PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

気づけば今日でこの作品を書いて一年が経ちました。今思えばあっという間だったように感じます。色々とありましたが、この一年間の中でお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・評価を下さった方々、本当にありがとうございます!皆さんの応援でここまでやって来れました。

まだまだ至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


希とテレビに入ってしまい、彼女との記憶を思い出した悠。果たして……それでは本編をどうぞ!


#43「True Feelings」

 あれからどれだけ時間が経っただろう。意識が朦朧として何もハッキリしない。ただ幽かに覚えているのは、彼女の吸い込まれそうな大きな瞳に艶のかかった長い髪…そして、思い出した眩しい笑顔。

 

 

 あの時のことを思い出す。転校初日に誰とも関わらず、ただ窓から見える景色を見て黄昏ていた自分に話しかけてきたあの少女を。いつもなら鬱陶しいと思っていただろう自分だが、不思議とこの少女にそれは感じられなかった。それから一緒に時を過ごすうちに、段々少女に対して親しみを感じ、少女が濡れ衣を着せられた時は、犯人や傍観者に対して怒りを抱いた。思えば、家族以外でそう思える人物は初めてだった。

 

 

"鳴上くん!良い名前だよね!"

 

 

 おそらくあの時だったのだろう。自分が少女に対して特別な想いを持ったのは。初めて人を特別だと思った少女…

 

 

 

 

"私の名前は……"

 

 

 

 

 今なら思い出せる。あの時、彼女が口にした名前は…彼女の名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

"東條希"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 美しいピアノのメロディーとで悠は意識が覚醒する。目の前に広がっていたのは床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。いつの間にか、自分はベルベットルームを訪れていたらしい。

 

 

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 

 

 聞き慣れた毅然とした女性の声がする。見ると、こちらを興味深そうに見ているこの部屋の住人であるマーガレットの姿があった。今日はあのしがれた老人…イゴールの姿はなかった。

 

 

「本日我が主と妹は留守にしております。それはそうと、今日は顔色が優れないわね。何か悪い夢でも見ていたのかしら?」

 

 

 いつもの澄ました顔でこちらの表情を伺うマーガレット。原因は承知しているはずなのに、白々しいものだと悠は顔をしかめる。それを察したマーガレットは参ったと言ったようにフッと溜息を吐いた。

 

「ようやく思い出したようね。あなたの忘れ去られた過去の記憶が。今のあなたを見ていると、マリーのことを思い出すわ。あの子もそんな顔をしていたわね」

 

 去年、マリーと出会った時、彼女は記憶を失っていた。その記憶を取り戻そうと、悠や陽介たちも色々と手助けしたものと悠は思い出す。記憶の断片を思い出す度にマリーは頭痛に襲われていたのだが、まさか自分もマリーと同じ体験をするとは因果なものだと思う。

 

「話は変わるけど、先日も言った通りあなたにはこれから今までにない試練が待ち構えてるわ。これまで手に入れたアルカナを持ってしても、防ぎきれないかもしれない。ちょうどあの少女の時と同じね」

 

 あの少女とはおそらくりせのことだろう。あの時は確かに"大きな禍"という言葉が合うように、死ぬかもしれない窮地に立たされた。あの時のようなことがまた起こるのだろうか。そう思い悩む悠を見て、マーガレットはこちらに目を向けてこんなことを言ってきた。

 

 

「どんな窮地に立たされても、これだけは覚えておいて。"本当に忘れてはいけないものはあなたの中にある"と」

 

 

 忘れてはいけないもの?そう言われて脳裏に浮かんだのは稲羽で特捜隊のみんなと過ごした一年間の記憶や穂乃果たちとのこれまでの時間だった。だが、それが一体どういうことに繋がるのだろうか。

 

 

「私がしてあげられることはここまで。あなたが無事に再びここを訪れることを願っておくわ。あなたがいなくなったらエリザベスやマリーが悲しむもの。それに…私もね」

 

 

 マーガレットがそう言うと、大人っぽいを微笑みを見せた。その途端、悠の視界は暗転する。マーガレットの微笑みを見て、悠は絶対またここを訪れると誓った。まだ自分はマリーやエリザベス、それに穂乃果と陽介たちとの約束を果たせてないのだから。そして……あの少女との………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「だから何で……」

「せやからウチは…」

「早く帰って!」

「これは遊びじゃないんです!」

 

 どこからか、誰かと誰かが言い争う声が聞こえてくる。この声は

 

 

「うっ」

 

「ゆ、悠先輩!目が覚めたんだね!」

 

 

 いつの間にかベルベットルームからテレビの世界にいた。どうやら、自分は無事あの世界に辿り着けたらしい。見ると、穂乃果の手には稲羽に置いてきたはずのマリーの日本刀が握られていた。どういうことだろうと思ってふと見ると、鞘の方に何か張り紙が貼られてあった。その張り紙に書かれた文字を見て、誰の仕業かを察した。おそらく"彼女"の仕業だろう。中々の差し入れだなと悠は心の中でほくそ笑む。ただ、何か忘れているような。

 

「早く帰って!」

「興味本位で関わらないでください!」

「だからウチは……」

 

 見ると、先にこの世界に来ていた海未たちが希と口論している。心なしか希はいつもと違ってオドオドしているように見えた。それを見て、悠はここを訪れる前のことを思い出す。忘れていた。この世界に希も一緒に来てしまったのだった。この状況はまずい。

 

「な、鳴上先輩!目が覚めたんですか?」

 

 悠が目覚めたことに気づいたのか、海未たちは口論を止めて悠に視線を向ける。希がこちらに目を向けたのを見ると、悠は反射で目を逸らしてしまった。

 

「ああ…何とかな。とりあえず皆、落ち着け」

 

「落ち着けるわけないでしょ!?そもそもアンタ!何で希をうっかり連れてきてんのよ!?一般人に見られないようにって日頃から言ってた癖に、アンタがやらかしちゃ世話ないわよ!」

 

「ぐっ……」

 

「それに…何で抱き合った形で来たんですか?鳴上先輩は気を失っていましたし……」

 

 にこと花陽の言葉は悠の心にグサッと刺さる。とりあえず、新たな誤解を生まないためにもここは皆に説明をした方が良さそうだ。悠は溜息を吐きながらも【言霊遣い】級の"伝達力"で説明に入った。

 まず海未たちにここに来る前に、希に絵里の失踪との関連を問い詰められ、うっかりテレビに入ってしまい、希も付いてきてしまったこと。そして、希にはこの世界と事件のことを一から説明した。

 

 

 

 

ここはテレビの世界であること。

 

立ち入った人の心によって、景色が変わるということ。

 

この世界に巣食うシャドウとそれに対抗できる心の力である"ペルソナ"。

 

似たような事件が去年、"マヨナカテレビ"という噂で八十稲羽でも同じことが起こったこと。

 

そして、そのマヨナカテレビに映ったことにより絵里が失踪したこと。

 

 

 

 

「へえ…なるほどな……まさかあの噂の真相がそんなことやったとはなぁ。それに…稲羽の陽介くんたちも関係者やったなんて……だから、あんなに仲良かったんやなあ」

 

 

 

 希は悠の話した真相に面を食らったものの一応納得したようだ。補足のためにペルソナも召喚してみせたので、信じざるを得ないだろう。それに、稲羽で一緒だった陽介たち特捜隊メンバーもそのペルソナ使いの仲間だったということに驚きを隠せないようだった。

 

 

「それで?ウチをこれからどうするつもりなん?鳴上くん」

 

 

 事態を把握したらしい希は澄ました顔で悠にそう聞いてきた。その言葉に先ほど口論した海未たちは身構えてしまう。おそらく希も千枝や凛と同じく親友がここに囚われていると聞いて放っておく性格ではないだろう。それに…希がそういう性格であることはあの時から知っている。

 

「俺が何を言っても東條は意地でも付いて来るだろ。そのつもりなら一つ聞いておく。真実と向き合う覚悟はあるのか?」

 

「えっ?」

 

「これから東條が目にするのは、絢瀬の抑圧された感情…他人には見られたくない絢瀬の裏の顔だ。おそらく本人もそれを見られることを望まないだろう。それでも俺たちと一緒に行くのか?」

 

「……………」

 

 希は悠の問いに即答することは出来なかった。悠の言葉がイマイチ理解できなかったのもあるが、他人の…それも親友である絵里の見られたくない一面を見るのだと思うと、何故か心にストップがかかってしまったからだ。それを察した悠は、それならばと腰に差していた日本刀を希に差し出した。これには希のみならず穂乃果たちも驚愕する。

 

「えっ?」

 

「ちょっと鳴上!自分の得物を希に渡すってどういうつもりよ!」

 

 にこは悠の行動に異を示すが、悠はその状態を止めようとはしなかった。希は戸惑いながらも悠から日本刀を受け取った。すると、

 

 

 

 

!!っ

 

 

 

 

 受け取った途端、手から感じる重みに希は驚くしかなかった。日本刀自体が重いのもあるのかもしれないが、それ以上にこの日本刀から悠が今までどのような修羅場を潜ってきたのかが伝わってきたのだ。それと同時に思い知らされた。他人の裏の顔……真実と向き合うことはとても辛いことなのだと。すると、

 

 

 

『君には真実を見る覚悟はあるの?フシギキョニュウ』

 

 

 

 すると、希の脳裏に誰かの声が聞こえてきた。どこかで聞いたことがあるような透き通った美しい声色の少女の声。少女は希の動揺などお構いなしに現実を押し付けてくる。

 

『悠は今までそれを背負いながらも戦ってきたの。ガッカリーやコーハイたちもそう……その覚悟はある?』

 

 少女の声に希は即答することが出来なかった。だが、希は退こうとはしなかった。ここがテレビの世界で絵里が囚われているならば、親友として放っておけない。それに……もうあの時のように見ているだけで待つのは嫌だった。希は心にそう決めると、悠の目をしっかり見て答えを示した。

 

 

「………うん、ウチは行く。どんなことがあってもエリチに会いに行く」

 

 

 希の返事を聞いた悠は黙って頷いた。まるで、希がそう言うであろうと分かっていたかのように。

 

「……なら約束してくれ。絶対に俺たちから離れないと。これが守れないなら、俺は力づくでも連れて帰るぞ。命に関わることだからな」

 

「分かった……それじゃあ」

 

 希は悠の警告に頷くと、スタスタと悠に近づいて悠の腕に抱き着いた。

 

「「「なっ!?」」」

 

 希の行動に悠だけでなく、遠巻きに見ていた穂乃果たちも驚いてしまう。皆の反応を見た希はしてやったりとほくそ笑んでこう言った。

 

「だって、離れたらあかんのやろ?だったら、こうした方がええかなぁって」

 

「ぐっ……ま、間違ってはないが……」

 

 悠は何とか希に離れてもらおうとするが、希の顔を見るとそれは阻まれてしまう。あの頃もこうして丸め込まれたなと懐かしく思うが、そういう気分ではない。余計に動くと腕に伝わる希の胸の感触を更に感じてしまう。昔はそうでもなかったのに、あの時から一体何があってここまで成長したのか。何というか色々とあり過ぎて希に抗える気がしない。

 

 

「ううっ……お兄ちゃん、希先輩にデレデレしすぎ!!ことりも離れないもん!」

 

 

 希に照れる悠を見て嫉妬でブラコン魂に火が付いたのか、ことりが反対側の腕にしがみついてきた。

 

「お、おい!ことり、お前まで」

 

「だって……お兄ちゃんと希先輩が良い雰囲気だったし……それに、いつもお兄ちゃんは希先輩に甘いじゃん。それは妹として見過ごせないもん!」

 

「あらあら、()()ちゃんは必死やねえ」

 

「ことりは義妹じゃありません!()()です!」

 

「どっちもおかしいだろ!?」

 

 希とことりの口喧嘩に悠はツッコミを入れるも2人は止まらない。その後も悠を挟んで希とことりの言葉の応酬は続いていった。常にバチッと火花が飛んでいる幻聴が聞こえるので、遠巻きで見ていた穂乃果たちは割り込むことが出来ずに、その場で呆然とするしかなかった。

 

 

「先ほどのシリアスな雰囲気はどこに行ったのでしょうか……」

 

「本当にいつもこんな感じよね…私たちって」

 

 

 目の前の雰囲気の変わりように呆れてしまう海未と真姫。先ほどの緊張感を返してほしいと心からそう思った。果たして、この集団は大丈夫なのだろうか?こんな調子では不安で気が気でなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一悶着終えた悠たちは校舎の中へ入っていく。今回ターゲットにされたのは絵里なので、彼女に縁深い場所と言えばあそこしかないだろう。

 

「生徒会室…」

 

 生徒会室へ向かう途中、悠は希のことが気が気でなく無自覚に希の方をチラチラと見ていた。あの過去夢の少女の正体が希だと分かった途端、この調子だ。しかし、一体何故自分は希のことを忘れていたのだろう。小学5年の希との記憶は全て思い出したつもりなのだが、曖昧な記憶が一つある。希の過ごした時の記憶は思い出したのだが、何故か()()()()()()のことが思い出せないのだ。思い出そうとしても、靄がかかったように曖昧になる。一体どういうことだろう。

 そのことを考えて何も答えが出ないまま、目的地である生徒会室に到着した。生徒会室のドアの前に立つと、そこから他とは違う雰囲気を感じた。今までの花陽と真姫、にこの時と同じだった。

 

 

「みんな、行こう」

 

 

 悠は皆の様子を見て、意を決して扉を開いた。扉を開けて、そこに広がっていた景色は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一面雪景色の森が広がっていた。

 

 

 

「寒っ!?」

 

「何で雪が降ってるの!?」

 

 

 

 ここはテレビの世界…入った者の心象風景が映し出される世界なので、こんなことが起こるのも珍しくはないが、現実は夏が近づいている。夏服に近い制服である悠たちにこの状況はキツイ。どこか避難場所はないかと辺りを見ると、目の前にこの雪景色に似合うような大きな城が悠たちを迎えるように建っていた。

 

「うわあ…おっきい!」

 

「なんだか、ア○ンツ○ルンの城みたいだにゃ」

 

「って、言ってる場合じゃないでしょ!?早く中に入らないと凍え死ぬわよ!」

 

 真姫の言う通り、冬服ならまだしも夏服に近い制服を着ているこの状況はきつすぎる。急いで中に入ると、そこには今までに見たことがない別世界が広がっていた。

 

 

 

「な、何ですか!ここは!今までと違ってすごく厳かな雰囲気なんですが!?」

 

 

 

 ここは今までと違う、如何にも上級階級の者…知り合いで例えるなら桐条グループの美鶴のような人物しか入れないような庶民には馴染みのない煌びやかさが溢れていた。あまりの豪華さに穂乃果たちのみならず、悠までも戸惑ってしまう。

 

「すごーい!」

 

「かよちんと真妃ちゃんのキャバクラとは違った高級感があるにゃ〜」

 

「り、凛ちゃん!」

 

「アンタねぇ……」

 

凛の言葉に自分がテレビに入れられた時のことを思い出したのか、花陽と真妃は恥ずかしがりながらも凛を睨みつける。凛もその迫力に慄いて口を噤んでしまう。

 

「それはそうと……豪華なコンサートホールね。テレビの世界とは言え、こんなものは中々ないわ……」

 

 家柄とピアノを嗜んでいるお陰か、こういう場所に来たことがあるらしい真姫。心なしかここでピアノを弾きたくてウズウズしているように見えるのは気のせいだろうか。それにしてもコンサートホールとは。

 

「ええっと……ウチには何にも見えないんやけど………」

 

 希は周りの景色が見えないのか、目をゴシゴシとさせていた。

 

「あっ、そう言えば希先輩はメガネ持ってないんだったね」

 

 普段この世界ではクマ特製メガネを掛けているのが癖になっているのですっかり忘れていたが、この世界は霧に遮られていてクマ特製メガネを掛けないと何も見えないのだ。悠は何かメガネはないものかとポケットを探っていると、手に何か手ごたえがあった。

 

「の……東條、これがあったぞ」

 

 うっかり希を名前を呼び掛けてしまったが、悠はポケットからお面向きのものが見つかったので希に差し出して耳に掛けさせる。

 

 

「おおっ!霧が消えて視界がハッキリ見えるなぁ……って、これ……鼻眼鏡よね?」

 

 

 クマから昔もらった鼻眼鏡だった。興味本位で持ってきたものだったのだが、流石にこの状況で出すのはまずかったかもしれない。鼻眼鏡を掛けた希を見て穂乃果たちが気まずそうな顔をしていた。その中でにこだけは腹を抱えて笑っていたが、すぐに顔を引きつらせることになる。

 

「鳴上くん………ワシワシする?」

 

「すみませんでした」

 

 無表情の希にそう凄まれて悠はビシッと直角90度に頭を下げた。これ以上悪ふざけしたら殺される。昔からの勘がそう直感したので、悠はその鼻眼鏡を回収した。とりあえず、偶々替えのメガネをクマから貰っていた穂乃果のものを希に貸して問題は解決した。すると、

 

 

 

『レディースエンドジェントルメ~ン!ようこそ~、これから皆さんをエリーチカのめくるめく世界へご案内しま~す!』

 

 

 

 

 盛大なファンファーレの後、エントランスホールの大階段からマヨナカテレビに映った絵里が登場した。いきなり今回の本命が登場したので悠たちは思わず身構える。

 

「え、エリチ!?って、違う?アレは……」

 

 希は普段とは違う絵里の登場に狼狽していた。これに対して、臨戦態勢を強いながら悠は希に説明した。

 

「アレはシャドウだ。自分の心の中にある無意識に見たくないと閉じ込めていた感情が具現化したもの…言うなれば、アレはもう一人の絢瀬だ」

 

「もう一人の……エリチ…」

 

 言葉だけでは信じられないが、悠の伝達力やあの絵里の姿を見れば一目瞭然だった。普段の絵里からは考えられない衣装や仕草からあの大階段にいる絵里は"もう一人の絵里"なのだろう。にこは絵里のシャドウの姿を見て、自分もあんな感じだったのかと密かに意気消沈していた。すると、

 

『あら~、鳴上くんじゃない。わざわざ来てくれたんだ~♪』

 

 金色の目をしたバレリーナ姿の絵里……絵里シャドウが悠に向けて投げキッスをする。完全に悠だけを見ていて、穂乃果たちのことは眼中にないようだ。しかし、悠は絵里シャドウに投げキッスをされた途端、目をクワッと見開いた。そして、その姿を携帯に収めようとする。しかし、両肩を誰かにガシッと掴まれた。

 

 

 

「携帯を仕舞ってください」

「ここが運命の分かれ目だよ?お兄ちゃん」

 

 

 

 その正体は海未とことりだった。後ろからなのでハッキリとは分からないが、2人とも表情が笑っていないのは声色から分かった。ここで携帯を仕舞わないとヤラれる。その様子を見た絵里シャドウはクスクスと笑った。

 

 

『あらあら、そんなに見たいの?もう、鳴上くんも男の子ね♪』

 

 

 絵里シャドウはそう言うと、悠を誘惑するかのように扇情的なポーズを取る。絵里シャドウの仕草に悠は再び目を見開いて携帯を構える。だが、

 

 

 

「好きなだけ撮って良いんですよ?」

「良い病室を用意しておくわ」

 

 

 

 今度は花陽と真姫だった。この2人も海未とことりと同じく目が据わっていたので、悠は驚愕しながらも手を引いた。何というかどこぞの将軍みたいな心境になってしまう。

 だが、絵里シャドウがこちらを寂しそうな目で見てくるので、せめて一枚でもと最後の抵抗とばかりに携帯を構えようとすると…

 

 

 

「アンタ……次やったら」

分かっとるよね?鳴上くん」

 

 

 

 追い打ちを掛けるように、にこと希が最後に圧力を掛ける。ここまでされて押し通してしまっては命はない。残念だが、携帯を仕舞わざるを得ないようだった。陽介たちにも見せてあげたかったのにと心底思う。またもや誘惑を邪魔されて、絵里シャドウはうんざりとした表情を浮かべた。

 

 

『もう!みんなノリ悪いなぁ~。鳴上くんが可哀そう。やっぱりこうするしかないわね』

 

 

 絵里が目配せした瞬間、悠たちの周りに紫色の霧が出現する。霧が晴れて周りを見ると、悠の姿はなくなっていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 突然のことに穂乃果たちは立ち尽くすことしかできなかった。すると、それを見た絵里シャドウはしてやったりと言わんばかりの表情を浮かべてクスクスと笑っていた。

 

『フフフ、鳴上くん今日の大事なお客様なの。邪魔はさせないわ。それに、鳴上くんも男の子なんだから、あんな束縛されちゃ可哀そうよ』

 

「え、エリチ!何でこんなことするん!?鳴上くんをどこへやったん!?」

 

「お兄ちゃんを返して!」

 

「の、希先輩!ことり!ちょっと待ちなさ……って、きゃああっ!」

 

 悠がいなくなったことに希とことりは憤怒し、絵里シャドウに食って掛かろうとする。それを穂乃果たちが止めようとした瞬間、穂乃果たちの上空から多数のシャドウが出現する。突然のシャドウの登場により、穂乃果たちはエントランスホールの入り口まで吹き飛ばされてしまった。

 

「シャドウ!?しかも見たことがないタイプ!悠先輩がいないこの状況で……」

 

「め、メガネがどこかに行った~!」

 

 現れたシャドウは太った警備員の姿をしたシャドウ。手には拳銃を持っている。今までに遭遇したシャドウには見ないタイプだ。それに、背後でそんなにこの悲鳴が聞こえたのだが、気にしないでおこう。見上げると、出現したシャドウの後ろで絵里シャドウがこちらを冷たい目で見ていた。

 

 

『……あなたたちみたいな"紛い物"はお呼びじゃないのよ。さっさとここから立ち去りなさい』

 

 

 絵里シャドウが冷たくそう言い放つと、シャドウたちが穂乃果たちに向けて一斉射撃を行ってきた。穂乃果たちは何とか近くの柱に身を隠してやり過ごす。休む暇もなくシャドウたちはまた一斉射撃をしてくるので、身動きが取れない。このままではやられてしまう。だが、それでも海未たちペルソナ使いたちの心は折れていなかった。

 

 

(こんなところで……負けてられません!)

 

 

 悠がいなくても自分たちのやることは変わらない。あの日から悠を見てきて、ずっと悠に追いつきたいとこれまで頑張ってきたのだ。ここで自分たちはやられない。もう悠に頼りっきりの自分ではないのだ。海未は覚悟を決めてタロットカードを顕現する。そして、

 

 

ーカッ!ー

ペルソナ!!

 

 

 カードを掌底で砕き、己のペルソナ【ポリュムニア】を久々に召喚すると、すぐさまシャドウたちに向けて得意の氷結属性の攻撃を放った。海未の攻撃にシャドウたちは一瞬怯んで一斉射撃を止める。その時を狙って、

 

 

ーカッ!ー

「「「ペルソナ!!」」」

 

 

 海未に続いて花陽と真姫、凛も己のペルソナを召喚する。そして、残っていたシャドウたちを一掃した。だが、また周りから同じシャドウが出現した。先ほどのシャドウとは雰囲気が違うがそんなのは関係ない。

 

「一気に行きます!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 海未の鼓舞により、皆の士気が一気に高まっていく。先へ進むためにも海未たちは目の前に迫るシャドウに果敢に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で……

 

「私のメガネはどこなのよ~!?」

 

 にこは吹き飛んだメガネを探していた。先ほどのシャドウの出現の衝撃でメガネがどこかに飛ばされたのだが、中々見つからないのだ。後輩たちが戦っている最中にこんなことになっているのはどうかと思うが、この世界ではメガネがないと視界が悪くなるので仕方ない。

 

「えっと……メガネメガネ……私のメガネ……メガネは…………あったわ!」

 

 戦場から離れて吹き飛んだメガネを探していたが、ようやく見つかったようだ。にこは意気揚々とメガネを掛けて状況を確認する。見ると、にこの方へ複数のシャドウが迫っているのか見えた。それにも関わらず、にこは動揺することなく余裕たっぷりにニヤリと笑った。

 

 

「ふっ……GW以来の戦闘ね。全部ぶっ飛ばすわ!」

 

 

 GWは何も見せ場がないまま事件が終わってしまったが、今回は違う。ここで思いっきり暴れて目にもの見せてやる。勝気な笑みを浮かべたにこは迫りくるシャドウに臆せず、己の【戦車】のタロットカードを顕現する。

 

 

 

ーカッ!ー

「ペルソナ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海未たちはシャドウたちに応戦するも、先ほどと打って違って苦戦を強いられていた。

 

「なっ!魔法が全然効きません!」

 

 今度のシャドウは魔法攻撃を放っても効かなかったのだ。これでは魔法攻撃がメインである海未のポリュムニアと真姫のメルポメネーの攻撃は通じない。

 

「だったら、接近戦にゃ!」

 

 それでも、物理攻撃が得意な凛のタレイアと花陽のクレイオーで何とか撃退するのだが、それに比例するようにどんどんシャドウの数が増えて行く。これではキリがない。

 

「こ、これはまずいんやない?」

 

「海未ちゃんたちが……こうなったらをあの武器を使おう!ことりちゃん!希先輩!」

 

 穂乃果は苦戦する海未たちを見て、援護しようとポケットから袋を取り出す。そこから取り出したものとは…

 

 

「えっ……これって、ゴマ団子?」

 

 

 武器と言われて銃やナイフなど物騒なものを想像してしまったが、ものがものだったので希は開いた口が塞がらなかった。いくら何でも食べ物が武器とはどういうことだろう?

 

「こ、これは風花さんが作った……というか錬成した対シャドウ兵器らしくて…悠先輩によると、これをシャドウに食べさせたら撃退できるって」

 

「……どういうことやねん」

 

 訳が分からない。あんなシャドウという化け物にこんなものが効くはずがないだろう。これなら扇子やパイプ椅子やゴルフクラブを渡された方がまだ良かったのと思う。しかし、そうこうしているうちに、数体のシャドウがこちらに向かってくる。

 

「でも、やるだけやってみようよ!えいっ!」

 

 ことりはやらないよりマシだと判断して、ヤケクソ気味に風花のゴマ団子をシャドウに投げつける。それに習って穂乃果と希も同じようにゴマ団子を投げつけた。しかし、3人ともコントロールが悪かったのか、シャドウたちに全く届かなかった。だが、穂乃果たちに向かったシャドウたちは風花のゴマ団子に何か恐れを感じたのか、その場から一目散に逃げて行く。効果ありかと思われたが……

 

「ああっ!シャドウが海未ちゃんたちの方に行っちゃったー!!」

 

「ほ、穂乃果ちゃん!どうしよう!」

 

 ゴマ団子から逃走したシャドウたちは逆に戦闘中の海未たちの方へと向かっていた。思わず海未たちの敵を増やしてしまったこの事態に穂乃果たちは慌ててしまう。これでは逆効果だ。このままでは海未たちが危ない。すると、

 

 

 

ドオオオオオオンッ!!

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 シャドウたちが何か巨大なものに潰されて消滅した。突然の出来事に穂乃果と海未たちは唖然としてしまう。一体何が起こったのだろうか。すると、

 

 

「待たせたわね、アンタたち」

 

 

 今まで姿が見えなかったにこがドヤ顔でこちらに声を掛けてきた。

 

「にこ先輩!?」

 

「あのゴマ団子に何でシャドウが逃げたか知らないけど、ナイスだったわ。おかげで一気に殲滅できたわ」

 

 すると、先ほどシャドウたちを潰したモノがその姿を現した。

 

「こ、これって…にこ先輩のペルソナ!?」

 

 シャドウたちを殲滅したのはにこのペルソナだった。

 

 

ポリュムニアたちより一回り大きい身体

アイドルをイメージされるゴスロリの衣装

推定5トンはありそうな巨大なハンマー

にこ本人を彷彿とされる勝気な表情

 

 

 これぞ、己の闇に打ち勝ってにこが手に入れたペルソナ【エラトー】の姿。すると、また穂乃果たちの行く手を阻むように次々とシャドウが出現する。だが、にこはそれでも勝気な表情を崩さなかった。

 

 

「ふっふっふ、さあ!覚醒したにこちゃんの力をとくと見るがいいわ!どんどんやっちゃいなさい!エラトー!!」

 

 

 にこの指示で、エラトーは押しのけるように迫りくるシャドウをハンマーを振り回して殲滅していく。シャドウが倒れて行く度にどんどんシャドウは増えて行くが、そんなのは関係ないといわんばかりにエラトーは怯まずに進んで行く。にこ本人は敵をたくさんなぎ倒すことに愉悦を覚えたのか、はたまた最近いいとこ無しの自分に活躍の場がやってきたのが嬉しいのか、表情がこれ以上ないくらい生き生きとしていた。エラトーが無双する光景に海未たちは呆然とするしかなかった。

 

「す、すごい…」

 

「まるでブルドーザーやね…にこっち…」

 

「確か、完二さんのペルソナもこんな感じだったような……」

 

「似た者同士ね…にこ先輩と完二さん」

 

 とにかくこれで道は開けた。今までのことからして、絵里本人はこのホールの奥にいるだろう。きっと悠もそこに居るはずだ。幽かな希望を胸に、にこのエラトーを盾にしながら海未たちは奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、悠はとある神社の前に立っていた。よく行く神田明神でも稲羽にある辰姫神社でもない。見たこともない所だったが、どこか懐かしさを感じる神社だった。一体ここは…

 

 

「え?……転校?」

 

「うん……明後日…」

 

 

 どこかからそんな子供の会話する声が聞こえてくる。振り返るとそこには……

 

 

(えっ……俺と…東條……)

 

 

 小学生の時の悠と希がいた。それに驚いた悠は背後の神社と幼い頃の悠と希を交互に見る。今までと視点が違うが、ここはあの過去夢の続き。そして、この場面はおそらく……何故か鍵がかかっていた記憶だ。

 

「何で…何で!?悠くん、ずっと一緒に居てくれるって約束したじゃん!悠くんの嘘つき!!」

 

「ごめん……」

 

 そう言うと、希は悠に抱き着いて泣きじゃくった。

 

「嫌だ!嫌だ!!悠くんと離れるなんて…絶対に嫌だ!!」

 

 勿論、悠だって彼女と離れるのは嫌だった。いつもなら粛々と受け入れていた悠だが、今回に限っては猛烈に反対した。その反応に両親はとても驚き、どうしていいか分からず只々悠に謝り続けるだけだったのを思い出す。でも、自分たちの都合で親の転勤が覆らないことは承知だった。それほどまで、あの頃の悠にとって希と過ごした日々はかけがえのないものであり、大切なものだったのだろう。

 しかし、彼女は次の瞬間、こんなことを言い出した。

 

…かせない

 

「え?」

 

行かせない…悠くんを行かせない!!行かせないもん!!」

 

 突然人が変わったように希がそう言ったことに悠は戸惑いを隠せなかった。その言葉には希の心の中に溢れ出たもの…悲しみや寂しさ、そして普段見せたことがなかった恐怖を感じたからだ。

 

 

「そうだよ…悠くんを明後日までここに閉じ込めれば、悠くんはどこにも行かなくて済むよ…」

 

 

 そう言って神社の本堂を見る彼女の目は生気を失っていた。今までに見たことがない希の表情に悠は戦慄してしまう。悠は怖くなって彼女から離れようとしたが、彼女はそうしてくれなかった。それを端から見ていた"今の悠"は混乱していた。

 

(どういうことだ……一体…)

 

 この時、自分はどうしたのか?それを確かめようと観察を続けようとするが、時間切れと言わんばかりに悠の視界は突然ブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!ハァ…ハァ……ハァ………」

 

 

 目が覚めると、悠は激しい動悸に襲われた。相変わらず間の悪いところで終わる夢だ。一体あの後自分に何があったのだろうか。だが、今はそれどころではない。先ほど自分は不意にも絵里シャドウの罠に嵌って穂乃果たちと分断されていたのだ。海未たちがそう簡単にやられるとは思えないが、早く合流しなくては。呼吸を整えて辺りを見渡すと、そこには先ほどとは違う景色が広がっていった。

 

「ここは……」

 

 見れば、マヨナカテレビに映っていたあのホールの光景と同じだった。目の前にはステージがある。見てみれば、ステージのすぐ近く…ホールの最前席に座っていた。そのことが確認できたその時、

 

 

「!っ」

 

 

 

 突然ホールに音楽が流れてきた。曲名は悠も聞いたことがある『白鳥の湖』。流れてきたと同時に、ステージに誰かが踊りながら登場した。それはバレリーナ姿の絵里だった。絵里の踊りはとても軽やかで美しく、思わず目が離せないほどであった。希から渡されたDVDで見た幼い時のものより…否その倍以上に洗練されているように見えた。今の状況を忘れてしまうほど見入ってしまうほど悠は絵里のバレエに魅了されていた。このまま時が過ぎないでほしい。そう思い始めた時だった。

 

 

 

 

やめて!!

 

 

 誰かの叫び声に絵里シャドウは演技を止めてしまう。その声は…

 

「絢瀬!?」

 

 ずっと探していた絵里の姿があった。絵里も悠がここに居るとは思わなかったのか、悠の姿を見つけると、とても驚いた表情をしていた。やはりここに入ったのが夜中であったのか今の絵里の恰好は寝間着である。普段と違って髪を下ろしているのでこの姿も新鮮だと若干見惚れてしまうが、今はそれどころではない。早く絵里を連れてここから離れなければ。

 

「なっ!?」

 

 見ると、悠は手足を鎖で拘束されていた。これでは身動きが取れない。まさか、さっきのバレエはこのためのフェイクだったのか。あまりに心打たれる演技だったので、鎖に拘束されていることに気づかなかった。悠が己の迂闊さを悔やんでいる時、ステージでは絵里シャドウは演技を止められてうんざりした表情をしていた。

 

 

『何よ。あなたのためにしてやったことなのに…何なら手順を飛ばしてストリップの方を』

 

「いい加減にして!!もうこんなことを」

 

 

 絵里は朗らかに衣装に手を掛けようとした自分の影に怒涛の如く突っかかる。勝手なことをされて怒りを抱く気持ちは分かるが、それは地雷を踏む行為に他ならなかった。

 

 

 

『ハァ?いい加減にしてほしいのはこっちなんだけど?』

 

 

 

 影の冷たい声色に絵里は戦慄して直立不動になってしまう。悠はシャドウの声が冷たくなったを聞いて、いよいよ状況がまずくなったと思う。一刻も早く何とかしなければと思うが、手足が動かないのでペルソナを召喚できない。その時、

 

 

「鳴上先輩!助けに来ました!」

「鳴上くん!」

「お兄ちゃん!」

 

 

 ホールの入り口から海未たちが突入してきた。にこが先頭で来たとなると、彼女がペルソナで引っ張ってきたのだろうと思うが、今の状況では間が悪いと思わざる負えない。

 

「あ、あなたたち……希も……どうして…」

 

 絵里は悠のみならず、穂乃果たちまで登場したことに驚きを隠せないでいた。それとは反対に絵里シャドウは穂乃果たちを見ると、うんざりしたように溜息をつき、吐き捨てるようにこう言った。

 

 

『ハァ…紛い物たちがこんなところまで来ちゃったのね。本当……見てるだけで、憎くて吐き気がしそう……』

 

 

 絵里シャドウが言い放った言葉にその場にいた悠と穂乃果たちは凍り付いた。

 

「そ…それは……どういう…」

 

『だって、アンタ…鳴上くんたちが憎いんでしょ?』

 

「えっ?」

 

 

『遠く離れても信頼し合える友達・心から慕ってくれる後輩に有り余る才能……自分が望んでも手に入れられなかったものを持ってる鳴上くんや自分が"本当にしたかったこと"を平気でやってるあいつらが憎いんでしょ!プププ、本当に嫌な女ね。これで生徒会長だなんて、笑えるわ』

 

 

 嘲笑うように喜々として喋る絵里シャドウ。軽薄そうに話しているが、それは全て真実を語っていたことは絵里の苦しそうな表情が物語っていた。絵里シャドウから発せられた言葉に、悠たちは驚愕してしまう。だが、悠たち以上に一番衝撃を受けたのが希であった。悠からシャドウはその人物の見られたくない感情が具現化したものと聞いていたが、想像とは違った内容に絶句してしまったのだから。

 

「あ、あれが……エリチの本音なんか?」

 

「ち、違う!違うわ!私は……鳴上くんたちをそういう風に思ってない!私には……本当にしたいことが…」

 

 絵里シャドウの言ったことを全力で希に否定する絵里。だが、それを聞いた絵里シャドウはずいっと絵里に顔を近づけてこう聞いた。

 

 

『じゃあ、アンタの本当にしたいことって何なのよ?分かるんでしょ?言って見なさいよ?ほら!言って見なさいよ!』

 

「それは……」

 

 

 絵里シャドウの問いに絵里は言葉を詰まらせる。しばらく頭を抱えて考え込んだものの、絵里は震えることしかできなかった。

 

 

「わ…分かんない……やりたいことって…何……私が本当にしたいことって……何なの………」

 

 

 考えても考えても答えは出ない。心の中では考えていたことなのに、頭が真っ白になったように何も思いつかない。絵里はただただ頭を抱えて唸ることしか出来なかった。そんな様子を見ていた絵里シャドウは次第にニヤニヤしだし、こんなことを言ってきた。

 

『本当に分かんないの?私は知ってるわよ、あなたがしたいこと。本当はあなたはあいつらみたいにアイ』

 

「やめて!!」

 

 絵里シャドウの言葉に絵里は面を食らったような衝撃を受ける。だが、それよりも目の前にいる自分そっくりの人物の存在が信じられないのか、今にも泣きそうな表情で喚きだした。

 

「何で……何でそう言えるのよ!あなたが私の何を知ってるのよ!!」

 

『だって、そうでしょ?()()()()()()()()()()()()なんだから』

 

「!!っ」

 

 さも当然と言わんばかりに宣う目の前の人物に絵里は信じられない気分になる。これが自分のはずがない。似た目は同じだろうが、こんなのは自分じゃない。そう思っていると、

 

 

『自分の気持ちを押し殺して望んでないことをやり続けるなんてもう真っ平。あいつらみたいに何も縛られずに自由にやりたいことをしたい』

 

 

 呟かれた言葉に絵里は心をえぐり取られたような感覚に陥る。何故なら、それは心の奥底で自分が思っていたことなのだから。

 

『さあて、そろそろストリップといこうかしら?これが本当のワ・タ・シ♪』

 

 絵里シャドウは絵里にそう言うと、着ているバレリーナの衣装に手を掛ける。それを見た穂乃果たちは食いつきそうな悠に目を見やるが、悠はそれに目もくれず頭を抱えている絵里本人に注目していた。あの様子だと、そろそろ絵里の精神が持たない。

 

 

「やめて!もうやめて!!違う、違う違う違う違う違う違う!!認めない、認めないわ!貴女なんか、貴方なんか!」

 

 

 とうとう心が耐え切れなくなり、絵里は発狂したように喚きだす。この状態は…まずい!今までのことからして、あの"禁句を"口にしてもおかしくない。

 

「やめて!絵里先輩!?」

 

「それ以上は言ってはダメです!?」

 

 穂乃果たちは必至に絵里があの禁句を言うのを阻止しようとするがもう止められない。希も訳が分からず、絵里に何か言ってあげたいのに思いがけないことについて行けず、その場に立ち尽くすしかなかった。ついに、絵里はこの世界ではいってはいけない"禁句"を口にしてしまう。

 

 

 

 

「あなたなんか…私じゃない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うふふ…ウフフフフフフフ……あははははははははははははは!あーっはっはっはっは!来た来た来た――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 絵里が大声で禁句を口にした途端、絵里シャドウは歓喜の声と共に、禍々しいオーラに包まれていった。そして、その包むオーラの大きさはどんどん大きくなっていき、そこに巨大な怪物が出現する。黒い白鳥を彷彿とさせる大きな怪物。周りに巨大な鎖をたなびかせている。

 

 

「なに……これ………」

 

 

 さっきまでそこにいた自分そっくりの人物が巨大な怪物になったことに頭がもう追い付かず、絵里はその場にへたり込んでしまう。

 

 

 

 

我は影…真なる我………良いわ、あなたがそう言うなら私が本当にしたいことをやってあげるわ。だから、死になさい!

 

 

 

 

 

 暴走した絵里シャドウはそう言うと、たなびかせている鎖を一つ絵里に向けて解き放った。

 

 

「えっ?」

 

「良かった!間に合った」

 

 

 絵里シャドウの攻撃が絵里に直撃する寸前に、花陽のクレイオーが目に見えぬスピードで絵里を救出していた。それを追撃しようと再び鎖を放とうとするが、それは阻止されることとなる。

 

貴様ら……

 

 攻撃を放つ前に、海未のポリュムニアと真姫のメルポメネーが絵里シャドウを牽制したのだから。そして、凛とにこが悠を守るように立ち塞がる。GWの事件を経て成長した連帯っぷりに悠は感嘆した。あの事件は彼女たちを成長させる良い糧になったようだ。花陽のクレイオーに助けられた絵里は何が何だが状況を呑み込めず混乱しているようだが、この状況では仕方ないだろう。

 

「ナイスだ、みんな」

 

 良い連携プレーを見せてくれたみんなに労いの言葉をかけた悠。すると、

 

「ったく、アンタが捕まってどうすんのよ。またあのシャドウに鼻伸ばしてたんでしょ」

 

 恨み言を言いながらも悠を拘束していた鎖を解くにこ。海未たちもにこと同じことを思っているのかむすっとした表情で悠を見ていた。少し語弊があるが、言われたことは間違いではないので悠は口を詰まらせてしまう。今すぐにでも誤解を解きたいものだが、それは後にしよう。

 

「穂乃果・ことり・東條、絢瀬を頼んだ」

 

「「うんっ!」」

 

 絵里を穂乃果たちに預けると、悠はすぐに絵里シャドウの方を見る。向こうは既にこちらを殺す気満々といった様子でこちらを睨みつけている。上等だ、そちらもその気ならこっちも本気で行かせてもらう。そう思って海未たちと戦いに赴こうとすると、

 

 

「鳴上くん……エリチを…助けてあげて………お願い…」

 

 

 希から掛けられた言葉に、悠は足を止めた。その言葉には、自分には何もできない悔しさ・親友を助けてほしいという心からの羨望、そして何より"無事に帰ってきてほしい"という希の祈りが込められていたのを感じたからだ。

 

 

「ああっ、任せろ。行くぞ!みんな!!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 希の声援を受けて、悠は覚悟を決めて日本刀を抜刀し、掌に青白く輝くタロットカードを顕現する。武器を持つことは覚悟の証。その覚悟を持って、悠は海未たちと暴走した絵里シャドウに立ち向かう。ここで誰も死なせない。そして、絵里の心も救ってみせる。全員で皆の待つ現実へ帰って見せる。

 

 

 

ーカッ!ー

「ペルソナ!!」

 

 

 

 悠はそう心に誓い、タロットカードを砕いて己のペルソナを召喚した。悠が召喚したペルソナの姿を見て、希は頼もしさを感じていた。

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「全て遅かったのよ」

「ぐあああっ!」

「やめて!」

「こんなところで……」


「助けて…助けてよ!鳴上くん!!」


Next #44「True My Self」

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