PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
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それでは本編をどうぞ!
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「ようこそ、ベルベットルームへ。本日、主は留守にしております」
聞き慣れたメロディーと女性の声で目を覚ますと、いつもの場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模したこの場所は【ベルベットルーム】。精神と物質の狭間にある選ばれた者しか入れない空間。そして、そこにはいつもの奇怪な老人の姿はなく、その従者であるマーガレットがいた。
「先日は妹が世話を掛けたわね。どうやらあの子、貴方たちの催しが気にったようでまた訪れると言っていたわ。その時はまたよろしくお願いするわ」
マーガレットはそう言うと、ペルソナ全書を開く。そして、開いたページから複数の宝玉が姿を現した。
「主が言っていた【女神の加護】。これまでの試練を乗り越えて行く度に増えてきたわね。気づいていないのかもしれないけれど、これまでの試練でも幾度も貴方に助力してきた。これらが今後あなたにどのような影響を及ぼすのかしら……フフフ、想像するだけで熱くなりそう」
マーガレットは恍惚な笑みを浮かべている。その姿に相変わらずだなと思っていると、彼女は宝玉を元の場所に戻してペルソナ全書を閉じた。
「また近々更なる試練が貴方たちを待ち受けているでしょう。それを乗り越えるためにも、貴方には身体を休め、英気を養う時間が必要かと。でも……あの子たちがそうさせてくれるかしら?フフフフ……」
~オープンキャンパスから一週間後~
オープンキャンパスのライブから一週間が過ぎて、音ノ木坂学院の雰囲気は少しずつ変わりつつあった。何せまだ完全とは言えないが、廃校の危機が去ったのだから雰囲気も明るくなる。そして、ライブはまたしても好評でラブライブ出場条件であるランキング20位まで一気に近づいた。更には、雛乃がオープンキャンパスを成功させたご褒美と称してとなりの教室を用いて部室のスペースを広くしてくれた。これには穂乃果たちもホクホクで達成感に酔いしれる。
さて、このまま目標の廃校阻止、そしてラブライブの出場を目指して気合を入れ直して練習に励もうと穂乃果たちは屋上へとダッシュする。
はずだったのだが………
「今日も悠先輩、来てないね………」
まるで現実に引き戻ったかのように部室の雰囲気が急に沈んだ。
何を隠そう、ここ最近悠が練習に顔を出すことが少なくなっていったのだ。前までは休まずに参加してくれたのに、悠が練習を休むとは珍しいことだ。だが、一日ならまだしも数日続けて、それも連絡も無しとなると流石に心配になってくる。
「今日も鳴上くんは来ないのね。次のライブについて意見が欲しかったんだけど………」
絵里は次のライブについて悠と話し合いたかったらしいが、悠が不在のためそれが出来なくなっている。皆の意見も大事だが、せめて裏のリーダーである悠の意見も欲しいところなのだ。
「最近、鳴上先輩の様子がどうもおかしいですよね」
「ことりちゃん、何か知らないの?」
「えっ?………さ、さあ?ことりは何も知らないなぁ~」
穂乃果の問いにことりはそう曖昧に答える。だが、その前に一瞬ギクッとなっていたので何かあるのかは明白だった。
「ことり?本当に何も知らないのですか?」
「妹ちゃん?嘘をついとったら、ワシワシやで」
海未と希は真相を確かめようとことりに圧力をかけてみる。海未と希の圧力に耐えきれなかったのか、ことりは怯えてとうとう自白した。
「う、海未ちゃん!希先輩、怖いよぉ~…………じ、実は……この間お兄ちゃんと少し……」
「…では、最初から説明してください」
海未に圧力をかけられながら、ことりはポツポツと事情を話した。あれはオープンキャンパスが終わって翌日に起こった出来事。
~数日前~
<鳴上家>
「はぁ……お兄ちゃん、遅いなあ」
ことりはテーブルに作った夕飯を準備して、ファッション誌を読みながら、悠を待っていた。しかし、その顔は浮かない表情であった。愛しい兄が中々帰ってこないこともあるが、もう一つ要因がある。
「やっぱり……ことりの胸を触ったこと………気にしてるのかな」
先日悠を起こしに行こうとしたとき、我慢できなくなったことりは布団の侵入を試みた。だが、その時に寝ぼけていた悠が誤ってことりの胸を鷲掴みしてしまったのだ。流石のことりもその時は羞恥心を隠しきれず、思わず悠に平手打ちをしてしまった。それで顔を合わせるのが気まずくなって、朝はお互い別々に登校した訳だ。だが、このままズルズル気まずいままでいるのも耐えられないので、こうしていつもより気合の入った夕食を作ってスタンバっているのだ。すると、
「ただいま」
そんなことを思っていると、早速愛しの兄が帰ってきた。ことりは気持ちが高ぶるが、一旦落ち着いてとびっきりの笑顔で悠を迎える。
「お帰り!お兄ちゃん!ごはん出来てるよ」
「悪い…………もう食べてきたから」
「えっ……」
その瞬間、ことりはショックを受けてしまった。ことりのその表情とテーブルに並べてある料理に気づくと、悠は申し訳なさそうに顔が沈んだ。
「ごめんな。それじゃあ」
悠はそう言うと、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。ことりは少し気になって悠の部屋を覗いたが、もう悠は布団に潜り込んで寝息を立てていた。表情がとても疲れていたので、今日はそっとしておこうとことりは思った。また明日にでも謝ればいいと思いながら。だが………
「…ただいま」
そんな日々が数日続いてしまい、いつもの如く疲れ切った顔の悠が帰宅してきた。この調子だとご飯もいらないのだろう。しかし、ここ数日…それもこんな時間までどこで何をしているのか。先日のことが関わっているのか、ことりは不安になったので、謝る前に直接聞きだすことにした。
「お兄ちゃん、こんな遅くまで何してるの?」
「…………ちょっとな」
ことりの問いに悠は言葉を詰まらせながらそう答える。悠のその反応からやはり何かあると確信したことりは更に問い詰めた。
「お兄ちゃん、どうしてことりに言ってくれないの?もしかして」
「ごめん、ちょっと頭痛いから……もう寝るな」
悠は言葉を濁してそそくさと逃げるように自室に入っていた。その様子にことりは更に疑惑を募らせる。何かおかしい。ことりは胸にそんな不安を覚えざるを得なかった。
「「「「……………………」」」」
時は戻り現在、ことりからの話を聞いた一同は気まずい雰囲気に包まれた。何と言うか序盤から話が飛躍しすぎていて話があまり入ってこなかったのだ。ましてや悠に胸を揉まれたなど……
――――羨ましい……
だが、事故とはいえ一度悠に胸を触られたことがあるにこは密かに気まずい顔をしていた。バレたら悠のみならず、自分も希やことりに粛清されそうな気がするからだ。
「それで?」
こういう話に敏感な海未は茹蛸のように赤くなりながらも何とか耐えてことりに続きを促した。
「う、うん……だから学校でお兄ちゃんに会って事情を聞きだそうとしても、お兄ちゃんすぐどこかに行っちゃうし……部室にも顔出さないし…………携帯に電話しても出てくれないし…………」
そう語ることりの目に次第に涙が溢れだした。それを見た穂乃果たちの表情も暗くなる。ことりが重度のブラコンであることは重々承知だが、ここまで来ると流石に悠に非があるように思えてきた。
「でも、あんなにことりちゃんを大事にしてる悠先輩がことりちゃんに心配かけるなんて、考えられないんだけどな」
話は聞いた穂乃果は腕を組みながらそう考察する。事故だとしても妹に迷惑をかけたからといって、重度のシスコンである悠がことりをこんなに心配させるなど考えられないからだ。
「でも、妹ちゃんが悠くんにワシワシされた時って、オープンキャンパスが終わってすぐのことやない?」
「ということは……あの後に何かあったのかしら?」
絵里の脳裏に浮かんだのはオープンキャンパスの打ち上げの時に、悠に掛かってきた電話だった。あの時は悠のプライベートと遠慮して追及はしなかったが、思えばあれが今回の発端かもしれない。思えば思うほど悠の行動が不審に思えてくる。一体悠はどこで何をしているのだろうか。何か自分たちの知らないところでトラブルに巻き込まれているのではないだろうか。一同がそう思ったその時、にこが勢いよく立ち上がった。
「こうなったら……
「「「「えっ?」」」」
〈秋葉原駅前〉
「素行調査は弊社にお任せ☆魔女探偵ラブリーン!」
ピロリン!
『ハチの巣にされたいか!!』
「「「「……………………」」」」
大勢の人が行き来する秋葉原駅前。そこに突如、今の子供に大人気の『魔女探偵ラブリーン』のコスプレをしている女子高生の団体が現れた。その正体とはもちろん、にこと無理やりその衣装を着せられた穂乃果たちである。
「ああっ!もう違う!」
ピロリン!
『キラッと登場☆』
「そうそう、やっぱりこう」
「って、何でこうなったんですか!?」
とうとう耐え切れなくなったのか、海未はいつまでもラブリーンのおもちゃをいじっているにこに説明を求める。にこは何を言っているのだと言わんばかりに回答した。
「何言ってんのよ。素行調査って言ったら探偵、探偵って言ったらラブリーンでしょ。まずは恰好から入るのが鉄則じゃない」
「だからって、わざわざ全員でこんな恰好する必要あるんですか!?」
高校生がそんなコスプレをしているのだから、それは目立つので通行人は奇異な目で彼女たちをチラチラとしていた。探偵とは対象に見つからないようにするのが鉄則なのに、これでは逆効果だ。
「恥ずかしい……やってられないわ」
「というか探偵っていったらシャーロックホームズとかコナンくんの方じゃないのかにゃ?」
「確かに!でも、あの人たちってこんな素行調査より、事件調査って感じがするけど……」
「ああ………でも細かいことは気にしないにゃ~」
「何の話をしてんのよ」
どうでもいい話で盛り上がる凛と花陽に突っ込むにこ。真姫に至っては馬鹿馬鹿しいと思ったのか、2人の様子に呆れていた。
ピロリン!
『こいつはプロの仕事ですな』
「おおっ!このおもちゃ面白いなぁ」
「本当だ~。菜々子ちゃん好きそうだよ~」
「こらっ!私のおもちゃで遊ぶんじゃないわよ!」
穂乃果とことりはにこが持っていたおもちゃで遊んでいたので、にこは怒りながらおもちゃを没収する。初っ端からグダグダな状態だが、このままでは埒が明かないため一旦仕切り直すことにした。
「とにかく、最近鳴上の様子がおかしいから調査するのよ!こんなんじゃ練習に差し障るし、アイツが何か事件に巻き込まれてたらほっとけないじゃない!」
にこの言葉に珍しく正論だと言わんばかりに一同は押し黙った。確かに今やμ`sの中心人物である悠が不在のままでは練習に集中できないし、もし自分たちの知らないところでトラブルに巻き込まれていたとしたら、放ってはおけない。
「にこ先輩の言う通りだよ!悠先輩を探そう!」
「そうですね。何か起こってからでは遅いですし」
「わ、私も頑張ります!」
「凛も一緒に探すにゃー!」
にこの言葉に刺激されたのか、皆は次第にやる気を出し始める。着ている恰好がアレだが、皆の士気が上がったのはいいことだ。
「それじゃあ、早速素行調査開始よ!」
こうして、にこの先導の元に悠の素行調査が開始された。
~調査開始から数時間後~
「ハァ…アキバのどこを探しても見つからなかったわね」
「というか、今日は変な視線を感じまくったわよ」
夕日が沈みそうな時間帯まで色々と悠の行きそうな場所を捜索したが、手がかりは何も掴めず、ただ行き行く人たちに奇異な視線を浴びただけで終わった。中には"ラブリーンがたくさんいる!"と興奮していたサル顔の金髪少年が居た気がするが無視しておいた。
「一体鳴上先輩はどこに行ったんでしょう?」
「まあ、放課後に動ける範囲なんてあんまりないと思うんだけど」
「一先ず今日は解散ね。明日は辰巳ポートランドとかに範囲を広げて手がかりを探しましょう。もちろん、このラブリーンの恰好じゃなくてね」
絵里の提案に皆は賛成の意を示す。今日は色々歩きまわったので、早く家に帰って休もう。一同がそう思った時、目の前にバスが停車する。そろそろ帰宅ラッシュの時間なのか、先頭のドアからたくさんの人が出てきた。
その中に……得体の知れないものがよろよろとバスから出てきたのを見て、穂乃果たちはぎょっとなる。
「えっ?あれって………」
だが、それには穂乃果たちは見覚えがあった。何故ならそれは………
「……稲羽のクマさん?」
「「「えええええええええっ!!」」」
稲羽に居るはずのクマ(着ぐるみversion)だったのだから。当の本人は穂乃果たちの絶叫に気づいてないのか、マイペースに公道をひょこひょこと歩いている。
「く、クマさんってバスに乗れたんですね………」
「じゃないよ!ちょっと、クマさーーん!!」
「(ギクッ)」
よろよろと歩き出すクマに穂乃果たちは急接近する。自分に近づいて来る穂乃果たちに気づいたのか、こちらに振り向いた。
「もう!こっちに来てるなら連絡してくれればよかったのに」
「そうですよ!言って頂けたら駅まで迎えに行ってましたのに」
「鳴上先輩に何か用事ですか?でも、今先輩は不在で…」
だが、穂乃果と海未がそんなことを言ってもクマは黙ったまま、何か焦っているようなゼスチャーをしていた。その様子を見た穂乃果たちは不審に思った。
「あれ?何で喋らないんでしょう?GWの時はもっと話してたのに」
「もしかして、人見知りなんですかね?」
「でも、そんなんだったら雪子さんや私たちにあんなセクハラ行為をするわけないでしょ」
「変なクマさんやねえ」
皆のクマに向ける視線が段々疑惑のものへと変わっていく。それを感じたクマはヒヤリと冷や汗をかいていた。
「ア、アヤシクナイヨ……クマ」
「あれ?何かおかしくなりません?」
「声が不自然……」
クマは穂乃果たちに弁明しようと声を出したが、あまりの不自然さに疑惑が更に深まってしまった。
「そもそもこの人……じゃなくてこのクマさんは本当にあのクマさんなんですか?」
「ちょっと陽介くんに電話してみようか」
「私は雪子さんに」
わざわざ稲羽という遠くから何故クマがここを訪れたのか。保護者である陽介に希が連絡しようとすると、クマが何故か慌てだす。一体どうしたのかと穂乃果たちが不審に思っていると、ピンと閃いたように明後日の方向を指さした。
「アっ!センセイ~!オヒサシブリクマ~!」
「「「「えっ!?」」」」
ーカッ!!-
皆が一瞬明日の方向を振り向いた時を狙って、クマは猛ダッシュをかました。一瞬の隙を狙われた穂乃果たちは対応が遅れてしまい、気づいた時にはクマの姿はもうそこにはなかった。
「は、速い………」
「まるでアイ○ールド○1みたいな速さで行っちゃったにゃ」
「な、何で逃げたの?」
ピロリン!
『犯人はあ奴ですぞ』
いきなりのクマの逃走に疑問を感じざるを得ない一同。誤ってスイッチを押したにこのおもちゃもそう言っていた。その後、稲羽の陽介や雪子に連絡したところ、本物のクマはジュネスでバイトしており、サボってないかをちゃんと陽介が監視しているため、そっちにいるのはおかしいとのことだった。
「一体…あのクマさんは何だったのでしょう?」
皆は逃げたクマの正体に疑問を持った。アレが偽者だとするとあのクマは一体誰だったのだろうか。新たな謎を残したままその場で解散となった。
「………………ほほう」
その中で希だけが何か分かったように微笑んでいて、すぐさまどこかに電話していた。
~翌日~
今日も練習を休んで悠の素行調査をするμ`s。今日は調査範囲を広げて秋葉原だけでなく悠が行きそうな辰巳ポートランドまで別動隊を組んで調査していた。ちなみに今日は絵里の宣言どおりラブリーンのコスプレではなく、厚手のコートにサングラスと如何にも素行調査に向いている恰好で行っている。にこはそれにマスクもつけようとしたが、明らかに不審者に見えるので全員で却下した。だが、恰好は変われど昨日と同じで全く手がかりが掴めない状態が続いていた。
単独でポロニアンモールを調査していたことりが疲れて一息ついていると、とある洋服屋から一人の男性が出るのを目撃する。音ノ木坂学院のブレザーにアッシュグレイの髪。間違いない、アレは……間違いなく探していた悠だ。
「み、見つけた!お兄…………ちゃん?」
ことりはとうとう悠を見つけたので、嬉しそうに声を掛けようとしたが、それは阻まれた。何故なら
「すみません………さん、こんなことして頂いて」
「気にするな。世話になった礼だからな。それと名前で良いって言ってるだろ?」
「流石に…それは」
「フフ、君は可愛いな」
そこには仲良さそうに会話している悠と他の女性の姿があった。
女性はサングラスをかけて白い帽子を深く被っていたので顔は分からなかったが、長い髪にスラッとしたスタイル、そして仕草から年上であることが分かった。それに、その女性は悠と親し気に話していたので端から見れば仲が良いカップルに見える。
その光景を目にしてしまったことりはその場に声を掛けることが出来ず、ただ立ち尽くしてしまった。
「お兄ちゃん……誰なの……あの女は……」
先ほど信じられない光景を目撃したことりはポロニアンモールの噴水広場で一人黄昏ていた。頭に浮かんでいるのは大好きな兄が知らない女性と仲良さそうに歩いていた光景。相手の女性は見た目から自分より綺麗で色気があるように見える。そんな女性が悠とデートしているのを見たら、心がギュッと締め付けられた。一体あの謎の女性は誰なのだろうか?すると、
「ことりちゃん〜!どうだった〜!!」
そんなことりの気持ちを知らずか、別のところを調査していた穂乃果と海未は合流してきた。
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんがっ!」
「「えっ?」」
ことりの証言により、すぐさま穂乃果と海未は情報を他のメンバーに通達した。そして、その数十分後………
「ほ、本当だっ!鳴上先輩が女の人と一緒にいます!」
「綺麗な人だにゃ………」
容易に件の2人は見つかった。見つけたのは同じ辰巳ポートランドで巌戸台商店街を捜索していた花陽と凛とにこの3人である。ことりの言う通り、まるで仲のいいカップルのように歩いている。
「こ、これは……やっぱり補習をサボっておいて正解だったわ」
「にこ先輩……」
わざわざ大事な補習をサボってきたのか。少しにこの進路が心配になった花陽と凛だが、件の2人を見失わないようにと尾行を続ける。そして、少し対象に近づいて見ると
「あれっ?鳴上さんと居るあの人って、ことり先輩が言ってた情報と違くありません?」
「えっ?」
花陽が女性の観察していると何か違和感に気づいたらしい。ことりの情報だと女性は長い髪でサングラスをかけているとのことだが、よくよく見るとあの女性は髪の色は同じであれど短髪でサングラスはかけていない。
「それに……あの人、どこかで見たことがあるような………」
「んん?そう言えば確かに……」
顔立ちも誰かによく似ている。あの釣り目に穏やかな表情は…………
「って、あの人ってまさか………
「「マジで!?」」
女性の正体に気づいた花陽たちは驚愕する。そう、悠の隣で親し気に話している女性の正体は真姫の母親である早紀であった。つまり……
「「「人妻かよ――!!」」」
「嘘……そんな………」
花陽たちからの報告を聞いたことりはショックを隠し切れなかった。相手はまさかの2人で一方は真姫の母親。そんなダブルパンチを食らったからか、ことりのHPは0に近くなっていた。それは穂乃果たちも同じ気持ちだった。
「で、でも!勘違いってことかもしれないじゃん!悠先輩ってシスコンだし、どちらかと言えば年下が好みっぽいし」
「それフォローしてるつもりですか?」
相変わらず下手なフォローをする穂乃果に突っ込む海未。真姫も自分の母親がまさか憧れの先輩とデートしていたと聞いて、かなり動揺しているようだ。すると、
「鳴上くん…………どういうことよ……」
「エリチ、落ち着いて」
「何で希はそう落ち着いてるのよ……」
すると、秋葉原のどこかで捜索していたらしい絵里と希が帰ってきた。心なしか、絵里は随分と疲れ切ってる顔をしている。
「ど、どうしたの?絵里先輩、希先輩」
「実は………鳴上くんが本当にロリコンかもしれないと思って」
「「「はっ?」」」
そう言うと、絵里は携帯に撮ったらしい写真を皆に見せた。そこには、どこかの公園で悠が小学生の女の子に頭を撫でている姿があった。
「「「小学生――!!」」」
あまりの衝撃に出た穂乃果たちの絶叫は町中に木霊した。
「お兄ちゃん………何で…………ことりのこと……嫌いになったの?」
ことりはショックで一人公園のベンチで落ち込んでいた。本当は悠に真偽を確かめようと鳴上宅へ行こうとしたのだが、怖くなってやめた。
何だかとても信じられなかった。いつも自分を大切にしてくれた悠が自分の知らないところで知らない女性とデートしていた。それだけでもことりは裏切られた気分になった。本当のことを問い詰めたいが、そうすれば何かが壊れる気がして怖くなる。この気持ちをどう晴らしたらいいのだろう。すると、
「あれっ?」
ふと見ていると、公園の入り口に誰かいた。よく見てみると、そこには整った銀髪のに如何にもベルボーイを彷彿させる群青色の男性が儚げに公園を見つめていた。男性はことりの視線に気づいたのか、ふとこちらを見ると何か驚いたような表情になる。男性の反応に自分に何かあるのかと戸惑ったが、男性は何故かことりに謝るように頭を下げて、その場から去って行った。
「今の人……誰だろう?どこか……誰かに似てたなぁ」
突然知らない男性から頭を下げられて困惑することり。だが、あの男性の恰好から最近お世話になった誰かに似ているような気がした。そんな不思議なことがあったが、まだことりの気持ちは晴れやかにはなれなかった。こんな時はやっぱりあの場所だ。ことりはそう思ってある場所に電話をした。
~翌日~
学校が終わって放課後、再び調査のために町へ繰り出した穂乃果たち。だが…
「ことりちゃん、今日休むって」
ことりは今日は休むとのことだった。
「そう……仕方ないわね。鳴上くんにあんな疑惑がかかってるんだから」
ことりの心情を察したのか、絵里は深いため息をつく。謎の女性はともかく、人妻に小学生は事によっては事案になりかねない。身内であることりにとってはショックだろう。そう思うと、こんなにも身内に心配をかける悠に腹が立ってきた。
「真姫ちゃんは大丈夫?」
「………大丈夫よ」
真姫も少し様子がおかしい。しかし、ことりとは違って少しふやけている気がするのだが、突っ込まないでおいた。
「ことりのためにも、今日こそ必ず鳴上をとっ捕まえるわよ!洗いざらい吐いてもらうんだから」
にこの言葉に一同は身が引き締まる。そう思ったが……
「わああ……すご~いにゃ~!」
「きゃあああ!これって……A-RISEの」
そう言った矢先、花陽と凛は近くの店に入って興奮していた。一体何事かと思い、花陽と凛のところへ向かってみる。
「あれ?ここって……」
店の看板を見てみると、そこには【スクールアイドル専門ショップ】と書いてあった。すると、そんな穂乃果の様子を見たにこが呆れたように溜息を吐いた。
「ハァ……アンタたちは知らなかったのね。ここは最近オープンしたばかりのスクールアイドルの専門ショップよ」
「へえ~!」
まさかこんな近場にそんな店が出来ていたとは知らなかった。スクールアイドルの甲子園【ラブライブ】が開催されるくらい最近人気なのだから、その影響かもしれない。だが、まだまだ知名度が浸透していないのか、この秋葉原でもまだ数件しかないらしい。それでも、店内にはA-RISEをはじめとする人気スクールアイドルのポスターや缶バッチなどのグッズが店内で売られていた。
「ウフフフ、驚くことはそれだけじゃないんよ」
希は意味深にそう言うと、興奮が冷めない穂乃果たちをある場所へ手招きする。すると、
「えっ!?こ、これって……私たちのグッズ!?」
「「「ええええええっ!!」」」
そこにはなんとμ`sのグッズが売られていた。一瞬目を疑ったが、何度目をこすっても紛れもなくそこに自分たちのポスターや缶バッチが売っていた。
「う、海未ちゃん!わ、私たちのグッズが売られているよ!石鹸でも売ってるのかな!?」
「おおお落ち着きなさい!何でアイドルショップで石鹸が売ってあるんですか!?」
「すすす凄いにゃ~!」
「はわわわわわわ~!!」
皆は自分たちのグッズが売られていることに大興奮していた。いつの間にか自分たちのグッズが売られているとは思っていなかったので当然の反応だろう。こうして見てみると、自分たちの知名度が段々上がっているのを感じさせるので少し嬉しい気持ちになる。しかし、
「………………」
何故かにこは面白くなさそうにしていた。
「あれ?何でにこ先輩はそんなに不機嫌なのかにゃ?」
「実はな、にこっちのグッズがあんまりなくて拗ねとるんよ」
「う、うっさいわね!私だって……って、あったわ!これで3個目よ」
「にこ先輩…………あれ?……あれ!?悠先輩のグッズがないよ!悠先輩だってμ`sのメンバーなのに」
「アンタね……鳴上はマネージャーだから売ってる訳………って、あった!」
「「「えええええっ!?」」」
まさか悠のグッズまで売ってあるのか。穂乃果たちはその存在を確かめようとにこを押しのけてその場所に目をやった。すると、
「すみません!ここに私の生写真があるって聞いたんですけど……アレはダメなんです!今すぐなくしてください!」
「ああ…アレね………昨日すぐに撤去しましたよ」
「えっ?」
「いや……それ自分の妹だからって人が来て」
「「「「??」」」」
店の入り口でそんな会話が聞こえてくる。何かあったのかとそちらの方に行ってみると……
「あれ?
「(ギクッ)!」
今日は休んでいる筈のことりがメイド服を着てそこに立っていた。本人はまさか穂乃果たちが居るとは思わなかったのか、電撃が走ったように固まっている。
「ことり……何をしてるんですか?」
「何でメイド服なんて着てるの?」
再度固まっていることりに海未と穂乃果はそう問うがことりはフリーズしたまま返答しない。すると、
「…………………ホワッツ?コトリ?ドナタデスカ?」
「にゃにゃ!外国人にゃー!」
「「「………………………………」」」
誤魔化そうとしているのか、何故かことりは似非外国人のフリをし出した。何故か凛だけが引っかかっているが、他の皆はなんだそれと言わんばかりの冷たい目線を向ける。とてもじゃないが、そんな見え見えの芝居で誤魔化せると思っているのだろうか。
「いやいやいや、ことりちゃんでしょ?」
「チガイマ~ス!ソンナヒト、シリマセ~ン」
「「「…………………」」」
どこまでもシラを切り続けることり。流石にこの手はまずかったと思い至ったのか、隙あらば逃走しようと準備しているのが分かる。このままでは逃げられてはたまったものではないので、海未は奥の手を使うことにした。
「そう言えば、ここに鳴上先輩のグッズが……」
「ええっ!お兄ちゃんのグッズ!!頂戴!!…………あっ」
「確保」
悠のグッズに釣られたことりをすぐさま後方で待機していた希が確保。逃げようにもしっかりと両脇をホールドされているので、ことりは逃げる術を失った。
「これ以上抵抗したら、悠くんのお嫁に行けへんようなことするよ?」
「ううううっ………ごめんなさい……それだけは……」
ニヤニヤしながら手をワキワキする希にそう言われたことりは恐怖を感じて観念した。
<メイド喫茶 コペンハーゲン>
「「「えええええええっ!」」」
「じゃ、じゃあ…ことり先輩がこの秋葉原で有名な伝説のメイド、"ミナリンスキー"さんだったんですか!?」
「……そうです」
ことりが密かにバイトしていたというメイド喫茶に訪れて事情を聞いた穂乃果たち。まさか、ことりが以前にこが語っていた伝説のメイド"ミナリンスキー"であったことに驚きを隠せなかった。本人も出来れば皆に正体を知られたくなかったのか、浮かない表情で落ち込んでいた。
「ひどいよ!ことりちゃん!何で教えてくれなかったの!?」
「うううっ………」
「ほ、穂乃果先輩!ことり先輩にだって事情が……」
落ち込むことりに更に追い打ちをかけようとする穂乃果。興奮する穂乃果を花陽は宥めようとするが、穂乃果は止まらなかった。
「もっと早く教えてくれれば、遊びに行ってジュースとかお菓子とかご馳走になったのに!」
「ツッコむところ、そこ!?」
「あっ、でも今は悠先輩のお菓子が美味しいからいいや」
「いいの!?」
穂乃果のどうでもいい事情にツッコむ花陽。これ以上話がややこしくならないようにと、絵里が話の軌道を修正する。
「じゃあ……この写真は?」
店内に飾られている写真を見て絵里がそう尋ねると、ことりは沈んだ表情でそれに答えた。
「店内のイベントで歌わされて……撮影…禁止だったのに…………」
「あ~ミナミン、ごめんって。アタシもまさかこっそり写真撮ってたアホが居たとは思わなくてさ」
穂乃果たちの会話を聞いたのか、奥のキッチンからひょこっとエプロンをつけた女性か申し訳なさそうに顔を出した。
この女性はこの店の店長で"ネコさん"というらしい。猫目猫口の猫っぽい人だから"ネコさん"と呼ばれているそうだ。ことりをこのバイトに誘ったのもこのネコさんらしい。何でも辰巳ポートランドの古本屋で出会った時にキラリと光るものを感じたとか何とか。仕事もだが、色々とことりによくしているらしいので、ことりもネコさんのことを慕っているらしい。
「い、いえ……ネコさんは関係ないですよ……」
「まっ、でも犯人は突き止めたからね。アタシの知り合いがそいつをとっちめたらしいし、生写真も回収してもらったからそこは安心さ」
「えっ?」
「話によると、何でもあの水色キャップはミナミンの大ファンらしくてね。自分用に撮ったはいいけど、その写真をアイドルとかに興味のない知り合いに渡したんだって。で、その知り合いがあの店に売っちまったんだと。全くはた迷惑な話だよ。ミナミンの気持ちも考えろっての」
うんざりと言った感じでそう吐き捨てるネコさん。店のことではなく、ことり本人の気持ちを考えているところを見ると相当根の良い人らしい。道理でことりが慕う訳だと皆は納得した。
「でも、私たちはともかく何で鳴上先輩にも黙ってたんですか?」
話に区切りがついたところで、海未がもっともな疑問をことりにぶつけた。話によると、ことりはこのバイトのことは自分たちや母親の雛乃はもちろん、悠にも秘密にしていたらしい。それに対して、ことりはうっとなりながらも渋々と語りだす。
「だ、だって!ここで私が働いてるって聞いたら、お兄ちゃん心配になってここに来るだろうし………そしたら、悪い虫がお兄ちゃんに寄ってそうだし」
「ことりちゃん、相変わらず怖いよ…」
そこはやっぱりというかブラコンのことりらしいと思った。以前、部室でミナリンスキーのサインを見つけた時に絶対メイド喫茶には行くなと悠に迫っていた理由が分かった気がする。
「それに………ここなら自分を変えられるって思って………私、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、お兄ちゃんと違って何もないから……」
「えっ?どういうこと?」
ことりの言ったことの意味が分からなかったのか、穂乃果はそう聞き返す。
「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張れないし、海未ちゃんみたいにしっかりとしてない………お兄ちゃんみたいにみんなを守れる力もことりにはない………だから……お兄ちゃんは…ことりに飽きて………」
自虐的に語ることりに皆は慌てだす。何というか、これ以上語ったら聞いてはいけない闇の部分まで語ってしまいそうだからだ。
「そんなことないよ!ことりちゃんはダンスも歌も上手いよ!」
「衣装だって、ことりが作ってるじゃないですか」
「みんながケガした時だって、ことり先輩が真っ先に手当てしてくれますし」
「少なくとも、風花さんのゴマ団子を投げてるだけの穂乃果さんよりかは役に立ってるわね」
「ちょっと真姫ちゃん!それは酷いよ!!この前は少しは役に立ったじゃん!」
穂乃果と海未、花陽と真姫は慌ててことりにそうフォローを入れる。真姫の一言に穂乃果は反論したが、事実は事実なので否定のしようがなかった。しかし
「ううん……私は3人について行ってるだけだよ………私は…………」
穂乃果たちがそうフォローを入れるも、ことりは苦笑いして遠い目でそう呟くだけだった。ことりのその姿に、一同は沈黙してしまう。どうやら悠の件もあるせいか、完全に意識が遠くに行っているようだ。
「う~ん……こんな時にこそ悠先輩が居てくれたらなぁ~」
「そうやねぇ………全く義妹ちゃんが心配してるのに、どこで何してるんやろうか。あの人は……」
「………希先輩?」
「ウフフフ、そこは分かるんやね♪」
どさくさに紛れて"義妹"呼ばわりされたことりは希を睨み返す。どうやら落ち込んでいてもブラコン力は下がっていないらしい。そこは安心したのか、希は臆せずウインクして微笑みを返した。すると、
「ユウ?……それにナルカミ?……………もしかしてアンタたち、ナルやんの知り合い?」
穂乃果たちの会話を聞いて何か心当たりがあるのか、ネコさんが唐突にそう尋ねてきた。
「えっ?ナルやん?ネコさん、もしかして知ってるんですか!悠先輩のこと」
「ああ、だって」
ネコさんが何か言いかけた時、コペンハーゲンのドアが開いて誰かが入店してきた。
「ネコさん、頼まれてたものを持ってきて…………えっ?」
それは、何かを手に抱えているナルやん…もとい穂乃果たちの目的であった"
「さっき言った生写真の犯人とっちめた知り合いって、このナルやんだからね」
「「「「えっ?」」」」
ネコさんの言っていたことりの生写真事件を解決した人物。その正体は店の前で突っ立っている悠だった。予期せぬ時に目的の悠が現れたため、穂乃果たちはフリーズしてしまう。だが、それは悠も同じだった。
「お兄ちゃん…………」
「ことり…………その恰好は……」
悠は悠でことりのメイド服に見惚れていた。今まで音ノ木坂学院の制服、八高のセーラー、エプロン姿など見てきたが、今目にしているメイド服姿が一番ことりの魅力を引き出しているとうに見えたのだ。あまりの魅力に声を失ってしまい、何とかいつもの"ハイカラだ"という言葉を引き出そうとした。その時、
ーカッ!ー
「確保―――!!」
刹那、にこは思いっきり油断している悠に飛び掛かった。ことりのメイド姿に見惚れて完全に油断していた悠は反応が遅れてしまい、逃げる間もなくにこに取り押さえられてしまった。
「ぐおっ………や、矢澤!」
「ふふん!ようやく捕まえたわよ、鳴上!まさかこんなところに潜伏してたなんて盲点だったわ!」
まるで長い間追いかけていた犯人を追い詰めた刑事のような顔をしているにこ。何か目的と手段が逆転している気がするが、今ツッコんでも面倒くさいことになりそうなので一同は黙っておいた。そして、にこはトドメとばかりに関節を決めようとする。
「や、矢澤!ギブッ!ギブッ!ギブッ!!」
「はっはっは!これで大人しく……えっ」
だが、関節を決めようとしたがバランスをを崩してしまい、にこは倒れこんでしまう。その態勢を見た途端、穂乃果たちは絶句してしまった。何故なら……どうなったかは知らないが、悠がにこの胸に埋もれているような態勢になっているのだから。
「うっ……プハッ!な…何だ?さっきのサワサワとするような……絶壁のような…………あっ」
どこかデジャブを感じる展開に自分が今何をしているのかを察した悠だが、既に遅かった。ふと見上げると、こちらを見据えている
「鳴上ぃぃぃ…………アンタはまたしても……」
冷たい声でそう言うにこの目のハイライトは消えていた。そして、目の前の敵を滅ぼさんと言わんばかりに拳を構えた。
「それと……誰が絶壁だって?」
「こ、これは……って、矢澤!やめろ!!ジャ、邪拳だけは……」
悠は以前の恐怖が蘇ったのか、何とか弁明しようとまくしたてるがもう遅かった。
「ジャンケン……沈めぇ!!」
ドオオオオンッ!!
弁明する間もなく、にこの拳が悠に炸裂して悠は店から飛び出して向かいの電柱まで吹っ飛んでいった。
「な……何でさ……………(ガクッ)」
「お兄ちゃ―――ん!!」
前より相当威力が上がっているのか、一瞬で意識が刈り取られてしまった。悠を吹っ飛ばしてスッキリした顔をしているにこだが、目的である悠を沈めてしまっていることに気づいていない。
「にこっち………悠くんを沈めてどうするの?」
「あっ…………」
改めてぶっ飛ばしてしまった悠の方を見やる。ことりが一生懸命呼びかけているが、当人はかなりダメージを受けたのかしばらく目覚めそうにない。己のやらかしたことに気づいたにこは青ざめてしまう。にこは誰か取り合ってくれないものかと穂乃果たちに目を向けるが、誰も取り合ってくれなかった。
「にこっち?ワシワシ決定やね」
「ちょ、ちょっと待って!アレは鳴上が……きゃああああああ!!」
有無も言わさず希のお仕置きが執行され、穂乃果たちはその様子を唖然と見ることしかできなかった。いつも通りの光景だが、こんなカオスな空間に好き好んで入ろうとは思わなかった。
(((((そっとしておこう……)))))
「嗚呼……アンタたち、あんまり店で騒がないようにね」
ネコさんは目の前の光景に呆れながらも、穂乃果たちにそう言ってキッチンに引っ込んでいった。
ーto be continuded
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「今まで何してたの?」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「思うがままに」
「ハイカラだな」
「ずっと大好きだよ」
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