PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

活動報告にもありますが、先日PCの通信状況の不具合で未完成のものを投稿してしまって読者の皆様に混乱を与えてしまいました。大変申し訳ございませんでした。

改めてお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

至らない点は多々あり、皆さまにご迷惑をかけてしまうことが度々ある自分でありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援してもらえたら幸いです。


それでは本編をどうぞ!


#52「Seniors ban」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

 

……………聞き慣れたメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 目を開くと、自分はいつもの場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した不思議な空間。この場所は【ベルベットルーム】。精神と物質の狭間にある、選ばれた者しか入れない特別な空間。

 

 

 

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 

 

 

 いつもの場所にこの部屋の主のイゴールの従者であるマーガレットが座っていた。そして、その向かい側には珍しいことにその妹のエリザベスが座っている。あの奇怪な老人は今回も留守のようだ。

 

 

 

 

「先日はお疲れ様でした。貴方が新たに育んだ絆によって、また呪いで封じられていたアルカナがたくさん解放されたわ。【隠者】【刑死者】【悪魔】【運命】【道化師】。一度にこんなにも………」

 

 

「フフフフ……大変すばらしきことでございます」

 

 

 

 

 マーガレットはペルソナ全書を開き、新たなアルカナが多く追加されたことに恍惚とした笑みを浮かべていた。それはエリザベスも同じなのか、姉と同じくそんな笑みを浮かべていた。

 

 

 

「前にも言ったと思うけど、貴方は彼の地のようにあの子たちと言葉を重ね、多くの絆を築いてきました。今後更に言葉を重ねて互いの理解が深まれば、今まで以上の力が生まれるはず。あの時とは違う……それ以上の力をね」

 

 

 

 マーガレットはそう言うとペルソナ全書をそっと閉じた。あの時以上の力……それは一体どんなものなのだろうか。だが、それは事件を追うにつれて分かるかもしれない。とりあえずこれで今回は終わりかと思っていると、エリザベスが徐に立ち上がって悠に顔をずいっと近づけてきた。

 

 

 

 

「それはさておき、鳴上様の世界ではもうじき夏というものが到来されるようでございますね。人を解放的にさせ、心も身体もパンションもありのままに曝け出す魔の時期……"夏"。この機会にあの子たちとの仲を更に進展されてみては如何でしょう?最も、選択肢を間違えれば人生のデッドエンドまっしぐら~でございます」

 

 

 

 

 何やら不吉なことを言ってきたエリザベス。自分はどこぞのノベルゲームの主人公ではないのだが。そう思った途端、話は以上だと言うように視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトンッガタンゴトンッ

 

 

「………んっ」

 

 

 ベルベットルームから出て目が覚めると、自分はとある電車の車内にいた。目の前には愛しの妹であることりがいるのだが、心なしか顔が少々不機嫌に見える。それに余程疲れていたのか、横になって寝ていたようだが……なんだろう、この頭に感じる安心感溢れる柔らかい感触は。

 

 

「あっ、起きたんやね。悠くん」

 

 

 頭上から声が聞こえたので見上げてみると、そこには子供を見るかのように優しく微笑む希の笑顔があった。あまりの事態に悠はフリーズしそうになったが、改めて状況を把握してみる。よくよく見てみると、自分は希の太ももに頭を預けて寝ていたのだ。つまり……

 

「ウフフフ、悠くんそんなに顔を赤くせんでもええんやない?」

 

 希が悪戯っぽく笑ってそう促すが、これ以上このままでいるとまずい気がしてきたので、慌てて起き上がった。見てみると、自分の横には希、向かいの席からはことりと花陽が不機嫌そうな顔でこちらを見ている。隣の席では穂乃果たちがトランプをして遊んでいた。

 

「あっ!悠先輩、起きたんだね」

 

「あ、ああ…」

 

「ああっ!違う違う……え、えっと……ゆ、悠……さん?う、海が綺麗だよ?」

 

「??」

 

 穂乃果の発言に悠は首を傾げてしまった。今"悠さん"と呼ばなかったか?はて、今まで穂乃果は自分のことを"悠先輩"と呼んでいたはずだが。それに何故か喋り方もぎこちない気がする。すると、そんな2人の様子を見て絵里が口を挟んできた。

 

「もう、そこは"悠"か"悠くん"でしょ?穂乃果」

 

「だ、だってぇ~"悠"って馴れ馴れしいし……絵里せんぱ……絵里ちゃんと違って抵抗が……」

 

「今更何言ってるの?希やことりの次に馴れ馴れしくしてるくせして」

 

「そうだよ!穂乃果ちゃんは希せんぱ……希ちゃんの次に要注意人物なんだからね」

 

「ことりちゃん!?そんなこと初めて聞いたよ!?要注意人物ってなに!?」

 

 自分を名前呼びしようとして困惑する穂乃果たちを見て悠は更に首を傾げた。一体どうしたのだろうと考えていると数秒後にポンと思い出した。

 

 

 

 

 あれは確か数日前のことだったと悠は回想に思考を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日前~

 

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

「ねえねえ凛ちゃん・花陽ちゃん、林間学校どうだった?」

 

「もちろん楽しかったにゃ~!大自然に囲まれた中でみんなでお料理したりテント張って寝たりして」

 

「私たちの班は真姫ちゃんが主導でカレー作ったんですよ。とっても美味しかったぁ」

 

「ちょっ!それは言わなくていいでしょ!」

 

「ええっ!あの真姫ちゃんが!?」

 

「あのって何よ!?」

 

「だって真姫ちゃん、お嬢様だから料理できないのかなって思って」

 

「わ、私だって……料理くらいするわよ」

 

「へえ~、真姫ちゃんも料理に目覚めたんやねぇ」

 

 とある日の練習でのこと。休憩中に穂乃果たちは先日行われた一年生対象の林間学校の話題に花を咲かせていた。3人の様子を見る限り、とても楽しい時間を過ごせたようだ。それに真姫も先日の特訓の成果が発揮出来たようなので、料理の師匠として悠は心の中で嬉しく思っていた。

 一年生組の話を聞いて楽しそうと言わんばかりに穂乃果はうっとりしている。

 

「良いなぁ~穂乃果も林間学校行きたかった~~!」

 

「穂乃果は去年行ったでしょ」

 

「あっ、そう言えばそうだった。あはははは」

 

「全く…」

 

 穂乃果や海未、ことりの2年生組も去年の林間学校を思い出しているのか、嬉しそうにその時の思い出を語り合っていた。そんな彼女たちの様子を眺めていた悠は思わず遠い目をしてしまう。

 

「悠くん、どうしたん?遠い目をして」

 

「嗚呼……穂乃果や真姫たちが良い思い出になる林間学校を過ごせて良かったなぁって」

 

「???」

 

 そう言う悠の脳内では去年の八十神高校の林間学校を思い出していた。あの必殺料理人たちが錬成した物体Xの味・完二の女子テントへの特攻・水着を褒めただけなのに川へ突き飛ばされた水浴びetc………思い出せば思い出すほど切なくなってくる。そして、凛たちの林間学校の話を聞くと自分たちと同じ目に遭わなくて良かったと思えてくるのだ。あんな思いをするのは自分たちだけいい。

 

 

「そうだ!何でこんな良いこと思いつかなかったんだろ?」

 

 

 すると、海未たちと林間学校の話をしていた穂乃果が何か閃いたようにそんなことを言ってきた。

 

 

 

「合宿に行こうよ!」

 

 

 

「「「「はっ?」」」」」

 

「合宿だよ!合宿!!たまには違った環境で練習するのもいいじゃん!最近暑いから海行きたいし」

 

「そっちが本命だろ?」

 

 指摘はさておき、穂乃果の唐突な提案に一同は思案顔になる。確かに穂乃果の言うことも一理ある。秋葉原ライブを成功させ、ラブライブへの道をまた一歩進めた自分たちだが、まだ選考までに一か月ぐらいある。これを機にそう言う形で身を引き締め直すことも良いかもしれない。だが、問題は

 

「一体どこに行くんですか?」

 

 合宿場をどこにするかということだ。穂乃果はそれには考えがあると言うようにドヤ顔になる。

 

「稲羽に行こうよ!悠先輩が言ってた七里海岸ってところで海水浴したいし。陽介さんたちも誘おうよ」

 

 予想通りの答えだった。だが、

 

「悪いが今八高はテスト期間中だ」

 

 今あっちに行ったら陽介たち低空飛行組の成績がもっと悲惨なことになるだろう。夏休みに補習で一緒に過ごせませんでしたというのは止めて欲しいので、それだけは絶対に阻止しなければ。そう言う訳で稲羽旅行は夏休みまでお預けだと告げると、穂乃果はガ~ンと言わんばかりにしょんぼりした。すると、すぐにピンと何か閃いたように真姫の方を向いた。

 

「そうだっ!真姫ちゃん!!真姫ちゃんってお金持ちだから別荘くらいあるんでしょ?そこにしようよ」

 

「えっ?」

 

「ちょっと、いきなり大勢で押しかけるなんて失礼過ぎるわよ」

 

 穂乃果の唐突過ぎる提案に絵里はそう指摘する。いくら合宿のために別荘を借りたいとはいえ、いきなりそう言われては真姫の両親に失礼極まりない。

 

「いや……それが……」

 

「「??」」

 

「実は昨日ママが…いや、お母さんが合宿あるんだったらウチの別荘使っていいって。ちょうど人もいないし、鳴上さんもいるから大丈夫でしょって」

 

「「「ええっ?」」」

 

 これは予想外、まさかのOKだった。あの人はもしや未来視が使えるんじゃなかろうか。

 後日事情を聞いたところ、娘やその友人のためならこれくらいは親として当然だというコメントを頂いた。強いて言うなら更なる作戦として娘と悠の仲を進展させるためのイベントを用意したという意図があることは本人は知らない。

 何はともあれ、これで場所も確保できたし合宿は行える。それを確信した一同は一気にテンションが上がった。

 

「一応叔母さんに話を通しとく」

 

「そうね。じゃあ、理事長の許可が下りたら行きましょう。ちょうどこの機会にやっておきたいこともあったし」

 

 絵里はそう言うと悠に意味深な笑みを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数日後〜

 

 

 

「「先輩、禁止!!」」

 

 

 

 何とか雛乃から許可を貰って合宿の日がやってきた。そして駅からの出発前に絵里がそんなことを皆に提案した。

 

「前から気になってたの。先輩後輩の関係って大事だけど、踊っている時とかシャドウと戦う時にそういうの気にしちゃうとダメだし。それに不平等をなくした方がいいでしょ?」

 

 絵里の言うことも一理ある。年上だからと言ってそれが絶対的に正しいということはないので、そういうことをなくすために平等な関係を築くという考えはあながち間違いではない。稲羽の時はそんなことは考えたことはなかったので悠は絵里の提案に関心を覚えた。それは悠だけでなく穂乃果たちも同じだった。

 

「確かに……私も3年生に引っ張られることがありますから」

 

「それに……確かに不平等ですよね。希先輩とかことり先輩とか……真姫ちゃんとか」

 

「「「「……………………」」」」

 

「???」

 

 花陽の言葉に反応して女子陣はチラッと悠を見る。当の本人は何のことか分からないのか、ポカンと首を傾げているが知らぬが花かもしれない。

 

「それじゃあ、今から始めるわよ。穂乃果」

 

「はい!これから気を付けます!あっ……えっと………え、絵里…ちゃん?」

 

「はい」

 

 こんな調子で他のメンバーも上級生を名前呼びを試みる。だが、皆も穂乃果同様に年上を友達感覚で接することに慣れてないのか、試しに呼んでも照れたり緊張したりとぎこちない対応をしていた。

 

「フフフ、まだまだって感じね、悠」

 

「そうだな、あや………絵里」

 

「よろしい」

 

 一瞬名字呼びしそうになり絵里に睨まれたが、名前呼びに直すと一変して笑顔になった。若干頬が赤いことになっているのは気にしないでおこう。ただ……

 

 

「………………」

 

 

 ことりだけが皆と違って頬を膨らませていることに関してもそっとしておこう。触れると何故か危険な予感がしたので。そうこうしているうちに自分たちが乗る電車がホームに到着していたので、皆はそれに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の顛末を思い出した悠は改めて車内を見まわした。

 あの絵里からの先輩禁止令が発令されてから、皆は最初はぎこちない様子だったが、今は次第に溶け込むかのようにそういう隔たりが無くなってきている。"音ノ木坂の神隠し"事件やP-1Grand Prixと言った修羅場を共にくぐり抜けてきたこともあるのだろう。何はともあれ良い傾向だなと悠は思った。

 

「それにしても楽しみね。遊びで行くわけじゃないけど、こうやって皆で泊まりに行くなんてGW以来だもの」

 

「そうだな。真姫の話ではそうでもない距離らしいから稲羽の時見たく原付で行きたかったが」

 

「ダメに決まってるでしょ。音ノ木坂では原付禁止よ」

 

「一応免許は持ってるんだけど」

 

「それでもダメ!」

 

 絵里にそこまできつく言われては仕方ないと悠は渋々と引き下がった。

 それにしても何というかこうも同年代の女子から名前呼びされるのは新鮮な気分だ。名前呼びなどされたのは相棒の陽介やマリー、穂乃果や希で慣れたつもりだったが、実際に呼ばれてみると何か気恥ずかしい。千枝や雪子からも名前呼びされたとしたらこんな気分になるのだろうか。

 

「ほ、本当に楽しみにですね!なるか………ゆ、悠……さん?」

 

 だが、他の後輩メンバーはまだ異性の悠を名前呼びすることは出来ても、友達感覚で馴れ馴れしくするのはまだ難しいようだ。そんなあたふたとする後輩たちに悠は優しく微笑んだ。

 

「無理しなくていいぞ。皆が呼びやすい風に呼んでもらっても構わないし、これから慣らしていけばいい。そのための合宿だろ?」

 

 悠の優しい言葉に花陽たちはパアと表情が明るくなる。いつものそんな調子に絵里は呆れて肩をすくめてしまった。

 

「全く…悠は年下に甘いわね。それだからロリコンって勘違いされるのよ」

 

「おい、俺はロリコンじゃなくてフェミニストだって言ってるだろ」

 

「そのセリフ何回目のつもりよ。それより着いてからのことなんだけど」

 

 その後も電車が目的地に到着するまで、悠と絵里は他愛ない話や合宿の話、今後の方針についてなど、仲が良い友達のように語り合っていた。それ故か2人の距離がかなり近い。本人たちは自覚していないようだが、端から見れば仲睦まじく見えてしまう。その姿を見て、皆は思った。

 

 

 こいつが一番要注意人物ではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的の駅に到着してから歩いて数十分。ついに一行は今回の合宿の拠点となる西木野家の別荘に到着した。目の前に建つ西木野家の別荘の大きさに一同が驚愕する。

 

 

「こ、これは!!」

「大きいっ!!」

「流石お金持ちだにゃ~」

「そう?このくらい普通でしょ?」

 

 

 今までこんな家を見たことがない穂乃果たちはあまりの大きさに素っ頓狂を上げているが、真姫は大したことないと言わんばかりに平然としていた。いや大きいどころではない、まるで特捜隊メンバーでスキー旅行に行った時に泊まったペンション並みにあるんじゃないかと悠は思った。

 

 

「わあ~ひろーい!」

「こんなところ初めて見たにゃ~~!」

「ハイカラだな」

 

 

 改めて別荘の中を見てみると、予想以上のスケールにまたもや皆は驚愕した。もはや高級ペンションと言っても過言ではないほどの広さと模様。一部屋3人は入りそうなくらいだし、風呂も大浴場並みの大きさだ。

 

「まさかここまでとはな」

「ここなら歌の練習も問題なくできそうね。外じゃ近所迷惑になるもの」

「だな。防音対策もバッチリらしい」

 

 エントランスもやろうと思えば練習できる範囲はある。改めてこんな良い場所を提供してくれた早紀に感謝だ。今度なにか菓子折りでも持って行こうかと悠は思った。そんな悠の気持ちを知らずか、穂乃果たちは遠慮なしに各々の部屋でダラダラしていた。

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

「それでは、早速練習を始めましょう。これが今合宿の練習メニューになります」

 

 一旦荷物を片付けてくつろいだ一同は外に集合する。そう、自分はここに遊びに来たのではない。合宿に来たのだ。気持ちを引き締めるために、皆はいつもの練習着に着替えていた。しかし、

 

 

「ええっ!海は~~?」

 

 

 早速異議の声が上がった。

 

「えっ?私ならここですが」

「いや、海未ちゃんじゃなくて、海だよ!海水浴だよ!!早く行こうよ~~~~!!」

「そうにゃそうにゃ~~!」

「そうよ!ずっと水着でスタンバってたのに~!」

 

 文句を言う穂乃果は海に行く気満々なのか、既に水着でスタンバイしていた。同じ思いだったのか、にこと凛も水着でスタンバイしている。完全に今回自分たちが何をしに来たのかを忘れているようだ。

 

「ハァ……穂乃果たちが文句を言うだろうと鳴上先輩が……くっ、ゆ、悠さんや絵里がおっしゃってたので……本当のスケジュールはこちらです」

 

 海未は穂乃果たちがそう文句をいうのは想定内だったのか別のテロップを用意した。最初からそっちを出せと3人は思ったが、ツッコむとめんどくさいのでそっとしておいた。改めて新しいスケジュールを見てみると、

 

「えっ!?今日は遊んでいいの!?」

 

 なんと先ほどのものとは違って、今日一日は休みということになっていた。あんなに練習練習とばかり言っていた海未にしては意外だ。これに対して絵里は皆に補足する。

 

「今までμ‘sは部活の側面が強かったから、こうやって先輩後輩の垣根をなくすことも重要だと思うの。まあここまで来るのにみんな疲れてるだろうから、今日は海でリフレッシュしましょう」

 

「「「やった―――――――!!」」」

 

 今日は一日海水浴。そう告げられた穂乃果たちのテンションは一気に天元突破した。だが、そんな穂乃果たちに釘を刺すように海未は忠告した。

 

「ただし、明日はそんなあなた達を鍛え直すとっておきのメニューをこなしてもらいますからね」

 

「「「とっておき?」」」

 

「そう、それは」

 

 海未はホワイトボードをバンッと叩いて高らかに宣言した。

 

 

 

 

100km行軍です!!」

 

 

 

 

「!!っ」

 

 その内容を告げられた途端、皆はフリーズした。

 説明しよう。100km行軍とは約100kmある道のりを所持金0、飲食を禁止した中で不眠不休、自分の力のみで24時間以内にゴールを目指す"地獄のロード"とも言われる過酷な訓練なのだ。

 

「最近思ったのです。私たちはこの頃基礎体力づくりの時間が減っているのではないかと。そんなとき、昨日TVで海上保安庁の潜水士の特番を見てこれだと思ったのです。これなら今までの遅れを取り戻すどころか更に倍の体力がつくはずです」

 

 目をキラキラさせながらそう力説する海未に皆は若干引いていた。そう言えば昨日TVの特番で海上保安庁特殊救難隊の訓練生について特集されていたのを思い出した。確か最後のコーナーで訓練生は数々の試験をこなした締めとして100㎞行軍が実施されるとあったが……まさか海未はアレを見てしまったのか。

 

「い、いや…確かに体力づくりは必要だけど、そこまでする必要は……私たちはスクールアイドルであって海猿でもトッキューでもないし………」

 

 絵里はこれはやり過ぎだと皆を代表して引き気味にそう説得するが、海未はそれを一蹴する。

 

「大丈夫です!熱いハートがあれば完走できますとも!さあ、皆で目指しましょう!オレンジの光を!!」

 

「アンタだけ目指しなさいよ…………ちょっと悠、何か変なスイッチ入ってるわよ。何とかしなさい」

 

「ゆ、悠先ぱ~い!何とか言ってよ~~!」

 

「………先輩禁止」

 

「あっ」

 

 もはや自分たちの手では負えないので海未を説得するように皆は必死に悠に懇願する。すると、悠はふうと息を吐いて穂乃果の肩をポンと叩いた。

 

 

 

「みんな………諦めたらそこで試合終了だ」

 

 

 

「「「そっちじゃないよ!!」」」

 

 

「ゆ、ゆうさん………100km行軍……したいです……」

 

 

「「「のらなくていいから!!」」」

 

 

 開始早々、μ‘sのツッコミが別荘に響き渡った。まさか普段のボケとツッコミのポジションを逆転させてしまうとは。悠の天然、恐るべし。

 とりあえず100㎞行軍は流石にやり過ぎだし、自分たちだけで行うのは色々とリスクが高過ぎるので今回は止めにしてくれと説得したところ渋々と引き下がってくれた。だが、ならば夏休みに稲羽で100㎞行軍やりましょうと約束を取り付けてられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<八十稲羽 ジュネス>

 

「だああっ!全然わかんねぇ!!天城!ここ教えてくれ~!」

 

「ちょっ!アタシが先でしょ!」

 

「まあまあ、2人とも順番ね」

 

 一方で、テスト期間真っ只中の特捜隊メンバーはジュネスで必死にテスト勉強していた。受験生というのと、GWの事件を経て各々将来の目標を持ち始めたのもあって意気込みが去年の比ではない。最も学力はそれに比例していないようではあるが。

 

「うううっ……うるさいっすねぇ………俺、昨日徹夜だったんスけど……」

 

「テスト一週間前から徹夜してんのかよ。珍しいな」

 

「確かに、完二くんが徹夜までして勉強するなんてね」

 

「いや…その……息抜きで編み物やってたら朝になっちまってて」

 

「何やってんだよ……」

 

 完二も完二で空回りしているようだった。

 

「ちなみにこいつが朝まで編んでたやつで」

 

「見せなくていいから勉強しろ勉強!!ハァ…こんな時こそ悠が居てくれたらなぁ」

 

 現状の散々たる状況に陽介は頭を抱えてそう呟いた。それに教える側が雪子1人であまりに成績低空飛行の3人が教えられる側というこの構図はあまりにも不効率だ。こんな時、雪子と同等以上の学力を持つ悠がいればどんなに良かったことかと皆はため息をついた。悠と言えば、

 

「そう言えば、今日から鳴上くんたちは合宿に行くんだったよね」

 

「ああ、確か海に行くって言ってたよ。真姫ちゃん家の別荘で泊まるんだって」

 

「マジっすか!」

 

「海ということは………ちくしょう。今頃悠のやつは、穂乃果ちゃんたちの水着を堪能してんのか………」

 

 羨ましいと言わんばかりに涙を流す陽介。明らかに邪な気持ちが駄々洩れである。

 

「アンタねぇ……去年りせちゃんとかの水着見て興奮してたのに、まだ足りないっての?」

 

「当たり前だろ。俺はお前や矢澤みたいなガキっぽい感じじゃなくて、カナミンみたくボンキュッボンのナイスバディが好みなんだよ!例を挙げるとすれば、ことりちゃんや東條さん、絢瀬さんやマリーちゃんみたいな………嗚呼そう考えると、夏休みが待ち遠しいぜ!何ならまた俺が水着をチョイスしても……って、えっ」

 

「「「…………………」」」

 

 一瞬の沈黙。陽介の欲望丸出しの言葉に千枝と雪子の目はごみを見るかのようになっていた。完二は完二で何言ってるんだこの人と言わんばかりの憐みを含んでいる。そんな3人の視線にたじろいでいると、千枝がおもむろに携帯を取り出した。

 

「ちょっとこれは鳴上くんに通報だね。花村がことりちゃんに手を出そうとしてるって」

 

「いや、堂島さんの方が良いよ。速攻で現行犯逮捕してくれるし」

 

「ちょっ待て!なんでそうなるんだよ!この程度で悠や堂島さんの手を煩わせるな!」

 

「いやいや、これ重要案件じゃないっすか。あのことりに手ぇ出すって花村先輩もチャレンジャーっスね」

 

「お前らはそこまで俺を貶めたいのか!?そんなことしねえし!ていうか、ことりちゃんは従妹だからな!?」

 

 本音をポロッと言っただけで何故こんな扱いをされなきゃならんのか。自分よりもまずいつもセクハラ行為を繰り返しているエログマの方を通報するべきではないのかと反論しようとすると、陽介の携帯に着信が入ってきた。

 

 

「って、噂をすればクマ公か……もしもし………ハアっ!?なんてことしてくれたんだ、このバカクマ!!今からそっち行くから待ってろ!」

 

「ど、どうしたん花村?」

 

……あのバカクマのせいで……俺の給料が…………ちくしょうっ!!不幸だあああああああああっ!!!

 

 

 大声量でそんなことを叫びながら、陽介はクマがトラブルを起こしたらしい現場へダッシュした。あの慌てようからすると、相当なことをクマはやらかしたらしい。相変わらずの不幸体質とガッカリ具合に残された3人は同情を感じざる負えなかった。あんな調子で受験など大丈夫なのだろうか?

 

 

「ねえ千枝、今度花村くんの頭をツンツンにしてみようよ。きっと似てると思うよ」

 

「ああ、確かに似てそうっすねぇ」

 

「誰にだよ………あっ、鳴上くんにさっきのメール送っちゃった」

 

「「えっ………」」

 

 

 数十分後、陽介の元に悠から"夏休み覚悟しろ"というメールが届いたと言う。それに真っ青になった陽介が必死に謝罪のメールを何通も送る姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<海水浴場>

 

 稲羽で特捜隊メンバーがそんな時間を過ごしている最中………

 

 

「やっほーー!」

「冷たーい!」

「えいっ!」

「ああっ!やったにゃ~!」

「こら~、あんまり遠くに行っちゃだめよー!」

 

 

 水着に着替えた穂乃果たちは思う存分海を満喫していた。明日の地獄の特訓を前に思いっきり遊ぶことにしたのか、穂乃果たちは悔いがないように海を楽しんでいる。最初は読書を決め込もうとしていた真姫でさえ楽しそうに花陽たちと遊んでいるので見ていて微笑ましい。

 

「悠の水着、結構良いわね」

 

「ああ。去年叔父さんに買ってもらったものなんだ。ハイカラだろ?」

 

「ハイカラ……なの?ところで、悠は泳ぎにいかなくて良かったの?」

 

「後で行く。今はどこにことりをナンパしようとしてる輩がいないか確認している最中だからな」

 

「…誰もいないわよ。多分」

 

 陽介から送られた大量の謝罪メールを見終わった悠は海辺で遊ぶ穂乃果たちの様子をパラソルの下で絵里と共に見守っていた。何というかこう女の子が水着姿ではしゃぐ姿は目の保養になると思わず相棒みたいなことを考えてしまう。それに横には共にそんな彼女たちを見守るナイスバディの同級生がいる。悠とて健全な男子高校生なので、こんなラブコメハーレム漫画のような状況に少なからず心が軽やかに踊っていた。すると、

 

 

「だ~れだ?」

 

 

 突如、後ろから誰かに視界を手で覆われた。この色っぽい声と背中に感じる柔らかい感触は………

 

「希か」

 

「せいかーい♪」

 

 振り返ってお見事と言うように小さく拍手する水着姿の希を確認すると、悠は思わず目を奪われてしまった。穂乃果たちの水着も各々の魅力が引き出されてグッドだと思っていたのだが、悠の目に映る水着姿の希は群を抜いているかのように感じられた。決して皆より体の一部分が発達しているからという理由ではなく、更に愛しのことりよりも上という訳でもなく……などと言い訳みたいなことを考えている悠の様子が可笑しかったのか、希はクスクスと笑っていた。

 

「見事に正解した悠くんにはウチのご褒美あげるよ」

 

「ご褒美?」

 

 そう言うと希はこれ見よがしに手に持った日焼け止めクリームを見せつけた。この展開は……まさか自分の背中にこれを塗ってというラブコメとかでよくあるパターンかと悠は目を見開いた。だが、

 

 

「ウチが悠くんに日焼け止め塗ってあげる」

 

「えっ?」

 

 

 淡い期待は儚く散ってしまった。

 

「悠くん塗り忘れとったやろ?いくら男の子でも今の時期は塗らんとあかんで。最近の紫外線はとても強いから、日焼け止め塗らないと皮膚がんになりやすいって言われてるんよ?」

 

「ハァ…………」

 

 予想外の答えに何だが先走った自分が馬鹿みたいだと悠はガックシと肩を落としてしまった。希はそんな悠の様子は想定内だったのか、ニヤニヤした笑みを浮かべながら日焼け止めを塗ろうと悠との距離を詰めいく。別に自分で塗るから良いのにと思ったが、よくよく見てみるとこれはこれでまずいのではないかと思い始めた。

 

 

(ち、近すぎて……希のアレが………)

 

 

 日焼け止めを塗るのに希が接近すると距離が近づくわけで、その際に随分と実った希の胸が身体に当たってしまうのだ。希もわざとやっているのか顔がニヤニヤしているままである。止めようにもどこかそれを阻まれる。このままでは何かあてられてしまう。

 

 その時、

 

 

 

「お兄ちゃ~~~~~ん?」

 

 

 

 すると、海辺から怖い笑顔を浮かべていることりがこちらにダッシュして悠の背中に抱き着いてきた。

 

「こ、ことり?」

 

「日焼け止めならことりが塗ってあげるよ。だから、希ちゃんは海で遊んできていいよ♪」

 

「あらあら?横取りはいかんよ?」

 

「横取りしたのは希ちゃんでしょ?」

 

 そして、いつもの如くことりと希は悠に日焼け止めを塗るのは自分だと火花を散らせる。毎度のことになりつつあるが、何度見ても胃が痛くなる光景だ。これ以上ここに居てはとばっちりを受ける羽目になりそうなので、気づかれないようにそっと退散しようとすると……

 

「ゆ、悠さん!なら、私が日焼け止めを」

 

「花陽!?」

 

 今度は凛たちと遊んでいたはずの花陽が参戦してきた。最近出番がないことによる焦りなのか積極的に腕に引っ付いてそう懇願してくる。

 

「ああっ!花陽ちゃんまで!?」

「わ、私だって負けられないんです!」

「で、悠くんは誰に塗ってもらうん?」

 

 ジリジリと近寄ってくる3人。近くにいる穂乃果たちに助けを求めようにも遊びに夢中になっているし、絵里も巻き添えは嫌なのかいつの間にかその場からいなくなっていた。完全に逃げ場を失った。だが、

 

 

「あっ!なんだあれは?」

 

「「「えっ?」」」

 

「今だ!(シュバッ!)」

 

 

 悠が選んだのは逃走だった。だが、

 

 

「(ガシッ!)その手はもうウチには通じへんよ」

 

「……ですよね」

 

 

 結局手の内を読まれた希に捕まってしまった。その後、一体何があったのかはご想像にお任せします。

 

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

 

 3人から日焼け止めを塗ってもらって色んな意味で疲労困憊した悠はパラソルの下で横になっていた。おかしい。海水浴とはこんな疲れるものではなく、楽しいものだったはずだ。やっぱりハーレムラブコメなんて願っていいものなんかじゃない。思わずそんな愚痴をこぼしそうになると誰かが自分の元に駆け寄ってきたのを感じた。顔を上げてみると、そこには穂乃果がいた。

 

 

「悠さん、遊ぼう」

 

「えっ?」

 

「いいからっ」

 

 

 穂乃果は悠が呆けているのをお構いなしにパラソルから引きずり出す。いきなり外に引っ張り出してどういうつもりだと思っていると、

 

 

「せーの、えいっ!!」

 

 

ザバアアアアアアアアンッ!!

 

 

 穂乃果は海辺に着いたと思ったら、腕を振りかぶって思いっきり悠を海へ放り投げた。成すがままに投げられた悠は顔面から海に突っ込んでしまったため、鼻や口に海水が入ってしまって思わず咽てしまう。

 

「あはははは♪気持ちいいでしょ?」

 

「気持ちいいも何もないだろ。穂乃果……一体何を?」

 

「なにをって海だよ海。こんなにいい天気なのに勿体ないよ」

 

「えっ?」

 

「もう!せっかくここまで来たのに楽しまなきゃ損だよ。悠さんだって最近色々頑張ったんだから今日くらい遊んでもバチは当たらないよ」

 

 腰に手を当てて頬を膨らませてそう言う穂乃果の様子に悠は気づかされた。どうやら穂乃果はせっかくの海なのに暗くなっていた自分を心配していたらしい。やりかたはあまりに強引でひどい目にあったが、そこから垣間見えた穂乃果の優しさに悠は思わず口角が上がってしまった。

 

「そうだな、今日くらいは遊ぶか」

 

「うんっ!今日は明日のことなんか考えずに頭空っぽになるまで遊ぼうよ」

 

「それはちょっと……って、危ない!!」

 

「えっ?……きゃあああああっ!!」

 

 そう決意した直後、突然2人に大きい波が襲い掛かった。悠は穂乃果に危害がないように咄嗟に駆け寄って波から穂乃果を守る。そして、数秒のうちに波はその場から引いていった。

 

「ケホッ…ケホッ……穂乃果、大丈夫か?」

 

「あたたたた……うん。悠さん大丈………!!っ、悠さん!し、下向いちゃダメ!」

 

「えっ?下?……………あっ」

 

 そう言われても何があったのか分からないため、思わず下を向いてしまった。目に映ったのは………

 

 

 

「い、いやああああああああ!」

 

 

 

 突如、悲鳴を上げた穂乃果に強烈なアッパーを喰らって上空に打ち上げられた。そして海面に叩きつけられて視界が真っ暗になった。その直前に見えたのは波に水着を攫われたらしい穂乃果のありのままの姿だったと言っておこう。

 

 

 

 

(不幸だ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<西木野家別荘>

 

「ハァ……今日は散々だった」

 

 悠はエントランスのソファでぐで~となりながらため息をついた。そんな悠の様子を近くで見ていた真姫と絵里は苦笑いしていた。

 

「本当に散々だったわね。3人の女の子に日焼け止め塗ってもらったり、一番の後輩にラッキースケベかましたり」

 

「端から見てたら学園ハーレムラブコメの主人公みたいだったわよ」

 

「……勘弁してくれ」

 

 別にそんな肩書は欲しくない。そんなものは陽介にでもクマにでもくれてやる。それよりも真姫の言葉に棘があったのは気のせいだろうか。

 一足先に風呂に入らせてもらったり今日の食事当番のにこの料理を食べて気力が戻ったりと身体のリフレッシュはできたのだが、心の方はまだダメージが残っていた。ラッキーをかましてしまった穂乃果とは気まずい雰囲気になってしまったが、ご飯を食べると綺麗さっぱり忘れたのか普通に接するようには戻っていた。何か単純過ぎてそれいいのかと思ってしまったが、本人が良いと言っていたのでそれで良いかと割り切った。

 そして他のメンバーはというと、

 

 

「やった――――!凛の勝ちにゃ~~~!!」

 

「そ、そんな………」

 

 

 トランプなどのテーブルゲームではしゃいでいた。自分が負けたことが信じられないのか、海未は虚ろな目でブツブツと呟いていた。

 食事の後、凛がせっかくだから皆で花火がしたいと提案したのだが、花火なんてものはこの時期まだ売ってないし可能な場所もなかったので、その代わりとして室内でも楽しめるテーブルゲームならとまだ元気が有り余っている穂乃果たちはあのように盛り上がっているのだ。

 

「じゃあ、海未ちゃんのほむまん貰うね」

 

「ああっ!最後の一個が………も、もう一回です!次こそは」

 

 あのように賭け金は各々が持ってきた菓子類となっている。夜も遅くなるし明日のことも考えずにはしゃぐ穂乃果たちを見て自分が勝ったら即就寝するという条件で海未も参加したのだが、もうすっかり目的を忘れてゲームにのめり込んでいる。

 

「アンタ…もうそ何回目よ」

 

「海未ちゃん、完全にカモだよね」

 

「誰がカモですか!?し、勝負はこれからです!後の勝利のためなら一時の敗北は安いものです!」

 

 この発言から察する通り海未はもう何回も負け続けている。証拠にもう賭け金のお菓子があと一個しかない。海未はそれを勢いよくバンッとペットしてカードを手に宣言した。

 

「行きますよ!盟○に誓って(アッ○エンテ)!」

 

「「○約に誓って(○ッエンテ)!!」」

 

 何故か某小説の宣言みたいなのが聞こえた気がするがそっとしておこう。それよりも海未が段々追い込まれて泣きそうになっているので何だか見ていられなくなってしまった。

 

 

「ちょっと一肌脱いでくるか」

 

 

 海未を助太刀するために悠もゲームに参加して、海未の賭け金(残っていたお菓子)を全て取り戻した。その際海未にとても感謝されて逆に泣き出してしまったので、宥めるのに時間がかかってしまい周りから冷たい視線を受けたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………眠い)

 

 ようやく就寝時間になって悠は床に入った。穂乃果たちは修学旅行や林間学校のようにみんなとエントランスで雑魚寝するらしい。その時悠も一緒にどうかと誘われたが、流石にそれは色々とまずいので空いている部屋で寝させてもらうことにした。穂乃果は心底ガッカリしていたが、これが正解だ。

 今日は色々あり過ぎて疲れた。明日に備えて早く寝ようと悠はそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、事件はその後も起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 眠りについて数十分後、部屋のドアを激しく叩く音に目を覚ましてしまった。

 

……うるさい

 

 誰が来たかは知らないがこんな時間に何なのだ。今は疲れてるし明日は練習なので寝かせてくれ。そう言わんばかりに悠は耳を塞いでやり過ごそうとする。だが、

 

 

 

 

「「だ、ダレカタスケテェェェェェェェェ」」

 

 

 

 

「!!っ」

 

 突如ドアの向こうから花陽と凛の悲鳴が聞こえてきた。これには流石の悠も意識が覚醒する。一体あっちで何かあったのか。もしや不審者が入ってきたのか。そうとなれば容赦はしないと悠は部屋から飛び出した。

 

 

「こ、これは………」

 

 

 急いでエントランスに入って確認すると、そこには奇妙な光景が広がっていた。月明かりが照らされているエントランスに敷かれたたくさんの布団の上に穂乃果たちが気絶しているのだ。極めつけは、皆顔の上に枕が乗っていることだった。それを確認した悠はふとある出来事が脳裏でフラッシュバックした。

 

 

(まさか……)

 

 

 

 

 

 

ウフフフフフフフ……何をしてるんですか?………悠

 

 

 

 

 

 

 

 階段の方から不気味な声が聞こえてきた。恐る恐る見てみると、そこには不気味な影があった。それを確認した悠は思わず驚愕する。あれはGWで悠を苦しめた機嫌が悪くなった時の海未だ。

 

 

こんな夜遅い時間に女子が寝ているところに侵入ですか?なんてハレンチなことでしょう……明日は早朝から練習だというのに…………

 

 

 満月を背に不気味にそう微笑む海未に戦慄してしまう。その姿はまさに形あるシャドウを彷彿させた。また降臨してしまったのかと悠は思わず後ずさる。あの時に襲い掛かってきた緊迫感とその事後で皆に見つかった時の恐怖を思い出したのか、弾丸(まくら)を投げようにも足がすくんで動けない。

 

 

 

 

ハレンチな人は………滅殺でぐふっ!

 

 

 

「!!っ」

 

 

 海未が悠に向かって弾丸(まくら)を投げつけようとした寸前、海未は糸が切れた人形のように気絶した。一体何が起こったのだろう。しかし、それをやった張本人は海未の背後にいた。

 

 

「ことりっ!」

 

「えへへへ~♪」

 

 

 正体は穂乃果の横で気絶しているはずのことりだった。まさか気絶してたフリをして機会を狙っていたようだ。それで兄の絶対絶命の時にやってくれるとは流石は我が妹と改めて感心した。ご褒美としていつもより頭を撫でであげると、とても気持ち良さそうにはにかんでいた。やっぱりいつも最強なのは可愛い妹の笑顔であると、悠は心が洗われたように自然と笑みを浮かべていた。

 

 とりあえず気絶している穂乃果たちを各々の布団へ戻すことにする。みんな寝間着だったので少々目のやり場に困ったりしたが何とか布団に入れる。夏間近とはいえ夜や朝はまだ冷えることもあるのでこれで風邪を引くことはないだろう。さて、目的も果たしたし寝るかと部屋へ戻ろうとすると、

 

 

「お兄ちゃん♡」

 

 

 ドアに手を掛けたところでことりに腕を掴まれた。

 

「ことり……頑張ったからぁ、追加のご褒美で久しぶりにお兄ちゃんと寝たいなあ」

 

「えっ……」

 

 やっと寝れると思ったら愛しの妹の甘い誘いが悠を襲った。すりすりと悠の腕に寄り添って甘い声で甘えることりに思わず受け入れそうになるが寸でで踏みとどまる。いくら何でも流石にこれはまずい。こんなの絵里などにバレたら何をされるか。それはまた今度にするとして今日のところはお引き取り願おうと説得しようする。が、その前にことりは一撃必殺技を放った。

 

 

 

「お兄ちゃん……お願い♡」

 

 

 

 結局ことりのお願いには抗えず一緒に寝てしまった。身体を必要以上に密着されたので寝るどころではなかった。

 

 

 

 

 

 こうして合宿一日目の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

 昨日の疲れが残ってまだ皆が夢の中にいる頃、悠は一人海岸を散歩していた。昨日から色々あり過ぎて身体が疲れている筈なのに何故か寝付けず早く目が覚めてしまったのだ。皆が起きるまでジッとしておくのも嫌だったのでこっそり玄関を出て海岸まで来たわけだ。

 夜明け前の海岸は静かで潮風がとても心地よかった。そして遠くまで広がっている海を見ていると、考えている悩み事がどうでも良くなる気がする。

 

 

「おはよう、悠くん」

 

 

 そんな感慨に浸っていると背後から声を掛けられた。誰かと思って振り返って見ると、自分と同じく早く起きたらしい希が笑顔で立っていた。

 

「希…どうして」

 

「ウチも早く目が覚めてな。ちょうど散歩しとったら悠くんにばったり会ったってこと。別にストーカーしとった訳じゃあらへんよ」

 

「別にそこまで言ってないけど……」

 

「まっ、早起きは三文の徳って言うし一緒にお日さまからパワーを貰おうか」

 

 そうして希は悠の隣に寄り添って海を眺めた。隣に身体を寄せられると思わずドキッとしてしまい顔を熱くなるが、何とか平静を保とうと意識を海に集中させた。

 

 

「海はええよねえ。見ていると大きいと思ってた悩みがちっぽけに思える」

 

「そうだな……」

 

「悠くんも昨日は災難やったなぁ。3人の女の子に日焼け止め塗ってもらったり、穂乃果ちゃんの裸みたり、海未ちゃんのためにゲームで無双したり……妹ちゃんと一緒に寝たり」

 

「痛っ!希……太ももを抓るの止めてくれないか?」

 

 

 どうやら希は昨夜ことりと寝ていたことなどお見通しだったらしい。その証拠に希の太ももを抓る力が強い。何だか希に隠し事はできないなと改めて思った。

 

 

「真姫ちゃんのこと、ありがとうな。本当ならウチが何かしてあげたかったんやけど、悠くんがもう何か言ってくれたみたいやね」

 

「別に………大したことはしてない」

 

 

 今度は何を言うかと思えばそんなことかと悠は思った。

 真姫のことは自分も前から薄々思っていたし、希から相談を受けてからどうやってアドバイスするか悩んだものだが、偶然にも早紀が都合よくお膳立てしてくれたから出来たことだ。例え自分何もがしてなくても希が真姫に何かしていただろう。そんなことを考えていると、希が更に身を寄り添せてきた。

 

 

 

「ウチはμ‘sのみんなが好きなんよ。それと同じくらい稲羽のみんなも好きや。だから誰にも欠けてほしくない。欠けてほしくないんよ」

 

「えっ?」

 

 

 

 希がそう話したことに悠は思わずハテナを浮かべてしまう。一体どうしたのかと思っていると、希は更に身を寄せて続きは話した。

 

 

 

「確かに作ったのは悠くんと穂乃果ちゃんたちやけど…何かある度に手助けして、お節介が過ぎてみんなに迷惑かけて逆に助けてもらったり…………陽介くんや雪子ちゃんたちも穂乃果ちゃんたちと同じようにこんなウチを受け入れてくれた。それだけに思い入れがあるんよ」

 

 

 

 大自然を前に心が解放的になったのか普段誰にも話したことがないことを語っているように見えた。エリザベスから夏は人の心もありのままに曝け出すと聞いたが、本当かもしれない。希の話を聞いて自分も何か話そうかと思った悠は海を儚げに見つめる希にこう言った。

 

 

「………奇遇だな。俺も希と同じことを考えていた」

 

 

 悠がそう言ったことに驚いたのか希は悠の顔を覗き込む。

 

 稲羽の時は陽介たち特捜隊メンバーと出会えたからあの事件も解決できたし、かけがえのない絆を得ることが出来た。音ノ木坂で穂乃果たちに出会えたからこそ忘れていた過去と向き合うことが出来た。だからこそ、自分も希に負けないくらいの思い入れがある。その大切な仲間の誰かが欠けるのは絶対にいやだ。

 

 

「俺も皆が……陽介や穂乃果たちのことが大好きだ。だから、俺もこの繋がりを失いたくない」

 

「………………」

 

 

 そう語った悠の表情は儚げで何か覚悟を決めた武士のようだった。そして同時に確信する。この男はこの先自分たちに何かあったらまた自分一人で抱え込んで解決しようとするに違いないと。自分が助けてもらったときもそうだった。今は自分も彼と同じくペルソナを持っているが、それがどこまで彼を助けられるか分からない。本当はそんな彼を止めたいが、どんなことを言っても止められないし変わらないだろう。

 そう感じた希はぎゅっと悠の腕を掴んだ。せめて自分のこの心配する気持ちを知ってほしいと言うように。

 

 

「……悪いな、少し話し過ぎた。このことは穂乃果たちには内緒にしててくれ。希のことも内緒にしておくから」

 

 

 そんな希の気持ちを知って知らずか、口に人差し指を当てて笑顔でそう言われてはズルいと希は思った。こういう天然な人タラシのところも変わらない。

 

 

 

 

「……本当に読めん人やなぁ悠くんは。でも、ウチはそんな悠くんのことが…………」

 

 

 

 

ザザアアアアアアアッ

 

 だが、それ以降のことは波の音にかき消されて聞こえなかった。でも、希が何を伝えたかったのかは容易に想像できた。それ故か思わず希を見つめてしまう。

 

 

 

「「………………………………」」

 

 

 

 お互いを見つめ合う2人。何故か自然と心と体が熱くなる。別段今はそれほど気温は高くないはずなのに。たった今水平線から顔を出したお日さまのせいだろうか。そうだったとしても、自然と希から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

「希……」

「悠くん……」

 

 

 

 

 

 

 そして、2人は吸い込まれるように徐々に距離を近づいていく。そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何やってるのよ!希いいいいいいいっ!!」」

 

 

 

 

 

 触れるか触れないかという所で背後から誰かに羽交い絞めにされ引き離された。突然のことに驚いて見てみるとそこには、

 

 

「ま、真姫!?にこ!?」

 

 

 割って入ってきたのは真姫とにこだった。どういう訳か2人とも妙に据わった目で希を睨みつけている。

 

 

「希ぃぃぃ?今のはどういうことかしら?」

 

「う~ん?真姫ちゃんのいうことはさっぱりやなあ」

 

「アンタねぇぇぇぇ!!」

 

「痛い痛い痛い痛いっ!!にこ、俺に当たるなっ!」

 

「アンタも同罪よ!この女たらし!!」

 

 

 にこに腕をつねられて悶える悠。希はあっけらかんとしているがまるで浮気の現場を押さえたみたいな雰囲気にただただ恐怖しか感じない。さっきまでの熱くなっていたのに急に寒くなった気分だ。すると、更に人の気配がしたので振り返ってみると他のメンバー全員がいた。

 

 

「ど、どうしたんだ?みんな……」

 

「朝起きたら希ちゃんがいなかったから気になって」

「お兄ちゃんが横にいなかったから……まさかと思って」

「外に歩きに行ったのかなって思って探しに行ったのよ」

「私も絵里ちゃんに同じです」

「凛もかよちんと同じにゃ」

 

 

 どうやら悠が外に出ていたことは皆気づいていたらしい。それで心配になって探しにきてくれたのだろう。だがもしかして……今までの希との会話を聞かれてはないだろうか。聞かれていたとしたらとても恥ずかしい。しかし、それは杞憂に終わる。何故なら

 

 

「まさか朝から破廉恥なシーンを見せられるとは思ってませんでしたけどね……」

 

「そうよねえ………」

 

 

 真姫とにこと同じくそういう海未と絵里の目は据わっていたのだから。2人のそう発言したのを合図に他の皆の視線も鋭くなる。ことりに関してはもう目のハイライトが消えていた。

 

 

 

「さて、今何をしようとしていたのか説明してくれるわよね?悠?」

「ゆ、悠さん……話してくれるよね……?」

「お兄ちゃん……正直に話した方が身のためだよ?」

「全部話すまで終わると思わないでね」

「早く練習したいですしね」

 

 

 

 さっきのことについて追及しようとする皆の目が本気だ。それに今まで苦笑いで傍観を決め込んでいた穂乃果まで食いついてくるとはどういうことだ。予想外のことが立て続けに起こったので上手い言い訳を作ろうにも頭が回らない。このままの理論武装ではまずい。どうしたら良いのかと頭を抱えそうになったその時だった。

 

 

 

「逃げよっか、悠くん♪」

 

「えっ?」

 

 

 

 希は悠を見てそう微笑むと悠の手を取って明後日の方向に走っていった。これは……まさかの逃走!?

 

 

「あっ!?逃げた!?」

「何か駆け落ちしようとしてるみたいだにゃ!」

「こら――、待ちなさい!!」

「逃げられると思ったら大間違いよ―――!」

「お兄ちゃんを返せ――――!!」

 

 

 まるで駆け落ちしたカップルを追いかけるように凄い形相でこちらに向かってきた。あの調子だと捕まったら何をされるか分かったものじゃないので、悠は希の手を離さず懸命に走る。ここは砂浜で足が砂にはまったりして走りづらいはずなのだが、あちらは何事もないようにどんどん距離を詰められていく。やばい、このままエリザベスが言っていたデッドエンドになんてなりたくない。身体にそう言い聞かせて懸命に悠は砂浜を走った。

 

 

 その努力虚しく悠は追いつかれてしまい、皆が納得のいくまで絞られた悠であった。悠は走るのに夢中で気づいていなかったが、こんな危機的な状況であるはずなのに隣で一緒に走る希の表情はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 そして、その後海未の主導の元に練習に打ち込んだ一同。こうして様々な波乱が巻き起こった合宿は終わりを告げ、より一層絆を深めたのであった。

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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「ラビリスが来るまでやらないと」

「燃えてしまえ何もかも……」

「ことり・悠くん、ちょっと話が」

「これは……」





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