PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

最近部活や勉強やら色々あって胃が痛くなることが多くなってきました。もう少しで某ロードのように胃薬が友達になりそうです………笑いごとではありませんが。
それはともかく、PQ2の新しいダンジョンが公開されましたね。【ジュネシック・ランド】って………大丈夫なのか?【カモシダーマン】も危ない気がするが…………それでも絶対やりたいと思うくらい面白そう!

改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけて下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
至らなかった点が多い故か最近低迷気味でありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ!


#60「μ‘sic start for the truth.」

「佐々木……竜次………」

 

 

 いつの間に自分のたちの前に現れた今回の事件の首謀者【佐々木竜次】の登場に皆は驚愕する。先ほどのメギドラオンから逃れていたことにも驚きだが、まさかあちらから姿を現すとは思わなかった。しかし、穂乃果たちと遭遇した時の白黒を強調したタキシードとマント…ドミノマスクを身に着けていたはずなのだが、何故か今は私服姿だった。

 

「よくも…俺の世界を滅茶苦茶にしてくれたな………ゆるさん……ゆるさんぞ……」

 

 それに姿だけでなく口調も様子もさっきと180度変わっている。ここまで来たらもう別人に思えてしまうほどだった。しかし、例え様子がどれだけ変わろうが目の前の人物が自分たちにしてきた所業は変わらない。

 

「ふざけないでっ!!悠さんを酷い目に遭わせておいて許さないって………それはこっちの台詞だよっ!」

 

「………………」

 

 穂乃果は恨み言を言う佐々木を恐れずに突っかかる。珍しく怒りを露わにしている穂乃果に怖気づいたのか、佐々木はダンマリとしてしまった。そして畳み込むように絵里が割り込んで言霊を放つ。

 

「もう観念しなさい。私たちが悠を助けた時点であなたは負けたの。今更戦う理由なんて」

 

 

「はは……ははは………」

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

「はははははは……あははははははははは。……あははははははははははははははははははははははっ!!」

 

 

 

 

 まるで狂ったかのように腹を抱えて笑い出した佐々木。その豹変ぶりに穂乃果たちは思わず寒気を感じてしまった。あれは本当に常軌を逸している。

 

「な、何がおかしいのですかっ!?」

 

「ははは……負けた?……僕が?……………そんな訳ないだろ。本番はまだこれからなんだからな!」

 

「えっ?」

 

 佐々木が悠たちにそう言い放って指をパチンと鳴らした瞬間、佐々木の目の色が変わった。それを見た穂乃果たちはギョッとする。

 

「なにあれ……」

 

「目が………変わってる」

 

「あれって…シャドウと同じ目……」

 

 ついさっきまで自分たちと同じ普通に目をしていたのに、今の佐々木の目は金色……シャドウがしている目を同じになっていた。

 

『気を付けてっ!その人からシャドウと同じ反応が出とる!明らかに何か変やっ!』

 

 希からの報告に一同は凍り付いた。激戦を二度乗り越えた疲労なのか、今の光景が現実で怒っていることなのかが分からなくなってきた。ただの人間からシャドウの反応が出るとはどういうことなのか。だが、悠はあの佐々木の状態を知っている…というよりも見たことがある。あれはまさか…

 

 

「くはははは……良いねぇ…あのシャドウ?っていうのを受け入れたらこんなに楽になれるなんて……ははははははは…これは飛べそうだ」

 

 

「と、飛べそう?……何を言って…」

 

「こ、怖いです……この人…正気なんですか?」

 

「完全に危ない人じゃない……」

 

 先ほどのおちゃらけた道化師の時とは全然違う。まるで別人になったかのようだ。この佐々木という人物をよく知っている訳ではないが、あれはもう常軌を逸している。困惑する悠たちを置いていくように佐々木は突然こんなことを言いだした。

 

 

パチンッ!

「見せてやるよ…こいつが俺の切り札さっ!!」

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

 

 

 佐々木は指を鳴らした瞬間、地響きが聞こえてきた。まるで地面から何か出てこようとしているかのような勢いなので、思わず立っていられなくなる。一体あの佐々木は何をしたのか思っていると、地面から何か形あるものが出てきた。

 

 

「こ…これは……シャドウっ!?」

 

 

 そう、その地面からものの正体はシャドウだった。出現したシャドウは初めて相対した時のシャドウや、真姫と花陽のクラブやにこの遊園地、絵里のコンサートホールで対峙したシャドウと今まで倒してきたシャドウたちだった。気づくと辺りはたくさんのシャドウに囲まれていた。まるでここら一帯を埋め尽くさんばかりの勢いでシャドウは増殖していく。

 

「こ…これは……」

 

「嘘でしょ……」

 

「こんなにも…シャドウが……」

 

 360度見渡してもシャドウしか見えない。もう自分たちの周囲はシャドウの群れに包囲され、埋め尽くされていた。まるで一つの軍隊のように悠たちを取り囲んでいる。まさに四面楚歌という言葉がしっくりくる状況であった。

 

 

『な、なんやこのシャドウの数………じゅ、10万って…おかしいやろ!?』

 

「「「えええええっ!?」」」

 

「10万って……何よそれ……」

 

 

 希が測定したシャドウの数に皆は仰天する。10万という大軍なんて今まで戦ったことがない。これが数の暴力というものなのか、雑魚シャドウでも10万と聞くと戦う気力も失せていき、恐怖という感情が穂乃果たちの身体を支配していった。

 

 

「ははは……ははははははは……ははははははははははははっ!!どうだ?追い詰められた気分は?どう見ても絶望的だろ?はははははは…愉快だ!爽快だっ!!」

 

 

 穂乃果たちの慄く表情がおかしかったのか、佐々木は拍車がかかったように笑い始める。道化師を演じていたときとは違う心の底から穂乃果たちを嘲るような笑い声が響き、不快感が増していく。

 

 

「ムカつくんだよ……俺みたいに頑張っても頑張っても見向きもされない者の苦しみを知らないで成功していくお前らが………どうせ、そこにいる鳴上が色々手を回してたんだろ……鳴上さえいなけりゃ落ちて行くと思ってたのによぉっ!!良くもやってくれたなぁ!」

 

「ひっ……」

 

「だがっ!それもここまでだ………このシャドウたちに飲まれて死ねばいい……学校も……何もかも終わりなんだからなっ!!あーっはははははははははははははははははははっ!!」

 

 

 更に演説を続けて高笑いする佐々木。その言葉は穂乃果たちには禍々しく聞こえ、更に恐怖感が心を蝕んでいった。

 

 

(な…なんで身体が……こんなにも震えて………)

 

(こ、怖い…………怖い……………)

 

(こんなの……勝てるわけないじゃない……)

 

(た…戦わなくちゃ……いけないのに…………なんで……)

 

(は、はやく……カードを………)

 

 

 海未やことり、花陽に凛に真姫、果ては絵里や希までも恐怖で身体が震えていた。それほどあの佐々木の言葉が彼女たちの心を蝕んだのか、何とかペルソナを召喚しようとタロットカードを顕現しようとしてもそれが出来ない。もはや穂乃果たちはその場で蹲ることしか出来なくなってしまった。

 

 

(誰か…誰か……………助けて……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着け、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐怖に心が支配されそうになった時、不思議と悠の言葉が彼女たちの耳に響いてきた。

 

「ゆ…悠さん?」

 

 みると、悠は穂乃果たちのように怯えたり縮こまったりしておらず、いつもの真っすぐで優しい目でこちらを見つめていた、

 

 

「安心しろ、ここにみんながいるじゃないか」

 

「……えっ?」

 

「どんな敵が立ち塞がっても、仲間と一緒なら乗り越えられる。今までもそうだっただろう?」

 

「でも……それは…悠さんが居たから……」

 

「いや、さっき見ていた通り俺だって一人じゃ弱い。でも、仲間の存在が俺を強くしてくれる。海未たちだって俺が居なくても穂乃果のシャドウに勝てたじゃないか」

 

「あっ……………」

 

 

 悠の指摘に先ほどの穂乃果シャドウとの戦闘を思い出した。そうだ、ギリギリの勝利だったとはいえ自分たちは悠がいなくても戦えた。いつも悠に甘えていたので最初はとても不安だったが、穂乃果とことり、悠を助けたいと心から想ったことや仲間を信じたからこそ掴み取った勝利だった

 

 

「だから大丈夫だ。ここには俺も…みんながいる。こんな大勢のシャドウだって、みんなで力を合わせれば勝てるはずだ」

 

 

 悠の言葉が皆に勇気を与える。悠に鼓舞されて戦う力が溢れてきた。つい数の暴力に負けそうになったのが嘘のように元気が出てきた穂乃果たちは自分たちを取り囲むシャドウたちを倒すために立ち上がる。佐々木に植え付けられた恐怖心は完全に消え去っていた。

 

「はは……ははは………何言ってるんだよ。たった10人に何ができる?こっちは10万だぞっ!!これを倒すなんて無理に決まってるだろっ!?なあ、鳴上ぃ!いい加減諦めろよっ!絶望しろよっ!本当は怖いんだろっ!なあっ!!」

 

 先ほどまでの勢いを取り戻そうと更に言葉を紡ごうと佐々木は馬鹿にしたように瀬々笑う。だが、悠は穂乃果たちの時とは変わって、佐々木を冷めた目で見ていた。

 

 

「…そのうるさい口を閉じろ……俺はもうキレている」

 

 

 そう言い切った悠の顔はポーカーフェイスを保っているもののその表情から怒りが抑えきれないほど露わになっていた。心なしか、悠から怒りを表現しているようなオーラが溢れているようにも見える。その様子に佐々木は慄いてたじろいでしまった。

 

 

「お前は…ことりを……穂乃果たちを危険に晒した………その報いを受けてもらうぞ」

 

 

「く……くくく……いつまでそんな虚勢をやれるかな?さあ…やれっ!!お前たちっ!!」

 

 

 佐々木は悠たちを取り囲むシャドウたちに指を鳴らしてそう指示した。佐々木のアクションに穂乃果たちは一斉に臨戦態勢を取る。だが、

 

 

 

 

「「「「…………………………」」」」

 

 

 

 

「な、どういうことだ!!さっさと行けよっ!!」

 

 

 指示にシャドウたちは従うことはなかった。まるで悠自体に怯えているように身体が竦んでいた。自分の言うことを聞かないシャドウたちに憤り喚き散らす佐々木であったが、それとは対照に悠は何事もなかったかのように静かに目を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い視界の中で、意識は深い深いところへと落ちて行く。向かう場所はいつものあの場所。精神と物質の狭間にあるという不思議な空間………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ……」

 

 

 

 

 

 

 耳元にあの奇怪な老人の声が聞こえてきた。どうやら意識はあの群青色の部屋に行きついたらしい。

 

 

 

「ついに出そろいましたな……あなたの中に眠っていた"女神の加護"。それに、あの出来事から無事ここに辿り着いたということは、もう聞こえているのではないでしょうか?………貴方様の中に眠っていた彼女たちの声が…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――我は汝……汝は我………

 

 

 

 

 

 

 聞こえてくる。今まで自分の中に居た"女神の加護"から聞き覚えのある少女たちの声が……

 

 

 

――――汝…霧の侵略から世界を救いし者よ

 

 

――――汝…ついに我らと絆を結べたり……

 

 

――――今こそ汝の真の力を解放せん……

 

 

――――真の力…それは真実を示す力なり…

 

 

――――今こそ汝は見ゆるべし…

 

 

――――世界は暗闇に閉ざされようとしていたり……

 

 

 

 女神たちがそう言い終えた途端、悠の視界にベルベットルームの様子が映った。あのリムジンの車内を模した群青色の空間。そこにはいつもの場所でこちらを見る奇怪な長鼻の老人、そして…会うのが懐かしく感じる青いハンチング帽を被ったあの少女の笑顔があった。

 

 

 

――――さあ…真実への調べを奏でましょう…

 

 

――――汝…我らと共に……世界に光を

 

 

 

 女神たちの詠唱が終わると悠の目の前に光り輝く【愚者】のタロットカードが現れた。それを確認した悠はフッと笑みを浮かべる。これこそが自分の真の力…

 

 

 

 

 

 

 

『君の力を見せてあげよう、悠』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルソナっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が現実に戻った悠はありったけの声を張り上げて、手に顕現した【愚者】のタロットカードを拳を突き上げるようにして砕いた。瞬間、悠の周りに青白く輝くタロットの魔方陣が出現する。そして、タロットの魔方陣から立ち上がるような形で悠のペルソナ【イザナギ】が召喚された。まるで生まれ変わったかのようにいつもと違う雰囲気を醸し出すイザナギに穂乃果たちは感嘆し、佐々木とシャドウたちは慄いてしまった。だが、その恐怖心を打ち払うかのように佐々木は数体のシャドウを突撃させた。しかし、これが引き金となった。

 

 

 

ーカッ!ー

 

 

 

 イザナギは上空から多数の雷を敵に落雷させる。突撃したシャドウはもちろんのこと、タロットの魔方陣の周りに立ち竦んでいたシャドウたちは一瞬で消えてしまった。

 

「な…なんだ……これは……」

 

 何が起こったのか理解が追い付かずに呆けている佐々木に対して、悠はフッと不敵な笑みを浮かべていた。その笑みを見て穂乃果は初めて助けてもらったあの時を思い出した。華麗に敵を倒した後に自分に向けてくれたあの顔。それを思い出した途端、心なしか顔が熱くなるのを感じた。

 

 

 

「行くぞ……イザナギっ!!」

 

 

 

 悠の宣言と同時にイザナギは大剣を手にシャドウの群れに突撃していた。それを見て、シャドウの大軍が一斉にイザナギに襲い掛かる。だが、一瞬の隙を与えることなくイザナギは敵を一斉に吹き飛ばしていった。そして、周囲を払うかのように剣を振るい、その斬撃で一気に敵を斬り裂いていく。

 

「な、何をしている!?相手はたった一騎だぞっ!!」

 

 イザナギの進撃に驚きつつ下僕のシャドウたちにそう檄を飛ばす。シャドウたちも一斉に攻撃するが、イザナギに攻撃は当たらない。そして、疾風迅雷の如く次々とシャドウを斬り続けて殲滅していく。まさに一騎当千。走り出した車は止まらないと言わんばかりにその勢いは止まらなかった。

 

「な、鳴上だっ!鳴上を狙えっ!!」

 

 イザナギを止められないと悟った佐々木は作戦を変更。手が付けられないイザナギを無視して召喚者の悠をターゲットに変えた。佐々木の指示を受けた何体かのシャドウたちは悠に向かって襲い掛かる。だが、悠に攻撃しようとしたシャドウは全て消滅した。

 

 

「あらあら、悠くんばっかり目が行って、ウチらのこと忘れてへん?」

 

 

 悠を守るように己の武器と共に立ちはだかる穂乃果たち。イザナギの一騎当千ぶりを見て、自分たちも負けていられないと奮い立ったのだ。

 

 

「みんなっ!悠を少しでも楽させるようにシャドウを減らすわよっ!!」

 

「「「うんっ!!」」」」

 

 

 絵里に言葉の喝を入れられて穂乃果たちはシャドウの群れへと立ち向かった。ポリュムニアは無数の矢を降らせて敵を殲滅し、タレイアとクレイオーとテレプシコーラは光速で敵を気づかぬ間に倒していく。メルポメネーとカリオペイアの業火を持ってシャドウを焼き尽くし、エラトーの重い一撃で敵を一気になぎ倒していった。

 

 穂乃果たちもシャドウに立ち向かう姿に思わず笑みを浮かべていると、イザナギの死角から数体のシャドウが襲い掛かろうとしているところだった。その時、

 

 

 

ーカッ!ー

「お兄ちゃんを守って!エウテルペーっ!!」

 

 

 

 特捜隊メンバーの直斗のように手でピストルの構えを取って、撃ち抜くかのようにタロットカードを砕いて召喚されたことりのペルソナが悠に襲い掛かろうとしたシャドウたちを一網打尽にした。

 

 

 

 天使の姿を模したかのような修道服

 手には魔法少女が持っているかのようなステッキを模した杖

 全てを包み込むような寛容的な表情

 

 

 これぞ、ことりが己の闇に打ち勝って手に入れたペルソナ【エウテルペー】の姿だった。その姿は魔法使いという表現がしっくりくることりらしい雰囲気を纏っている。

 

「ことりは……もうお兄ちゃんの背中を追いかけてたことりじゃないもん!このエウテルペーと………穂乃果ちゃんと海未ちゃんたちと一緒に大切なものを守るために戦う。だから、お兄ちゃんを傷つけたり侮辱した人はぁ」

 

 そう言うと、ことりのエウテルペーは杖を大量のシャドウたちに標準を合わせた。そして、その杖に集まった風がエネルギー弾として発射される。杖から発射されたエネルギー弾は対物ライフル如くの破壊力でシャドウたちを一瞬で消し去って辺りを爆塵に包み込んだ。

 

 

「ことりのおやつにしちゃうぞ♡」

 

 

 魅力的な笑顔で恐ろしいことを言ってのけたことりに皆は戦慄した。そして別の方で同じだと言うように鬼神の如くシャドウたちを吹き飛ばすイザナギの姿を見る。"鋼のシスコン番長"と"鋼のブラコンエンジェル"。やっぱりこの兄妹を怒らせたら怖い。みんなは心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またしても己の描いていた展開とは違うものを目のあたりにして佐々木の表情が青ざめ始めた。こちらの数は10万に対して相手はたったの10人。状況から見て……某冒険漫画でなければどう考えてもこちらが圧倒的なのに、こちらが押されている。

 

「何故だ……何でいつもいつもいつも…………さっきまで鳴上は虫の息だったのに………」

 

 ここまでの戦いからずっと形勢を逆転され続けている佐々木は理解が追い付けず頭を激しく掻きむしった。

 

 

「さっきも言っただろ。俺だって一人じゃ弱い。でも、仲間の存在が俺を強くしてくれる。こんな俺を心から信じてくれる仲間がいるから、俺は戦える」

 

 

 この状況を理解できずにいる佐々木を見かねたのか、悠が解説するかのようにそう言った。だが、佐々木はそれを否定するように反論する。

 

 

「仲間?……心から信じる?………そ、そんなのはただの依存だ!きれいごとだ!」

 

「ああ、何とでも言えばいい。それを綺麗事だとみなされても構わない。お前にとってそうであっても……その絆がいつも俺を救ってくれたんだからっ!」

 

 

 そう言い切ると悠は日本刀を抜刀した。すると、イザナギはシャドウたちを斬り倒していきながら上空に昇っていく。シャドウを振り切り、ある程度の高度まで達したイザナギを確認した悠は日本刀を上段に構えて呟いた。

 

 

 

 

 

――――千が死に逝き、万が生まれる

 

 

 

 

 

 短い詠唱を終えると、溢れんばかりのエネルギーが悠とイザナギを包み込む。

 

 

「希っ!みんなにペルソナを仕舞うように伝えてくれ。この技は加減が効かない」

 

「えっ……」

 

 

 悠はそう言うと、イザナギは大剣を空に向かって振り上げる。すると、瞬く間に上空に多数の弾幕が張られた。その数はちょうど今残っているシャドウたちに匹敵している。

 

「えっ…悠さん、何アレ?」

 

「なんだが…いやな予感が………」

 

「……まさか…………」

 

 イザナギが突如繰り出した技に穂乃果たちは顔を青くする。なんだが先ほどのメギドラオンのこともあってか、何かデジャヴのような感覚に襲われた。そして、その穂乃果たちの予感を決定づけるように希から警告が発せられた。

 

『み、みんな!早くペルソナを仕舞って悠くんの近くに撤退やっ!!あの技は……』

 

「「「やっぱりぃぃぃっ!!」」」

 

「何でアイツはいつもこんなことばっかするのよぉっ!!」

 

「みんなっ!そんなこと言ってないで早く避難しなさいっ!!」

 

 希の緊迫した声にやっぱりかと危機を察した穂乃果たちは急いでペルソナをタロットカードに戻して悠の元へと走る。そして、

 

 

 

 

 

 

――――刹那五月雨撃ち

 

 

 

 

 

 

 イザナギが大剣を振り下ろしたと同時に、張られた弾幕がシャドウたちに降り注ぎ、世界は白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ、あれ!?どうなったの!?」

 

 

 煙が晴れて周囲を確認してみると、あんなにたくさんいたシャドウたちは消え去っていた。いや、それどころか自分たちが立っている周りの地形そのものが変わっていた。平らだった大地がところどころ大きなクレーターができており、薄暗かった空は晴れ間が差して温かい光が辺りを照らしていた。

 

 

「こ…これ………全部イザナギがやったんですか!?」

 

「ち、地形や空まで変わっちゃってる……」

 

「これは…………」

 

「もう…滅茶苦茶よ……」

 

「悠くん……ネッチョリ確定やな」

 

 

 あまりの変わりように穂乃果たちは驚愕する。まさかシャドウたちを消滅させただけでなく地形や空模様までも変化させてしまうほどだったとは。もうこのようなことには慣れていたつもりだったが、こんなビフォーアフターは流石に驚きは隠せなかった。

 見ると、光が差す空にはこんな現象を生み出したイザナギが腕を組んでこちらを見降ろしているのが見えた。後光で照らされているイザナギの姿はまるでテレビに登場するスーパーヒーローを彷彿とさせ、穂乃果たちは目に映るその光景に思わず感嘆としてしまった。

 

 

「…まだ戦いは終わってないぞ」

 

「悠?」

 

 

 だが、その召喚者である悠はまだ戦いが終わっていないというようにある場所を鋭い目で見つめていた。

 

パチンッ!パチンッ!

「くそっ!出てこいっ!出てこいっ!!」

 

 そこには身体を震わせながらも指を鳴らし続ける佐々木の姿があった。佐々木はまだ戦うのを諦めないのか、またシャドウを呼ぼうと指をパチンと鳴らす。だが、そうしても先ほどのようにシャドウが溢れて出てくることはなかった。

 

パチンッ!パチンッ!パチンッ!

「ち、違うっ…………俺は……俺は………こんなところで」

 

 それでもあきらめずに何度も指を鳴らす佐々木だったが新たなシャドウが来ることはなかった。

 

 

「まだ戦うの?もうこれ以上はやめようよ」

 

 

 その姿を見た穂乃果が一歩前に出て佐々木に告げる。もうすでに決着はついたも同然なのにまだシャドウたちを出そうとする姿が見苦しく思ったからだ。それに合わせて海未とことりも穂乃果の隣に立って佐々木に告げた。

 

 

「穂乃果の言う通りです。もうこれ以上は止めて下さい」

 

「あなたを守るものはもう何もないんだよ」

 

パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!

「だ、黙れっ!!俺は負けていないっ!俺がお前たちに負けるはずないんだ!!」

 

 

 海未とことりの言葉にも応じず指を鳴らし続ける佐々木。その姿が段々憐れに見えてきたのか、花陽と真姫、凛も同じように立って佐々木に呆れたように言葉を投げかける。

 

 

「何でそこまで必死なんですか?もう戦いは終わったんですよ」

 

「引き際も知らないわけ?男のくせに情けないわね」

 

「子供みたいでカッコ悪いにゃ……」

 

パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!

「だ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!!黙れっ!!」

 

 

 花陽たちの冷たい言葉にも気にせずそれでも指を鳴らし続ける。そうしてもシャドウは現れないのにいつまでも指を鳴らし続けている。まるで、罪が暴かれたのにそれでも否定し続ける証人のように惨めだった。

 

 

「往生際が悪いわね……」

 

「言っても分からないなら、分からせるしかないわ」

 

「そうやねぇ…言っても分からへん子には身体で分からせるしかないなぁ」

 

 

 そんな諦めの悪い佐々木の様子を一瞥したにこと絵里、希はそう言うと、視線を悠の方に移した。それにつられて穂乃果たちも悠を見る。悠はそれに任せろというように頷いて、佐々木に向けての言霊を放った。

 

 

「お前は俺にも穂乃果たちにも言ってたな。"諦めろ"・"絶望しろ"と。その言葉、一つだけ返させてもらうぞ」

 

 

 悠はそう言って指を突きつける構えを取った。そして、弁護士と検事のように声を張り上げて目の前の相手に突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるのは…………お前だっ!佐々木竜次っ!!

 

 

 

 

 

 

 

「う…う…うううううううううううううう………………」

 

 

 

 

 

パチパチパチパチパチパチパチッ!

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 悠が人差し指を佐々木に突きつけた時、佐々木は胸に弾丸を撃ち込まれたかのように指を鳴らし続け悶絶しながら仰向けに倒れた。その途端、佐々木の身体から霧の形をした何かが飛び出してきた。その何かは絶叫しながらこの場から逃走しようとしたところ、いち早くその場に駆け付けたイザナギに一瞬で斬り捨てられた。それを確認した悠は抜刀していた日本刀を鞘に納めてこう言った。

 

 

 

「宿業成敗……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……」

 

 イザナギが佐々木から出た何かを斬って悠が決め台詞を言った後、これで本当に終わったのだと穂乃果たちは実感した。今までで一番辛い戦いが…自分たちが勝ったのだ。そのことに安堵したからか突如脱力感が身体を襲ってその場にへたり込んでしまう。正直このまましばらくは動きたくない気分だ。そんなことを思っていると、日本刀を鞘に納めた悠が穂乃果たちに向けてこう言った。

 

 

「ありがとう。みんなのお陰で………助かった」

 

 

 悠は笑顔でそうお礼を言ったことに穂乃果たちは少し呆けてしまう。すると、

 

「…………………ぐすん……」

 

「お…おい……」

 

 穂乃果は笑顔の悠を見ると涙を流していた。何かまずいことでも言っただろうかと思っていると、涙の理由はすぐに分かった。

 

「本当に……本当に……良かったよ…悠さん……」

 

「穂乃果……」

 

 どうやら戦いが終わって一安心したせいか、溜め込んでいた感情が一気に溢れてきたらしい。そして見てみると、穂乃果だけでなく海未やことりたち他のメンバーも皆同じように涙を流していた。

 

 

「無事で…本当に良かったです……」

「お兄ちゃん……お兄ちゃん…………」

「うううう……」

「凛たち………ずっと心配してたんだよ……………」

「いつもの…悠さんだと思うと………何だか………」

「心配かけるんじゃないわよ……バカぁ……」

「悠くん……悠くん…………」

 

 

 穂乃果たちの感情がストレートに伝わってくる。普段あまり表情を変えない真姫でさえ、泣いているのでそれほど心配していたのだろう。

 

「もう、みんな泣いちゃって。でも……本当に………貴方が無事で良かったわ……悠」

 

「絵里……」

 

 絵里も悠に笑顔を浮かべながらうれし涙を流していた。

 

「うわあ~~~~んっ!!悠さん、良かったよぉっ!」

 

「お兄ちゃ~~~~~んっ!」

 

 大声で泣きだしたかと思うと、穂乃果とことりは歓喜余って悠に抱き着いてきた。突然勢いよく突進するかのように抱き着いてきたので思わずよろけそうになったが、悠は疲れた体に鞭を打って何とか踏みとどまる。

 

「って、ちょっと!何やってるんですか!?」

 

「悠さんは色々と疲れてるのよ!!」

 

「とっとと離れなさいっ!!」

 

 いつもの如く悠に抱き着いた穂乃果とことりを引き離そうと海未と花陽と真姫、にこがやってくる。さっきまでしばらく動けないと言っていたのに、とても元気じゃないか。何だかいつも通り過ぎて頬を緩めてしまう。

 

 

 

「うう……ううう………」

 

 

 

 後ろから男の呻き声が聞こえてきた。その声を聞いた穂乃果たちは引っ張り合いをやめて一斉に声がした方を振り向いた。そこでは気絶していた佐々木が身体を起こして額に頭を当てていた。どうやら悠の突きつけをくらって気絶していたから目を覚ましたらしい。

 

「起きたか、佐々木」

 

「き……君たちは…………僕は……一体……」

 

 自分の周りが悠たちに囲まれているのを見て驚いた様子だったが、先ほどと同じくこちらに敵意を向けたり恨み言を言ったりはしなかった。それどころかどうして今自分がここにいるのかが分からないようだ。

 その様子にまたも穂乃果たちはポカンとしてしまう。さっきからこの男の変わりようはなんなのだ。本人は何のことかは分からないようだが、ついさっき道化師のおちゃらけた様子と悪寒を感じた狂人の様子を見た穂乃果たちにとっては違和感しかない。

 

「……そうか、そういうことか…………僕が……君たちを……」

 

 何か察したように自虐的な笑みを浮かべる佐々木。どうやら自分が何をやらかしたのかを思い出したようだ。

 

「全ては話してくれるか?何でこんなことをしたのかを」

 

「……………………………」

 

 悠がそう質問をぶつけると、佐々木は少し間をおいて淡々と自身のことについて語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………僕は…僕はただ……叔父さんみたいに…落ちぶれたくなかったんだ……」

 

 

 佐々木竜次の叔父はアーティストであり音楽プロデューサーだった。しかし、全て一発屋で終わってしまい、誰にも名を知られることなく業界から消滅してしまった。自分の才能を認めてもらえなかった、このまま終わってたまるかと自身の身を削って追い詰めた挙句、窮地に追い込まれた彼は怪しい宗教団体にのめり込んでしまい、そのまま身を破滅してしまったらしい。

 

 今までずっと憧れていた叔父がそんな風に落ちぶれてしまったのを見て、自身はそのようにならなりたくないと佐々木は強く思った。叔父と道は違うが、いつか一面に載るスクープを取れる記者になるためにと必死に頑張った。

 

 だが、自分の書く記事は話題にならないと見なされ、掲載されるのはいつも隅っこばかりだった。たかが学校新聞如きでということは自分でも分かっていたつもりだったが、そのことを思うたび脳裏に破滅した叔父の姿が過ってしまい、ますます自分の記事が一面に載ることに執着してしまった。そして、そんな自分とは対照に今年の春からわずかな期間で一気に注目の的になった穂乃果たち【μ‘s】を心から妬ましく想い、学校新聞で彼女たちの記事が載る度に妬みが増して、ついにそれが憎しみに変わって今回の事件を起こすのに至ったらしい。

 

 

「叔父さんの苦しみが分かったよ………自分がどれだけ頑張っても…………苦労して創ったものとは知らずに、話題にならないからってことで斬り捨てられる…………自分の努力を無為にするこの世の中を深く恨んだよ……ふざけるな、僕と叔父さんの努力をなんだと思ってるんだって………」

 

「…………………………」

 

「最初から成功した君たちに分かるはずないよね。いくら頑張っても…時間と命を削って創ったものが見向きもされずに捨てられていく……連中は僕たちの努力を知らないで………面白くなければ捨てる……………君たちと僕に一体どういう違いがあるって言うんだ……………」

 

 

 口調や様子が変わっても変わらず悠と穂乃果たちを蔑む佐々木。どんなにキャラが変わろうと本質は変わっていないようだ。そんな態度にキレたのか、誰かが佐々木の胸倉を乱暴に掴んだ。

 

「ぐおっ!……お、おまえ……」

 

「にこっち!!」

 

 佐々木の胸倉を力強く掴んだのはにこだった。にこの様子だといつ殴りかかってもおかしくないので皆はにこを止めようとするが、それは杞憂に終わった。

 

 

「…自分の苦しみが分かるかって?…………そんなの分かるに決まってるじゃないっ!!」

 

 

「……えっ」

 

「私だって……そんなことがあったわ。アイドルになりたいってことを分かってくれなくて、理解されないで苦しんで………もうやめようかって思ってしまうことが………………アンタだけじゃないのよっ!何でも自分だけが不幸だなんて思い上がってんじゃないわよっ!!みんな苦しんでるのよっ!!」

 

 

 怒涛の説教を終えたにこは佐々木の胸倉を離した。だが、にこにそう言われようと佐々木はそのままで俯いていたままだった。

 

 

「はは……ははははははは……………………なんだよ……結局は絆ってことかい?…………そんな少年漫画みたいなこと………僕にあるわけが……………」

 

 

 

「………貴方にもいたんじゃないんですか?そんな自分を…認めてくれる人が」

 

 

 花陽がふと放ったその言葉に佐々木は顔を上げた。花陽は何とか説明しようとするが、良い言葉が思いつかなかったのか。そして、花陽の言葉を補足するように希がこう付け加えた。

 

「新聞部の天野さんと黛さんらが言ってたよ。佐々木くんの記事にかける気持ちは本物だって。本当はこういう記事をたくさんの人が読むべきなのにいつも隅っこ扱いだから、佐々木くんの記事を少しでも大きなところに載せてくれって部長さんに頼んでたらしいよ」

 

 これは希が佐々木竜次のことを新聞部の部員に聞き込みをした際に聞いた言葉だ。確かに佐々木は独りよがりなところもあって取っつきにくいところがあったが、記事に対しての熱意は少なからず分かる人には伝わっていたようだ。

 

 

「…………嘘だ……そんなこと……僕は……」

 

 

 希の言葉が信じられないのか、佐々木は膝を落として譫言のようにブツブツとつぶやき始めた。少なからず希の言葉が心に響いたらようだが、この場でそんなことを言われても慰めや同情としか捉えていないのだろう。今まで佐々木竜次という男がどのように生きてきたのかというのが少し見えてきた気がした。しかし、そう項垂れる佐々木に悠はそう言ってゆっくりと歩み寄った。

 

 

「お前にも……大切なものはあったんだ」

 

 

 悠がそう言って近くに来たのか佐々木はビクッと震えて身構えたが、そんな彼に悠は優しく手を差し伸べた。

 

 

 

 

「帰ろう、佐々木」

 

 

 

 

 悠のその姿がどう映ったのか分からないが、佐々木は戸惑いながらも悠の差し出した手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院>

 

 

 

 

 

『本日のプログラムは全て終了しました。生徒の皆さんはすぐに撤収作業に入って下さい。来場して下さった皆様方、本日は音ノ木坂学院学園祭にお越し下さり、誠にありがとうございました』

 

 

 

 

 

 学園祭終了の放送が鳴り響く校内にて、この学校の理事長である南雛乃はアイドル研究部室の扉の前に立ち尽くしていた。昨日から行方が知れなくなっている甥が何となく今この場所にいるような予感がしてやってきたのだ。連絡を取ろうにも電話にもメールにも応答せず、一晩中自宅で待っても帰ってこない上、今日の学園祭どころかライブまでも来なかった。どこを探しても見つからなかったなら、もうこの時間ならここしかない。見つからなかったらどうしようかと不安を抱えながら雛乃は意を決して部室のドアを開いた。

 

 

「あっ………」

 

 

 ドアを開いて飛び込んできた部室の様子に雛乃は言葉が出なかった。そこにはまるで疲れたように部室の椅子で眠りこけている悠の姿があった。いや、悠だけではない。悠だけでなく娘のことりその親友の穂乃果や海未、生徒会の絵里や希のみならずμ‘sのメンバー全員が悠と同じように眠っていた。

 だが、驚くのはそれだけではない。悠たちが眠っている傍らには高く積み上げられたコーラの山があったのだ。ざっと見た感じだと大体100個くらいは積み上げられている。誰がの差し入れたのかは知らないが、これはいくら何でも多すぎだろう。

 

 そんな光景に驚きつつ、ようやく探していた甥の姿を見るや否や雛乃は目に涙が溢れてくるのを感じた。洪水のように溢れてくるのを我慢して、雛乃は悠を見つめて口を開いた。

 

 

 

 

 

「……………お疲れ様。今日はよく頑張ったわね」

 

 

 

 

 

 雛乃の口から出たのは労いの言葉だった。本当は今までどこに行っていたのか、何故電話も出ずにメールも返信しなかったのかを問い詰めたり、自分がどれだけ心配していたのかと説教したいと思った。だが、何か頑張って疲れたように見える悠やことりたちを見たら、すっかりそんな気持ちなどなくなってしまったのだ。

 

 

「帰ったらお説教よ………こんなに私を心配させたんだから、覚悟しておきなさい」

 

 

 最後にそんなことを言い残して雛乃は起こさないように部室を後にした。その時、眠っているはずの悠の口角が少し上がっていたことには気づかなかった。

 

 

 

ーto be continuded




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