PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
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マヨナカテレビに映って失踪した絵里。果たして……それでは本編をどうぞ!
~翌日~
<アイドル研究部室>
マヨナカテレビが映った翌日、その知らせを受けたμ‘sたちは放課後、部室に集まって捜査会議を開いていた。ただ、今回はいつもと違って穂乃果たちは気分が沈んでおり、部室内には重苦しい雰囲気に包まれていた。それはそのはず、
「……絵里先輩がマヨナカテレビに映ったなんて……」
なんせ今回の被害者は何と言っても絵里なのだ。これからいい関係が築けるかもしれなかったというのに、その矢先に失踪。皆が落ち込むのも無理はなかった。
「で、でも……悠先輩とことりちゃんが見たのって何かの見間違いで…絵里先輩は本当は風邪とかで学校休んでたり」
「残念ながら、それはない」
「うん……ちゃんと、絵里先輩の妹さんから聞いたからね…」
穂乃果の言葉に悠とことりは淡々とそう斬り返した。学校を休んでいるならそう考えることもできるが、妹の亜里沙からちゃんと電話で聞いたのだ。それに、学校の鞄はおろか、いつも履いている靴なども置かれたままだったらしい。これまでの例のように、テレビの中に入れられたということは明白だった。すると、
「そう言えばお兄ちゃん、絵里先輩の妹さんと知り合いだったなんて昨日初めて聞いたんだけど、どうやって知り合ったの?」
亜里沙の話題に触れた途端、昨日の疑問が蘇ったのか、ことりがジト目でそう尋ねてきた。それを聞いた海未たちも同じようなことを考えたのか、悠に疑惑の目を向けてきた。
「いや、前に雪穂とスリの濡れ衣着せられてた所を直斗と一緒に助けたことがあって、それで知り合ったんだけど……そこまで言うほどのことじゃ」
「電話の様子だと、あっちはお兄ちゃんに
ことりの指摘に皆の目が一層疑惑に満ちてく。毎度思うが、何故この話題が出ると、どこぞの変態軍師みたいにそのような疑惑を掛けられるのか。悠には未だに理解できなかった。
「にこ先輩の時から思ってたんですが……やっぱり先輩はロリコンなんじゃ……」
「待て、何でそうなるんだ。今はそんなことを追求してる場合じゃないだろ。それに、俺はロリコンじゃない。フェミニストだ」
「そうだよ!みんな悠先輩にそんなこと言っちゃダメだよ。悠先輩はフェミニストだよ、年下に優しいだけの」
「それ、フォローのつもりですか?」
「てか、私はロリじゃないって言ってんでしょうが!」
焦る悠に穂乃果は何とかフォローしようとするが、不発に終わってしまった。それにより、段々海未たちの目が鋭くなっていく。このままでは話が前へ進まないと思ったその時、
「ちょっと!今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!どんなことにしろ、また事件が起きたの!あの人が失踪したの!私たちがしっかりしないと、あの人が死ぬかもしれないじゃない!」
真姫の言葉に皆はハッとなる。そう、事件が起こり、絵里が失踪したのだ。これはもう練習ができないとか、オープンキャンパスがどうとか、悠がロリコンなのではとかそういう問題じゃない。今はどうにか隠し通せているが、もし救出に失敗して絵里が死んだとなると、悪い意味で音ノ木坂学院が話題になってしまう。そうなったら、即廃校が決定してしまうだろう。それだけは絶対に避けなくてはならない。
「…すまないな、西木野」
「い、いえ……別に」
話の軌道を修正してくれて真姫にお礼を言う悠。真姫も悠に感謝されて、照れるように髪をいじり始めた。それはともかく、
「西木野の言う通り、現に事件は起こったんだ。そして、それを解決できるのは俺たちしかいない」
悠は部室の隅に置かれているテレビに目をやった。それはあのテレビの世界を行き来するためにマーガレットから貰ったもので、にこが加入してからずっとそこに置いてあるのだ。できれば、もう二度と使うことがないようにと思っていたが、こんなに早くあの世界に入ることになろうとは。穂乃果たちもつられてテレビを見て、表情が硬くなる。
「明日あの世界にダイブする。各自今日はそのための準備をするように。マヨナカテレビのチェックも忘れるな。必ず絢瀬を救出するぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
悠の言葉に皆は一層身が引き締まるように大きな声で返事をする。GWに特捜隊メンバーとあの事件を解決して、身も心も強くなったと思っているが、何が起こるか分からない。心してかからなければならないだろう。
「でも、悠先輩……もうあのときみたいな無茶は止めてね。仮に絵里先輩が助かっても、代わりに悠先輩が死んだら……私たちも辛いし、何も変わんないよ」
穂乃果にそう言われて、悠は思わず苦い表情を浮かべる。穂乃果が言っているのは、P-1Grand Prixの時のことだろう。仲間たちが傷つけあうのを止めるために自分は死んでもいいと思っていたあの時、そう考えていた悠に穂乃果は叱責した。それでみんな助かっても、悠が生きていなかったら意味がないと。あの時の穂乃果の言葉は今でも胸に焼き付いていた。
「…分かってる。どんなことがあっても絢瀬は助けるし、みんなも守る。そして、俺も生きて帰る」
「絶対だよ!絶対みんなで帰って、みんなで踊ってオープンキャンパス成功させるんだからね!約束だよ!!」
悠の言葉に念押しするように穂乃果はそう無理やり約束させた。穂乃果の言う通り、どんなことがあろうとも絶対にみんなで帰ってみせよう。廃校やオープンキャンパス云々とかではなく、一人の少女の命を救うために。すると、
「みんなで踊るって、俺も含まれてるのか?」
「え?………あっ、それいいね!この際、悠先輩も踊る?」
「それはいいな。もちろん女装して……」
「「「絶対ダメ(です)!!」」」
みんなからの盛大なツッコミが入ると、悠は冗談だと言うようにクックックと笑いをこぼした。それを見た海未たちも飽きれながらも悠に釣られて笑ってしまう。これから厳しい戦いが待っているというのに、悠は相も変わらずこの調子だ。でも、それにより無駄に張っていた緊張がほぐれた気がする。
「だったら、りせを呼ぶか?バックバンドで陽介たちも」
「もっとダメだよ!そしたら、ただのりせさんのライブになっちゃうから!!」
「てか、花村たちは音ノ木坂に関係ないじゃない!?」
穂乃果とにこは盛大にツッコミを入れるが、これは冗談ではない。悠もいつかμ‘sの皆のみならず、特捜隊メンバーとも一緒にライブができたらと思っていた。その後も悠の冗談に穂乃果たちは振り回され、無駄な緊張が解けた一同だったがそれ故に気づかなかった。今の会話を部室のドアの向こう側に立っていたある人物に盗み聞きされていたことを。
another view(???)
誰もいない生徒会室で私は一人物思いにふけっていた。いつもは隣に親友が座っているのだが、その親友は今はいない。手に入れた情報によると、失踪したのだそうだ。昨日まで隣にいたのに信じられない気分になる。そして、その原因を彼は知っていた……
思い出すのは、あの時の思い出。彼は忘れてしまったのかもしれないが、私にとっては今でも忘れられない思い出。
小学5年生の時、私は人のものを盗んだと言われてクラスのみんなから犯人だと決めつけられた。私は身に覚えがないので、いくら否定しても信じてもらえなかった。証言があると言われて。自分はやってないのに、何故そんなことを言われなければならないのか。どれだけ訴えても信じてもらえない。周りの人は我関せずと助けてくれない。見える景色が全て灰色になったように私は絶望しそうになった。でも、絶望しかけた時…彼が私の味方をしてくれた。
彼が助けてくれて嬉しかった。そして、彼が暴力を振るわれて傷ついて悲しいと思った。その瞬間に、灰色になった景色が色彩を帯びて広がっていった。
親が転勤族故にずっと転校してきて、新しい友達ができてもすぐに別れてしまう。その繰り返しの末、私は人と関わることを極力避けるようになった。もうあんな悲しくも虚しくなる気持ちを味わうのは嫌だったから。
でも、彼を初めて見た時は違った。私と同じ、進んで孤独になろうとする目をしていた。不思議と私は彼に興味を持ってしまった。何気に話しかけているうちに、自然と仲良くなった。皆から犯人と疑われたあの時、無意識に私は心の中で彼に助けを求めていた。
"助けて……くん"
そして、思いが通じたのかあの事件で彼が自分の身を挺して助けてくれた。あの事件から私は思った。彼を放っておけない……ずっと彼の傍にいたい、これからもずっと。家族以外でそう思ったのは初めてだった。
おそらく、あの時……いや、彼に話しかけたあの日から私の初恋は始まっていたんだろう。
あの時から何時も彼のことを忘れなかった。だが、今その彼は……私の親友が失踪した原因を知っている。そして、それを助けるとき、彼が死ぬかもしれないとも。それを聞いて、私の脳裏にあの時の光景がフラッシュバックした。それだけは絶対やだ。今度は…私が彼を助けてあげたい。何も知らない私には何もできないかもしれないけど……
私は懐にしまってあったカードを出して、いつもの占いを始める。迷った時に占いに頼ってしまうのは昔からの癖だ。その結果は………
【運命】の正位置
another view(???)out
<穂むら>
「たっだいま~!」
「お邪魔します」
「お邪魔し~ます」
作戦会議後、ことりと穂乃果とドラッグストアで買い物した後、ある人物の様子を見るために穂乃果の家を訪れていた。
「いらっしゃい、鳴上くん・ことりちゃん」
穂むらの扉を開けると、カウンターで店番をしていた穂乃果の母である菊花が笑顔で迎えてくれた。だが、そんな菊花は悠とことりの様子にニコニコしながら尋ねてくる。
「あら?今日は2人とも、腕を組んで来たのね。まるでカップルみたい」
「ありがとうございます、小母さん。いつもこうしてるから、よくそういう風に思われるんですよ。ことりとしては嬉しいんですけどね」
「あらあら、従兄妹同士でお熱いわね~」
刹那、店内にバチッと火花が飛んだような幻聴が聞こえた気がした。それに、2人とも笑顔なのに何故か恐怖を感じてしまうのは、気のせいだろうか。いや、そうに違いない。そして、奥の厨房から殺意の投影みたいなものを感じたのも気のせいだ。
「悠先輩……」
「ああ……」
「「そっとしておこう……」」
そんな2人が火花を散らしているのを見て、悠と穂乃果はついついそう言ってしまう。穂乃果もこのやり取りには慣れてきたのか、段々リアクションが悠色に染まってきた。すると、店の奥から人影が出てきた。
「あっ!お姉ちゃん、お帰り~って、お母さんとことりさん!何やってんの!それに、鳴上さん!」
「鳴上さん!こんにちは~」
正体は2階で勉強していた雪穂と亜里沙である。絵里が失踪したとなると、亜里沙一人で家にいることになるので、それはあまりに物騒だと思い、親友の雪穂の家である穂むらに泊まらせてもらっているのだ。
「亜里沙、元気だったか」
「はい、亜里沙は元気ですよ。心配しなくて大丈夫です」
姉の絵里が失踪して辛いだろうに、亜里沙はいつもの笑顔を見せてそう言った。その様子に悠は少し安堵する。だが、
「でも…本当は鳴上さん家に泊まるか、鳴上さんが亜里沙の家に泊まりに来てくれたら良かったんだけどなぁ」
「「「ハアッ!!」」」
亜里沙の衝撃発言に悠を除くその場にいた皆が驚きの声を上げた。亜里沙は皆の反応に驚きながらも、悠に対してモジモジと上目遣いで接近する。
「だから、鳴上さん……今からでも」
「亜里沙!何考えてんの!?そんなの絶対ダメだからね!」
「えっ?ゆ、雪穂……?」
親友の豹変ぶりに驚きを隠せない亜里沙。普段の雪穂からは想像できない程の剣幕に慄いてしまう。すると、他の人物からもお怒りの言葉を受ける。
「そうよ、亜里沙ちゃん。家族ならまだしも男女2人が一つ屋根の下で一緒だなんて不健全よ。もし間違いが起こってしまったら、どうするの?後悔することになるかもしれないわよ」
「は、はい…すみません」
菊花にも諭されたのもあってか、亜里沙も渋々ながら諦めてくれた。その様子に流石だと悠は菊花に改めて尊敬する。やはり菊花も大人なので、子供を諭すのは
「そういうイベントは穂乃果か雪穂にしてもらいたいわね………フフフ…」
そんな呟きが菊花から聞こえたのは幻聴だと信じたい。穂乃果はもう展開についていけず苦笑いしかしてなく、ことりは亜里沙の発言に"恐ろしい子"と言いたげに固まっていた。すると、
「でも、やっぱり亜里沙は家でお姉ちゃんと一緒の方がいいな。亜里沙に何も言わないでどこかに行っちゃうなんて、本当にどうしたんだろ…」
「「「…………」」」
亜里沙の呟きに悠たちは答えることは出来なかった。だからこそ、心の中で思う。これはオープンキャンパスとか廃校とかは関係ない。純粋に絵里を助けたいと。絵里のこともそうだが、亜里沙の笑顔も取り戻すために。
<鳴上宅>
「お兄ちゃん、どうだった?」
「……ダメだった」
家に帰って夕飯を取った後、悠は東京にいる特捜隊の仲間たちに電話をした。今回はかなりハードな戦いになる。そう思って、東京にいる特捜隊の仲間…りせ・直斗、そして風花に声をかけたのだが…
『ごめん、センパイ。今、事務所の用事で大阪にいるの』
『私は今、美鶴さんやラビリスたちと屋久島にいて……』
『僕は依頼の関係で島根にいるんです…』
このタイミングで皆東京から離れていた。これでは救援を頼むどころではない。陽介たちにも要請しようにも、八十神高校はこの時期は試験期間だ。やはり今回は自分たちで何とかするしかないらしい。だが、風花との電話には続きがあった。
『この間は私のゴマ団子で迷惑かけちゃったけど……別の方法でまた作ってみたの。宅配便で送ったから、良かったらことりちゃんたちと食べてみて』
そして、タイミングが良く宅配便がやってきた。荷物を受け取り、恐る恐る開けてみると、そこには先日悠を沈めたゴマ団子が数個タッパーに詰めてあった。それを見て悠とことりは気まずそうになる。悠の中にある第六感があの時と同じように警告を発していた。一体どんな作り方をすれば、こんなものを錬成できるのだろうか。
「お兄ちゃん…これどうするの?」
「………食べ物に申し訳ないが、今回の穂乃果とことりの武器にしよう。シャドウにも効くんじゃないか?」
「ええ………」
穂乃果とことりがゴマ団子を投げてシャドウを撃退する光景は些かシュールだが、大事な決戦を前に犠牲者は出したくないので、有効活用しよう。このようなことは現実ではありえないので、決して良い子は真似をしないように。
「ところでさ」
「ん?」
「どうして、絵里先輩が狙われたのかな?今までの花陽ちゃんやにこ先輩と同じ方法でテレビに入れられた訳だけど、何らかの
ことりから珍しく犯人についての疑問を論じてきた。今回の会議では触れなかったが、確かに悠も気になっていた。ことりにそう言われ、悠も思案顔になる。これは今まで事件に遭遇してきて、何も答えが出ていない謎だ。
「これまでのことを考えると……今まで狙われた人物の共通点としては、俺と関りがある……ということしか思いつかないな」
「えっ!?じゃあ、犯人はお兄ちゃんに恨みを持ってる人ってこと?」
「……どうだろうな、あのP-1Grand Prixを引き起こした張本人だからな……俺に恨みを持つやつなんて……皆月くらいしか」
悠に恨みを持っているとしたら、P-1Grand Prixで悠に敵意をむき出しにした【皆月翔】くらいしかいないだろう。だが、皆月は今は桐条グループに身柄を拘束されているので除外だ。他にいるとすれば……考えてみれば、まだ分からないことだらけだ。後手に回るのは致し方ないが、今は何より絵里の救出に専念しよう。
まもなく時刻は午前0時だ。雨こそ降ってないが、今日は曇天の空となっている。そして、時計の針が午前0時を指した。すると、テレビの画面がプツンと灯りを放ち、鮮明な画が映し出された。
「これは……」
今回映し出されたのは、どこか華やかな雰囲気を持った大ホールだった。まるで、クラシック音楽やバレエの公演が行われるような……そんな場所だった。すると、
『こんばんはー!みんなの"かしこい・可愛い・エリーチカ"絢瀬絵里だよ。さあ、みんなも一緒に~、かしこい・かわいい?…………ハラショー!』
「「……………………」」
予想通り失踪した絵里が画面に登場したのだが、今回もあまりに衝撃的だった。画面の中の絵里はポニーテールにバレリーナの恰好をしている。絵里の抜群のプロポーションのせいか、その姿はどこか扇情的に見えて、男心をくすぐられるのには十分だった。
「…おお………」
ポーカーフェイスを保っているが、悠も健全な男子高校生なので少なからず興奮していた。この場に特捜隊男子メンバーがいたら、興奮の嵐になること間違いなしだ。
『今年からエリチカも高校3年生!つまり、受験生なの~。それで~、エリチカも高校生活に悔いが残らないよう、今回心機一転して物凄い企画に挑戦しようと思います。それは~……』
「………(ゴクッ)」
『ス・ト・リ・ッ・プ~!!』
その瞬間、悠の目がクワッと見開いた。聞き違いでなければ、自分の耳に"ストリップ"と聞こえたはず。あの恰好にあのプロポーションでストリップだと!?しかしこれは……りせの時と同じだが、もしやあの時のリベンジができるのではないかと悠は興奮が収まらない。
『きゃあ~、仮にも生徒会長がそんなことして良いのかな~?でも……やるからには、本気でエリチカの全てをさらけ出すくらいに頑張っちゃいます!テレビの前のみんな~ストリップも良いけど~前座で私のバレエも披露しちゃうから、そっちも楽しみにしててね!それでは~エリチカの本気をおっ楽しみに~♡』
絵里が投げキッスをして、ホールの中へ消えていったと同時に、マヨナカテレビは終了した。マヨナカテレビが終わった後も悠は興奮を抑えられなかった。あれを見せられて、興奮しない男子がいるだろうか、いやいない。思わず反語を使ってしまったと思いながらも、高鳴る鼓動を鎮めようとすると
「お兄ちゃん?」
「な、なんだ?ことり……」
お約束通り、目が笑っていないことりに腕をぎゅっと掴まれた。心なしかいつもより、力が強く感じるのは気のせいだろうか。お陰で先ほどまで高鳴っていた鼓動が別の意味で更に高鳴ってしまう。
「今、テレビの絵里先輩をいやらしい目で見てたでしょ?」
「いや……そんなことは」
「だったら、その手に持っているビデオカメラは何なのかな?」
「あっ……」
ことりに指摘されて、隠し持っていたビデオカメラに目をやってしまう。今までのことから、マヨナカテレビは普通に録画できないことは分かっている。なので、今回はビデオカメラで映像そのものを録画すればいいのではないかと思い、ことりに見つからないようにしたのだが、誤魔化せなかったようだ。その瞬間、部屋の雰囲気が一気に凍てつくものへと変化していく。
「お兄ちゃん、正座」
「わ、分かりました………」
その後、一時間ことりから正座させられビデオカメラは没収された。目の前でSDカードを破壊されたので、あれに先ほどの絵里のマヨナカテレビが録画されていたかは迷宮入りとなってしまった。更に、ことりが私もあれくらいすごいもんとパジャマに手を掛けて暴走し始めたので、悠がそれを必死に止めにかかったのは別の話。
~翌日~
<音ノ木坂学院?? 校門前>
準備を整えた穂乃果たちは部室のテレビから久しぶりにあのテレビの世界にダイブした。景色はにこの時と変わりはなかったが、最近稲羽の世界にダイブしたので、穂乃果たちはあまり違和感は感じなかった。
「へえ~、これを掛けただけであの霧だらけの視界がクリアになるなんて……あのクマも中々良いもの作るじゃない」
ダイブして早々、この世界で初めてクマ特製メガネをかけたにこはその性能に感嘆していた。あのGWに出会った色好きのクマが作ったとなると、俄かに信じがたいが腕は確かのようだ。改めてクマの意外な一面に関心していると、
「それにしても……昨日のマヨナカテレビは何か……衝撃的だったね」
穂乃果の一言に周りが一瞬にして気まずい雰囲気に包まれた。発言者の穂乃果もしまったと思ったがもう遅かった。心なしか、皆あのシーンを思い出したのか、顔が真っ赤になっている。海未に至っては身体も震えていた。
「あ……あ…あんな………恰好をして……す、す、すと……ストリップだなんて……ハレンチです!!め、滅殺です!ハレンチなものは全て滅殺です!!」
予想通り海未は絵里のマヨナカテレビを思い出したのか、これでもかというくらい顔を紅潮させ大声を出した。そして、その勢いでペルソナを召喚しそうになる。このままでは色々海未の中のものが壊れてしまうので、ことりがドウドウとあやすように落ち着けさせる。
「何というか……花陽ちゃんや真姫ちゃんのよりもすごく刺激が強すぎというか……」
「にこ先輩のは痛々しかったしね」
「痛々しいって何よ!?」
花陽と真妃はキャバクラ、にこは小学生に遊園地。あれらも決して衝撃的ではなかった訳ではないが、今回の絵里のストリップ宣言は今まで見てきたものより群を抜いて衝撃的だった。しかし、
「でも、あれが絵里先輩の抑圧された心なんですよね」
「あんな風になるまで押し込んでたものなんて……どれだけのものなのかしら」
「今までと同じようには…いかないかもね」
花陽や真姫、にこの時の戦いもそう簡単にいかないものだったが、あのマヨナカテレビからして、絵里が抱えていたものは予想できない。それに、これまでの戦いはほとんど悠の類まれなるペルソナ能力に頼っていたので、今回は自分たちが悠の足を引っ張らないくらい頑張らなければ。すると、
「あれ?あそこにあるの何だろう?」
穂乃果が校門付近で何かを発見した。もしかしたら危険物かもしれないと、海未たちは警戒しながらも穂乃果が見つけたものの所に近づいていく。そこにあったのは
「これって……悠先輩がGWに持ってた日本刀?」
P-1Grand Prixで悠が使用していた日本刀だった。これを持って帰るのは危ないからと、悠が八十稲羽に置いていったものなのだが、何故ここにあるのだろう。それに、その日本刀には何か張り紙が貼ってあった。
"わすれもの!"
「これ……どういうことなんでしょうか?」
「さあ…」
「それにこの字……なんか汚いわね…誰が書いたのかしら?」
悠の日本刀にそんな張り紙が貼ってあったことに穂乃果たちは困惑してしまう。真姫の言う通り、その字は子供が書いたのかと思うくらい書体が汚かった。
「鳴上先輩なら分かるんじゃないのかにゃ?」
「でも…鳴上さん、遅いわね」
真姫たちはこの世界にダイブする時に入ってきたテレビに目を向けた。
<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>
悠は皆を先にあの世界に行かせ、ある人物と電話していた。その相手は現在大阪にいる仲間のりせだ。どうやら昨日言いそびれたことがあるらしく、わざわざ仕事の合間に電話してくれたのだ。
『GWの時に絵里さんに会って思ったんだ。この人、前の私たちみたいに何か抱えてるって。センパイもそう思ってたでしょ?』
りせの言葉に悠は思わず納得してしまう。それは少なからず悠も感じていたことだが、確信が持てていなかったが、りせも同じことを言うということは間違いないだろう。りせはアイドルとして芸能界で多大な苦労をしていたせいか、場の空気を読むことや人を見る目は長けているのだから。
『絵里さん、センパイや穂乃果ちゃんたちが羨ましかったのかも』
「えっ?」
『うまく言えないんだけど……絵里さんが悠センパイたちを見る目が悠センパイたちと出会う前の私みたいだったなって思って。本当の自分を見てほしいけど、見てもらえないって思ってたあの時の私に……』
りせがそう言ったのを聞いて、悠は思わず思考の海に入った。りせの話やこれまでの絵里とのやり取りを総合すると、どうやら絵里はいつからかは知らないが、悠と穂乃果たちをどこか羨ましいと思っていたようだ。穂乃果たちに強く当たっていたのも、その感情の裏返しかもしれない。だが、これはあくまで推測。本当のところ、絵里がどう思っていたのかは本人の口から聞くしかないだろう。
何にせよ、絵里を救出するためのキーワードが出てきた気がする。
『センパイ、私が言うのもアレだけど…絶対絵里さんを助けてあげてね。私もその絵里さんのバレエ見てみたいし、花村先輩や千枝先輩たちにも見せあげたいし。私は信じてるよ、悠センパイなら…いや、悠センパイと穂乃果ちゃんたちなら絶対出来るって』
りせから激励の言葉を受けて、悠は活力が湧いてきた気がした。流石は現役トップアイドルだけあって、りせには自然に人を元気にする才能がある。りせには敵わないなと悠は思わず微笑んでしまった。
「ありがとうな、行ってくる」
『うん、いってらっしゃい。あっ、センパイってオープンキャンパス終わったら、暇でしょ?そしたら、この間のお返しでデートしてよ。もちろん、ことりちゃんには内緒で♡』
「えっ……ちょっとそれは」
『あっ、井上さん!今行きます。それじゃあセンパイ、デート楽しみにしてるね♡』
そして、りせは一方的に電話を切った。何故か自然にデートの約束を取り付けられたのだが………何とかなるだろう。せめてことりにバレないようにしないと、あとが怖い。もう何時ぞやのことはごめんだ。
りせとの通話を終えた悠はポケットに携帯を仕舞って、テレビの前に立つ。こうすると、稲羽時代を思い出して一層身が引き締まった。
「行くか」
悠は気持ちを引き締めて、テレビの縁に手を掛ける。そしてテレビに頭を入れようとしたその時、
「お邪魔するで」
テレビに入ろうとした一歩前で希がノックもなく部室に入ってきた。希の突然の来訪に悠は驚き、テレビに入れようとした手をサッと戻した。危うく希にあのシーンを見られるところだったので、思わず溜息が漏れる。
「どうしたん?いつもよりちょっと挙動不審やない?」
「いや…そんなことは」
「まるでテレビの中に頭を入れようとしたみたいやな」
希の思わぬ発言に悠は内心ビクッとなる。本人は冗談のつもりだろうが、実際そうしようとしたなんて言えない。すると、そんないつもと違う悠を見て何か思ったのか、希は顔色をうかがうようにスッと距離を詰めてきた。
「それよりも……穂乃果ちゃんたちはどこにいったん?」
顔を覗き込んでいきなり答えづらい質問がきた。もちろん、テレビの中にいるとは言えないので、悠は適当に誤魔化すことにする。
「ほ、穂乃果たちか?先に練習行ってるからって、屋上に」
「それは嘘やね」
悠の言葉をバッサリ斬るように希はそう言葉を遮り、目を細めて悠に最接近する。
「さっき屋上の方を見に行ったけど、穂乃果ちゃんたちはおらんかったで」
「じゃ、じゃあ…」
「ウチは見てたんよ。鳴上くんが穂乃果ちゃんたちと一緒に部室に入るとこ。だけど、そこから穂乃果ちゃんたちが部室から出てきたんところは誰も見てない」
「!!っ」
悠は希の指摘に言葉を詰まらせた。それと同時に背中に悪寒を感じる。見ると、希はあの時と同じく表情が消えていた。こうなると、叔父の堂島や後輩の直斗の追求より厄介だということは身を持って知っている。
「ねえ、鳴上くん……穂乃果ちゃんたちはどこにいったんや?それに、鳴上くんはエリチがどこに行ったか…知ってるんやない?」
希が更にそう聞きながらも距離を詰めてくる。悠は後ずさってしまい、ついにテレビがある方へ追い込まれてしまった。普段の希からは考えられない迫力と追い詰められたような緊張感に動揺してしまう。ここまで追い込まれたらもう退路を塞がれたのと同じだろう。だが、ふと疑問に思う。何故希はここまでして、追及するのか。それに、自分の本能が告げている。希の追求から逃れることは出来ないと。それが以前から知っているかのように。だが、どちらにしろ希に真実を教えるわけにはいかない。どうすれば、希を穏便に帰らせることができるのかと考えてダンマリを決め込んでいると、
「何で…何で隠そうとするの!?答えて!!」
とうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのか、今までにない剣幕で希が迫ってきた。悠はその剣幕に慄いてしまい、反射的にテレビの画面に手をついてしまった。それはつまり…
「あっ……」
ペルソナ能力を持つ者があの世界に繋がるテレビに触れてしまった。悠はその手から吸い込まれるようにテレビの中に入り込んでしまう。それをマズイことに、目の前の希に見られてしまった。だが、
「な、鳴上くん!?」
希はテレビに人が入るという俄かに信じられない光景に驚きながらも、悠を落とさせまいと悠に抱き着いて止めようとする。だが、悠は既にバランスを崩しているので、抗う間もなく2人はそのまま抱き着いた態勢でテレビの中へ入ってしまった。悠はせめて希が離れないようにとしっかりと自分の身体に希の背中に腕を回して力を入れる。それにより、反射的に希の顔を覗き込んでしまった。
吸い込まれそうな大きな瞳に、艶のかかったツインテールの長い髪……
(や、やっぱり…東條は……)
そう思い至った途端、激しい頭痛が襲い、悠は意識を手放した。2人は流れに身を任せるようにテレビの世界へと落ちていく。まるで、今まで閉じてきた闇の中へ誘われるように。
全て思い出した。あの過去夢の全貌を。あの少女が何者なのか、あの少女に自分が抱いていた感情……そして、
ーto be continuded
Next Chapter
「思い出されたようですな」
「この世界は……」
「帰れ」
「これは遊びじゃないんです!」
「君にある?真実と向き合う覚悟」
Next #43「True Feelings」