PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

最近少々キツイことが続いて大変です。新歓頑張ったのに新入生が誰も入らなかったり、レポートが上手く行かなかったり低評価を喰らったり………ですが、ご心配なく。そう言う時こそ大好きなペルソナシリーズのサントラを聴きまくったり、最近ドはまりした"生徒会役員共"をイッキ見して笑ったりして元気を取り戻しました。これからもバリバリ頑張って行きたいと思います。ちなみに私は魚見姉さん派です。

そして、今日からGW中は部活の大会で選手として出場します。なので、次回の更新はいつもより遅くなってしまうと思いますが、ご了承ください。読者の皆様も良いGWを過ごして下さい。

お気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・評価を下さった方・誤字脱字報告をしてくださった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援が自分の励みになっています。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは本編をどうぞ!


#49「Wonder Zone 2/2」

 鳴上悠は思った。

 

 

――――どうしてこうなったのだろう………

 

 

 確かに自分に非はあった。とある事情で練習に出られなかったとはいえ、一週間ずっと連絡もよこさなかった故に皆に心配をかけてしまった。にこの邪拳を喰らったことだけを除いては自分が悪いことは分かってはいる。だが、

 

 

 

「こ、ことり……お茶入ったぞ」

 

「うん、置いといて」

 

「……………あの、俺に手伝えることは」

 

「ない」

 

「……………………」

 

 

 

 

――――何故最愛の妹に反抗期に入った娘のような対応をされなきゃいけないのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~メイド喫茶での遭遇から数日後~

 

 

「秋葉原で路上ライブ?」

 

 

 メイド喫茶で皆遭遇してにこから邪拳喰らって皆にこれまで自分が何をしていたのかを【言霊遣い】級の伝達力で説明して皆に理解を得た数日後、部室でのミーティングで絵里が次のライブことでそう提案してきた。ちなみに悠があの一週間で何があったのかについては後日説明することにする。

 

 

「そう。アキバはアイドルファンの聖地。そこでのライブが認められれば、大きなアピールになるわよ」

 

 

 絵里の提案になるほどと皆は思った。秋葉原はあのA-RISEのお膝元であるが、故にそこで認められるパフォーマンスをすれば知名度も上がるし目標であるスクールアイドルランキング20位に一気に近づけるだろう。流石は生徒会長と言うべきか、大胆不敵なアイデアである。穂乃果たちも絵里の提案に乗り気になり、早速それに向けての練習に取り組もうとすると、絵里からストップがかかった。

 

「その前に……それに伴って今回の新曲は秋葉原について深く知っている人に作詞をお願いしようと思うの」

 

「えっ?」

 

「それはもちろん………ことり、あなたよ」

 

 絵里が指名したのは先日秋葉原で有名な伝説のメイド"ミナリンスキー"であることが発覚したことりだった。

 

「えええっ!?私が………」

 

 自分が指名されたことにことりは素っ頓狂を上げてしまう。ことりの反応は予想通りだったのか、絵里は何故そうしたかについて説明する。

 

「ことりはあの町でずっとバイトしてたんでしょ?そんな貴女ならあの町で歌うに相応しい歌詞を考えてくれるって思ったの。お願いできるかしら?」

 

「良いね!ことりちゃん、やってみようよ!」

 

「で、でも………」

 

 絵里や穂乃果たちからそう励まされても浮かない顔をすることり。今まで衣装を担当して、作詞など一度もやったことがないのに、いきなりやれと言われたのだから当然だろう。だが、それも予想通りと言うように絵里は微笑んでこう言った。

 

「大丈夫よ、何も一人で考えろって訳じゃないから。そうよね、鳴上くん?」

 

「………………」

 

 絵里はそう言うと成り行きを見守っていた悠に視線を向けた。あの目は言っている。

 

"色々心配かけたんだから、これくらいはしなさい。それとこれは脅しじゃなくて確定事項よ"

 

 絵里のどこかの執事を思わせる鋭い視線に悠は身震いしたが、平静を保って頷いた。絵里にそう言われなくても悠はことりに協力する気満々だったので問題はなかった。可愛い妹が困っているのなら、助けるのは兄として当然だ。早速ことりにどの方向で行くのかと聞こうとすると、

 

 

 

「…………お兄ちゃんの助けはいらない」

 

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

 

 ことりから発せられた予想外の言葉に皆は驚愕する。

 

「これは……ことりが任されたことだから」

 

「ちょっ!ことりちゃん!?」

 

 そう言うと、ことりは早速作詞に取り掛かろうとしているのか、逃げるように荷物を持って隣の部室に引き込んでしまった。そんな珍しいことりの姿に穂乃果たちは唖然としてしまったが、

 

 

「(チーン)」

 

「ゆ、悠先輩?どうしたの」

 

ことりも……反抗期に入ってしまったのか

 

 

 ことりに嫌われたと思ったのか、灰になりそうな悠の姿があった。その姿はさながら反抗期に入った娘に嫌われるお父さんを彷彿とさせた。そんなことりの急変した悠への態度を見て、希は嫌な予感を感じた。

 

 

「これは……また波乱の予感がしそうやね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日からことりの奮闘の日々が始まった。いつものように鳴上宅に訪れることなく、自宅や教室に籠って熱心に作詞に取り組んでいた。だが、

 

 

「ううっ……分かんないよぉ…………やっぱり無理ぃ!!」

 

 

 何も作詞が思いつかなかったらしく、悶々と悩む日々が続いていた。家でも学校でも何回も考えているのだが、良い歌詞が思いつかないでいる。やはりやったことがないことにチャレンジしているのだから当然と言えば当然かもしれない。

 

 

「こ、ことり……大丈夫か?」

 

 

 頭を悶々と悩ませていると、微妙な表情をしている悠がその場にそろりと現れた。本当は穂乃果と海未と影から見守ろうとしたのだが、流石に苦悩する妹の姿は看過できなかったのか、手伝いを申し出てしまった。

 

「……………………………………」

 

 しかし、そんな悠はことりは平然と無視する。

 

「あの……ことり……さん?」

 

「……………………帰って」

 

「……………………………………」

 

「ゆ、悠先輩!泣かないで!!」

 

 このように何か自分にできることはないのかと悠も穂乃果と一緒に声を掛けたのだが、一方的に断られている。追加で"お兄ちゃんは帰って"と言われると、悠はメギドラオンを喰らったかのような表情になって、穂乃果がそれを懸命に励ます姿も見受けられている。その度にことりが不機嫌に2人を睨み付けるのだが、だったら言うなと皆は思った。

 

 

 

 

 そんな日々が数日続き……

 

「南、最近どうした?しっかりしろ」

 

「はい……すみません………」

 

「鳴上くん、最近ぼおっとしていることが多いですよ。しっかりしてください」

 

「すみません………以後気を付けます」

 

 兄妹揃って職員室で怒られる姿があった。どうも兄妹揃って今回のことで授業に集中できてないらしい。ことりは良い歌詞が浮かばずに、悠は悩むことりに何が出来るのかを。だが、時が経つにつれて2人の間に溝がどんどんできつつあった。

 

「ことり・悠くん、2人ともどうしたの?最近何か変よ。何かあったなら相談に」

 

「「大丈夫(です)」」

 

「…………………」

 

「理事長!?しっかりしてください!!」

 

 その姿に流石の雛乃も心配になったが、2人とも大丈夫の一点張りで全然雛乃を当てにしなかったので余計心配になり、雛乃も仕事に集中できなくなっていった。

 

「これは……まずいですね」

 

「そうね」

 

 影から2人の様子を見守っていた絵里たちも流石にこの状況に危機感を覚えていた。2人の不調…もとい不仲っぷりは雛乃のみならず周りにも影響を受け始めている。このままでは次のライブどころではない。何とかこの状況を打破しようと、穂乃果たちは打開策を考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん………やっぱりことりには無理だったのかな………」

 

 今日も一人歌詞を考えることり。いつまで経ってもこれと言った歌詞が思いつかないので、思考が段々ネガティブになってきている。それにつまらない意地で悠に冷たい態度を取ってしまっているので、それも少なからずことりの心にダメージを与えていた。やはり自分には荷が重すぎたのか。もういっそのこと止めてしまおうかと思ったその時、

 

 

「ことりちゃん!」

 

「ほ、穂乃果ちゃん?」

 

「こうなったら一緒に考えよう!とっておきの方法で」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<メイド喫茶 コペンハーゲン>

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

「お帰りなさいませ!ご主人様☆」

「お…お帰りなさいませ……ご主人様…………」

 

 穂乃果に連れられてやってきたのは先日お世話になったコペンハーゲンだった。ここでバイトをしていることりのみならず、穂乃果と海未もメイド服を着て、接客の練習をしている。海未に至っては恥ずかしがってあまりなっていなかったが。

 

「うんうん!中々様になってるじゃない。流石はミナミンの友達だ」

 

「かっわいいにゃ~!」

 

「皆さん、とっても似合ってます!」

 

 穂乃果と海未のメイド姿を見て、店長のネコさんも満足している。3人の姿に遊びに来ていた1・3年組も穂乃果たちのメイド姿に惚れ惚れしていた。

 

「なるほど、アキバでの歌う曲を作るならアキバで考えるって寸法ね」

 

 絵里も穂乃果のアイデアに感嘆する。単純なアイデアだが、かなり理にかなっている。穂乃果にしては妙案だと他のメンバーも感心した。これならことりの歌詞作りに大きな効果を与えるだろう。

 

「すみません、ネコさん……こんなことに協力してもらって」

 

「な~に、ミナミンとナルやんお陰でここも繁盛したもんだからさ。頼みの一つや二つは聞くってもんよ」

 

 なははと笑いながら海未の言葉にそう答えるネコさん。流石はことりも慕うほどの器のでかい人物だ。この人でなくては今回のことは実現できなかっただろう。

 

「んん?ことりちゃんは分かるけど、悠先輩もネコさんに何かしたんですか?」

 

「ああ、ナルやんに初めてここに来てもらった時に私の料理を見てもらってね。その時に更に上手くなる方法教えてもらったら、これがお客に好評でさ。言うなれば今のアタシの料理はナルやんのお陰で上達したってこと」

 

「えっ?」

 

「ああっ!このオムライス、鳴上先輩の味がするにゃ~!」

 

「ええっ!!」

 

 ふとキッチンに置いてあったオムライスを口にすると、以前悠が作ってくれた"和風の出会いショウユ系"の味がした。なんとこの店の料理の味は悠のお陰で格段に良くなったらしい。なんだかんだであの兄妹はこの店にすごく貢献している。ネコさんが悠とことりを気に入っているのも納得だと一同は思った。

 

「そういえば、そのナルやんは今日はどうしたん?一緒に来てるんじゃないの?」

 

 周りを見て悠がいないことに気づいたネコさん。悠がいないことを指摘された一同はうっと表情を沈ませる。

 

「今悠くんは家にいるんやって。今日は一日勉強するって言ってましたよ」

 

「へぇ……まあ、事情は察するけどさ」

 

 この場で一番ことりが働いている姿を見たいのは、悠自身のはずなのに。どうやらここ数日のことから、自分は今のことりに邪魔だと思っているのだろう。ことりも悠がここに来なかったことを気にしているのか、顔が寂しげだった。すると、

 

「………やっぱりあっちもケアが必要ね。穂乃果、この場は任せたわよ」

 

「えっ?絵里先輩?」

 

 絵里は穂乃果にそう言うと、コペンハーゲンから出てどこかに行ってしまった。絵里の目的地に察しがついたのか、希も絵里についていく。

 

「ほら、にこっちも行くよ」

 

「ハァ!?何で私も!?」

 

「3年生組の問題は3年生で解決するもんやろ?」

 

「知らないわよ!そんなことより私は伝説のミナリンスキーを……って、分かった分かった!!行くからワシワシは止めて―――!」

 

 同じ3年生であるにこも無理やり連れて行かれました。希に引きずられて連れて行かれる姿を見て、穂乃果たちはにこを憐れと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<鳴上宅>

 

 

「何の用だ?」

 

 自宅で勉強していたらしい悠の元を訪れた絵里・にこ・希の三年トリオ。見るとことりに避けられているのが相当堪えているのか、悠の顔はやつれていた。テーブルに広げている参考書やノートを見ると、あまり勉強は進んでいないのが分かる。やはりことりのことで参っているようだ。まあ最愛の妹に冷たい態度を取られるのはシスコンには辛いだろう。自分も亜里沙に嫌われたら、絶対ショックを受けると絵里は悠に同情した。

 

「鳴上くん、本当にこのままでいいの?」

 

「……今のことりにとって、俺は邪魔らしいからな。穂乃果たちが一緒にいるなら俺は必要ない」

 

「でも………」

 

「俺が行っても……何もできないから」

 

 これは相当重症だと3人は思った。ことりのことになれば何でもやりそうなシスコンである悠がこんな調子なのだから。こうなればテコでも悠が動くことはないだろう。だが、そんな悠の反応は予想通りだったのか絵里は狼狽えることなく、勢いよく立ち上がって悠にこう言った。

 

 

 

「鳴上くん!食戟よ!」

 

 

 

「はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

「第1回、激突!μ`s対抗食戟―――!」

 

 

ワアアアアアア

 

 

 希が高らかにそう宣言するとリビングに大歓声が鳴り響いた。ちなみにこれは希の携帯から流しているもので、今流れている某料理アニメのBGMも希の携帯からだ。

 

「さあ、いよいよ始まります!記念すべき第一回のμ`s対抗食戟。実況はこの東條希が、審査員はμ`sのマスコットであるにこっちが努めるよ」

 

「誰がマスコットよ!?」

 

 マイペースに進行を進める希とキャッチコピーに異議を唱えるにこ。皆とてもノリノリな感じだが、そんな雰囲気に構わず悠は希の携帯を奪ってBGMを止めた。

 

「あっ!悠くん何するの」

 

「近所迷惑だから。それに、何でこうなった?」

 

 悠は自分が立たされている状況に困惑していた。いきなり家にやってきて、ことりの店に行かないかと説得されそうになったと思えば、この状況。思わず額に手を当てる悠に絵里はドンと胸を張って説明した。

 

「この前凛から借りた漫画に書いてあったのよ。揉めた時はゲームで決めろってね」

 

「いや…それは分かるが、何で食戟?ここは別に遠○学園じゃないだろ?」

 

「そんなことはどうでもいいの!一応言うけど、私が勝ったら観念してことりの店に行ってもらうわよ」

 

「ええ………」

 

「なに?私に料理で負けるのが怖いの?」

 

 絵里の挑発に悠はフリーズする。希はそれを見て確信した。アレは何かのスイッチが入ったと。すると、

 

 

「ふっ…臨むところだ。本気でいかせてもらうぞ」

 

 

 悠はメガネを掛け、愛用のエプロンを着用して絵里に向かってそう宣言する。そんな悠の言葉を聞いて絵里は不敵に笑った。まるで長年のライバルがつに本気をだしたと言わんばかりに。

 

「自信満々ね。言っとくけど、勉強や折り紙で私に対抗出来たからって甘く見ないことよ。お婆様に仕込んでもらって亜里沙のために磨いてきた私の腕を特と見るがいいわ」

 

「そっちこそ、日々菜々子やことりのために磨いてきたスキルを舐めるなよ」

 

 何だか争うところが違う気がしてきたが、何はともあれ2人はやる気満々だ。いざ食戟と言わんばかりに2人は包丁を構える。お題は実況の希が指定した【お子様ランチ】………ではなく、【オムライス】だ。さあ、互いに準備が出来たところで試合開始のドラを希が鳴らそうとしたその時、

 

 

ガサガサッ

 

「きゃあああっ!!」

 

「うおっ!」

 

 

 突如、台所にゴキブ……もといGが襲来した。その姿を確認した絵里は驚愕してしまう、その勢いで悠に抱きついた。思わぬ展開に審査員を務める希とにこは唖然としてしまう。その一方で

 

「鳴上くん……」

 

 当の本人たちはそれどころではなかった。絵里は思わず悠を抱きしめてしまったことに焦ったが、不思議とすぐに離れてしまうのは惜しいように思ってしまった。ふと様子を伺うと抱き着いているので顔は見えないが、悠の心臓がバクバクしているのは身体が密着しているのですぐ分かった。これはもしや……

 

(も、もしかして…私に抱き着かれてドキドキしているのかしら?ま、まあ…鳴上くんも男の子だし……ことりにはいつも抱きつかれてるけど、家族としてのスキンシップって思ってるだろうし………こ、これはこれで……)

 

 絵里が悠に抱き着いたまま悶々とそんなことを考えていると、背後から2人の鋭い視線が突き刺さる。だが、思わぬハプニングに胸が高鳴ってしまい、絵里はそれに気づいていたない。すると、

 

「あの…絵里さん………」

 

「は、はい!」

 

 焦った声で悠が絵里に声を掛けてくる。

 

 

「とりあえず包丁を仕舞ってくれるか」

 

「えっ…………あっ」

 

 

 よく見ると、自分の手にしている包丁が悠の首元にあった。つまり悠は絵里が抱き着いたことにドキッとしたのではなく、首元にある包丁にドキドキしていたのであった。証拠に悠の表情は赤にではなく、真っ青になっていた。

 

 こうして何とも言えない雰囲気の中、悠と絵里による食戟が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<メイド喫茶 コペンハーゲン>

 

 一方、こちらではことりの働きっぷりを目のあたりにして穂乃果たちは驚愕していた。ことりと言えば、普段は皆から一歩後ろに引いて悠に甘えまくっている印象があるのだが、ここで働くことりはその印象と全く違っていた。自ら積極的に接客を行い、その手際も無駄がない。そしてどんなことがあって必ず落ち着いて対応し、笑顔を忘れない姿勢はまさに熟練の手練れではないか思わせるくらいのものであった。何より接客時の笑顔は伝説のメイドと呼ばれるのに相応しい万人を笑顔にさせるのではないかという不思議な魅力を感じた。

 

「ことりちゃん、やっぱりここにいるといつもと違うね」

 

 今まで見たことがないことりの姿を近くで見ていた穂乃果は興奮を隠しきれなかった。

 

「えっ?そうかな?」

 

「鉄人みたい!優しく接客も出来て仕事も丁寧だし、とっても生き生きとしてるよ。悠先輩に甘えてる時とは大違い」

 

「穂乃果、その例えはちょっと……」

 

 厨房で興奮する穂乃果に海未は静かにツッコミを入れる。ちなみに海未は率先して接客することりと穂乃果に対して、厨房で皿洗いばかりしていた。それに対して穂乃果が異議を唱えると、メイドとは本来こういうものだと反論する。理屈は通っているが、それは接客が苦手だからと言い訳しているようにしか聞こえないが、これ以上言っても駄々をこねられるだけなのでそっとしておいた。

 

 

「うん、この服を着ると……この町に来ると勇気を貰える気がするの」

 

「えっ?」

 

 

 コーヒーを淹れながらそう呟いたことりに穂乃果は作業していた手を止める。

 

 

 

 

「もし思い切って自分を変えようとしたら、この町なら受け入れてくれる。だから……私はこの町が好き!大好き!」

 

 

 

 

 笑顔でそう語ることりから心からの気持ちを感じる。穂乃果は今まで見たことがなかったことりの本音が聞けた気がして、自然と笑顔になってしまった。すると、

 

「あっ!それだよ、ことりちゃん!」

 

「えっ?」

 

 穂乃果はピンと閃いたような表情になり、キョトンとしたことりを指さした。

 

 

「ことりちゃんが今言ったことをそのまま歌にすればいいんだよ!この町を見て、友達を見て、色んなものを見て、ことりちゃんが感じたこと、思ったことをそのまま歌詞にしたらいいんだよ!」

 

 

「あっ!」

 

 穂乃果の言葉にことりはハッとなる。そうだ、最初からそうすれば良かった。下手に歌詞っぽい言葉を紡ごうとせず、穂乃果の言う通りに自分がこの町で感じたことや感動したことを元にすればよかったのだ。あまりに単純なことに、今まで難しく考えていたことが馬鹿に思えてきた。これなら良い歌詞が思いつきそう。

 

「うんっ!何だか頭が冴えてきた!ありがとう!穂乃果ちゃん」

 

「良かったね、ことりちゃん!」

 

 新たなヒントを得て、意気揚々と手を合わせて喜ぶ穂乃果とことり。海未はそんな2人の様子を皿洗いしながら微笑ましく見守っていた。すると、

 

 

「でもさミナミン、ナルやんのことはどうするのさ。このまま仲直りしないままにするつもり?」

 

 

 キッチンで料理を作っていたネコさんがことりにそう言ってきた。ネコさんのツッコミにことりは再び表情が曇ってしまう。歌詞のヒントが得られたとはいいが、今一番解決しなきゃならない問題がまだ残っていたことを忘れてた。

 

「ことりだって、お兄ちゃんと仲直りしたいです。でも……今回はお兄ちゃんの助けはいらないって言っちゃったし………あれから散々お兄ちゃんに冷たい態度取っちゃったから………」

 

「ハァ……兄妹そろって意地っ張りだねぇ。何でそこまで似たのだか」

 

「えっ?」

 

 ことりのウジウジとした反応にネコさんはそうため息をついた。何故か前に似たようなことがあったような感じだったが、一体どうしたのだろう。すると、ネコさんは何か閃いたように手を叩いて、ポケットから携帯を取り出した。

 

 

「しょうがない、あの手を使うか。ちょっと協力してもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<鳴上宅>

 

 ところ戻って再び鳴上宅。穂乃果とネコさんたちが何かを企てている頃、鳴上宅に更なる来客が訪れていた。それは

 

「悠くん……大丈夫かしら?」

 

 仕事を早く切り上げて鳴上宅へやってきた叔母の雛乃である。ここ最近の悠を見ているとちゃんと生活しているのかが心配になってやってきたのだ。今日も悠の両親は夜遅くまで仕事らしいし、ことりも穂乃果たちとどこかに行っているらしいので、もし悠が何かまずいことになっていたら動けるのは自分しかいない。雛乃は意を決して合鍵をで鳴上宅のドアを開ける。

 

「悠く~ん、いる~?」

 

 見ると玄関には複数のローファーがある。もしかして、誰かいるのか。耳を澄ますと何やらリビングから何か金属がぶつかり合う音と誰かの奇声が聞こえてくる。一体ここで何が起こっているのかと雛乃は恐る恐るとリビングを覗いてみる。

 

 

「「お上がりよ!!」」

 

 

 そこには皿に盛りつけた料理を突きつける悠と絵里の姿があった。それを見た雛乃は唖然としてしまう。何をしているのかと思えば、こんなことをしているとは予想外だったからだ。

 

「もう無理って言ってんでしょ!!」

 

 そして、審査員を務めているにこは何故か悲鳴を上げていた。

 

「何言ってるのよ。まだ決着はついてないわよ」

 

「にこっちが決められないって、審査放棄ばっかりするからね」

 

「う、うっさいわね!だって2人とも美味しいから……」

 

 見ると、にこは何度も悠と絵里の料理を食べていたのか、お腹を苦しそうに抱えている。だが、そんなにこを見ても悠と絵里は容赦しなかった。

 

「とりあえず、これで決着を着けてやる!」

 

「臨むところよ!さあにこ、食べなさい!!」

 

「私のお腹のことも考えなさいよ―――!!」

 

 

 にこが悲鳴を上げても料理対決を続行する悠と絵里。あまりに状況が掴めないのだが、悠たちはどこか表情は明るいので怒る気がしなくなった。それよりも

 

「お腹が減ったわね……」

 

 その後、悠と絵里の食戟は決着が着くことはなく、作った料理は悠たちが雛乃と一緒に美味しくいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「ネコさん、何かあったのか?」

 

 昨日絵里との食戟が白熱した後、コペンハーゲンのネコさんからメールで呼び出された。緊急の用事らしく閉店間際に店に来てほしいとのこと。緊急の用事とは何かあったのかと疑問に思いつつ、コペンハーゲンの扉を開ける。そこには

 

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

 

 

「えっ?」

 

 コペンハーゲンに入ると、出迎えてくれたのは店長のネコさんではなく、メイド服姿のことりだった。あまりの出来事に悠はフリーズしてしまう。だが、反対にことりは悠と違って落ち着いていた。

 

「一名様ですね。では、こちらのお席へどうぞ」

 

「えっ?ことり?えっ?」

 

 まるで接客しているように悠を近くの席へ案内しようとすることり。唐突なことに困惑してしまう悠だが、ここは一応従っておこうと席へ座る。

 

「お冷をお持ちいたしました。こちら、メニューになります」

 

「あ……ああ………」

 

 いつもと違って大人っぽい雰囲気のことりに戸惑いを隠せない。それを悟られまいとメニューに目を移す。見ると不自然なことにどこを見ても"メイドのオススメ"としか書かれていなかった。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「ええっと……メイドのオススメを」

 

「はい、"メイドのオススメ"をおひとつですね。少々お待ちください。失礼します」

 

 注文を受け取ったことりは会釈してそう言うと、笑顔をこちらに向けて去って行った。いつもと違うことりの笑顔に悠は思わず呆然としてしまう。何というかことりの新たな魅力が引き出されたような感じだったので、なんとコメントしたらいいのか分からない。すると、何か奥から物音が聞こえたのでそちらを見てみると、こちらの様子をチラチラと見ている人影が3つ。

 

「海未ちゃん!もうちょっとあっち行ってよ!見えないじゃん!」

 

「ちょっ!このままじゃ鳴上先輩に見つかるでしょ!」

 

「アンタら……もう手遅れな気がするけど」

 

 何となく予想はついていたが正体は穂乃果と海未だった。もしやこれはあの2人が仕組んだことなのか。そうなると、連絡を寄越したネコさんもグルだろう。このメニューも手書きだし、字体からして穂乃果が作ったものだろう。更に店内には自分以外お客はいないので、ネコさんがわざわざ閉店間際に呼び出したのも頷ける。よくもまあこんな手こんだことをしたものだと悠は思った。一体どういうことだと思っていると、

 

 

「お待たせしました~ご主人様♪」

 

 

 厨房から料理を乗せたお盆を手に持ったことりがやってきた。メイドのオススメとは何だろうと見てみると、美味しそうなオムライスが()()運ばれてきた。それに対して悠はポカンとしてしまった。オムライスはメイド喫茶の定番であるのは陽介から聞いたことはあるが、何故2つなのか?

 

 

「それではお絵描きさせていただきますね~♪」

 

「あ…ああ………」

 

 

 そう疑問に思っていると、ことりはケチャップを手に持ってオムライスに何か書き始める。迷うことなくスイスイと何かを描く様は手馴れていて楽し気な感じだったので、ことりがこの仕事にどれだけ熱心だったかを実感した。

 

 

「これは………」

 

 

 

 

 

 ことりが一つ目のオムライスに描かれたのは悠をモチーフにしたようなキャラクター……というより悠の笑っている顔だった。あまりの出来具合に感心したと同時に嬉しく感じる。そして二つめに描いたのは……"ごめんなさい"というメッセージだった。

 

 

 

 

 

 

「ことり……お前」

 

 

 これらを見て悠は全てを察した。そして、

 

 

「お兄ちゃん……ごめんね」

 

 

 ことりが大粒の涙を零しながら悠にそう謝罪する。突然のことに悠はびっくりしてしまったが、何かを自分に伝えたいのではないかと感じ取ったので口を挟まずそのままことりの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 

「私………いつまでもお兄ちゃんに甘えたらいけないって思ったの。お兄ちゃんがずっとことりの傍にいるとは限らないし……離れなきゃいけない時が必ず来るから…………だから絵里先輩に作詞の話が来たと、今回は自分でやり遂げようって……それなのに、お兄ちゃんに冷たい態度取っちゃって……ごめんなさい…………」

 

 

 

 

 ことりは精一杯の声を振り絞って悠に謝り続ける。そんなことりの気持ちが伝わったのか、悠はその気持ちに応じるようにことりを優しく抱きしめた。

 

 

「泣かなくていい。俺も……ことりの気持ちも知らずに、あんなことをしてしまったから。ことりが謝る必要はない」

 

「でも………」

 

「大丈夫だ。ことりの気持ちは伝わったから……もう泣くな」

 

 

 悠はそう言うとことりを抱きしめる更に力を強くする。

 

 

 

 

「例えいつか離れ離れになったとしても……何か辛いことや悲しいことがあったら、いつでも俺を頼っていい。俺は…ことりのお兄ちゃんだからな」

 

 

 

 

「!!っ……お兄ちゃん……お兄ちゃん……………」

 

 悠の心からの言葉にことりは胸の痞えが取れた気がした。そして堤が切れたように涙腺が崩壊して、悠の胸の中で泣き止むまで泣き続けた。悠もことりに自分の気持ちを伝える機会を与えてくれたネコさんたちに感謝して、泣き続けることりをあやし続けた。

 

 

 

 

 

――――ことりの感謝の気持ちが伝わってくる

 

 

 

 

 

「良かったですね、ことりと鳴上先輩」

 

「うううっ……海未ちゃん何だか泣けてきたよぉ~」

 

 

 2人が仲直りしたことに影から見守っていた穂乃果と海未は泣いていた。ここ最近からとはいえ、大切な友人と先輩が無事仲直りできたのだから。

 

 

「本当に……兄妹だわ」

 

 

 ネコさんは悠とことりを見て、ひと昔のことを思い出していた。学生時代、あの2人のように喧嘩をしてはすぐ仲直りしていた兄妹を。今のあの2人の姿がネコさんにはその人物たちと重なって見えた。思わず懐かしい気持ちに浸っていると……

 

「ヤッホー!オトコー!遊びにきたよ」

 

「オトコ言うな!バカ虎――――!良いところで入ってくんな!」

 

「ぐはっ!」

 

 店の裏口からネコさんの知り合いらしき人物がやってきたが、良い雰囲気を邪魔されたのと何やらコンプレックスに触れてしまったのかネコさんの怒りの拳が炸裂してどこかに吹っ飛んでしまった。それを見てしまった穂乃果と海未は恐怖で震えあがってしまったが、ことりと悠は自分たちの世界に入っていたのでそれを知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 ことりと仲直りしてから翌日、悠は人が変わったように猛烈にライブの準備に全力を注いでいた。ライブの日程や場所の設定にライブの宣伝活動と練習を抜けていた分を埋め合わせる…否それ以上に働いていた。ことりも歌詞のヒントを得て悠と仲直りしてから調子が出たらしく、作詞も順調に進んでいた。先日までの不仲っぷりが嘘のように変わった2人に他のメンバーは戸惑いを隠せなかったが、今回のライブの要である2人が仲直りしていつも通りになっていたので、まあ良いかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<秋葉原ライブ当日>

 

 

 色んなことがあったが、無事作詞も宣伝も完了してライブ当日。

 

 許可を貰った場所でのステージ裏で穂乃果たちは衣装を着てスタンバイしていた。ちなみに今回のライブの衣装はメイド服だった。秋葉原でライブをするのだから、衣装も秋葉原ならではにしようという絵里の提案によるものである。このメイド服はコペンハーゲンから借りたもので、店の宣伝になるから使って良いよとネコさんが笑いながら貸してくれたのだ。最初は海未や花陽など普段こういう服を着ないメンバーは恥ずかしがっていたが、悠が似合っていると言うと人が変わったように喜々と表情が明るくなったので、単純だなと思ったのは内緒である。それはそれとして、

 

 

「な、何だかオープンキャンパスの時より人が多くないですか!?路上ライブなのに」

 

 

 海未の言う通り周りを見てみると、会場の周りにはたくさんの人が集まっていた。ざっと見ても中学生の他にも社会人や小学生と様々な世代の人たちがいるものの、先日のオープンキャンパスライブよりも人が多くいるように見える。

 

「あれ?あの人って、文吉お爺さん?それに……風花さん?」

 

 観客の中をよく見ると、そこにはことりのよく知っている人が居た。辰巳ポートアイランドでよく行く【本の虫】という古本屋のお爺さん、その隣には目の敵にしている風花がいた。親し気に話しているところを見ると、風花も常連さんなのだろう。

 

「あっ!風花さんだけじゃなくてラビリスにりせちゃん、それに桐条さんたちもいるにゃ!」

 

 凛が指さした方向を見ると、風花だけでなくラビリスと変装して訪れたであろうりせ、それにあの桐条美鶴や真田明彦、アイギスまでもが会場に来ていた。3人ともGWで出会った時と同じ格好をしているので、かなり目立っていた。そんな視線に臆することなく平然としている美鶴たちに話しかける悠。腕には甘えに甘えているりせがいるので、ことりはそれを見てムスッとなった。

 

「あの風花さんの隣にいる方たちって知り合いなの?」

 

「あっ!絵里先輩と希先輩は知らなかったよね。あの人は美鶴さんって言って、あの桐条グループの社長令嬢なんだよ」

 

「「えっ!?」」

 

 穂乃果から事情を聞いた絵里と希は思わずもう一度美鶴の方を見てしまう。"桐条グループ"と言えば、日本を代表する有名財閥だ。その財閥の社長令嬢という大人物と悠は親し気に話してるのかと思うと、衝撃を隠せなかった。よくよく耳を澄ませると、何か"事件"とか"この間はうちの者が迷惑を掛けた"とか"シャドウ"や"ペルソナ"という単語が聞こえてくるが、大丈夫なのだろうか。

 

「あの人たちもペルソナ使いなので、私たちの事情も知っています」

 

「…………何気なく私たちって凄い人たちと知り合いなのね」

 

 "桐条グループ"の大物と知り合いだったということに思考が停止しそうになる。改めて悠の人脈ネットワークの広さには驚かされると思った。それにそのような人物がわざわざ時間を作って自分たちのライブを見に来てくれたことのは事実なので、今日は下手なパフォーマンスは見せられないと一同は改めて気合を入れ直す。その時、

 

 

 

 

 

「臆する~ことなく~~デスパレードお邪魔致します」

 

 

 

 

 

 そんな聞いたことのある女性の声が聞こえてくる。もしやと思い、ステージの方を見てみると……予想通りオープンキャンパスでも勝手に登場したエリザベス…もといエリPがマイクを手にしてそこにいた。

 

 

「皆々様、本日もまた我らがスーパースクールアイドルであらせられるμ`sのライブにお越しいただき、誠にありがとうございます。私は今回も勝手に司会者を務めさせていただくエリPという者でございます」

 

 

 

(やっぱり出てきたか…エリザベスさん)

 

 前回と同じ登場に悠たちは溜息をついた。どうやらマーガレットが言っていた通り、このMCみたいなポジションにハマってしまったらしい。その証拠に喜々とマイクでマシンガンのように話している姿にいつもより熱が入っている。またあの時のようにこれまでに至る経緯を捏造を含めて話していたのだが、長くなったので割愛する。そして、

 

 

 

「今宵もこの場に降り立つ歌の女神たちの宴に酔いしれてくださいませ。それでは、女神たちの登場でございます!」

 

 

 

 エリザベスがそう締めくくると黙って聞いていた観客が一斉に歓声を上げた。そんな観客の様子に若干驚きつつも穂乃果たちはステージへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことりはステージのセンターに立ってふと自分の世界に入って緊張を沈めていた。不安がないと言えば嘘になるが、後ろには穂乃果たちが居るし、悠も暖かい目で自分を見守っている。それだけでも、ことりは自信を持って歌える勇気を貰える気がした。思えば、今回のライブは初めて作詞に挑戦したり、悠に甘えずに頑張ろうとしたりと初めてのことばかりで大変だったが今思えば良い思い出だ。

 

 

 

"ところでさ、何でこのバイトにしたの?ネコさんに誘われたってことは聞いたけど……"

 

 

 

 ふと先日コペンハーゲンで穂乃果にそう問われたことを思いだす。確か自分は穂乃果にそう聞かれて、こう答えたのだ。

 

 

『お兄ちゃんみたいに凄い人になりたいなぁって思って』

 

『それって……どういうことですか?』

 

『菜々子ちゃんが言ってたの。"お兄ちゃんは凄い人"って』

 

 

 ことりが言った言葉の意味が分からなかったのか、穂乃果と海未は首を傾げてしまう。ペルソナ能力に学年一位を狙える学力、色んな人と接せるコミュニケーション能力など悠が凄いのは重々承知だが、漠然としていて意味が分からなかったのだ。それを察したことりはクスッと笑って補足した。

 

 

『"人を笑顔にできるって凄いこと"なんだって、ある人に教えてもらったらしいの』

 

『へぇ~』

 

 

『お兄ちゃんは今まで陽介さんたちだけじゃなくて、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、花陽ちゃんと凛ちゃんと真姫ちゃん、にこ先輩、あの絵里先輩や希先輩まで笑顔にしてきた。それを見たら、お兄ちゃんみたいに人を笑顔にしたいなって思ったの。だから…ここなら、そんなお兄ちゃんに近づけるかなって』

 

 

 

 あの時はああ言ったが、本当のところはもっと単純なことだった。

 

 

"お兄ちゃんをいつも笑顔にしたいから"

 

 

 練習や事件でいつも辛い思いをしても自分たちにために頑張ってくれている悠を笑顔にしたい。そんな簡単なキッカケだった。そして、悠はいつも何かをするに対しても勇気をくれる。だから、今日はそんな悠を自分対たちのパフォーマンスで笑顔にしよう。そして……普段は言えないこの気持ちを伝えよう。

 ことりはある決意を固めてマイクを構える。観客を見渡してから深呼吸をすると、マイクを口に近づけた。

 

 

 

「この歌を……私の大切な人に送ります」

 

 

 

 ことりはそう言うと、悠の方をチラッと見る。そして口元を緩ませて、あの時は届かなかったとびっきりの笑顔で彼女は宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと大好きだよ!お兄ちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……………えっ!?」」」

 

 

 

 打ち合わせにはなかった衝撃のアドリブに観客のみならず、スタンバイしていた穂乃果たちも一瞬時が止まったかのような感覚に襲われた。だが、ことりは皆のそんな反応を気にせずに高らかに声を上げる。

 

 

 

 

 

 

「聞いてください!【Wonder Zone】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果を言えば、今回の秋葉原ライブも大成功だった。絵里の熱心指導により更に磨き上げたダンス力に表現力、そしてことりが秋葉原で触れてきた感じたことや経験したものをありのままに書いた歌詞。観客は皆μ`sのパワーアップしたパフォーマンスに魅了されたのか、観客は皆満足気な表情だった。

 初めてライブに訪れた美鶴からは"実にブリリアントだった。これからも頑張ってくれ"と賞賛と激励のコメントを頂いた。明彦もアイギスも同じ感想なのか美鶴のコメントに同意していたので、それだけでもライブの成功を実感できた。それはともかく……

 

 

「ことり?さっきの発言について、どういうことか説明してもらうわよ」

 

「流石のウチもアレは看過できへんよ~?」

 

「アンタ!スクールアイドルでもやって良いことと悪いことがあるって分かってんの!」

 

「そうよ!!ことりちゃんズル~い!私だって悠センパイにやったことないのに~~~!!」

 

「りせさん…思いっきり私情が入ってますよ」

 

 

 ライブ終了後、予想外のことをやらかしたことりが絵里たちに説教を受けたのは言うまでもない。生徒会長の絵里だけでなく、恋敵である希・アイドルにうるさいにこ・あの発言が聞き捨てならず乱入したりせなど様々な人物からも怖い説教を受けたが、ことり本人は終始やり切ったと満足げな表情だったという。

 

 

 

 こうして秋葉原での路上ライブは予想外のことがありつつも、磨き上げてきた技術と表現力で観客を魅了し、目標のラブライブへの道を一歩近づけたのであった。

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter



何か忘れてないかって?





一番気になるのに語られていない。











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音ノ木坂学院3年C組"鳴上悠"

これは、彼の駆け抜けた激動の数週間の記録である。






Next #50「Wonder Zone~another story~」

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