PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

まさかP3DのDLCでこの作品でも登場しているラビリスと皆月が出るとは思わなかった………荒垣さんが出ると思ってましたが、これはこれでやるべしですね。


お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・評価をくださった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは本編をどうぞ!


#50「Wonder Zone ~another story~ 1/2」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 床も天井も全てが群青色に染め上げられている。リムジンの車内を模したいつもの場所、【ベルベットルーム】。精神と物質の狭間にある選ばれた者しか入れない空間。

 

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 

 いつもの場所でいつもの台詞を口にしたマーガレットはテーブルの上に5枚のタロットカードを展開した。

 

 

「これらは貴方が呪いから解放させるかもしれない絆……【隠者】【刑死者】【悪魔】【運命】【道化師】………また一度にこれだけのアルカナを解放されられるかもしれないだなんて………ああ、あの時と同じ胸の高鳴りを感じるわ。本当に貴方は私の思った通りの人ね。こんなことをあの子たちが聞いたら……どう思うかしら?……フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――時は悠がにこの邪拳を喰らった数時間後まで遡る

 

 

 

 

 

トントントントン

 

 

 

 

 目覚めると、自分はソファで眠っていた。何というか、少し身体中に痛みを感じる。まるで誰かに殴られたような。それと鼻孔を刺激する美味しそうな香りがする。ふと台所を見てみると、

 

 

「あ、絢瀬?」

 

 そこには絵里がエプロンをつけて料理をしている姿があった。悠の声に気づいたのか、絵里はこちらに顔を向ける。

 

「あら?起きたのね、鳴上くん。それと絢瀬じゃない、絵里よ」

 

「は…はあ………」

 

「お腹空いてるでしょ?ご飯できてるわ」

 

 絵里は悠を見てそう言うと、テーブルを指さす。そこを見てみると、絵里が作ったらしいホカホカのカツ丼が置いてあった。何故かカツ丼を見た瞬間に嫌な予感がしたのだが、空腹に勝てなかったので頂くことにした。

 

「いただきます」

 

 自分のために作ってくれた絵里に感謝して、悠はカツ丼に箸をつけた。予想通りと言うべきか絵里特製のカツ丼は美味であった。このカツの上げ具合はちょうど良く、卵もフワフワに仕上がっている。流石は絵里だと思いながらカツ丼を搔き込んだ。走り出した箸が止まらない。そう思っていると、あっという間に完食していた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さま。それじゃあ後は頼んだわよ、希」

 

「えっ?」

 

 絵里がどこかにそう言うと、近くのドアが開いた。そこから登場したのは、希であった。心なしか雰囲気がどこか怒っているように見えたので、悠はドッと冷や汗が出る。

 

「の、希?どうしてここに」

 

「ずっとドアの向こうでスタンバってたんよ。それはそうと、ウチの質問に答えてもらうよ」

 

 希がそう言って向かいの椅子に座った途端、部屋に何故かどこかで聞いたことのある緊迫感溢れるBGMが聞こえてくる。見ると、絵里が部屋の隅でラジカセをいじっているのが見えたが、ツッコむと面倒なのでそっとしておこう。それに今の希の様子から余計なツッコミは死を意味する。

 

 

 

「この1週間、悠くんはどこで何をやっていたの?何のために動いていたの?ウチの電話もメールも無視して」

 

 

 

 BGMと共に希がそんな直球な質問をぶつけてきた。やはり本題はそこかと悠は状況を把握する。絵里がカツ丼を用意したのもそのためかと今さながら察した。それに、ここ数日やけに着信やメールが多かったのは希だったのかと今更気づく。これはまずい、非常にまずい。何とかしなければと混乱してダンマリしている様子を何か黙秘していると捉えたのか、隅っこで待機していた絵里はここぞとばかりに畳みかけた。

 

「私が思うに、オープンキャンパスが終わってから貴方に掛かってきた電話。アレがキッカケじゃないかしら?」

 

 絵里の指摘にビクッと身体を震わせてしまう。悠のその反応を見て絵里はやはりそうかと確信する。すると、希は更に圧を高めて悠に詰め寄った

 

 

「さあ、全てを話して。ウチの機嫌が悪くならない内にね」

 

 

 希の表情を見て悠は察した。これは……相当ご立腹であると。下手したら終わる。まるで浮気の嫌疑をかけられた夫のような心情になりながら、悠は俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 

―――貴方は…囚われ……予め未来を閉ざされた囚われ………これは極めて理不尽な現実…………逆転の鍵は全てが始まった一週間前のこと……思い出して………彼女たちのために…………

 

 

 

 

 

(いや…そこまで被せなくていいですから。ファンに怒られちゃうから)

 

 

 悠は突然脳裏に聞こえてきた声にツッコミを入れる。ともかく、ことりのみならず他の仲間たちに随分と心配をかけたようなので、悠はこの一週間にあったことをありのまま語ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院3年C組"鳴上悠"

 

 

これは、オープンキャンパスが終わってすぐに彼が駆け抜けた激動の数週間の記録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルベットルームから目覚めると、何か手に柔らかい感触があった。何かフニフニしていて気持ちいい。こんなものがこの世にあっただろうか。しかし、それを触る度に誰かの艶めかしい声が聞こえてくる。まさかと思いつつ悠は恐る恐る目を開けてみる。

 

「あっ………………」

 

 目を開けると、そこには顔を赤くして身体を震わせている寝間着姿のことりの姿があった。見ると、自分の手はことりの胸を鷲掴みしている。つまり………

 

 

「あ、あの……これは」

 

 

 

「い、いやあああああああ!!」

 

 

 

「ぐほっ!」

 

 

 

 

――――この朝の出来事……妹の渾身の平手打ちが激動の数週間の幕開けとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…………」

 

 

 

 放課後、浮かない表情のまま悠は学校を出た。朝にあんなことがあってから、ことりとは顔おろか口も聞かず、気まずいまま一日を過ごしてしまった。とりあえず今日は別件があるので練習は休むと言っておいたが、このまま気まずいままでいくのは良くない。何かこの状況を改善できるものはないかと電車に揺られながら考えている。だが、そうこうしているうちに電車は目的地にたどり着いた。

 

"巌戸台駅"

 

 辰巳ポートアイランドの玄関口の一つであり、今回の待ち人の待つ場所である。先日、オープンキャンパスが終わった後、悠の元に桐条グループの美鶴から電話が掛かってきたのだ。何でも悠に聞きたいことがあるらしく、今日の放課後に辰巳ポートアイランドに来てほしいとのこと。そのために今日は練習を休んでここに来たのだ。

 

 

「鳴上く~ん!こっちだよ~!」

 

 

 巌戸台駅の改札を出ると、先日の事件で世話になった風花が出迎えてくれた。どうやら悠が到着するのを待っていたらしい。そこまでしなくてもいいのにと思いつつ、悠は風花に手を振ろうとすると

 

 

「あれ?」

 

 

 ふと見ると、改札付近で重たい手荷物を抱えている白髪の老人がいた。相当荷物が重たいのか、表情が辛そうだ。そんな老人がいるのに、周りの人たちは老人を無視している。

 

「風花さん、すみません」

 

「えっ?鳴上くん?」

 

 それを見かねた悠は風花に断りを入れて、老人に駆け寄った。親の遺伝か知らないが、困った人を放ってはおけない性格である悠。自らの用事よりも目の前の人を優先してしまった。

 

「あの…大丈夫ですか?良かったら近くまで運びましょうか?」

 

「んん?おおっ!良いのかい?ちょっと重いが」

 

「いいえ、これくらいは……おっと」

 

 老人は悠が手伝いを申し出てくれたのが嬉しかったのか、喜ばしそうに悠に荷物を預ける。老人が持っていた荷物はたくさんの本が入っていてそれなりに重かったが、運べないものではなかった。

 

「流石は月光館学園の生徒さんは紳士じゃのう。ふぉっふぉっふぉ」

 

「あの…俺、月光館の生徒じゃなくて音ノ木坂学院の生徒なんですけど」

 

「へっ?」

 

 これが後にご厄介になる【北村(きたむら)文吉(ぶんきち)】という老人との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~ちょうど古本市に行って色々買い過ぎてしまってのぉ。荷物が重くて困ってたんじゃが助かったわい。ありがとよ」

 

「いえいえ、これくらいは当然ですよ」

 

「私も、いつも文吉さんにはいい本をたくさん紹介してもらってるますから」

 

 結局この文吉という老人の知り合いらしい風花も手伝って、荷物を運ぶのに付いてきてしまった。着いた場所は巌戸台商店街にある【本の虫】という古本屋だった。そう言えば、ことりが辰巳ポートアイランドにある古本屋の本で料理を勉強したと聞いたが、それはここなのではないだろうか。そう思っていると、

 

「いや~ありがとうよ、お2人さん。お礼に菓子パンを持ってくるから、ちょいと待っておくれ」

 

 文吉さんはそう言うと、いそいそと店の奥へと消えていった。別にいいのにと思いつつ、2人は文吉を待つことにした。すると、

 

「やっほ~い文爺、遊びに来てるよ」

 

「おおっ!音子ちゃん、久しぶりじゃのう」

 

「だから音子じゃなくて、ネコだってば!」

 

 奥から女性の声が聞こえてきた。店内にちょうど一人客が来ていたようだ。そっと覗いてみると、そこにはどこか喫茶店の店員さんみたいなエプロンを着ており、顔はこう言っては何だがネコっぽい女性がいた。文吉の娘さんだろうか?しかし、何というかどこかで見たような感じがする。そう思っていると、ふと誰かに肩をちょんと叩かれた。

 

 

「鳴上様、風花さん」

 

 

「「うお(きゃあ)っ!」」

 

 突然誰かに声をかけられたので驚きながらも振り返ってみると、そこにいつの間にか自分たちの傍にスーツ姿のアイギスがいた。

 

「あ、アイギスさん……何でここに?」

 

「到着が遅いので、迎えに来たであります。さあ、参りましょう」

 

 アイギスは悠の質問にそう返すと、2人の手を握る。その瞬間、風花が冷や汗をかいたのが見えたので悠は嫌な予感を感じたが、それは的中することとなった。

 

 

「オーバー…130㎞/hであります!」

 

 

「「うわ(きゃ)ああああああああ!!」」

 

 

 対シャドウ兵器ならではのスピードで加速するアイギス。そのスピードで連れ去られた悠と風花は押しかかるGに悲鳴を上げながらもその場から去って行った。

 

 

「おお?あの鳴上って少年、もう行ってまったのかい?せっかくのとろけるクリームパンだっていうのに………」

 

「んん?……鳴上?鳴上って……まさか」

 

 

 お礼も貰わないどころか何も言わずにどこかに行ってしまったと思ったのか文吉はしょんぼりしてしまった。すると、ネコっぽい女性は"鳴上"という名に何か心当たりがあるかのように反応していた。

 

 

 

 

 

 これがこの一週間、彼がこれから引き回されることになる原因たちとの出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<桐条グループ シャドウワーカー本部>

 

「アイギス……まさかフルスピードで連れてきたのか?」

 

「モチのロンであります」

 

「「……………………」」

 

「流石にやり過ぎやで……」

 

 アイギスの超特急スピードで美鶴の所へと到着した。アイギスが迎えにきてからそう時間が経ってないかと思えば、そのようなことらしい。それは風花と悠の顔色の悪さが物語っていた。2人が体験したであろうことを思ったのか、ラビリスは悠と風花に深く同情の意を示した。

 

「すみません……遅れてしまって」

 

「なに、アイギスから話は聞いている。困っている人を助けていたのなら仕方ないさ。GWでのことを考えると、君はそういう人物そうだからな」

 

 どうやら美鶴にとって悠が人助けで遅れてしまったことは承知の上らしい。ラビリスも美鶴に同意なのかうんうんと頷いていた。

 

「それで…俺に話って」

 

「ああ、そうだったな。とりあえずそこのソファにでも座ってくれ」

 

 とりあえず、本題に入ろうと悠は美鶴にそう切り出した。美鶴は思い出したようにハッとなると、悠を来客用のソファに座らせて本題に入った。

 

 

「………もう話は聞いていると思うが、このラビリスを君の学校に通わせようかと思っていてな」

 

 

 美鶴からの話は単純だった。ラビリスを音ノ木坂学院に通わせたい。本人もそれを望んでおり、是非ともその方向で進んで行きたいが、まだ少し問題点があるのでラビリスが音ノ木坂学院に転入するのはもう少し先になるということ。

 

「そこで通学するにあたって近いうちに君たちにラビリスを音ノ木坂学院周辺を案内してほしいのだが……お願いできるだろうか?」

 

 美鶴のその申し出を悠は即答でOKを出した。ラビリスが音ノ木坂学院に通うのであれば、学友になるであろう穂乃果たちと更に交流を深めておくのは悪いことではないだろうし、穂乃果たちも喜んでOKするに違いない。では、その日程はいつにするのか、どこを案内すればいいのかと色々話しているうちに、時計は既に夕飯時を指していた。

 

「もうこんな時間か。せっかくだ、もし良かったら鳴上もここで夕飯を食べて行かないか?」

 

「えっ?」

 

 突然の美鶴からの夕食のお誘い。悠は最初は遠慮しようとしたが、せっかくの美鶴からのお誘いなのでお言葉に甘えようと夕飯をご馳走になることにした。

 

 

 

 

「どうした?顔色が優れないぞ」

 

 桐条グループでの食事中、あまり浮かない表情で食事する悠に美鶴がそう問いかけてきた。普段食べたことがない料理を目の前に緊張している部分もあるが、今朝のことりとの出来事を思い返して、どうしたらいいのかと悶々と考えていたのだ。流石に頭打ちだったので、ここは同じ女性で社会経験豊富そうな美鶴に相談してみよう。

 

「実は……」

 

 

 

 

~事情説明中~

 

 

 

 

「そうか…………………そう言うことがあったのか」

 

 今朝のことを話すと、美鶴は何とも微妙な表情になりながらも少し思案顔になった。悠の【言霊遣い】級の伝達力で今朝の様子が鮮明に想像できたのか顔が若干赤い。やはりこの手の相談は無理があったかと思ったが、美鶴は何か思いついたようにこう提案した。

 

「なら、詫びの印として何か妹さんが喜びそうなものをプレゼントするというのはどうだ?」

 

「プレゼント?」

 

「そうだ。何か妹さんが喜びそうなものをプレゼントすれば、許してもらえると思うぞ」

 

 美鶴の言葉に真剣に悩む悠。何かことりを喜ばせるものはなかっただろうか。いいアドバイスと滅多に食べられない夕食を貰った悠は美鶴にお礼を言って、自宅へ帰っていった。その際、アイギスに送らせようかと美鶴から言われたので丁重にお断りしようとしたが、男子とはいえ夜道は危険だからという理由で半ば無理やり送らされた。勿論アイギスの130㎞/hのスピードで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 美鶴にアドバイスを受けた通りことりに何かプレゼントしようと悠は何をプレゼントしたらいいものかと日中考えていた。すると、昨日帰宅した時、たまたま家にいたことりが物欲しげに見ていたファッション誌のワンピースを思い出した。あれならことりのプレゼントに良いかもしれない。早速携帯でそのワンピースの情報を検索し、それが売ってるという辰巳ポートアイランドの洋服屋を訪れた悠。だが、お目当てを見つけたものの、そのお値段は悠の所持金では足りないものだった。

 

 

 

「………………バイトかな」

 

 

 

 店を出ると、悠は歩きながらどう資金を稼ごうかと思考に入る。順当に考えればまた菊花に頼んで【穂むら】でバイトするというのがあるが、それは以前雛乃にバレて注意されたので却下。その雛乃にお小遣いを前借りすると言う手もあるが、何かと怪しまれるかもしれない。さて、どこか知り合いにバレずに稼げるバイトはなにものか。そんなことを思っていると

 

 

 

 

「「きゃあああああっ!!」」

 

 

 

 

 ふと誰かの悲鳴が耳に入ってきた。何事かと思い、声の発生源を探すと目の前にあった神社の公園だった。急いで向かって見ると

 

 

 

「うううううっ……あっち行ってよ~!!」

 

「ぐうううっ……ここでアタシの天敵に会うとは…………」

 

 

 

 公園の遊具近くで犬に吠えられて怯えている小学生と女性がいた。よくよく見てみると、小学生の女の子は見覚えはないが、女性の方は最近【本の虫】で見かけたネコっぽい人。2人とも犬が余程苦手なのか、遊具に隠れながら犬の様子を伺っている。そしてその犬の方は……白い毛並みに赤い瞳、どこかで見たことがあると思ったら、以前会ったコロマルだった。それを確認した悠は溜息をつく。また乾の元から脱走したのだろう。まあ相手がコロマルなら話は早い。

 

 

 

「お~い!コロマルー!!」

 

 

 

 悠がそう声を上げると、コロマルはこちらを振り向いた。すると、悠の姿を確認したコロマルは嬉しそうに駆け寄って悠にじゃれてきた。

 

「ははは、久しぶりだな。元気だったか?」

 

「ワンワンっ♪」

 

 コロマルは久しぶりに悠と出会えたことに歓喜しているようだ。じゃれつきあいも初めて会った時とは変わらない。とりあえずコロマルが大抵落ち着いたのを見計らって、悠は乾に連絡を入れて迎えに来てもらった。

 

 

 

 

 

~数十分後~

 

 

 

 

「はぁ、何とかなったな…………」

 

「あ、あの!!」

 

 コロマルを迎えに来た乾と別れた悠。何とか一件落着したのでほっとしていると、先ほどコロマルに吠えられていた女子小学生が話しかけてきた。よくよく見てみると、その女子小学生は赤紫色のロングヘアーと黄色い瞳が特徴的だった。

 

「あ、ありがとうございました………その…助けてもらって」

 

 どうやらコロマルに吠えられているところを助けてもらったことにお礼を言いに来たようだ。悠はお礼なんていいのにと思いつつ、女子小学生に笑顔で微笑みを返した。

 

「いいさ。どういたしまして」

 

「!!っ…………それじゃあ、私はこれで」

 

 すると、女子小学生は悠の笑顔を見て赤くなりながらもそう言って去って行った。一体あの子はどうしたのだろうと思っていると、一緒にいたネコっぽい女性が悠の肩をバンバンと叩いてきた。

 

「なははは、君モテモテだね。けど、小学生は犯罪だからやめときな。ロリ王とかロリニートとか言われたくないだろ?」

 

「いや……俺はロリコンじゃなくてフェミニストなんで」

 

「なーに?、そのまるで言い慣れているようなセリフは。まっ、それはともかく助かったよ。アタシ昔からどうしても犬は苦手でさ。大人のくせに子供と一緒に怯えちゃうなんて情けないよね」

 

 女性は自虐するように悠にそう言った。もしかして似た目はネコだから犬は苦手なのだろうか?そんなことを思っていると、女性は悠をジッと見てこう言った。

 

「ところで、アンタ昨日文爺を助けてあげた"鳴上"っていう青年だろ?」

 

「えっ?そうですけど……」

 

「ああ、自己紹介が遅れたね。アタシは【蛍塚(ほたるづか)音子(おとこ)】。ネコって呼んでよ。あの文爺の息子さんとは学生時代から腐れ縁でさ。昨日、君がさっさと帰っちゃったから文爺がお礼できなかったって拗ねててね。すまないけど今回の犬の件と文爺のことでアタシからお礼させてよ。アタシの店でご馳走するからさ」

 

 そう言われては断るに断れなかったので、悠はネコさんの提案を受けて入れる。返事を聞いたネコさんは嬉しそうに喜び、悠を近くに止めていた軽トラに乗せて、どこかへ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<メイド喫茶【コペンハーゲン】>

 

「ここって……メイド喫茶?」

 

 ネコさんが連れられてやってきたのはネコさん自身が経営しているというメイド喫茶だった。ちょうど閉店間際だったのか、店内には自分たち以外誰もいなかった。何やら伝説のメイドがいるということで話題になっている場所らしいが、そんなことに悠はあまり興味がなかった。

 

「そう。前までは居酒屋だったんだけどね。うちのが何を思ったのかこうなってさ」

 

 ネコさんはキッチンで料理しながら喜々としてそう話す。前はある地方都市で居酒屋をやっていたらしいが、何でもネコさんの親父さんの気まぐれでメイド喫茶としてここに移転したらしい。その際、その居酒屋を気に入っていたらしい友人から猛反対されてガチで喧嘩になったとか。昔の知り合いが仲裁が入ったから良かったものの、下手をしたら警察沙汰になっていたかもしれないとも。何とも凄い話だなと思わず戦慄していると、キッチンから良い匂いが漂ってきた。

 

 

「はい、うちの自慢のオムライス。冷めないうちに食べな」

 

 

 ネコさんの過去を聞いているうちにお礼のオムライスは完成したようだ。見てみると、料理上手の悠から見ても中々だなと思わせる程の一品である。それでは一口とスプーンで掬って口に含んだ。味は文句なしに美味。この卵のフワフワ感とケチャップライスとのコラボが絶妙だった。

 

「美味しい。味つけを変えてみたらもっと美味しいかもしれませんね。醬油バターとか」

 

「ん?もしかして、料理出来る人?」

 

「嗜む程度に」

 

「へえ~、じゃあ今度ナルやんの調理法でも教えてもらおうかな」

 

「えっ?ナルやん?えっ?」

 

 何故か妙なあだ名をつけられてしまった。しばらく料理のことについて語っていると、どこからか携帯の着信音が聞こえた。

 

 

「あっ、アタシだ。はいはい…………えっ?マジで!」

 

 

 通話を終えるとネコさんは表情が曇り始めた。何があったのかと悠はネコさんに尋ねてみることにした。

 

「あの……どうしたんですか?」

 

「いや……料理担当のバイトの子が急に来れないって連絡が入ってね。参ったなぁ……今週は忙しいっていうのに…穴が空いちゃうとねぇ」

 

 どうやら予定していたバイトの人が入れなくなったことにより、相当深刻な問題が発生したらしい。それはネコさんの苦々しくなっている表情が物語っていた。すると、

 

 

「あの………俺、手伝いますよ」

 

 

 何となく放っておけなくなった悠は迷うことなくネコさんに手伝いを申し出てしまった。ネコさんは突然の悠の申し出に面を喰らったようだった。

 

「えっ?いいの?ナルやん」

 

「ええ。前住んでたところでも中華屋のバイトとかやってましたし」

 

 接客はあまり自信はないが、料理なら普段からやってるし愛屋のバイトも卒なくこなせたので問題ないだろう。悠の申し出にネコさんは申し訳なさそうにしながらも、お言葉に甘えることにした。

 

 

「本当はお礼だけのつもりだったのに、迷惑かけちゃって悪いね。あまり良い報酬はだせないかもしれないけど……よろしく頼むわ、ナルやん」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

 

―――――こうしてネコさんの手伝いを引き受けた悠だが、この安請け合いが更なる試練に見舞われることになるとは、この時知りようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 早速シフトに入った悠は今まで培ってきた経験を発揮する。稲羽での経験が生きたのか、掃除に洗い物に料理、何でもそつなくこなす悠。更に、もっとオムライスを美味しくできるのではということで、悠が自身の"和風の出会いショウユ系"オムライスを教えてもらったところ、これが客に大ウケで店の評判もうなぎ登りになった。

 あまりの有能さにネコさんは感嘆を覚えてしまった。出来ればこのままここのバイトリーダーとして働いてほしいという気持ちがネコさんに芽生えてきたが、それはやめておこう。話によると悠の保護者は自分の知っている()()()()らしい。勿体ないが向こうにバレたら面倒なことになる。そう思いながら仕事に没頭する。そんなネコさんの心情はを知らぬまま、悠はがむしゃらに働き続けた。

 

 

 

 

 

―――――だが、事件は仕事に慣れた数日後……仕入れの際に起こった。

 

 

 

 

 

 材料の仕入れが完了して急いでネコさんのところまで帰ろうとしたとき、道端で子供たちが大泣きしているのが見えた。

 

「うええええええん!!お母さ――――ん!!」

「どこなの――――!!お母さ――――ん」

 

 状況から見るにおそらく母親とはぐれてしまって迷子になったようだ。周りの人もその様子を見ているものの、どう止めていいか分からず傍観している。流石に見過ごせなくなった悠は子供たちに駆け寄って落ち着かせようとしたが、相当混乱しているのか中々泣き止まない。このままではまずいので何とかできないものかと思っていると、悠はふとあることを思いついた。

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

「クマトイッショニアソボウクマ~♪」

 

 

 偶々自宅の押し入れに閉まってあったクマの着ぐるみを身に纏った悠が喧嘩を続ける子供に向かってそう言った。すると、

 

 

 

ワアアアアアア

 

 

 

 大泣きしていた子供たちが泣き止んだのは良いが、何故か周りにいた子供たちもクマに寄って遊ぼうとしていた。皆とても楽しそうにしているが、子供たちは悠を押したり叩いたり抱き着いてきたりと、容赦がない。

 

 

(く、苦しい……まるで地獄のようだ………)

 

 

 去年も味わった地獄だが、悠はあの時よりはマシだと思い込み何とか耐える。そして………

 

 

「「バイバ~イ!!」」

 

 

 そんなこんなで小学生たちにもみくちゃにされること一時間。やっと子供たちから解放され、悠は着ぐるみのままクタクタになりながら去っていった。

 

 ひとまずネコさんに仕入れた材料を渡しに店へ戻ってきた。突然クマの着ぐるみが材料を持ってきたので、ネコさんはぎょっとしていたが、中身が悠だと知ると何をしてるんだと言った目で飽きられたのはそっとしておこう。それに、子供たちの相手をしてくたびれてしまったので体力もない。何となく着替えるのも面倒だったため、そのままバスに乗ってしまったのだ。バスに乗っている最中、何人かに写真を撮られた気がするが気にする余裕も気力もなかった。しかし、バス停を降りたその時、災難は起きた。

 

 

「く、クマさんってバスに乗れたんですね………」

 

「じゃないよ!ちょっと、クマさーーん!!」

 

 

 よろよろと歩いていると背後から聞き覚えのある声がした。まさかと思いつつ振り返ってみると、そこには今見つかりたくはない穂乃果たちがいた。

 

 

(な、何でみんながここに!それに何で皆ラブリーンの恰好をしてるんだ!?)

 

 

 あまりの展開にデジャブを感じる。確か去年の夏もこんなことがあったような気がする。ただ決定的に違うのは、みんなラブリーンのコスプレをしているということだ。おそらくにこの発案だろうが、メンバー全員がラブリーンってどういう状況だとツッコミたいのを我慢する。声を出しては正体がバレてしまうからだ。

 

(しょうがないが……ここはクマのフリをしてやり過ごすしかないな……)

 

ア、アヤシクナイヨ……クマ

 

「あれ?何かおかしくなりません?」

 

「声が不自然……」

 

 これもデジャブ。裏声でクマの言葉を再現しようと試みたが、逆に怪しまれてしまった。あまりの不自然さにあちらは陽介たちに電話をしようとしている。このままでは正体がバレてしまうので、ここで悠はやけくそに最終手段を取ることにした。

 

アっ!センセイ~!オヒサシブリクマ~!

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

ーカッ!!-

(今だ!デビ○バッ○ゴー○ト!!)

 

 

 皆が一瞬明日の方向を振り向いた時を狙って、悠は猛ダッシュをかました。一瞬の隙をついたので流石に彼女たちも追ってくることはないだろう。だが、念には念を入れて今日はどこかに隠れようと悠は最近見つけた秘密の隠れ場所へと向かった。

 

 

「は、速い………」

 

「まるでアイ○ールド○1みたいな速さで行っちゃったにゃ」

 

「な、何で逃げたの?」

 

ピロリン!

『犯人はあ奴ですぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……クマも……大変だ…クマ………

 

「何で君はここに来たんだ?」

 

 とりあえずもうダッシュで穂乃果たちから逃げた悠は桐条グループに身を潜めていた。突然着ぐるみ姿で訪ねてきた悠に美鶴も微妙な顔をしている。それに対して悠は平然と答えた。

 

「何となく……隠れるのにはここがいいかなと?」

 

「君はここを何だと思ってるんだ……」

 

 親交を深めたとはいえ桐条グループの本社…もといシャドウワーカーの本部を隠れ場所とするとは如何なものか。まあ何かあったのか知らないが、顔が色々と切羽詰まっていた表情をしていたので、今回は見逃そう。

 

「そう言えば、妹さんの詫びの品は考えたのか?」

 

「ええ……実は」

 

 美鶴にことりへのプレゼントのことを聞かれたので、既に検討がついていることを伝えようとしたその時だった。

 

 

「ただいま~っす。って、あああっ!お前はあの時の!!」

 

 

 誰かが部屋に入ってきた。その人物は何か素っ頓狂を上げたので気になって見てみると、見覚えのある水色キャップを被った男性がこちらを指さしていた。

 

「あなたは………ブラック……あ、伊織さんでしたっけ?」

 

「おい!今お前"ブラック企業の人"って言おうとしてただろ!!違うから!俺の職場はブラックでもないから!!」

 

 悠の言葉に猛烈にツッコミを入れる人物の名は【伊織順平】。どういう人物かは詳しく知らないが、何かと悠と遭遇しては不幸に見舞われるので、悠は相棒の陽介と似た人物と記憶している。しかし、このシャドウワーカーの本部に気軽に出入りできるということは

 

「ん?伊織と鳴上は知り合いだったのか?」

 

「はい、何度か……伊織さんもシャドウワーカーの人だったんですね」

 

「あ、ああ……お前も桐条さんも知り合いだったんだな」

 

 どうやら順平もシャドウワーカーの一員らしい。順平も悠が美鶴の知り合いだったことに驚いているようだ。すると、美鶴は先ほど順平が滑らせた言葉が引っかかったのか、低い声で順平に質問した。

 

 

「……ところで伊織。さっきの"ブラック企業"という言葉はどういう意味だ?」

 

「いいいや!その………すんませんでした!!」

 

 

 思わず口にしてしまった"ブラック企業"という言葉が聞き逃せなかったのか思わぬ気迫で迫る美鶴。美鶴の気迫に順平は怖くなって思わず土下座してしまった。すると、順平のポケットか何か一枚の写真が飛び出てきた。偶々悠の足元に落ちたので、拾って確認してみる。

 

 

「こ、これは……………」

 

 

 そこに映っていたのは………メイド姿で微笑む女の子であった。

 

 

「おっ!お前も気にったか?その写真に写っている子は、あのアキバで話題の伝説のメイド"ミナリンスキー"ちゃんって言ってよ~。この間、イベントで歌ってるところをこのカメラに収めてたんだよ。本当は撮影禁止だったんだけど……どんな壁があろうとも目的の為ならぶち破る!それが"伊織主義(イオリズム)"!ってな。なあ?良いだろう?この子?まるで天使みたいな」

 

 

 順平は美鶴の追求から逃れるためか勢いよく写真のことりについて熱く語っているが、悠はそれどころでない。順平が喜々と話をしている間、悠の頭にはネコさんのとある話を思い返していた。

 

 

 

 

 

『実はこの間ね、何気なくやったイベントでトラブルがあってさ。そのイベント撮影禁止にしたんだけど、どうも我慢できずに写真を撮ったバカがいたらしくてね』

 

『えっ?』

 

『幸いネットには流してないようだけど、どこかの店でその時の写真が売られてるって聞いてさ。うちの子のことを考えたらこの事態は放っておけなくてね。すまないけど仕入れの時に探してみてくれないかい?』

 

『分かりました』

 

『まっ、アタシとしては写真だけじゃなくて、あのバカもとっちめてほしんだけどね』

 

 

 

 

 

 ネコさんの話だと話だと、その犯人の特徴は水色のキャップにあごひげが特徴的だったという。もしやネコさんが言っていた"写真を撮ったバカ"というのは………そして、写真を撮られてしまったというメイドの子の正体は…………

 

 

「おい……この子は()()()()()()じゃないか?」

 

「へっ?」

 

 

 美鶴が写真の娘の正体を告げた刹那

 

 

 

ガシャンッ!!

 

「あああっ!俺の大事なカメラが―――!」

 

 

 

 順平が取り出していたカメラは破壊されていた。それをやったのは言うまでもない。

 

 

お前が……犯人か?

 

「ひいいいいいいいいっ!!」

 

 

 今までに見たことがない静かな怒りの表情で悠は順平に詰め寄った。

 

 

「答えろ……いえ………答えてください…………あなたがこの写真を撮ったのですか」

 

「「「……………………………」」」

 

 

 押しかかってくる恐怖に順平は身体の震えが止まらなかった。今目の前にいるのは会うたびに自分に不幸を運ぶ好青年ではなく、今にも自分を滅せようとしている狩人そのものだったからだ。助けを求めようにもこの場にいるアイギスやラビリスはおろか、あの美鶴でさえも怒る悠にビビッて動けずにいた。もうダメだ、自分は狩られる。そう絶望しかけた時、

 

 

「なんだ?騒々しい……おっ?鳴上じゃないか、元気にしてたか?」

 

 

 何とも悪いタイミングで仕事が終わったらしい明彦が入室してきた。明彦は悠が順平に襲いかかっている光景にびっくりしていたが、段々いつものことかと顔に呆れが現れ始めた。

 

「真田さん!?俺っちピンチなんすけど!!助けてくれないんすか!?」

 

「いや……助けるも何も……順平が叱られるのはいつものことだろう。今度は何を…………ん?」

 

 すると、明彦は床に落ちていた先ほどの写真を見ると、こんなことを呟いた。

 

 

 

「この写真、俺が売ったやつじゃないか?」

 

 

 

「「「はっ?」」」

 

 突然の爆弾発言に皆は明彦に視線を向ける。

 

 

「ああ、この間順平にどうかって渡されたんだが、俺が持っててもしょうがないからな。偶々通りかかった専門店に売ったぞ。ちょうどプロテインを買う小遣いがなかったからな」

 

 

 明彦がそう証言した瞬間、室内がヒンヤリとした空気に包まれた。それは今まで色んな修羅場を潜り抜けてきた明彦でさえも思わず身震いしてしまうほどに。その発生源は悠………と思われたが、実際はその後ろで事の成り行きを見守っていた美鶴であった。

 

 

「鳴上……とりあえずこの2人は私が処断しておく。君は早く妹さんの写真を回収しに行くと良い」

 

「………ありがとうございます。桐条さん」

 

「美鶴でいいぞ」

 

 

 悠が去ったのを確認すると、美鶴はホッと安堵した。今からここに繰り広げられるものはあまり学生の悠には見せたくなかったのだから。

 

 

 

「とりあえず、お前たちは………処刑だ」

 

 

 

 美鶴はそう言うと、懐にしまってあった拳銃らしきものをこめかみにセットする。それを見た順平と明彦は戦慄した。あの構えは処刑の構えだ。これまで何度も目にしてきたものなので、今から美鶴がやろうとしていることは容易に想像できた。

 

「あわわわわ!き、桐条さん!?」

 

「ま、まて!美鶴!!俺も悪気があった訳じゃ………」

 

 慌てて弁明するが、なお引き金を引こうとすることを止めない美鶴を見て逃走を試みる2人。だが、すでに出口はアイギスとラビリスに抑えられていた。これで完全に逃げ道は塞がれた。後は……刑を執行するのみ!

 

 

 

 

ーカッ!ー

「【アルテミシア】!!」

 

 

 

 

「「ぎゃああああああっ!!」」

 

 

 順平と明彦の命乞いも虚しく、美鶴の処刑は執行されてしまい、2人の断末魔が本部中に響き渡った。その様子を対シャドウ兵器2人はただ平然と見守っていた。2人がどうな仕打ちをされたのかは皆さんのご想像にお任せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

<辰巳ポートアイランド ポロニアンモール>

 

 あの後、真田が写真を売ったという店に赴き、事情を説明した上で回収した。店の人もそんな事情があったとは知らず店頭に出して申し訳ないと謝られたが、気にしないで下さいと言っておいた。そんなことがあった翌日、携帯の着信音が鳴って昨日のことで話があると美鶴に辰巳ポートアイランドに呼び出された。

 

「昨日はすまなかったな。うちの者が君のご家族にご迷惑をかけて」

 

「いえ……もう写真も回収しましたし」

 

 指定の場所に着くと、そこには今まで見たことがない恰好をしている美鶴がいた。いつもの派手なライダースーツではなく白いワンピースと長いつばの帽子。如何にもふらりと買い物に来たお嬢様と言った感じだった。

 

「一応ネットに上がっていた投稿ものともは桐条の権限で削除したが、それだけでは私の気が済まない。詫びとしてふさわしいことが出きるとは思ってないが、出来ることがあれば何でも言ってくれ」

 

 いや、既にネットに上がったものを削除してくれただけでも凄いのにそこまでもしなくても。そう思ったが、これでは美鶴が引き下がるとは思えなかったので、悠は一つお願いを聞いてもらうことにした。

 

 

 

「すみません桐条さん、こんなことして頂いて」

 

「気にするな。世話になった礼だからな。それと名前で良いって言ってるだろ?」

 

「流石に…それは」

 

「フフ、君は可愛いな」

 

 美鶴にからかわれて少し複雑な気分になる。それはともかく、美鶴に一つお願いを聞いてもらったので悠はホッと安堵した。お願いを聞いてもらったと言ってもほんの些細なことを頼んだだけなのだが、それを聞いた美鶴が"それだけでいいのか?""もっと聞いてもいいんだぞ"などと変に気遣う親戚みたいな対応をしてきたので、こちらも変な気遣いをしている気分になったのは内緒だ。少しポロニアンモールの周辺を美鶴と歩いていると、何処かから変な視線を感じだが気のせいだろうか。そんなことを思っていると、ふと美鶴がこんなことを言いだした。

 

 

「……私は君みたいな人生を歩めたのだろうか」

 

「えっ?」

 

「君が友人たちと楽しく学園生活を送っている姿を見て時々思うことがある。私がもし"桐条の娘"ではなく君たちと同じ一般人として生まれていたら、そんな生活を送れたのではないかと。私は俗世とはかけ離れた人生を送ってきたからな」

 

 

 その言葉から、美鶴の赤裸々な本音が伝わってくるような気がする。ある程度美鶴の事情を知っていると言っても、悠にはその言葉にどう返答すればいいのか分からなかったからだ。色んな意味で有名な"桐条の娘"としてどのような気持ちで人生を歩んできたかなんて、流石の悠でもその心情までは察せなかった。

 

「おっと、つまらないことを口にしてしまったな。どうも私は君には色々と話してしまうようだ」

 

「いえ、俺でよければいつでも」

 

「フフ、やはり君は"彼"に似ているな。それじゃあ、私はこれで失礼する。また何かあったらいつでも頼ってくれ」

 

 その後、美鶴はこの後用事があるらく、その場に呼んだリムジンに乗ってどこかへ行ってしまった。ただ、美鶴が呟いた"彼"とは誰のことなのか。悠はそれだけが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?鳴上くんじゃない?」

 

 美鶴と別れてどこかへ行こうとすると、ふと背後から声を掛けられた。振り向くとそこには見知っている人物がいた。

 

「に、西木野のお母さん」

 

「あらあら、そう畏まらなくていいのよ」

 

 それは出会ったのは先日もお世話になった真姫の母である早紀であった。普段白衣姿しか見ていなかったが、今日は私服だったのでどこか新鮮だ。とりあえず立ち話もなんなので、どこか歩きながら話さないかと誘われた。

 

 

「ここね、学生時代によく主人とデートしてたの。私は音ノ木坂学院だったけど、あっちは月光館学園だったから」

 

「そうなんですか。そう言えば、自分の父と叔母さんも同じだった気が」

 

「あら?そうだったの。まあ、あの時の音ノ木坂学院は女子高だったものね」

 

 他愛ない話をしながら巌戸台商店街を徘徊する2人。早紀の学生時代の話が聞けて少し意外な気分になった。ふとどこかから"人妻かよー!"と叫ぶ声が聞こえた気がするが、あまり気に留めなかった。すると、

 

「鳴上くんは今度の休日はお暇かしら?できれば貴方に頼みたいことがあるのだけど」

 

 ある程度歩いて後、ここで本題と言うように早紀がそう斬り込んできた。ここに来てまた頼まれ事とは……断ろうと思えば断れるが、そこは困った人は放っておけない悠。先日お世話になったこともあってか、早紀の頼み事を聞くことにした。

 

「俺にできることなら」

 

すると、早紀は密かにガッツポーズをして悪戯っぽく依頼内容を説明した。

 

 

「実はね、今度主人と学会に行かなきゃならなくなったの。その時、家に真姫一人じゃ心配だから、貴方に()()()()()()()()()()()の」

 

「えっ?」

 

「あの子には今度鳴上くんが家に来るからって伝えておくから。よろしくね」

 

 

 早紀はそう言うと悪戯っぽくウインクした。また厄介な依頼を受けたのなと悠は心底ゲンナリとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早紀の依頼を了承して別れた悠。そろそろ夕方になるので買い出しでスーパーに向かおうとした後、これまた知り合いと遭遇することとなった。

 

「君は……」

 

「この間のお兄さん………」

 

 それはネコさんと一緒にコロマルに怯えていた赤紫髪の女子小学生だった。心なしか、初めて会った時よりも表情が暗いような気がする。

 

「どうした?悩みなら相談に乗るぞ」

 

 流れるように相談に乗ろうとする悠。今でも結構色々問題を抱えているにも関わらず、困っている人を見過ごせないという姿勢は褒められるべきものだが、以前足立が言っていたようにかなりお人好しが過ぎるかもしれない。だが、少女の方は誰かに話でも聞いてほしかったのか、コクンと頷いた。

 

 

 

 

「私……ピアノをやってるんですけど」

 

「ほう」

 

 公園のベンチに座ると、少女は抱えている悩みを打ち明けてくれた。どうやら大好きだったピアノが今は苦痛に感じてしまっているらしい。元々何気なく始めたものだったが家族が上手だと褒めてくれたのが嬉しくて、熱心に打ち込んでいたらしい。だが、

 

「この間……発表会に出た時、私よりも上手な人がたくさんいて………自信が無くなっちゃったんです。それから…ピアノを弾くのが嫌になってきて………何なんですかね。好きだったものが重荷に感じるなんて……もしかしたら本当は……私にピアノなんて向いてなかったのかな」

 

 重々しくそう呟く少女。小学生にしてはどこか難しく考えている様子は稲羽で家庭教師での教え子である【中島秀】を思い出させた。残念ながら今の悠に彼女の悩みを解消させる言葉は持ち合わせていない。それでも悠はハッキリとこう言った。

 

「そういう時は、違うことに目を向けてみることも大切だ」

 

「えっ?」

 

「はい」

 

 悠は少女にそう言うと、いつの間にか作っていた折り鶴を差し出した。あまりの出来栄えに少女は目を輝かせた。

 

「わああ!折り紙の鶴だ~!お兄さん上手」

 

「当然だ。一緒に折って見るか?」

 

「えっ?わ、私……折り紙あんまりしたことないし………」

 

「いいから」

 

 悠にそう押し切られて少女は渋々ながら折り紙を手にした。最初は嫌々だったものの悠に教わりながら折っていくと少女の表情が徐々に明るくなっていった。

 

「わあ!初めて鶴が出来た!でも……お兄さんより上手くないなぁ」

 

 初めてにしては中々の出来栄えなのだが、本人は悠が折ったレベルを目指しているのか納得がいかない様子だった。そう落ち込む少女に悠は優しく頭をポンポンと撫でた。

 

「そう落ち込むな。また教えるから」

 

「えっ?お兄さん、また教えてくれるの?」

 

「ああ、君が上手く折れるまでいくらでも付き合ってやる」

 

「本当!!やった―――!!」

 

 悠がまた折り紙を教えてくれると言ってくれたのが嬉しかったのか、少女は明るい笑顔を見せた。そろそろ暗くなるので今日はこれでおしまいだ。別れ際、少女はこちらに手を振って笑顔でこう言った。

 

 

「またお願いします!お兄さん」

 

 

 

 

 

 こうして悩める女子小学生と秘密の約束を交わした彼だったが…………

 

 

 

「な、ななななな鳴上くんって……本当にロリコンだったの………だから菜々子ちゃんに」

 

「…………………………………」

 

 

 

 その一部始終を絵里と希にバッチリ見られていたのを彼は気づいていなかった。絵里は顔を赤らめて混乱し、希はハイライトの消えた目で淡々と写真を撮っていた。ろくに連絡も寄越さず何をしているかと思えば、こんなことをしていたのかと希は心は穏やかではなかった。しかし、また彼女たちも気づいていなかった。自分たちの他にも悠を観察していた人物がいたと。

 

 

 

 

 

 

 

「ケッ……相変わらず気に入らねえ奴だぜ………鳴上」

 

 

 

 

 

 

 

―――――彼の苦難はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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「私の青春は男っ気が無くなったのよ!」

「暗い夜道には気をつけな」

「力を貸してください!!」

「アンタの兄貴がいい例でしょ?」

「ハイカラだ」


「ありがとう……」


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