PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
10月に入って色んなアニメが新しく始まりましたね。今期は自分が楽しみにしていた作品が多くあるので嬉しい限りです。ちなみに自分が今季見ているのは「逆転裁判season2」・「とある魔術の禁書目録Ⅲ」・「FAIRY TAIL Finalseason」です。特にFAIRY TAILは昔から好きなのでナツとゼレフの戦いがすごく楽しみです。
改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけて下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
至らなかった点が多い故か最近低迷気味でありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。
それでは佳境に入っている本編をどうぞ!
<佐々木サーカス エントランス>
「あ…あれは…………誰?」
突如目の前に現れたペルソナにことりは驚きを隠せなかった。もう戦える状態ではなかった悠がペルソナを召喚したということもだが、その召喚したペルソナがあまりにも異質だったからだ。いつも悠が召喚しているイザナギとは全くの別物……この場に凛が居たならばオルタ化したイザナギと称していたであろうほど全く違って見えた。それに、あのペルソナは別の誰かが使役しているように見えるのは気のせいだろうか。
『……君が悠くんのもう一人の妹さんか。道理で雰囲気が菜々子ちゃんに似てる訳だよ』
「!?っ」
思わず怖くなって立ちすくんでいると、黒いイザナギ…もといマガツイザナギがこちらを見てそんなことを言ってきた。その声を聞いたことりは悪寒を感じたようにビクッと震えた。どこかで聞いたことがある声……否、あのP-1Grand Prixで会ったことがある聞き覚えのある声だった。
「あなたは………」
「足立ぃぃっ!テメ―は引っ込んでろっ!!こいつは僕の獲物だ!!」
獲物を横取りされたと思い込んでいる皆月が満身創痍であるにも関わらずマガツイザナギに斬りかかってきた。ボロボロになっている武器で無謀にも突っ込んでくる辺り相当頭に血が上っているようだ。
『ハァ………【空間殺法】』
「!!っ」
マガツイザナギがフッと大剣を振るった瞬間、皆月の身体に斬撃が連続的に襲った。あまりの衝撃に耐えきれず、皆月は気を失って倒れてしまった。
「み、皆月さん!?」
『ったく、相変わらずキャンキャン犬みたいにうるさいガキだね。次は峰打ちじゃ済まないよ』
あれが峰打ちだというのか。皆月とて生身の人間であるのに容赦ない。あまりの出来事にことりは金縛りにあったかのように身体が硬直してしまった。
『な、何よっ!あなた何者よっ!』
あまりにも予想外の展開にことりシャドウはヒステリックになっていた。そんな怪物とは対照的にマガツイザナギは淡々とした雰囲気でこう告げた。
『……ただの犯罪者だよ』
刹那、マガツイザナギが大剣を一振りしたと同時にことりシャドウに無数の斬撃が襲った。不意を突かれて防御が出来なかったことりシャドウは奥の壁まで吹き飛ばされ激突してしまう。激突した瞬間、既にマガツイザナギはその場に立っており、休む暇も与えず次々と斬撃をお見舞いした。
「つ、強い……あのペルソナ…………」
マガツイザナギの圧倒的な強さにことりは絶句してしまった。普段悠が使役しているイザナギとは比べようのないの戦闘力でことりシャドウを蹂躙している。一体全体何が起こっているのか分からなくなっていた。すると、
『君さ、本当に悠くんのことが好きなの?』
「えっ?」
『だってあのシャドウが言ってよね?"お兄ちゃんが煩わしい"、"邪魔だから死んでほしい"って言ってたじゃない。それが本音でしょ?』
グサッ
「うっ………」
グサッと心にダメージを受けた音がした。まるで嘘を見抜かれた証人のように。言葉がナイフのようにことりの心に突き刺さった。そんなことりの心情などお構いなしにマガツイザナギは再び言葉の刃を投げつける。
『留学したいとか何とか言ってたけど、それを悠くんのせいにするのはお門違いじゃない?僕にしてみれば君はそこの少年と同じ…駄々こねてる子にしか見えないけどね』
グサッ
「うう………」
『人生そう自分の思い通りに行くわけないんだよ。それになに?悠くんが君と特捜隊のガキどもどっちが大事かって?他人が他人のことをどう思ってるかなんて分かるわけないでしょ。悠くんじゃあるまいし、馬鹿じゃないの?』
グサッグサッ
「ううううううううううううう…………」
マガツイザナギの言葉が百発百中の投げナイフの如くことりの心に突き刺さる。今まで似感じたことのない……今までの自分の在り方を否定された気分にことりは苛まれた。
『君は心の中ではそう思ってた。でも、悠くんの前ではそんな言えないから、悠くんを傷つけたくないから傷つけないように本当の自分を隠して健気に振舞ってる。そう言うのなんて言うか知ってる?』
「い…いや……いやあ……………」
今まで感じ事がない心の痛みにことりの精神状態は限界に達していた。いつ倒れてもおかしくないのだが、無慈悲にも最後の刃がことりに襲い掛かる。
『"
グサグサグサグサグサッ
「あっ…………」
まるで地に足がついていないような感覚に陥ってしまう。もうこれ以上聞くのは耐えられない、楽になりたいとこのまま重力に任せて倒れてしまいそうになったその時、
『……全く…兄妹そろって似てるよね。そういうところ』
ふと吐いた言葉にことりは意識を取り戻した。そして、先ほどの言葉が頭で反響する。
(…兄妹そろって似てる?………じゃあ、お兄ちゃんも………偽善者?)
すると、ことりは倒れる寸前に踏み止まった。更に先ほどまでの絶望が嘘のように別の感情がマグマの如くことりの心に湧き出てくる。それは自身も今まで感じたことがなかったほどの怒りだった。
(…違うっ!お兄ちゃんはそうじゃないっ!!)
自分のことは何を言われても良い。だが、大好きな悠のことをバカにされるのだけは我慢ならない。そう自覚したことりの脳裏にある記憶が蘇った。
――――ねぇ、一緒に遊ぼう
引っ込み思案だった自分に優しく差し出してくれた大きな手。あれが悠との初めての出会いだった。あの時のことを……ことりは一度も忘れたことはない。
――――大丈夫、俺が来た。
そして再会して早々、テレビの世界に迷い込んでピンチに陥ったことり達の前に颯爽と現れて守ってくれた大きな背中。
――――俺は…ことりのお兄ちゃんだからな。
――――ことりは何でも似合うんだから。
――――俺は…ことりを信じてるからな……
どんなことがあってもことりのことを想って助けてくれた。内緒でコペンハーゲンでバイトしてたことがバレた時もそんな自分を受け入れてくれた。あの優しい悠を………自分の大切な家族を偽善者とは呼ばせない。そう固く思ったことりの目にもう迷いはなかった。
『がふっ………』
『しばらく寝ていなよ…………ハア、シャドウの相手ってこんなに疲れたっけ?』
あまりにも呆気なく目の前の敵は大人しくなったように倒れこんだ。背中の堅い甲羅でガードされるのが癪だったが吹っ飛ばせば問題はない。正直成り行きとはいえ、どうしてこうなっているのか自身もよく分からない。どうやら意識は悠の身体にあるようだが、こうしてマガツイザナギを使役して戦えているのは何かデタラメな力が働いているのだろう。それこそ悠の中にある何かが……
「…あなたに聞きたいことがあります」
『………ハァ?』
思考に入っていると、さっきまで黙り込んでいたことりがそんなことを言ってきたので思わずそんな声を上げてしまった。一体何を聞こうとしているのか。どうせそれは違うだの何故そんなことを言うのかだのとのことだろう。だが、その予想は大きく外れた。
「あなたは
『えっ?………』
ことりが投げた質問に言葉を失ってしまった。それは今まで考えたこともなかった……というのもそんな青春くさいことなど考えるのも馬鹿らしいと思っていたことだったからだ。
「あなたの言う通り、私は偽善者かもしれない。そういうところがあったってことは否定できないから…………でも……お兄ちゃんは…………お兄ちゃんは偽善者じゃないっ!!」
『…………………』
「鈍感でことりの気持ちどころか、希ちゃんや海未ちゃんたちの気持ちにも気づいてなくて……いっつも心配してるのに無茶をしちゃう人だけど……………こんなことりにも優しくしてくれて、辛い時とかにいつも笑顔をくれるお兄ちゃんが………そんなお兄ちゃんがこれ以上ないくらい大好きなのっ!!何も知らないあなたが……人を好きになったこともないあなたが……私とお兄ちゃんのことを偉そうに語らないでっ!!」
攻撃の手を止めてマガツイザナギは改めてことりを見る。こちらを見やる彼女は瞳は真っすぐであり、それは自分が大嫌いな……自分のやってきたことを全て否定した彼を見ているかように錯覚してしまった。
『悠くんと同じ目………これだからガキは嫌いだよ。青臭いくせに妙なところで痛いところ突いてくるんだからさ………ぐっ!!』
瞬間、マガツイザナギに衝撃が走った。気づかぬ間にことりシャドウが反撃してきたのだ。
『このオオっ!!』
仕返しとばかりに連続で攻撃を加えてくることりシャドウ。マガツイザナギに反撃の隙を与えずにダメージだけが蓄積されていく。これで終わりとようやくラッシュが止まった時には、もうマガツイザナギの身体はボロボロであることを示すようにノイズが入っていた。ニヤリと笑みを浮かべてトドメの一撃を放とうとしたその時、
『ったく………ウザいんだよぉっ!!ガキがぁぁぁぁぁぁッ!!』
ことりシャドウが攻撃するよりも早く、マガツイザナギの一閃がことりシャドウに直撃する。力を振り絞るかのように繰り出した一閃は再びことりシャドウを壁に激突させ、どれだけ攻撃しても破壊できなかった背の甲羅にヒビが入っていた。だが、その代償としてマガツイザナギの身体に走るノイズは強さを増していた。
『ハァ…時間切れってわけか。せっかくこれからだっていうのに………今の悠くんの力じゃここが限界か……………全く』
そんなことを言い残すとマガツイザナギは【欲望】のタロットカードに戻り消えてしまった。まるでさっきまでの時間が夢だったようにことりは現実に引き戻された。一瞬勝ったかのように思えるが、まだことりシャドウは生きているし、悠は持てる力を使い果たしたようにぐたりと倒れている。戦う力のないことりにとって、これはもう絶体絶命の状況だ。
『うふ…うふふふふふふ……忌々しい邪魔ものは消えたわ………今度こそ終わりよ……』
マガツイザナギが消滅したのを好機とみなし、今度こそとどめを刺そうと悠とことりに迫りくることりシャドウ。しかし、
ーカッ!ー
「「「「「ペルソナッ!!」」」」」
刹那、迫りくることりシャドウの巨体が何かによって吹き飛ばされた。そのままの勢いで壁に激突してしまったため、ことりシャドウは蹲ってしまう。突然の出来事にことりは仰天した。
「えっ?……これって………」
「大丈夫っ!私たちが来たよ!!」
振り返って見てみると、そこには逆光に照らされた複数の人物がいた。逆光のせいで最初は誰なのかが分からなかったが、さっきの台詞と顔の輪郭を見た途端、それが誰なのかが分かった。
「穂乃果ちゃん……海未ちゃん………みんな」
そう、そこに居たのは頼もしい親友たち……μ‘sの仲間だった。助けに来てくれたのだ。あの厳しい戦いを乗り越えて、自分たちのために駆け付けてくれたのだ。それだけでことりは自然と涙が出てしまった。
「よーし!行っくよぉっ!みんな!!」
「まず悠とことりの安全を確保するわよ!私と花陽と希で2人を保護するわ。穂乃果・凛・海未はあのシャドウの相手を。にこと真姫はあそこで倒れている皆月って子の保護を」
「「「了解っ!!」」」
絵里から各々指示を受けた穂乃果たちは役割を果たすためにそれぞれの目的地へと駆け出した。突然の援軍登場に狼狽することりシャドウだったが、すぐに体勢を切りかえる。
『ぐっ……そうはさせるか……ぎゃあっ!!』
だがその直前、爆撃がことりシャドウを襲ってまたもや勢いを削がれてしまった。それに伴って発生した爆煙の中からペルソナを従える穂乃果・海未・凛が現れる。
「あなたがことりちゃんのシャドウだね。悪いけど、悠さんが復活するまで私たちが相手するよ」
爆煙が晴れたと同時に海未のポリュムニアと凛のタレイア、そして穂乃果のペルソナも姿を現した。
豪奢な舞台衣装に似た赤いドレス
手には炎をモチーフにした深紅の大剣
胸に綺麗なヒマワリの飾り
これぞ、穂乃果が己の影と向き合って手に入れたペルソナ【カリオペイア】の姿だった。その姿はまさに皇帝の如く煌びやかで人をどこか惹きつける穂乃果のカリスマ性を感じさせた。まさしく穂乃果らしい雰囲気を放つカリオペイアにことりシャドウは圧倒されていた。
『こ……こいつら………』
「やっと…やっとみんなと戦える。行くよ!凛ちゃんっ!海未ちゃんっ!」
「おうにゃっ!」
「足を引っ張らないでくださいよっ!」
今までずっと見ているだけだったが、今こうして同じペルソナを持って戦える。穂乃果はその感覚を噛みしめながら、海未と凛と共にことりシャドウへと向かっていった。
誰かの気配を感じる。先ほどまで身体を蝕んでいた痛みが少しずつ癒されていく。この感覚に覚えがあった。P-1Grand Prixでもあったこの感覚。もしやと思い悠はゆっくりと目を開いた。
「ゆ、悠くん!ウチの声が聞こえる!?悠くん!!」
「の…希………………」
目の前に居るのは心配そうに潤んだ目でこちらを見る希だった。悠の意識が戻ったのを確認するために顔を近づけているが、その吸い込まれそうな大きな瞳と無意識に当たっている胸の感触が悩ましい。
「悠さん!大丈夫ですかっ!?まだ傷は癒えていないところはありますかっ!?」
「は……花陽………」
すると、希とは反対の方から同じ表情の花陽もこちらを覗き込んできた。花陽も同じように顔を近づけているので希と同じく無意識に胸を当てている。どこか希に対抗して火花を散らしているように見えるのは気のせいだろうか。
意識が戻ったばかりなのか、最初はそれほど気にはならなかったが、花陽のクレイオーの回復魔法で段々通常の感覚が戻ってきているようなので、自然と顔が赤くなるのを感じる。それに、ことりシャドウから受けたダメージはもちろん癒えなかった佐々木の凶行で負った傷も治っているので、クレイオーの治癒力が以前に比べて格段に成長しているようである。
「……俺は…………ことりのシャドウに」
「大丈夫よ。穂乃果ちゃんたちが代わりに戦ってくれよるから」
喋れるようになった悠に希がそう言ってある方向に指を指す。その方向にあった光景は……
「ぜえ……ぜえ………つ……疲れたぁ………」
「調子に乗ってるからこうなるんですよ。あなたはペルソナが覚醒したばかりなんですから、もっと慎重に戦いなさい!!」
「ご、ごめんなさ~い!!」
「海未ちゃん!怒ってる場合じゃないにゃ~!!」
「えっ?……きゃああああああっ!」
「悠さ~ん!タスケテーっ!!」
そこには果敢にことりシャドウと戦闘を繰り広げている穂乃果たちの姿があった。最も穂乃果は調子に乗り過ぎたのか早くもガス欠になりかけているが。
「穂乃果……ペルソナを手に入れたのか………」
「そうよ。ちゃんと自分と向き合ってな」
「………………」
あの穂乃果がペルソナを手に入れて今こうして自分のために戦っている。まるで我が子の成長をみているかのように胸が熱くなるが、こうしてはいられない。この戦いは自分が決着を着けなくてはならないのだから。
「ありがとな……希・花陽。俺もそろそろ…」
「あっ!ちょっ」
自分も戦闘に参加しようと身体を起こして立ち上がる悠。しかし
ぐううううううううううううううううううう
「………………ハラヘッタ」
花陽が止める前に腹から空腹音を出して再び倒れてしまった。やはりと言うべきか回復魔法でも空腹は解消されていなかった。今まで蓄積されたダメージがなくなったお陰で感じなかった空腹感が一気に襲ってきたようだ。考えてみれば丸一日何も食べていなかったので当然のことと言える。
「うふふ……悠くん、お腹空いとるやろ?これ食べて元気だし」
腹に手を当てて空腹に耐えている悠を見かねて希が鞄からこんなものを取り出した。
「これは?」
「ことりちゃんのお弁当。悠くんがお腹空かしとるからって悠くんの好物選んで作っとったんよ」
そう言って希が弁当箱を開くと、中には色とりどりのおかずが並んでいた。それを見て更にお腹の音を鳴らしてしまった悠に希はクスクスと笑うと、その中のコロッケを一つ箸でつまむとそれを悠の口の中に優しく含ませた。
「これは………俺の好きな味………」
その味を感じた途端、自然と涙が出てしまった。悠には分かる。これは…ちゃんと相手のことを思って作られている味だ。涙する悠を見て、ことりはオロオロとしてしまった。
「お兄ちゃん………どうしたの……もしかして、美味しくなかった?」
「美味しいに決まっとるやろ。なんせことりちゃんが文字通り愛情込めて作ったんやから」
間髪入れずにそんなことりに希が当然だろうと言うようにツッコミを入れる。
「あのことりちゃんのシャドウ……大方悠くんが本当は嫌いやったとか言ってたかもしれんけど、本当に嫌いやったら悠くんのためにこんなお弁当作ることなんてできへんよ。悠くんのその反応が何よりの証拠や」
不思議と希のその言葉は悠とことりの胸の中にストンと入った。そして、確認するかのように2人は互いの顔を見つめ合う。ことりは恥ずかしそうに顔を逸らしてしまったが、悠はその反応を見ただけで十分だった。
「…ありがとう、希」
「えっ?」
悠はボソッとそう呟いたかと思うと、希から箸をひったくってことりの愛情弁当を勢いよく食べ始めた。
ガツガツモグモグガツガツモグモグガツガツモグモグ
「ゆ、悠くん!そんなに急いで食べんでも……一日何も食べてないんやからもっとゆっくり………」
「……ウッ……………ゴホッゴホッ」
「お、お兄ちゃん!今ご飯が喉に詰まったよね!?ほら、お茶飲んで!」
希がそう注意するも悠は弁当に病みつきで食べるスピードを緩めない。途中でおかずがのどに詰まったこともありながらも早弁するかのように悠は弁当を平らげていく。普段では考えられない悠の食べっぷりに希たちは驚いてしまったが、食事が進むにつれて悠に活気と気力が戻ってきているのを感じたので止めるに止められなかった。
「………ごちそうさまでした」
食事を始めてから5分後、ことりの弁当を完食した悠は空になった弁当に箸を置いて立ち上がる。そして……
「ふう……漲ってきたぜえ!!」
拳を強く握り締め咆哮する悠の周りに青色いタロットの魔方陣が展開された。その大きさは今までの比ではない。見てみると、悠は自分の目の前に6枚のタロットカードを一気に顕現していた。
「あ、あれは……悠さんの…合体!?しかも……6枚っ!!」
ーカッ!ー
「【ベルゼブブ】っ!!」
タロットカードを一斉に砕き悠の背後に新たなペルソナが召喚された。
「ぐう……こいつの身体かったいにゃ~」
「アレを打ち破るのは骨が折れますね」
「ハァ……ハァ……お腹減った~!雪穂~!悠さ~ん!ごはん~~~!!」
「アンタねぇ……」
「どれだけマイペースなのよ……」
ことりシャドウと戦闘を繰り広げている穂乃果・海未・凛、そして合流を果たした真姫とにこは手こずっていた。穂乃果も先ほど自分と向き合った後からすぐの召喚と初戦闘とあってか体力の消耗が著しい。カリオペイアの戦闘能力が高いのに燃費が悪いのは勿体ないが、とにかくここで押されたら負けてしまう。その時、
『があぁっ!………』
突如どこからかことりシャドウに体当たりしてきた。余程衝撃が強かったのかことりシャドウは思わず体勢を崩してしまった。突然のことに穂乃果たちはあんぐりとしてしまう。これをやったのは…まさか。
「待たせたな、みんな」
すると、背後から頼もしい青年の声が聞こえてきた。もしやと思ってその方を振り返る。
「「「ゆ、悠(さん)っ!?」」」
そこにはメガネを掛けて不敵な笑みを浮かべる悠がいた。戦線復帰した悠の姿を見て歓喜と驚きの声を上げる穂乃果たち。メガネを掛けているのはともかく音ノ木坂学院のブレザーを全開にしている姿を見る限り、完全復活を遂げたらしい。
「もう大丈夫なの!?じゃあ、今のって……」
「ああ、俺の新しいペルソナだ」
「えっ?…」
だが、一番驚いたのは悠が使役している新しいペルソナの姿だった。ことりシャドウに体当たりをしたそのペルソナの姿は……
「ハエっ!?」
「でかっ!!」
「信じられない…」
髑髏の杖を持ったハエにしては巨体のペルソナの名は【ベルゼブブ】。真姫の母である早紀と絆を結んで再び召喚可能となった【悪魔】のペルソナだった。
『デ……デカいハエね………叩き殺してあげる!!』
ことりシャドウはベルゼブブに攻撃しようと風を纏って体当たりを試みたが、ベルゼブブの方が行動が早かった。
「やれっ!ベルゼブブっ!!」
悠の指示でベルゼブブの杖の髑髏が赤く光った瞬間、ことりシャドウの足が一瞬で凍り付いた。突然のことに慌てることりシャドウだったが、抵抗する間もなくベルゼブブの杖から放たれた業火を直に喰らってしまう。
『がっ………こ、この……』
ダメージを受けながらも自らの足を封じている氷から抜け出し反撃を試みることりシャドウだったが、ベルゼブブにヒラリと躱されてしまう。そして、ベルゼブブは再び氷結攻撃で動きを止め追加の業火をお見舞いし、ことりシャドウはぐたりと倒れてしまった。
「つ、強すぎるにゃ……」
「ベルゼブブって、最強の悪魔じゃないですか……」
「流石…悠さん……穂乃果の炎と火力が違うよ……」
悠が戦線に加わってから押されていた形勢が逆転していた。百戦錬磨の悠が加わるだけでここまで違うのか。先ほど穂乃果シャドウという強敵に辛勝して自信がついた海未たちだったが、こうも見せられるとまだまだ悠の足元に及ばないと実感させられる。だが、それ以上にこうして全開の悠と一緒に戦えることに安心と喜びを穂乃果たちは感じていた。
「いくぞっ!みんなっ!!総攻撃だ!!」
「「うん(はい)っ!!」」
『今の悠くんの攻撃で表面が更に脆くなっとる。そこに集中攻撃や!』
ー!!ー
「「「「「やああああああああああっ!!」」」」
ことりシャドウが怯んでいる隙に悠の合図で総攻撃を仕掛ける。希の指示で脆くなった部分を集中的に狙い撃ちしているのでダメージが大きく入った。お陰で総攻撃が終わった後のことりシャドウは虫の息になっていた。
『がぁ……おのれ………おのれおのれおのれ…………』
「トドメだっ!!……………あっ」
ベルゼブブは悠の指示で上昇しことりシャドウに向けて放つための白いエネルギーを発生させ収縮していく。勢いに任せてベルゼブブのあのスキルを発動させてしまった。それは悠だけでなく何度か同じ光景をみたことがある穂乃果とベルゼブブの状態を解析した希の顔も真っ青になる。
「な、なんやこのとてつもないエネルギー………みんな!ここから撤退や!」
「みんなっ!メギドラオンだよ!!早く逃げて!!」
"メギドラオン"と聞いて嫌な記憶を思い出した一同の顔も真っ青になった。そして、普段の希からは考えられない切羽詰まった声に更なる危険を察知した海未たちは急いで未だに気絶している皆月も連れてエントランスへと駆け出した。同じ危険を察してことりシャドウも逃げようとしたが、蓄積したダメージのせいで身体が動かず逃げることが出来なかった。
「なっ!ど、どうなってるんだ!?」
佐々木竜次は更なる異常事態に目を見開いていた。先ほどショーを台無しにした彼女たちを逃がしたベルボーイ風の男に仕向けたシャドウたちは慌てるかのようにコロシアム逃げ出していく。おかしい、この場の支配者は自分なのに……この自分の指示以外従わないシャドウたちがそれを無視して逃げ出していく。佐々木にとっては実にありえない光景だった。
そして、己がペルソナ全書を手にシャドウを軽く蹴散らしていたテオドアもその光景に違和感を感じていた。
「これは…………まさか!?」
テオドアが何かに気づいた時には遅かった。刹那、2人は白い光に包まれた。
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「こ……これは………………」
「嘘でしょ…………」
「サーカスが……なくなってる…」
無事に脱出した穂乃果たちは目の前に広がる光景に絶句してしまった。先ほどまであった煌びやかで悪趣味なサーカスはそこにはなく、あちこちに爆塵が舞うただの荒野が広がっていた。今までの経験からメギドラオンがとてつもない威力を持っていることは知っていたが、まさかここまでのことになるとは思わなかった。あまりの変わりようにこの事態を招いた張本人に目を向けると、当人は遠い目をしてこう呟いていた。
「……やっちゃったなぁ」
「で、悠……反省の弁は?」
「………強くなろう。俺の全てが燃えている。サーカスが燃えている」
「これ以上ふざけるなら菜々子ちゃんにあることないこと吹き込むわよ」
「つい勢いでやってしまった。今はとても反省している………ごめんなさい」
「変わり身はやっ!」
「しかも何で少年犯罪の容疑者のコメントみたいになってるんですか………」
ベルゼブブのメギドラオンを放った件について追及され、悠は皆の前で正座していた。完全復活していつもの調子を取り戻したのは良いが、調子に乗ってメギドラオンなどという大技を撃ってしまった。
「まあまあ、みんなもそれくらいでええんやない。悠くんも反省してるやろうし」
「希…………」
「希っ!いくら悠だからってやって良いことと悪いことが……」
「大丈夫や。後でウチがネッチョリ再教育するからな♪」
「「「……………………(いや、全く大丈夫じゃない)」」」」
可哀そうになってきた悠を見かねて希が助け舟を出してくれたが、その跡のとんでもない発言に一同は凍り付いた。"ネッチョリ"とか"再教育"だとか希が口にすると、某家庭教師のように碌なことが起きない気がする。だが、これくらいしてもらった方が悠にとっていい薬になるだろうと誰も止めには入らないことにした。
「…………………………」
皆に見捨てられた形になった悠だが、どこか逃げ場を探そうと辺りを見渡していると、変わり果てたサーカス跡地のところに、元の姿に戻っていたことりの影が佇んでいるのが見えた。その自分の影にことりは向き合おうと対峙している。妹が己の影と向き合うのを見て悠は固唾を飲んで見守ることにした。
「私ね、貴女の言う通り……お兄ちゃんのこと煩わしいって思ってた。でも……そうだとしても…お兄ちゃんが大好きってことは変わらない。あなたもそうだよね………だって、一度も"大嫌い"なんて言ってなかったから」
『………………』
「それなのに………お兄ちゃんのこと煩わしいって思ってたのって……希ちゃんと同じ…またお兄ちゃんが自分のことを忘れるんじゃないかって思ってたからだよね」
『!!っ………』
「だって、お兄ちゃんは良い人だから……誰にでも優しいからいっぱい人が集まるんだもん。そんなこと……前から分かってたはずなのに……………私はそうなるのが怖くて……逃げてただけなんだよね」
『………………』
ことりは少々寂しげな表情で俯いていたが、次第に顔を上げて覚悟を決めたような目で再び影を見る。
「でも、もうことりは逃げない。私はお母さんの話を断るつもり。留学ってそうそうない話だって分かってるつもりだけど…ことりは穂乃果ちゃんたちとスクールアイドルやりたいし、ネコさんや雪子さんに完二くん……お兄ちゃんに色んなことを教わりたい。まだまだここで私はやりたいことがたくさんあるの。だから、一緒に頑張ろう。いつか…お兄ちゃんに心から好きって言ってもらえるように」
ことりはそう言い終えると、影の手を自分の手に重ねて愛おしそうに告げた。
「あなたも……ことり…………だね」
ことりの言葉に影は終始驚いた顔をしていたが、コクンと頷いた途端ニコッと笑顔を見せた。
『…私も……お兄ちゃんが……世界で一番大好き…』
そして、眩い光に包まれていき、神々しい女神へと姿を変えた。
「我は汝、汝は我。我が名は【エウテルペー】。汝、世界を救いし者と共に、世界に光を」
そして女神は再び光をなって二つに分かれ、一方は悠の身体の中に入り、もう一方は【恋愛】のタロットカードに姿を変え、ことりの身体の中に入っていった。
――――ことりは己の闇に打ち勝ち、困難に立ち向かうための人格の鎧ペルソナ【エウテルペー】を手に入れた。
「これが………ペルソナ」
自分の中に新たな存在が生まれたような新感覚にことりは自分の胸に手を当てて感嘆とする。すると、その反動のせいか身体が突然重く感じて倒れそうになる。だが、予想通りというべきかお決まりのように悠がことりの身体を受け止めていた。
「お兄ちゃん……」
「頑張ったな、ことり」
いつものように労いの言葉を掛ける悠。だが、それにことりは何故かその悠の態度にモヤモヤしてしまった。
「……ズルいよ…お兄ちゃん………一番頑張ったのは……お兄ちゃんだよ」
「お、おい……」
ことりはボソッと呟くとギュッと悠を抱きしめた。
「ことりも……菜々子ちゃんも心配してたんだよ………これからは…私も隣で頑張るから………もう…どこにもいなくならないで……」
「………ああ」
言い聞かせるように言葉を紡ぐことりを悠はポンポンと優しく撫でる。こんなことを言ってもいつも通りの鈍感な対応をする兄にことりはムスッとなる。しかし、
「でも…俺はことりにそう言われてもまた無理すると思う。だから…これから一緒に戦うんなら、俺が無理しそうになったら穂乃果たちと一緒に俺を止めてくれないか?それなら………俺も助かるから」
「………うんっ!」
悠からの嬉しいお願いに先ほどとは一変してことりは笑顔でそれに応じた。
―――ことりとの絆が更に深まるのを感じる……
「うう…ううう………海未ちゃん……」
「何故泣いてるんですか、あなたは……」
「うええええええん!りんちゃ~~~~~ん」
「かよち~~~~~~~~ん!」
「な…泣いてなんか………ないんだから」
「何でアンタたちも泣いてるのよ……イミワカンナイ……」
「ハァ…全くあの2人は……」
「ウフフフ…………それでこそウチのライバルやね」
相変わらずこちらに気づかないで自分たちの世界に入っている2人に穂乃果たちは各々そんなことを想っていた。何はともあれ、穂乃果とことりの救出に無事成功してμ‘s全員がペルソナ使いになった。あとは今回の事件の元凶である佐々木竜次を捕まえるだけだ。しかし、先ほどのメギドラオンでサーカスは完全に破壊されたわけだが、当人は無事なのだろうか。すると、
「!!っ、来る」
悠が咄嗟に目を向けた方から何者かの気配を感じる。思わずその方向に目を向けると、誰かが妙な足取りでこちらに向かってくるのが見えた。
「おのれ……おのれ………よくも……俺の世界を………壊してくれたな…」
そこには悠たちを虚ろな目で見つめる男の姿があった。しかし、その瞳には怨嗟の念が込められていた。その人物は探し求めていた元凶の人物だった。
「佐々木……竜次………」
ーto be continuded
Next #60「This is our miracle.」