると、

 

「いえーい!クマが2番クマ~~!さあ可愛いベイベーちゃんたち~クマと熱いベーゼを、むちゅ~」

 

「げえええっ!?またクマ公と!?」

 

 結果、2番はクマで8番は完二だった。男同士のキス、それも去年のおかわりという結果になったので周りは開いた口が塞がらなかった。これに流石の完二も慌てて希の方を見る。

 

「と、東條先輩!チェンジ!チェンジを!」

 

「あら~いかんよ完二くん、チェンジなんてウチの人の趣味をとっちゃ~」

 

「いや!それ趣味じゃねえし!!てか、"ウチのひと"って誰だ!?」

 

「そ・れ・に♪王様の命令は絶対やろ♪」

 

「「チッス!チッス!チッス!チッス!」」

 

 もはや完全に逃げ道は塞がれた。だが、それでも諦めまいと何とか策を練ろうとしたが、すでに遅かった。当のクマが命令を遂行しようと急接近していたのだ。

 

「カンジ!やっぱりクマたちはこうなる運命だったのね!」

 

「ハァ!?」

 

「王様の命令じゃしょうがないクマね。じゃあ、クマがカンジに新たな可能性を見せてあ・げ・ちゃ・う♡」

 

「ふ、ふざけんな!こっちくんな!って、ああああああああああああああっ!!」

 

 ものが割れると共に響く完二の断末魔。その後に展開された光景に皆気まずそうな表情で見るしかなかった。具体的にどうなったのかといのはご想像にお任せしよう。

 

 

 

 

――――巽完二 再起不能(リタイア)

――――原因:新たな可能性

 

 

 

 

「よ~し!早速脱落者が出たところで次にいくわよ~~!」

 

「王様ゲームってそういうゲームじゃないでしょ……」

 

「なんかテロップがどっかでみたことあるやつみたいだけど……まあいいや。完二、お前の尊い犠牲は無駄にはしないぜ」

 

「いや!俺死んでないんすけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「続いて!第2回戦――!王様だ~れだ!」」

 

 

 りせの掛け声と共に再び一斉に各々引いた割りばしを見る。

 

 

ーカッ!ー

 

 

 瞬間、空中に一本の割りばしがクルクルと回転して打ち上げられた。そして、ある人物が華麗に立ち上がってそれをクールにキャッチした。その人物は……

 

 

「キングだ」

 

 

 やはり王様を引き当てたのはこの男…鳴上悠だった。それが分かった途端、皆の間に再び緊張が走った。普段でも天然が入って予想もつかないことをする悠だが、場酔いモードになればどんなことをするのか計り知れない。

 

「な、鳴上くん……なるべくキツイのは勘弁して」

 

「ダメよ~!チッスの次はチッスよりきわどくないよ~~!くーきよめよ~なるかみ~~!あはははは!」

 

 何とかここは軽いものにしてもらおうと懇願しようとするが、酔っぱらいの横やりが入った。そして、昨年のように"抱きつく"やら"膝枕"やら"時代は肩車"などと場を煽り始めている。やっぱりこの王様ゲームを終了させるためにはこの酔っ払いたちを何とかしなければ終わらないだろう。すると、

 

「……11番」

 

「えっ?」

 

 悠はそう言って袖の下から2つのサイコロを取り出した。そして、それを高らかに上空へ放り投げた。すると、まるで狙ったかのようにテーブルへと落ち、2つのサイコロは並ぶように両方赤い1のマスを上にして止まった。まるでマジシャンのショーを見てるかのような芸当に皆は驚嘆の声を上げた。そんな皆を他所に悠は王としての命令を下した。

 

 

 

「11番が…()()()()

 

 

 

ー!!ー

 

 

 

「わ、わたし……嘘でしょ………」

 

 11番を引き当てたのは何と絵里だった。正直に言うとあの悠に抱き着くのかと思うと恥ずかしさが爆発しそうで断りたいがそうは行かない。

 

「王様の命令は?」

 

「「ぜったーい!!」」

 

 この酔っ払いたちが逃がしてくれるわけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 当然のようにソファに佇む悠を前に絵里は緊張のあまりに顔を紅潮させていた。王様の命令とはいえあの悠に自ら抱きつくなど緊張して仕方がない。絵里の頭の中はパニックに陥っていた。

 

(どどどどどどどどどどうしよう!!い、一回悠に抱き着いたことあったけど、それは…そう!火星からやってきた生命体に驚いたハプニングみたいなものだったじゃない!それにロシアでは普通にお父さんとかにもやってたし……でもでもでもでもでも、何か恥ずかしい!!)

 

「おお~い!はやくしろ~!あとがつっかえてんのよ~」

 

「「はっぐ!はっぐ!はっぐ!はっぐ!!」」

 

「ちなみに~ハグは最低でも1分以上だよ~これは~決定事項~」

 

 外野からヤジを飛ばす酔っぱらいたち。もう完全にうざがられる上司みたいになっている。周りも気遣ってそんな酔っぱらいたちを注意してくれたが、絵里は腹を決めた。

 

 

「うう~~~~~~ままよ!!」

 

 

 覚悟を決めた絵里はガバッと悠に抱きしめた。絵里の思い切った行動に外野が驚嘆の声を上げる中、絵里は沸き上がる羞恥心を必死に堪えて抱きしめる力を強くしていた。早く終わらないだろうかと思うほど時間が長く感じる。しかしこのまま終わるのは何か勿体ないと思う自分もいる。そんな心の葛藤に苛われていると、

 

「いつもありがとうな、絵里」

 

「ふぇっ!?」

 

 酔った頭で何を思ったのか、悠の方からも絵里を強く抱きしめて頭をポンポンと撫で始めたのだ。もうこれは端からも見たらただのカップルにしか見えず、突然の思いがけない出来事に絵里の脳内は処理速度が追い付かずパンク寸前になる。そして、追い打ちを掛けるかのように悠は耳元にこう囁いた。

 

「これからも頼りにしてるぞ。俺のエリー

 

「あ…あわわわわわわわわっ!あふっ………」

 

 絵里は不意打ちが嬉しすぎて耐え切れず、ついに限界に達したせいかそのままフリーズして近くのソファに倒れこんでしまった。小声で何を言ったのか聞こえなかったが、余程の衝撃だったのか目がぐるぐると回って顔が極限まで紅潮していた。あの絵里をここまでにしてしまうとは、鳴上悠……恐るべし。

 

「おお?やるな~?ウチも~!」

 

 すると、絵里の渾身のハグに何を思ったのか、希が突然脈録もなく悠の後ろから手を回して抱き着いてきた。所謂あすなろ抱きである。それもかなり身体を密着させて周りに見せつけるかのように。

 

「おお~!ラブラブだ~!!カップルだ~!!シュラバだシュラバ~~~!!あはははははは!」

 

「ちょっ!雪子!!あんまり周り煽んないで!!ガチで修羅場になりそうだから!!」

 

 唖然としている空気の中で容赦なく煽りに煽る雪子を窘める千枝。何人かが今の光景に殺気を出しているので千枝の言う通り本当の修羅場になりかねない。現にマリーは掌を若干放電させていた。

 

「エリチ~悠くんをモノにしたいならこれくらい平気でやんなきゃあかんよ~。文月の学園じゃ下ネタキャラやっとったのに、空気読まんと」

 

「何の話!?」

 

 千枝の努力は虚しく当の本人が自ら煽っていた。そうなると、それに対抗する者が居る訳で、

 

「おい、そこの巨乳星人!王様は私のものだぞ~。どけ~い!!」

 

「ああ!のぞみちゃ~ん、ず~る~い!!おにいちゃんのとなりはことりのもの~!」

 

「……そこは私の場所」

 

 希の行動に憤慨したりせとことりは押しのけて悠の両膝、右肩を確保する。りせとことりはそろって甘えるようにスリスリと頬ずりし、マリーも負けじと希よりも更にぎゅっとあすなろ抱きをした。希も一旦押し切られたものの、またマリーとは反対側の方からあすなろ抱きをする。これでハーレム主人公のような男子なら誰もが夢見たことがあるシチュエーションの出来上がりだ。これを見てある者は唖然とし、ある者は鋭い視線を向け、ある者は耐え切れず卒倒してしまった者までいた。

 

 

「悠!毎度毎度お前ばっかずりいぞ!!」

 

「き、キングだからな」

 

 

 4人の女子に囲まれて満更でもなさそうにメガネをくいっと上げた悠であった。

 

 

 

 

――――絢瀬絵里 再起不能(リタイア)

――――原因:想い人からの甘い抱擁と言霊

 

 

 

 

 この後も地獄の王様ゲームは続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3回戦

 

「あっ、王様」

 

 次に王様を引き当てたのはマリーだった。この人物も今までと同様どんな命令が飛び出すのか分からないので周りを固唾を飲んでマリーの命令を待った。

 

「じゃあ、悠が私に抱き着く」

 

「ダメに決まってるでしょ!!名指しはだめ!!」

 

「…チッ………じゃあ、4番と12番ががこの歌を全力で歌う」

 

「今この子舌打ちしなかった?」

 

「ちょっ!僕が12番ですか!?」

 

「4番って私じゃない!しかもこの曲って」

 

 そして、王様(マリー)が4番(にこ)と12番(直斗)に指定した曲は【魔女探偵ラブリーン】の歌だった。

 

 

 

 

「「素行調査は弊社にお任せ♪魔女探偵ラブリーン☆」」

 

『キラッと登場!』

 

 

 

「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」

 

 

 王の命令で全力で歌えというので、店にあったラブリーンの衣装を借りて歌い切った直斗とにこ。2人のパフォーマンスに皆は思わず拍手した。

 

「はあ……やっぱり歌も上手くいかないですね。普段から練習しているだけあって矢澤先輩はとても上手でしたよ。それに、こんな衣装まで用意して頂いて」

 

「…………………」

 

 己の未熟さを痛感しながらそうにこを褒めちぎった直斗だったが、肝心のにこの方は釈然としなかった。というか気づいてしまった。皆の視線が直斗の測り間違いとしか言いようがないあの胸に行っていることを。見れば絵里や希ほどの大きさはありそうだし、自分もそう思う。現に完二なんかはそんな直斗を見て鼻血が出たのか、必死に鼻を抑えていた。それに比べて自分は………何故こうも違うのか。歳はこっちが一コ上のはずなのに何故……

 

「や、矢澤先輩、どうしたんですか?」

 

「…………どうせ私はまな板よ。子供体型よ………(バタンッ)」

 

「矢澤先輩!?」

 

 

 

 

――――矢澤にこ 再起不能(リタイア)

――――原因:格差社会による絶望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4回戦

 

「あ、王様や。じゃあ、3番が9番を肩車してみようか」

 

「…3番だ」

 

「えええっ!ゆゆゆゆ悠さんと~~~!」

 

 王様(ラビリス)の命により、3番(悠)が9番(穂乃果)を肩車する結果に。穂乃果はしどろもどろになりながらも悠の肩に乗った。だが、この後穂乃果は後悔した。今日の服装の下をスカートにしたことを。

 

 

 

「ゆ…悠さん……重くない?」

 

「…問題ない。平気だ」

 

「へ、平気!?平気ってことはやっぱり重いんだ!!それって穂乃果が太ってるってことだよね!?で、でもこれ脂肪じゃなくて筋肉だから!海未ちゃんの練習がきつくて筋肉ついただけだから!!」

 

「ちょっ、バランスが……うわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 変な言い訳をして暴れた故か悠と穂乃果はバランスを崩して倒れてしまった。幸いけがはなさそうだが、その倒れた体勢に皆は驚愕した。何故なら見てみると穂乃果のスカートの中に悠の顔が入っているというラブコメにありがちなシチュエーションになっていたからだ。

 

「あっ、くまさんが目の前に……」

 

「だだだだだ、ダレカタスケテ―――――!!」

 

 

 

 

――――高坂穂乃果 再起不能(リタイア)

――――原因:憧れの人にパンツを見られた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦

 

「やった~!おうさまだ~~~!クイーンだ~~~!!キングがクイーンにキス!」

 

「だからそう言うのダメだって!!」

 

「むうっ!……じゃあ、1ばんが12ばんにおにいちゃんだいすきって、あいのこくはくをする~!」

 

 思い通りに行かなかったことに不満を抱きながらも渋々と命令を出す王様(ことり)。すると、

 

「や、やったぜ!!俺が1番だっ!!やったああああああっ!!さあ12番はだれだ!?」

 

「「「うわあ………」」」

 

 なんと1番を引き当てたのは運の無さに定評のある陽介だった。陽介のあまりの歓喜っぷりに周りの女子たちはドン引きしたように憐みの視線を向けるが、当人は突如訪れた幸運に目が眩んでそんなものは気にしなかった。

 それに、ここには女子は自分たち男子の倍以上占めているのでどれだけ不幸体質だろうともかなりの確率で女子に当たるはず。これは勝ちだ。ついに自分にも運が回ってきたのだ。そう思って意気揚々とする陽介は自分に告白するという12番を探していると、肩にポンと手を置かれた。

 

 

「……俺っス…」

 

 

 それは完二だった。ある意味確率の低い最悪のミラクルを起こしてしまった。

 

「いやだああああああああ!!チェンジだチェンジ!!こんなんトラウマ確定もんだろ!?」

 

「花村うるさい。てか、王様の命令は絶対じゃなかったっけ?」

 

「そうだそうだ!おにいちゃんじゃないのはざんねんだけど、おうさまのめいれいはぜったーい!!」

 

「陽介さん、諦めましょう」

 

 必死に助けを請う陽介だったが冷たく見放されてしまった。そうこうしているうちに諦めて王様の命令を実行しようと覚悟を決めた目をした完二がジリジリと近づいていく。

 

「……花村先輩、行くっすよ………」

 

「お、おい!やめろ完二!!こんなの……絶対」

 

 

 

 

「お兄ちゃん!大好きっすうううううううううううううううう!!」

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

――――花村陽介 再起不能(リタイア)

――――原因:漢からの熱い告白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もこの悪魔のゲームは更に被害を出していた。戦いが戦いを生み、様々な犠牲者を出していき、もはやこのカラオケボックスはカオスと化していた。こんな死屍累々とした状況の中でも戦いは続いていく。自分たちがいい思いをするまで終わらないという身勝手な欲望が酔っぱらいたちを駆り立てていた。

 

「次行くわよ~!王様だ~れだ!!」

 

 何度目か分からないコールがまた響き渡る。もはや神に祈るしかないこの状況の中、その祈りは通じこの戦いを終わらせる者が現れた。

 

 

 

 

 

 

うふふふ……もうおふざけはこれまでです……

 

 

 

 

 

 

 王様を引き当てたのは海未。祈りが通じたのは神は神でも邪神だった。証拠に疲れているのか、海未の背後に重油のようなうねうねとした黒い影のようなものが見え、暗く不気味なオルガンのような音色が幻聴として聞こえる気がする。そんな不気味な迫力にまるで水を打ったかのように周りが静寂に包まれた。そして、海未はこの戦いを終わらせる最後の命令を下した。

 

 

 

「王の名において命じます……明日は練習5()()です!!」

 

 

 

「「「「なっ!!」」」」

 

 

 これにはこの場にいる全員が絶句した。今の練習はあの体力ある悠や完二、千枝でさえ倒れてしまうくらいキツイのに、その5倍となったらもう地獄でしかない。しかし、これに抗うことは出来なかった。何故なら……

 

 

「なお、これに逆らった者は更に倍にします。うふふふふ、逃げても無駄ですよ。だって何度も言ってたじゃないですか。王様の命令は……?」

 

 

「「「「「絶対……」」」」」

 

 

 海未による地獄が決定した瞬間、まるで停電が起こったかのようにその場にいる全員の目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

――――特捜隊&μ‘s 再起不能(リタイア)

――――原因:明日への絶望

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてカラオケボックスでの王様ゲームは幕を閉じた。何人が犠牲になり一部の者が役得した無益な戦いはこれで終わった。ちょうど店側から終了時間の電話がかかったので、明日の練習を憂鬱に思いながら陽介たちは支払いを済ませて帰宅したのであった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、王様(海未)の命令はもちろん実行され、特捜隊&μ‘sは数日筋肉痛に悩まされたとかないとか。これを受けて、皆は思った。

 

 

 

 

 

 

"もう王様ゲームなんてしない"

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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