PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

思わぬところで風邪を引いてしまいました。インフルも流行っているところなので、皆さんも気をつけてください。風邪引くと本当に辛いですよ。本当に……

そして、Fate/stay night[HF]の2章が公開されましたね。ふとあの予告映像を見ていたら、あのゲームのスマホ版をプレイした時、バッドエンドになりまくってタイガー道場で「愛が足りないぜ!」と藤ねえに一喝されまくったのを思い出しました。まだテスト中なので観に行ってませんが、終わったら絶対観に行きます。

そんなことはさておき、改めてお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方・高評価を付けて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ!


#66「Scout for Bond festival.」

<ジュネス フードコート>

 

 

 

ミーンミーンミーンミーンミーンミーン

 

 

 

「暑い………」

 

「暑いね」

 

「ああ…とけそう……脳みそ的な何かが………」

 

「昨日の楽しい海水浴が嘘みたい……」

 

「あ…天城屋に帰ってゴロゴロしたいにゃ………」

 

「あ…編み物がしてえ……」

 

 楽しくも波乱のあった海水浴から翌日、うんざりするくらいの日差しが地面を容赦なく照らしている最中、何人かを除いた特捜隊&μ‘sたちはジュネスのフードコートで宿題や受験勉強に励んでいた。だが、連日の異常な猛暑のせいか、あまり進捗は良くなかった。いつものテント席にいるので直射日光は避けられているのだが、高温に加えてじめっとした湿気がセットで襲ってくるので集中が中々続かない。勉強嫌いの穂乃果たちに至っては既にグロッキーになっていた。

 

「そもそも、夏休みのいちばん暑い時期にジュネスの屋上で勉強するってこと自体が間違ってると思うんだけど……」

 

「だよねえ……じゃあ、そういうことで」

 

「穂乃果、どこに行くの?」

 

「溶ける前に帰ろうかと……」

 

「そうだよね!賛成!帰って料理の研究を」

 

「どっちも帰すわけないでしょ。宿題も全然進んでないし、台所に危険物を錬成させてたまるもんですか」

 

「「はい……」」

 

 そして、このように脱走を図ろうとする者もしばしば。その度に絵里が阻止しているが、正直このやり取りもそろそろ飽きてきたところだ。

 

「ねえ、今日ここに集合って言ったの…花村くんだっけ?

 

「い、いや……今回はりせちゃんだけど……雪子、目が怖いよ」

 

「暑さのせいよ」

 

「はあ……」

 

 目を細め低い声でそんなことを言ってきた雪子。正直背筋が凍るほど怖い。

 

 何故彼女たちがこんなことをしているのかと言うと、先日のりせからの電話に起因する。

 今日はりせから大事な話があるというのでジュネスのフードコートに集まってほしいと連絡が来たのだ。それと何故かりせのマネージャーも来るというので今りせは悠とことりを連れて、そのマネージャーを迎えに行っている。ちなみに何故悠とことりがと聞かれると、悠はりせに頼まれて、ことりはりせが悠に変なことをしないように監視でとのことらしい。

 そして、陽介とクマはジュネスのバイト、マリーはいつものように天気予報の中継、ラビリスと風花はメンテナンスの時間と言って天城屋にいてここにはいない。のっけから主人公やその他不在というこの状況に企画倒れだなと一同は思った。

 

「ああ~これは集中できんわ~。早く悠くんとイチャイチャしたいわ~」

 

「希、それは私たちの不快指数が上がるからやめて。私もイチャイチャしたい

 

「真姫ちゃんも本音が駄々洩れだよ」

 

 しかし、それよりも今自分たちの悩みの種はこの蒸し暑い状況だ。これでは宿題どころではない。上記のように聞き捨てならない妄言を吐く者も出てきている。

 

「ねえねえ!ちょっと休憩しようよ!このままじゃ、みんな溶けちゃうし……ほら、そこに美味しそうなかき氷屋さんもあるからさ」

 

「……しょうがないわね。確かにこのままじゃ不効率だし、かき氷でも食べて一息入れましょう」

 

「「「「やった―――――!」」」」

 

 絵里からのお許しを得たので、穂乃果たちは水を得た魚のように歓喜して一目散にかき氷屋さんに走って行った。やっぱりこう暑くて脳が働かない時はかき氷のような冷たいスイーツが一番だ。

 

「店員さ~ん!かき氷を……って、えええええっ!?」

 

「ホ~イそこのプリティちゃんたち、かき氷をお求めクマ?」

 

 すると、かき氷屋ではジュネスのエプロンを付けたクマが待ち構えていたように立っていた。

 

「クマさん!!何してるの!?」

 

「ヨースケが受験勉強で忙しいから、クマが代わりにここでアルバイトしているクマ。クマがかき氷屋さんの看板娘……じゃなくて…………あっ、ドラ息子をやってるクマ」

 

「ドラ息子……ところでクマ、今日は着ぐるみじゃないの?」

 

「ノンノン、にこチャン。こんな炎天下でず~とあの恰好のままだとクマ死んじゃうクマよ~。中でドロドロに溶けちゃうクマ……」

 

「想像したくない………」

 

 何かリアルに想像するとゾッとする。この暑い中にいるのに何故か少しヒヤッとした気がした。

 

「そうそう、今日はめちゃんこ暑いから、かき氷サービスするクマ。好きなものを頼んで良いクマよ」

 

「えっ?いいんですか!?」

 

「やったー!!じゃあ穂乃果はこの宇治銀時ソフトメガ盛りジュネス祭りDX!」

 

「穂乃果ちゃん、メガ盛りよりオニ盛りの方がお得だよ。さくらんぼがついてるから」

 

「本当!?じゃあ、オニ盛りで!」

 

「凛も同じものをお願いするにゃ!」

 

 サービスと聞いて喜んだ穂乃果たちは容赦なしに店で高いかき氷を注文する。そして、テント席の絵里たちの注文も聞いたクマはササッと屋台の中へと消えて、すさまじい勢いで数多のかき氷を作っていった。そして、その十数分後……

 

「はいは~い!かき氷人数分おまちどおさまクマ~!」

 

「わあすご~い!」

 

「すっごく美味しそう!」

 

 目の前に広がるクマ特製かき氷たちを目にして穂乃果たちは歓喜した。大きい器に上手に添えられたソフトクリームと見栄えよく盛りつけられた果物たち。その出来栄えだけでも凄いが、何だかこれを見ているだけで自分たちを苦しめていたこの暑さを忘れさせるくらい冷え冷えとしていた。ここまでのクオリティでこの人数分を作り上げるとはもはや職人技だ。

 

「ありがとう!クマさん」

 

「デュフフフ~♡お礼は逆ナンで♡」

 

「えっ?なにきこえなーい」

 

「雪子…今日は返しが厳しいぞ?」

 

「暑さのせい。全部紫外線が悪い」

 

 かき氷が来ても雪子の返しは手厳しいものとなっていて、そんな雪子に皆が顔を引きつられてしまった。偏見かもしれないが、雪子しかり海未しかり大和撫子系って怖いと思ってしまう人が多いのかと思ってしまうのは気のせいか。

 

「カンジも一つどうぞ」

 

「おっ、悪いなクマ公。俺も分も作ってもらってよ」

 

「お代はホノちゃんたちの分と一緒にツケとくクマね」

 

「いやサービスじゃねえのかよ!!」

 

「サービスは女の子たちだけクマよ~。まあセンセイやカンジには~いつもお世話になってるから、ヨースケに全部ツケとくクマね」

 

「そうだな。そうすっか」

 

「それでいいんだ…」

 

「花村の扱いが…完二くんまで雑になっていく……」

 

 まさか全員分のかき氷代をこの場にいない陽介にツケさせるとは。自分たちも以前同じようなことをやっているので人のことは言えないが、今更ながら陽介が不憫に思えてきた。

 その後、そのご当人がバイトから帰ってきてクマに勝手に自分宛にツケられた12,000円也と書かれてた領収書を見て青ざめることとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、りせちゃんたち来た」

 

 しばらく冷たいかき氷で暑さを凌いでいると、駅に迎えに行っていたりせたちが帰ってきたのが見えた。見ると、りせや付き添いでついていった悠とことりだけでなく、どこかで見たことがあるスーツの男性も一緒だった。

 

「ごめーん!遅れちゃって。バスが中々来なくって」

 

「ああ、別に良いんだけど………その鳴上くんの隣にいる人がりせちゃんのマネージャーさん?」

 

「うん!紹介するね!私のマネージャーやってくれてる井上さん」

 

井上(いのうえ)(みのる)です。よろしくね。君たちのことはりせちゃんからよく聞いてるよ」

 

「ど、どうも……」

 

「こちらこそ……」

 

 りせのマネージャーである井上から丁寧に挨拶されて陽介たちは何故か変に畏まってしまった。

 見たところ年齢は20代後半から30代前半、メガネを掛けて背広のスーツをきちんと着こなしている。一見サラリーマンのように普通の人のように見えたが、どこかただ者ではない雰囲気を感じる。例えるなら味方を勝利に導くために戦局を見極めて策を講じる軍師のようなものだ。これがアイドルのマネージャーというものかと皆は思った。

 

「あっ、もし良かったら飲み物でもどうかな?今鳴上くんが持ってる」

 

「およよ!りせちゃんのマネージャーさん!お近づきの印にかき氷なんてどうクマ?」

 

「えっ?」

 

 井上が差し入れに持ってきた飲み物を渡そうとした途端、クマが割り込んでかき氷を勧めてきた。クマの空気の読めなさはいつものことだが、何故このような雰囲気に包まれている中で商売根性を出せるのか問い詰めたい。

 

「今ならこの宇治銀時ソフトオニ盛りジュネス祭りDXがおすすめですよ」

 

「えっ?……あの…」

 

「遠慮しないで下さい。お代は陽介さんがツケてくれますから」

 

「ざけんな!?これ以上出費が増えたら破産するわ!!」

 

 何故か穂乃果たちまでかき氷を勧めてきたと思えば、この有り様。どこまでも陽介にツケさせようとする穂乃果たちは良くも悪くも特捜隊に染まってきた気がする。

 

「あっ、私もそれ頼もう♪」

 

「お兄ちゃん、ことりもかき氷食べたいな♪」

 

「よし、陽介に奢ってもらおう」

 

「お前らもさらっと便乗してんじゃねえよ!!」

 

「あはは……じゃあ、それを一つ貰おうかな。お代は自分で払うし、良かったら陽介くん?のお代も僕が払おうか?」

 

「い、良いんですか!?ありがとうございます!!これ払わされたら俺の数少ない貯金が無くなって…………」

 

「「「「…………」」」」

 

 理不尽にツケられた分まで井上が払ってくれると聞いて、陽介は歓喜して全力でお礼を言った。そのついでにポロッと出た陽介の財布事情を聞いて、穂乃果たちは思わず罪悪感が湧いてしまった。冗談かと思ったが、あの表情が切羽詰まっていたので今度から理不尽にツケるのはやめにしようと一同は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで井上さん、話って何なんですか?わざわざ稲羽まで来たってことは…」

 

 ジュネスのかき氷と井上から差し入れで貰った冷たい缶ジュースで一息ついたところで、悠は井上にそう本題を切り出した。ちなみにかき氷代は全部井上が払ってくれた上に自分の分まで奢ってもらったので、陽介は先ほどと打って変わって幸せそうにオニ盛りジュネス祭りDXのかき氷を堪能した。

 

「うん。鳴上くんはりせちゃんから聞いたと思うけど、実はね」

 

「はは~ん!クマわかっちゃった~!りせちゃんの事務所がクマをスカウトしに来たってことでしょ?あいにく、クマは~ジュネスと専属契約だし、アイドルとか困っちゃう~☆」

 

「そんなのはないから…」

 

「お前、ただのバイトだから……」

 

「かき氷屋のドラ息子やなかったっけ?」

 

「ぎゃふっ!もう!チエチャンもヨースケもノゾちゃんもひどいクマ!」

 

 またも井上の言葉に割り込んでそんな妄言を放つクマを容赦なく斬り捨てた3人。クマは全否定するが、全て事実なので全く通じない。漫才を見ているかのようなやり取りに井上は苦笑いした。

 

「あはは、君たち仲いいんだね。まあ、アイドルじゃないけど彼の言ってたことはあながち間違ってないんじゃないかな」

 

「えっ?」

 

「それに、この話は鳴上くんたちだけじゃなくて、μ‘sの君たちにもあるんだ」

 

「えっ?……ええっ!?」

 

「井上さん!それ、私から言うって約束でしょ!!」

 

「あはは、そうだったね。ごめんごめん」

 

「ちょっと待て!全く話が見えないんだけど!?詳しく説明して貰っていいですか!」

 

 井上の言葉の意味が分からなかったのか皆は困惑する。クマの戯言を否定しなかったということを考えるとまさかと思ってしまう。すると、井上とりせの代わりに悠が皆に分かるようにこう言った。

 

 

「ああ、今度りせが芸能界に復帰するだろ。それを俺たちで手伝おうって話だ。俺たちに今度出るイベントで()()()()()()()をやってほしいらしい」

 

 

 

「「「「「バックダンサー!?」」」」」

 

 

 

 更に衝撃的な発言に今度は素っ頓狂を上げてしまった。それもそのはず。

 

「バックダンサーってあの?」

 

「バックダンサーってあれでしょ?バックでダンスする人たちのこと…だよね?」

 

「そして、隙あらばアイドルをバックから手籠めにしようと」

 

「どこの情報だよ。そんなバックダンサー嫌だわ……てか、全然話が見えねんだけど……」

 

 いきなりバックダンサーと言われて皆が混乱している。一体全体自分たちが何故りせの芸能界復帰の手伝いという名目でバックダンサーをしてほしいのかその経緯が全然分からないからだ。困惑する皆に詳しく説明しようとりせが慌てて補足に入った。

 

「あ、あのね、落ち着いて聞いてね。実は今度の私、【愛meets絆フェスティバル】っていうイベントに出るんだけど……それに出るのに、ど~~してもみんなと出たくて……」

 

 

「「あ、愛meets絆フェスティバル!?」」

 

 

 すると、りせの言葉に花陽とにこが驚天動地が起きたかのように仰天した。落ち着かせようと思ったのが、逆にこの2人に更に驚きを与えてしまったようだ。

 

「2人とも、知っているのか?」

 

「知ってるも何も…最近話題沸騰中の超特大イベントじゃない!」

 

「そうですよ!あのイベントを知らないなんて、勉強不足です!!」

 

 すると、急に人が変わったかのように机をバンと叩いた花陽とにこ。あまりの豹変ぶりに驚いていると、2人は懐から眼鏡をかけて授業を行うかのように解説し始めた。

 

 

「良い?【愛meets絆フェスティバル】、通称【絆フェス】っていうのは今年の秋に東京で行われる野外音楽イベントで、集められるのは業界に認められたアイドルやアーティストばかり!特にあの女帝と恐れられる"落水(おちみず)鏡花(きょうか)"が総合プロデューサーを務めることで各方面からも注目されているの!」

 

「そうです!今公開されている情報からですが、出演が決まっているのはPastel*PalettesやRoselia、シンデレラガールズなどと言った凄い人たちなんです!目玉は何と言っても、世にスクールアイドルブームを生み出した"A-RISE"!そして大トリを務める今業界ナンバーワンと言っても過言ではない真下かなみ率いる"かなみんキッチン"!更には昨年電撃休業した久慈川りせがここで復活することもあって、日本中のアイドルファンが注目してます!つまり!これはもう今年のビッグイベントと過言でもないイベントなんですよ!!」

 

 

 相変わらずこの花陽とにこのアイドルにかける情熱は凄い。高速で携帯を操作して関連画像を見せながら説明してくれる辺り相当手こんでいる。よほど見に行きたいと思っていたのか、語り終わった後にチケットが取れなかった悔しさを思い出したかのように拳を強く握り締めていたのが見えた。

 

「あはは…僕が説明する必要がないくらい紹介されちゃったね」

 

「その久慈川りせが目の前にいるわけなんだけど……」

 

 井上さんのさり気ないツッコミに花陽とにこは我に返った。皆の微妙な表情を見て顔を赤くして着席する。

 

 

 

「あの…改めて言うね。みんな、2ヶ月後にある絆フェスで私と一緒に踊って下さい!!」

 

 

 

 りせは改めてそう言うと陽介たちに頭を下げた。あのりせがこうやって深く頭を下げて自分たちに頼むのはこれが初めてかもしれない。しかし、

 

「いやいやちょっと待て、どっからツッコんで良いか分かんねえくらい無理ゲーすぎんだろ!!しかも2ヶ月って、そんなんでダンサーになれるんなら今の中学生みんなダンサーだって」

 

「うん!楽しそうだね、みんなと踊るの。私はやるよ」

 

「いいっ!?ちょっ天城!?」

 

「うん!穂乃果もやるよ!!」

 

「だな。先輩がやるってんなら、俺も断る理由ねえし」

 

 いきなり過ぎて混乱する陽介に反して、雪子たちは当然のように前向きな姿勢を示した。まるで当然と言わんばかりの反応に陽介は頭痛がして額に手を当ててしまった。

 

「お前ら……誰も出ないとか言わねえのかよ。さっきの矢澤と花陽ちゃんの話を聞いてたのか?」

 

「確かに花村くんの言う通りだと思うけど、折角りせちゃんは声を掛けてくれたんだし、その想いを蔑ろにするのは良くないかなって。それにダンスなら学校の体育で習ったし、今だって絵里ちゃんたちの練習に交じってやってるから、大丈夫じゃないかな?」

 

「そうだね。りせちゃんに頼まれたらあたしらに断る理由なんてないっしょ」

 

「うん!穂乃果たちも断る理由ないよ。だって、りせちゃんと一緒に踊れるなんて夢みたいだし、何だか楽しそうじゃん!」

 

 予想通りというか出演に前向きな意見が多かった。陽介の言うことも分かるが、りせに自身の復帰がかかったイベントに一緒に出てほしいと言われては無下にできない。それは陽介も良く分かるのだが、自身が受験生ということもあるのかそう易々とOKとは言えなかった。

 

「……絵里ちゃんとしてはどうなんだ?」

 

「陽介くんの言いたいことは分かるわ。私たち受験生だし、仮に出演するとしても勉強と練習の両立が大変ね。でも、それがなんだって言うのよ。可愛い後輩のためなら、そんなの乗り越えて見せるわ」

 

「ウチも異論はあらへんよ。大変なのは分かるけど、りせちゃんや悠くんたちと一緒に踊るのは穂乃果ちゃんの言う通り楽しそうやしね」

 

 どうやら絵里や希たちも雪子と穂乃果たちと同じ考えらしい。

 

「………あれ?てか、悠はもう知ってるって言ってたよな。てことは…お前、OKしたのか?」

 

「りせが困ってたから」

 

「どんだけ心広いんだよ……まぁ分かってたけどな」

 

「なら、私も断る理由はないわ。正直私はどっちでもいいんだけど、皆乗り気だし嫌だって言っても始まんないだろうし」

 

 悠も参加すると聞いてあの真姫までも乗り気になった。一見嫌そうにしているが、満更ではない顔をしているのが見て分かる。何はともあれこれで自分たちのほとんどが参加する意思を示した訳だが、ここで陽介の他にも参加を渋る者が出てきた。

 

「わ、私たちが…りせさんと一緒にあの絆フェスに………そんなの、いいんですか?」

 

「えっ?…花陽ちゃん、それはどういう」

 

「そうよ!いくらバックダンサーだとしても、私たちみたいなのが出ていいの!?そんなの恐れ多いわ」

 

「そ、それは大丈夫だよ。だって、みんな運動神経いいし………」

 

「ですが、にこの言う通りそんな選ばれた人しか出られないイベントに私たちが出ていいんでしょうか?A-RISEのようにラブライブにすら出てないのに……」

 

「だよな……まあ海未ちゃんや矢澤たちはともかく、俺たちなんてド素人だし」

 

「うっ………そんなこと………………」

 

 花陽とにこの言葉にりせは慌てて反論しようとしたが、陽介と海未の援護射撃に言葉を詰まらせてしまった。そう言われることは覚悟していたが、いざ言われるとグサッと来る。

 今にこたちが言ったことは全てりせも百も承知だ。穂乃果たちμ‘sはともかく、悠たち特捜隊メンバーはダンスの素人なので正直こんなことを2ヶ月でやるのは無茶だという自覚はある。でも、その上で自分は悠や穂乃果たちと一緒にステージに立ちたいし、今までの事件のことから自分たちならこんな無茶なことでも乗り越えられのではないかと思っている。

 それを伝えようと声を絞り出そうとするが、残念ながらこの4人が納得する言葉が思いつかない。何でも良いから話さないとと思う気持ちが更に頭を混乱させる。しかし、

 

 

「そんなことないよ」

 

 

 その沈黙を打ち破ったのは意外なことにりせではなく、成り行きを見守っていた井上だった。

 

「本当のことを言うとね、僕も最初は反対だったよ。でも、音ノ木坂学院のオープンキャンパスや学園祭でのライブをこの目で見てその考えが変わったんだ。それに僕の直感だけど、鳴上くんたちにもりせちゃんにならぶ光るものを感じた。だから僕は確信したんだ。μ‘sとりせちゃん、鳴上くんたちが一緒に踊れば絆フェスがきっと良いものになるって」

 

「「「…………………」」」

 

「もちろんこれは僕個人の感想だからね。人によっては君たちが出るのをよく思わない人もいると思う。もし君たちが本当に出演したくないと思っていたらこの話は断っても良い。その上でもう一度聞くね」

 

「「「…………………」」」

 

「2か月後の絆フェスで、りせちゃんのバックダンサーとして出演してくれるかい?」

 

 井上さんの言葉に再び悠たちを沈黙が支配する。だが、何を言われようともこの男の気持ちは決まっていた。

 

 

「当然です。りせは自分の復帰する最初のステージで俺たちと一緒に出たいと言ってくれました。俺はりせのその想いに応えたい。そのためなら、なんだってやるつもりです」

 

「センパイ……」

 

 

 悠の言葉にりせは心を打たれた。いつものように落ち着いた声色だったが、その裏に力強い意志と覚悟が感じられたからだ。これは悠の言霊遣い級の伝達力が成せたことだろう。他の皆も同じだと言うようにりせに力強く頷いた。

 

「陽介さんと海未ちゃんたちはやっぱりだめ?」

 

 悠言葉を聞き終えた穂乃果が後ろ向きだった陽介と海未、花陽とにこにそう問いかける。これには4人も折れたのか、少し息を吐いて観念するようにこう言った。

 

「はあ……そこまで言われちゃあな。正直勉強やバイトできついけど、こんなチャンス二度とねえだろうし。しゃーねえ!いっちょやってやるか」

 

「……そうですね。そこまで言われては断れませんし。やるからには会場のお客全員を魅了するくらい盛り上げましょう!きっと私たちなら出来ます!」

 

「あ、あったり前よ!!りせちーとこの宇宙一のスーパーアイドルにこちゃんがついてるのよ!他のアイドルなんか全員食ってやるつもりでやってやるわよ!」

 

「わ、私もそんなつもりで頑張ります!」

 

「その意気だ。一緒に頑張ろう」

 

 この瞬間、皆の心が一つになった。心の中では断られるかもしれないと不安だったが、悠たちが自分と一緒に絆フェスに出てくれると聞いたりせは安堵すると共に嬉しくなって思わず目に涙を浮かべてしまった。

 

 

 

「……うん!みんなありがとう!!すっごく嬉しい!!」

 

 

 

 

 

――――特捜隊&μ‘sの皆で愛meets絆フェスティバルに出演することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。そうと決まったら、これを渡しておかないとね」

 

 悠たちの返事を聞いた井上は鞄から十数枚ものCDを取り出した。

 

「それは?」

 

「これは君たちに踊ってもらう振り付けを収録した練習用ディスク。一応りせちゃんも何かの収録があるとき以外はここに居るって言ってるけど、夏休みが終わった後でもこれで練習できるはずだよ。有名なインストラクターのガイド付きだから」

 

 流石はアイドル事務所の凄腕マネージャー。ここまで考えて動いてくれていたとは思ってもいなかった。もしかしたら、初めからこの展開を予想して用意していたのかもしれない。

 

「それに一応僕から保護者の方にも説明させてもらうよ。当日はテレビも来るし、全く断りなしって訳にいかないからね」

 

「えっ!?テレビ来るの!?」

 

「うひょー!クマ、お茶の間デビュー!」

 

「て、テレビ!?そそそそそんな!!」

 

「わわわわわわわ私たちがテレビに!?ダレカタスケテェェェェェェ!!」

 

「かよちん!落ち着いて!まだテレビに映ってないにゃ!」

 

 テレビも来ると聞くと、何故か慌て始めた数名。流石にりせと一緒にステージに立つという事の重大さを今実感したようだ。

 

「テレビか……それは知らなかったな」

 

「お前は全部知ってからOKしろっての!」

 

「あはは……何故か分かんないけど、鳴上くんがいつか詐欺に遭いそうな気がして怖いなあ………」

 

「同感……」

 

 悠の反応に千枝はそう零したが確かにあり得る話かもしれない。何か勘違いなどで外堀を埋められたり、知らぬ間に婚姻届けにサインさせられたりとか。それが思い浮かんだ時に何故か誰かさんの方を見てしまったのか気のせいだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?あそこにいるのって、雛乃さんと堂島さんじゃない?それに菜々子ちゃんも……」

 

 

 ある程度話がまとまったところで井上が次の話をしようとしたところ、ジュネスで買い物をしたいたらしい雛乃と堂島がこちらに歩いて来るのが見えた。

 

「おう、やっぱりここに居たか」

 

「叔父さん!それに菜々子に叔母さんも……どうしてここに?」

 

「ああ、雛乃に買い物に付き合えって言われてな。まあちょうど非番で暇してたしな」

 

「それで、貴方が昨日電話を頂いた井上さんですね?」

 

「はい。改めて久慈川のマネージャーをしております井上実です。音ノ木坂学院理事長の南雛乃さんですね。昨夜は突然のお電話失礼しました」

 

「いえいえ、良いんですよ」

 

 出会うなり互いに畏まって挨拶する雛乃と井上。昨日海水浴から帰って自分たちが寝ている時に井上から雛乃に電話があったらしいが、それにしてもこうやって叔母の雛乃が仕事顔で対応する姿を見るのは初めてなので、悠は少し珍しいものを見たような気分になった。

 

「お電話で話した通り、今日こちらにやってきたのは…」

 

「分かってます。絆フェスに悠くんたちを出演させたいという件ですね。昨夜も言ったと思いますが、私は反対ではないですよ。私としてもステージで踊る悠くんとことりを見たいですし、その上学校の宣伝にもなりますしね」

 

 予想通りの反応だった。雛乃にこの件を反対する理由はなかったようで、学校もことも考えている辺り音ノ木坂学院の理事長としてのこともあったようだ。まあ大半は愛する甥と娘がステージに立つ姿を見たいがためだと思うが、そこは触れないでおこう。

 

「お兄ちゃんたち、りせちゃんとテレビに出るの!すごーい!!」

 

 一方で菜々子は悠たちがテレビに出ると聞いて、とても喜んでいた。菜々子は無類のテレビ好きなので、それに大好きな悠たちが出るとなったら、嬉しいことこの上ないだろう。

 

「ああ、上手に踊れるように頑張るよ」

 

「菜々子ちゃん、お姉ちゃんも頑張るからね」

 

「うん!菜々子、一生懸命応援するね!」

 

 そして、流れるようにそう言いながら各々を見つめ合い一瞬で兄妹らしい仲睦まじい雰囲気になる3人。こういっては何だが悠やことりだけでなくても、菜々子に応援されたら例え厳しい状況であっても頑張れそうな気がする。

 

「雛乃からあらかた聞いていたが、まさか本当にテレビに出るとはな……」

 

「あれ?堂島さんは反対じゃないんですか?雛乃さんはともかく、悠やことりちゃんがテレビに出るとかなったら反対するって思ってたんですけど」

 

「まあ、お前らの保護者が良いってんなら俺がとやかく言うことじゃねえからな。てか、大体お前らダンスなんて踊れんのか?」

 

「ええっと……穂乃果ちゃんや海未ちゃんたちは普段から練習してるから良いんですけど、あたしらは……これからです」

 

「これから……?お前らなぁ…」

 

 千枝のしどろもどろな返事に堂島は呆れた様子で溜息をついた。本番は2か月後なのにこの調子なので果たして大丈夫なのかと心配になったのだろう。正直に言えば悠たちだってこんな調子で本番のステージは大丈夫なのかは分からない。

 

「…まあいい、別にお前らを叱りに来たんじゃねえからな。でも、気合入れ過ぎて怪我したりとかするなよ」

 

「堂島さんの言う通りよ。その絆フェスというのはその道のプロばかりが出演するイベントっていうから張り切るのは分かるけど、ケガなんかして出られませんでしたっていうのが一番失礼よ。だから、出るならちゃんと体調管理してケガしないようにすること。そして、受験生も何人かいるんだからちゃんと勉強もすること。分かった?」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

 そんな2人の言葉はより悠たちの心に染みた。方は職業病とはいえ酸いも甘いも嚙み分けた優秀な刑事、方は家族想いすぎるがキチンとした教育者。何にしろ、バックダンサーとはいえ、りせのようなその道のプロばかりが集うイベントに参加することになったのだ。やるからには全てを賭すつもりで全力でやってやろうと、皆は心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今から家でご飯食べましょう。ちょうどお昼の時間だし、勢い余っていっぱいお買い物しちゃったから」

 

 雛乃はそう言うと置いていたいっぱいの買い物袋を手に取る。どうやらここに来る前にジュネスでたくさん買い物をしたらしい。

 

「やったー!!ちょうどお腹減ってたもんねえ。肉ってあります?」

 

「パンもありますか?」

 

「お前らあのかき氷食ったばっかだろ!てか少しは遠慮しろっての!……すんません雛乃さん。この間もご馳走になったのに、俺ら何にもお返ししてなくて」

 

「良いのよ陽介くん。私も悠くんの友達に手料理を振舞えて嬉しいし、それによく食べる子って健康的っていうでしょ」

 

「でも、花村先輩の言う通り毎度ご馳走になるのは悪いっすから俺も何か持っていきますよ。今朝お袋に作った煮物とかまだ余ってるんで」

 

「あら完二くん、そんな気を遣わなくていいのに」

 

 毎度ご馳走になっているにも関わらず何もお返し出来てないのに、こうも変わらず嬉しそうに優しくしてくれるので、雛乃には感謝してもしきれない。何やかんや言って見た目に反して完二はとても律義だ。遠慮も知らない食い気少女たちも見習ってほしいものである。

 

「雛乃さん、私も何か持ってきますね。さっきおばあちゃんが差し入れにってお豆腐いくつか作ったからって連絡がもらったから」

 

「なら、私も何か料理を作って来た方が良いかな?」

 

「どさくさに紛れて何言ってんだ!天城は絶対ダメだかんな!!」

 

「そうよ!そんなの認めないわ!!」

 

 りせはいいとして、どさくさに紛れて料理しようとする必殺料理人を必死に止める。何があっても絶対この者に料理をさせてはダメだ。そんなことをしては雛乃の料理が台無しになるし、何も知らない井上にまでトラウマを植え付けたくはない。

 

「ははは…みんな元気ですね」

 

「まあ、騒がしいのもアレだがな。それに井上さんといったか、アンタも寄って行くと良い。ここに来るまで碌なもの食べてないんだろ?」

 

「……流石現職の刑事さんですね。確かにここ最近忙しくて、ちゃんとしたものを口にしていませんでしたから。恐縮です」

 

 どうやら井上も堂島家に寄っていくそうだ。これは大分賑やかになるなと思った悠はフッと笑みを浮かべた。

 

 

 

「よし、今から家でりせの復帰に向けての決起集会だ」

 

「「「おおっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 こうして、りせの芸能界復帰のために2か月後に行われる愛meets絆フェスティバルに出演することになった特捜隊&μ‘s。その道を行くことは生半可ではないことを知りながらも、また彼らは苦難の道へと進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 そして、後になって知ることになる。自分たちが出たあの絆フェスは自分たちが思っていた以上に厄介なことになると。

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




Next #67「You`ll understand when you get older.」

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