PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

71 / 131
閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

昨日はクリスマスでしたが、皆さまはどのように過ごしましたか?自分は家で淡々と執筆して録画していた『ホームアローン』を観ていました。えっ?何でかって?………抱腹絶倒するくらい面白いからです!決して予定がなかった訳ではありません。

そんなことはさておき、改めてお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

これが今年最後の更新になります。今年もこの作品を読んで頂きありがとうございました。来年も是非この作品をよろしくお願いいたします。

皆さん、良いお年を。

それでは本編をどうぞ。


#64「Stealth date.」

<???>

 

 

 

 

 

ザザアアアアアアアンッ ザザアアアアアアアンッ

 

 

 

 

 

「綺麗……こんな海見るの初めてだよ」

 

「そうだな。俺も初めてだ」

 

 

 キラキラと光るエメラルドグリーンの海。上空で多数のカモメが鳴いている踏み心地のいい砂浜。そんな楽園のような海辺で2人の男女……悠とりせが仲睦まじく海を眺めていた。辺りには人の気配はいなく波のさざめく音だけが2人空間に響き渡っている。

 ここは稲羽の七里海岸とはまた違った場所。今ここで悠とりせは2人っきりだった。

 

「こうしていると、世界にセンパイと2人っきりみたいだね」

 

 そう、この場所には誰もいない。あのガッカリ王子や稲羽必殺料理人、いつもなく邪魔しに来るブラコン妹や自称彼女もいない。完全にここはりせの言う通り2人っきりでまるで世界には2人しかいない。まるで自分たちがアダムとイヴになったかようだ。

 だが、そう思った途端、りせは何故か気持ちは高揚すると共に気恥ずかしさが増していって思わず照れ臭くなってしまった。

 

「あ、あははは…何言ってるんだろう、私。あっ、あそこに貝殻があるよ」

 

 沸騰したように赤くなった顔を見られないようにと、ふと目に入った砂浜の貝殻に話題をそらす。手に取った巻貝は砂浜にあるにしては傷は一つもなく、まるで生きたままの姿が現れているかのように綺麗だった。

 

「りせ、知ってるか?こういう巻貝っていうのは、耳に当てると海の音が聞こえるって言われてるんだ」

 

「ええ?本当?」

 

「ああ、本当だ。何なら試してみたらどうだ?」

 

 りせは半信半疑ながらも悠の言う通りに試しに巻貝に耳を当ててみた。どんな声が聞こえるのだろう。ワクワクしながらそう耳を澄ませてみる。

 

「…………………」

 

 確かに聞こえてくる。まるで海そのものが鼓動しているような音が。更に耳を澄ませると、

 

 

 

 

 

『りせちゃん、起きなさい!』

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 この場にそぐわない場違いな女性の声が聞こえてきた。予想外な声に驚いてしまい、りせは素っ頓狂を上げて尻もちをついてしまった。

 

「ど、どうしたりせ?」

 

「い、いや…何でもないよ」

 

 突然の奇行に心配そうにする悠だが、りせは何でもないとアピールするように平静を装った。しかし、今のは一体どういうことだろうか。全然海の声なんてものではなかったし、むしろ聞き覚えのある声が聞こえてきた。何故この場にいないはずの声が聞こえたのだろう。

 とりあえず、今のことをなかったことにしようとりせは笑顔を悠に向けて、別の場所へと腕を引っ張っていった。

 

 

 

「わあ!ここの方がもっと綺麗だよ。波がキラキラ光ってて宝石みたい」

 

 先ほどとは違う場所に着くと、りせはそう歓声を上げた。確かに彼女の言う通り、ここから見える海の景色はさっきのところよりも一段と綺麗に見える。あまりの光景にりせはつい見惚れてしまった。すると、

 

「ああ……綺麗だな」

 

「えっ?」

 

 悠は海の方ではなく、りせの目をジッと見てそう言った。

 

「波がキラキラ光ってる」

 

 悠の熱い視線を向けられて心臓がいつも以上にバクバクしてしまうが、何とか言葉を振り絞ってりせは悠に尋ねた。

 

「せ、センパイ?ちゃんと海みてる?こっちの方ばっかりみて………」

 

「いや、見えてる。さざ波のキラキラが映ってる、りせの瞳の中に……」

 

「わっ、ちょっ……センパイ?」

 

 悠は怯えるりせに構わずゆっくりと顔を近づけて行く。普段の振る舞いから考えられない悠のアクションにりせは更に心臓をバクバクさせる。心なしか顔だけでなく身体も熱があるのではないかと錯覚するくらい熱い。それに、今の悠の視線から彼がこれからしようとしていることについて察しがついた。

 

「センパイ……本気?」

 

 りせの問いに悠は迷うことなくコクンと頷く。あの澄んだ瞳を見る限り嘘ではない。その反応から悠の気持ちを察したりせは心臓の鼓動が最大限に振動する。

 だが、悠がそう言うのならばとりせは心に覚悟を決めてゆっくりと目を閉じた。そして、来るべき感触を今か今かとジッと待つ。そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチーンっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたっ!!」

 

 

 

 来たのは柔らかい感触ではなく、額への痛覚だった。

 

「いい加減起きなさい!居眠りなんて私の前では許さないわよ!」

 

「えっ……」

 

 気が付いてみると、そこに綺麗な海の光景などなかった。目に映ったのはいつもの大勢の人がごった返すジュネスのフードコート。そして、いつものテント席で目の前に自分にデコピンを食らわせたらしい絵里の姿があった。今のデコピンも絵里が繰り出したものだろう。

 

(さっきのは……ゆめ!?)

 

 改めて今の出来事が全て夢だと確信したりせはガバっと起き上がる。見ると、同じテーブルで勉強していたらしい皆がこっちを見て気まずそうな顔をしていた。その視線が自分に向いていたので、一体何故と疑問符を浮かべていると、近くにいた希がニコニコしながらこう言った。

 

「悠くんとの海辺のアバンチュールはどうやったん?」

 

「えっ?な、なんで!?」

 

「寝言よ、寝言。りせちゃんが口元緩ませながらブツブツ言ってたから……」

 

「何つーか……お前が先輩のこと好きなのは知ってたけどよ………よくあんなことを言えるよなぁ」

 

「聞いてるこっちが恥ずかしかったよ。まあ、悠さんがここにいなくて良かったよね」

 

「本当、流石ムリ・キライ・ユメミスギ~」

 

 希を皮切りに次々とそう証言する絵里と完二と穂乃果とマリー。それを見た途端、りせは今自分が置かれている状況を理解した。つまり、今の夢の内容を皆に知られてしまったことを。そのことに思い至った途端、りせの顔が急速に真っ赤になった。

 

 

 

 

「うわああああああああああああああっ!!恥ずかしいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 

 

 

 りせの悲痛な叫びがフードコートに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<稲羽商店街 四六商店>

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「今、誰かの叫び声が聞こえたような……」

 

「気のせいですよ。この暑さで幻聴が聞こえたのかもしれませんね」

 

「それ熱中症の末期だろ。はあ…しっかし、あちいなぁ……本当に熱中症になりそうだぜ」

 

「本当だね」

 

 太陽の光が燦燦と直射する炎天下の中、商店街の四六商店でホームランバーを舐めながら悠・陽介・直斗・雪子・花陽・真姫の6人は時間を潰していた。

 

「まあ、良いんじゃないか。絵里にしごかれるよりは……」

 

「そうよ。今あっちで絵里ちゃんにしごかれてる凛たちに比べたらマシじゃない」

 

「本当ですね。まあ、やることをやってなかった穂乃果さんたちの自業自得ですが……」

 

「♪~♪♪~♪~」

 

 お察しの方も何人かいるかもしれないが、ここにいないメンバーはジュネスにいる。今頃は絵里の監視の下で宿題を片付けている最中だろう。

 明日海に行く予定なので盛り上がっていたところ、その前に宿題をある程度片付けているのかとその場にいた雛乃に尋ねられたのが発端だった。雛乃の言葉を受けて絵里が一斉に皆の宿題の進捗具合をチェック。その結果、まだ手を付けていない者が大半だったので、絵里は激怒して急遽ジュネスでの勉強会が開催されることとなった。何故ジュネスなのかというと、どうせこの後皆で用事があるんだからだとか。

 ちなみにそんな中、何故悠たちが商店街にいるかというと、今日稲羽に来るという友人を迎えに行くためで決して絵里の監視からこっそり逃れた訳ではない。ちゃんと宿題を少なからずやっていて絵里から許可を得てここにいるのだ。不幸に定評がある陽介はこの時ばかりは少し片づけていたのでついにやっと俺には運がまわってきたと心で泣いたものだ。

 

「ところで、花陽ちゃんは何聞いてんの?」

 

 陽介は話題を一旦打ち切って、悠の隣でイヤホンをしている花陽にそう尋ねた。

 

「あっ、すみません……これ、今日出てたA-RISEの新曲で……つい聴きたくなって……」

 

 自分だけイヤホンをしているのが気に障ったかと思ったのか、慌ててイヤホンを外してしどろもどろにそう話す。だが、陽介はそれに何故か共感するようにうんうんと頷いた。

 

「ああ……分かる。分かるぜ花陽ちゃん。俺も好きなアイドルの新曲が出てたらすぐチェックしたくなるなぁ」

 

「わ、分かってくれますか陽介さん!ちなみに陽介さんのお気に入りのアイドルは?」

 

「もっちろん、りせちーとかなみんに決まってんだろ!」

 

「わあ!私も大好きです!確かかなみんさんは最近は"かなみんキッチン"とかで有名ですよね」

 

「そうそう、そしてあの女帝の…」

 

 意気投合して話が弾んだかと思うと、そのまま陽介と花陽はアイドルの話で盛り上がって2人だけの空間ができてしまった。これには悠や真姫も割り込むことは躊躇われた。

 

「あの2人すごいな」

 

「そうですね。花村先輩がアイドルについて詳しいのは知っていましたが、花陽さんとあそこまで話が合うとは思いませんでしたね」

 

「まっ、花陽もにこちゃん以外にアイドルの話が合う人が出来て嬉しいんじゃない?」

 

「なるほど」

 

 そう言えば陽介がアイドルの話で他人と盛り上がったところなど見たことないし、花陽も同様だった。自分の知っていることを共有できるというのは当人たちにとって嬉しいことなのだろう。

 

「そう言えば、真姫さんはピアノを嗜んでいらしてるんですよね」

 

「そうだけど。もしかして直斗さんも?」

 

「ええ、昔かじっていた程度です。先日のライブではもキーボードを担当したんですが、ブランクがあったので勘を取り戻すのが大変でした」

 

「ふ~ん……直斗さんはどんな曲弾いてたの?」

 

「確か、あの時はモーツァルトを」

 

 そして、ピアノの話で盛り上がる直斗と真姫。こちらもピアノという話題で波長があったのか、2人とも生き生きとした表情で語り合っている。

 自分の趣味を共有して語り合えるというのはやっぱり楽しいものなのだろうか。そんな陽介と花陽、真姫と直斗たちの様子を見て悠は少しばかり羨ましいと思った。

 

「何か、私たちだけ仲間はずれみたいだね」

 

「そうだな」

 

 しばらくそんな会話していると、悠の携帯に着信が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<八十稲羽駅>

 

 

 

「おっ、来たみたいだぜ」

 

 

 

 四六商店から八十稲羽駅まで移動し待機していると、線路の向こう側から一台の電車がこちらに向かってくるのが見えた。そして。電車はこちらに着くとゆっくり停車してドアが開く。中からまばらに人が出てきてからしばらくして、彼らの目的の人物たちが姿を現した。

 

「あっ……みんな!」

 

「迎えに来てくれたんだ」

 

 水色の長いポニーテールと八十神高校のセーラー服の少女、エメラルド色の三つ編みと白を強調したサマーカーディガンを着こなした女性。そう、あのGWのP-1Grand Prixで出会い、共に事件を解決したシャドウワーカーのラビリスと風花だ。

 

「ラビリスちゃん!久しぶり!!」

 

「久しぶりだね」

 

「風花さんもお久しぶりです」

 

 ラビリスと風花の登場に悠たちは嬉しそうに駆け寄った。まさか迎えに来てくれるとは思っていなかったのか、悠たちがプラットフォームで自分たちを待ってくれたことにとても驚いていた。

 

「鳴上くんたち…わざわざウチのためにありがとな」

 

「いいんだよ。ラビリスちゃんも俺たちの友達なんだから、これくらいは当たり前だって」

 

「もう悠さんのドッキリみたいなことはこりごりだし」

 

「ドッキリ?鳴上くんが帰ってきた時に何かあったん?」

 

「それはね、花村くんが」

 

「だああああっ!天城!それを言うなっ!!」

 

 悠が帰省した時に大失敗したドッキリのことを話そうとした雪子を陽介は必死に止める。相変わらずな悠たちの様子を見て、ラビリスと風花はクスクスと笑っていた。

 

 

 

「改めて、ラビリス・風花さん……ようこそ、八十稲羽へ」

 

 

 

 突如として放たれた悠の言葉にラビリスと風花はポカンとしてしまった。だが、今の言葉で悠たちの想いが伝わったので、2人は嬉しくなって思わず皆に向かって最高の笑顔を見せた。

 

「さてと、ラビリスちゃんと風花さん、これからみんなでジュネスに行くんだけど、一緒に行こうぜ」

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<稲羽市 ジュネス>

 

「悠くん、こっちなんてどう?」

 

「悠さん!これは?」

 

「あの…そう一気に言われても……」

 

 昼下がりのジュネスの洋服売り場。その一画に位置する水着売り場にて多数の少女たちが水着を物色していた。もちろん皆、海水浴用に水着を新調するためである。

 先日の練習での約束通り、皆で悠に水着を選んでもらう手筈になっているので、彼に想いを寄せる者たちは必死に似合うか似合わないかをチェックしている。たかが水着だが、穂乃果たちは何かものにしたいと言わんばかりの気迫で意気込んでいた。

 

「悠!にこにはこれが一番似合うわよね!?」

 

「ええっと……それビキニだろ?デザインはいいとして、にこにそれは……」

 

「ちょっと!どこ見て言ってんのよ!!」

 

 ビキニを持ってきたにこに大して身体のある一部分を見て悠はそうコメントする。確かににこのあの大きさでビキニは無理がある。仮にそれを着ていったところでポロリは確定。そうなったら色々とまずい。

 

「そうやで。にこっちはビキニよりもこっちがええんやない?」

 

「って、それ子供用のワンピースじゃない!そこまで私は子供じゃあないわよ!」

 

「じゃあ、こっちのスク水はどう」

 

「陽介?アンタ本気でぶん殴られたい?……」

 

「すんません!!」

 

 希が持ってきた子供っぽいワンピース水着と陽介のどこから持ってきたか分からないスクール水着にガチで返すにこ。ボケで言ったつもりだったのが本気で怒られたので、陽介はにこの気迫に負けて腰を90度曲げてしまった。

 そんな特捜隊&μ‘sたちの水着を選ぶ様子をを見てラビリスと風花は面白そうにしながら、店内の水着をジッと見ていた。

 

「水着かぁ……そう言えばウチ、そんなん持ってなかったなぁ」

 

「私も…最近ダイエットしたから新調しなきゃいけないかも」

 

 対シャドウ兵器でかつ最近シャドウワーカーとしても激務に追われていたためラビリスにそんなものは持っておらず、風花もここ数年海水浴など行ったことがないので、前の水着がどこかに行ってしまったのだ。皆と一緒に海水浴に行くとなると、新しい水着は買っておきたい。すると、

 

 

ーカッ!ー

(イエス!イエス!!)

 

 

 2人の会話を聞いた陽介の心の中にまたも閃きが走った。

 

「なあなあ!ラビリスちゃんと風花さんの水着は俺が…」

 

「ダメっ!アンタに選ばせたら碌なも選ばないから!ここはマリーちゃんに選んでもらった方が良いんじゃない?」

 

「そうだね!マリーちゃんのファッションセンスってピカイチだから」

 

 陽介がそう言うのを遮って千枝がそう言った。確かにマリーのファッションセンスが良いことは去年の密着計画の時に証明されている。そんな彼女ならラビリスたちの似合う水着をチョイスしてくれるだろう。千枝と雪子の提案にそれだと思った悠は近くで水着を物色していたマリーに尋ねた。

 

「マリー、頼めるか?」

 

「良いよ、私もコーハイたちに似合う水着選びたいと思ってたし」

 

 マリーは悠にそう言うと早速ラビリスたちを観察してどれが似合いそうかを物色し始めた。そして、商品用のクローゼットから水色のビキニタイプの水着を取り出してラビリスに渡した。

 

「わあ!すご~いっ!ラビリスちゃんにすごく似合ってるよ!」

 

「そ、そうかなぁ?」

 

 マリーがチョイスしたラビリスの水着を見て穂乃果たちは感嘆の声を上げた。ラビリスはあまり実感が沸かず戸惑っているが、同じファッションセンスが抜群なことりからしてもその色合いと雰囲気がラビリスにマッチしている。マリーの抜群のファッションセンスは相変わらず健在だった。

 

「ねえねえ!マリーちゃん!今度は私のも選んでくれるかな?」

 

「えっ?…いいよ」

 

「私も!!」

 

 ラビリスへのチョイスに感嘆を覚えた穂乃果たちは自分もとマリーにチョイスを希望する。端から見れば、マリーに全て押し付けたような感じになったが、とりあえず悠は巻き込まれないようにしようとそっとその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…」

 

「お疲れ、相棒」

 

 気疲れしてフードコートのベンチで脱力感に襲われた悠の元にニヤニヤした顔の陽介が飲み物を持ってやってきた。相変わらずこういうことに気が利く相棒にありがとうとお礼を言って飲み物を受け取ると、陽介はそのまま悠の隣に腰を掛けた。

 

「いや~明日が楽しみだぜ。俺がチョイスできなかったのは残念だったけどよ、マリーちゃんなら大丈夫だな。きっと明日はパラダイス…」

 

 意気揚々と語る陽介だが、それとは反対に悠は少し落ち込んでいた。何故かと言うと…

 

「しまった…マリーに任せたらことりの水着を選べないじゃないか……やっぱりことりは清楚なビキニが……いや、ここは考慮してセパレート………あるいは」

 

「……お前、あんまりそんなことやってるとことりちゃんに嫌われるぞ」

 

「何を言う。妹の水着を真剣に選ぶことの何が悪い?」

 

 陽介の呆れた言葉に悠は真顔でそう返した。何と言うかここまで来ると本当に重度のシスコンにしか思えない。いっそのこと、どこぞの作家のようにその重い妹愛を小説にぶつけたらいいのではないかと思った。まあ、あちらも重度のブラコンなので嫌うどころか大喜びしそうだが。

 

「嗚呼………流石は鋼のシスコン番長だよ。そんなことより悠、何か悩み事か?」

 

「えっ?」

 

「どんだけの付き合いだと思ってんだよ。良いから話してみろよ」

 

「…………実は」

 

 相棒の前で隠し事はできないと悟って観念した悠は陽介に昨晩あったことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昨日の夜~

 

<堂島家>

 

『ねえセンパイ、明日ちょっと付き合ってくれない?』

 

 部屋で懐かしい本を読んでいると、りせから突然電話が掛かってきた。何の用かと思うと、りせは開口一番にこんなことを言ってきた。

 

「明日?…ああ、ことりたちの水着を選んだあとだったら別にいいけど、何かあったのか?」

 

 りせの言葉にそう返す悠。りせが何故そんなことを言ってきたかは分からないが、もちろんジュネスで水着を買いに行くこと以外はやることがないので、問題はないだろう。しかし、

 

『……ごめん。やっぱりいいや』

 

「えっ?」

 

『こんな夜遅い時間にごめんね。じゃあ、また明日』

 

 りせは悠にそう言うと、何も理由を話さぬまま一方的に電話を切った。これには流石に悠も疑問符を浮かべた。

 

「どうしたんだ、りせ……」

 

「お兄ちゃん、どうしたの?誰かから電話があったの?」

 

 電話を切られた後、一体なんだったのだろうかと思っていると、菜々子とお風呂に入っていたことりがやってきた。風呂上がりのことりのパジャマ姿はどこか扇情的でドキッとしたが、それはそれとして。

 

「い、いや……さっきりせから電話があって」

 

「りせちゃん……」

 

 悠からりせという単語が出た瞬間、ふと訝し気な表情になったが、そうではない雰囲気を察したことりはどういうことなのかを聞いた。

 

 

「そうなんだ。う~ん……それはちょっと心配だなぁ」

 

「心配?」

 

「だって、いつもお兄ちゃんに甘々なりせちゃんがそんな反応するのはおかしいし、何かお兄ちゃんにも言えない事情があるのかも。それに、りせちゃんはライバルでもあるけど、やっぱり友達としてそんなことがあったらと思うと心配だし」

 

 ことりのこの言葉に悠は驚きを感じた。花陽やにこはともかく、穂乃果たちもまだりせを現役アイドルとしてのイメージを拭えないところが見受けられたが、もうことりの中ではりせのことは友人と思っているらしい。

 

「お兄ちゃん、こういう時はいつもみたいに話をした方が良いよ。やっぱりそういうのは本人に聞くのが一番だと思うし。もし無理だったら、ことりが話をしてあげるから」

 

「……そうしてみるよ。ありがとう、ことり」

 

「別にいいよ。その代わり、今度沖奈市で映画観に行こうね。2人っきりで♪」

 

「……了解」

 

 やはりことりは抜け目がなかったようだ。やはりこの妹には頭が上がらないと悠は心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、ちゃんと気をしっかり持っとかないと尻に敷かれるぞ」

 

「肝に銘じておくよ」

 

 悠から昨夜の話を聞いた陽介は一言そうコメントした。悠だけでなくことりの方も重度のブラコンぶりが凄まじい。このままだと色々とやばいのではないかと思う陽介だったが、一応彼らは本当の兄妹ではなく従兄妹であることはお忘れなきよう。

 

「まっ、それはともかくとして。りせが何か昨日と様子が違うっていうのは俺もことりちゃんに同感だぜ。何か向こうでトラブルでもあったのかもな」

 

「というと」

 

「例えば……事務所と何か揉めたとか、去年みたいにストーカーが現れたりとか」

 

「………………」

 

 陽介のいうことに一理ある。仮にストーカーのことだったとしても皆で力を合わせれば撃退できるので何とかなるが、事務所と揉めたとなると流石の悠たちも対処は難しい。あの仲間にも気を遣うりせのことなので、自分の問題に悠たちを巻き込むのは気が引けたと考えれば、昨日の電話の件も説明がつく。

 

「やっぱり…直接話して聞くしかないか……」

 

 悠はそう呟くと重い腰を上げて立ち上がった。

 

「悠、どこに行くんだよ」

 

「りせに話を聞きに行ってくる」

 

「そうか……………………………はあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 皆と水着を選んでいる最中、りせは人知れず溜息をついた。昨日悠に何で相談しなかったのだろうと我ながら思う。そのせいで朝から頭の中がモヤモヤしているし、変な夢を見て恥ずかしい思いをしたりして散々だと更に溜息をついてしまった。

 

「りせちゃん、どうしたん?そんな溜息なんかついて。せっかくの可愛い顔が台無しやで」

 

「希センパイ…」

 

 思い悩んでいると、今の溜息を見ていたらしい希から声を掛けられた。意外な人物から声を掛けられてりせは戸惑いの表情を見せた。

 正直言うと最初出会った時はこのほわほわしたミステリアスな感じが少し苦手で、悠に遠慮なしに好意を見せていたのが自分とダブって見えてあまり良い印象を持たなかった。だが、GWの後に同じ解析タイプのペルソナ持ちになったことを聞いて、少し親近感が湧いたのか、気軽に話せるくらいにはなれている。

  

「りせちゃん、何かお悩み事でもあるん?」

 

「えっ!?………い、いや……そんなことは……」

 

「んん~……大方悠くんに何か相談事があるけど、ウチらのこと気にしすぎて相談できないって顔やね」

 

「げっ!……な…何でそれを?」

 

「うふふふ、ウチのカードは何でもお見通しなんよ」

 

 タロットカードを手に取ってそう微笑む希にりせは笑みを引きつらせた。芸能界に復帰するにあたって変装術はもちろん演技力も鍛えていたつもりだったのだが、この希の前ではそれは無力に等しいかったようだ。何と言うか、やはり自分はこういうほわほわしたミステリアスな人は苦手だと改めて思った。

 希はそんなりせの様子は気にせず、りせの顔をジッと見たと思うと、再び微笑みを見せてこう言った。

 

「まあ、何のことで悩んでいるかは分からんけど……あんまり一人で抱え込んじゃいかんよ。それが自分の本当にやりたいことなら尚更ね」

 

「えっ?」

 

「ほな、ウチはもうちょっと悠くんが気に入りそうな水着を選んでくるから」

 

 希はりせに意味深的なことを言ったかと思うと、それで終わりというように絵里たちがいる売り場へと戻ろうとする。しかし、りせは何故希が自分にそんなことを言ったのかが分からず、引き留める形で尋ねてしまった。

 

「どうして……そう気にかけてくれるの?」

 

「…………りせちゃんは数少ないナビ仲間やからね。りせちゃんにはウチみたいに後悔はしてほしくないんよ」

 

 希は足を止めてそう言うと、すぐに絵里たちの方へと戻っていった。何だったのだろうかと思ったが、今の言葉で希の優しさが伝わってきたので、少し希に対しての印象が変わった気がした。

 すると、希と入れ替わる形で今度は悠がりせの方へ向かってきた。一体なんだろうと思っていると、悠は唐突にこう言った。

 

「りせ、ちょっと寄り道して行かないか?」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここって……」

 

 ジュネスをこっそり抜け出して悠に連れられて訪れたのは、花火大会でも来たことがある高台だった。もうすぐ夕暮れどきなのか、辺りは夕焼け色に染まっていた。近くでは小学生くらいの男の子たちがサッカーをして遊んでいた。余程夢中になっているのかこちらの存在には気づいていないように見える。

 

「ここなら話しづらいことも話せるだろ?」

 

「……………」

 

 悠の言葉にりせは気まずそうに押し黙った。まさか自分が何か思い悩んでいるのに勘づかれたとは思わなかったのだろう。

 

「ことりに言われたんだ。りせが何か思い悩んでいるようだったから、話を聞いてくれって」

 

「ことりちゃんが?」

 

 まさかあのことりがこんな機会を促してくれたとは思いもよらなかった。希のことといい、悠のことといい今日はなんだか予想外なことが起こる日だなとりせは改めて思った。こうなってはあのことを言うしかないかと心に決めたりせは悠に全て話すことにした。

 

「センパイ……あのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ということなの」

 

「なるほどな」

 

 りせからあらかたの事情を聞いた悠はただ簡潔にそう呟いた。全て吐き出したりせは悠の反応をチラッと見る。

 

「…本当はこんなことをセンパイたちに頼むのはお門違いだって思ってる。それはわたしだって分かってるよ。でも……」

 

「良いんじゃないか。俺はやるぞ」

 

 悠からの返答にりせは思わず悠の方を見返してしまった。それほど悠の間の無い返答が予想外だったからだ。

 

「…いいの?」

 

「何で?」

 

「何でって………センパイ受験生だし、穂乃果ちゃんのこともあるし……センパイだけじゃなくて花村先輩や千枝先輩、雪子先輩に絵里先輩だって………自分のことあるのに……」

 

 そう、これは悠たちの大事な時間を奪うのも同然のことなのだ。穂乃果や完二たちはともかく悠や陽介、絵里や希たちは受験生なのだ。受験の天王山と言われるこの時期に自分の我儘に付き合わせるのは正直申し訳ない。そのせいで受験に落ちたりしたらと思うと、心が締め付けられる。それに、ただ得さえラブライブの出場を落とした後だというのに、こんなお願いを穂乃果たちにするのは気が引ける。それが、りせの戸惑っている理由だった。しかし、

 

「りせが困っているから、じゃだめか?」

 

「えっ?」

 

 悠はりせのそんな言葉にそつなくこう返した。そんな悠の言葉にりせは思わずドキッとしてしまった。それを知ることなく、悠は話を進めた。

 

「仲間が困っているなら助けるのは当たり前だ。りせも俺たちがピンチだった時に助けてくれただろ。だったら、今度は俺たちがりせを助ける番だ。穂乃果たちだって、俺と同じことを思ってる。そんな気にすることはないと思うぞ」

 

「そ……そう…だよね……」

 

 自分の予想とは違った回答にりせは思わず頬を膨らませてしまった。思わせぶりなことを言っておいて仲間とは実に悠らしい。そんなことを言ってくれてとても嬉しいが、どこか腹立たしい。やっぱり自分はまだ仲間扱いなのかと贅沢にもそう思ってしまった。

 しかし、今の悠の言葉でさっきまでぐるぐると頭の中を回っていた悩みが一気に消し飛んだ気がする。

 

「ありがとう…悠センパイ。またセンパイの言葉に元気を貰えた気がする」

 

「そうか………ん?ちょっと、りせ」

 

「えっ!?」

 

 すると、悠は何を思ったのか顔をずいっとりせに近づけた。これにはりせも声を上げそうになるくらい驚愕する。そして、りせの脳裏に昼に見たあの海辺の夢が過った。あの夢とシチュエーションが違うが、これはひょっとして。

 

「………じっとしてろよ」

 

「えっ?ちょっとセンパイ?」

 

 慌てるりせをよそに悠は顔どころか、身体も密着するのではというくらいどんどん近づけてくる。これは間違いないとりせは確信する。そう思ったりせは少々怯えながらも目を閉じる。より近くにいるのか、セミの鳴き声がミンミンと耳元に激しく響き渡る。そして、あの時と同じく唇に来るべき感触を今か今かと待っていたその時、

 

 

 

 

 

 

 

バコオオオオオオンッ!

 

 

 

 

 

 

 

「うっ!」

 

「きゃっ!!」

 

 何故か後ろからサッカーボールが宙を舞い、そのまま悠の後頭部に直撃した。そして、そのまま悠の顔はりせの胸の中にダイブしてしまっていた。

 

「…え…ええっ!!せ、センパイ!?」

 

 思わぬハプニングにりせはあまりの驚きと羞恥で頭がいっぱいになって叫んでしまう。その時、りせの背中辺りに止まっていたらしいセミが羽を羽ばたかせて飛んでいった。何だこの状況は。

 

「すみません!大丈夫ですか!!」

 

 あまりの出来事にあたふたしていると、原っぱの向こうから小学生らしき男子が数名こちらにやってきた。どうやら向こうでサッカーをしていたらしく、大方勢い余って蹴飛ばしたボールが悠に当たってしまったらしい。

 

「「「……………………」」」

 

 だが、小学生たちはその光景を見てフリーズしてしまった。何せ男が女の胸に顔をうずめている光景なのだから、小学生にしてみれば衝撃的だろう。

 

「そ、その……ごめんなさい」

 

「それじゃあ……」

 

 小学生たちは気まずそうにそう言うとそそくさとその場を立ち去ってしまった。何かあらぬ誤解を植え付けてしまったようだ。しかし、今の小学生たちの様子は気まずいというより何かに怯えて逃げたような感じだったような気がする。それよりも一体何が起こったのかが気になる。だが、ふと悠の背中に引っ付いたセミを発見して取ろうとした時、今の原因が分かった気がした。

 

「もしかして………せみ?」

 

 悠はりせの身体のどこかについたセミを取ろうとしたのではないか。だからりせにじっとしていろと言ったのだろう。そして、取ろうとした瞬間、運悪く小学生のサッカーボールが激突して脳震盪。ラブコメなどにありそうなハプニングだなとりせは思った。それはそれとして、

 

「せ、センパイ?だ、大丈夫?」

 

 自分の胸の中で蹲っている悠に声を掛けるが反応しない。それほど今の一撃で脳震盪を起こしたようだ。何とかしようとりせは悠を楽な姿勢にするために悠を自分の胸から膝に移動させた。こうなると膝枕しているようになるが、胸にずっと蹲られるよりかはマシだ。それに、先ほど悠が自分の胸の中に入ったと思うと羞恥の気持ちでいっぱいになる。今のことを思い出して顔が沸騰するくらい熱くなったので、思わず膝で寝ている悠の方を見てしまった。

 

「………それにしても……センパイの寝顔……可愛い」

 

 膝枕しているので悠の寝顔がよく見える。いつも天然でクールに見える悠だが、こうしてみるとまるで大きな子供みたいでとても愛らしい。従妹である菜々子やことりはいつもこんな顔を見ているかと思うと、少しズルいと思ってしまった。

 

「す、少しなら……いいよね?」

 

 ここまでして、何もなかったでは勿体ない。そう思ったりせは周りに誰もいないのを確認して手を悠の頭に伸ばしてそっと撫でた。

 手に触れる悠の髪の毛の触り心地はとても気持ちよくてくすぐったい。その感触をずっと感じたくなったのか何度もなでなでしてしまった。こうしていると、まるで恋人みたいだという錯覚が更にりせの心を刺激する。

 有頂天になったりせはふと悠の口元を見る。周りにはまだ誰も居ないし悠も起きそうにない。このままキスしても大丈夫なのではないかと思ったのか、ゆっくりと口を近づけた。恥ずかしさを堪えながら徐々に近づいて、悠の顔まで残り数センチとなったその時、

 

 

 

Prrrrrrrrrrrr!!Prrrrrrrrrrrr!!

 

 

 

 ここでまさかの着信音!せっかく勇気を出そうと思った良い雰囲気を邪魔されて不機嫌になったりせは携帯の画面を開ける。だが、画面に表示された名前を見て思わず顔を青ざめた。何故なら、着信主は一番の天敵である希だったのだから。無視したいが、無視したら何をされるか分からない。謎の恐怖に包まれたりせは恐る恐る通話ボタンを押した。

 

「も、もしもし?…のぞみ……せんぱい?」

 

『り~せちゃん、帰ってきたら詳しい話を聞かせてな。もし来んかったら、ワシワシするよ☆』

 

 凍えるような冷たい声にりせは身震いする。そして、何故か電話越しなのに声がすぐ近くで聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数十分後……

 

 

「はああああああああっ!」

 

「ぐはっ!」

 

 

 河川敷では陽介がマットを持って海未の怒涛のラッシュを受けていた。素早さが専売特許の陽介だが、海未の前ではそれは虚しく抵抗できずに受けたままでいる。もはや某リーガルサスペンスアクションゲームの雑魚キャラのようにサンドバック状態だった。

 

「はあっ!はあっ!そいやっ!!」

 

「ぐはっ!ぐほっ!ぐへっ!………もう…やめにしてくねえか……これ以上は…」

 

 海未のラッシュに何とか耐えた陽介はもう限界だというように悲鳴をあげた。いくら陽介でもこれ以上やれば身体がマズイことになってしまう。だが、海未は聞く耳を持ってくれなかった。

 

「ダメです!まだ鬱憤が晴れません!もうちょっと頑張って下さい!!」

 

「陽介さん!頑張って!次は穂乃果もやるんだから!」

 

「ガンバレの意味合いおかしくねえか!?てか、穂乃果ちゃんも!?」

 

 海未のラッシュだけでも手一杯だというのに穂乃果もやるというのか。

 

「そうですよ!穂乃果ちゃんの次は私なんですから!」

 

「私も……早く陽介さんを殴らないとこのイライラが治らない」

 

「お前ら!俺のことなんだと思ってるんだよっ!?」

 

 穂乃果だけでなく、花陽や真姫、にこまでもやるという事実に陽介は絶望を隠し切れなかった。そして、ちょっと心配になったからとこっそり皆で高台でのぞき見したことを後悔した。

 先ほど高台でこっそりあのハプニングを目撃してからこの調子だ。原因が分かってはいるが、何故その憂さ晴らしに自分がこんなことをしているのか。それもこれも、鬱憤晴らしにはこれが一番だと千枝が穂乃果たちに言ったせいだ。

 

「花村~、モテ期が来たようで良かったじゃん」

 

「うん。花村くん、モテモテだね」

 

「こんなモテ期があるかぁ!!おい、完二!お前そろそろ代われ!海未ちゃんの一発一発が重くてそろそろ限界なんだよ!こんな調子で穂乃果ちゃんたちの相手もしたら、俺が死ぬから!!」

 

 怒りに任せて千枝と雪子にそう叫ぶ陽介。自分の代わり…というか生贄として完二を呼ぶが、当人はもうそこにはいなかった。

 

「あっ、完二くんならさっき用事思い出したって帰っていったけど」

 

「なっ!?」

 

「クマくんもシフトがあるの忘れてたから急いで戻るって」

 

「あ、あいつらあああっ!」

 

 唯一の頼みの綱が途絶えた陽介は自分を見捨てた男どもに恨みの咆哮を上げる。だが、どう足掻こうが陽介に逃げ場がなかった。

 

「陽介さん!しっかりして下さい!!次は本気で行きますので」

 

「ええええっ!今までのが本気じゃなかったの!?」

 

 海未からの衝撃発言に陽介は背筋が凍った。言葉の通り今の海未はさっきとは違うガチな雰囲気を纏っている。これから穂乃果たちにもサンドバッグにされるのに、これ以上喰らったら身体が持つか分からない。

 誰か助けてくれないかと必死に周りを見渡すが、言いだしっぺの千枝と雪子、そして絵里は関わるまいと傍観を決め込んでいるし、希は黒いオーラを全開させてどこか行ってしまったし、悠はことりの膝で眠っていて羨ましい。どこを見ても何もなく、もう陽介に救いの手はどこにもない。

 

 

「陽介さん、行きますよ!!虎落と」

 

 

 

「誰かああっ!俺をこのサンドバッグ地獄から解放させてくれえええっ!!ちくしょう!不幸だあああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 この後、陽介はボロボロになるまで海未たちに滅茶苦茶にされました。

 

 

 

 

ーto be continuded




Next #65「Sea bathing.」



改めて皆さま、良いお年をお過ごし下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。