PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。


今年は自分にとっての楽しみがありすぎて、とても胸がわくわくしてます。何をかと言うと、

「Fate/EXTRA Last Encore」
「PERSONA5 THE ANIMATION」

です。また「PERSONA5 THE ANIMATION」の主人公の名前が"雨宮蓮"とは……カッコイイとしか言えない。漫画版の"来栖暁"も良いですが、こちらもしっくりきますね。他にもFGOの第2部とか先が気になって楽しみすぎます。


突然ですが、皆さまにお知らせが……新年早々で大変申し訳ないですが、1月中旬辺りから試験期間に入るので、更新が一月末までストップすることになります。大変申し訳ございません。試験が終わったら更新再開するので、待っていてください。


改めて、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・アドバイスやご意見をくださった方・評価をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

前書きがとても長くなってしまいましたが、それでは本編をどうぞ!


#39「Gourmet journey」

〈???〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………ここは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めると悠は夕焼けに染まるとある道端を歩いていた。この見覚えのある景色。それにこの心地よい風。それらから、これは夢であると悠が直感した。そう、これは過去夢。自分が忘れている過去の記憶が夢となったもの。それはつまり…

 

 

「悠くん、どうしたの?ぼうっとして」

 

 

予想通り、悠の隣には件の少女が居た。顔を覗きこむような姿勢で話しかけてきたので、少しびっくりしてしまう。

 

「いや、何でも……」

 

悠は少女に心配をかけまいと平静を装ってそう返すが、少女はそれを見て何か気に障ったのか少し悲し気な表情になった。

 

「ふ~ん……でも最近、悠くんそう言うこと多くない?もしかして……私と帰るのつまんなくなった………」

 

「い、いや!そういう訳じゃ」

 

「……ふふ、冗談だよ」

 

少女は慌てる悠を見て満足したのか、悲し気な表情から一変して、いたずらが成功したといった晴れやかな表情になった。それを見て、悠はからかわれたのだと気づきムッとなる。

 

「ごめんってば!じゃあ、一緒に帰ろうか」

 

そんなやり取りを終えて、悠と少女は再び歩き出した。少女と他愛ない話をする中で、悠は少しずつこの時のことを思い出していた。

 

 

前回の教室でのやり取りから、悠はこの少女と帰ることが日常となっていた。今日会った出来事を帰宅中に振り返ったりするだけで何も特別なことではないが、前の学校から一人で帰宅することが多くなった悠にとって、この日常は何か特別なものを感じていた。

 

しかし、気掛かりなことにこの夢の中でも()()()()()()()()()()()。この時の自分は彼女の名前を知っているのだろう。だが、思い出そうとしてもどうも靄がかかったみたいに思い出せない。悠は失礼かもしれないと思いつつも、思い切って彼女の名前を聞くことにした。すると、

 

「ねえ、悠くん……」

 

少女は悠が質問しようとする前に、こちらを見てそんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

 

「もし私が悠くんのことを忘れても、悠くんは私のことを覚えててくれる?」

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

唐突な質問に悠は困惑してしまう。いきなりそんなことを言われても、どう返答していいのか分からない。すると、少女は困惑する悠に何を思ったのか、顔を覗き込んで

 

「な~んてね♪私が悠くんのことを忘れるわけないじゃない。それじゃあ、私の家はこっちだから。また明日ね」

 

少女は悠に微笑んでそう言うと、手を振って自分の帰路へと立って行った。まだ聞いてないことがあるので悠は彼女を引き留めようとしたが、声が出すことができずその姿を見送ることしかできなかった。そして、悠の意思に反するかのように視界は暗転してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かみ」

 

 

 

…………………誰かの声が聞こえる。

 

 

 

「るかみ…………」

 

 

 

 

………………眠い…あと…………

 

 

 

 

 

 

 

「鳴上くんっ!」

 

 

 

 

 

 

「!!っ」

 

耳元に大きな声が入ってきたので、悠は思わず仰け反ってしまった。目の前に教師がいる。そして、周りのみんながこちらを凝視している。

 

 

「目は覚めましたか?鳴上くん。もう授業の時間ですよ」

 

 

自分を起こしてくれた教師の言葉と共に、悠は思い出した。ここは学校で、授業の間の休み時間にウトウトして寝てしまったことを。証拠に、今は古文の授業なのに自分は前の時間の教材がそのままの状態で置いてあった。

 

「はい…すみません……」

 

「全く…GWが明けてからこの調子ですよ?いくら勉強以外のことも色々忙しいからって、あまり無理しないでくださいね。あなたは受験生なんですから」

 

寝起き早々に現実を叩きつけられてしまった。別に勉強を怠っている訳ではないが、穂乃果たちといるとついつい自分が受験生であることを忘れてしまう。今後気を付けなければと悠は思った。

 

「善処します」

 

「もう……鳴上くんにもしものことがあったら、私が理事長にドヤされるんですからね

 

悠の返事を聞くと、教師は若干愚痴をこぼしてから黒板に向かい、授業を開始した。授業中、ノートを取りながら、悠は先ほど見た夢のことを考えていた。

 

 

(またあの夢か………一体あの女の子は何なんだ?)

 

 

そのこと考えながらぼうとしていると、また教師に注意されてしまった。本当に最近は色々と調子が狂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昼休み~

 

<屋上>

 

やっと午前中の授業が終わり、昼休みとなった。悠はお昼を食べるために弁当を片手に屋上へと向かう。稲羽でも屋上で皆と昼食を取ることが多かったせいか、この音ノ木坂学院でも屋上へ足を運ぶのが日常になっている。μ‘sのの練習場所としてもあるが、やはり自分は屋上で昼飯を食べるのが好きらしい。そう思っていると屋上に辿り着き、ゆっくりドアを開ける。

 

 

 

 

 

「ドラスティックお邪魔いたします」

 

 

 

 

 

そこに待っていたのは穂乃果たちではなく、群青色の衣装を身に着けた銀髪の女性……というか、エリザベスだった。予想外の人物の登場に悠は危うく転びそうになる。

 

「エリザベスさん……どうしてここに?それに、どうやって校内に」

 

「ここが屋上という場所なので御座いますね。以前呼んだ"ラブコメ"いう書物によれば、愛の告白を行うには定番のスポットだとか。しかし、このような殺風景な場所が何故そのような場所となっているのか些か疑問を感じます。そもそもこのような場所では………」

 

話を聞いていない………相変わらず自由な人だなと思いつつ、悠はエリザベスに再度コンタクトを試みる。

 

「ハァ………何でここにいるんですか?エリザベスさん」

 

「あら、申し訳ございません。今年あたりに私が再登場するゲームというものが登場と聞いて浮かれてしまい、話が脱線してしまいました。実は、少々鳴上様に………」

 

何か危ない発言をしたようなエリザベスはそう言うと、悠に用件の内容を手短に説明した。

 

 

 

 

 

 

その時屋上のドア付近では………

 

 

 

「ちょっ!アレどういうこと!?」

「な、鳴上先輩が……知らない女性と話してます!?」

「銀髪で綺麗な人………」

「お兄ちゃん……また別の女を引っかけて………」

「ことり先輩!?目の光が消えてるにゃ!?」

 

 

 

悠よりも遅く来たμ‘sメンバーがドア陰に隠れて、エリザベスと悠の様子を伺っていた。ブラコン魂に火が付いて今にも飛び出しそうなことりを抑えつつ、穂乃果は悠と会話しているエリザベスの方を見る。

 

「あ、あの人って、もしかしてエリザベスさん?」

 

「穂乃果、知っているのですか?」

 

「うん。あの人は"エリザベス"っていう人で、悠先輩と風花さんと一緒にP-1Grand Prixであった人だよ。確か……悠先輩が戦ってボコボコにされたような…………」

 

「「「ハァ!?」」」

 

穂乃果の一言に海未たちは衝撃を受ける。自分たちの知る限り一番強いペルソナ使いである悠がボコボコにされた?あまりに信じられないことだが、あの戦いを見ていない海未たちにはそう思わざる負えないだろう。

 

「な、何でそんな人がこんなところに………」

 

悠に何か話しているエリザベスの方を観察して、皆は悶々と考える。じっくり観察していると穂乃果があることに気づいた。

 

「なんか、エリザベスさんってあの人に似てない?」

 

「あの人?」

 

「ほら、私たちのファーストライブに来てくれたあの…秘書っぽい人」

 

「「「「「あっ」」」」」

 

そう言えばと皆は改めてエリザベスを見る。身につけているエレベーターガールを模したような群青色の衣装は確かに、ファーストライブに来てくれたあのプラチナ色の髪の美しい女性が身に着けていたものと似ていた。

 

「確かに……雰囲気があの人に似てますね」

「もしかして、あの人とエリザベスって姉妹なんじゃ」

「じゃあ、何でその人がこんなとこ来たっていうのよ」

「もしかして……」

 

そんな感じでひそひそとエリザベスは何者か?という話し合っていると……

 

 

 

 

「……………何やってるんだ?」

 

 

 

 

 

「「「きゃあっ!」」」

 

突如、頭上から声が聞こえてくる。その声の主は言うまでもなく悠だった。突然声を掛けられたので、穂乃果たちはびっくりしてしまう。それに、悠の背後にはエリザベスもおり、こちらを興味深そうな目で見ていた。

 

「悠先輩っ!?それに、エリザベスさん……」

 

「おやおや、皆さまお揃いでしたか。ちょうど皆さまにお願いがありましたので、手間が省けたと存じます」

 

エリザベスの言葉に穂乃果たちはキョトンとなる。この人が自分たちにお願い?どうしうことなのだろうかと思っていると、穂乃果たちの返答を待たず、エリザベスは用件をストレートに伝えた。

 

 

「今日一日、鳴上様を私にお貸しいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

「「「えっ?」」」

 

あまりにストレート過ぎる内容に穂乃果たちは絶句するとともに混乱した。

 

「な、何でなの?お兄ちゃん………まさかっ!そのエリザベスっていう女に弱みでも握られて」

 

「どうしてそうなるんだ………実はな」

 

と、変な憶測をすることりたちに呆れながら悠は皆に事情を説明した。

 

 

 

 

 

 

「辰巳ポートランドを回りたい?」

 

「ええ。私、この世界を離れて随分経つので、いざ戻って見ると、この世界の食べ物が恋しくなったのです。しかし、私一人では心細いので、是非とも鳴上様に案内をお願いしたのでございます」

 

エリザベスのお願いに穂乃果たちは難色を示した。言っていることが所々意味不明だが、要するに自分の用事に悠を貸してほしいということだ。皆はそんなの断ればいいのにと思うのだが、悠には悠の事情がある。

 

「P-1Grand Prixの時、色々この人には世話になったからな」

 

「あー…それじゃ、しょうがないね」

 

悠の一言に穂乃果は納得したように頷いた。しかし、海未たちは当然訳が分からないので穂乃果の反応に抗議した。

 

「しょうがないじゃないでしょ!穂乃果は何故納得してるんですか!?」

「そうよ!この人、明らかに怪しいじゃない!」

「アンタは何でそう納得してんのよ!」

「穂乃果ちゃん!どういうこと!?」

 

皆の抗議に多少驚きはしたものの、穂乃果はあっけらかんと説明する。

 

「だって、エリザベスさんは良い人だし。大丈夫だよ」

 

「あ、あなたはいつもそういうことを………」

 

「それに戦いはしたけど、エリザベスさんのお陰であのニセクマさんのところに行けたし、悠先輩の傷を治してくれたし……そんな人が悪い人なわけないじゃん。この人は絶対良い人だよ」

 

「「「……………………」」」

 

穂乃果の言葉に押し黙る一同。よくもまあ、それだけのことでそんなことが言えたものだと海未たちは思ったが、口にはしなかった。よくは分からないが、穂乃果の口ぶりや悠のエリザベスに対する態度から、あの事件の裏にこの人物の助けがあったことは明らかだろう。沈黙は肯定と取ったのか、エリザベスは嬉しそうな表情でこう言った。

 

「では、皆さまご納得いただけたということでよろしいですね。それでは、鳴上様。本日はよろしくお願いいたします」

 

エリザベスは海未たちの返事を聞かずにそう言うと、悠たちにお辞儀してその場から去っていった。エリザベスが去ったと同時に、海未たちはふうと溜息を吐いた。

 

「確かにあの人は悪い人ではなさそうですね」

「穂乃果ちゃんが嘘を言う訳ないし」

「仕方ないですね。今日は鳴上先輩抜きで練習しましょうか……しかし、鳴上先輩?」

 

海未たちはそう言うと、キッと悠を見てこう言った。

 

 

 

 

「「「絶対に手を出さないでくださいね!」」」

 

 

 

 

「何でだ………」

 

悠は皆のその言葉に思わず呆れてしまった。何というか、エリザベスと辰巳ポートランドに行った後の方が心配になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 

帰りのHRも終わり、エリザベスとの約束の時間が来た。きっと今頃エリザベスは音ノ木坂学院付近で待っているだろう。

 

「あら?鳴上くん、今日は練習ないの?」

 

教室を出ると、生徒会室に向かう途中だったらしい希と鉢合わせた。あまりに唐突な出現だったので、悠は少し驚いてしまう。

 

「いや、ちょっと今日は用事があるから、穂乃果たちに任せてある」

 

「ふ~ん。でも、その前に鳴上くんと会えて良かったわ。ちょうど伝えたいこともあったし」

 

「俺に?」

 

すると、希はふわっと悠の耳元に近づいた。その行動に悠は思わずドキッとしたが、それに構わず希は悠の耳にこう囁いた。

 

 

 

「さっき鳴上くんのこと占ったんやけどな………今日はあの銀髪の人食べ物に気を付けとき」

 

 

 

「えっ?銀髪……?」

 

「ふふっ、女の子はスピリチュアルなんやで。ほな」

 

希は口に手を当てて微笑むと、軽やかにその場を去っていった。希のその姿に悠は思わず呆然としてしまった。何故か一瞬あの夢に出てきた少女と雰囲気が似ていたのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

希とのやり取りを終えて待ち合わせ場所に着いた悠だったが、肝心のエリザベスがいなかった。何か準備でもしているのだろうかと思い、しばらく校門付近をウロウロして待っていると

 

 

ここだよね、お姉ちゃんの学校って……あ、あそこに居るのって

ん?どうしたの、亜里沙?……あっ!鳴上さんだ!おーい!鳴上さーん!」

ゆっ!雪穂……

 

 

ふと声を掛けられたので、その声がした方に目を向けてみると、そこにはこちらに手を振る中学生の姿が見受けられた。よく見ると、それは自分のよく知っている人物だった。

 

「雪穂。久しぶりだな」

 

「はい!お久しぶりです。GWはお姉ちゃんがお世話になりました」

 

穂乃果の妹である【高坂雪穂】だった。相変わらず、礼儀正しくて良い子だ。よく見ると雪穂の後ろにもう一人、見知っている顔が

 

な…な……鳴上さん…………

 

悠を見てながらモジモジとしている雪穂と同じ制服を着ている薄い金髪の少女。その顔に見覚えはあった。

 

「君は確か……亜里沙だったかな」

 

「は、はいっ!覚えててくれたんですね!鳴上さんっ!」

 

悠が自分の名前を憶えていたことが嬉しかったのか、表情がとても明るくなる少女。彼女の名は【絢瀬亜里沙】。雪穂の親友であり、以前希と秋葉原へお出かけした時にとある事件に巻き込まれところを助けた際に知り合った女の子だ。雪穂と共にスリも濡れ衣を着せられそうになったところを偶然その場にいた悠と直斗が助けてくれたのだ。余程あの時のことが忘れられないようで

 

 

「鳴上さんが私のこと覚えててくれたー!わーい!」

 

 

人目を気にせず喜びを表現するかのようにピョンピョンと跳ねていた。その様子はまるで可愛らしいウサギを連想させた。感情を素直に表現するのはいいことだが、完全に道行く人が奇異な目でこちらを見ている。

 

「あ、亜里沙!嬉しいのは分かるけど、ちょっと抑えて!人が見てるから……って亜里沙!?」

 

雪穂がそう諭すが亜里沙は止まらず、勢い余って悠に抱き着いてしまった。その光景を目にした人々は唖然としてしまう。このままでは何かまずいと思ったので、なんとかして亜里沙を引き離そうとすると、

 

 

 

 

「まあ鳴上様、随分と楽しそうでございますね」

 

 

 

 

何故か悪いタイミングで件のエリザベスが来てしまった。エリザベスの登場に周囲で悠たちの様子を見ていた野次馬が湧く。女子中学生と仲良く絡んでいた男に不思議な衣装を身に着けた美人がやってきたので当然のことといえる。

 

「私をお待ちしている最中に………おや?」

 

エリザベスは何か言いかけたと思うと、雪穂と亜里沙の方をしげしげと見て黙り込んでしまった。どうしたのだろうと思っていると、

 

「な、鳴上さん……この人はまさか……彼女さんですか?」

 

エリザベスを見て、今にも泣きだしそうな顔でそう聞いてくる亜里沙。何故いきなり彼女なのかと聞いて来るのが甚だ疑問だが、ここは正直に話したほうがいいだろう。

 

「いや、そうじゃない。この人はエリザベスさんって言って、ただの知り合いだ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あ、ああ………」

 

それに加えて、今日はその時のお礼としてエリザベスが行きたがっている辰巳ポートランドを案内するのでその待ち合わせをしていたことも説明する。別にエリザベスは彼女じゃないし、知り合ったのは本当にGWの時なので嘘は言っていない。悠の説明を聞いて信じてくれたのか、亜里沙は安心したかのようにほっと息を吐いて元の表情に戻った。その様子をハラハラと見守っていた雪穂もホッと息を吐いた。すると、ダンマリとしていたエリザベスが突然ニンマリと笑って、こんなことを言ってきた。

 

 

「ふふふ………これも何かの縁で御座いましょう。よろしければ、あなた方も私たちと一緒に食道楽の旅と参りませんか?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<辰巳ポートランド>

 

そんな訳で、エリザベスと雪穂、そして亜里沙と共に辰巳ポートランドにやってきた。平日の放課後ということもあるのか、駅には帰宅する学生が多く見受けられた。

 

「この景色……久しぶりでございます。あの時とお変わりはありません。さあ、食道楽の旅と参りましょう」

 

巌戸台駅について、感慨に浸りスタスタと歩みを進めるエリザベス。久しぶりの辰巳ポートランドを訪れて、とてもテンションが上がっているように見える。

 

「わ~ここが辰巳ポートランドか~。私、ここに来たことがないから楽しみだなぁ」

 

そして、亜里沙もエリザベスと一緒にはしゃいでいた。

 

「な、鳴上さん……本当に私たちもついてきてよかったんですか?」

 

「まあ、エリザベスさんが良いって言ったからな」

 

自分たちも付いてきて申し訳ないと表情を曇らせる雪穂を宥める悠。エリザベスが何を思ったのかは分からないが、今日偶々出会った雪穂と亜里沙も同行させるとは一体どうしたのだろうか?まぁあの人の考えてることが分からないのは今に始まったことじゃないので、深く考えないことにした。

 

 

そんな感じで、しばらく歩いていると、

 

 

「おや……このかぐわしい匂いは!?」

 

 

何かの匂いを察知したのか、エリザベスは前触れもなく走り出した。どこに行くのかと、急いでエリザベスを追跡する悠と雪穂と亜里沙。すると、

 

 

「あら~、あんさん久しぶりやないの~。今までどこいっとんたん?」

「ええ、諸々の事情で少しばかり旅をしていたのでございます」

「へぇ~それは大変やったな~」

 

 

エリザベスを追って辿り着いたのは"たこ焼き屋『オクトパシー』"。そこでエリザベスは店主のおばちゃんと仲良さげに会話していた。あまりに予想できなかった光景に悠はズッコケそうになる。

 

「あら、今日はお連れさんもおったんやな。おや〜?もしかして、こっちのイケメンはあんさんの彼氏なんかぁ?」

 

ニヤニヤしながらこちらを見るたこ焼き屋のおばさん。今日何度そういうことを言われただろう。おばさんの質問を真に受けた亜里沙がまた泣きそうな目でこちらを見てくるし、雪穂も雪穂で何故か慌てている。

 

「いや……そういう関係じゃ」

 

「もう~!そんな照れんでええやないのぉ。初々しいなぁ。よしゃ!今日はこの彼氏さんに免じてサービスしちゃろ。ウチ自慢のほっぺたが落っこちてまうほど美味しいたこ焼き!1パック400円で、今日はあんさんらにそれぞれ一個ずつサービスや」

 

勘違いしたまま、たこ焼きを焼いていくおばさん。何とも痛まれない気分になったが、ご厚意で作ってくれたものを受け取らないというのは申し訳ない気がしたので、それらを買うことにした。

 

「鳴上様、私はこの世界の通貨をいくらか持っていますので、奢ってもらう必要はなかったのですが」

 

そう言って、どこからかは知らないがパンパンになった財布を取り出したエリザベス。あまりのパンパンさに悠だけでなく雪穂と亜里沙も仰天した。一体いくら持ってきたのかが気になるところだが、どちらにしろ女性に奢ってもらうというのは男として気が引けるので、ここは悠が全額支払うということにした。

 

 

「はい!たこ焼き4パック。おおきに!また来てや~」

 

 

おばさんから出来上がったたこ焼きを受け取ると、近くのベンチでたこ焼きを食べることにする。蓋を開けてみると、美味しそうな匂いを漂わせるたこ焼きたちが悠たちを待っていた。料理スキルが高い悠から見ても、焼き上がりが上々でその上で踊っているかつお節やソースの匂いが食欲をそそった。

 

「わあ、これがたこ焼きかぁ。初めて見た~!」

 

亜里沙はそんな美味しそうなたこ焼きを見て目を輝かせていた。

 

「ん?亜里沙はたこ焼き食べたことないのか?」

 

「ああ、亜里沙は少し前までロシアで過ごしてたんですよ。あっちの生活が長かったらしいので、まだ日本の文化に慣れてないところがあって」

 

「なるほどな」

 

雪穂の説明を聞いて納得する悠。そう言えば、亜里沙は絵里と姉妹であるということだったが、もしかして絵里もそんな感じなのだろうか?そう思っているうちに、亜里沙は早速たこ焼きを店から貰ったお箸で掴んで、口に頬張った。

 

「ハラショー!とっても美味しいっ!」

 

美味しそうにたこ焼きを頬張る亜里沙。どうやら、たこ焼きがお気に召したようだ。雪穂もたこ焼きを頬張り、美味しそうな表情をしている。さて、自分も冷めないうちに食べるかと悠と雪穂もたこ焼きを口に頬張った。

 

(うん……これはいいタコを使っているな。噛み応えも中々だし、何よりソースが中の食材とマッチしている。こういうのが、たまらないな)

 

悠からの高評価をもらったたこ焼き。雪穂も同じ感想を持ったのか、幸せそうな顔をしていた。

 

「はて?ハラショーとは……」

 

先に黙々とたこ焼きを食べていたエリザベスは亜里沙が発した言葉にふと疑問を持つ。

 

「ああ、私が住んでいたロシアではこ感動した時とかに"ハラショー"って言うんですよ」

 

「ほう……確か"ロシア"とはこの世界で一番土地の広い国家であることは存じ上げておりましたが、まさかそんな感情を表現する言葉があるとは。では私も」

 

亜里沙の解説を聞いたエリザベスは自分もやってみたいと思ったのか、改めてたこ焼きを一口頬張った。そして、

 

 

 

「このプリプリとした食感は……ハーラショーでございます!」

 

「ハラショー!」

 

 

 

意気投合するエリザベスと亜里沙。2人とも楽しそうで見ているこちらも心温まる光景であった。そんな感じでたこ焼きを食べ終わると、休憩する間もなくエリザベスは立ち上がってこう言った。

 

「さて、お次は"ドリンクバー"という食材と参りましょう。混合比によって無限の味を引き出せるというドリンクバー…………楽しみでございます」

 

「どりんくばー………何かおいしそうですね」

 

「待て!ドリンクバーというのは亜里沙が今考えているものじゃない!」

 

「亜里沙!?惑わされないで!?」

 

エリザベスの間違った情報を鵜吞みにする亜里沙に悠と雪穂が一斉に突っ込む。このような調子で悠と雪穂はエリザベスと亜里沙の行動や言動に振り回されながら、"まんが喫茶"・"ワクドナルド"・"甘味処"と色々な飲食店をハシゴした。こうして、美味しいものを食したエリザベス・亜里沙・雪穂の笑顔と引き換えに、悠の財布はどんどん軽くなっていったのであった。

 

 

 

(…また菊花さんにアルバイト頼もう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

ところ変わってアイドル研究部室。海未たちは落ち着かない様子でバタバタしていた。正体不明の女性がいきなり姿を現して、悠を辰巳ポートランドに連れて行ったので、気持ちは分からなくはない。

 

「鳴上先輩……大丈夫ですかね」

 

「……心配ね」

 

「あの人…お兄ちゃんに何かしたら……ことりのおやつに………」

 

「ちょっと!みんなソワソワしすぎだよ!別にエリザベスさんは良い人だから大丈夫だって!」

 

穂乃果は落ち着かない皆にそう言うが、海未たちは取り合おうとはしなかった。

 

「しょうがないでしょ!私たちはあのエリザベスっていう人と会ったのは初めてだし。そもそも一回会っただけでそう信じられる穂乃果さんの方がおかしいわよ!」

 

「穂乃果はおかしくないもん!悠先輩と考えが同じなだけだもん!!」

 

「ほ・の・か・ちゃん……………?」

 

「し、しまったー!ことりちゃん!違うんだってば!」

 

真姫の反論に子供のように突っかかる穂乃果。しかし、思わぬ失言でことりの逆鱗に触れてしまったらしく、次はことりを説得しようと慌ててしまう。その様子をみて、椅子にふんぞり返っていたにこがこう呟いた。

 

「アンタもアンタだけど、鳴上も鳴上よ。仮にもあのエリザベスってやつはP-1Grand Prixの時じゃ敵だったんでしょ?根拠もないのにそんなやつを簡単に信じられるなんて、お人好しが過ぎるわ」

 

「それは……」

 

にこの指摘に言葉を詰まらせてしまう穂乃果。穂乃果たちはまだ知らないが、以前悠も人を信じすぎて酷い目にあったことがある。この場に悠もいたならば、悠も穂乃果と同じく言葉を詰まらせていただろう。

 

「ったく、こんな時まで心配かけるんじゃないわよ……今のμ‘sにはあいつが必要不可欠なのに………もしものことがあったら、私が困るじゃない……」

 

にこはそういうと、椅子と身体を窓に向けて再び踏ん反り返る。空を見つめて平静を保っているが、口を不自然にパクパクさせているのがもろバレだ。何だかんだ言って、かなり悠のことを心配しているようだ。すると、

 

 

 

「そう言えば、花陽ちゃんは?」

 

 

 

穂乃果にそう言われて、一同は部室内を見渡す。言われてみれば、ことりと同じくあたふたしていそうな花陽がどこにも見当たらない。どうしたのだろうかと思っていると、

 

 

 

 

 

「み、みなさん!大変です!!」

 

 

 

 

焦った表情の花陽が部室に駆け込んできた。そして、その花陽の口から、今後μ‘sの未来を…果ては悠の旅路の運命を左右する出来事の詳細が告げられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴上さん、大丈夫?」

 

「何とか……生きてる」

 

あの後、何件かの店をハシゴした悠たちだったが、残りの所持金は帰りの電車賃だけとなっていた。所持金が少なくなり灰になりかけている悠を雪穂は心配そうに見ていた。ちなみに、エリザベスはもうここにはいない。悠たちと最後にポロニアンモールの甘味処を満喫したところで、

 

 

「本日はありがとうございます。今回はあまり時間が無かったので、少ししかハシゴ出来ませんでしたが、満足致しました。まだまだ訪れてみたい場所がございますので、その時は是非ともご一緒して頂ければと存じます」

 

 

その時は雪穂様と亜里沙様もご一緒にと付け加えて言うと、エリザベスはスキップしながらその場を去っていった。3人はその様子をただ呆然と見ているしかなかった。

 

「何というか…不思議な人でしたね」

「日本語ペラペラだったけど……どこの国の人なんだろう?」

 

去っていったエリザベスを見て、雪穂と亜里沙はそう感想を述べた。しかし、悠はまたあのようなことになるのかと思うと寒気がして、またバイトしなければならないと心の中で深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<秋葉原前>

 

「ああ!今日は楽しかった~!」

 

帰りの電車に乗って、秋葉原駅まで着いた時、亜里沙は嬉しそうな顔をしてそう言った。今日のことが余程楽しかったらしい。まあ、こんな可愛い子が喜んでくれたのならこっちも嬉しくなる。こちらは所持金を大半失ったが、ある意味エリザベスに感謝しなくてはならないだろう。

 

「良かったな、亜里沙」

 

「はい!今日は日本に来て、食べたことないものをいっぱい食べたから楽しかったです!でも……お姉ちゃんにも食べさせてあげたかったなぁ」

 

「お姉ちゃん?」

 

お姉ちゃんとは自分の学校の生徒会長である絵里のことだろう。亜里沙にそう返すと、亜里沙は突如表情が曇りだした。

 

 

「はい……お姉ちゃん、最近元気がないんです……GWに稲羽っていうところに行ってから、少し明るくはなったけど……やっぱり学校に行くといつも元気がなくて……………多分、お姉ちゃんの学校が廃校になるから…」

 

 

「「………………」」

 

 

「私、そんなお姉ちゃん見るのが嫌だから……昔の明るかったお姉ちゃんに戻ってほしいから、何とかしたいって思ってるけど……私にできるのって、ただお姉ちゃんの傍にいることしかないから………」

 

 

先ほどの明るさが嘘のように悲し気になった亜里沙。余程姉のことが心配なのか、その言葉には重みが感じられた。話から察するに、昔の絵里は今の雰囲気と違って明るい女の子だったらしい。あの絵里にこれまで何があったかは分からないが、亜里沙はそんな姉に何かできないかと悩んでいるようだ。すると、

 

 

 

 

「えっ?………鳴上さん?」

 

 

 

 

 

亜里沙が気づいた時には、悠に頭を撫でられていた。あまりに唐突なことに亜里沙はもちろん雪穂も唖然としてしまう。

 

 

「大丈夫だ、亜里沙。きっと亜里沙にしかできないことがあるはずだ。俺も協力するから、一緒に探そう。絢瀬…お姉ちゃんが元気になる方法を」

 

 

これは悠の本音でもある。今まで絵里と接してきて、彼女が何かに縛られているのは悠にも薄々感じていた。元々困っている人を放っておけない性分の悠もそんな絵里に何かしてあげたいと亜里沙と同じことを考えていたのだ。今は何もできないが、亜里沙の力になるのなら何でも協力しよう。そのことを伝えると亜里沙はまだ呆然としていたが、

 

 

「あ、ありがとうございます!鳴上さん!」

 

 

悠からの言葉を聞くと、亜里沙は嬉しくなり、先ほどと同じ…それ以上の笑顔でこちらを見つめていた。

 

 

 

 

 

ー亜里沙から信頼と好意が伝わってくる……

 

 

 

 

 

「…………」

 

「雪穂?どうしたんだ?そんな不機嫌そうな顔をして」

 

「……はっ!?、べ、別に何もないですよ!?」

 

「??」

 

そんな2人の様子を雪穂は複雑そうな表情で見ていた。悠にそう指摘されると、誤魔化すように慌ててそっぽを向いた。その行動に悠と亜里沙が不思議に思っていると、

 

 

 

 

 

 

「あっ!鳴上くん!」

 

 

 

 

 

振り返ると、先日お世話になった風花がこちらに手を振って近づいているのが見えた。

 

「山岸さん?どうしてここに?」

 

「ちょうど秋葉原に買いたいものあったの。ここって電気製品が充実しているから」

 

「なるほど」

 

確かにここ秋葉原は"オタクの街"とも呼ばれてもいるが、電気製品もかなり充実している。風花は確か、見た目によらず理系で機械をいじることがとても大好きだと言っていたので、それ関係の買い物に来ていたようだ。そんな感じで風花と何気なく話していると、

 

「な…鳴上さん………この人は?」

 

風花と親しく話すのを見て、またもや泣きそうな表情になる亜里沙。今度はぎゅっと悠の腕を握り締めながら聞いてきた。また彼女と勘違いしているのだろうと思い、今日何度目か分からない説明をする。

 

「…この人は山岸さんって言って、ただの知り合いだ」

 

「そ、そうなんですね…………」

 

亜里沙は悠の説明を聞いて一応納得したものの、何か釈然としていない様子だ。どうしたのだろうかと思っていると、雪穂が亜里沙の代わりに口を開いた。

 

 

 

「鳴上さんって、女の人の知り合いが多くないですか?」

 

 

 

雪穂にジト目で指摘された悠はうっとなった。何というか事実なのだが、そんな目で言われると結構キツイ。一応陽介や完二、クマ以外にも男の知り合いはいるのだが、今思えば女子の知り合いが多いような気がする。

 

「あはは…確かにそうかも。本当に鳴上くんって"あの人"にそっくり」

 

風花にも呆れた様子で指摘されてしまった。風花の言う"あの人"とは誰かは知らないが、その人物も相当女性の知り合いが多く、相当苦労したに違いない。会ったことないのに、何故かその人物に悠はシンパシーを感じてしまった。

 

「そう言えば鳴上くん、この子たちは?」

 

「ああ、この子たちは」

 

風花にそう言われて、まだ雪穂と亜里沙を紹介してなかったことに気づいた悠は、手早く2人を風花に紹介した。GWで知り合った穂乃果と絵里の妹だということもあるのか、風花は2人を見てとても驚いていた。すると、風花が何か思い出したかのように、カバンから何か入ったタッパーを取り出した。

 

 

「そう言えば、明日鳴上くんたちにあげようって思って、今日料理本で見た"ゴマ団子"を作ってみたの。試作品だけど、よかったら食べてみて」

 

 

そして、風花は笑顔でタッパーから一つのゴマ団子を取り出した。見た目は普通のゴマ団子……形はちゃんと丸に整えられており、団子を包んであるゴマも中々いい色になっている。だが、

 

 

 

(!!っ、何だ…この悪寒は……)

 

 

 

それを見た瞬間、悠の中にある第六感が警報を鳴らした。このゴマ団子を食べてはいけない。去年、あの必殺料理人たちに苦しめられたことにより生まれた第六感がそう言っている。まさか、この風花も必殺料理人なのか?ここは止めた方がよさそうだと思っていると、

 

「うわぁ、美味しそう!いただきまーす!」

「ちょっと亜里沙、そんな勝手に」

 

何も知らない亜里沙は雪穂の制止を聞かずに、ひょいっと風花のゴマ団子を手にとって口に入れようとする。まずいっ!このままでは亜里沙の大事な味覚に甚大な被害が出てしまう。

 

 

「まてっ!亜里沙!!」

 

 

悠は亜里沙の手からゴマ団子をひったくって自分の口のなかに入れた。

 

「あっ」

 

突然の悠の行動に亜里沙のみならず雪穂も風花も驚いてしまう。しかし、この勇気ある悠の行動が亜里沙の味覚を守ることとなった。

 

 

 

(うむ…外はザクザク中はドロドロ、口のなかに甘味苦味酸味がグチャグチャにコラボレーションして………あれ?地面がこんなにも近)

 

 

 

 

バタンッ!!

 

 

 

 

「「「鳴上さーん(くーん)!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風花のゴマ団子を食べた悠は意識を失い、すぐに近くにある西木野総合病院へ搬送された。幸い命に別状はなかったが、この時のことを悠は後にこう語った。

 

 

 

"アレはうちの必殺料理人をも凌駕するほどの威力だった。下手すれば、本当の生物兵器になりうる可能性もある"と…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院に搬送された悠はなんとか意識を取り戻したので、担当医であった真姫の母親の早紀は良かったと安堵した。やはり、普段娘がお世話になっている人物が搬送されたとあって、かなり心配していたようだ。しかし、原因が風花のゴマ団子だと判明すると、早紀は般若のような形相で一緒に来ていた風花を奥の病室に引っ張り、ひたすら説教した。話によれば、風花は今回のように自分の料理で人を病院送りにしたことが何度かあるらしい。

 

「山岸さん!貴女は何度やったら気が済むの!?」

 

「ち、違うんです。今回は上手くいったと思って……前にあの人に教えてもらったレシピにアレンジを加えてみたというか………」

 

「……………他に言うことは?」

 

「ううっ……ごめんなさい………」

 

こっそりとその現場を覗いてみたのだが、それは言葉に出来ないほどの修羅場が展開されていた。その様子はさながら姑に叱られる嫁を想像させた。しかし、母親の様子を見に来た真姫も加わり、風花の状況が更に悪化することとなる。

 

 

 

(これは…山岸さんを何とかしないとまずいな……)

 

 

 

稲羽以外にも必殺料理人を発見した悠は、機会があれば風花に料理を教えようと心から決意した。これ以上自分以外の被害者をなくすために、そして風花を助けるためにも………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、同じ現場に居合わせた雪穂は……

 

「えっ!?鳴上くんが倒れたの!?穂乃果!今すぐ見舞いに行くわよ!!」

 

「大変大変!?悠先輩が倒れたって、みんなに知らせなきゃー!」

 

「だから、もう鳴上さんは大丈夫だって!お母さんもお姉ちゃんも落ち着いてよ!お、お父さんも見舞い品で、そんなにほむまんを作らなくて良いから!!もう……」

 

高坂家では悠が倒れたとの話を聞いて大騒ぎになっていた。悠が倒れたと聞いた途端、大慌てする家族を宥めるのに雪穂は苦労していた。

 

(ああもう!うちの家族は何でこうなのよ!……鳴上さんみたいに、もっと落ち着いた人がウチにも欲しいよ。ハア、ことりさんが羨ましいなぁ………ん?鳴上さん?……そう言えば)

 

家族の慌てる様子に呆れていた雪穂はふと思った。

 

 

(何で亜里沙が鳴上さんに頭を撫でられてたとき、胸が痛くなったんだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、亜里沙の方は

 

 

「鳴上さんが亜里沙を身をもって助けてくれた………ハラショ~、鳴上さん♡」

 

 

自分を守るために物体Xの餌食になってくれた悠に更に想いを募らせていた。家に帰ってその話を散々聞かされた姉の絵理は亜里沙のその様子に、軽く引いていた。愛しの妹が恋に目覚めたのは嬉しいことだが、相手があの悠なだけに素直に喜べないでいる。

 

「亜里沙………鳴上くん、一体私の妹に何をしたのよ……」

 

稲羽での悠の話を思い出したのか、思わずため息を吐いてしまう絵理。だが、この時彼女の心に複雑な感情が芽生えていたのだが、それが何なのかを彼女自身が知るのは、もう少し先のことである。

 

 

 

 

 

 

しかし、この時悠は知らなかった。今日のこの一日…強いて言えば、雪穂と亜里沙と過ごしたことが、後々の旅路に影響を与えることを。

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「テストが始まるぞ」

「悠くんは1番を取りなさい」

「先輩!ヘルプミー!!」

「ご長寿クイズか………」

「あなたには負けないわ!」



「これは……まずいな」



Next #40「Specialist」

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