PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
前回の活動報告で9月まで書かないと言っておきながら何で投稿してるんだと思っている人もいるでしょうが…これには訳があるんです。試験も終わって人間関係問題も大分落ち着いた自分の目にこんなニュースが飛び込んできたんです。
"PERSONAQ2 今冬発売決定"
こんなニュースが飛び込んできた途端、創作意欲が湧き出てしまい結果……本編とは全く関係のない番外編を2つ書いてしまいました。本編を楽しみにしていた方々には重ね重ね申し訳ないのですが、ここは自分の息抜きに付き合って下されば幸いです……。
考えた内容のテーマは次の通りです。
・PERSONA3とコラボ「屋久島での夏休み」
・PERSONA5とコラボ「9股掛けた主人公たち」
今回投稿したのは3の方です。5の方は明後日投稿したいと思います。改めて、勢いで書いた短編ですが、このストレスの溜まる暑い夏を過ごすに当たって少しでも笑ってストレス解消になってくれたら幸いです。
改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・誤字脱字報告をしてくださった方・評価を下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
そして、先日感想を書いてくれた方々、返信を返さなくてすみませんっ!!あの時は自分荒れていたので返せませんでした、本当にすみませんでした……前回の分も含めて必ず返します。
それでは気を取り直して、PERSONA3とのコラボ短編「The Striper operation in Yakushima.」をどうぞ!
♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~
あなたは目を覚ますと、そこには見覚えのない景色が広がっている。床も天井も全てが群青色に染め上げられた不思議な光景。普通ではありえない光景に思わず唖然としてしまった。すると、
「あら…こんなところに珍しい来客ね」
ふと見ると、目の前に見覚えのない一人の女性がいた。プラチナ色の特徴的な髪に秘書を想像させる群青色の服装。女性はあなたを見ると、艶っぽい笑みを浮かべてあなたに話しかけた。
「安心なさい、現実のあなたは夢の中よ。ふふ、ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある部屋。本来なら"契約"を果たされた方のみが訪れることができる場所であるのだけど……この部屋では意味のないことは決して起こらない。なら、あなたにはこう言っておくべきね。……………ようこそ、ベルベットルームへ」
彼女の言葉にあなたはハッと我に返った。
"ベルベットルーム"
ここはあのベルベットルームだというのか。ベルベットルームに訪れたというこの事実にテンションが上がるあなたを彼女は微笑みながら見守っていた。
「ふふふふ………どうやらあなたはここがどのような場所かを知ってるようね。でも貴方は正式な契約者ではないからどの道夢から覚めたらここで起こったことは忘れてしまうだろうけど、折角だから少し彼らの物語を話して差し上げるわ。私が知る限り大きな力を秘めたあの客人…………“鳴上悠”の話をね」
すると、彼女は手に持っていた本を開く。
「そうね、今あなたたちの世界では”夏”という季節が訪れているようだし、それにちなんだ物語を語りましょう。これはあったかもしれない可能性のお話、彼と彼女たちが過ごした暑い夏の物語………ある意味教育になるお話かしら?うふふふふふふ」
彼女は妖艶な笑みを浮かべる。そして、彼女が言っていたその物語とやらが映像としてあなたの視界に映り始めた。
これはあり得たかもしれない未来の話。彼と彼女たちが過ごした一夏の物語……
8月某日
<屋久島 桐条家プライベートビーチ>
「屋久島―――――!!」
「「「やくしま――――!!」」」
「こーらっ!そんなにはしゃがないの!」
「ははは」
ここは屋久島にある桐条家が所有するプライベートビーチ。そこに可愛らしい水着を身に纏った少女たちとハイカラな海パンの青年がそんなやり取りをしていた。
季節は夏。
学園祭ライブとそれに伴う事件を解決した悠と穂乃果たちμ‘sはライブのお礼という名目でシャドウワーカーの美鶴たちと一緒に屋久島に来ていた。ここに来て3日目になるが、都会と違って大自然に囲まれたここはいい所だと悠は実感した。初日は美鶴の別荘だという豪邸でゆったりとして、翌日は屋久島の名所だと言っても過言ではない縄文杉を見に行ったりと存分に屋久島を満喫していた。
本当は陽介や千枝たち特捜隊組も参加するはずだったのだが、千枝と完二が試験の結果が振るわず補習、ギリギリ脱した陽介はジュネスのバイトが不幸にも入り込み雪子もシーズン中で旅館の手伝いをしなければならなくなったので、残念ながら屋久島に遊びに行くことはできなかった。りせと直斗も本業が佳境に入っていて同じく。特捜隊メンバーが来れなかったことを聞いた悠は少々残念がっていたが、仕方ないと既に割り切っている。
「悠さん、穂乃果と一緒に遊ぼう!!」
来られなかった特捜隊の仲間たちのことを海を見て思いを馳せていると、水着に着替えた穂乃果が眩しい笑顔で悠を誘ってきた。なんというか、いきなり現れてびっくりしたのもあるが、穂乃果の水着が合宿に行ったときのものと違った雰囲気があってどうも見惚れてしまう。すると、それにつられるように他のメンバーも悠の元に続々と集まってきた。
「悠さん、体力をつけるためにも一緒にあそこの島まで遠泳しませんか?」
「お兄ちゃん、ことりと一緒にあっちで遊ぼうよ」
「ゆ…悠さん、あの…泳ぎを教えてくれませんか?」
「悠さん!一緒にかよちんに水泳教えようにゃ~!」
「悠さん……私も…水泳をちょっと……」
「悠っ!あいつらなんかほっといて私に付き合いなさい」
「悠、ちょっと話があるんだけど」
「悠くん、日焼け止め塗ってあげるよ」
「えっ…………えっと………」
次々に各々からそう誘われ困惑する悠。いくらなんでも一気に来過ぎではなかろうか。思わず直立不動になっていると、また誰かがやってきた。
「うふふふ、鳴上くんモテモテだね」
「ああ、人に好かれるというのはそうそう得られるものじゃない。大した器だぞ、鳴上」
「風花さん…美鶴さん…」
遅く着替えが終わったらしい風花と美鶴がそんなことを言いながら登場する。遅れて現れた2人の水着に一同は思わず呆然としてしまった。
「き、桐条さん……綺麗!」
「お肌が透き通ったように真っ白だにゃ!」
「風花さんもきれい」
「やっぱり…着痩せするタイプだったんですね」
「「………………………」」
風花のはエメラルド色のセパレートタイプ。GWで分かっていたが、どうも着痩せする体質のようで、そのタイプの水着だとそれが特徴として出ているのでより良いスタイルが引き出されている。美鶴は純白のビキニに腰にパレオを巻いている。それがより一層彼女の魅力であるクールさや華やかさが引き出しているようで筆舌に尽くしがたい。
「(これが俺の知らない年上の魅力なのか)………いてっ!」
思わず風花と美鶴の水着に見惚れていると、太ももと尻をことりと希に抓られた。
「お兄ちゃん?今風花さんと桐条さんの水着に見惚れてなかった?」
「えっ?……ええと………」
「悠くん、男の子やから仕方ないのかもしれんけど……ウチらの前でHなのはよくないわぁ」
「ええっ………」
ことりと希の言葉に他のメンバーも悠に向ける視線を鋭くする。何故このようになったのか分からないのか、風花と美鶴はポカンと首を傾げていたが当人はそれどころではない。早く彼女たちを宥めなければと必死に思考する。すると、
「鳴上、お楽しみのところ悪いがちょっと顔を貸せ」
「えっ?」
「すまないがお嬢ちゃんたち、ちょ~っとこいつを借りるぜ」
「えっ?あ、あの……」
思わぬ事態にどう対処しようか悩んでいると、同じく一緒に屋久島に訪れていたブーメランパンツの明彦と海パンの順平に強制的にどこかに連れて行かれた。
「あっ!ちょっと………行っちゃった。むう……お兄ちゃんがむさ苦しいところに………」
悠を取られてムスッと頬を膨らますことり。大好きな兄が明彦と順平に盗られたことにむくれているようだ。
「まあ、いいじゃない。普段私たちに囲まれて苦労してるし、たまには真田さんたちみたいな人とやり取りするのも悠には良い息抜きになるでしょ」
「ああ……そう言えば東京じゃ悠さん、陽介さんたちみたいな男友達あんまりいないし……絵里ちゃんの言う通りだね」
「う~ん……どうなんやろ?」
突然悠が明彦と順平に埒同然に連れ去られてしまい、不満げにそう漏らす者たちを絵里はそう宥める。だが、希の直感は告げていた。アレはろくでもないことが起こるに違いないと。
「………よし、ここなら大丈夫でしょ」
「ああ、ここなら誰にも聞かれることなく作戦会議を開ける」
「えっ?作戦?」
明彦と順平に連れられてやってきたのは桐条家のプライベートビーチから少し離れた木陰。端から見ればちょっと危ない絵面に見えなくもないのだが、一体この2人のいう作戦とは何なのだろうか。穂乃果たちとこれから海をエンジョイしようとしたところだったのにと思っていると、順平が高らかに宣言した。
「ああっ!やるぜ!"屋久島の磯釣り大作戦ver2"!!」
「えっ?…………磯釣り?えっ?」
「要するにナンパのことだ、鳴上」
「………………」
何を言いだしたかと思えばそう言うことから悠は心底げんなりした。順平はともかく明彦が真顔でそんなことを言ったときは一瞬頭がおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
「……何でそんな真剣なんですか。伊織さんはともかく真田さんは………」
「俺は……あの時のリベンジをしなければならないんだ」
「リベンジ?」
話によると、数年前に同じように訪れた時、明彦と順平、もう一人の連れと一緒にナンパにチャレンジしたらしい。その時の成果は言わずもがな。明彦はその時の悔しさがどうも忘れられないらしく今回の作戦に燃えているらしい。
「ということで協力してくれるな、鳴上」
「えっ?…………あ…あの………」
「そうだぜ、俺と真田さんじゃ成功率は低いが、お前がいるなら確率がぐんと上がるってもんよ」
「い、いや……あの……………」
2人の熱意に押されそうになりながらチラッと女子陣のいるプライベートビーチに目を向ける。もしナンパが彼女たちに、特にことりと希にバレたりした日にはすごいオシオキが待っているに違いない。ここは断って向こう側に逃げようかと行動を移そうとしたが、それを察した順平と明彦が悠の腕を掴んで頭を下げ始めた。
「頼むっ!!十代最後の一夏の甘い思い出のために!!」
「俺からも頼む!俺は…リベンジがしたいんだっ!!」
「………………………」
順平はともかくあの明彦までこんなに必死で頼みこんで来るとは。ここまでされておきながら断るのは何故か気が引けるような気がしてきた。
「………………………分かりました」
「「よっしゃああああっ!!」」
悠の参加が決定したところで明彦と順平は勝ちを確信したように歓喜した。だが、この後2人に天罰が下ることになるとはこの時は誰も知らなかった。
一方、女子陣は………
「ビーチバレーですか?」
「ええ、先日とあるDVDを視聴したところ、仲間同士で球技をすると親睦が深まるとありました。皆さんもこれで今まで以上に親睦を深めてはいかがかと」
そんなアイギスの提案からμ‘s+α対抗ビーチバレーが開催された。公式ではビーチバレーは2人制か4人制らしいが、これは遊びなので人数分けは気にしない。チームの振り分けはくじ引きにより、このような感じになった。
Aチーム:穂乃果・海未・凛・にこ・真姫
Bチーム:ことり・花陽・希・絵里・美鶴
「何故私も参加なんだ?」
「美鶴さんは最近デスクワークが多く、運動量が減っているようなので、ここで彼女たちと一緒に汗を流してみてはどうかと」
「ふむ…確かに、最近は少々運動不足だったからちょうどいいかもしれないな」
ちなみに対シャドウ兵器のアイギスは公平を期すため審判を、風花は得点係を務めるので不参加となっている。しかし、このチームの振り分けに海未は違和感を覚えていた。
「何故か振り分けに作為的なものを感じるのですが………」
海未の言う通りチームの振り分けが何故かある体の一部分が大きい者と小さい者と分けられている。別に風花が意図して操作したわけではないが、結果的にそうなったので仕方ない。それはともかく、今ここに楽しいビーチバレーが開始された。
「ていっ!」
「おりゃあっ!!」
「とうっ!」
「おおっ!ナイス凛ちゃんっ!」
「はっ!」
「美鶴さんすご~い!」
このようにしばらくはこんな感じで楽しいキャッキャウフフなビーチバレーが繰り広げられていた。だが、ここでそんな楽しい雰囲気が終わる出来事が起こってしまった。
「よしっ!ここで決めるわっ!!」
「させへんっ!」
お互い同点の接戦の中、味方がトスしたボールをアタックしようと飛び上がったにことそれをブロックしようと飛び上がった希。そして……
バシッ!(にこがアタックを決める音)
ポヨンっ!(希が胸でボールをブロックした音)
ベシッ!(そのボールがにこの顔面に当たった音)
「ぐふっ!」
「にこちゃん!大丈夫!?」
「ご、ごめん……にこっち、大丈夫?」
まさかのハプニング。にこのスパイクをブロックしようとした希がボールを胸でブロック、そして跳ね返ったボールがにこの顔面に強打してしまい、にこは仰向けに倒れてしまった。だが、にこは何事もなかったかのようにむくっと起き上がった。どうやらどこも異常はなかったようなので、大事に至らなくてよかった。
「ふふふふふふふふ…………もう加減はしないわ」
「へっ?に、にこ……ちゃん?」
だが、起き上がったにこは不気味にそう笑ったので皆は戦慄した。そして、相手チームの身体のある部分を仇を見るかのように睨みつけると、ボールを手にセットする。
「……ハアッ!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
にこは不気味にそう笑ったかと思うと、すぐに目をカッと見開いて、今まで出してなかった強烈なサーブを繰り出した。あまりの威力に流石の美鶴たちも反応できず、ボールはそのまま凄まじい砂ぼこりを挙げながらコート内に食い込んでいた。
「「「「………………………………」」」」
「これは…………小柄ながら中々の威力だ。どうやったらあのような威力がでるんだ?」
にこの繰り出したサーブの威力に一同は呆然としてしまう。美鶴だけは感心していたが、そこはそっとしておこう。
「もう一発っ!」
にこはまたも同じく強烈なサーブを相手コートへと撃ち放った。だが、
「甘いっ!」
「ナイスです。今やっ!エリチっ!!」
同じ手は二度も喰らわないと言うように、ちょうどベストポジションに入っていた美鶴にレシーブされ、それを希がトス。
ーカッ!ー
「行くわよっ!」
そして、絵里が相手コートにスパイクを放った。にこほどの威力はないが、的確に空いているゾーンを狙っていた。だが、
バシッ!
「「「!!っ」」」
ここでまさかの展開。入るかと思われた絵里のスパイクはいつの間にかポジションについていた海未にレシーブされていた。
「う、海未ちゃん?」
「穂乃果、上げなさい」
「は、はいっ!!」
海未の低い声に穂乃果は逆らうまいと上がっていたボールを必死にトスする。
「…ハッ!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「「「………………………」」」
海未が放ったスパイクもにこと同様……否それ以上の威力だった。それはさながら某赤い弓兵が放つ弓矢のようだった。
「さあ……ここからが本当の戦いよ」
「覚悟は良いですか?」
変なスイッチが入ってしまったにこと海未を見て、コート内にいた全選手が恐怖した。
"これは……マズイ予感がする"
その頃……
「…ダメだったな」
「……虚しいだけだった」
「リベンジ…ならずか」
ナンパが失敗して3人は浜辺で黄昏ていた。お察しの通り、ナンパに失敗したのである。そもそもナンパなんて沖奈市で散々な目に遭っている悠は最初から乗り気ではなかったので、改めて痛い目に遭っておきながらあんなに何度もトライした明彦と順平には呆れを通り越して敬意を表した。
「やっぱり…バックアタック作戦が上手く行かなかったせいか」
「いや、それってあの海にいる女性たちに泳いで背後から姿を現したやつですよね。アレは流石におかしかったかと」
「じゃあ、どうすれば良かったと言うんだ?」
「………普通に話しかけるとか」
「それじゃあインパクトに欠けるだろ」
「インパクト求めてどうするんですか…………」
「いや、真田さんの言うことも一理あるぜ。やっぱりファーストコンタクトは重要だってアイギスも言ってたし」
「ああっ!そこから洗い直すぞっ!まだ勝負は終わっていない!」
「おうよっ!奇跡の逆転サヨナラホームランを狙いましょうぜっ!!」
「……………(駄目だこの人たち、早く何とかしないと)」
以前明彦は学生時代ファンクラブが存在していたほどモテていたと聞いたことがあるが、段々それは嘘なのではないかと思ってきた。しかし、どう考えようとも後の祭りである。嗚呼、バレたら殺される。というか、もう希にはバレているかもしれない。
「(楽しい人生だったな……………)!!っ」
そんなことを思っていると、悠の第六感が何かを感じた。その存在に思わぬ恐怖を感じた悠はすぐさま2人を置いて逃げていった。
「だから次は……あれ?鳴上のやつどこに行ったんだ?トイレか?」
「そう言えば……にしても真田さん、何か視線感じません?」
「んっ?………確かに」
次の作戦を考えていると、さっきまで隣にいたはずの悠がいなくなっていた。それに、何故かどこからか邪な視線を感じたような気が………
「いい男じゃない。私、ビシビシ感じていたもの」
「ねえねえ、お2人さんはもしかして逆ナン待ち?」
すると、女性から声を掛けられた。ナンパに失敗して少々意気消沈していた2人はハッと胸を高鳴らせる。もしや、これは所謂逆ナンというやつでは。そう思った明彦と順平は歓喜して振り返ってみた。
「あら~♡誰かと思えば数年前に私をナンパしてくれた子たちじゃない。またここで会えるなんて………運命感じちゃうわ♡」
「んふふふふ~♡い・い・お・と・こ・た・ち♡」
しかし、そこにいたのは思わず目を背けたくなく際どい水着の妙齢の女性とアバドンを彷彿とさせる巨漢の女性……男に飢えたモンスターたちだった。
「げっ!!」
「あ、アンタは……まさか…………」
女性たちの姿を見た途端、2人は顔が青ざめた。アバド…巨漢の女性はともかく妙齢の方には見覚えがある。というか、数年前にナンパ作戦を決行した時にうっかり声を掛けてしまったあの女性が目の前にいる。
ちなみにこの女性の正体は【柏木典子】という悠の稲羽での元担任であり、巨漢の女性は【大谷花子】という悠の同級生。この2人がここにいるということは、もう分かっている読者にはお分かりだろう。
「さっきずっと2人で泣いてたの。逆ナンしてもみんな逃げちゃうから、本当の女の魅力が分かる男がいないって…………でも、あなたたちなら存分に私が教えてあ・げ・る♡」
「カモ~ン♡」
そんなことを言いながらジリジリと近づいて来るモンスターたち。心なしか顔が獲物を狙う肉食獣そのものになっているし、息も荒い。それを感じた順平と明彦は恐怖して後ずさる。
「さ、真田さん………」
「に、逃げるぞっ!撤退だっ!!」
本能が危険信号を発した2人は全力ダッシュで撤退する。だが、それを逃がすまいとモンスターたちも追いかける。
「「逃がすかあああああああああっ!!」」
「「ぎゃあああああっ!!」」
こうして明彦と順平の屋久島を舞台とした逃走劇が始まった。
「…すみません、真田さん・伊織さん。俺も命が惜しいんです」
近くの茂みにて大谷さんと柏木に追いかけられている明彦と順平に悠は心の底から合掌した。あの2人に目を付けられたら、早々逃げ切れはしないだろう。そのことを去年嫌というほど思い知った悠は静かに2人の冥福を祈った。
「あっ!お帰り、鳴上くん」
「あれ?お兄ちゃん、どうしたの?そんな疲れた顔して。真田さんたちとどこか行ってたんじゃ」
何とか気配を消してことりたちは待つビーチに戻ってきた悠。疲れ切った顔と同行していたはずの明彦と順平がいないことが気になったのか、そんなことを聞かれてしまった。
「………いや、ちょっと野獣に襲われてた」
「野獣?」
「屋久島にそんな危ない動物っていたっけ?」
野獣と聞いて意味が分からなかったのか、ことりと風花は首を傾げる。すると、何かを察したことりはクワッと目を見開いた。
「はっ!!もしかして、お兄ちゃんを狙おうとした女………待っててお兄ちゃん、今すぐことりが退治してくるから」
「ことりちゃん!?その解釈どうなのかな!!」
「安心しろ、真田さんたちを囮にしたから」
「えっ?……じゃあ、大丈夫だね」
「ええっ!?」
鳴上兄妹の会話に風花はペースを乱される。内容からして絶対大丈夫じゃない気がするのだが、本人たちは何故か落ち着いているので自分がおかしいのか、はたまた彼らおかしいのか分からなくなってしまった。
「それよりも、これはどうなってるんだ?」
「ああ……」
何事もなかったかのように悠が浜辺に目を向ける。桐条家プライベートビーチは先ほどの光景と全然違っていた。先ほどまでみんな仲良くビーチバレーをしていたはずなのに……
「うおりゃあああああああっ!!」
「くっ!」
「はああああああああああっ!!」
「きゃあっ!!」
「負けるかあああああああっ!!」
仲良くや楽しそうというには言えないほど白熱していた。
「ふっ、中々やるじゃないか」
「美鶴さんこそ………でも、負けませんっ!!」
「ここからが本番よっ!」
「私だって負けないわ!!」
コートで今対決しているのはAチーム側が美鶴と絵里、Bチーム側はにこと海未。他のメンバーはと言うと、あの4人のペースに巻き込まれたのかパラソルの下でぐったりとしていた。心なしか、“ビーチバレーはもうこりごりだ”などとうわ言を呟いてる気がするのだが……
「何があったんだ?アレ」
「………そっとしておこう、お兄ちゃん」
ことりの言葉には少し引っかかるがこれ以上聞くのは藪蛇のような気がする。とりあえず悠とことり、風花は倒れているメンバーを介抱することにした。
<桐条家別荘>
「いたたたたたた………」
「流石にはしゃぎ過ぎたわね…………」
「もう……立てません………」
「ふう…良い運動になった」
時刻が夕暮れを指し、辺りが暗くなったところで一同は桐条家の別荘へと戻っていた。先ほど白熱したビーチバレーを繰り広げていた4人は動き過ぎた故か少々周りの皆より疲れ気味であった。このまま放っておけば明日は筋肉痛になっているだろう。
「美鶴さん、後でマッサージをしましょうか?」
「ああ、すまないなアイギス。よろしく頼む」
「海未ちゃん、疲れに効く足ツボ押そうか?この前ネコさんに教わったの」
「そうですか……お願いします。正直そうしないと明日筋肉痛になりそうです……」
「エリチ、ウチがマッサージしてあげるわ」
「ありがとう、希……是非ともお願いするわ。あとどさくさに紛れてワシワシするのは止めてね」
「あらら、バレちゃった☆」
「…………………」
そんな彼女たちを見て各々の友人たちが気を遣うようにマッサージを申し出てくれた。これには彼女たちも嬉しそうに申し出を承諾したが、何故かにこには誰も声を掛けてくれなかった。これには流石のにこの少々ムスッとした表情になったが、そんな彼女に救いの手が舞い降りた。
「にこ、俺がマッサージしようか?」
「「「「!!っ」」」」
なんとにこにはあろうことか、マネージャーの悠がそう申し出てくれた。これにはにこのみならず周りのメンバーも驚愕する。
「え、悠が………してくれるの?にこに……マッサージを?」
「ああ、この間マッサージの本を読んだから試してみたいって思って。にこが良ければだが」
どうやら本人は最近得たマッサージの知識を試したいと思ってのことのようだが、にこにとっては先ほどの状況よりも何倍も好都合な申し出だった。これには思わずにこも表情がニヤニヤしてしまうのを隠し切れない。
「そ、そう…………じゃあお願…」
「「「私がやるっ!!」」」
だが、そうはさせまいと言うように花陽・真姫・穂乃果の3人が遮るようにそう声を上げた。何故かにこにはそれが提案というより“異議あり!”と言うように言っているようにしか聞こえなかった。
「えっ?………あの…俺が………」
「悠さんは休んでていいから、ここは任せて」
「ええっ……でも」
「ねっ!」
「えっと………」
「ねっ!!」
「………はい」
「何でよおおおおおおおおおおっ!!」
美味しい所を邪魔されたにこの絶叫が別荘中に木霊する。相も変わらず騒々しい悠たちだったが、そんな悠たちの楽しそうな様子に風花と美鶴は微笑みながら見守っていた。
「ハァ………」
休めと言われて悠はバルコニーで風に当たることにしたが、どうも釈然としなかった。ただ疲れ気味のにこにマッサージをしようとしただけなのに、どうして彼女たちは割り込んできたのか。勉学だけでは効果があるか分からないので実践で試してみたかったのにと本人は思っているのだが、天然ジゴロである悠に彼女たちの心境が分かるはずがない。
「散々だったな、鳴上」
バルコニーで黄昏ていると、いつの間にか隣に美鶴が一緒に黄昏ていた。東京で見たあのライダースーツのような戦闘服や先ほどの水着と違って、今は落ち着いた夏服でいるので普段とのギャップを感じて少々ドキッとしてしまう。これも年上の魅力かと実感していると背後から冷たい視線をいくつか感じた。
「……鳴上、突然だがここに来て良かったと思ったか?」
「えっ?」
「いや……彼女たちは見ていて楽しんでいるのは分かるのだが…君がどう思っているのか気になってな」
美鶴はそう言うと後ろでさっきのことで言い争っている穂乃果たちに視線を送る。何故自分にそんなことを聞くのかは分からないが、悠はどう答えようかと目を瞑ってここに来てからのことを振り返った。
「………もちろん、楽しかったです。屋久島を散策して縄文杉を見て、みんなと海で遊んではしゃいで……野獣に襲われそうになって」
「??」
「陽介たちも来れなかったのは残念でしたが……美鶴さん、改めてお誘いありがとうございました。残り少ない期間も楽しみたいと思います」
「うむ……そう言ってくれると、私も嬉しい。次は君の稲羽の友人たちとも夏を過ごしたものだな」
「それじゃあ、美鶴さんも今度一緒に稲羽に行きませんか?色々と案内しますよ」
「それは良いな。是非ともそうさせてもおう。スケジュールをチェックしておかなくては。その時はよろしく頼む」
「はい」
そうして悠と美鶴は信頼の証と言わんばかりに固い握手を交わした。手を握る力とその暖かさから美鶴の固い信頼を感じる。
「悠くん♪」
すると、そんな雰囲気に入り込むように希が悠の背後にふっと現れた。
「の、希?」
「ちょうどエリチのマッサージが終わったから、悠くんにもしてあげようって思うてな」
「えっ?……ああ………それなら美鶴さんに」
「ウチは桐条さんより悠くんにしたいんや。マッサージと称してどさくさに紛れてあんなことやこんなことができるんやからなぁ」
「「……………………………………」」
明らかに邪な欲望が丸出しである。その証拠にマッサージしようとしている手がワシワシと妙な動きをしていた。
「待った!!お兄ちゃん、ことりのマッサージの方が気持ちいいよ」
「えっ?」
そうはさせまいとするようにことりが希と悠の間に割り込んできた。
「ほほう?ことりちゃんも悠くんにあんなことやこんなことがしたいんやなぁ」
「ち、違うもんっ!………………希ちゃんはお兄ちゃんにいやらしいことをしようとしたから邪魔しにきただけだもんっ!絶対にさせないから!」
「あ、あの……ことり、私の足ツボがまだ途中なのですが………」
そんなことを言い合っていつものように火花を散らせる希とことり。足ツボが途中の海未が弱々しくそう訴えるが既に2人は聞く耳を持たなかった。
「ふ~ん……じゃあ、ここで決着つけようか?どっちが悠くんの疲れを癒せるか」
「臨むところですっ!」
次第に火花のバチバチ具合が増していく。こうなってはこの2人を落ち着けることなど不可能に近かった。
「全く……君たちは本当相変わらずだな」
「そっとしておこう……」
「君はそっとしておいたらいかんだろ」
そして、希とことりに連行された悠を見送った美鶴はバルコニーからの景色を静かに眺めた。
不思議なものだ。彼らと話しているとこれまでシャドウワーカーとしての責務や重圧などを忘れて巣の自分で居られるような気がする。そんなことを思いながら、美鶴はこれから先のことを楽しみに感じて夜風を満喫した。
「ん?………そう言えば何か忘れてる気がするが…………気のせいか」
一方……………
「「待てえええええええええええええええっ!!」」
「ぎゃああああああっ!真田さん!俺ら、一体いつになったら解放されるんですかあああっ!!」
「知るかっ!良いから走れっ!追いつかれるぞっ!………それにしても鳴上のやつ、覚えてろおおおおおおおっ!!」
後日、この2人がどうなったのかはご想像にお任せしよう。だが、後に2人はこう思った。
ナンパなんて、するもんじゃない………。
『The Striper operation in Yakushima.』 fin
Next Extra(ちょい見せ)
「どうして……」
「こんなことに………」
「「なってしまったんだ――――!!」」
ズガガガガガガガガガガガッ!!
「「うわあああああああああああああああああっ!!」」
"PERSONAQ2 Anniversary 2/2"
「Big pounding dating strategy.」