PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
#27を執筆していたのですが、あまり筆が進まず、そのまま部活の一週間合宿に突入したので、#27は未完成です。代わりとしては8月最後に合宿所に行く道中に久しぶりに聞いた「ペルソナ4 THE ANIMATION」のドラマCDを聞いて思いついた番外編を投稿しました。
今回の話は、もしP-1グランプリが開催されなかったらというifの平和な話です。最近シリアスな話しか書いてないので、こういうほのぼのとしたコメディーを書きたかったと思ったのもありますが。合宿の合間を縫ってスマホを使って執筆したので、あまり出来が悪く不自然な点があると思いますが、読者の皆さまが楽しめてくだされば幸いです。
新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方・誤字脱字報告をしてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。
それでは、番外編をどうぞ!!
Extra①「GW special sale」
GW
日本中の誰しもが楽しみにしているであろう大型連休である。故郷である八十稲羽に後輩と叔母とで帰省して、かつての仲間たちと合流して楽しい休日になるはずだった。しかし、そんな大型連休の最中に悠たちは……
『ジュネスは毎日がお客様感謝デー!来て、見て、触れてください!エ~ブリディ♪ヤングラ~イフ♪ジュ・ネ・ス♪♪』
「いらっしゃいませ~!」
「今日はジュネスのGW特別セールでーす」
「今日の夕飯にステーキはいかがですか〜?」
「い、いかがですか……」
「海未ちゃん、声小さいよ」
「ううっ」
「何で私がこんなことを…イミワカンナイ」
「ほらほら、真姫ちゃんもファイトだよ!」
ジュネスでバイトに励んでいた。
GWを利用して、仕事の雛乃と遊びに来た穂乃果たちと稲羽市に帰省した悠。帰ってきたら、再びマヨナカテレビが映ったということもなく、平和に稲羽での休日を過ごしていた。初日は直斗も含めた陽介たち【特捜隊】と穂乃果たち【μ‘s】との顔合わせ。ジュネスで自己紹介してり駄弁ったりして、仕事終わりの雛乃と絵里たちと共に、商店街や鮫川、高台など悠があの一年間で過ごした場所を巡った。道中、クマがことりや穂乃果たち【μ's】や絵里や希、あろうことか雛乃にもナンパして悠にこれでもかというくらい絞られたり、悠にやたらベタつくりせとことりが喧嘩を始めたり、海未が千枝の自己流カンフーに感化されて見よう見まねで陽介を吹っ飛ばしたりとなどと言った珍事件もあったが、みんなとても楽しそうだった。さて、明日は沖奈市にでも案内しようかと思っていた矢先……
「お願いします!!明日のバイト、手伝って下さい!!」
「クマ~~~!この通り!!」
惣菜大学で、陽介とクマからそう土下座された。話を聞いてみると、どうやら明日のジュネスのシフトがほとんど帰省や体調不良のため、人員が足りなくなったらしい。元々非番だった陽介やクマを入れても、足りないということだったので、こうやって悠たちに頭を下げているということだ。悠たち特捜隊メンバーは最初は渋い顔をしていたが、陽介とクマが哀れに思えたので、渋々ながらバイトの協力をOKした。りせは既に芸能界に復帰してる身なので、変装しなければならないが。すると、
「ねぇ陽介さん、穂乃果たちもお手伝いして良い?」
「「「え?」」」
突然穂乃果がそんなことを言ってきたので、一同は驚いた。
「陽介さんたちだけが大変なのは良くないし、穂乃果たちも陽介さんたちの仲間だからほっとけないなあって思って」
「そうですね。今日は花村先輩たちには色々とお世話になりましたから、それくらいはお礼しないといけませんね」
「ことりも賛成!お兄ちゃんと一緒に共同作業したーい」
他のメンバーも仕方ないと思いながらもバイトの協力をOKした。穂乃果からの優しい申し出に陽介は思わず感激して、涙してしまった。
「おおっ!穂乃果ちゃんたち……俺が知る女子たちにはあるまじき優しさが……ぐはっ!」
「優しくなくて悪かったなぁ!」
「花村くん、最低」
「花村先輩、さいってぇ!」
「花村先輩、最低です」
「ヨースケは相変わらず最低クマねぇ〜」
余計なことを言ってど突かれた陽介は放っておいて、穂乃果の発案で穂乃果たち【μ's】も明日ジュネスのバイトを手伝うことになった。本来、音乃木坂学院では生徒のバイトは校則でやむを得ない場合しか認められないが、実権者である雛乃は悠の友達が困っているからという理由で穂乃果たちのバイトを許可してくれた。
そして、今に至るという訳である。
現在、悠は穂乃果と海未、真姫と直斗と一緒に食品売り場にて売り込みをしていた。穂乃果は家の手伝いをしているお陰か、結構売り込みは手慣れていた。だが、いつもしっかりしている海未や真姫、直斗はこういう体験があまりないので、悠や穂乃果に助けられながらも役割をこなしていった。
「ふぅ、接客業というのは中々慣れないものですね」
「直斗も大変だな」
「それにしても……あれはいつ終わるのかしら?」
「「ああ……」」
3人の視線の先にあるのは売り場の隅で陽介と海未に説教されている穂乃果とクマである。つい先ほど、この2人は試食コーナーでパートの叔母さんに懇願して、高級肉をつまみ食いしようとしていたのだ。そして颯爽と駆けつけた陽介と海未に鉄拳制裁を食らって説教されているのである。あの2人は食い気のところで何処か似ているところがあるようだ。
「穂乃果さん、クマくんの悪影響を受けなければ良いのですが……」
「……やはりあのクマは始末すべきか」
「そうね。私と鳴上さんで直に殺ったほうが……」
「2人とも、落ち着いて下さい」
今度は直斗が悠と真姫を落ち着かせる番になったようだった。
〈屋上〉
食品売り場での一幕の後、悠は陽介と今日のセールを手伝いに来ている人たちに労いのジュースを配っていた。ちょうど悠も手が空いたので、陽介の手伝いをしているのだ。働いている人たちに労いのジュースを渡すとみんな感謝してくれたので、少し嬉しくなる。この案を出したのは陽介なので、人に頼られるのが好きになった陽介らしい案だと悠は思った。
そして、次の場所としてこの屋上へやってきた。ここの担当は完二にりせと凛、ことりと花陽だったはずだ。
「はーい、クマさんの着ぐるみショーはこちらですよ〜。みんな順番に列をつくって待っていてね。あっちでお姉さんたちが風船も配ってるから、欲しい人はお姉さんたちにお願いしてね」
「「「はーい!」」」
「席はこっちですにゃ〜!」
屋上ではクマさんの着ぐるみショーのステージがあるようで、花陽と凛が子供たちとコミュニケーションを取って並ばせていた。どうやら、花陽は子供好きらしく、うまく子供たちをたちを誘導している。それを見て、将来花陽は良い保母さんになると悠は直感した。まぁ今の彼女の目標は誰かさんのお嫁さんになることなのだが、その誰かさんは知らないようである。凛もうまく花陽のサポートが出来ている。その一方で
「はーい、ありがとう〜!あら?ことりちゃんは風船結構捌いたのね。まぁ私の方が量は少ないけど♪」
「ふふふ。りせさん、子供に懐かれるアピールは良いですから。そんなことでお兄ちゃんは振り向きませんよ♪」
「ふ〜ん………言うじゃない?まぁ去年私はずうっと悠先輩にべったりだったからぁ、貴女が私に勝てるとは思えないんだけどなぁ?ポッと出の自称妹のスクールアイドルに負けるはずないんだから」
「え〜?1年間休業してた人に言われたくありませんねぇ。それに、今お兄ちゃんと1番一緒に過ごしてるのはことりですから♪」
バチッ!
屋上ステージ付近では子供たちが見えないところで女の紛争が勃発していた。遠くからその様子を見ている悠と陽介でも、そこからすごく恐怖を感じるのに、近くいる完二は更に恐怖を感じているはずだ。
「お、おい。そろそろケンカやめねぇか?お前らだけ」
「「はあっ?」」
「すみません……」
中学時代に1人で暴走族を潰したという武勇伝を持つ完二を黙らせるアイドル2人。これ以上刺激すると、更に広範囲に被害が及びそうだ。
「なぁ…悠…………どうする?」
「そっとしておこう」
とばっちりを受けるのはごめんだったため、悠と陽介はこっそり打ちのめされた完二と一息ついていた花陽に4人分のジュースを渡して退散した。
〈フードコート〉
続いてやってきたのはフードコート。ここは千枝と雪子、絵里と希の担当である。
「らっしゃいませー!ソフトクリーム、早いよ安いようまいよー!!」
「千枝、牛丼じゃないんだから……って絵里さん、ソフトクリーム作るの上手だね!」
「え?そ、そうかしら?」
「見せて見せて!ってすごっ!!めちゃくちゃ上手!!さっすがロシア育ち!」
「ろ、ロシアは関係ないんじゃないかしら……」
「関係ないよね」
フードコートでは雪子と千枝、そして絵里が売店でソフトクリームを捌いていた。こういうバイトは初めてだという絵里は中々良い働きをしており、雪子や千枝とも仲良くしているようである。その様子を見て、悠は安堵していた。学校では張り詰めて窮屈そうであった絵里がこうして千枝たちと馴染めてるところを見ると、どこか安心する自分がいあるのだ。
「おっ!こっちはうまくまわしてるようだな」
「ああ、天城や里中、絢瀬と東條がいるんだから大丈夫だ」
「陽介くーん!ちょっと良いかなぁ?」
すると、少し遠くからジュネスのエプロンをつけた男性が手を振って陽介に呼びかけた。
「あっ!はい。悪い、チーフに呼ばれたから少し外れるわ」
「嗚呼、行ってこい」
陽介は悠に返事をもらうと、大急ぎでチーフの元へと向かった。少し手持ち無沙汰になったので、悠は陽介が戻るまでフードコートを見渡すことにした。GWだというとこともあるだろうが、ここは田舎とは思えないほど賑わっている。去年ここで皆と捜査会議をしたり、駄弁ったり、テスト勉強したりしたのが昨日のことに思えるくらい懐かしいと悠は思った。すると、後ろから肩をチョンチョンと突かれたので振り返ってみると
「お疲れ様♪鳴上くん」
こちらに微笑みを向けているエプロン姿の希がいた。私服の上にエプロンをつけているその姿は何故か『お母さん』みたいだと思ったのは内緒である。
「東條か。お疲れ」
「うん!本当ここのお店は活気があってすごいなぁ。まるで一つのテーマパークみたいやわ」
「そ、そうか。菜々子も同じことを言ってたよ」
希がフードコートの賑わいを見てそんなことを言ってきた。こう菜々子と同じようなことを言われると、嬉しいが少しその仕草にドキッとしてしまうので困る。すこし互いに進捗状況を話して、悠は束の間の休息を取った。
「そういえば、鳴上くんは仕事上がったと?」
「いや、この後陽介と他の売り場にジュースを配って………タイムセールが待ってる…」
そう、この後去年の夏休みに悠を苦しめたタイムセールが待っているのだ。あの時のことを思い出すと、つい顔が青ざめてしまう。悠のその様子を見た希は少し心配になってしまった。
「ふ〜ん……あっ、ちょっと待ったって」
希は何か思いついたのか、自分の持ち場であるソフトクリーム売り場のほうへ戻っていった。すると、少し言い争ってる声が聞こえたが、希が手に何かを持ってこちらに戻ってきた。
「はい!元気のない鳴上くんにサービス♪希ちゃん特製バニラソフトクリームや♪♪ただし、お残しは許さへんよ♪」
希はウインクしてそう言うと、出来立てであるソフトクリームを悠に差し出した。
「あ、ありがとう」
悠は希の笑顔に照れながらもソフトクリームを受け取って口をつけた。ソフトクリームの先っぽがなくなっていたのは気にはなったが、とても美味しかった。あまりに美味しかったので、ものの数分で完食してしまった。それを見た希は口に手を当てて微笑みながらこんなことを言ってきた。
「お粗末様。それ、ウチの
「なっ!」
それを聞いた悠は目を見開いて仰け反ってしまった。ソフトクリームの先っぽがなかったのがおかしいと思っていたが、まさか希が舐めていたとは思わなかった。
「ふふふ、間接キスやね♡それじゃっ!タイムセール頑張ってな」
希はしてやったりと言った表情を浮かべて、自分の持ち場に去っていった。突然の出来事に呆然としていると、チーフとの会話が終わったらしい陽介が帰ってきた。
「おお!お待たせ!って、悠?どうした?顔が赤くなってんぞ」
「え?」
どうやら希の策略とは言え、希にと間接キスしたことに顔が赤くなっていたようだ。陽介に熱でもあるのかと心配されたが、大丈夫だと誤魔化しておいた。しかし、こんなことを希にされたことは今回が初めてのように感じなかったのは気のせいだろうか?そんな疑問を抱えつつ、悠は陽介と共に別の場所へと向かっていった。
そして時は過ぎて、ついに悪夢のタイムセールの時間がやってきた。
「良いか!野郎共!!セール中の買い物客を甘く見るな!!」
「「「サー!イエッサー!!」」」
「「い、イエッサー?」」
タイムセール部隊に選ばれたのは特捜隊男子メンバーと手の空いていた穂乃果と凛、にこの7名だった。穂乃果たちは悠たちの軍隊のノリに困惑している。
「何でそんな大袈裟なのよ。たかがタイムセールでしょ?」
「おい!矢澤二等兵!!ここのセール中の買い物客を舐めるんじゃない!!」
「誰が二等兵よ!!」
陽介はこのタイムセールを甘く見ているにこに注意を促す。にこは二等兵という単語が気に食わなかったので噛み付いたが、陽介は気にせずに話を進めた。
「作戦は先ほど言った通りだ!クマと完二、穂乃果ちゃんと凛ちゃんは前衛でお客様の誘導係、俺と悠と矢澤が後方で商品補充を担当する。俺の放送と同時に奴らは一気に押し寄せてくるぞ!準備…いいや、覚悟は良いな!」
「「「サー!イエッサー!!」」」
「「「イ、イエッサー!!」」」
「行くぞ!」
陽介は隊員全員の準備を確認すると、放送用のマイクにスイッチを入れた。
『お買い物をお楽しみの皆さまにジュネスGW特別タイムセールのお知らせです。ただいまより特売コーナーにて、特製和牛ステーキが最大6割引!高級お刺身盛り合わせがなんと500円!お野菜詰め放題100円ボッキリ!超お買い得ですから、どうぞお見逃しなく!ただいまより、タイムセールの開催です!!』
ドドドドドドドドドドドドドドッ
「な、何の音だにゃ!店内に地響きが」
「来るぞ!奴らだ!!全員衝撃に備えろ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドッ
「「「タイムセールはどこーーーーーーーー!!」」」
「「「「うわああああ!」」」」
地響きとともに数多くの主婦たちが売り場に突進してきた。あまりの勢いに、穂乃果たちどころか一度体験したことがある悠たちまでその勢いに飲まれそうになる。
「タイムセールどこーー!?」
「は、はい!こちらです!!うおっ」
「うっ……押さないでくださいにゃ………」
誘導係の完二や凛たちがどう言っても、主婦たちは聞き入れようとはせず、ただ己が求める商品を奪い取ろうと皆を押しのけて進軍してきた。
「肉っ!肉は!?」
「は、はいー!ありがとうございます!」
「こっちにも一つ頂戴!これとこれとこれ!!」
「ちょっ!これもうパニックじゃない!!」
売り場は陽介とにこが必死に商品を捌くが、主婦の数が多すぎて捌ききれなくなっている。悠と穂乃果が無くなった商品を補充しようとするが、主婦たちの進軍に巻き込まれては十分に補充が出来なくなっている。
「せ、先輩……怖いよ〜〜ー!」
穂乃果のみならず、このタイムセールのバイトに参加した皆はあまりの主婦の数とその商品を求める狂気に慄いている。軽々しくタイムセールの売り場を手伝うことと言ったことを今更後悔しているようだ。それにもう既に売り場が殺伐としてきている。セールと言う言葉に主婦は皆狂戦士になると聞いたことがあるが、まさにその通りだ。
「くそっ!このままじゃ……」
このままでは売り場が持たない。何か起死回生の策を打たなくては……
「みんな!諦めちゃだめクマ!!ここで、戦力分散作戦クマよーーー!」
クマはそう言うと、別の売り場で別のセールの商品を並べていた。戦力分散とはそう言うことか。
「ねぇ、そこのお姉さんたち!こっちの和牛ステーキの方がお得だよ。是非とも貴女に買って欲しいんだ。とっても美味しいから」
「「「「「!!!」」」」」
クマお得意の主婦受けボイスとタラシスキルが功を制し、大方のが
ドドドドドドドドドドドドドドッ
「あっちよ!あっちの方がお安いわ!!」
「私が先よー!!」
「ぐぎゃあああああああああああ!!クマぁぁぁぁぁぁ!!」
分散したのは良いが、逆に勢いづいた主婦の勢いに飲まれてしまい、クマは明後日の方向に吹き飛ばされて星になった。
「「クマ(さーん)ーーーーーーー!!」」
悠と穂乃果は思わず星になったクマの名を叫んでしまう。すると、
「くそっ、こうなったら、俺がクマの仇を取らせてもらうぜ」
完二は散っていったクマの仇を取るために、自ら狂戦士が蔓延る最前線に飛び込んでいった。
「オラオラオラァ!!タイムセールは順番に!列を作ってお待ち下さーい!!」
完二は己が壁になって
ドドドドドドドドドドドドドドッ
「安い!全部お安いわ!!」
それだけで
「だ、ダメだ……またしても、人の波に…呑み込まれて!うおおおおおおおお!!」
「か、完二さん!今助けにって、にゃああああああああ!!」
「完二ーーーー!!凛ーーーーー!」
「も、もうやってられないわ。巻き込まれる前に私は退散よ!…ってきゃあああああああああ!!」
巻き込まれる前に自分だけ逃げようとしたにこは、逃げた先の主婦たちの進軍に巻き込まれて、己も波に飲まれてしまった。神は脱走兵を見逃さなかった。
「「矢澤(にこ先輩)ーーーーー!!」」
「くそっ!完二にクマ、凛ちゃんに矢澤まで………悠!こうなったら、穂乃果ちゃんを逃して、俺たちだけでこのタイムセールを乗り切るしかない!!」
陽介は隊員の大半を失った今の状況でも決して諦めようとはしなかった。それはそれで立派な姿勢というものだが、
「いや!ここは勇気ある撤退を!!」
「な、何っ!!お前はまた、俺に同じ決断をさせようとするのか!!」
悠からの撤退懇願に陽介は激昂してしまう。しかし、悠は落ち着いて理由を説明した。
「見ろ、この惨状を…
「誰が上手いこと言えと言った!」
「俺はこれ以上、大事な仲間を失いたくないし、ことりと菜々子を悲しませたくないんだ!」
「!!っ」
悠の切実な発言に陽介は思わず苦虫を潰したような表情になった。
「曹長!ご決断を!」
「陽介さ…じゃなくて曹長!!」
悠と穂乃果は陽介に撤退をと頭を下げた。果たして
「くっ………撤退だ!!即時撤退!!」
「「「サー…イエッサー!!」」」
悠たちは陽介の号令で散っていった仲間を回収しながら持ち場を撤退していった。
こうしてジュネスはセール終了の時間となり、お客はみんな満足げな様子で帰っていった。だが、
「もう、二度とやりたくないよぉ………」
「負けた……またしても完全に負けた…………」
「クワバラ…クワバラ……」
「んにゃ〜…………」
タイムセールで酷い目にあった一同はフードコートでくたばっていた。その様子を見た他のメンバーたちはぎょっとする。
「ま、まぁ。タイムセールとしては成功だったということで」
「「「んな訳あるかぁ!!」」」
「ですよね………」
陽介は後日、バイトに協力してもらったお礼として穂乃果たちにめいいっぱい奢って財布が空になったのは別の話である。
「あら?悠くんたち、どうしたの?」
すると、両手いっぱいにジュネスの買い物袋を持った雛乃が悠たちの元にやってきた。
「お、叔母さん……その袋は?」
「え?さっきタイムセールがあってたから、つい買いすぎちゃったの。やっぱり私も一児、いや二児の母だからセールに弱いのよねぇ。今日の夕飯はこれで悠くんに何か作ってもらおうかと思ったけど、ダメかしら?」
「「「…………」」」
あの戦場を潜り抜けて其れだけの買い物をしたとは……恐るべし。勿論その量ならばここにいる全員分の料理を作れるので問題ない。久しぶりに腕を振るって、菜々子やことり、雛乃やみんなの笑顔で癒されよう。そう思った時だった。
「でも鳴上くん、疲れてるから代わりにあたしらが作ろうか?」
「そうだね、そうし」
「「「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!」」」
自分たちが料理を作ろうかと雪子たちの悪魔の申し出。悠たち特捜隊男子がそうはさせまいと全力で異議を唱えた。
「な、何であんたら、あたしらを指差してんのさ!」
「うっせぇー!!お前らの生物兵器に匹敵する"物体X"を雛乃さんや穂乃果ちゃんたちに食わせられっか!!」
「せ、生物兵器って……そんな言い方ないっしょ!!」
「そうだよ!去年のアレはちょっと失敗しただけよ」
「あの林間学校でのカレーや夏休みのオムライスを作っておいて、よくそんなことが言えるな……」
「ともかく絶対ダメっす!更なる被害が出るっスから!」
「被害って何よ!」
こんな調子でどんどん言い争いが激しくなっていく。いくら何でも絶対にこの必殺料理人たちに台所に立たせるわけにはいかない。
「ぶ、物体Xって何だろう?」
「さぁ?」
去年の林間学校や夏休みに居なかった直斗や穂乃果たちは何のことかは分からなかったが、悠たちの慌て様からして雪子たちの手料理で痛い目にあったことは痛感した。そんな中、それ以上の爆弾を投下する者が現れた。
「希?どうかしたの?何かいつもより上機嫌なんだけど」
絵里が希がいつも以上に機嫌が良いのを見てそう聞いてきた。すると、希はわざとらしく口元に手を当ててこう言った。
「いや〜、さっき鳴上くんがウチにキスしてくれたからなぁ♡」
「「「何にいいいいいいい!!」」」
希の衝撃な一言でみんな絶叫し、悠に詰め寄ってきた。
「お、おい!悠!!お前は俺が目を離してる隙にそんなことしてたのかぁ!!」
「ちょっと先輩!!どういうこと!!あんな胸の大きい人と……そういうことだったの!?」
「ど、どういうこと?」
「そういうこと!!とぼけないで!!」
そういうことと言っても悠は思った。キスと言っても間接キスなのだが、それを言ったところでこの状況を収拾できないだろう。この状況はまずい。
「ふ、副会長とせ、接吻だなんて………破廉恥です!!」
「な、鳴上先輩…やっぱり副会長さんと………あふっ」
「かよちーーーーん!!しっかりするにゃーーー!」
「鳴上ーーー!希に手を出したってどういうことよー!」
仲間の反応に悠は慄いていた。嫉妬に燃える陽介とりせの怒り方が半端ではないし、海未は顔を真っ赤にして、花陽はショックのあまりに失神してしまった。
「流石センパイっす!!どういう風にやったんすか!?」
「お〜流石クマのセンセイクマー!」
悠を尊敬しすぎて別のベクトルに走ってる者も数名。真姫は言葉にはしてないが、凄く不機嫌そうに悠を睨みつけてる。穂乃果と雪子、千枝はどうして良いか分からず、ただ呆然としていた。直斗はやはりそうだったのかと納得した表情をしている。そして、
「ひぐっ……ひぐっ……ひどいよ、お兄ちゃん……ことりには……まだキスしてくれてないのに……う、うええん………」
「こ、ことりちゃん!泣かないで〜!」
「あらあら、悠くんと東條さんがそんな関係に……」
ことりに関しては手で顔を覆って、穂乃果にあやされながら泣いている。目から大粒の涙が溢れているので、悠はそれを見てうっとなる。雛乃は笑顔のままだが、逆にそれが怖い。このままでは何をされるか分かったものじゃないので、悠は説得を試みる。
「お、落ち着け!あれはただの間接……」
「え……酷いわ鳴上くん……ウチ初めてやったのに……」
希が更に煽るように悲しげな表情をして誤解を招くようなことを宣ったので、悠に対するりせやことりたちの殺気が更に倍増した。悠の冷や汗が止まらない。何とか誰かに助けを乞おうと周りを見渡すが
「……お兄ちゃん?今日という日は身体に教えないとだめかなぁ?」
「鳴上くん?どういうことなのか説明してもらおうかしら?」
さっきまで泣いていたことりどころか唯一の希望であった絵里まで何故か笑顔なのに、目のハイライトが消えていて、ただならぬ凄みを増して悠に詰め寄ってきた。悠は完全に逃げ場を失った。みんなから冷たい視線を受けているこの状況は最悪だ。ここは……
「やむ負えん………撤退だ!!」
悠は皆に背を向けて、ジュネスから逃げ出そうと撤退した。
「逃すかぁ!!全員であいつを捕まえろ!」
「「「サー!イエッサー!!」」」
「待てー!鳴上センパーイ!!」
「かよちんを泣かせたからには許さないにゃー!!」
陽介の指示の下に怒りを抱いた者たちが一斉に悠を追いかけた。こうしてジュネスの店内で鬼ごっこが開始された。その様子を雪子と千枝、直斗はやれやれと肩を竦めて、雛乃は微笑んでその成り行きを見守っていた。
騒がしい1日であったが、GWはまだ始まったばかりである。
ーExtra① END
如何だったでしょうか?
次は9/5頃に#27を投稿します。