PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

やっと試験が無事終わりました!試験中、執筆したいだのだらけいだのの誘惑に負けそうになったり、試験前に熱を出して3日寝込んだりしたなど色々とありましたが、何とかやり切ったので自分的にはホッとしています。

今回は予告やタイトルの通り、試験の話ですので所々自分が試験勉強中に思っていたこと所々ありますが、気にしないでください。

改めて、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・評価をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ!


#40「Specialist」

<???>

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――またあの夢か

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠はまた見覚えのある場所で目を覚ました。ここはあの時と同じ教室。だが、雰囲気はあまりよろしくなかった。すると、

 

 

 

 

「だからお前が犯人なんだろ!」

「ぜってぇそうだよ!!」

 

 

 

 

 何か怒鳴り声が聞こえてきたので見てみると、何人かの小学生が誰かを囲っていた。よく見ると、彼らが囲っているのは泣きじゃくっているか弱い女の子だった。そして、その子は…悠のよく知っているあの少女だった。

 

 

ち、違う…よ……私じゃ…

「嘘だ!だって盗んだのお前しかいないだろ!」

「ちゃんとお前だって証言もあるんだからな!」

 

 

 女の子は泣きながらも反論するが、逆に切り返されてしまった。どうやらあの女の子は何かを盗んだことを疑われているようだ。

 

 

 

ううっ……ちがう………私じゃ…ないよ………だれか……助けて………

 

 

 

 少女は泣きながらも誰かに助けを求めるが、周りは気まずそうな顔をしているが誰も彼女を助けようとはしない。本当に彼女がやったのだと思っているのだろう。それとも自分には関係ないのだから関わりたくないと無意識に避けているのだろうか。だが、その中でそんな傍観者たちに怒りを抱いている者がいた。

 

 

 

―――――それは違う!!

 

 

 

 それはもちろん悠である。あの少女は絶対にそんなことはしない。今まで一緒に過ごしてきて、彼女がそのようなことをしない人物だということは知っている。そして、悠は確信していた。何故かは知らないが、自分はあの少女が犯人ではないと心から確信している。何かを犯した人間があんなに涙を零しながら怯えるはずはないのだから。

 

 

 

 

―――――今の彼女に味方してあげられるのは……

 

 

 

 

 彼女を助けたいという気持ちが溢れたのか、悠はいつの間にか大きな声で、指を突き立てて叫んでいた。そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異議あり!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「きゃあっ!!」」」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 が、気が付いてみると、そこは夢の中の教室ではなく、よく見慣れた場所であるアイドル研究部室だった。

 

「ゆ、悠先輩……?」

 

 いつの間にか夢から覚めていたのか、景色が変わっていたことに驚いてしまう悠。それに、皆の前で立ち上がってどこかに指を突きつけている姿に穂乃果たちは驚いて腰を抜かしている。悠は皆にすまないと謝って椅子に腰を掛けて頭を抱えてしまった。穂乃果達の前であんな醜態を晒すとはなんとも恥ずかしい。しかし、それよりも

 

 

(今の夢……本当にあったことなのか?)

 

 

 頭を抱えながら悠は先ほどの過去夢のことを振りかえる。あんな有名ゲームのエピソードみたいなことがあったのか?あんなことに覚えなんてないのだが、夢に出てきたということは本当にあったのかもしれない。

 

「ど、どうしたんだろう?先輩……」

 

 悠の突拍子のない行動に穂乃果たちは呆然としてしまう。それはそうだ。さっきまで机で寝ていた悠が突然立ち上がって"異議あり"などと法廷でしか聞かない単語を大声で叫んだのだから。

 

「夢で弁護士になってたのかな?」

 

「あっ!お兄ちゃんが弁護士っていいかも!ことりが悪い検事さんに無実なのに起訴されて絶望の淵に立たされた時に、お兄ちゃんがことりを冤罪から助けてくれるの!」

 

「おお!まるで逆○裁○か9○.9みたいだにゃ!」

 

「ええなぁ、鳴上くんが弁護士って」

 

 穂乃果の一言で何故か悠が弁護士になったらという話題に花がさいてしまった。和気あいあいと話しこんでいるが、今はそんなことをしてる場合なのか?それに、何故ここに希もいるのか?色々とツッコミたいことがあるが……

 

(俺が弁護士でことりを救う?…………ハイカラだな)

 

 何故か本人も弁護士になることは満更ではないらしい。しかし、弁護士になるにはあの難関と言われる司法試験に合格しなければならない。中々大変だろうなと思う。だが、あのゲームの主人公は芸術学部だったにも関わらず独自で勉強して

 

「それで、ことりがその後にお兄ちゃんの助手になって、2人で色んな事件を解決していくうちに、私とお兄ちゃんは惹かれ合って最終的に………きゃっ♡」

 

 ことりが何を想像しているのか知らないが、目がトロンとなっている。あれはもう完全に自分の世界に入っている証拠だ。

 

「ああ……何か悠先輩とことりちゃんとなら、そんなことありそう………」

「凛もそんな気がするにゃ」

「ていうか、鳴上は検事にも」

 

 それに呆れる穂乃果と凛。にこも和気あいあいと会話に加わろうとしたその時、

 

 

 

 

 

バンっ!!

 

「誰のせいで、鳴上さんがストレス溜まってると思ってんのよ!ただでさえ、鳴上さんは色々と大変でロクに寝てもないのよ!」

 

「赤点取りそうでμ‘sにも鳴上先輩にも迷惑かけそうな人がこんなことしてる暇があるんですか!?」

 

 

 

「「「ごめんなさーい!!」」」

 

 

 真姫と海未の剣幕に穂乃果・凛。にこの3人は勢いよく土下座した。その光景をみたその時、悠の脳裏にあることが浮かんできた。

 

(ああ…そういうことか………)

 

 悠はこのやり取りから、悠は一週間前のことを思い出した。そして、再認識する。今の自分たちの状況が本当にまずいことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~1週間前~

 

 

 

 エリザベスと雪穂・亜里沙と辰巳ポートランドをまわって、風花の物体X(ゴマ団子エディション)で病院送りされた翌日のこと。午前中の授業が終わって昼食を取るために屋上へ行こうとしたとき、

 

 

 

『3-Cの鳴上くん、理事長室に来てください』

 

 

 

 校内放送で理事長室に呼び出されてしまった。クラスメイトたちから何かしたのかと言われたが、身に覚えがない。どういうことなのかと疑問を持ちつつも悠は理事長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<理事長室>

 

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい、悠くん。待ってたわ」

 

 理事長室に入ると、驚いたことにそこには部屋の主である雛乃の他に、生徒会長である絵里もいた。悠の入室に絵里はとても驚いた表情をしている。

 

「叔母さん、絢瀬にも用事があったんですか?」

 

「彼女は偶々よ。何か私にお願いしたことがあるらしいけど…それよりも悠くんは体調の方は大丈夫なの?西木野さんのところに緊急搬送されたって聞いて、私すごく心配したのよ」

 

「「………………」」

 

 雛乃の問いかけに悠と何故か絵里はいたたまれない気持ちになって俯いてしまう。昨日悠が西木野総合病院に搬送されたことは当然雛乃の耳にも届いている。雛乃も悠が病院に搬送されたとあって、これ以上ないくらい心配したらしい。それ故、その原因がGWで知り合った風花にあると判明した時は……………これ以上は語らない。

 

「俺のことは大丈夫です。それより話ってなんですか?それに、この場に絢瀬が居ても?」

 

「問題ないわよ。この話は生徒会長である絢瀬さんにも聞いてほしい内容だったから」

 

 絵里にも聞いてほしい内容とは、一体どのようなものなのか?雛乃は少し間を置くと、悠と絵里を見据えてこう尋ねてきた。

 

 

 

「悠くんは"ラブライブ"というものは知っているかしら?」

 

 

 

 聞いたこともない単語が雛乃の口から発せられた。あまりに突拍子のないことだったため、悠とその場に一緒にいた絵里は首を傾げてしまう。

 

「らぶらいぶ……?絢瀬は知ってるか?」

「し、知らないわよ……理事長、そのラブライブというものは何ですか?」

「実は、昨日ことりたちがここを訪ねてきてね……」

 

 

 雛乃からの説明はこうだ。"ラブライブ"とは今年の夏に開催されるスクールアイドルの大会のこと。スクールアイドルランキング上位20位以上のグループしか出場できない、いわばスクールアイドルの甲子園とも言っても過言ではない一大イベントらしい。その模様はネットでも中継されるそうなので、注目度はとても高いのだろう。

 

 昨日、悠がエリザベスたちと辰巳ポートランドに行っていた時、雛乃の元に穂乃果たちが駆け込んできて、このラブライブへの出場を許可してほしいと懇願してきたということだ。

 

「その時ね、私は"悠くんに相談しなくていいの?"って聞いたの。そしたら、穂乃果ちゃんがなんて言ったと思う?」

 

 

 

 

 

"大丈夫です!悠先輩もきっと穂乃果と同じ考えですから!"

 

 

 

 

 

「「…………………」」

 

「まあ、それを言った途端、すぐにことりにどこかに連れて行かれたけどね」

 

 なるほど、実に穂乃果らしいと悠は思わずフッと笑みをこぼした。確かに穂乃果ならそんなことを言うだろうなと悠も想像はついた。立場が逆なら自分もそう言っていただろう。ついでに、目のハイライトが消えていることりにどこかに連れて行かれる光景も正直考えたくはないが容易に想像できた。

 

「私としてはエントリーするくらいなら良いと思っているの。でも悠くんはもちろん、生徒会長の絢瀬さんの話を聞いてから決めようって思ったから、返事を引き延ばしてもらったのだけど……悠くんはどうするの?この話」

 

 雛乃はしっかりと悠を見据えてそう尋ねてくる。もちろん、悠の答えは決まっていた。

 

 

 

 

 

「俺は、是非ともエントリーしたいと思っています」

 

 

 

 

 

 ラブライブに参加するということは、当然学校名も公開される。そうなれば、学校名が広まり、この音ノ木坂学院のことを全国に広めることができるだろう。まだ自分たちがラブライブに出場できる条件を満たしているかは分からないが、もし足りないのではあれば、これから満たしていけばいい。実に、悠らしい前向きな答えだった。

 

「そう。じゃあ、絢瀬さんはどうかしら?」

 

 雛乃は悠の答えを聞いて満足げな表情で頷くと、次は悠の隣で話を聞いていた絵里に目を向ける。ふと見ると、絵里はとても険しい表情をしていた。これはまずいかもしれない。確かにこのラブライブの件は学校サイドからの許可、つまり理事長である雛乃や生徒会長である絵里の許可が必要になる。雛乃は承諾してくれたが、果たして敵対気味である絵里はどう出るのか?

 

 

 

 

 

 

「良いんじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

 絵里の意外な返答に悠は驚いてしまった。いつもの彼女なら"反対です"とか"そんなのは時間の無駄です"などと反論してくると思っていたからだ。その時のための反論はいくつか頭の中で用意していたつもりだが、まさか賛同してくれるとは……

 

「良いのか?絢瀬?」

 

「……別にエントリーするくらいなら良いんじゃない?正直あの子たちの素人みたいなパフォーマンスが通用するかは別問題だけど」

 

 不機嫌そうな表情で説明する絵里。如何にも絵里らしい答えだが、本当にそれが本音なのか?絵里の言動から別の理由があると悠の【言霊遣い】級の伝達力は感じ取った。これ以上追及したら藪蛇が出そうだが、

 

 

「"素人"ってどういうことだ?」

 

 

 悠はあえて聞いてみた。すると、絵里は一瞬黙り込んだが、不機嫌な表情を維持したまま口を開いた。

 

 

 

「"感動がない"ってことよ。今のあの子たちじゃ、お客さんに本当の意味で感動してもらえないわ。と言っても、私から見たらスクールアイドルなんて皆ド素人みたいなものだけど………あのA-RISEでさえね」

 

 

 

「なっ!」

 

 絵里の返答に悠は絶句してしまった。絵里の言うことは最もだと解釈は出来るが、限度というものがあるだろう。特に後半の部分は、全国のスクールアイドルに喧嘩を売っているようなものだ。だが、絵里の性格上根拠のないことは言わないことは知っている。一体何が絵里にこのようなことを言わせたのか?更に追及しようとすると、そこまでだと言わんばかりに雛乃が会話に割って入ってきた。

 

 

「なるほどね。絢瀬さんもこう言ってるし、悠くんたちのラブライブへのエントリーは認めましょう。でもね絢瀬さん、少し発言には気を付けた方が良いわよ?」

 

「えっ?」

 

「"壁に耳あり障子に目あり"って、よく言うでしょ?()()()()()

 

 

 雛乃が悠と絵里にではなく理事長室のドアの方にそう言った途端、ドアが開いてそこからドドっと何かが倒れこむようになだれ込んできた。よく見ると、それらの正体は……

 

 

「穂乃果!それに、ことりたちも」

 

 

 正体は穂乃果たちだった。何故かは知らないが、穂乃果たちの手には箒やちりとりが握られている。

 

「あ、あなたたち……どうしてここに…」

 

 絵里はあまりの光景に騒然としながらもそう聞いた。

 

「校内放送で悠先輩が理事長室に呼ばれたから、何かあったのかなって思って……」

「こっそり覗いたら、鳴上先輩と生徒会長から……ただならぬ雰囲気を感じたので」

「いざとなったらって……」

 

 なるほど、そのための箒とちりとりか。一体何に使うつもりだったのかはこの際聞かないでおこう。先ほどの絵里の発言を聞いたらしい彼女たちの持つ箒の向きが微妙に絵里の方に向いているのだが、気にしない。そして、誰とは言わないが約数名が険しい顔で絵里を睨んでいるが気にしない。

 

「………………失礼しました」

 

 絵里は悠たちを一瞥すると、雛乃に頭を下げてその場を退室した。先ほどの発言を聞かれたにしては落ち着いていた態度だったので、更に彼女たちの表情が険しくなる。しかし、この場にもういない者のことを考えてもしょうがない。絵里が退室したと同時に、穂乃果たちは申し訳なさそうに悠に元に駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃん…ごめんね。何も相談もなしに勝手に話進めちゃって」

 

「穂乃果さんが鳴上さんもきっと賛成するでしょなんて言うから…」

 

「だ、だって穂乃果は悠先輩も賛成してくれるって思ったから……」

 

「でも、相談しようにも、鳴上先輩は昨日は病院に運ばれてましたし…」

 

 どうやら悠に相談もなしに勝手に話を進めたことを申し訳なく思っているようだ。だが、悠はそれを気にすることなく皆を元気づけるように明るい口調でこう伝えた。

 

「良いさ。ラブライブに出場することは自分たちで決めたことなんだろ?穂乃果たちが自分で決めたことなら、俺は賛成だし、喜んで付き合うぞ」

 

 悠からの返答に皆はホッと安堵し、はにかむように自然と笑顔になった。しかし、それを遮るかのように雛乃がこんなことを言ってきた。

 

 

 

「ちょっと良い雰囲気を邪魔するようで悪いけど、ラブライブに出場には()()があります」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

「いくら廃校を阻止するためだからといって、学業をおろそかにするのはもってのほかです。そこで、あなたたちが今度の定期試験で全員赤点を回避すること。それが達成できれば、ラブライブへの出場は認めるわ」

 

 突然提示されたラブライブ出場への条件。普段は悠たちに甘い雛乃も流石に教育者としての責務は忘れていないらしい。しかし、それだけでラブライブへのエントリーを認められるなら安いものだろう。

 

「その条件なら喜んで受け入れます。ありがとうございます、叔母さん」

 

 条件付きだとしても雛乃がラブライブへのエントリーを許可してくれたので、悠は雛乃に頭を下げた。

 

「交渉成立ね。後で絢瀬さんにもちゃんとお礼を言うのよ」

「はい!」

「でも、悠くんは心配しなくていいけど……他の皆さんは大丈夫かしら?」

「まあ実力テストみたいなのはともかく、定期試験くらい大丈夫だ」

 

 

 

 

 

「「「・・・・・」」」

 

 

 

 

 

「ろ………?」

 

 振り返ると、そこに明らかに絶望している者がいた。それは穂乃果・凛・にこの3人だ。これは、波乱の予感がする。その様子に、雛乃は深く溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アイドル研究部室>

 

 雛乃とのやり取りを終えて部室に戻ってきた悠たち。そして早速、

 

 

「大変申し訳ございません……悠先輩に相談も無しに勝手にラブライブの件を進めてしまったこと、定期試験のことを心よりお詫び申し上げます」

 

「申し訳ございません……なので」

 

 

 

「「せんぱーい!タスケテ――!!」」

 

 

 

 謝罪の口上を述べた後に、穂乃果と凛が悠に泣きついてきた。2人のその様子に呆れてしまったのか、悠は思わず溜息を吐いた。

 

「ハァ…まあ、こういうことは稲羽でもあったから別に驚きはしないけどな………」

 

 稲羽でも定期試験前はみんなでジュネスに集まったりして勉強会を開いていたものだ。その時に至って泣きついて来るのはいつも成績が低空飛行である陽介・千枝・完二・りせの4人だった。

 

「確かに、花村とか千枝とか頭悪そうだものね。あっ、ついでにあのバ完二も」

 

 いつもの如く部室の椅子でふんぞり返っているにこは数学の教科書を読みながら、そんなことを言ってきた。あからさま過ぎる勉強してますよアピールだが、教科書が逆さまになっている。この場に陽介たちが居たら、"お前に言われたくねえ!"とツッコんでいただろう。

 

「……とりあえず穂乃果と凛、矢澤はこの間の実力テストの結果を出せ」

 

「「「えっ?」」」

 

「出せ」

 

「「「はい…………」」」

 

 3人が今回の試験で何を対策しなきゃならないのかを確認するために、各々の実力テストの結果を(強制的に)開示させた。調べた結果、穂乃果は数学、凛は英語、にこは全ての科目ということが判明した。思わず呆れていると、3人は理不尽だと言わんばかりに

 

 

「そもそも何で数学なんて学ばなきゃいけないの!人間なんて1とか2とかだけ覚えておけば生きていけるでしょ!」

 

「そうにゃ!凛たちは日本人だから、英語なんて学ばなくても通訳さんに任せればいいんだにゃー!」

 

「そうよそうよ!アイドルとして成功すれば、勉強なんてどうでもいいじゃない!」

 

 

 何ともまあ随分な申し開きだなと一同は思った。穂乃果の発言はどこかの聞いたことがあるし、凛の発言は何かデジャヴを感じる。いつかそんなことを宣っていたアイドルが居た気がするが、誰とは言わない。

 

 

「3人の言い分はよ~く分かったで。でもな、おバカさんでもアイドルは出来るけど、おバカさんじゃ勝てないんよ?」

 

 

 どこかの監督の言葉を3人を諭すようにそう言って、希が部室に入ってきた。

 

「東條!どうしてここに?」

 

「理事長先生に頼まれたんよ。鳴上くんたちを手伝ってあげてって」

 

 どうやら雛乃は自分たちに助っ人を寄越してきたらしい。ちょうど悠だけでは同学年であるにこに勉強を教えるのは骨が折れると思っていたので、これは心強い。

 

「良いのか?」

 

「ええんよ。ウチも成績の方は問題ないし、それに彼氏を支えるんは彼女の役目やからな」

 

「俺と東條はそんな関係じゃないだろ……」

 

「もう、照れ屋さんなんやから♡」

 

 頬を朱色に染めて照れくさそうにリアクションする希だが、よく言えたものだ。誰のせいで今の八十神高校に悠に大人っぽい彼女がいるという噂が広まっているというのか。希の発言に数名が不機嫌な視線を向けているが誰とは言わない。かくして、ラブライブ出場のためのテスト勉強が開始されたわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は戻り、あれから一週間……

 

 

 事の顛末を思い出した悠は、一応確認のため自分の周りを見てみた。

 

「穂乃果ちゃん、ここはね」

「ごめん、ことりちゃん。もう寝る」

「ほ・の・か~?」

「うわああん!ごめんなさ~い!」

 

「あっ!あそこに白米が」

「えっ!どこどこどこ!?」

「……引っかかると思ってるの?」

「にゃあっ!」

 

「にこっち、ここの答えは?」

「え…えーと………にっこにっこにー!」

「……………………」

「わ、悪かったわよ!私が悪かったから、ワシワシはやめて!」

 

 勉強が嫌なのか、穂乃果と凛とにこは各々逃走を図るも全て看破されてしまっている。というかそもそも、そんな簡単なものに引っかかる訳がない。悠はその様子に呆れながら、気晴らしに飲み物を買いに部室を出る。そして、その数分後………

 

 

「あっ!鳴上が女子中学生に逆ナンされてる!!」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

「「「スキあり!(シュバッ!)」」」

 

 

 穂乃果・凛・にこは3人はこの場から逃れるために、飲み物を買いに行った悠を使って逃走を図った。目論見通り、ここにいるのは悠に想いを募らせているメンバーばかりなのですぐに引っかかった。そのままダッシュで部室から脱出しようとドアに手を掛けたが、

 

 

「(ガシッ)嘘はあかんで?

 

 

「ひえぇぇぇ!副会長!」

 

 ドア付近で待ち構えていた希に拘束されてしまった。悠関連のことで嘘をつかれたせいか、目がいつもより据わっている。それは希が相当怒っていることを意味していた。

 

「嘘をついた子たちには……ワシワシや♪」

 

「ご、ごめんなさ…うにゃあぁぁぁぁぁぁ!!

 

 ワキワキと構えている希の手が凛を襲った。その様子はあまりにも痛ましいものだったので、穂乃果とにこはアレを自分も受けるのかと足をガクガク震わせていた。

 

「せ、せめて穂乃果やにこ先輩だけでも………」

「逃がしませんよ?」

「「はい…………」」

 

 

 飲み物を買って戻ってきた悠は3人が希のワシワシの刑を受けている姿を見て唖然としてしまった。なんだ?このカオスな空間は。赤点危機組のせいか、この部室が少しずつおかしくなっている。テストまであと一週間だというのに、この惨状。悠も家庭教師の経験があるので、にこだけでなく穂乃果と凛の勉強も見ているのだが、間に合うかどうかは難しいといったところだった。

 

 

 

(ハァ……これはP-1Grand Prixよりまずい状況かもな………)

 

 

 先日のGWに稲羽で起こったあの事件。あれは皆との絆とペルソナの力で解決したようなものだが、この試験という試練は各々の力で解決しなければならない。本番で頼りになるのは自分の学力なのだから。どうしたもんかと考えたその時、

 

 

 

(ん?P-1Grand Prix………そうだ!その手があったか!)

 

 

 

 悠の中にこの状況を打破できそうなアイデアが浮かんできた。悠はこれはイケると思い、早速準備に取り掛かるため、にこの勉強を希に一任して部室を出て行った。悠のその行動に皆はハテナマークを頭に浮かばせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 希が生徒会の仕事で呼び出しを受けたと部室が出て行った際、入れ替わるように神妙な顔つきになっている悠が戻ってきた。そして、話があると一旦勉強を中断させる。

 

「は、話ってなんなの?悠先輩………」

 

 穂乃果は気まずい雰囲気の中、まずますと悠にそう切り出すと、悠は神妙な顔つきのままこんなことを言ってきた。

 

 

「いいか?お前たち、もし穂乃果たちが赤点を取ってしまった場合……連帯責任で皆で罰ゲームを受けることにした」

 

 

「「「ば、罰ゲーム!?」」」

 

 

 

"罰ゲーム"

 

 

 

 

 まさか、普段はクールで心優しい悠の口からそんな物騒な単語が出るとは思わなかった。しかし、事態がそれほどまずいということなのだろう。一体その罰ゲームの内容とは……

 

 

「その内容は……次回からお前たちの自己PRはこういう形で通ることになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~以下、悠の想像PV内容~

 

 

「今日も元気に食い気MAX!"常時腹ペコ和菓子屋イーター"高坂穂乃果です」

 

「破廉恥なものには正射必中!"純情ラブアローシューター"園田海未です」

 

「お兄ちゃんさえいればいい!"鋼のブラコンエンジェル"南ことりです」

 

「アイドルのためなら何でもやります!"シャイな巨乳お米っ娘"小泉花陽です」

 

「運動スキルはA⁺、勉強スキルはE⁻!"核弾頭猫娘"星空凛です」

 

「私は全てにおいてNo.1!"小悪魔ツンデレプリンセス"西木野真姫です」

 

「あなたのハートににっこにっこにー!"夢みるナルシストアイドル"矢澤にこです」

 

 

 

「私たち、7人合わせて」

 

 

「「「「μ‘sです!」」」」

 

 

 

悠の想像PV内容 終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 

 悠が提案した罰ゲームに穂乃果たちは絶叫してしまう。何故なら、そのPVの内容自体が世に出れば黒歴史確定のものだったからだ。

 

「これ想像以上の罰ゲームじゃないですか!」

「P-1Grand Prixの時のやつじゃん!」

「絶対イヤにゃ!?」

「こんなの黒歴史ものじゃない!」

「たかが赤点くらいでこんなこと…」

 

 悠の提案した罰ゲームの内容に猛烈に抗議する一同。確かに彼女たちの言い分も分かる。こんなものをPVとして発表したら、もう外には出られない。

 

「というか、何であの時はなかった穂乃果とことりちゃんのキャッチコピーまであるの!?」

 

 確かに、P-1Grand Prixの参加者ではなかった穂乃果とことりにも不名誉なキャッチコピーが存在している。

 

「…さっき俺が陽介とクマに電話して一緒に考えた」

 

 真相はとても単純だった。

 

「悠先輩たちが考えたの!?」

「流石俺の相棒と言うべきか、中々良いものを考えてくれた」

「何てことしてくれたのさ!」

 

 穂乃果の剣幕に悠は申し訳なさそうに弁明した。

 

「俺としてはことりも巻き込むのはとても遺憾だったが………穂乃果たちに赤点を回避させるにはこれしかなくてな……」

 

「シスコン全開じゃん!!考えてるのことりちゃんのことだけじゃん!穂乃果のことも考えてよ~!」

 

「この件に関しては穂乃果に容赦はしない」

 

 その後も絶対いやだと抵抗する穂乃果たち。正直悠もこんなことをするのは本意ではないが、こうした方が効果的だと踏んだのだ。穂乃果たちには申し訳ないが、悠は是が非でも押し通すつもりだったので、ここで己の【言霊遣い】級の伝達力を発揮する。

 

 

 

 

「いいか?お前たち………罰ゲームというのはだな」

 

 

 

 

 

かくかくしかじかかくかくしかじか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~30分経過~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、文句を言うな!」

 

 

 

「「「うわあぁぁぁぁぁぁん!!」」」

 

 

 

【言霊遣い】級の伝達力で、罰ゲームの重要性や今の状況がどれだけまずいのかということを説明すると、ついに穂乃果たちは折れた。

 

「ことりは別にいいんだけどなぁ……お兄ちゃんの"鋼のシスコン番長"に似てるし………」

 

 だが、ことりだけは終始こんな調子だった。

 

 

 それ後、穂乃果たちは絶対に赤点は取るまいと寝る間も惜しんで勉強に精を出していた。悠から提案された究極の罰ゲームを執行されないために。

 

「な、何があったんやろうか?穂乃果ちゃんたちに……」

 

 生徒会の仕事から戻ってきた希は前とは違う穂乃果たちの気迫に戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(海未)

 

「zzz……zzz………」

 

「また寝てしまいましたか。ちょうどいい頃合いですし、私も休憩にしますか」

 

 部室での勉強会が終わって放課後、念のためということで『穂むら』で穂乃果の勉強を見ていた私ですが、当の本人が寝てしまったので一段落することにしました。それにしても、こんな状況なのに穂乃果は気持ちよさそうに寝ていて

 

「zzz……zzz……さ、三角関数は…サイン…コサイン……」

 

 ね、寝言が三角関数ですか!?そう言えば、雪穂さんが最近穂乃果が数学のことをブツブツ言いながら寝てるから気味が悪いってことは聞いてましたが、まさか本当だったとは。あのめんどくさがり屋の穂乃果がここまで勉強を頑張るなんて珍しいですね。余程あの罰ゲームが嫌なのでしょうか。まあ、そうなったら私もとばっちりを受けるわけですが。

 

「zzz…にへへ……ゆうせんぱいのおかし……おいしい」

 

「夢の内容が一変しすぎでしょ……」

 

 鳴上先輩たちが穂乃果に"常時腹ペコ和菓子屋イーター"とつけた理由が分かった気がします。小さい時から知っていましたが、いつだって穂乃果は食べ物のことばかり考えているのですから。それはそうと

 

 

 

「鳴上先輩ですか………」

 

 

 

 私はふと鳴上先輩のことを頭に思い浮かべます。

 

 あの人は私にとって命の恩人であり尊敬する先輩。ちょっと天然で私たちを困惑させることもあるけど、心優しいお兄さんみたいな人。あの時あの人が居なければ、私はきっとここにはいなかったでしょう。ペルソナを手に入れて一緒に事件を追っていくことになって色々なことはありましたが、先輩と一緒に戦ったり褒められたりしたときは、やはりとても嬉しくなってしまいます。でも……

 

 

「……このままでいいのでしょうか?」

 

 

 あのP-1Grand Prix事件を解決しても、まだ事件の全貌は未だに明らかになっていません。仮に真犯人を突き止めたとしても、戦いになったときは、私はまた先輩の足を引っ張ってしまうでしょう。それに、先日こっそり耳にしてしまった生徒会長の辛辣な言葉が思い出すと胸が痛くなります。正直あんな人に私たちのことを知ったように言われるのは腹が立ちますが、今は試験のことを考えましょう。そのためにもと、私は携帯を取って、ことりに電話をします。ちょうど話したいことがありましたからね。

 

「もしもし、ことりですか?」

 

『もしもし海未ちゃん、どうしたの?今お兄ちゃんの寝顔を堪能してたところだったんだけど?』

 

………ことりは相変わらずですね。鳴上先輩のシスコンも大概ですが、ことりのブラコンも異常です。このままじゃ、いずれマズイことが起きそうな予感がするので、その対策は後々考えるとしましょう。それよりも

 

「ことり、明日のことで相談があるのですが」

 

「え?」

 

 

another view(海未)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「ハァ……」

 

 放課後のこの時間、テストまであと数日だというのに、今日は休んでくださいと海未とことりから部室を追い出されてしまった。おそらく最近疲れているのがバレて気遣ってくれたのか。それに、何故かこれを使ってリラックスしてくださいと海未からは兵法書、ことりからはクッキーを、花陽からはA-RISEのCD、真姫からはクラシック音楽のCDを渡された。

 

 

 

(どうしようか……)

 

 

 

 手に彼女たちの差し入れが入っている袋を一瞥しながら悠は頭を悩ませていた。一応暇をもらったのはいいが、悠はこれといってやりたいことはあまりない。強いて言えば、釣りがしたいのだが、道具はそろってないし、今はそんなことをしている場合ではない。しばらくそんなことを思いながら歩いていると、神田明神の前に着いた。そう言えば、最近はリーダー戦争やら試験勉強やらで、ここで朝練をする機会がめっきり減った気がする。

 

 

(お参りしてみるか)

 

 

 せっかく来たのだから久しぶりにお参りしようと、悠は境内の中に入っていった。GWでは辰姫神社に穂乃果たちを案内したが、時間が悪かったのかあの神社に住み着いている狐には会えなかったのを思い出す。

 

 

(神社か……夏休みは狐に会えたらいいな………ん?)

 

 

 ふと狐のことを思いながらお賽銭入れの前に辿り着いた瞬間、突如立ち眩みを感じた。最近あまり寝てないせいなのか、思わず額に手を当ててしまう。余程重症なのか頭がズキズキする。

 

 

 

 

(こんな時にか……これは………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――い……せ……ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(!!っ)

 

 

 

 頭の痛みに耐えていると、脳裏にそのような声が聞こえてきた。途切れ途切れであまり聞こえないし内容がよく分からなかったが、その声を悠はどこかで聞いたことがあるような気がした。だが、その声に反応してか立ち眩みが更に酷くなり、聞こえる声も声量が増していくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――……くんを………か……せ……な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴上さ――――ん!」

 

 

 

 

 

 すると、その声を遮るかのように誰かの声が悠の耳元に届いてきた。それと同時に意識が戻るかのように誰かから抱き着かれたのを感じる。見てみると、そこには

 

 

 

「あ、亜里沙か!?」

 

「はい!また会いましたね」

 

 

 先日一緒に辰巳ポートランドをまわったばかりの亜里沙がいた。相変わらず天真爛漫な明るい笑顔に先ほどの立ち眩みが嘘のようになくなっていた。しかし、今まで考えてなかったが、高校生が女子中学生に抱き着かれるというこの構図は傍から見て大丈夫なのだろうか?そう思っていると、背後から冷たい視線を感じた。恐る恐る振り返ってみると、

 

 

「………………」

 

 

「あ、絢瀬?」

 

 背後に冷たい目でこちらを見ている亜里沙の姉、絵里の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<公園>

 

「はい、お姉ちゃん、鳴上さん」

「ありがとう、亜里沙」

「ありがとう……」

 

 神田明神で鉢合わせして、少しお話がしたいからと絢瀬姉妹に近くの公園に連れてこられた悠。亜里沙が悠と絵里に近くの自販機で飲み物を買ってきてくれた。だが、

 

「って、これおでん缶じゃないか?」

 

 亜里沙が買ってきたものは飲み物ではなく、缶の中におでんが入っている所謂"おでん缶"だった。

 

「えっ?前にエリザベスさんが言ってた"おでんジュース"ってこれじゃないんですか?」

 

 先日エリザベスと辰巳ポートランドの店をハシゴしたとき、エリザベスがこの辺りにはおでんジュースは売っていないのかと聞いてきたことがあった。エリザベス曰くおでんジュースとはマニアの間で高額取引されているレアモノらしい。そんなものあんな公共の場に堂々と売っているはずはないのだが、亜里沙はその話を間違った方向で覚えていたようだ。

 

「………亜里沙、それはおでんジュースっていうものじゃないの。だから、別のを買ってきてくれる?」

 

「うんっ!」

 

 亜里沙は絵里の言葉に元気よく返事すると、そそくさとまた別の自販機に向かっていった。

 

 

「良い妹だな」

 

「…自慢の妹よ。何があったかは知らないけど、ウチの亜里沙に手を出さないでね」

 

「何でそうなるんだ。俺はロリコンじゃない、フェミニストだ」

 

「そこまで言ってないわよ。それより神田明神で何をしてたの?」

 

「いや、息抜きにと思って立ち寄ったんだが、最近疲れてるせいか立ち眩みを感じてな」

 

「……健康管理は大事よ。あなたはあの子たちのリーダーなんでしょ?リーダーがキチンとしてないと、あの子たちが心配するわよ」

 

「分かった」

 

「絶対分かってないでしょ?」

 

 亜里沙を見送った絵里と悠はそんなやり取りをする。何というか不思議な感じだ。転校当初はライブの件で仲が険悪だったのに、今ではこう軽口を言えるまでになっている。GWに一緒に稲羽に行ったこともあるのだろうか。

 

「先日は亜里沙がお世話になったそうね。ありがとう」

 

「いや、別にいいさ。元々俺の知り合いが亜里沙もどうかって誘っただけだからな」

 

「そう」

 

 

「「……………………」」

 

 

 それ以上会話は続かなかった。やはりまだそう簡単に打ち解けることはできないようだ。何か話題はないもんかと探していると

 

 

 

「………あなたは何も言わないのね」

 

 

 

「え?」

 

「この間の理事長室でのことよ。私はあの子たちを否定するようなことを言ったのに、あなたは私に対して何も思わないの?」

 

 いきなり絵里本人がそんな話題を振ってきた。彼女の方もあのことを関してはすごく気にしていたらしい。

 

「思うとこがないと言えば嘘になるが、絢瀬の言うことも一理あると思った」

 

「…どうしてそう思うのよ?」

 

「だって、絢瀬は何の根拠もなしにああいうことを言わないって思ったからな」

 

 悠の返答に絵里は無表情に押し黙った。予想していた答えと違ったからなのか、その表情はどこか不機嫌に見える。一体どうしたのかと声を掛けようとすると、絵里は顔を上げて衝撃的なことを告げた。

 

 

 

 

「………私があの子たちのファーストライブの動画を投稿したとしても?」

 

 

 

 

「えっ?」

 

 絵里が告げたことに悠は驚愕した。ずっと気になっていたあのファーストライブの動画を絵里が投稿した?すると、悠の反応を見た絵里はバツが悪そうにこう言った。

 

「勘違いしないで。私はあなたたちに現実を突きつけるために投稿したの。あなたたちがしてることは全部無駄だっていうことを証明するためにね」

 

 そう言うことだったのかと悠は納得する。あの時は絵里とは険悪な状態だったので、そう考えていてもおかしくはなかっただろう。だが、今の穂乃果たちの世の注目度を考えると、絵里の目論見は予想外にも外れた訳だ。

 

 

「まさか、あの子たちの存在が東京だけじゃなく稲羽までにも知れ渡ってるとは思ってなかったわ。雪子さんや菜々子ちゃんたちも絶賛してくれてるようだけど…………私は認めないわ」

 

「何で?」

 

「私にもあるのよ。鳴上くんのように………譲れないものが」

 

 

 絵里の言葉から確固たるものを感じる。本当に譲れないものがあるのか、絵里がちょっとやそっとで揺らぐことはないだろう。しかし、絵里の言葉を聞いた悠は思わずフッと笑みをこぼしてしまった。

 

「何よ?私が何かおかしいこと言った?」

 

 悠が何故か笑みをこぼしているのを見た絵里は一瞬ビクッとなりながらも、その笑みの訳を聞いてみる。すると、

 

 

「いや、絢瀬がこうやって自分の話してくれたから、嬉しいって思って」

 

 

 あのファーストライブの動画の謎が解けたのもあるが、何よりあの絵里がこうやって自分に本音を語ってくれたのが単純に嬉しかったのだ。悠からの意外な返答に絵里は呆然としてしまう。そして、何故かは知らないが、自然と顔が真っ赤になるのを感じた。

 

「な、鳴上くんはまたそう言うことを……ふんっ!あなたが何て言おうと、私は意見を変えるつもりはないわ。大体ね、あなたはいつもいつも」

 

「はい」

 

 悠の発言に対して説教しようとすると、悠から何かを差し出された。見てみると、それはしっかりと折り目がついている折り紙の鶴だった。

 

「折り鶴………?どうして」

 

「なんとなく作ってみた」

 

 絵里は悠の返答に困惑しながらも、差し出された折り鶴を手に取った。そして、

 

 

 

「素敵……何だか、懐かしいわね」

 

 

 

 絵里は悠が折った鶴に感嘆している。何か折り鶴に思い出があるのか、その表情は出会ってから見たことがない心から感動している嬉しそうな表情だった。すると、

 

「わあ!すごい!鶴だ~!これどうしたの?」

 

 別の飲み物を買ってきたらしい亜里沙が悠が折った鶴を見て興奮している。やはり姉妹なのか、こういう心から感激している表情も同じように輝いている。手に持っている飲み物が"おしるこ"と書いてあるのは気にしないでおこう。

 

「俺が作った」

「すご~い!お婆ちゃんが前に作ってくれたのと同じだ」

「お婆ちゃん?」

 

 亜里沙の口から思いもよらぬ言葉が出た。"お婆ちゃん"とは一体?

 

「あ、実は…」

 

「わ、私も久しぶりに折ってみようかしら?」

 

「え?」

 

 絵里は何を思ったのか、亜里沙の言葉を遮るようにそんなことを言って、鞄から余った紙を取り出して鶴を折り始めた。

 

「見てなさい。鳴上くんのより、良い鶴を折ってみせるわ」

 

 意気揚々する絵里だが、豪語した割には色々と戸惑っているように見える。そして

 

「ふふ、出来たわ。ほら」

 

 絵里が折った折り鶴に悠と亜里沙は思わず唖然としてしまった。何というか、悠のものと比べると色々と不格好でしなれた鶴に見える。ハッキリ言うと……

 

 

 

「下手」

 

 

 

「うぐっ……」

「お、お姉ちゃん!」

「ごめん……」

 

 バッサリと斬られた絵里は悔しいと思ったのか、ムキになってまた鞄から紙を取り出してせっせと折り始めた。

 

「……ううっ、私だって本気を出せば…………ほら!」

 

 今度は先ほどよりも形が良いものができた。絵里は普段は見せないドヤ顔でこちらに自信作の鶴を見せるのだが、

 

「はい」

 

 悠は先ほど作ったものより小さい鶴を絵里の手に乗せた。それを見て、絵里は愕然としてしまう。

 

「か……可愛い………鳴上くん、こんなものまで…」

 

「わあ!鳴上さん、すご~い!」

 

「も、もう一回よ!」

 

 その後、何かのスイッチが入った絵里と悠は互いの紙が尽きるまで折り鶴を折り続けた。何というか、いつも毅然としている絵里がこうも負けず嫌いだったとは意外だ。この瞬間、絢瀬絵里の年頃の少女らしい一面を見たのかもしれない。それが少し嬉しかった悠はゴーグルで集中力が上がる誰かほどはいかないが、勢い余って難易度が高いものを作ってしまい、絵里を更に愕然とさせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょ、今日はありがとう………」

 

 お互い紙が尽きたところで打ち止めになり、暗くなってきたのでこれでお開きということになった。

 

「ああ、こちらこそありがとう。絢瀬と亜里沙のお陰で、テスト前の良い息抜きになった」

 

「そう………でも、試験では絶対負けないわ!今度こそ私があなたを抜いて、一番になって見せるわよ!」

 

「臨むところだ」

 

 成り行きとはいえ、あの折り紙対決?は絵里の競争心に火をつけてしまったらしい。でも、絵里の顔に元気が戻ったようなので、それはそれで良かったかもしれない。こうして悠は絵里たちと別れて、真っすぐに家に帰った。しかし、

 

「あっ、絢瀬にあのことを聞くの忘れてたな……」

 

 絵里にあることを聞こうと思ったのだが、折り紙に熱中しすぎてすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、今日はとても楽しそうだったね」

 

 帰り道、悠からもらった折り鶴を眺めていると、亜里沙がそんなことを聞いてきた。絵里は少し困惑しながらも返答する。

 

「そ、そうね。亜里沙の言う通り、鳴上くんと鶴を折ってて……楽しかったわ」

 

 柄にもなく意地を張って熱くなってしまったが、亜里沙の言う通り、楽しいと感じた。こんな気持ちになったのは久しぶりかもしれない。相手が悠だったからか、変なことを聞いてしまったりもしたが、少し気分が晴れた日だった。すると、亜里沙が唐突にこんなことを聞いてきた。

 

 

「鳴上さんって……お婆ちゃんに似てない?」

 

 

「えっ…………?」

 

「何となくそう思ったの。お姉ちゃんもそう思わない?」

 

「……………そう……かもね…」

 

 亜里沙の言葉に絵里は返答に戸惑ってしまった。認めたくはないが、確かにそうかもしれないと思う自分が居る。悠が折って見せたあの鶴は、絵里が幼い頃に今はロシアにいる祖母が折ってくれたものと似ていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

 

「うううっ……終わらない」

「……もう辛過ぎにゃ」

「早くこの地獄から解放させて」

 

 テストが間近に迫って最後の根詰めをしている穂乃果・凛・にこは既にグロッキー状態になっている。そんな3人に追い打ちをかけるように、真姫は耳元にこう囁いた。

 

「"常時腹ペコ和菓子屋イーター"」

 

「うっ…」

 

「"核弾頭猫娘"、"夢見るナルシストアイドル"」

 

 

 

「「「絶対やだあぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 

 

 罰ゲームだけは絶対に受けたくないのか、穂乃果たちの奮闘は続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスト当日………

 

 

 ついに運命の時がきた。その日、かなり真っ青になっている穂乃果・凛・にこの姿を目撃して、かなり不安になったものだが、勉強を見ていた限りでは余程のことがなければ大丈夫だろう。そんな心配をしながらも、悠は配られた問題に目を通して解答を進めて行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、テスト返却日……

 

 

「凛は英語60点だったにゃ!」

 

「私も赤点は一個もなかったわ」

 

 凛とにこは部室に来るなり、意気揚々と解答用紙をみんなに突きつける。2人の言う通り、確かに赤点は回避されている。これで赤点危機組のうち2人は大丈夫な訳だ。

 

「あとは…穂乃果ね」

 

「そうですね…」

 

 皆が一番心配しているのは他ならぬ穂乃果だ。テスト本番で緊張してダメでしたっていう光景が容易に想像できる。果たしてどうだったのかと思っていると、

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドッ!バンッ!!

 

「やったー!穂乃果、赤点回避したよ――!」

 

 

 

 

 

 笑顔で部室に駆け込んできた穂乃果は鞄から数学のテストをみんなに見せる。その点数はなんと63点。赤点を余裕で回避していた。その結果に皆は大歓声を上げた。

 

 

「やったー!!」

「これでラブライブにエントリーできます!」

「大金星だにゃ――!」

 

 

 雛乃から提示された条件をクリアしたことにみんな大喜びだ。あの真姫でさえ、顔には出してないが、密かにガッツポーズを取っていた。何はともあれ、これでラブライブへのエントリーはできることだし、これから一層練習に励むことが出来る。

 

「よーし!今日は練習の後に宴よ――!鳴上~、準備しておきなさい……って、あれ?そう言えば、鳴上はまだ来てないの?」

 

「「「えっ?」」」

 

 よくよく見てみれば、肝心の悠がまだ部室に来ていなかった。余程のことが無い限り、いつも皆より早く来ている悠がいないとは珍しい。一体どうしたのというのか?

 

「何かあったのでしょうか?とりあえず、私ちょっと様子見に行ってきますね」

 

「頼んだわよ」

 

 少し心配になってきたので、海未は悠を探しに部室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠が居るであろう3年生の教室や職員室を探索するも、そこに悠の姿はなかった。一体どこに行ったのだろうとこの他に悠が行きそうな場所を模索する。もしや、屋上にいるのではないかと考えた海未は階段を駆け上がる。そして、屋上まで辿り着き、ドアを開けると、

 

「えっ?」

 

 海未の目に飛び込んできたのは信じがたい光景だった。夏が近づいているのを感じさせる暖かい風が屋上に吹いているが、その光景のせいで海未は激しく動揺してしまい、それを感じることは出来なかった。

 

 

 

 

 

「鳴上…先輩と……副会長?」

 

 

 

 

 

 海未の目の前で、希が悠を強く抱きしめていたのだから。その光景はさながら恋愛映画のワンシーンみたいで、海未は衝撃のあまりに呆然と2人を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「悠くんに伝えたいことがあるの」

「興味本位で関わろうとしないでください!」

「エリチの話やろ?」

「これは………」

「もしかしたら犯人は」



「今の鳴上くんたちに必要なんや」



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