PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


希シャドウ出現!?一体どうなる?…………それでは本編をどうぞ!


#45「I'll never forget anything again 1/2.」

「あ、あれって……まさか、希先輩のシャドウ!?」

 

「そんな!」

 

希シャドウが出現したことにより、皆に緊張が走った。絵里がペルソナを手に入れて大円団という時に現れるとは思ってもみなかったのもあるが、希シャドウの雰囲気が今ま先ほどの絵里シャドウより…今まで遭遇したどのシャドウよりも禍々しいものであったからだ。

 

 

「あ、あれがウチの……シャドウ…」

 

しかし、それは希自身が一番驚いていた。すると、それが可笑しかったのか希シャドウはクスクスと笑った。

 

 

『ウフフ…何驚いているの?悠くんが好きなワタシ』

 

 

「「「「悠くん!?」」」」

 

 

希シャドウが悠を名前で呼んだことに一同は驚愕する。シャドウは人が心に抑え込んでた感情…強いて言うなら裏の顔が具現化したもの。いつもの行動から希が心の中でそう言っていてもおかしくはないが、いざ聞くととても驚いてしまう。だが、皆のその様子を見た希シャドウはまたからかうようにクスクスと笑いだした。

 

 

『なによ?何も驚くことはないじゃない。だって、私と悠くんは()()()()()5()()()()()()()なんだから』

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 

更に希シャドウがばらした情報に一同は驚愕してしまった。悠と希が幼馴染?今までそんなことは聞いたことはないし、それは従妹のことりでさえ悠から一言も聞いていなかった。

 

「希先輩、それ本当なの?」

 

「そ、それは……」

 

「お兄ちゃん!一体どういう……お兄ちゃん?」

 

希はずっと秘密にしていたことを思わぬところで暴露されてしまったため、しどろもどろになっている。ことりも悠に詰問しようとするが、悠が突然顔色が悪くなっているのに気づいて心配そうに声を掛けてくる。だが、悠はことりの声が聞こえないくらいの頭痛に苛まれていた。悠とて原因は不明だが、強いて言うならあの希シャドウが出現してから発症しているのは間違いない。

 

『あの時は楽しかったよね~。親の転勤でどこにも馴染めなかった私を悠くんは優しくしてくれた。一緒に家に帰ったり給食も食べたりてして、冤罪からも救ってくれた。まるで私の正義の味方……いいえ、白馬の王子様だった』

 

希シャドウは当時のことをうっとりとした表情で喜々と語っていた。その様子に普段の希からは考えられなかったので、一同はドン引きしてしまう。そうとは知らず、希シャドウの惚気た話は続いていった。当たり前の日常をスイーツに語っているので、聞いてて思わず砂糖を吐きたく気分に穂乃果たちは陥ってしまう。だが、

 

 

『でも……悠くんは私のことを忘れてた。濡れ衣を着せられた時に助けてくれたことも、一緒に家に帰ってたことも、全部悠くんは忘れてた!私はずっと悠くんのことを忘れてたことはなかったのに!!何で……何で陽介くんたちとの思い出は大切にして、私との思い出は大切にしてくれなかったの!!私が悠くんと再会してどれだけ嬉しかったか知ってるの!?』

 

 

人が変わったように責め立てる希シャドウの言刃が悠の心を切り刻む。自分だって忘れたくて忘れてた訳じゃない。言い訳がましいのかもしれないが、あの時の記憶は思い出したのは最近のことだ。

 

 

 

『でも、悠くんが私を忘れてたのは当然だよね?』

 

 

 

だが、今の責め立てていた表情が一変してまた最初の悪意のある表情に戻っている。

 

 

「そ、それって…どういう……」

 

希が恐る恐ると尋ねると、希シャドウはニヤリと不気味に笑って、思いもよらぬ爆弾を投下した。

 

 

 

 

 

『だって…悠くんが転校することになったとき、私は悠くんを神社に閉じ込めたんだからさ!』

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!っ」」」」

 

希シャドウがそう言った途端、希は知られたくなかったものを突きつけられたように目を見開き、身体が震え始めた。そして、悠の体調が急変する。頭痛・吐き気、それらが一気に悠に押し寄せてきた。悠の顔色が悪くなっていく様を見て、穂乃果たちは慌ててしまう。だが、それに構わず希シャドウは話を進めて行く。

 

 

『"悠くんと離れたくない、ずっと一緒に居たい"って思ったあなたは悠くんを神社に閉じ込めた。そうすれば、悠くんは転校しなくて済むって思ったから。でも、今からして思えばバカだよね?そんなことして、悠くんが転校しないことにはならないのにさ』

 

 

「ち、違う…違う!ウチはそんなこと」

 

 

『だから、再会した時に悠くんが私のことを忘れていることは悲しいと思ったと同時に好都合だと思った。それでまた一から関係を築こうとしたんでしょ?わざわざうろ覚えの関西弁で話したり、わざとらしく甘えたり、自分が悠くんの彼女だってデマを流したのも全てそう。あの時の自分を思い出されたりしたら、悠くんに嫌われるから』

 

 

「ち、違う!」

 

 

『だけど、今や悠くんはみんなの人気者。どうアプローチしようが、悠くんは私のことを見てくれない。それどころか、いつもいつも違う女がまとわりついてる。妙にヘラヘラと懐く後輩に、ぽっと出のくせに甘える偽妹、嫌いと装って近づこうとする親友……こんなんじゃ振り向いてもらえないじゃない』

 

 

そして、希シャドウはそう言って穂乃果たちを憎々し気に睨みつけた。その目から発せられる憎しみ・̪嫉妬…あらゆる負の感情を押し付けられた感覚に襲われ、穂乃果たちはたじろいでしまい動けなくなってしまった。動いたら殺される。そう感じる程の殺気を感じてしまったのだ。

 

 

『なら、悠くんを私しか見れないようにすればいい。悠くんは陽介くんたちやエリチたちじゃなくて、私だけを見ていればいいんだから!!』

 

 

「やめて!!」

 

とうとう耐え切れなくなった希は己の影に歯向かってしまった。

 

 

「な、鳴上くんは……鳴上くんの気持ちは鳴上くんのものや!ウチの気持ちは…」

 

 

『悠くんの気持ちはどうでもいい!悠くんは…あの時から私のものよ。第一、あなたは悠くんが私のことを本当はどう思っているか分かるっていうの?』

 

「えっ?」

 

 

『本心なんて分かりっこない。例え悠くんが私のことをどう思っているかを聞いたとしても、それが悠くんの本心だなんて確かめる術はないじゃない。だったら、自分の都合の良い幻想を押しつければいい。だって、人の本心を知ったところで何も良いことなんてないんだから』

 

 

この希シャドウの言葉を聞いた途端、頭痛の最中で悠は違和感を覚えた。まるであの時と一緒だ。りせを助けた後に起こったあの事態に。だが、今はそれを気にしている場合ではない。

 

「ち、違う……違う……ウチは…」

 

 

『ウフフフ……否定したって誤魔化せないよ。だって、私はあなた…"東條希"。あなたがずっと抱いていた私……』

 

 

「やめて!違う!違う!違う!!ウチは…私は!」

 

「希先輩!!」

 

 

とうとう心が耐え切れなくなった希は頭を抱えてしまう。その証拠に声も身体も小刻みに震えて、懐から零れてばら撒かれているタロットカードの存在に気づいていない。もうこうなってはあの"禁句"を言ってもおかしくなかった。

 

「希……それ以上は」

 

穂乃果たちは希があの禁句を言うのを阻止しようとするがもう止められなかった。

 

 

 

 

 

「あなたなんか…私じゃない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うふふ…ウフフフフフフフ……あははははははははははははは!あーっはっはっはっは――――――!!これで悠くんは私のもの――――――――!!

 

 

 

 

 

 

希が禁句を口にした途端、希シャドウは歓喜の声と共に、禍々しいオーラに包まれていった。そして、その包むオーラの大きさはどんどん大きくなっていき、姿が変わった希シャドウが現れた。頭部に2本の巨大な角と、蝶のような羽を生やし周囲にタロットのようなカードが漂い、背後には巨大な髑髏と無数の触手が現れている魔女に変貌していた。変わり果てた希シャドウの姿に悠たちは絶句してしまう。その神々しくも禍々しい風格や雰囲気に圧倒されてしまい、悠ですら勝てる気がしなかった。

 

 

 

 

我は影……真なる我………ウフフフ…今まで悠くんの面倒を見てくれてありがとう。お礼にあなたたちに真実を教えてあげるわ

 

 

 

 

「し、真実?」

 

希シャドウから発せられる声に怯えながらも悠は聞き返す。そして、希シャドウは満悦な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

 

 

今から悠くんは今までのことを忘れるってことよ

 

 

 

 

 

その瞬間、悠の視界が白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

――――――――――ここは?

 

 

 

 

目が覚めると、悠はどこか真っ白な空間にいた。何か霧がかかってて辺りがハッキリと見えない。おかしい、確か自分はついさっきまでここではないどこかでに居たはずなのに。こんなところに来たことなんてないのに。だが、それよりも……

 

 

 

――――――――――何も…思い出せない………

 

 

 

さっきまで何かあったはずなのに何も思い出せない。それどころか、自分の中にある大切なものたちまでも思い出せない。どれだけ記憶を探っても何も思い出せない。それどころか、自分の中の何かがシャボン玉のように消えていく。今まであったものが空っぽになっていく。そう感じると悠は自然と怖くなった。

 

 

"からっぽ……君も同じ……からっぽ……"

 

 

いつか誰かにそう言われた気がする。自分は"からっぽ"。何もない……"からっぽ"。友達も思い出も、誰かのつながりも記憶もない"からっぽ"。そんな自分に…生きている価値なんてないのだろう。恐怖がやがて諦めに変わり、視界も真っ暗になっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫?悠くん』

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、誰かに抱きしめられた。どこか暖かくて安心感のある抱擁。それはまるで母親の抱擁のように感じられた。それに…この声は………

 

 

 

『怖い夢でも見たの?でも、安心して。ウチがずっと…傍にいてあげるから』

 

 

 

見上げてみると、そこには優しい笑顔を浮かべる少女がいる。

 

吸い込まれそうな大きな瞳に、艶のかかったツインテールの長い髪……

 

そして、悠は思い出した。ずっと会いたかった少女がそこにいる。親の転勤で孤独だった自分に優しくしてくれた、希望を与えてくれた彼女がそこにいる。悠は思わず涙してしまった。彼女の名前は

 

 

 

 

 

「希……」

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠先輩!どうしたの!!悠先輩!!」

 

 

白い光が消えた途端、穂乃果たちの目に映ったのは仰向けに倒れている悠の姿だった。慌てて駆け寄って声を掛けるが、悠は全く応答しない。それどころか、まるで眠っているかのように反応しなかった。

 

 

ウフフフ……私の魔法で悠くんの記憶を改ざんしたのよ。今までの記憶を全部消去した上でね

 

「えっ?」

 

今はまだ眠ってるけど、悠くんはもうあなたたちのことを忘れてるわ。もちろん稲羽の陽介くんや菜々子ちゃんたちのこともね。だって、悠くんは私のことさえ覚えていれば良いんだから

 

 

その瞬間、穂乃果たちは息が止まったような感覚に陥った。悠が自分たちのことを忘れる?それはつまり……

 

 

「もしかして……穂乃果たちを助けてくれたり一緒に事件を解決したり……GWのことも忘れちゃうの」

 

 

穂乃果の頭の中に今まで悠と過ごした思い出が蘇る。

 

悠と初めて神田明神で出会ったこと

テレビの世界に迷い込んだときに助けてくれたこと

ファーストライブのこと

家にバイトに来てくれたこと

P-1Grand Prixで一緒に奮闘したこと

 

 

「お兄ちゃんが……ことりを忘れる……いやだ…いやだよ!」

 

ことりも泣きながら今までのことを思い出していた。

 

幼い時に引っ込み思案だった自分と遊んでくれたこと

自分の料理を美味しそうに食べてくれたこと

自分を本当の妹のように接してくれたこと

ブッキングだったとはいえデートしてくれたこと

 

 

忘れてしまう。全て忘れてしまうのか。穂乃果とことりはあまりに唐突なことに言葉を失っていた。しかし、そんな穂乃果とことりの傍で希はガタガタを身体を震わせていた。その表情は恐怖のせいか正気を失っているように見えた。

 

 

 

 

「ウチのせいで……ウチのせいで………鳴上くんが………いやああああああ!!

 

 

 

 

自分のせいで悠が大事にしていたものを奪われた。稲羽で陽介や雪子たちと過ごした何気なくも大切な日常、菜々子や堂島たちとの思い出が失われる。希は自分のせいで悠が記憶をなくしてしまうことに耐えられなかったのか、ショックで気絶してしまった。

 

 

 

ウフフフ……何言ってるの?これは全部あなたが望んだことなのに……これで悠くんは………!!っ

 

 

 

瞬間、希シャドウに鋭い攻撃が襲い掛かる。紙一重に躱してそれを放った者の正体を確かめる。見るとそこには、怒った表情で睨みつける海未の姿があった。

 

 

 

 

「絶対に…許しません!!そんなこと絶対にさせません!」

 

 

 

 

 

ハァ?

 

 

「あなたのそんな自分勝手なことで、鳴上先輩の……私たちの思い出を消させません!!」

 

 

希シャドウを睨みつけてそう言い放った海未。今でも思い返す。テレビの世界に迷い込んだ自分を助けてくれた、自分を頼りになると褒めてくれた、自分の悩みに真摯に向き合ってくれた。自分のことを褒めてくれて、こんなにも嬉しかったのは両親以外で悠が初めてだった。そんな大事な自分との記憶を自分勝手に消そうとするとは、絶対に許さない。それは皆も同じだった。

 

 

 

「凛だって……鳴上先輩に助けてもらったにゃ……」

 

出会って早々、誘拐犯と勘違いして迷惑をかけてしまった。自分のシャドウに殺されそうになったのに、それでも親友を助けたいという我儘を聞いてくれて、自分と向き合うのに協力してくれて助けてくれた。

 

 

 

「鳴上先輩は…こんな私の悩みを聞いてくれました……」

 

ライブのことを聞きたかったのに、思わず挙動不審になって勢いに乗ってアイドル話に花を咲かせてしまった。変な子と思われてもおかしくなかった自分に優しく接してくれて、心に抱えていた悩みを解決してくれた。

 

 

 

「まだ……鳴上さんに教えてもらいたいことがあるもの……」

 

あの時、自分の演奏を聞いてもらったのに盗み聞きだと失礼な態度を取ってしまった。それでも演奏を褒めてくれて、更には自分のくだらない悩みを聞いてくれた。あの時、あの場所で出会ったから今の自分がここにいる。

 

 

 

「アンタを倒せば、鳴上は戻ってくるのよね?」

 

最初は久慈川りせの知り合いとしか見ていなかった。その後、胸を触られたり、妹弟に妙に懐かれたりとされたが、こんな自分勝手で最低な自分を可愛いと言ってくれた。今まで誰にも受け入れてもらえなかった自分にとって、それだけでも救われた出来事だった。

 

 

 

 

「それなら、私たちがすることはただ一つです。ここであなたを」

 

 

 

 

 

「「「「倒すっ!!」」」」

 

 

 

 

 

海未を筆頭に凛や花陽、真姫とにこも覚悟を決めて立ち上がる。悠と希との間にどんな過去があったかなんて分からない。どんな気持ちだったかは知らない。それでも……己の望みのために自分たちとの思い出をなくそうとするなんてことは絶対に認めない。そう示すように、海未たちはペルソナを召喚して戦闘態勢を取った。だが、そんな海未たちを嘲笑うかのように希シャドウはクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

ウフフフフ……な~んて身勝手な子たち。こんな子に束縛されてちゃ悠くんも可哀そうよね。本当はあなたたちも記憶を消してあげようかと思ったけど。良いわ、そう言うことなら……教えてあげる。あなたたちの無力さ、そして……ここで悠くんに忘れられて朽ちる未来をね

 

 

 

 

希シャドウはそう言うと、自身から漏れだす禍々しいオーラを増大させる。当の本人にとっては威嚇のつもりなのだろうが、それでも今までのシャドウとは格が違う。だが、あのGWで敵対したヒノカグツチほどではない。それに、どんな強敵が現れようとも決して諦めない。そんな大切なことをあの時、悠たち特別捜査隊に教えてもらったではないか。ここで退くようでは悠や陽介、千枝たちに追いつけない。そう覚悟を決めて海未たちは構えを取る。

 

 

 

「私もやるわ」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

すると、今までのやり取りを聞いていた絵里がゆらっと立ち上がって自身の参戦を宣言する。予想外のことに海未たちは驚いてしまった。

 

「あなたたちだけ戦って私は見てるだけだなんて、我慢ならないもの。それに、鳴上くんは一緒に"本当にやりたいこと"を見つけてくれるって約束してくれたのに……それを忘れるなんて、絶対にさせないわ」

 

絵里から確固たる意志を感じる。自分を助ける時に、約束してくれたのだ。だが、ペルソナをたった今覚醒したばかりの絵里がまともに戦えるとは思えない。しかし、本人はやる気満々だった。

 

 

「行くわよ。確かこうやって……」

 

 

絵里は悠を真似て掌にタロットカードを発現させる。発言したタロットカードのイラストは【正義】。そして……

 

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

「ペルソナ!!」

 

 

 

 

 

 

タロットカードを砕き、己のペルソナを召喚する。

 

 

月の光のように輝く長い金髪

白銀色の甲冑服

旗の形をした剣

 

 

これぞ己の闇を乗り越えて覚醒した絵里のペルソナ【テレプシコーラ】の姿だった。皆を奮い立たせる毅然とした雰囲気はまさに救国の聖女を彷彿とさせる。まさに絵里のイメージにピッタリのペルソナだった。

 

 

 

「さあ、行くわよ!死ぬ気で食らいつきなさい!」

 

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

 

絵里が鼓舞することにより士気が上がった。立ち向かう。悠のために、己のために、希を救うために……これからもずっと悠と一緒に日常を送るために、海未たちは手に力を込めて希シャドウとの戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

気がつくと、悠はいつもの自室で目が覚めた。なんだが悪い夢を見ていた気がする。何かファンタジーみたいだったが、現実味があるような夢。不思議なこともあるものだなと思いながら、悠はベッドから起きた。リビングに出ると、キッチンで朝食を作っている()()()()()()姿()があった。その姿を確認した悠はタイミングを見て希に朝の挨拶をする。

 

 

「おはよう」

 

「おはようさん、悠くん。今日はちょっと早かったね。昨日もバイトやったんやろ?」

 

 

希が挨拶して早々に心配そうにこちらを見てそう言った。悠は放課後はバイトなどで疲れて帰ってくることが多いので、大抵朝は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが多い。しかし、今日は妙に目が冴えたのだ。

 

「ああ、ちょっと悪い夢で目が覚めてな」

 

「悪い夢?」

 

「俺がテレビの中に入って、そこで起きた事件を解決するっていう夢だ。変な話だろ」

 

「ウフフ、そうやね」

 

悠の話を聞いて面白そうに笑う希。あまりに綺麗な笑顔だったので、悠もそれにつられて笑ってしまった。そして、テーブルには希お手製の朝ごはんが並べられていた。白米・あさりの味噌汁・卵焼き・鮭の塩焼き。今日は和食かと思いながら、希と共に椅子に座る。

 

 

「「いただきます」」

 

 

この世の全ての食材に感謝する言葉もいつも通りはもって、希の朝食に箸をつける。

 

「美味しい」

 

「そう?それは良かったわ」

 

いつも通り希の料理は絶品だった。悠もそれなりに自信はあるが、流石に希と比べたら見劣りしてしまう。それに、この味付けも悠好みにアレンジされている。やはり()()()()()()()()()()と分かるもんなのかと感じてしまった。希の嬉しそうな表情を見るとこちらも嬉しくなる。不意に希とこのままずっと過ごせたらどれだけ幸せだろうかと考えてしまった。

 

 

 

 

「ほな、一緒に学校に行こうか」

 

「ああ」

 

 

一緒に皿洗いをして準備を整えると、悠と希は()()()()()学校へ向かう。そして、いつも通り希は自然に手を繋いできたと思えば、腕に絡みついてきた。

 

「の、希…」

 

「ええやん、いつものことやろ?」

 

希は当然のようにそう言うので、悠はやれやれと肩をすくめた。小学生時はそうでもなかったが、中学生になってから悠が女子にすごくモテ始めたので、危機感を感じた希は周りにアピールをしようと登校中に腕を組んでくるようになった。その甲斐あって周りは2人をカップルと認識したのか、女子が悠に言い寄ることは少なくなっていった。だが、どうにも癖になってしまったらしく、その時からこうして()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。悠とて希と腕を組んで登校するのは満更ではないが、日に日に成長していく希の胸の感触が気になりだして、どうしたもんかと考えているのは本人には内緒である。

 

そんな調子でいつもの通学路を歩く2人。さて、今日はどのような一日になるのだろうか。悠はそんなことを考えている。すると、

 

 

 

「悠くん……ずっとこんな日が続いたらいいね」

 

 

 

希がスッと身体を預けるように悠にそう言ってきた。それに対して、悠はこう返した。

 

 

「そうだな」

 

 

ふと希が発した言葉を悠は肯定する。ついさっき自分も同じことを思った。小学生の時は少し遠慮することが多かったが、正直悠は今の生活をとても気に入っている。それは単純に希が悠を好きなように、()()()()()()()()()だろう。高校や大学を卒業しても、出来れば社会に出ても、ずっとこのまま希と一緒に過ごせたらいい。そうであればどれだけ幸せだろう。悠はそんなことを考えた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"本当にこれでいいの?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、そんな声が聞こえたと同時に目の前に見知らぬ少女が姿を現した。青いハンチング帽を被ったショートの黒髪の綺麗な女の子。その透き通ったエメラルド色の目はしっかりと悠を見つめていた。

 

 

「君…は………」

 

 

少女はこちらを知っているように見つめてくる。悠は記憶を探るがこんな少女に出会った記憶はなかった。会ったこともないはずなのに、何故か悠はこの少女を知っている気がした。隣にいる希もこの少女のことを知らないはずなのに、まるでありえないものを見ているかのような表情をしている。

 

 

 

"本当に悠はそれでいいの?真実に向き合わないで…それでいいの?"

 

 

 

「向き合う?……うっ」

 

 

少女の言葉に無意識に反応した途端、激しい眩暈に襲われた。何とか立ち直ろうと意識を保つが、一向に治まらない。すると、モヤッとだが見たことがない光景が悠の目にうっすらと映り始めた。

 

 

 

「なんだ…これは?」

 

 

 

目に映るのは見たことがない田舎町の光景。そこで悠に手を振っている灰色のスーツの男性にその後ろにモジモジと隠れる小学生の女の子。そして、場面は切り替わって次に映ったのは、電車に乗る悠を寂し気に見送る少年少女たち。首にヘッドフォンをつけている少年に緑色のジャージ、赤いセーターが特徴的な少女たち。悠に向かって何か言っているようだが、聞こえない。

 

 

そして、場面が変わってどこかの学校の屋上の風景が映し出される。そこに悠を待っていたかのように笑顔を向ける少女たちがいた。

 

 

太陽のような笑顔でこちらに手を振る子

大和撫子を彷彿とさせる子

天真爛漫な笑顔で腕に抱き着いてくる子

目がくりくりとした茶髪の子

元気いっぱいのオレンジ髪のショートの子

チラチラとこちらを見る赤い髪の子

勝気な笑みが特徴的なツインテールの子

 

 

 

 

 

「…誰だ…誰なんだ………誰なんだ!!」

 

 

 

 

そう思い始めた途端、悠の周りにあった世界が歪み始めた。まるで、それが今まで幻想であったように。それと同時に悠に激しい頭痛が襲った。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

「やーっ!」

「にゃーっ!」

 

 

戦闘開始から希シャドウを牽制して、海未と花陽と凛は己の得意の魔法を希シャドウに向けて解き放つ。三方向から解き放たれた魔法は希シャドウに直撃する。だが、

 

 

ウフフフ…

 

 

その直前に希シャドウは周囲に漂っていたカードを3枚手に取って微笑んでいた。そして、海未たちは驚愕する。直撃したはずの魔法が打ち消されていたのだから。

 

「「なっ!」」

 

「そんな!当たったはずなのに」

 

ウフフフ…無駄よ。あなたたちのことはカードが全部お見通しだから

 

希シャドウは海未たちの驚愕の表情を面白そうに見ながらそう言った。すると、

 

 

「そこよっ!」

「せいっ!」

 

 

死角から絵里と真姫が果敢に攻める。ペルソナを初めて召喚したばかりとは思えない身のこなしと動きに海未たちは驚嘆する。悠がこの場を見ていたなら、特捜隊の直斗を思い返すだろう。それに負けじと真姫も全力で攻撃する。だが、そんなことは希シャドウの前では関係なかった。絵里の攻撃も全て希シャドウのカードによって難なく無効化されてしまった。

 

 

「ぐっ…先ほどの絵里先輩のシャドウより厄介ですね」

 

「そうね……何かは分からないけど、どうやら私たちのペルソナを把握しているみたい」

 

 

占いを嗜みとしている希のシャドウ故か、あのタロットカードで海未たちのペルソナの性能・属性などは全てお見通しらしい。だとしたら、非常に厄介だ。こちらのことは全て向こうに筒抜けなのだから。

 

 

 

お返しよ

 

 

 

すると、希シャドウは周囲の空間に魔法陣を幾つか展開させて、そこから魔弾らしきものを海未たちに向けて撃ち放つ。あまりに速いスピードで迫ってきたので、避けるのは無理と判断した海未たちはガードに徹する。だが、

 

 

 

「「「きゃあっ!」」」

 

 

 

しっかりガードしたはずなのに、まるでそれが無意味だと言わんばかりに大ダメージを受けた海未と凛と花陽。表情からまるで、苦手属性の攻撃を受けたようだった。まさか希シャドウは自分たちの弱点をも把握しているというのか。思わぬ攻撃に海未たちは怯んでしまう。だが、容赦なしに次々と希シャドウは魔弾を撃ってくる。

 

 

(くっ……何とかしなきゃ………)

 

 

悠が不在の今、皆を引っ張る存在として自分がこの状況打開しなくては。絵里は魔弾に耐えながらも必死に対策を考える。だが、そんな余裕を希シャドウが与えることはなく、そんなことを考える時間はなかった。

 

 

 

 

 

 

「悠先輩!起きてよ!悠先輩!!」

 

「お兄ちゃん!ことりを思い出して!!お兄ちゃん!」

 

 

海未たちが思わぬ苦戦を強いられている中、未だに目覚めない悠に穂乃果とことりは必死に呼びかけていた。どれだけ必死に声をかけても悠は目覚めない。それに、あの隙のない希シャドウ相手にいつ海未や絵里たちに限界がくるかは分かったものじゃない。一刻も早く悠を目覚めさせなければ勝機はない。

 

 

「な、何かなにかな…何かないかな……そうだ!ことりちゃん!」

 

「何か思いついたの、穂乃果ちゃん!!」

 

 

秘策を思いついたのか、穂乃果はピンと閃いたと言った顔をしたので、ことりは期待を込めた目で聞き返す。穂乃果はそれに自信満々と言った感じでこう答えた。

 

 

 

 

 

「悠先輩にキスしてよ」

 

 

 

 

 

「「「「「…………………はっ?」」」」」

 

 

「ええええええっ!!」

 

 

穂乃果から発せられたとんでもない提案に、数秒遅れでことりは素っ頓狂を上げてしまった。それはしっかりと戦闘中の海未たちにも届いており、こちらは言葉を失っていた。

 

「ええって何で!?ことりちゃん、できるでしょ!ほら、王子様のキスで目が覚めるってよくあるじゃん。悠先輩はシスコンだから、ことりちゃんのキスだったら目覚めるよ!」

 

発想があまりに幼稚すぎる。それに、その発言のせいで、この場にいる者たちの殺意が自身に向けられているのに気づいていないのだろうか。だが、予想に反して、ことりは顔を一気に紅潮させてあたふたとしていた。

 

 

「で、できないよ~!だって…お兄ちゃんとキスなんて……もっと手順を踏んでからじゃないと」

 

「ちょっと!いつもあんなスキンシップ取っておいてそれはにないよ!何でそこだけ純情なの!いいから早く!!悠先輩がこのままでいいの!?」

 

「それとこれは話が別で…………お兄ちゃんとは星空の下で夏の大三角形とかを一緒に探して愛を語ってから……」

 

「ことりちゃん、こだわり過ぎだよ!それとそのシチュエーション、どこかで聞いたことあるし!」

 

 

緊迫した状況には似合わないコントのようなやり取りに、海未たちのみならず希シャドウまでも唖然としてしまう。第一穂乃果の言う通り、従兄妹とはいえ日頃から周囲も恥ずかしくなるスキンシップを取っておきながら、そこでヘタレるのはどういうことだろうか。もう殺意を通り越して呆れてしまった。

 

 

「いいから、やってよ!」

 

「だから!…あっ」

 

 

悠にキスするしないと言い争っていると、穂乃果のポケットから一つの物体が飛び出した。その正体はまだ残っていた風花特製の物体X。それは勢い余って、悠の口に入ってしまった。そして、

 

 

 

「(パクッ)…………………(チーン)」

 

 

 

「「悠センパーイ!(お兄ちゃーん)」」

 

 

 

風花の物体Xを口にしてしまい、悠は白目になってしまった。更に最悪なことに、口から紫色の蒸気が出てきている。流石はシャドウも恐れる物体Xと言うべきか、これはもう瀕死状態だ。

 

 

「穂乃果ちゃん何やってるの!?これじゃあ助けるどころか、お兄ちゃんにトドメ刺しちゃったみたいじゃん!!」

 

「ごごごごご、ごめんなさ~い!だって、まだ風花さんのゴマ団子が残ってるとは思ってなくて」

 

 

見事さっきまでのポジションが逆転した。更なる非常事態に一同は困惑する。先ほどまで自分たちをシャドウたちから守ってきた物体Xがまさかのところでキバを剥くとは思わなかった。それを見た希シャドウは唖然としてしまったものの、すぐに満悦な笑み浮かべて笑いだした。

 

 

ウフ…ウフフフフフ、アハハハハハハハ!あれ?こ、これは……どういう………

 

 

だが、希シャドウは己の目論見が予想より早く成功して高笑いしたかと思えば、突然表情が一変した。それは己の目論見が成功したというより、その逆の表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

――――な、なんだ!この味は!!

 

 

 

突然口から感じてきた激痛に、悠は悶えてしまう。甘さと辛さと苦み、臭さが一気に訪れて、何にを食べているのか分からなくなるほどの不味さ。じゃりじゃりしてドロドロして、ブヨブヨの部分もあって、気持ち悪くなる。まるで、新食感。頭痛に加え、これはもう地獄としか思えない。その時、

 

 

 

 

―――なんじゃこりゃあぁぁ!!お前ら!どんなもの作り方しやがった!!

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

突如、悠の耳に何かに絶叫する誰かの声が聞こえた。おそらく自分と同じものを食べて酷い目にあった少年の声。その声にはどこか聞き覚えがあった。

 

 

―――やっぱり、味見すれば良かったね

 

―――その勇気はなかった……

 

 

次はその料理を作った張本人であろう少女たちの声が聞こえてきた。原因は味見をしなかったせいなのか。味みは料理の基本だろうに、それをしないとは一体どういうことだろうか。

 

―――カレーは普通辛いとか甘いとかだろ!アレ臭いんだよ!!

 

 

 

 

 

―――新食感だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

思い出した。これは去年の林間学校の記憶。それが呼び水のように連鎖して、悠の脳裏に次々とハッキリとした記憶がフラッシュバックした。

 

 

 

 

親が海外出張のため、一年間過ごすことになった八十稲羽。

そこでお世話になった叔父と菜々子、知り合った仲間たちとの出会い

沖奈市での密着計画

散々な目に遭った林間学校や文化祭

バイトやたくさんのイベントにあった夏休み

新たな体験をした修学旅行

みんなで行ったスキー旅行

クリスマス・正月・バレンタイン

"マヨナカテレビ"という謎の噂を鍵とした連続殺人事件

 

 

 

 

そして、鮮明に思い出すそこで出会った一生ものの仲間と家族

 

 

 

―――頼りにしてるぜ、相棒!

 

―――"マヨナカテレビ"って知ってる?

 

―――大丈夫、痛くしないから。

 

―――俺、センパイに一生ついていくっス!

 

―――愛してるよ!センパイ!

 

―――うっほほ~い!流石センセイクマ~!

 

―――僕に任せてください、鳴上先輩。

 

 

「陽介…里中…天城…完二…りせ…クマ…直斗…」

 

 

 

―――ななこ、将来おにいちゃんとケッコンする!

 

―――お前も俺たちの家族だ、悠。

 

―――全く悠くんは変わらないねえ。

 

 

「叔父さん……菜々子……足立さん……」

 

 

 

場面は切り替わり、舞台は東京へ。

 

 

神田明神での突然の出会い

再び映ったマヨナカテレビ

お客が3人しかいなかったファーストライブ

穂むらでのバイト

りせ・花陽・ことりを巻き込んだトリプルブッキング

GWでのP-1Grand Prix

真のリーダーを決めるリーダー戦争

ラブライブのエントリーがかかった定期試験

 

 

そして、そこで出会った特捜隊メンバーに負けない個性を持った少女たち

 

 

―――悠先輩、ファイトだよ!

 

―――は、ハレンチです!

 

―――ことりのお兄ちゃんは最強なんだから。

 

―――お陰で食欲が増えました!

 

―――凛も頑張るにゃ!

 

―――い、イミワカンナイ!!

 

―――にっこにっこに~!

 

―――ありがとう…鳴上くん

 

 

「穂乃果…海未…ことり…花陽……凛……真姫……にこ…絵里…」

 

 

そして、今まで稲羽・東京で出会ってきた人たちとのことも蘇ってくる。

 

 

―――出前、お届けにきた~

―――バスケ部に入らねえ?

―――負けるなよ、鳴上

―――だからエビじゃなくて、海老原!

―――先輩のお陰で自信を持てました

 

 

―――悠くん、無理しないでね

―――卒業後にここで働かない?

―――頑張ってください

―――娘のこと、よろしくね

―――鳴上さんが私のことを覚えててくれた~!

―――鳴上くん、任せたで!

 

 

悠は思い出すべきものを見て、涙してしまった。自分はこんなにも大切なものを忘れかけていたのか。キッカケは最悪なものだったが、それでも思い出せて良かったと思う。全くどういう作り方をしたら、あんなものを生み出せるのか。今度、風花に問い詰めなければならない。ああ、愛屋の肉丼が食べたい。菜々子とことりの手料理があれば、もっと良い。そして、陽介や穂乃果たちと食卓を囲んで食べられたら最高だ。そう考えると自然に笑みがこぼれてしまう。その時は是非ともラビリスや桐条さんたちも呼ぼう。もっと賑やかになって楽しいだろう。だが、それよりも…

 

 

 

―――助けて……助けて………悠くん

 

 

 

そうだ、まだ終わっていない。まだ現実では彼女たちが戦っている。そして、"彼女"が己の過去で苦しんでいる。あの時のように、助けを求めている。今の"彼女"を助けられるのは…自分だけだ。悠を涙を拭いて覚悟を決める。あの日のことを思い出すために。それがみんなを…"彼女"を救うための鍵になる。

 

 

 

"やっといつもの悠に戻ったね。心配かけないでよ……バカ…サイアクサイテー……テンネンジゴロ……"

 

 

 

ふと後ろから懐かしい声がツンとした調子でそう言ってきた。気配から後ろにあの青いハンチング帽の少女がいるのだろう。全く何故自分は何も悪いことはしてないのに、罵倒されるのか。だが、こんなやり取りが彼女らしい。自分に忘れ物を届けてくれた彼女に感謝を込めて、決して後ろを振り返らずに悠はこう言った。

 

 

「ああ…心配かけてごめんな。ありがとう、マリー」

 

 

悠はマリーにいつも通りにそう言うと、扉を開けるように手を伸ばした。どんなことが待ち受けていようと、自分はそれを受け止めてみせる。何故なら、自分の信念は"真実から目を背けないこと"なのだから。

 

 

 

 

 

"必ずあのフシギキョニュウを助けてよね、悠"

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

次に意識が戻ると、あの過去夢の中の懐かしい神社の境内に立っていた。そして予想通り、本社前に幼い頃の悠と希がそこにいる。どうやらまだ事が起きる前だったようだ。今回こそはこの場で何があったのかを見極めてやる。そう意気込んでいると、悠の周りにシャドウたちが立ち塞がった。ご丁寧に幼い悠と希を見せないようにしている。立ち塞がるシャドウたちに悠は冷たく言い放った。

 

 

「俺に真実を見せろ」

 

 

悠はそう言ってに日本刀を抜刀してシャドウたちを斬り捨てる。だが、シャドウが消滅してもまた同じシャドウが同じように出現する。どうしてもこの場面を見せたくないのか、あからさま過ぎる。その姿勢に悠は一層腹を立てた。

 

 

「見せろって言うのが聞こえないのか!!」

 

 

怒りに任せて次々とシャドウを斬っていく悠。だが、それに負けじとシャドウがどんどん増えて行く。斬っても斬っても増大していき、その密度は増していく。そして、辺りが完全にシャドウに埋め尽くされてしまった。まるで、そこが地獄のように。この数は流石に捌ききれない。このままではシャドウの群れに飲み込まれてしまう。ようやくここまで来たのに、ここでまた終わってしまうのか。そんなことを考えてしまったときだった。

 

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

 

 

 

 

 

突如目の前に青白く光り輝く【永劫】のタロットカードが出現した。それは一瞬で砕かれ、見覚えのあるペルソナが姿を現した。十二単のようなものに囲まれ、ウサギを模した姿をした赤い身体。そのペルソナは【カグヤ】。その名のように、まるで月のような輝きに満ちた雰囲気にシャドウたちは慄いてしまう。カグヤは現れたかと思うと、光魔法でシャドウたちは一瞬にして消え去っていった。その姿や佇まいに悠は思わず呆けてしまう。カグヤのお陰でシャドウがいなくなった。これで邪魔もなくあの続きを見ることが出来る。再び神社の方に目を向けると、そこに悠が知りたかった真相があった。それを見た悠は最初は声も出なかったが、何とか声を出してこう言った。

 

 

 

「はは、そうか…そう言うことだったのか」

 

 

 

その瞬間、悠の中に眠っていた宝玉たちが輝きを発し始めた。

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

「もう…ダメです……」

「こんなところで………」

 

 

何度目かの希シャドウの攻撃を受けてしまい、とうとう海未たちは力尽きたように膝をついてしまった。皆息切れして、ペルソナも己もボロボロだ。これでは、もうまともに戦えない。その反対に、こちらに迫りくる希シャドウはイライラとしていた。まるで、思っていた通りにいかなかった子供のように。

 

 

 

よくも…よくも……もういい!そのまま死になさい!!

 

 

 

希シャドウは怒り狂い、空中に魔方陣を今までの倍の数ほど展開して海未たちに向ける。そして、容赦なしに全弾を海未たちに向けて解き放った。避けようにもあの数では避けきれないし、何とか斬り返そうにもこちらはもう手負いでそんな体力はもうない。完全に詰みだ。

 

 

(これで…終わりなの……そんな)

 

 

結局何も出来なかった。最後の最後にドジを踏んで、悠の記憶を取り戻すどころか瀕死の状態まで追い込んだ。挙句に、このざま。もうダメだ。自分たちが死んでも記憶を書き換えられた悠にとって、自分たちはもう赤の他人でしかない。魔弾が迫りくる中、穂乃果は心の中でそう絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。俺が来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!」

 

 

そう諦めかけたその時、不意に誰かの声が聞こえた。すると、穂乃果たちに向けられた光弾は突然発生した落雷によって消滅し、辺りに粉塵が立ちこめる。それをやったのは雷撃属性である凛のタレイアではなかった。そして、立ちこめる粉塵が晴れると、その正体が姿を現した。現れたその姿に穂乃果たちは驚愕する。目に映ったのは黒い長ランにハチマキ、何度も穂乃果たちを守ってきた大剣だった。

 

 

「い、イザナギだ。悠先輩のイザナギ……ってことは」

 

 

 

まさかと思い、穂乃果たちは後ろを振り返ってみた。

 

 

 

 

 

 

「待たせて悪かったな、みんな」

 

 

 

 

 

 

そこにはイザナギを背後に従えている(ヒーロー)の姿があった。(ヒーロー)は日本刀を肩に乗せて、音ノ木坂のブレザーどころかカッターシャツまでボタンを全開にしている。それが関係しているのかは分からないが、悠のイザナギが心なしか前よりも雰囲気が違うように見える。まるで、何かが吹っ切れたように。

 

穂乃果は思わず泣いてしまった。さっきまで別人のように眠っていた人はそこにはいない。自分が心から慕い、戻ってくるのをずっと待っていた先輩の姿がそこにあったのだから。穂乃果は泣きじゃくりながらも悠にこう言った。

 

 

 

 

 

「遅いよ……ずっと待ってたんだよ……悠先輩」

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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「な、鳴上先輩!」

『なんで…なんで……』

「あの時のリベンジができる」

「ウチは……」



「俺は……"鳴上悠"だ!」



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