PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

先日は突然の番外編ですみません。何とかスランプからは脱せて更新できたのですが、運が悪いことにそろそろ試験が始まります。こればっかりは自分にとって重要事項なので続きが楽しみにしている方々、更新が遅くなりますので重ねてすみません。今回の話も読んで楽しんでくれたら幸いです。

お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・誤字脱字報告をしてくださった方・最高評価、評価を下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは本編をどうぞ!


#54「Don't bother me.」

~放課後~

 

<音ノ木坂学院 屋上>

 

 

「はいっ!ここでストップ!休憩に入るわよ」

 

 

 学園祭まで残り数日となった今日、μ‘sメンバーは残り少なくなった時間を惜しむように練習に励んでいた。今はちょうど休憩に入ったところである。皆練習中に流した汗を拭き、乾いた喉を悠が用意したスポーツドリンクで癒していた。

 

 

「いや~絵里ちゃんのレッスンも厳しくなったねえ」

 

「そろそろ本番ですからね」

 

「うにゃ~、スポーツドリンクが喉に染みるにゃ~」

 

 

 絵里のレッスンが厳しいのは今に始まったことではないが、ラブライブ出場の天王山である学園祭ライブが迫っているせいか、いつもの倍以上厳しくなっていた。だが、それを苦と思うことなく穂乃果たちも負けじと食らいついていた。

 

 

「手を抜いている訳じゃないけど、みんなここまでよく付いてこれたわ。秋葉原のライブや臨海合宿もあってみんな最初とは比べようもないくらいレベルアップしてる。そう思わない、悠?」

 

「……………」

 

 

 だが、絵里が呼びかけても悠はどこかぼおっとして窓の外を眺めていた。珍しい光景に驚くが、絵里は再度悠を呼び掛けてみる。

 

 

「ねえ、悠」

 

「………………」

 

「ちょっと、悠。いい加減返事しないと怒るわよ」

 

「………………」

 

「悠ってば!!」

 

「うおっ!?……絵里か。すまない、どうしたんだ?」

 

 

 顔元まで近づいて大声で呼びかけてみると、ようやく気付いてくれた。どうやら不意を突かれたように驚いた様子だが、明らかに普段と様子がおかしい。

 

 

「どうしたかじゃないわよ。どうしたの?ぼおっとして」

 

「そ、そんなことはないぞ。ちょっと考え事してた」

 

「ふ~ん……考え事ね」

 

 

 しどろもどろにそう言う悠に絵里のみならず、その現場を目撃していた穂乃果たちも悠に視線を向ける。悠はそれに気づくと慌てて窓の景色に目を逸らした。

 

 

「あれ?ことりちゃん?」

 

「はうっ!な、何かな?穂乃果ちゃん」

 

「いや、ことりちゃんもどうしたの?悠さんみたいに何か悩んでるような顔してるよ」

 

「へっ!?……な、何でもないよ。ただ…ちょっと考え事が…」

 

 

 ふと見ると、ことりも悠と同じく考え事をしていたのか穂乃果に追及されていた。それを見て悠はふうと溜息をついた。

 

 

(ことりも………やっぱり、昨日のことだよな)

 

 

 原因はあのことだろうと悠は再びぼおっと景色を眺めながら昨日のことを思い出していた。あれは叔母の雛乃に呼ばれて南家を訪れた時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昨日~

 

<南家>

 

 

 

 

"うちの悠とことりちゃんを留学させてみない?"

 

 

 

 

「「留学……」」

 

 

 雛乃のパソコンに表示されている一つの文章。風呂場で生まれたままと雛乃と遭遇するというハプニングから数十分後、それを見た悠とことりはそう呟いた。

 

 

「私もこれを見て驚いてね。義姉さんに詳しく聞いてみたら、今年あたりに2人をパリに留学してみないかって。時期的に夏休みくらいからになるらしいわ」

 

 

「「……………………………………」」

 

 

 雛乃の言葉に考え込むように悠とことりは黙り込んだ。更に詳しく聞いてみると、外国にいる友人に悠とことりのダンスパフォーマンス動画を見せたところ、興味を持ったその友人がこの2人を留学させるべきだと言ってこの話がやってきたらしい。まさかあの仕事ばかりの母親が自分のみならず、従妹のことりまでも留学させようとしているなど思ってもみなかった。しかし、何故このタイミングでこんな話を。

 

「突然義姉さんから連絡が来たもんだから、正直私も対応に困ってね。今すぐ返事しなくてもいいんだけど、2人はどうしたい?」

 

 突然の話に2人は言葉を詰まらせてしまう。出来ることならこの話はなかったことにしてもらいたい。夏休みは稲羽で陽介たちと一緒に海へ行ったり花火見たりしたい。それに…あの事件の犯人を野放しにしたまま、日本を離れられるわけがない。しかし、母親から来た滅多にない留学という話を蹴るのも躊躇われた。一体どうしたいいのだろうと思っていると、

 

 

 

「もし行きたくないなら、行かなくてもいいのよ」

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

 答えを出しかねていると、それを察したらしい2人に雛乃はそう言った。あまりにも意外な言葉だったのか、2人はハッと顔を上げて雛乃の顔を見る。2人の驚愕した顔は予想通りだったのか、雛乃は優しく微笑んでいた。

 

 

「あの…叔母さん。今のはどういう…」

 

「2人のことだから、稲羽で菜々子ちゃんと陽介くんたちと遊びたいって思ってるんでしょ?特に悠くんはあの町が大好きだし、菜々子ちゃんと夏休みに帰ってくるって約束しちゃってるしね」

 

「えっと……それは………」

 

「うん……そうだよね」

 

 

 図星を突かれたように2人はしどろもどろになった。どうやら当たりのようだと雛乃は心の中でほくそ笑む。

 

 

「私としても菜々子ちゃんが寂しがる顔も見たくないんだけどね…でも、留学なんて滅多にない話だもの。まだ返事するには時間があるから、どうするかはゆっくり考えなさい。最終決定するのはあなたたち自身よ。もし断ることになっても私が義姉さんにきちんと説明するから」

 

「…………ありがとうございます、叔母さん」

 

「ありがとう…お母さん」

 

 

 的確なアドバイスをくれた雛乃に2人は深々と頭を下げる。だが、次の瞬間、雛乃はどこか神妙な顔で2人に再度こう言った。

 

 

「…それと、これは違う話なんだけど。2人とも私に隠してることはないかしら?」

 

「「えっ?」」

 

「GWの時から思ってたんだけど……2人が私に隠れて何かに()()()()に巻き込まれてるんじゃないかって」

 

「「!!っ」」

 

「あの時稲羽で流行ってた"P-1Grand Prix"っていう噂に悠くんが出てたっていうことを耳にしたときから思ってたの。それに、悠くんは陽介くんに"やらなきゃいけないことがある"とか言ってたけど……それって何のことかしら?ラブライブのことって訳じゃないわよね」

 

 

 雛乃の指摘に悠とことりは言葉を詰まらせた。まさか雛乃は自分たちが何か事件に巻き込まれていることに気付いたのだろうか。だが、例え大切な家族であっても自分たちが"音乃木坂の神隠し"というペルソナやテレビの世界など現実では説明できない不可思議な事件を追っているなど言えるわけがない。叔父の堂島のようにそんなことなど信じてくれるはずないし、かといってこんなことに関わらせることなんてできない。

 

 

「「………………………………」」

 

 

 だが、どう誤魔化せばいいのか考えている故に黙ったままの様子を不自然に感じたのか、雛乃の目はどんどん疑惑に満ちていく。

 

 

「どうしたの?もしかして……本当に何かに巻き込まれて……」

 

「え、えっとね!!今度完二くんにお裁縫のことを色々と教わりたいかなぁって」

 

「完二くん?」

 

「そうそうっ!完二くんって私より上手だし今後のμ‘sの衣装づくりの参考になるし……それで、どっちが上手いかって対決することになったの。多分、それじゃないかな?」

 

 

 何かあるのかと追及しようとしたとき、先制攻撃をするかのようにことりがそんなことを言ってきたので雛乃は面を喰らってしまった。だが、目が完全に泳いでいるので我が娘ながら怪しい。すると、

 

 

「そ、そうだなっ!完二の裁縫の腕は商品価値がつくほどの腕だからな。ことりの知らないことをいっぱい知っているはずだから今後のためになる。だが、万が一完二に何かされたらすぐに俺に言うんだぞ。必ず俺が完二に然るべき鉄槌を下して」

 

「悠くん、落ち着きなさい!」

 

 

 ことりの言葉に便乗するようにとんでもないことを言いだした悠に雛乃はそう諭す。目が本気だったので本当にやりかねない勢いだ。いつも冷静沈着なのに何故家族のことが絡むとこうなるのは、一体誰に似たのだろう。

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。確かに完二くんは良い人で服飾の技術を教わりたいって思ってるけど……完二くんはことりの趣味じゃないからっ!」

 

「!!っ」

 

 

 ことりの必死の言葉が通じたのか、悠は落ち着きを取り戻したように我に返った。

 

 

「ことりが一番大好きなのは……お兄ちゃんだから」

 

「………そうか。ことり、お兄ちゃんも大好きだ」

 

 

 そうして、いつものように悠はことりの頭を撫で始め、ことりも気持ちよさそうに目を細めて顔がふやけ始めた。

 雛乃はそんな仲良さそうにじゃれ合う2人を見てため息をつきながらも微笑ましそうに見つめていた。2人を見ていると若い時の自分と兄を思い出してしまう。もし、自分とあの人が本当の兄妹でなかったらどうしていただろう。そしたらあの時………だが、

 

 

(明らかに悠くんとことりは何かを隠しているわよね)

 

 

 あの反応からして、2人が何か隠し事があるのは明らかだ。おそらく今2人が言ったことも嘘なのだろう。追及したいが話は思わぬ形で逸らされてしまったので、今は分が悪い。今日はここまでにしておくが、もし2人が何かに巻き込まれているとあったときは自分が2人をしっかり守って上げなければ。

 

 

(だって私は……2人の母親だもの)

 

 

 心にそう誓った雛乃は改めて悠の母親に電話をした。返事はもう少し待って欲しいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の叔母とのやり取りから、悠は留学のことをずっと考えていた。悠としては雛乃の言う通り滅多にないしあの母親がお膳立てしてくれた機会なので受けたいとは思っている。だが、それ以上に”音乃木坂の神隠し”事件を解決するまでここを離れる訳にはいかないし、何より稲羽で休みを過ごしたという気持ちの方が強い。

 

 

「わあっ!すご~い!」

 

「私たちのことが新聞に載ってるにゃ~!」

 

「何だか感動しますねぇ!」

 

 

 この話はどうしたものかと思っていると、近くで穂乃果と凛、花陽の歓声が聞こえてきた。何だろうと見てみると、3人は一枚の紙きれに目を輝かせていた。

 

 

「新聞?」

 

「ほら、これだよ」

 

「??」

 

 

 お父さんが読んでいた新聞を返す娘のように悠に新聞を渡す穂乃果。見てみると、それは学校の新聞部が発行している校内新聞で、数日後に行われる学園祭についての特集が載ってあった。その記事には注目の出し物やイベントなどが紹介されていたが、一面を飾っていたのはμ‘sのライブについてだった。

 学園の救世主だとかラブライブ出場へは確定など相当期待を込めていた内容だったので、少し歯がゆくなる。最後の方にマネージャー"鳴上悠"のパフォーマンスもあるのか?などまたも謎のことも書いてあったのだが、そっとしておこう。

 

 

「こうしてみると、俺たちはとても期待されているようだな」

 

「そうやね。…………ん?あれ?」

 

 

 すると、後ろから一緒に新聞を見ていた希はそう声を上げたかと思うと新聞のとある部分に目を付けていた。

 

 

「どうしたんだ?希」

 

「いや、これ」

 

 

 希が悠に学校新聞のある部分を指さした。そこには”オカルトの誘い”という見出しのコーナー、所謂学校の七不思議と言ったオカルト系の内容を紹介している記事があった。読んでみると、学校の七不思議の一つである何かを紹介している内容だったが重要なのはそこじゃない。希が注目していたのはその記事の最後に"しばらく休載します"という後書きのところだった。

 

 

「これがどうしたんだ?」

 

「いやな。ウチ、この新聞のこのコーナーがお気に入りやったんやけど、最近掲載されていないなあと思ったらこういうことになっとって。これを見て新聞部の部員が一人休部したって話を聞いたことを思い出してな」

 

「休部?」

 

「何でも本人が休部を申し出たんやって。何でか知らんけど、部長さんは自分の書いてた記事が全く評判良くなかったからじゃないかって言ってたよ。結構自己顕示欲が強そうな人やったらしいけどな」

 

「はあ」

 

 

 それは生々しい話だなと思った。自作の漫画や小説の話なら分かるが、たかが学校新聞の記事でそこまでなるとは。本人にしてはそれが大切なことだったのかもしれないがあまりそういう欲がない悠にとっては理解しがたい内容だった。しかし、

 

 

「新聞部……か」

 

 

 今まで気づかなかったが、こんなコーナーがあったとは。忘れていた訳ではないが、今悠たちが追っている事件はこの学校で流行っている”音乃木坂の神隠し”という噂が元に発生していると考えられている。もしやこの新聞部の部員は何か知っているではないだろうか。

 

 

prrrrrrrrrrrr!!

 

 

 改めて新聞部のことを思っていると、悠の携帯の着信音が鳴った。

 

 

 

『せんぱ~い♡久しぶり~!あなたのりせだよ♡』

 

 

 

 電話に出てみると、相手はりせだった。どうやらレッスンの休憩がてらに電話してきたらしい。携帯から聞こえてきた甘いアイドルボイスでりせと分かったのか、近くにいた希とことり、真姫たちが一斉に声の主を仇を見るかのように睨みつける。

 

 

「わ…悪い、ちょっとりせから電話が来たから」

 

 

 この状況はまずいと判断したのか、悠は皆に断ってりせと電話をしようと屋上から去っていった。何故皆がそんな反応をするのかは分からないが、せっかく厳しいレッスンの休憩を利用してまで電話してくれたのに、それに応じないのはりせが可哀そうだ。ここ最近構ってあげられなかったので電話の相手ぐらいしてもバチは当たらないだろう。すると、

 

 

「……ことり、お兄ちゃんについていく」

 

「ああっ!ことりちゃん!練習は?」

 

 

 穂乃果の制止の声も聞かずに、ことりは問答無用に悠の後を付いていって屋上から去っていった。ことりと悠の姿が見えなくなると、絵里たちは思わず溜息をつく。

 

 

「はあ…相変わらずのブラコンぶりね」

 

「だって、鋼のシスコン番長とブラコンエンジェルだし」

 

 

 相変わらずのブラコンぶりに皆はやれやれと肩をすくめた。

 

 

「ことりに彼氏が出来たらその彼氏が大変ね。あの悠に厳しくチェックされるわけだし、下手したら粛清されかねないわ」

 

「それ言ったら悠さんもだにゃ。その彼女さんも絶対ことりちゃんにあの冷たい目でチェックされるんだよ。それに加えてあの堂島さんと理事長のチェックも入るし」

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 凛の発言で妙な寒気を覚えながらも改めてそんな状況を想像してみる一同。仮に悠と結ばれたとしても、日々あのブラコンの冷たい目線にさらされ、加えて”鬼の刑事”と恐れられる堂島とことりと同じ属性であろう雛乃に品定めされる。考えてみれば考えるほど末恐ろしく思えてきた。もしかしたら、唯一の癒しである菜々子でさえも……

 

 

「…菜々子ちゃんの彼氏さんがもっと大変かも。その4人のチェックを同時に受ける訳から。それに陽介さんとか雪子さんとかも」

 

「「「「…………………」」」」

 

 

 屋上に更に気まずい沈黙が訪れる。そんなことを考えるとますます末恐ろしくなってきた。やはり自分たちとの恋路は一筋縄ではいかないのか。そんな憂鬱な気持ちになる前に彼女たちは練習に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええっ!センパイ、学園祭のライブでダンスやらないのぉ!私オープンキャンパス行けなかったから、今度こそ生のセンパイのダンス見れるって思ったのに~~』

 

「はは、俺はマネージャーだからな」

 

「………………………」

 

 

 悠は廊下を歩きながらりせとの通話に集中していた。背後から付いてくることりから凄まじい圧を感じるのは気のせいだろう。そんな悠の心情を知らずに電話の向こうのりせは悠のダンスパフォーマンスがないことにぐちぐちと文句を言っていた。

 

 

『ぶう~……あっ、そうだっ!せんぱいって夏休みに稲羽に帰るでしょ?その時に、みんなには内緒で2人で海か温泉に行こうよ』

 

「えっ?」

 

『この間はあんまりデートらしいデートできなかったしぃ、GWの時はことりちゃんとかのせいで中々2人っきりになれなかったしぃ……いつもいつもことりちゃんばっかりズルいからたまには私のターンもあっていいよね?』

 

「あ、あの……りせ?」

 

『じゃあ、そういうことで夏休みよろしくね。ことりちゃんや希ちゃんにバレないように注意してよ、セ~ンパイ♡』

 

 

 またもや一方的に電話を切られてしまって呆然とする悠。それにしても、何だが夏休みの気苦労が増えた気がするのだが……そっとしておこう。

 

 

「お兄ちゃん…りせちゃんと何か秘密の約束とかしなかった?」

 

「えっ?……な、なんのことだ?」

 

「今、ことりに内緒でりせちゃんと海か温泉に行こうって約束しなかった?しかも原付で」

 

「何でそんなに具体的なんだ?しかも何で原付?」

 

 

 ことりの疑いを向ける視線が痛い。何とか上手く誤魔化せないかと策を巡らせようと考えていると、

 

 

「………ことりも原付の免許取ろうかな?」

 

「ダメだっ!原付はことりには危ないし、バレたら叔母さんに叱られるぞ!」

 

 

 血迷って原付の免許を取ろうとすることりを必死に止める。ことりの説得に必死になっていると、気がつけばアイドル研究部室に着いていた。一先ず部室に入ろうと何とか会話を繋ぎながらドアを開ける。

 

 

「あれ?テーブルに何か置いてある。これって、封筒?誰からかな?」

 

「本当だ。差出人は……書いてないな」

 

 

 部室に戻ると、テーブルに茶封筒が置いてあった。何だろうと思って手に取って見るが、封筒には差出人も宛名も何も書いていなかった。一体中身はなんだろうと封を切って開けてみると手紙が一通入っていた。書かれていたのは次の文章だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"コレイジョウ ジャマスルナ"

 

 

 

"コレイジョウ ジャマスルト タイセツナヒトヲ ケシチャウヨ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!っ」」

 

 

 書かれてあった一文に悠は絶句する。ワープロで印刷されたカタカナだけの文章。だが、内容は………

 

 

 

「お、お兄ちゃん……これって…………」

 

 

「脅迫状……うっ!」

 

 

 

 脅迫状と言えばと悠は去年の事件の記憶がフラッシュバックした。菜々子が誘拐された時に送られたあの時。それを思い出した瞬間、激しい頭痛と眩暈が襲ってきた。

 

「お兄ちゃんっ!どうしたのっ!?」

 

 周囲の声と音の代わりにあの時の感覚が蘇ってくる。

 

 

 

 

 

―――菜々子がいなくなったときの焦りと葛藤

―――菜々子の手が冷たくなった時の絶望と喪失感

―――誘拐した犯人への抑えきれない怒りと憎しみ

 

 

 

 

 1つ1つが鮮明に蘇ってきた。あの時の激情が戻っていて耐え切れなくなったその時、

 

 

「お兄ちゃんッ!しっかりして!!」

 

 

 思わず立っていられなくなると思った瞬間、ことりが必死の呼びかけに意識を何とか取り戻した。まだあの時のことがトラウマになっているのかと悠は思わず溜息をつく。まあ、人生で一度あるかないかというぐらいの修羅場だったのでそう簡単に忘れられるはずもないし、忘れるつもりもない。呼吸を整えて落ち着いた悠は改めて脅迫状を見返した。

 文面はあの時と同じくワープロ文字。筆跡で人物特定されないための対策だろう。文章の内容からみると、やはりこれを書いたのは自分たちが追っている犯人なのだろうか。それに"これ以上邪魔するな"か。

 

 

「お、お兄ちゃん……どうしよう」

 

 

 ことりが不安げな表情でそう聞いて来る。このタイミングで自分たちが追っている人物であろう者からこんな手紙が来た事態を呑み込めないのか、随分と戸惑っているように見える。まあ、一度事件に遭遇しているからと言って冷静でいられる悠の感覚がおかしいだけなのであって、ことりの反応は至極当然なのである。そんなことりの呟きに悠は一言こう返した。

 

 

「一先ず俺はあるところに連絡する。ことりは練習に戻れ」

 

「えっ?でも……」

 

「話は練習の後だ。なるべく穂乃果たちにこのことは言うなよ」

 

「う、うん……」

 

 

 今まで見たことがない張り詰めた表情でそう言われてはことりは頷くしかなかった。このような事態をどう解決したらいいのか自分には分からなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<屋上>

 

 

「あれ?ことりちゃん、悠さんはどうしたの?」

 

「えっ?………」

 

 

 屋上に戻って早々、悠がいないことに言及する穂乃果にことりは内心焦った。周りのメンバーも一斉にこちらを見つめてくる。何とか誤魔化そうとことりは必死に言い訳を考えた。

 

 

「え、えっと……りせちゃんに呼び出されてアキバに行っちゃった。何か……お兄ちゃんに相談したいことがあるとかなんとかで」

 

「そうなんだ。りせちゃんの頼みじゃしょうがないね」

 

「そうなんだじゃないわよ!?あいつ、国民的アイドルから呼び出されるってこと自体が凄くレアだってことに気づいてないのかしら。ったく、あのお人好しめ………」

 

「にこちゃん…何か嫉妬キャラみたいになってるよ」

 

 

 咄嗟についた嘘だが信じてくれたようだ。何とか誤魔化せたとことりは一安心したが、すぐにどこか視線を感じた。ビクッとなって見てみると、希と海未がこちらを疑惑の目で見ていた。流石にこれにはことりも焦ったのか、しどろもどろに話しかけてみた。

 

 

「の、希ちゃん・海未ちゃん?どうしたの?」

 

「いや、珍しいなって思って」

 

「へっ?」

 

「りせちゃんが絡んだら思わず突っかかりそうなことりちゃんが簡単に悠くんを行かせるなんてな」

 

「(ギクッ)……ま、まあ…たまにはいいかなって。あんまり独り占めしちゃうと、またブラコンって言われちゃうし……」

 

「今更でしょ。ことりがブラコンなのはみんな知ってますから」

 

「そ、そうだったね。あはははは」

 

「「…………………」」

 

 

 あからさまな作り笑いを浮かべることりに疑惑の視線を向ける海未と希。他の皆は気付いていないが、この反応はあからさまに怪しい。もしやさっき何かあったのだろうかと、2人は気にせずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<メイド喫茶【コペンハーゲン】>

 

 

「これは明らかに脅迫状ですね」

 

 

 練習を終えた放課後、秋葉原のメイド喫茶【コペンハーゲン】で悠と合流した直斗は脅迫状を手にそう言った。ネコさんに内緒話したと願い出たところ、奥の個室を貸してもらった。ちなみに先ほどことりから希と海未に感づかれたっぽいから一旦自分は家に帰ると連絡が入ったので、ここにはいない。

 

 

「これはμ‘sの部室に置いてあったんですよね。先ほどの先輩の話から察するに、これを置いたのはやはり学校関係者ということになります」

 

「……やっぱりか」

 

 

 近日に学園祭を控えている音ノ木坂学院は放課後も遅くまで残って作業している学生が多い。もし外部の人間が校内に入り込んだら何人かの生徒に見つかっているはずなのだが、悠が聞き込みしたところ、そのような人物は見かけなかったという。

 

 

「………このことをμ‘sの皆さんたちには?」

 

「いや、伝えてない。むしろ…伝えない方がいいかもしれない」

 

 

 ラブライブの選考の期限が迫った今、こんなことを穂乃果たちに知られたら気が気でなくなり、ライブどころではなくだろう。直斗もそれがいいと判断したのか悠の意見に同意する。

 

 

「確かに、今は大事な時期ですからね。ですが……本当にそれでいいんですか?」

 

「えっ?」

 

「この文面からは分かりませんが、仮に犯人の目的が今回の学園祭ライブの妨害だった場合、あちらが何をしでかすかもしれません。それこそμ‘sメンバーへの暴行や恐喝、ステージの破壊など」

 

「そ、それは………」

 

 

 悠らしくない狼狽ぶりを見て直斗は目を伏せてこう言った。

 

 

「鳴上先輩、やっぱり……去年の菜々子ちゃんの事件がまだトラウマになってるようですね」

 

「!!っ」

 

「いつもの先輩らしい冷静さが欠けています。先輩はこの状況を一人で何とかしようとしているみたいですが、今のそんな状態では難しいと思いますよ」

 

「そ、それは………………」

 

 

 痛いところを突かれた悠はそのまま項垂れてしまう。直斗の指摘通り、この件は何とか自分一人で解決しようとしていたが、改めてそう言われてると心に来る。

 

 

「……僕だって忘れられませんよ。あの時僕がもっとしっかりしていたら、あんな思いを菜々子ちゃんや先輩にさせることはなかったのに……」

 

 

 直斗はそう言うと頭に被った帽子を深く被り直した。あの時の悔しさを思い出したのか、帽子の唾を握る手に力が入っている。どうやら悠だけでなく直斗にとってもあの事件は忘れがたいものらしい。

 

 

「……あれは直斗のせいじゃない。俺だって、間違いを犯しそうになった」

 

「ですが………」

 

「「………………………」」

 

 

 2人の間に沈黙が訪れる。すると、悠と直斗の目の前にコーヒーカップが置かれていた。

 

 

「ネコさん?」

 

「これはサービス。ミナミンのことで世話になってるからねぇ。これ飲んで元気だしな。そこの後輩くんも」

 

「「………ありがとうございます」」

 

 

 気を遣ってくれたネコさんにお礼を言うと、悠と直斗はコーヒーを口にした。温かいものを飲んだお陰か、先ほどの暗い雰囲気が嘘のようになくなっていた。何だかさっきまでウジウジ悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。2人のその様子を見て安心したネコさんは問題なしと言うように厨房へと戻っていく。

 

 

「何悩んでいるかは聞かないけどさ、過去のことを気にしすぎない方が良いんじゃない?大事なのは今をどうするか、だろ」

 

 

 去り際にネコさんにそう言われて2人は何かに気づかされた気がした。ネコさんの言う通り、あの時のことを引きずっては元も子もない。今打てる最前の手を考えようと悠と直斗は再度話し合いを進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直斗との話し合いを終えて帰宅するために暗い夜道を歩いている最中、悠は一人物思いにふけっていた。まさかラブライブ出場が掛かった学園祭ライブを目前にして、犯人らしき者から脅迫状が届くなど想定外だった。いや、絵里と希の事件以降、何かとあって緩み過ぎていたのかもしれない。現状まだ穂乃果たちをテレビに落とした犯人は野放しになっているどころか、まだその正体さえも掴めていない。だからこそ、このタイミングでこのようなことが起こってもおかしくなかったのに。

 

 

(俺は………………)

 

 

 

 

 

「あれ?悠さん、こんなところでどうしたの?」

 

 

 

 

 あまりのことに目の前が真っ暗になりかけた時、誰かから声を掛けられた。

 

 

「穂乃果?」

 

 

 振り返って見てみると、そこにいたのは穂乃果だった。ジャージ姿で少々汗を掻いているところを見るとランニングの最中だったらしい。こんなところで穂乃果と遭遇するとは驚きだが、向こうも突然の悠との遭遇に驚いていた。

 

 

「いや~今ランニングしてたところで……って、あれ?ゆ、悠さん本当にどうしたの!?そんな死にそうな顔して」

 

「えっ?………」

 

 

 穂乃果が顔をずいっと近づけてそんなことを言ってくる。その動作に悠は少しドキッとしてしまった。

 

 

「……何かあったの?」

 

 

 探るような目でこちらを見つめてくる穂乃果。その姿は稲羽で何かあったときに心配そうに見てくる菜々子を連想させた。しかし、

 

 

「ごめん。俺はこれで」

 

 

 穂乃果の視線から目を逸らしてその場から離れようとする。脅迫状のことはまだ穂乃果たちには伏せておきたかったので、思わず口が滑りそうになる前に立ちさろうと思ったが、それは叶わなかった。

 

 

「ダメだよ!そんな状態で帰ったら危ないよ!」

 

 

 穂乃果が見ていられない表情で立ち去ろうとする悠を止めようとガシッと手を握ったからだ。

 

 

「お、おいっ!穂乃果」

 

「……………」

 

 

 穂乃果が再びジイィと悠の目を見つめてくる。このままではまずいと冷や汗を掻いていると、穂乃果は何か気がついたようにこんなことを言ってきた。

 

 

「もしかして悠さん……()()()()()()()()?」

 

「えっ?」

 

「なんなら穂乃果の家においでよ!ここからならこっちの方が近いし」

 

「えっ?あの…穂乃果?」

 

「そうとなれば善は急げ!早く行こうか!」

 

「お、おい!穂乃果」

 

 

 何を勘違いしたのか穂乃果は悠が空腹で倒れそうになったと思ったらしく、それならばと無理やり手を引っ張ってり家へと連れて行く。予想外の穂乃果の行動に悠は流れに身を任せるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<和菓子屋【穂むら】>

 

 

「さあさあ鳴上くん、いっぱい食べなさい。男の子なんだし食べないと元気でないわよ」

 

「は、はい」

 

 

 成り行きで高坂家だけでなく夕飯の食卓にお邪魔してしまったりしている。

 穂乃果に連行された時間帯はちょうど閉店時だったので不幸中の幸いかお客さんはいなかったが、穂乃果が悠を連れてきた光景にレジの管理をしていた菊花が目を輝かせていたのが目に入ってしまった。そして、穂乃果が事情を説明したところ、更に目を輝かせて是非とも一緒に夕飯を取ろうと強制的に食卓に座らされて今に至る。

 

 

「はむっはむっ………そうだよ。悠さんもたくさん食べなきゃ元気にならないよ」

 

「アンタは食べ過ぎよ。もうちょっと自重しなさい。太っても知らないわよ」

 

「はうっ!」

 

「なるか……悠さん、お姉ちゃんのことは気にしないでいっぱい食べてください」

 

「あ…ああ」

 

 

 ちなみに、穂乃果のお父さんは明日の仕込みのために厨房に籠っている。夕飯を運び出すのを手伝う際に厨房ですれ違ったが、いつものように殺意の投影は出さず悠を気遣うように接してくれたのは驚いた。何やら事情を察して気遣ってくれたようだったのだが、普段と違う対応をされると戸惑ってしまったのは内緒だ。

 

 

「あっ、これはうまい」

 

 

 とりあえず食卓に並べられた菊花の料理を食べようと目に入った肉じゃがに箸をつけてみると、ふとそんな感想が出てしまった。それを聞いた雪穂は顔をパアと輝かせる。

 

 

「えっ!?そ、そうですか?」

 

「ああ…ちょっと煮崩れしてたり味が濃かったりとまだまだ足りないところはあるが中々の味だ。でも、これ菊花さんが作ったやつじゃないよな?」

 

 

 悠の言う通り、この肉じゃがは煮崩れしたり濃かったりしているので料理上手の菊花が作ったにしては拙すぎる。もしやと思って雪穂の方を見てみると、雪穂は何故か頬が赤色になり始めて口元が緩み始めていた。どうやら悠に中々の味と評価されて照れているようだが、鈍感な悠はそんなことには気づいていない。すると、向かいの席でその様子を見ていた菊花がニヤニヤしながら茶々をいれた。

 

 

「あら~雪穂ぉ?良かったじゃない、初めての料理を褒めてもらって」

 

「ちょっ!?お母さん!?」

 

「???」

 

「ん?…あ、これ雪穂が作ったんだ。悠さんの言う通り、何か煮崩れしてるし味が何か濃いし……あんまり美味しくな」

 

「お姉ちゃんは黙ってて!!」

 

「ええっ!?何でそんなに怒ってるの!?」

 

「怒ってなんかない!!」

 

「???」

 

「うふふふ、姉妹で男の子を取り合うこのシチュエーションも中々良いわね」

 

 

 その光景を菊花はニヤニヤして見守っていた。これはまた、いつも通りの高坂家だなと悠はそう思いながら箸を進めて行った。その最中、いつもの如く厨房から感じたくなかった殺意の投影を感じたのはそっとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯も終わって久しぶりの高坂家の温かさに触れて心と体も癒された。

 

 

「じゃあ俺は帰ります」

 

「えっ?鳴上くん、もうちょっとゆっくりしていいのよ」

 

「いえ、そう言う訳には。時間も時間です」

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

「……し?」

 

 

 外は大振りの雨が降っていた。突然の天気の変わりように唖然としまう。携帯の天気予報を見てみると、この時間帯から大雨の予報が出されていた。この展開に何故かデジャヴを感じてしまう。恐る恐る後ろを振り返ってみると、年甲斐もなく目をキラキラさせている菊花の顔があった。

 

 

「鳴上くん、今日は泊まりなさい☆」

 

 

「…………でも、俺着替えが」

 

「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、鳴上くんのお着替えは部屋に用意してあるから☆」

 

「………………………一応叔母さんに」

 

「雛ちゃんには私から連絡を入れといたわよ。説得に結構時間かかっちゃったけど☆」

 

「………………」

 

 

 あまりの用意周到さに悠は苦笑いするしかなかった。もしやこうなることをこの人は想定していたのか。もしそうであるなら、こういう人こそ悪魔というべきではないのかと一瞬考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあ…それで今穂乃果の家に悠さんが泊っていると』

 

 

 同じころ、自室のベッドでゴロゴロしていた穂乃果は海未と電話していた。

 

 

「うん…さっきお母さんがことりちゃんのお母さんに電話したらしいんだけど……何か笑顔なのに怖くて…"ブラコンに言われたくない"とか"そんなだと嫌われるよ"とか聞こえた気がしたけど」

 

『……………』

 

 

 あの2人の間にどのような会話があったのか容易に想像できてしまった。きっとお互い電話越しで大ぴらに言えない黒歴史をバラし合いながらオハナシしていたのだろう。触れたら何か大人の真っ黒な部分を見てしまいそうなので、この件に関してはそっとしておこう。

 

 

「それはそうと、何か悠さんの様子がおかしいんだよね」

 

『………というと』

 

「いや、最初はお腹減り過ぎて倒れそうになったなのかなって思ったんだけど……今思ったら、悠さん事件が起こった時と同じ顔してたなって思って」

 

『!!っ。それは本当ですか!?』

 

「う、うん……それに、さっき悠さんの携帯に着信が入ってて。ちょっと着信主みたら、直斗くんだったんだよね」

 

『直斗……ですか』

 

 

 直斗の名前が出たせいか海未の声色がシリアスになる。悠が直斗と協力して事件のことを追っていることはGWの時には知っていた。あれから悠が直斗と連絡を取ったのは絵里の事件以来なかったと言っていたが………

 

 

『直斗が悠さんに連絡を取ったということは…何か事件に関することがあったんじゃないでしょうか』

 

「うん。もしかして悠さん、事件関係のことで何かあったのかな?例えば…犯人が会いに来たのとか」

 

『そ…それは………確かにそう考えれば、今日のことりの急変した態度にも説明がつきますね』

 

「ことりちゃん?……何もおかしくなかったと思うけど?」

 

『ハァ…………とにかく、悠さんがりせと通話して屋上を去った後に何かあったのは間違いありません。ことりにはこれから電話して問い詰めますが、穂乃果もタイミングを見て悠さんに聞きだしてみてください』

 

「う、うん……分かったよ」

 

『お願いしますね。学園祭がもうすぐということもありますが、悠さんがまた一人で抱え込んでいるのであれば放っておけませんから。それでは』

 

 

 海未との通話を終えた穂乃果は一息ついてベッドに転がり込んだ。正直海未は神経質だと穂乃果は思った。確かに悠が事件が起こった時のような真剣な表情をしていたのは事実なのだが、だからと言って事件が起こったとは限らないだろう。もしかしたら学園祭のことで気張って疲れているだけなのかもしれないし、実際一緒に食事をしてから悠も元気になっているので、その可能性は低いだろう。そう想うと、何だか馬鹿らしくなってきた。

 

 

「………よしっ」

 

 

 すると、時計を見て頃合いだと言わんばかりに起き上がった穂乃果はジャージに着替えて部屋を出る。これからトレーニングのためにランニングをしに行くのだ。しかし、海未経由で監視を任されている雪穂に見つかったら止められるので、見つからないようにこっそりと忍び足で玄関へ向かう。すると、

 

 

「なるか……悠さん、この問題はどう解けば」

「ああ、これはな……こうやって………こうだ」

「なるほどっ!そういうことでしたか」

 

 

 リビングから悠と雪穂のそんな声が聞こえてきた。気になってリビングを見てみると、2人は勉強していた。せっかくだからと菊花の勧めで雪穂が悠に勉強を教えてもらっているようだ。何だかここに来る前に見た死にそうな表情とは違って、生気が戻ったようで穂乃果は一安心した。

 

 

(これは…チャンスっ!)

 

 

 どうやら2人は勉強に集中しているので自分の気配に気づいていない。見つかる可能性は0だと踏んだ穂乃果は意気揚々と玄関に向かった。

 

 だが、穂乃果はふと足を止めた。思えば悠がここに来たのはどこか辛そうな顔をしていたのを心配したのが始まりだったが、それに関して穂乃果は思わず考えてしまった。

 何故悠はあんな死にそうな顔をしておいて、自分に相談してくれなかったのだろう。事件に関することが起こって、それを特捜隊の後輩で探偵である直斗に相談するのは分かる。でも、何でいつも近くにいる穂乃果たちには相談してくれないのだろう。考えられる理由としては学園祭ライブを数日に控えた自分たちに心配をかけたくないからというのが考えられる。ただ、ふとこうも考えてしまった。

 

 

 

 

 

―――――穂乃果は何も出来ないから……

 

 

 

 

 

 そう考えてしまうと胸がチクリと刺さった。今までのことを振り返ってみると、あの事件を追いかけて今日まで自分は何も出来ていない。悠みたいにペルソナを使えないし、海未たちのように自分の影と向き合った訳でもない。対して自分はただオロオロしているだけで、風花のゴマ団子という武器を持ったとしても、皆に迷惑をかけるだけだった。それはつまり、役立たず。

 

 

「……………………」

 

 

 今までのことを振り返って胸に大きな蟠りを感じてしまった穂乃果は見つからないように外へ行く。ドアを開けると大雨が降っていた。いつもなら止めにするところだが、思わぬ衝動に駆られて穂乃果はフードを被って大雨の中を駆け出した。

 

 

 

 

―――このままではいけない。自分も何かの役に立たないと。せめて、今回のライブは自分が一番頑張らないと。

 

 

 

 

 先ほど芽生えたネガティブな気持ちを紛らわすためにそう呟きながら穂乃果は走る。相当な土砂降りのせいで何度かやめにしようかという気持ちになりかけたが、自分が一番頑張らなくてはならないという想いが穂乃果の足を動かした。そんな中、自分は何故か涙を流しているのが不思議でたまらなかった。

 

 

 大雨の中、思いっきり走り込んでしまってのでずぶ濡れになって帰宅した。その際、悠と雪穂にとても心配されたのだが、穂乃果は珍しく反抗的な態度を取ってお風呂に入っていった。その姿に2人は一体どうしたのだろうかと、穂乃果を心情を察することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

<鳴上宅>

 

 

 

「……これで準備は万端だな」

 

 

 

 学園祭を明日に控えた頃、悠は自宅でそう呟いた。練習やリハーサルの様子を確認したところ、穂乃果たちのパフォーマンスは完璧だ。本番でもこれまで以上のパフォーマンスを見せてくれるだろう。このままいけば……の話だが。一応直斗との話し合いの末に打てる手は打っておいた。しかし、これが万全とは限らないし当日にならないとそれは分からないだろう。

 

 

prrrrrrrrrrrr!!

 

 

 すると、悠の携帯に着信が入った。誰だろうかと思って見てみると、着信主は雪穂となっていた。

 

 

「もしもし」

 

『あっ!?悠さん!!お姉ちゃん見ませんでした?』

 

「穂乃果?」

 

『実は…さっき家にいた筈なのに、いなくなっちゃって』

 

「!!っ」

 

 

 雪穂からその言葉を聞いた途端、悠は携帯を放り投げて家から飛び出していった。脅迫状が届いたこのタイミングで穂乃果がいなくなった。まさか、もう犯人が穂乃果に接触したのではないか。そう思った悠は心底焦って穂乃果を探した。

 

 

 

 

~しばらくして~

 

 

 

「穂乃果っ!?」

 

「ゆ…悠さん?………」

 

 

 家に飛び出して辺りを探索していると、フードを被ってランニングしていたらしい穂乃果を発見した。どうやら穂乃果は無事だったようだ。あちこち探しているうちに去年のトラウマが蘇りそうになったので、悠は穂乃果が見つかったことに安堵する。

 

 

「ハァ…ハァ……穂乃果、無事でよかった」

 

「えっ?…無事って…どういうこと?」

 

 

 穂乃果が無事だったことに安堵したせいか思わずポロッと事情を話しそうになった悠は慌ててしまう。まだあのことについては穂乃果の耳には入れたくないので何とか誤魔化す。

 

 

「い、いや…さっき雪穂から穂乃果の帰りが遅いって連絡があってな。心配になって探しにきたんだ」

 

「………………」

 

「明日は学園祭だし今日は早く寝た方が良い。穂むらまで送っていくから、帰ろう」

 

 

 そう言うと、悠は穂乃果の手を握って家に送ろうとする。だが、穂乃果はそれを拒否するかのようにその場から動こうとはしなかった。

 

 

「穂乃果?」

 

「……………もう少し走り込む」

 

「えっ?」

 

「だから、悠さんは帰って」

 

「………穂乃果、明日が学園祭だってことは分かっているだろ。今そんなに無理して明日の本番で倒れてしまったらどうするんだ。明日のことを考えて今日はゆっくり」

 

 

パシッ!

 

 

 悠がそう言い終える前に、穂乃果は悠が握った手を強引に放した。突然のことに驚いていると、穂乃果が震えた声で呟いた。

 

 

だって……

 

「えっ?」

 

 

 

「だって!穂乃果には何もないもん!!悠さんには分からないよ!!ペルソナを持ってなくて足引っ張って何も出来ない穂乃果の気持ちなんか!!」

 

 

 

「!!っ」

 

 

 唐突に言われたことに悠は思わず狼狽してしまう。だが、隙を与えないようにと穂乃果は追撃を続けた。

 

 

「悠さんがそんなに穂乃果のことを心配したのって、事件が起こるかもって思ったからでしょ!?何も起こらなかったら、悠さんが穂乃果のことを心配するなんてありえないもん!!」

 

「そ、そんなことは……」

 

「穂乃果は知ってるよ!悠さんがコソコソ穂乃果たちに黙って事件を追ってること!ことりちゃんや直斗くんには相談したのに、穂乃果たちには何も相談してくれなかったじゃん!!何で!!何で穂乃果には相談してくれないの!?ペルソナを持ってないから?じゃなかったら、同じペルソナを持っていないことりちゃんより穂乃果が役立たずだから!?」

 

「おいっ!」

 

「言ってよ!?ねえ、言ってよ!?本当の理由を!?ねえ!ねえったら!!」

 

「……………」

 

 

 穂乃果の剣幕に悠は言葉が出なかった。こんな感情的になった穂乃果は初めて見るし、その穂乃果が指摘したことにどう答えたらいいのか分からず只々黙り込むしかなった。だが、それが逆効果となる。

 

 

「は、ははは……そうなんだ……言えないよね。言えるはずないもんね。だって、穂乃果は役立たずだから……スクールアイドルじゃない私は…ペルソナを持ってない……自分と向き合ってない穂乃果になんか……みんなの足を引っ張るお荷物だもん……」

 

 

 穂乃果は悠の対応をそう捉えてしまい、虚ろな目でそう言った。ランニングを再開しようと悠の脇を通り過ぎようとする。

 

 

「うっ……」

 

 

 突如、穂乃果は先ほどの元気が嘘のようにフラフラになって電柱に激突してしまった。

 

 

「お、おい!穂乃果…」

 

「だ、大丈夫…大丈夫だから……これくらい………(バタンッ)」

 

「穂乃果っ!!」

 

 

 穂乃果はふらふらになって悠にもたれかかってしまう。見ると、穂乃果の顔が赤い。額に手を当てると火のように熱かった。もしや風邪を引いてしまったのではないか。だが、ここで考えていてもこの事態が解決するわけではない。だが、病院ん連れて行こうにもここから西木野総合病院はあまりにも遠い。とにかく急いで看病しなくてはと悠は穂乃果を抱きかかえて、ここから近い【穂むら】へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<穂むら>

 

 時刻が翌日を指す前、やけにランニングからの帰りが遅い穂乃果を心配して玄関付近で待機していた菊花。見ると、遠くから誰かがこちらに向かってくるのが目に入った。よく見ると、それは……

 

 

「な、鳴上くん!?どうしたの、こんな時間に……って、穂乃果!?」

 

「突然体調を崩してしまって。早く寝かせないと」

 

「分かったわ!!早くこっちに」

 

 

 娘の異常事態に気づいた菊花は急いで悠を部屋へ誘導する。部屋に着くと早速穂乃果を布団に寝かせて、菊花はジャージを脱がせて汗を拭いた。その間に悠は濡れタオルとポカリ、風邪薬を用意して着替えが終わった穂乃果の額に濡れタオルを当て、朧気ながら意識のあるうちにポカリを口に含ませた。

 

 

(頼む……元気になってくれ………穂乃果…………)

 

 

 悠はそう祈りながら菊花と必死に看病する。明日は自分たちにとって大事な日なのだ。だから……自分はどうなってもいいから穂乃果を助けてくれと。菊花も同じ思いなのか、いつものからかう子供っぽい部分はなく、娘を強く思う一人の母親として看病した。

 

 

 

 

 

 必死にそう想い続けたお陰か、ある程度の措置を終えて見てみると、穂乃果の顔色が少し良くなっていくのが確認できた。それを見た悠と菊花は良かったと安堵して一息つく。何とか最悪の事態は免れたようだ。

 

 

「後は私がやっておくから。鳴上くんは寝ていなさい」

 

 

 一通りの処置を終えた菊花は疲れ切っている悠にそう言った。だが、それで首を縦に振るほど"鳴上悠"という男は無責任ではない。

 

 

「……いえ、俺が看ます。元はと言えば、俺のせいですし」

 

「でも、鳴上くんは明日学園祭が」

 

「お願いします」

 

 

 深々と頭を下げる悠。その姿に菊花は溜息をつくとそそくさと部屋から去っていった。何も言わずに離れてくれた菊花に悠は感謝して頭を下げた。だが、去り際に菊花がこれはチャンスと言わんばかりに口角が上がっていたことには気が付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 しばらく穂乃果の看病に勤しんでいると、いつの間にか窓から陽が差していた。どうやらいつの間にか朝になっていたらしい。その甲斐あってか、穂乃果は随分と顔色が良くなったように見える。ふと穂乃果の顔を見た悠はついさっき言われたことを思い返していた。

 

 

 

――――悠さんには分からないよ!!ペルソナを持ってなくて足引っ張って何も出来ない穂乃果の気持ちなんか!!

 

 

 

「…………………」

 

 

 あの言葉を思い出すと心がギュッと締め付けられた。あんな穂乃果の気持ちに気づけなかった自分が恨めしい。今までペルソナを所持していなくてもあの励ましや笑顔のお陰で自分は戦えてきたと思っていたが、それは自分の勝手な思い込みだったらしい。穂乃果だって、自分たちのようにペルソナで戦えなく傍らで傍観しているだけのことに何も思っていないことはなかったのだ。

 

 

「…ごめんな、穂乃果。お前の気持ちに気づけなくて」

 

 

 眠る穂乃果の手にそっと自分の手を乗せて悠はそう囁いた。目を覚ましていない状態でそう言うのはズルいかもしれないが、今の自分にはこれぐらいしかできない。

 

 しばらくそうしていると、下から何か作業している物音が聞こえた。どうやらもう菊花とお父さんが朝の作業を始めたらしい。それを聞いて何か閃いた悠は重い足取りで厨房へ向かう。詫びの印になるか分からないが、せめてこれくらいはしようと迫る眠気と格闘しながら悠は厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

another view(穂乃果)

 

 

「あれ……ここって」

 

 

 目が覚めると、そこはいつもの私の部屋だった。起き上がって見ると、何故か頭がぼんやりとする。確か昨日は確か遅くまでランニングしてて……そう言えば悠さんに出会って、酷いことを言ってから倒れて………そこからあんまり覚えてないなぁ。でも、うっすらとだけど…誰かが穂乃果の名前をずっと呼んで励ましてくれたような……あれは全部夢だったのかな?でも夢にしては結構リアルだったような……

 

 

「あっ」

 

 

 見ると、ベッドの横には悠さんが学生服のまま寝込んでいた。それにその傍には熱さまシートやスポーツ飲料、手には濡れタオルが握ってある。えっ?どういうこと……何で悠さんがここにいるの!?まさか…

 

 

ガチャッ

 

 

「穂乃果?起きたの」

 

「お母さん!?あ、あの……その…」

 

 あまりのことに思わず驚いたところで、お母さんが部屋に入ってきた。起きてどこかあたふたしている穂乃果を見て、いつものように溜息をついている。

 

 

「全く、倒れるまで走り込んでたんだって?そんな無茶するんじゃありません。鳴上くんがどれだけ心配してくれたと思ってるの」

 

「えっ?悠さんが……」

 

 

 って、ことは…ずっと穂乃果の傍に居て励ましてくれたのって…やっぱり悠さんだったんだ。

 

 

「あの子、ぶっ倒れたアンタを家に連れ帰ったくれた上に寝ないで看病してくれたのよ。穂乃果がこうなったのは自分の責任だって言ってね。その上、穂乃果が元気になるような朝食をって、さっき厨房でこれ作ってくれてたんだから」

 

 

 そう言ってお母さんが見せてくれたのは……前に穂乃果が美味しいって言ってたサンドイッチだった。

 

 

「悠さん………」

 

 

 そう呟いてお母さんからサンドイッチを一つ受け取って口に入れた。いつも感じる悠さんの優しい味に思わず涙が出ちゃった。私はバカだなぁ。自分が一番頑張らなきゃって思って無理して……昨日だってあんな酷いことを言っちゃって………

 

 

「何があったかは知らないけど、鳴上くんの頑張りを無駄にしたくなかったら今日は頑張りなさい。お父さんもそう言ってたわよ」

 

「うんっ!!」

 

 

 穂乃果は力強く返事をしてベッドから起き上がる。寝ている悠さんを起こさないようにとそっと忍び足で部屋のドアへ向かった。

 

 

「……………」

 

 

 ふと気になって悠さんの顔を覗き込んでみる。でも、何故か急に恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。なんだろう。いつも見ている悠さんの顔なのに何だかまともに見えないや。何でだろう、穂乃果を必死に看病してくれたからかな。あんな酷いこと言ったのに……

 

 

 

「悠さん…ありがとう。そして、ごめんね。……今日のライブ頑張るからね!!」

 

 

 

 穂乃果は寝ている悠に向かって笑顔でそう言うと意気揚々と家を出て行った。今日のライブ、見に来てくれた人たちや悠さんに最高のライブを届けるために。それと…後でまた悠さんに謝ってお礼言おう。

 

 

 

 

 

another view(穂乃果)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 生徒会室>

 

 学園祭当日のミーティングを終えてふと窓を見る絵里。窓の向こう側の空は一面を雨雲で覆われて土砂降りの雨を降っていた。この悪天候に絵里は深い溜息をついた。

 

 

「この調子だと今日はライブは中止ね。まいったわ…ラブライブ出場がかかった最後の追い込みなのに」

 

「……そうやねえ」

 

 

 絵里の呟きにそう反応した希と言えば机の上でタロットカードを並べていた。見るに今日の運勢とかを占っているらしい。

 

 

「まあ心配しなくても明日もあるし、幸い明日の天気は晴れだから大丈夫よ。それよりも今日は純粋に学園祭を楽しみましょう」

 

「………………………」

 

「希、どうしたのよ?」

 

「……何か胸騒ぎがするんよ。不吉なことが起きるような」

 

「希が言うと洒落にならないわね。大丈夫よ、何も起こらないわ」

 

 

 希の言葉を聞いた絵里はそれは杞憂だと言うようにそう言って改めて窓の外を見る。だが、激し雨が降るその景色に何故か絵里も嫌な予感を感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大降りの雨の中、傘を差しながら走って学校へ向かう悠。穂乃果の看病の最中に睡魔に負けて寝込んでしまった故か、起きた頃には既に時刻は昼前を指していた。これはまずいと急いで起き上がって穂むらを出て行ったのだ。

 

 

(確か……穂乃果たちのライブは昼からだったよな……これ大丈夫か?)

 

 

 流石にこの大雨の中でライブはしないだろう。今日がダメでも明日もあるし、ちょうど明日の天気は晴天だ。だが、一応様子だけは見ておかなくてはと思いながらやっと秋葉の交差点に着いた。それにしても、相駆らわずなのだがやけに秋葉原は人が多い。

 すると、雨が更に激しくなった。かなり大粒の雨がたくさん降っているのか、傘を揺らす力が比べ物にならないほど強い。そのせいか、見渡すと辺りが霧がかかったように視界が悪くなった。

 

 

(これはまずいな。学校に無事に行けるか?………ん、?…)

 

 

 

 

 "霧"と気になって辺りを改めて見てみる。激しく降る雨のせいで視界が悪くて見えないが人の気配がさっきよりも少なくなったように感じた。否それどころか、この空間に自分しかいないような感覚に襲われる。

 

 

 

(この感覚は………まさか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ヨテイドオリダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 後ろから誰かがそう言われたので振り返ってみた刹那…そこに赤いコートを着た何者かが立っていた。一体何者だと問いかけようとすると、その赤コートは悠が言葉を発する前に悠を道路に押し出した。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キイイイイイイイイイイイイッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が何か凄まじい衝撃を受けたと同時に悠は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




Next chapter







『次のニュースです。本日午前11時頃、東京都秋葉原の交差点にて、暴走した大型トラックが横転する事故が発生しました。この事故により、運転手は重症、更には交差点にいた通行人が数名巻き込まれ………』







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