PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。


試験前なのにとある衝動に駆られて書いてしまった…………後悔はしていない。そして、FGOの第2部2章をやって快男児の兄貴を引いてしまった………悔いなし。


改めて、お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。
至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


※追記
活動報告にてお知らせがあります。


それでは本編をどうぞ!


#55「Where did he go?」

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

 

 

 

 

 

『音ノ木坂学院学園祭一日目は本時刻をもって終了しました。ご来場の皆さま、お足元が悪い中お越しいただき、誠にありがとうございました。また明日の2日目もどうぞお越し下さい』

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオッ

 

 

 

「結局…ライブ出来なかったね……ひいっ!」

 

 

 学園祭1日目。今日は曇天が空を覆い、大雨が地上に降り注いでいた。時折鳴り響く雷鳴に怯えながら穂乃果がそう呟いた。かく言う穂乃果は雷が苦手なのだ。

 

「しょうがないわよ。雨はともかく雷まで鳴ったらダメに決まってるじゃない」

 

 穂乃果の怯えように溜息を吐きながらもにこは忌々し気に空の雷雲を眺めていた。

 お昼頃には晴天だという予報は大きく外れ、これまで以上の大雨が降り注ぎ、雷まで発生した。あわよくば雨が降っていてもライブを強行しようと思っていたのだが、雷まで発生してはそれは不可能。残念ながら今日の学園祭ライブは安全を考慮して中止にせざるを得なかった。

 

「明日は曇りって予報だから微妙よね……」

 

「そうにゃ。所詮人間は天気に勝てないんだってムッタもヤン爺も言ってたにゃ」

 

「誰よそれ。それはともかく……悠さん、来なかったわね」

 

 雨音と蛍の光のBGMが流れる中で真姫がふとそう呟いた。悪天候でライブが明日へ延期となったのも問題だが、重要なのはそこではない。一番の問題は自分たちの仲間であり、裏のリーダーである悠が学校に訪れていないことにあった。

 

「確かに、悠さん遅いですね」

 

「どうしたんでしょうか?」

 

 他のメンバーもそう思ったのか、中々来ない悠を心配する。穂乃果からは事情を聞いているとはいえ、流石に今日一度も顔を見せに来ないとなるとそれは気が気でなくなる。あわよくば悠と一緒に学園祭の出し物を回ろうと機会をうかがっていた者もいたが、それは儚く散ってしまった。

 

 

「よっぽど疲れとったんやない?穂乃果ちゃんの看病で」

 

 

 希のさり気ない言葉に穂乃果はギクッと体を震わせる。希の指摘通り、このようなことになったのは無理し過ぎで倒れた穂乃果を寝ないで看病していたことが原因であるからだ。ちなみに穂乃果自身からこの話を聞いた時、何人かが穂乃果に鋭い視線を向けていたのはいつものことである。

 

 

(ううっ……悠さん大丈夫かな?穂乃果のせいで寝込んじゃったものだし……あれ?そう言えば今更だけど、起きたらパジャマだったってことは………はっ!)

 

 

 思えば自分が気を失った時はジャージを着ていたはずなのだが、目が覚めたらいつものパジャマになっていた。もしやジャージからパジャマに着替えさせたのは悠ではないのか!?母親がずっと看病していたと言っていたのであり得る話だ。その考えに至った途端、穂乃果の頭の中が沸騰した。

 

 

(どどどどどどどうしようっ!?でも、天城屋じゃみんなと一緒に覗かれたし、海にいったときは胸見られたし……ま、まあ……って、何考えてるの!?あわわわわわわっ!)

 

 

 今までもことを振り返ると、そんなハプニングは初めてという訳でないが改めて悠に裸を見られたのではないかと思えば思うほどパニックになる。ド天然な穂乃果だって乙女なので男に裸を見られたとなればこうなっても致し方ない。

 そんな穂乃果の慌てように皆は不信感を抱いた。穂乃果が慌てるのは大抵のことなのだが、ここまで来るほどのことは幼馴染の海未とことりにも見たことないからだ。

 

「穂乃果ちゃん、大丈夫?」

 

 皆を代表するようにことりが穂乃果にそう声を掛けると、穂乃果が我に返ったようにこちらを振り向いた。すると、

 

 

「こ、ことりちゃんってさ……悠さんに着替手伝わせたことってあるよね?」

 

「えっ!?」

 

「その時にさ……裸を見られた…とかなかった?」

 

「ええええええええええええっ!?」

 

 

 穂乃果の思いがけない発言にことりは素っ頓狂を上げた。これには他のメンバーたちもいきなりなんてことを聞いてくるのかと言わんばかりに穂乃果を糾弾した。

 

「アンタっ!なんてこと聞いてんのよ!?」

 

「い、いや…その……ちょっと気になって」

 

「気になるって言ってもストレート過ぎるでしょ!?もっとオブラートに包みなさいよっ!!」

 

「な、なななななな何言ってるの穂乃果ちゃん!?お、お兄ちゃんでも……そんなことは…………………あふっ」

 

「ことりちゃ――――んっ!!」

 

 穂乃果の質問に顔を赤らめたと思ったら何かを想像して倒れてしまったことり。どうやらいつも過度なスキンシップを取っている割にはそこまで踏み込んでいないようだ。だが、それはそれとしても穂乃果の発言によりなんだか部室が気まずい状況になってしまった。

 

「ま…まあ、もしかしたらまだ寝てるんじゃないかな?お、お母さんに電話してみるね」

 

 穂乃果はこの状況から逃げるように携帯をプッシュして菊花に電話する。よくもまあ図太いことだと皆は思った。急に刺激的なことを聞かれてことりはまだ顔を真っ赤にして一時停止しているし、部の雰囲気は微妙なものになるし、相変わらず悠同様によく周囲を引っ掻き回すものだ。やはり似た者同士なのかと思っていると、電話を終えた穂乃果が苦々しい表情でこちらを振り向いてきた。

 

 

「悠さん、お昼くらいには家を出ていったってお母さんが言ってるんだけど」

 

「えっ?」

 

 

 菊花の話だと穂乃果の看病で疲れた悠は昼前頃に目を覚まして、何も食べずに慌てて学校へ向かったという。菊花の話が本当なら今頃ここに居てもおかしくないのだが。

 

「………あいつ、どこ行ったのよ」

 

 

 

 

「お、おいっ!今の話マジかよ!」

 

 

 

 すると、部室の外からなにやら男の緊迫した声が聞こえてきた。何やら慌ただしい様子だったのでどうしたのだろうかと耳を澄ましてみる。

 

 

「いや、さっきネットニュースに上がってたんだよ。秋葉原で大事故が遭って、それにうちの生徒が巻き込まれたって」

 

「何でもよそ見運転だったらしいよ」

 

「こんな雨の中でよそ見運転だなんて……」

 

 

 どうやら文化祭の片付けが一段落して駄弁っていた生徒たちの会話だったようだが、秋葉原で交通事故という衝撃的な内容に皆は驚きを隠せなかった。

 

「……物騒ねえ」

 

「最近多くないですか?不注意による交通事故って。この間なんてブレーキとアクセルを踏み間違えて建物に突っ込んだって事故がありましたし」

 

「本当ねぇ。それに…うちの生徒が巻き込まれたって……」

 

「それって……まさか悠さんってことじゃないですよね?」

 

「まさか……」

 

 皆に一抹の不安が過る。考えたくはないが、先ほどの生徒が言っていた交通事故に巻き込まれたというのであれば、今日来なかったことに説明がついてしまう。もしかすると、悠は今頃……

 

「わ、私…お母さんに電話してみるわ」

 

「私はネットで情報を……」

 

「私も!」

 

 胸の中に芽生えた不安を取り除くために各自一斉にネットや電話で情報を漁る。考えたくはないがそれでも確かめなくては。そんな想いに駆られるように皆は必死に情報を探した。

 

 

 

 

 

 

~数十分後~

 

 

 

 

 

 

「お母さんから……確かに秋葉原で事故があってけが人や重傷者が運ばれてきたけど、その中に悠さんはいなかったって。それに、うちの生徒がこの事故に巻き込まれたって情報は嘘みたいよ」

 

 

 ネットのニュースはあまり信憑性がなかったが、事故の重傷者などの処置を担当した早紀の話なら信用できる。早紀がそう断言したのならば、悠はその事故とは無関係であることが証明された訳だ。そのことが判明した穂乃果たちは一先ず良かったと胸を撫で下ろした。

 

「良かったわ。悠が事故に巻き込まれてなくて」

 

「それにしても誰なんですかね?うちの生徒が巻き込まれたってデマを流したのは」

 

「そのことも気になるけど、この事故が無関係なら悠さんは何処に行ったのかしら?」

 

 だが、結局は振り出しに戻ってしまった。交通事故が原因ではないのであれば、一体どういった理由で連絡が取れないのか。

 

「もしかして悠さん、別件で何かあったんじゃ………」

 

 これはどう考えても異常事態だ。ラブライブ出場がかかったライブだということは重々承知であるはずなのに、来なかった。悠が忘れていたということは考えられないし、そうなると考えられるのは………

 

 

 

 

「失礼いたします」

 

 

 

 

 すると、突然ドアが開き誰かが部室に入ってきた。誰かと思って振り返ってみると、

 

 

「え、エリザベスさん!!」

 

 

 そこにいたのはエレベーターガールを彷彿とさせる群青色の衣装を身に纏ったエリザベスだった。オープンキャンパス以降ライブがあっては勝手に"エリP"と称してMCを務める謎の人物。悠とは何か繋がりがあるらしいが、未だに穂乃果たちはその正体を知らされていない。それはともかく。

 

「どうしてここに?今日のライブは」

 

「お気になさらず。本日はこの天気でライブとやらは中止となると占いに出ておりましたので、先ほどまで姉様と弟と一緒に学園祭とやらを楽しんで参りました」

 

「ハァ…それは」

 

「私、こういう催し物は私のお客様たちと解決したあの事件以来久しぶりでございましたので、大変楽しゅうございました。ウォークラリーというものにチャレンジしたり、愚弟に買いに行かせた食べ物を食したり、その愚弟にメイド喫茶という所でコスプレなるものをさせたりと様々な体験ができたのでテンションがアゲアゲ~のウェーイでございます」

 

「「「「……………………………」」」」

 

 独特な表現で反応に困るところだが、どうやら色々と学園祭を満喫していたらしい。だが、後半に挙げられた弟らしい人物がエリザベスにされた所業を聞くと不憫に思えてしまった。

 

「弟をパシリに使うなんて………」

 

「そういえば、ヒデコがシフトの時に弟をメイド服でコスプレさせたいって頼んできたお客さんがいたって話は聞いてたけど……」

 

「それ…エリザベスさんだったんですね」

 

 話を聞いてエリザベスの弟が姉たちから普段どういった扱いを受けているのか気になるところだと皆は思った。

 

「まあ実を言えば、姉様から"絆マスター"と称された鳴上様と再度色々なところを回りたいとはプチプチ思っておりましたが」

 

「ぷ、ぷちぷち?」

 

「ぶつぶつ?……ぶくぶく?………まあ、そんな感じでござます」

 

「いや…どんな感じですか?」

 

 相変わらずの不思議トークに惑わされる一同。穂乃果たちはともかく絵里や希まで困惑しているが、ともあれエリザベスが姉と一緒に学園祭を楽しんだということは大雑把には伝わった。まあこの人も自分たちと同じく悠と学園祭を一緒に回ろうと画策していたらしいが。

 

「そのことはともかく。皆さまに一言お伝えしたいことがございましたので参上仕った次第でございます。最も、皆さまが今一番気にしていらっしゃることで」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 エリザベスの言葉に皆は仰天した。皆の疑問をよそにエリザベスは淡々とこう語り始めた。

 

 

 

「今宵もどうやら雨が降るご様子。こんな日はあの噂を確かめるためにテレビなるものを見ればよろしいかと。そこできちんとお決めになって下さいませ。あなたたちがこの先、どう進むべきかを」

 

 

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「それでは、失礼いたします」

 

「あっ、ちょっと」

 

 エリザベスがそう言うと絵里の制止の声も聞かず、まるで何事もなかったかのようにその場を立ち去っていった。エリザベスが言っていたことに皆は呆気に取られていたが、どこかで察しがついてしまった。

 

 

「…………とりあえず、今日はこれで解散にしましょう。明日はライブがあるし、悠もそのうち帰ってくるわよ」

 

 

 思わずテレビの中に足を踏み入れようとしたところで絵里にそう止められてしまった。

 

「えっ?……でも………」

 

「エリザベスさんの言ってたことは気にはなるけど、確証がある訳じゃないでしょ。今は信じて待ちましょう。流石に悠も明日のライブをすっぽかすことはしないわ」

 

「………そうだね。何があったかは知らないけど、絵里ちゃんの言う通りだね。悠さんならきっと帰ってくるよね。フーテンの寅さんみたいにさ」

 

「いや、例えが違うでしょ…………」

 

 絵里の言葉に促され、今日のところは帰宅することにした一同。正直悠の行方とエリザベスの言葉は気にはなるが、今は明日のライブに備えて各自で英気を養おう。それに、例え何があったとしても悠がそう簡単にやられたりはしないだろう。そう思った穂乃果たちは雨が激しく降る中で家路についていった。

 

 

「…………テレビ……か」

 

 

 だが、希だけはエリザベスの言葉が引っかかっていたのか、部室の端に置いてあるテレビに目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(???)

 

 

 

 

 上手く行った

 

 

 

 

 深々と雨が降る人ごみの中でふとそう呟いた。少々不手際があったが、結果はどうあれ目的は達成した。どうやら彼女らもあいつがどうなったのかを知らないようだ。それはおろか、自分が出したあの手紙のことも知らない。おかしくなって心の中でクスクスと笑みを浮かべてしまった。

 

 愚か者め。彼女らをライブに集中させたいからだと情報を共有しなかった貴様のミスだ。精々あちらでそのことを悔いるがいい。最も…あんなことが遭ったのであれば早々動けないだろうし、そんなことができるのは数日が限界だろうが。

 

 

 さて、ここまでは順調だ。あとは……やつらがどう動くかだ。己の目的か人の命か、どちらを選ぶかが楽しみだ。最も……どちらを選んだところで()()()()()()()()。それは既に決定しているのだからな。

 

 

 

another view(???)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<和菓子屋【穂むら】>

 

 

「えっ?悠さん、まだ帰ってこないの?」

 

 自宅について明日の準備をしている最中、悠のことが気になった穂乃果はことりに電話をしていた。

 

『うん……さっき家に行ったんだけど帰ってきた形跡がなくて。ことりとお母さんも何度も携帯に電話かけてるんだけど……電源切ってるか電波の届かないところにいるって……それに……風花さんとか桐条さんたちにも電話したんだけど…悠さん見てないって」

 

「そうなんだ……」

 

 その後、しばらく雑談をして通話を終えた穂乃果は部屋に置いてあった悠の荷物に目を向けてしまう。そして、穂乃果は何気に呆然と窓の外を眺めてしまった。

 

 

「悠さん…どこ行ったんだろ?」

 

 

 未だに行方が掴めない悠のことを思う穂乃果の胸の中に嫌な予感を感じた。その穂乃果の不安を表すかのように外では不気味に雨が深々と降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院?? 校門前>

 

 

 一方、ここはアイドル研究部室のテレビから繋がるテレビの世界。穂乃果たちが何度も訪れたこの異世界にとある人物が校門に立っていた。

 

「ここがテレビの世界かぁ。悠くんたちはいつもこの場所からウチらを助けに行っとったんやなぁ」

 

 紫色のフレームメガネをかけた希である。エリザベスの言葉が気になった希は皆が帰ったタイミングを見計らってここに来ていたのだ。エリザベスの言葉を信用したわけではないが、もしこの世界に自分たち以外の…それもペルソナ能力を持っていない一般人が迷い込んでいたら大問題だ。

 

「勝手に1人で行くなって悠くんとエリチに怒られそうやけど……その時は沖奈市で陽介くんと完二くんとでナンパしたことを皆にバラすって言えばええか。それじゃ」

 

 悠に怒られそうになった時のとんでもない対策を練ったところで、希は目を閉じて祈るようなポーズを取った。すると、希の前に青白く光る【女帝】のタロットカードが顕現された。そして、

 

 

 

 

 

―カッ!―

「ペルソナ!!」

 

 

 

 

 

 カッと目を開いてそう叫ぶと、タロットカードは砕かれ背後にペルソナが青白い光と共に召喚された。

 

 

 

 露出度の高い紫の修道服

 希に似た優しい雰囲気と豊満な肉体

 手にはタロットカードに似た札

 

 

 

 これぞ、希が己の影と向き合って手に入れたペルソナ【ウーラニア】の姿だった。

 

 

「これがウチのペルソナかぁ………よしっ!」

 

 

 改めて自分のペルソナの姿に感嘆した希は目の前の校舎に目を向ける。その瞬間、希のウーラニアが白いドーム状のような結界を作成して、それを希の周りに囲む。すると、希の感覚に変化が生じた。

 全てが細かく見える。全てのものが手に取るように分かる。まるで全五感が数百倍に研ぎ澄まされたようだ。これが、自分のペルソナの力。つまり、希のウーラニアは特捜隊のりせの【コウゼオン】・シャドウワーカーの風花の【ユノ】と同じ情報解析型のペルソナなのだ。新たな感覚に驚嘆する希だったが、早速手に入れたこの能力で探索しようと校舎に全神経を集中する。すると、

 

 

「こ、これって………まさか」

 

 

 案の定、校舎の中にある何かが希の研ぎ澄まされた五感に反応した。気配からして人間のものなのだが、これは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<鳴上家>

 

「悠くん……帰ってこないわねぇ」

 

「うん………」

 

 穂乃果との通話を終えたことりは浮かない顔で雛乃と悠の帰りを待っていた。テーブルにはことり手製の料理がラップで包まれた状態で並んでいる。悠が帰ってきたら一緒に食べようとこうして待っているのだが、当の本人は一向に現れない。それに何度も悠の携帯に連絡を入れているのだが、ずっと繋がらないでいるのだ。そんな状態が続いていると、ふとエリザベスの言葉が蘇ってくる。やはり…何かあったのだろうか。そんなことを思っていると、

 

 

prrrrrrrrrrrr!!

 

 

「あら?誰かしら?」

 

 着信が入ったらしい雛乃は席を立って電話に出た。

 

「はい、南です。………あら?堂島さんじゃないですか」

 

「え?…堂島叔父さん?」

 

 どうやら電話の相手は稲羽にいる堂島からだったようだ。このタイミングで堂島がこっちに電話してくるとは珍しい。それにどこか堂島と話す雛乃の顔が心なしか悠と話す時と同じく楽しそうに見える。すると、

 

「ことり~、菜々子ちゃんよ。電話代わってほしいって」

 

「な、菜々子ちゃん!?」

 

 雛乃にそう言われて、ことりは急いで電話を受け取る。そして、携帯電話を耳元にあてると向こうから可愛い声が入ってきた。

 

 

『こんばんは、ことりおねえちゃん』

 

 

 この聞いているだけで癒されるような純粋な少女の声は正真正銘稲羽にいる菜々子の声だった。久しぶりに聞く菜々子の声にことりは胸が高鳴った。

 

「こんばんは、菜々子ちゃん。元気だった?」

 

『うんっ!ななこ、いい子にしてたよ。悪いことしちゃったら、おにいちゃんとおねえちゃんに会えなくなるって、お父さんに言われたから』

 

「そうなんだ。ところで、今日はどうして電話してきてくれたの?」

 

『えっとね……おねえちゃんたちって明日らいぶがあるでしょ?ななこは家にいて見にいけないから、こうやってお電話で応援しようっておもって』

 

「菜々子ちゃん………」

 

 

 自分たちのためにわざわざ電話してくれたと聞いて、なんて優しい子なのだろうとことりは思わず感激してしまった。今日のライブが中止になって気分が沈んでいたのが嘘みたいみ心が晴れやかになった気がする。

 

『あとね、あしたお天気になりますようにって、さっきお父さんとてるてる坊主をつくったよ。おねえちゃんたちがいい天気で踊れますようにって』

 

「………………………」

 

 菜々子の言葉が感動過ぎてもはや言葉が出ない。なんていい子なのなんだろう。こんな純粋でいい子などどこを探してもいない。改めてこの子の従姉妹で本当に良かったと心の底から思ってしまった。

 

「ありがとうね、菜々子ちゃん。明日お姉ちゃん頑張るね!!」

 

『うんっ!ところでことりおねえちゃん、おにいちゃんは?』

 

「えっ?」

 

『ななこ、おにいちゃんともおはなししたいから、電話かわって』

 

 菜々子のリクエストにことりは固まってしまった。菜々子が今電話したがっている悠はここにはいないので、残念ながら菜々子のお願いを叶えられない。正直言いたくはないがことりは申し訳なさそうに菜々子にこう説明した。

 

「ご、ごめんね……お兄ちゃんは今出かけてていないの」

 

『えっ?……そうなんだ………』

 

 悠がいないと分かった菜々子は先ほどの明るく純粋な声が嘘のように沈んだ。ことりと同じように悠の声も聞きたかったらしい。悠のことなのだが、なんだかことりの方が申し訳なく感じてしまった。

 

 

「お、お兄ちゃんが帰ってきたら電話するようにことりが伝えておくから。それでいいかな?」

 

『………うん。分かった。じゃあ、おにいちゃんが帰ってきたら、電話してって伝えてね』

 

「うんっ!約束するね」

 

『じゃあことりおねえちゃん、明日はらいぶ、がーんばってねっと♪』

 

「ありがとう、菜々子ちゃん」

 

 

 そんな形で菜々子との通話を終えたことり。久しぶりに菜々子の声が聞けて嬉しいし、最後の声援は何故かことりに元気を与えてくれたような気がした。これが菜々子の魅力の一つなのだろうか。だが、その反面せっかく菜々子が電話してくれたのに、この場に悠がいないことに正直行き場のないモヤモヤを感じていた。

 

 

「お兄ちゃん…早く帰ってきて。ことりもお母さんも………菜々子ちゃんも待ってるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、外は連日のように大雨が降ってきた。時刻は日付の変わりを示す午前0時前。緊張した表情でテレビの雨でスタンバっていた。あのエリザベスの言葉が気になったこともあるが、今日は何故かあの噂を確かめるべきだと直感してしまったからだ。それに、今は両親も妹も床に就いているのでリビングにあるテレビには自分しかいない。

 

 

 そして、時刻は午前0時を指した。すると、突然テレビの画面に砂嵐が発生した。何事かと思っていると、次第に画面に何かが映り始めた。

 

 

 

 

 

 

『は~いっ!諸君、ご機嫌よう!お待ちかね~、"佐々木竜次"によるドッキドキタイムの始まりだぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ぼやけた画面が鮮明になり、そこに映ったのは無機質な一室で白と黒が半分に分かれた道化師のような恰好に身を纏ったおちゃらけた男であった。顔はまた白と黒のドミノマスクに隠れていて分からなかったが、それを見た穂乃果の背筋が凍る。エリザベスの予言通り…今まで何度も見たマヨナカテレビが映ったのだ。そんな自分たちの心情を無視するかのように画面の道化師が朗らかに話し始めた。

 

 

『凡庸で向上心のない衆愚ちゃんたち。最近刺激がなくて退屈、と思ってないかい?だ・か・ら、そんな君たちのために今日はとってもエクストリームな企画を用意したよ~♪』

 

 

 道化師がそう言うと画面に倒れこんでいる青年が映し出された。その青年はどこかで()()()()()()()()全身にケガを負っている上にどこか表情がやつれていた。

 

 

「えっ?………嘘……」

 

 

 だが、その青年を見た途端、声を失ってしまった。何故ならその人物は………自分のよく知る人物だったのだから。

 

 

『そうっ!なんと、僕があの少年を誘拐しました!はっはあっ!!すごいだろ~!!』

 

 

 道化師は自画自賛するようにオーバーリアクションでポーズを取る。その姿にはどこか狂気に似たようなものを感じる。

 

 

『さあ、ここで衆愚ちゃんたちに3つ情報を与えよう。1つ、今日起きた秋葉原の交通事故は知ってるかな?じ・つは~、あれは僕がこの彼を誘拐するために引き起こしたものなのでした~!いや~アレは完璧な作戦だったねぇ。交通事故を隠れ蓑に誘拐するなんて』

 

 

 道化師の一言に戦慄が走る。無関係だと思っていたあの交通事故。どういうことなのかまさか分からないが、まさか本当にあの事故が………

 

 

『そして2つ、衆愚ちゃんたちは”3・3・3・の法則”って知ってるかな?人間は空気無しでは数分間、水無しで数日間、食事無しで数週間は生きられるらしいんだ。でも彼、空気はあっても、誘拐してから水を一口も飲んでないから、これはまずいんじゃないかなあ?』

 

 

 更に狂気に満ちた笑顔でとんでもないことを言う道化師。そんなことを楽しそうに話すその姿は正気の沙汰ではない。

 

 

『最後に3つ、仮にここに彼を助けに来るとしても彼に今ゆかりのある9人しか認めないものとする。もちろん警察や探偵、大企業との連帯も禁止だ。これは()()()()を試す企画だからねぇ。もしその9人以外の人物が踏み込んできたら……どうなるだろうねぇ?』

 

 

 道化師はニヤニヤしながらどこからか取り出したナイフをちらつかせる。それだけでも彼が何をしようとしているのかが容易に想像できた。それに、その彼にゆかりのある9人というのは……

 

 

『さあさあ、彼に助けは来るのかなあ?これこそ、ワックワクのドッキドキだよねえ。運命の時はもうすぐそこ!おっ楽しみに~~~!!』

 

 

 

 道化師が高らかにそう宣言したと同時に映像はプツンと切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、今のって…………」

 

 

 穂乃果は突然の事態と呑み込めない内容に呆然としてしまった。今テレビに映ったのは間違いなくマヨナカテレビだ。エリザベスが言っていた通りになったには驚いたが問題はそこじゃない。問題なのは映っていた人物だ。あの道化師らしい人物は見たこともない者だったが、監禁されていた人物は違う。あれは間違いなく………

 今すぐにでもと穂乃果は携帯をを取って皆に連絡をいれた。最初に連絡が入ったのは海未だった。

 

 

『穂乃果っ!!今…観ましたか?マヨナカテレビを』

 

「うん……観たよ。あの映ってたマジシャンみたいな人は分からないけど……あの監禁されてたのって……」

 

 

 

 

 

悠さん…でしたね』 

 

 

 

 

 

 そう、あの監禁されていた人物こそ…今日まで行方が知れなかった悠だったのだ。その事実を再確認した穂乃果はショックを受けた。

 

 

「………………………」

 

『穂乃果!どうしました!?穂乃果!?』

 

 

 ショックを受けた穂乃果はあまりのことに携帯を落としてしまった。

 

 

 

 

 

「穂乃果の…せいだ………穂乃果のせいで……悠さんが……悠さんが……………………」

 

 

 

 

 

 自分が無理して体調を悪くしたせいで悠をあんな目に遭わせてしまった。自分がしっかりしていればこんなことにならなかった。全ては…自分のせいだ。穂乃果はそう呟くとその場に崩れて、視界が真っ暗になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 そこから先は覚えていない。ただ穂乃果の心の中にあったのは、今まで似感じたことがない絶望と悲しみ、そして深い後悔だけだった。

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




Next chapter

「今の貴方はとても危険な状況にあります」

「もし、この事件が解決して廃校を阻止できたら……」

「好きな方を選べ」



「私は……どうしたらいいんだろう」



Next #56「Life or Live.」

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