PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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最近執筆中にペルソナ4のBGMを聞く度に「これμ'sが歌ったらどうなるんだろう」と想像してしまいます。(例えば「Reach Out To The Truth」とか「NOW I KNOW」とか「Dance!」とか)

そんな戯言は置いといて、今回絵里のみならず真姫も登場します。また、真姫が作曲したという設定でペルソナ4のあの曲を歌わせています。そう言うのが嫌な人はブラウザバック推奨で。

そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・最高評価や高評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!ちょこっとした感想や評価が自分の励みになってます。
これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進していきたいと思います。皆さんの感想や評価をお待ちしています。
それでは本編をどうぞ。


#06「The way of First Live」

 

【日曜日】

〈神田明神〉

 

 まだ春を感じさせる心地よい風が吹く朝方。神社へ続く長い階段に少年少女たちの声が聞こえてくる。

 

「ハァ…ハァ…もうムリ!……疲れたー!」

 

「う…海末……ちゃん…もう…ダメ……」

 

「何言ってるんですか?私はまだ行けますけど?」

 

「園田、もうやめておこう。これ以上は高坂とことりが死ぬから」

 

 その階段で息を切らして倒れこんでいる少女2人とそれを見下ろす男女2人というシュールな光景が広がっているが。

 

 

 

 

 昨日悠たちは南家でスクールアイドルへの計画を練ろうとしたが、途中穂乃果が昼から家の手伝いをすることを忘れていたらしく、母親からお怒りの電話が来た為、会議は中断となった。とりあえず決まったことと言えば、『歌詞担当は海未』・『衣装担当はことり』・『マネージャー兼交渉人は悠』・『平日は朝練で体力トレーニング』ということだけであった。

 

 で、翌日。朝からこの神社へ続く長い階段を走り込んでいる訳だが、超人的な体力を持つ悠と海末のペースに穂乃果とことりはついていけず、今の状況に至る。流石にこれ以上は翌日の学校生活に支障をきたすので、休憩を取ることにした。

 

 

 

 

ー休憩時間ー

 

「ふぅ、中々良い運動になりましたね」

 

「そうだな。この走った後の爽快感が心地良い」

 

 悠も元々運動する方ではなかったが、八十稲羽の同級生である一条と長瀬から影響を受けたのか運動することが趣味になっていた。

 

「あ!分かりますか。これが分かるということは鳴上先輩は前に部活か何かを?」

 

 今までこの手の話が合う人物が居なかったのだろう海未は興味深々と言った感じで聞く。

 

「嗚呼、八十稲羽に居た時はバスケ部に入ってた。それに仲間のカンフーの修行も手伝ってたし」

 

「カンフーですか。中々興味深いです…」

 

 海末は武道を嗜んでいるので、まだ未知の領域であるカンフーに関心を抱いた。しかし、里中のカンフーは伝統的なものではなく我流で身につけたものなのだが。

 

「今度紹介する」

 

「本当ですか!楽しみにしてます!」

 

 悠と海未が呑気な話をしていると

 

 

「う…海末ちゃん!厳し…すぎるよ!」

 

「そう……だよ、お兄ちゃんも…何か言ってよ」

 

 

 きつい朝練を強いられ、未だに息を切らしてる穂乃果とことりが元凶2人にクレームをつける。

 

「何言ってるんですか?これ位やらないとアイドルなんてなれませんよ。ですよね?鳴上先輩」

 

「そうだな」

 

 2人はこれ位と言うが、傾斜がきつく何十段もある階段をダッシュで何往復もするという練習は普段運動をあまりしていない穂乃果とことりには鬼畜としか言いようがない。

 

「そうは言っても、キツイものはキツイよ………」

 

「全く……穂乃果はいつも食べる量が多いんですからこれ位やらないと太りますよ」

 

「うっ!……い、良いもん!よく食べることは健康の証拠だって鳴上先輩が言ってたもん!」

 

「え?俺?」

 

「またそんな都合のいいことを……本当に太っても知りませんからね」

 

「ふん!……海末ちゃんはことりちゃんみたいに胸は成長してないくせに」

 

「な!なんですって〜〜〜!」

 

 自分のコンプレックスを突かれ激怒する海未。その後、穂乃果と海末の言い争いは互いの黒歴史を暴露しあうという所まで発展した。

 

「お兄ちゃん……どうする?」

 

「そっとしておこう」

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

「そういえば、スクールアイドルやることは学校に伝えたのか?」

 

 穂乃果と海末の不毛な言い争いが終わったタイミングを見計らって、悠がみなにそう聞く。その質問には穂乃果が答えた。

 

「うん。一昨日鳴上先輩を探しにいった後に生徒会に行ってお願いしに行ったんだ。そしたら………」

 

「生徒会長に『部の設立に人数が足りない』とか『やるだけ無駄』とか言われて、一刀両断されましたね」

 

 途中歯切れが悪くなった穂乃果に代わって海末がそう答えた。

 まぁそうだろうなと悠は思う。話を聞く限り穂乃果は何も計画も立てずに生徒会に突撃したようだ。計画を立てずに敵地に飛び込むのは愚の骨頂だと、悠は去年の事件でよく学んでいる。

 

「ことりちゃんのお母さんに頼んだら何とかなるかな?」

 

「それは無理だよ。昨日お母さんに聞いたら、活動は認めたいけどそれを決めるのは生徒会だって」

 

 穂乃果が理事長を頼るという案を出すが、ことりはそれを却下した。

 

「それに、すでに『アイドル研究部』というものがあるから部としての活動は認められないとか言われましたしね」

 

 海末がさらに追撃を加える。これにより穂乃果のHPはどんどん削られていった。

 

「そんな〜!じゃあ、どうしたらいいの〜!」

 

 中々良い案が浮かばないので、穂乃果が子供のように喚き散らす。海末は穂乃果のその様子に全くと呆れていた。すると、

 

 

「大丈夫。俺に策がある」

 

 

 唐突に悠がそう言った。

 

「え!鳴上先輩!本当に!」

 

 悠の発言に穂乃果はすぐさま食いつき、悠に急接近した。

 

「嗚呼。1番良いのは俺たちがその『アイドル研究部』に入部することだ」

 

 悠の発言に3人はなるほどと思った。部活として認められないのなら、自分たちがその部に入れば良い。

 

「でも、この案は現時点では却下だ」

 

「え?何で?」

 

 悠の発言に穂乃果は疑問を浮かべる。一見良さそうな案だが、実は違う。

 悠が調べたところによると、件の『アイドル研究部』は先日悠が出会った小さい同級生の矢澤にこが1人で活動している部活らしい。1日彼女と過ごしただけだが、彼女からアイドルに対する並ならぬ情熱を感じた。そんな彼女に生半可な気持ちで『アイドルやりたいから入れて下さい』なんて言ったら、彼女の逆鱗に触るだろう。それに、にこは穂乃果を毛嫌いしている節がある。結論からして、現状あまりよろしくない。

 

「そうなんだ……わたしが……」

 

 原因は自分にあると感じたのか穂乃果は表情が暗くなった。

 

「別に高坂が悪い訳じゃない。タイミングが悪かっただけだ」

 

「でも!」

 

「だから、俺たちの本気を証明するんだ。これでな」

 

 と、悠は懐から一枚のチラシを出す。それは

 

 

 

「「「新入生歓迎会のお知らせ???」」」

 

 

 

「そう、ここでライブをやって俺たちの本気を証明する。これが策だ」

 

 昨日悠が雛乃に聞いてみたところ、この新入生歓迎会の時に講堂でライブをやってもOKということらしい。講堂は生徒だけでも許可を貰えば使用出来るらしい。

 

「で、でも……ライブなんてやったことないし……失敗したら……」

 

 珍しく後ろ向きになる穂乃果。やはり、失敗するのが怖いのだろう。そんな穂乃果に悠はこう言った。

 

 

「失敗するかどうかじゃないだろ?」

 

 

「え?」

 

 

「あのA-RISEだって最初から成功した訳じゃない。誰だって最初は怖いものだ。でも、俺たちがそこで全力でやることに意味がある。だから、何も怖がる必要はないぞ」

 

 

「そうだね……よーしがんばるぞ!」

 

 悠の言葉に、元気が戻った穂乃果は気合を入れる。海末とことりも同様であった。

 

「講堂の使用許可は明日生徒会に俺が取りに行く。新入生歓迎会まであまり時間は無いが、やるだけのことはやるぞ」

 

「「「うん(はい)!」」」

 

「それじゃあ、練習再開だ」

 

 悠の号令で皆体力トレーニングを再開した。そこでまた不毛な争いが起こったのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

【月曜日】

〈通学路〉

 

  悠は今日も鬼畜の朝練(穂乃果命名)を済まして登校していた。当初『何で自分も朝練を』と思っていたが、これからまたシャドウと戦うことになるなら良いトレーニングになると考えを改めた。通学路を歩きながら悠は今回の犯人について考えていた。

 

 去年の事件はテレビで明確に報道された人物がターゲットになっていた。しかし、今回の狙われた穂乃果たちはテレビに報道されたということは聞いていない。これが去年と同じであれば何らかの共通点があるはずだ。もちろん無差別でやっているという可能性も否めないが。先日東條から『神隠し』の話を聞いた時、同じことが前も起きたみたいなことを言っていたので、そのことに関してはあるツテを使って調査中だ。

 

 ちなみに先日穂乃果たちに事件の時の話を聞くと、3人とも『1人になったときに後ろから誰かにハンカチのようなものを口に当てられ、気がついたらテレビの中だった』と言っている。誘拐の手口は八十稲羽の時と酷似している。しかし、そんなことを学校内で実行するのはかなり目立つので、犯人は学校を知り尽くした内部犯の可能性が高いだろうと悠は考えている。

 

 それにしても誰が何のためにこんなことをしているのか?足立のような考えで実行しているのならたまったものじゃないので、これ以上被害者を出さないためにも早く犯人を捕まえようと悠は決心した。

 

 

 

 

〈音乃木坂学院〉

 校内に入り教室を目指す途中、階段の踊り場で悠はある人物と出会った。

 

「貴方は……」

 

 転校初日に出会った音乃木坂学院の生徒会長『絢瀬絵里』である。

 

「おはよう。生徒会長の絢瀬……だったか?」

 

「ええ、そうよ。貴方は転校生の……鳴上悠くんで合ってるかしら?」

 

「合ってる……なぁ絢瀬、その手に持ってるのは?」

 

 悠は絵里の持っている大量の書類の束を指差す。端から見ると結構重そうだ。

 

「見て分からないの?生徒会の書類よ。これ全部やらなきゃいけないの」

 

「そうか」

 

 重そうなのに、それを表情に出さない絵里を悠は凄いと思った。

 

「早く退いてくれないかしら?急いでるから」

 

 絵里は冷たい態度を取りさっさとその場を去ろうとする。しかしどこか足がふらついているようだ。

 

「貸して」

 

 それを見かねた悠は絵里が持っていた書類を横から奪いとった。突然の悠の行動に絵里は混乱する。

 

「ちょ、ちょっと!返して!」

 

「断る」

 

「あ、貴方!」

 

「絢瀬は見るからに疲れてるだろ?俺が生徒会室まで運ぶから、道を案内してくれ」

 

「…………」

 

 絵里は無言だったが渋々といった感じで了承した。

 

 

 

〈生徒会室〉

「……ありがとう。助かったわ」

 

「どういたしまして」

 

 生徒会室に入って書類を所定の位置に置いた後、絵里は悠に礼を言った。

 

「貴方って、他人を助けて損するタイプよね」

 

「よく言われる」

 

「そう……」

 

 そんな会話をしていると、生徒会室のドアが開かれ誰かが入ってきた。

 

 

「エーリチ!おはよう!……あら?鳴上くんも来てたんやね」

 

 

 それは先日悠を散々引っ掛け回した希であった。希の登場に悠はとても驚いた。

 

「東條……もしかして生徒会だったのか?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?ウチここの副会長よ。何かあったらウチを頼って良いよ、鳴上くん♪」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 希はウインクしてそう言うが、悠は冷静にあしらった。先日悠のクラスに有りもしないガセネタを流し理不尽に遭わせた張本人なので少し苦手意識がある。しかし、改めて話してみるとそんな気がしないなと悠は思った。

 

「……希、やけに鳴上くんと仲が良いのね…」

 

 楽しげに話す2人を見て不審に思ったのか、絵里が少し棘のあるような言い方で問いかけた。

 

 

「そうよ。エリチには言ってなかったけど、ウチは鳴上くんのかの」

 

「知り合いだ」

 

 

 その先は言わせまいと悠は希の言葉を遮った。同じ手は二度と食らわない。

 

「知り合い?……それにしては随分と仲が良さそうだけど」

 

 

「だから鳴上くんはウチのか」

 

「知り合いだ」

 

 

「もう〜鳴上くんはガードが固いなぁ。そんな照れんでも良いのに♪」

 

 前言撤回。やっぱり希は苦手だと悠は思った。絵里は未だに2人を疑惑に満ちた目で見ていた。

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

「そういえば、絢瀬にお願いしたいことがあったんだ」

 

「……何?」

 

 悠はここに来た本来の目的を果たそうと、絵里に例の件を話した。

 

「今度の新入生歓迎会の時に、講堂を使いたい。許可をくれないか?」

 

「何故?」

 

 

「高坂たちの初ライブの為だ」

 

 

 悠がそう言うと絵里の表情が厳しいものになった。それは何事も寄せ付けない鋭さを持っている。

 

「……貴方…あの子たちの仲間なの?」

 

「そう言ったところだ」

 

「………あの子達にも言ったけど、スクールアイドルなんてやるだけ無駄よ。廃校のことなら生徒会が考えているから、貴方たちがどうこうする必要はないわ」

 

 やはりそう簡単にいかないかと悠は思った。それが分かると、悠は少し反論をぶつけることにした。

 

「でも、廃校を阻止する手段の1つとしてやってみる価値はあるんじゃないか?」

 

「そんなこと思ってるのは貴方たちだけよ。あんなのって上手く行かなかったら恥かいて終わりなんだから」

 

 全く聞く耳はなしといった感じだ。しかし、これはまだ悠の想定内だ。ここから揺さぶりをかける。

 

「1つ聞くが、絢瀬はこの学校が廃校になるのは嫌か?」

 

 

「そんなの……嫌に決まってるじゃない…」

 

 

 絵里は少し辛そうな顔でそう答える。

 

「何故?」

 

「…貴方に言う必要はないわ」

 

 どうやら、話す気はないらしい。絵里に廃校に対してどう思っていたことを確認できたところで次の揺さぶりをかける。正直絵里の心を踏みにじるかもしれないが……

 

「高坂たちも気持ちは一緒だ。あいつらも廃校がイヤだからスクールアイドルになって廃校を阻止しようとしてるんだ」

 

「だから何?」

 

 

「絢瀬は知らないかもしれないが、高坂たちは真剣にスクールアイドルに取り組んでる。もし絢瀬がそんな高坂たちの思いを否定するというなら、それは廃校を阻止したいって言う真剣な生徒の気持ちを否定することと同じにならないか?」

 

 

「!!!」

 

 悠がそう告げた瞬間、絵里は表情を歪め、机を両手で強く叩き、殺さんとする勢いで悠を睨みつけた。これには数々の修羅場を乗り越えて鍛えた度胸を持つ悠も内心ひやっとしたが何とか冷静を保っていた。端から見ればまさに一触即発状態だった。

 

 

 

「あ……貴方こそ………何も知らないくせに……」

 

 

 

 

「はい、そこまで〜」

 

 そんな一触即発の状態の中で、2人の間に入ってきたのは今までのやり取りを傍観していた希だった。

 

 

「エリチ、ここは1つ鳴上くんの提案を受け入れてみん?」

 

 

「の、希!何を」

 

 友人のまさかの発言に絵里は狼狽える。

 

「ウチは鳴上くんの言う通りやるだけの価値はあると思うんよ。鳴上くんから聞く限り、その子たちも真剣にやってるんやろ?その子たちの気持ちも汲んでやらないかんと思うで」

 

「……………」

 

 希にそう窘められた絵里は下を向き黙り込んだ。しばらくすると絵里は戸棚の方へ向かい、そこから一枚の紙を取り出し悠に押し付けた。

 

「これは?」

 

「……講堂を使用するための許可書よ。これに必要事項を書いて、今日の放課後持ってきなさい」

 

「分かった。絢瀬、ありがとう。それと……ごめん」

 

「ふん!……」

 

 絵里はそっぽを向き、自分の席に戻っていった。

 

「東條もすまなかったな。仲裁に入ってもらって」

 

 悠は先ほど助け船を出してくれた希にお礼を言う。思惑通り絵里を挑発することができたが、絵里の怒りが想像以上だったのでどうしたら良いか分からなかったのだ。

 

「ええよ、これくらい。お返しはまた昼休みにお弁当一緒に食べることで勘弁しちゃるわ♪」

 

「………分かった。でも、今日は高坂たちと食べるから明日でいいか?」

 

「了解♪楽しみにしとる。また弁当作ってくるね♪」

 

「期待してる……それじゃあ、失礼しました」

 

 悠はそう言うと早々に生徒会室から去っていった。悠がいなくなると、絵里はドアの方を向きこう呟いた。

 

「……気にくわないわ」

 

「エリチ……」

 

 

 

 

〈昼休み とある教室〉

 

 昼ゴハンを食べるため屋上へ向かう途中、とある教室の前を通るとピアノの音が聞こえてきた。あまりに良い音色だったので、悠は思わず立ち止まって聞き入ってしまった。教室の方を見ると赤いセミロングヘアの少女がピアノで弾き語りをしている姿が見えた。彼女は悠が見ていると気づかず演奏に熱中している。

 

ーNever more

 

 少女のどこか安らぐような歌声に悠は心が洗われたように感じた。それ位この少女の歌声は美しかった。聞き入ってるうちにその美しい演奏は終わってしまった。あまりの素晴らしさに悠は思わず

 

「ブラボー」

 

 と、声を出してしまった。すると

 

「だ、誰!!って貴方!!」

 

 その少女は悠の存在に気づくと悠の方を睨んできた。

 

「聞いてたの?立ち聞きとは趣味が悪いわね」

 

 出会って早々にキツイ言葉を浴びせる赤いセミロングの少女。今日は朝から女子からキツイ言葉を浴びせられている悠だが、そこは【オカン並】の寛容さが何とかしてくれている。

 

「悪かった。つい聞きいってしまった」

 

「そう。だったら早くどこかに行って!そして今のこと忘れて!」

 

 少女は悠に無茶な要求をする。そんなにさっきの演奏を忘れてほしいのか?悠には分からなかった。

 

「どこかに行くのは出来るが、忘れるのは無理だな」

 

「ハァ?」

 

 

「だって、今の演奏は忘れるのが難しいくらい素晴らしかったんだ。忘れろっていうことの方が無理がある」

 

 

 悠は心の底から少女の演奏を賞賛した。それに対する少女の反応は

 

 

「ヴェェ!…な、何言ってるのよ!……イミワカンナイ!!」

 

 

 あまり褒められることに慣れてないのか、言葉が少しあやふやになるほど慌てていた。

 

「ん?どうしたんだ?顔が」

 

「な!何でもないから!いいから早くどっか行って!!」

 

「わ、分かった」

 

 少女の剣幕に負けて、悠はすぐさまその場を去った。演奏を褒めたのに何故怒られなければならないのか?悠にはとても理解できなかった。

 

 

 

「私何やってんだろ……褒められたのに怒るなんて…………イミワカンナイ……」

 

 

 

 

 

 

〈放課後 生徒会室〉

 

「「「「失礼します!」」」」

 

 悠と穂乃果たちはHRが終わってすぐに例の書類を提出するため、生徒会室に赴いた。そこにはすでに仕事中の絵里と希が居た。

 

「あら?高坂さんたちに鳴上くん♪いらっしゃい」

 

 無表情な絵里に代わって希が挨拶した。

 

「か、会長。これが許可書です。お願いします」

 

 と、穂乃果が代表で講堂の許可書を絵里に提出する。絵里はそれを素っ気ない感じで受け取った。

 

「……確かに受理したわ…精々頑張ることね」

 

「は、はい!大丈夫です!絶対にライブ成功させます!!」

 

 穂乃果は何処ぞの黄色い弁護士のように大声でそう宣言した。

 

「そう……」

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

 許可書を提出したので、悠たちは退室しようとする。すると、

 

 

「……鳴上くん。ちょっとお話良いかしら?」

 

 

 意外なことに絵里が悠を呼び止めた。

 

「え?……良いけど。悪いが高坂たちは先に屋上に行って練習してもらえるか?昨日言った通りのメニューでよろしく頼む」

 

「うん…分かった。じゃあ後でね、鳴上先輩」

 

「先に失礼しますね」

 

「お兄ちゃん、後でね」

 

 と、穂乃果と海末とことりは先に退室した。

 

 余談だが放課後の練習はダンスレッスンをしている。ただし穂乃果が以前していた我流のものではなく、悠がりせに頼み込んで教えて貰ったオススメメニューでだ。ちなみにりせは憧れの悠がスクールアイドルのマネージャーになったことを聞いて、かなり不機嫌になった。今度時間が空いたらデートするということでなんとか手を打ってもらったが、悠の精神は削れるばかりであった。

 

 

 

「絢瀬、話って何だ?」

 

 話を戻して、悠は絵里に自分を呼び止めた理由を聞いた。

 

「単刀直入に聞くわ。貴方は高坂さんたちのライブ上手くいくと思う?あんなギャンブルみたいなことをして、上手くいくはずないわ」

 

 そんなことを言われたらぐうの音も出ない。絵里の言う通り、これはギャンブルみたいなものだ。最近始めた素人同然の穂乃果たちが短い期間の間でライブが成功するのはかなり確率が低いだろう。

 

「……確かに絢瀬の言う通りだ。これは成功するか分からないギャンブルみたいなものだというのは分かってる。でも、俺はそれでも高坂たちを信じてる。どんなに可能性が低くてもな」

 

 しかし、次の絵里の言葉が悠の心に突き刺さることになる。

 

 

 

「信じる?……そんな薄っぺらいこと良く言えるわね」

 

 

 

 

「!!!………なんだと…」

 

 

「鳴上くんには悪いけど、私にとって『信じる』なんて言葉は道徳の教科書に載ってるような薄っぺらい言葉でしかないの。貴方が信じるなんてこと言っても、それは自分の願望を言い聞かせているようにしか聞こえないのよね」

 

 

 絵里の言葉を聞いた瞬間、悠は去年のある記憶が蘇ってきた。それは、テレビの世界で事件の真犯人と対峙した時の記憶だった。

 

 

『絆なんて言葉は薄っぺらい』

『信じるなんて人を押し潰す呪いと同じだ』

『自分がこうであってほしいと願ってる理想を他人に押し付けてるだけだ』

 

 

 あの時の真犯人の言葉が甦ってくる。まさかここであの時の真犯人と似たような言葉を聞くとこになるとは思わなかった。悠はその時のことを思い出したのか、俯いて黙り込んでしまった。

 

「どうしたの?正論過ぎて言葉が出ないのかしら?」

 

 そんなことはお構いなしに絵里は悠に言葉の刃を向ける。すると、

 

「……エリチ」

 

 希が何かドス黒いオーラを出して絵里に話しかけてきた。

 

「の、希……どうしたの?……目が…笑ってな」

 

 

「絢瀬」

 

 

 絵里が友人の急変した態度に戸惑っていると、黙り込んでいた悠が突然顔を上げ絵里の瞳を真っ直ぐ見つめてきた。

 

「な、何よ…」

 

「絢瀬が何でそう考えるかは分からない……でも、俺は絢瀬が何と言おうと高坂たちを信じるのを止めるつもりはない」

 

 悠はキッパリとそう言った。

 

「何で……そんなことが言えるのよ…貴方は」

 

 悠の意外な言葉に訳が分からず、絵里は震える言葉で悠に問うた。

 

 

 

「信じることがいつも俺に力を与えてくれたからな」

 

 

 

 八十稲羽でもそうだった。互いに己の汚いところを見て絆を育んだ仲間を信じたからこそ、あの事件を解決出来て今の悠がいる。誰かに『信じるなんて馬鹿らしい』と言われようとも、悠はそれを曲げるつもりは毛頭なかった。

 

「……もういいわ。話すだけ無駄って分かったから」

 

 絵里はもう戯言はたくさんだと言わんばかりに嫌そうな顔をして、悠にそう言った。

 

「そうか。じゃあ、これで失礼するよ。高坂たちの練習を見なきゃいけないし」

 

 悠はそう言うと、退室しようとドアに手をかける。すると

 

「鳴上くん」

 

 と、また絵里が悠に声をかけてきた。

 

「まだ何か?」

 

 悠がそう言って振り向くと、絵里は悠を真っ直ぐ見てこう言い放った。

 

 

 

「私、貴方のこと嫌いだわ」

 

 

 

 はっきりとした拒絶。大抵の男ならこんな美少女からそんなことを言われたら、ショックで寝込んでしまうだろう。しかし、悠は違った。

 

「そうか……それなら俺は………」

 

 悠は全く動揺せず、口に笑みを浮かべて逆にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「絢瀬が俺を好きになってくれるよう頑張らなきゃな」

 

 

 

 

 

 

 

「え?………ええええええええ!!」

 

「それじゃあ」

 

 悠は普通に別れを告げ普通に退室した。自分が特大の爆弾を落としたということに気付かずに。

 

 

 

 

 

「……………………………………………………」

 

「エリチ?生きとる?おーい!」

 

 絵里は悠の衝撃な発言に頭がショートして顔が真っ赤になって、口を開いたままフリーズしてしまった。しばらくこのままだろう。

 

「ハァ、相変わらず天然タラシやな。鳴上くんは………再教育が必要やね……」

 

 希はドス黒いオーラを漏らしたまま溜息をつく。

 こうして鳴上悠は、知らず知らずにフラグを乱立していくのであった。

 

 

 

 

 

〈屋上〉

 

「だから………も言って……」

「えー……でよ!……ねが……よ〜」

 

 悠が屋上の扉に手をかけたとき、外から騒がしい声が聞こえてきた。何かあったのだろうか?と思い、悠は屋上の扉を開ける。

 

「みんな、どうしたんだ?」

 

 悠はそう言いつつ、状況を確認する。そこには穂乃果と海末とことりと、もう一人

 

 

「あ…貴方は………」

 

 昼休みにピアノを弾いていた赤い髪の少女がいた。

 

 

 to be continuded

 

 




Next Chapter
「お断わりします」

「本当にそう思うか?」

「お久しぶりですね。先輩」

「センパーイ!大丈夫ですか!!」

「声がデカイ」

「この事件に覚えは?」


「あの……これ、いつあるんですか?」

#07「Preparing for First Live」

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